特許第5736570号(P5736570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立循環器病研究センターの特許一覧 ▶ ニプロ株式会社の特許一覧

特許5736570カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット
<>
  • 特許5736570-カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット 図000002
  • 特許5736570-カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット 図000003
  • 特許5736570-カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット 図000004
  • 特許5736570-カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット 図000005
  • 特許5736570-カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736570
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】カフ部材用パッド、パッド凸条の接着方法、及びカフ部材ユニット
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/02 20060101AFI20150528BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   A61M25/02 500
   A61L31/00 P
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-255095(P2010-255095)
(22)【出願日】2010年11月15日
(65)【公開番号】特開2012-105722(P2012-105722A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2013年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】水野 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】巽 英介
(72)【発明者】
【氏名】妙中 義之
(72)【発明者】
【氏名】根本 泰
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉弘
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−088792(JP,A)
【文献】 特開2000−140125(JP,A)
【文献】 特開2008−104847(JP,A)
【文献】 特開2003−062083(JP,A)
【文献】 米国特許第04516968(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/02
A61L 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフ部材に重ね合わされる合成樹脂製のパッドであって、該カフ部材に重ね合される後面と、それと反対側の前面とを有し、該後面から前面にまで、生体刺入体挿通用の貫通孔が設けられているカフ部材用パッドにおいて、
該パッドは、平面視形状が略円形ないし略楕円形の合成樹脂よりなり、
前記後面を下面側、前記前面を上面側としたときに、
該前面には、高さが比較的高い高所と、高さが比較的低い低所と、両者の間の段差面とが設けられており、
該高所は凸に湾曲した曲面よりなり、
該段差面の中央に、円筒形状の前記貫通孔が該段差面の厚み方向に貫通するように設けられており、
該高所に、該パッドの外周縁部から該貫通孔まで達する切目が設けられており、
該切目を押し開けて生体刺入体が貫通孔に出し入れ可能となっているパッドであって、
該前面には、該切目に沿う一方の切目隣接領域に第1の凸条が設けられ、他方の切目隣接領域に第2の凸条が設けられており、
該第1及び第2の凸条は、該パッドの外周縁部から該貫通孔まで該切目に沿って延在していることを特徴とするカフ部材用パッド。
【請求項2】
請求項1において、硬度が50〜150(JIS ショアA硬度)であり、厚みが0.6〜10mmであることを特徴とするカフ部材用パッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパッドの凸条同士を接合する方法であって、前記合成樹脂は熱可塑性合成樹脂であり、該凸条同士を挟んで加熱するか、又は超音波振動を加えることにより該凸条同士を融着させることを特徴とするパッド凸条の接着方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のパッドと、該パッドと重ね合わされるカフ部材とを有したカフ部材ユニットであって、該カフ部材には、生体刺入体挿通用の貫通孔が設けられていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項5】
請求項4において、前記カフ部材に前記貫通孔からカフ部材の外周縁に達するスリットが設けられ、前記パッドの切目及び該スリットを押し開けて生体刺入体が貫通孔に出し入れ可能となっていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体の外面に配置され、ドライブラインなどの生体刺入体が挿通されるカフ部材の前面に重ね合わされる合成樹脂製のパッドに係り、生体刺入体に装着しやすいカフ部材用パッドに関する。また、本発明は、このパッドの凸条の接着方法、及びこのパッドとカフ部材とを備えるカフ部材ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライブラインなどの生体刺入体が挿通される孔を有したカフ部材として、スポンジ状合成樹脂よりなり、前面側(外面側)にパッドが配置されたものが特開2007−98116、特開2008−295480に記載されている。この特開2007−98116の図3には、フランジ部と、該フランジ部に斜交する筒状部とを有したカフ部材が記載されている。
【0003】
第5図は、この特開2007−98116の図3のカフ部材を示している。このカフ部材12は、フランジ部13と、このフランジ部13の一方の面から立設された筒状部14とを有する。フランジ部13の中央には直径が5〜100mm程度の円形の開口が筒状部14と同軸に設けられている。フランジ部13の内周縁と外周縁との間には、凸条13tが周回して設けられている。この凸条13tの内側領域にパッド15が嵌合されるようにして重ね合わされ、接着剤で接着されている。パッド15の中央にも開口が設けられている。
【0004】
この筒状部14にチューブ(生体刺入体)16が挿通される。パッド15とチューブ16とは接着剤17で接着される。このフランジ部3が生体の外面に重ね合わされ、チューブ16が生体組織に刺入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−98116
【特許文献2】特開2008−295480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2には、パッド及びカフ部材を生体刺入体に固定する方法として、接着剤、熱融着、超音波融着などが開示されているが、接着剤により固定する場合は、患者に痛みや刺激を与えるおそれがあると共に、体液や生理食塩水により接着力が低下しやすい。熱融着、超音波融着により固定する場合は、パッドの両面から挟むように加熱、又は超音波の照射を行わなければならず、生体内に工具を挿入する必要があるため生体刺入体を留置する手術現場では行い難い。従って、上記特許文献1,2のパッド及びカフ部材は、手術前に予め生体刺入体へ固定しておくことが必要であり、この場合、パッド及びカフ部材が固定されている位置に合わせて生体刺入体を留置する必要があるため、パッド及びカフ部材の位置合わせが難しく、また、切開する範囲が広くなるなど患者への侵襲が大きい。特に、磁気浮上型の超小型軸流ポンプや遠心ポンプを有する人工心臓を移植する場合においては、ドライブライン自体の直径は6mm程度であるのに、これに固定するパッド及びカフ部材の直径が30mm程度であるため、皮下トンネルの直径を30mm程度にする必要があり患者への負担が大きくなっている。このようなことから、パッド及びカフ部材の改善が望まれている。
【0007】
本発明は、生体刺入体とカフ部材用パッドとの位置合わせを自在に行うことができ、患者に負担をかけずにパッドを生体刺入体に容易に装着することができるカフ部材用パッド及びこのパッドの凸条の接着方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このパッドとカフ部材とを備えるカフ部材ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)のカフ部材用パッドは、カフ部材に重ね合わされる合成樹脂製のパッドであって、該カフ部材に重ね合される後面と、それと反対側の前面とを有し、該後面から前面にまで、生体刺入体挿通用の貫通孔が設けられているカフ部材用パッドにおいて、該パッドは、平面視形状が略円形ないし略楕円形の合成樹脂よりなり、前記後面を下面側、前記前面を上面側としたときに、該前面には、高さが比較的高い高所と、高さが比較的低い低所と、両者の間の段差面とが設けられており、該高所は凸に湾曲した曲面よりなり、該段差面の中央に、円筒形状の前記貫通孔が該段差面の厚み方向に貫通するように設けられており、該高所に、該パッドの外周縁部から該貫通孔まで達する切目が設けられており、該切目を押し開けて生体刺入体が貫通孔に出し入れ可能となっているパッドであって、該前面には、該切目に沿う一方の切目隣接領域に第1の凸条が設けられ、他方の切目隣接領域に第2の凸条が設けられており、該第1及び第2の凸条は、該パッドの外周縁部から該貫通孔まで該切目に沿って延在していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のカフ部材用パッドは、請求項1において、硬度が50〜150(JIS ショアA硬度)であり、厚みが0.6〜10mmであることを特徴とするものである。
【0010】
本発明(請求項3)のパッド凸条の接着方法は、請求項1又は2に記載のパッドの凸条同士を接合する方法であって、前記合成樹脂は熱可塑性合成樹脂であり、該凸条同士を挟んで加熱するか、又は超音波振動を加えることにより該凸条同士を融着させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明(請求項4)のカフ部材ユニットは、請求項1又は2に記載のパッドと、該パッドと重ね合わされるカフ部材とを有したカフ部材ユニットであって、該カフ部材には、生体刺入体挿通用の貫通孔が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5のカフ部材ユニットは、請求項4において、前記カフ部材に前記貫通孔からカフ部材の外周縁に達するスリットが設けられ、該スリットを押し開けて生体刺入体が貫通孔に出し入れ可能となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカフ部材用パッドにあっては、パッドの切目を押し開けることにより、生体刺入体の所望の位置にパッドを装着することができる。また、切目を少し開くようにすると、パッドを生体刺入体に沿ってスムーズにスライドさせることができる。従って、本発明によると、患者の体表面における生体刺入体の出口部の位置に合わせてパッドを配置することができるため、患者への侵襲を低くすることができる。
【0014】
本発明のパッド凸条の接着方法によれば、パッドに設けた第1の凸条と第2の凸条とを挟んで加熱するか、又は超音波振動を加えることにより、凸条同士を極めて容易に融着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1図(a)は実施の形態に係るパッドの斜視図であり、第1図(b)はパッドのドライブラインへの装着方法を示す斜視図である。
図2】第2図(a)は実施の形態に係るパッドの平面図、第2図(b)は側面図、第2図(c)は背面図、第2図(d)は第2図(a)のD−D線断面図である。
図3】第3図(a)はカフ部材の正面図、第3図(b)は側面図、第3図(c)は平面図、第3図(d)は同(c)のD−D線断面図である。
図4】第4図は、実施の形態に係るカフ部材ユニットの断面図である。
図5】従来のカフ部材ユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[カフ部材用パッド及びパッド凸条の接着方法]
以下、第1,2図を参照して本発明の実施の形態について説明する。
第1図(a)は実施の形態に係るパッドの斜視図であり、第1図(b)はパッドのドライブラインへの装着方法を示す斜視図であり、第2図(a)はパッドの平面図、第2図(b)は側面図、第2図(c)は背面図、第2図(d)は第2図(a)のD−D線断面図である。
【0017】
このパッド1は、平面視形状が略円形ないし略楕円形の合成樹脂よりなり、第2図(d)の下面側が後面1Rであり、カフ部材に重ね合わされる。また、上面側が前面1Fである。
【0018】
この前面1Fには、高さが比較的高い高所1aと、高さが比較的低い低所1bと、両者の間の段差面1cとが設けられている。高所1aは凸に湾曲した曲面よりなる。なお、高さが「高い」、「低い」とは、パッド1の後面1Rのうち低所1b側を水平面上に重ねた状態における状態を表わす。
【0019】
段差面1cの中央には、直径が5〜100mm程度の円筒形状の貫通孔2が段差面の厚み方向に貫通するように設けられている。なお、この実施の形態では、生体刺入体としてドライブライン5を用いているが、送脱血管などであってもよい。
【0020】
このパッド1は高所1aに切目3、及び切目3の隣接領域に設けられた第1の凸条4a,第2の凸条4bを有しており、この切目3を押し開けるようにして生体刺入体としてのドライブライン5が貫通孔2に装着可能とされている。この切目3はレーザーカッターなどにより形成することができる。
【0021】
この切目隣接領域に設けられた第1の凸条4a及び第2の凸条4bの高さは、それぞれ2〜15mm程度、特に5〜10mm程度が好ましい。凸条4a,4bの高さが前記下限値未満であると、凸条同士を挟んで融着させることが困難であり、高さが前記上限値を越えると患者の衣服などと擦れたり、引っ掛かったりするおそれがあるため好ましくない。ただし、融着面の面積が極端に少なくならない範囲で(接着強度を低下させない範囲で)融着させた凸条の上側の一部を切り取り、高さを抑えることも可能であり、上記の数値範囲は最終的な高さを意味する。また、凸条の厚みは、それぞれ、0.5〜3mm程度、特に1〜2mm程度が好ましい。凸条の厚みが前記下限値未満であると、融着部分が弱くなりやすく強固に融着させることができないおそれがある。また、前記厚みが前記上限値を超えると、凸条4a,4b同士を挟みにくくなるおそれがあり、熱や超音波が均質に短時間で印加されずに融着不良を起こす危険性もある。。
【0022】
このパッド1は、後述の通り、カフ部材6に接着されてカフ部材ユニット9とされ、ドライブラインに装着される。カフ部材ユニット9をドライブライン5に装着するときには、第1図(b)の通り、切目3を押し開け、ドライブライン5を貫通孔2内に導き入れた後、第1の凸条4aと第2の凸条4bとを挟んで熱、又は超音波により融着を行う。
【0023】
前記凸条4a,4b同士は、加熱、又は超音波振動などにより融着させることが好ましい。熱により融着させる場合、鋏子、ロール、プラグ、ボールなどの熱圧着体を用いて、180〜210℃程度で1〜10秒程度加熱して融着させることが好ましい。加熱又は超音波振動により融着させる場合、凸条4a,4bの全長を一度に挟むことができる形状の器具又は装置を用いることが好ましく、このような器具又は装置を用いて一回の操作で融着させることにより、融着作業時間を短くすることができる。
【0024】
パッド1は、好ましくは、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、並びにそれらの誘導体が例示される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。パッド1としては、特にポリウレタン樹脂が好適であり、とりわけセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。このパッドの硬度は50〜150(JIS ショアA硬度)程度であることが好ましい。パッド1の厚みは0.6〜10mm特に0.6〜2.0mm程度が好ましい。このようにパッド1を薄くし、より柔軟なものとすることにより、生体刺入体の首振り応力を吸収することができるため、安定した接着が期待できる。
【0025】
[カフ部材ユニット]
本発明のカフ部材ユニットは、カフ部材と上述のパッドとを有するものである。パッド1に密着して重なるカフ部材は、第3,4図に示すように、パッド1の前面1Fに倣った形状の多孔質合成樹脂よりなる。カフ部材6は、高所1aに密着するように高所1aと同一曲率半径にて凸に湾曲した形状の高所6aと、低所1bに密着する低所6bと、段差面1cに密着する段差面6cと、該段差面6cに設けられた生体刺入体挿通用の貫通孔7とを有する。貫通孔7はパッドに設けられた貫通孔2と同径であり、貫通孔2と同軸となるように設けられている。
【0026】
本実施の形態において用いるカフ部材6は、第3図の通り、切目3と重なる位置関係にてスリット8を有しており、このスリット8を押し開けるようにして生体刺入体としてのドライブライン5が貫通孔7に装着可能とされている。
【0027】
前記パッド1がカフ部材6の前面6Fに重ね合わされ、接着されることによりカフ部材ユニット9が構成される。パッド1と前面6Fとの接着は、接着剤を用いてもよいが、パッド1とカフ部材6とがポリウレタン樹脂で構成されている場合には、DMF、NMP、THFなどの溶剤、もしくは、これらの溶剤の5〜20重量%ポリウレタン溶液によっても行うことができる。カフ部材6は、パッド1と同一の大きさであるか、パッド1よりも一回り大きく、パッド1をカフ部材6の前面6Fに重ねた状態において、カフ部材6の全周縁がパッド1の全周縁から外方に所定長さ(好ましくは0〜50mm特に1〜10mm)延出している。
【0028】
スリット8は、切断刃やレーザーカッターなどにより形成することができる。スリット8を設けたカフ部材6と、切目3を有したパッド1とを接着してカフ部材ユニット9を製造してもよく、パッド1と、スリット8を設ける前のカフ部材6とを接着した後、パッド1の切目3に沿って切断刃を移動させてスリット8を形成してもよい。切目3を設ける前のパッド1とスリット8を設ける前のカフ部材6とを接着した後、レーザーカッターなどにより切目3とスリット8とを同時に形成してもよい。後者の2者の方法によれば、切目3とスリット8とを容易に且つ正確に合致させることができる。
【0029】
製造したカフ部材ユニット9は、洗浄し、その後ガス滅菌処理してカフ部材ユニット製品とされる。
【0030】
カフ部材ユニット9をドライブライン5に装着するには、切目3及びスリット8を押し開け、ドライブライン5を貫通孔2,7内に導き入れた後、押し開けていた力を解除し、パッド1及びカフ部材6の素材の弾性力によって切目3及びスリット8を閉じる。次いで、必要に応じ、切目3及びスリット8を少し開くようにして、カフ部材ユニット9をドライブライン5に沿ってスライドさせてカフ部材ユニット9の位置を調整する。その後、パッド1の凸条4a,4b同士を前述のように加熱、超音波振動などにより融着させる。
【0031】
カフ部材6の厚さは、段差面6cと低所6bとの交差部6gにおいて貫通孔7の口径の10〜100%特に10〜50%程度が好適である。貫通孔7の天井面とカフ部材6の後面とが交わる部分6hにおけるカフ部材6の厚さは、貫通孔7の口径の10〜100%特に10〜50%程度が好適である。
【0032】
カフ部材6を構成する多孔質材としては、連続気孔を有した多孔質合成樹脂が好適である。
【0033】
このカフ部材6を構成する多孔質材は、好ましくは、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性を有した、平均孔径が50〜1,000μm特に100〜650μm程度、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.5g/cm特に0.01〜0.1g/cmの多孔性三次元網状構造を有する。
【0034】
この平均孔径及び見掛け密度の測定方法は次の通りである。
【0035】
<平均孔径の測定>
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真を使用し、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格により包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用。)を行い、個々の図形の面積を測定する。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とする。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって多孔体の骨格部分に穿孔された微細孔を無視し、同一平面上の連通孔のみを測定する。
【0036】
<空隙率>
空隙率は、50〜80%、特に60〜75%程度であることが好ましい。なお、本明細書における空隙率は以下の通り算出することができる。すなわち、多孔性三次元網状構造材料の切断面を撮影し、その写真において樹脂部分を白とし、空隙(空気部分)を黒として画像処理法により白部分の面積と黒部分の面積とを計算する。画像処理により得られた測定視野総面積と、空隙部分総面積と、JIS K7311によるポリウレタン樹脂の比重とから計算上の見掛け密度を求める。この見掛け密度は、一般の多孔性材料の場合は実測値とほぼ一致するが、本発明で使用する多孔性三次元網状構造材料の場合は実測値よりも約10倍以上大きな値となる。この差異は、多孔性三次元網状構造材料の骨格部分がポリウレタン樹脂からなる中実構造であると仮定したことにより生じる。そこで、計算上の見掛け密度Aと実測値の見掛け密度Bとを計算式(A−B)/A×100(%)に代入して計算することにより、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材自体の空隙率を求めることが可能となる。計算上の見掛け密度が0.91g/cmであり、実測値の見掛け密度が0.077g/cmの場合、本発明で使用する多孔性三次元網状構造材料の骨格基材は、空隙率91.5%の多孔質であると計算される。
【0037】
<見掛け密度の測定>
多孔質構造体を約10mm×10mm×3mmの直方体に両刃カミソリで切断し、投影機(Nikon,V−12)にて測定して得た寸法より体積を求め、その重量を体積で除した値から見掛け密度を求める。
【0038】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、並びにそれらの誘導体が例示される。これらは単独で用いられてもよく、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうち特にポリウレタン樹脂が好適であり、とりわけセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0039】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成されたものであり、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有する。そのため、このセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚が動いた場合に皮下組織とカフ部材との界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
なお、上記のセグメント化ポリウレタン樹脂にはソフトセグメント構造やソフトセグメントとハードセグメントとの結合部の構造の差異によってポリエーテル系、ポリエステル系、ポリエーテルポリエステル系、ポリカーボネート系(ポリ炭酸エステル系とも言う)などの種類が存在するが、本発明ではポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。この理由としては、ポリウレタン樹脂は、一般的に加水分解を受けやすい材料であり、生体内へ埋入すると体液(水)・体温の作用による自然な加水分解、酵素の作用による分解、免疫細胞から放出される活性酸素の作用などによる分解により脆弱化するためである。よって、長期に安定して生体内に存在する場合にはポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用するのが好ましい。このポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、ポリカーボネートセグメントの強い結晶凝集力によって近傍のウレタン結合を分解から保護する特性を有する樹脂であり、他のポリウレタン樹脂と比較して極めて耐加水分解性に優れているものである。
【0040】
以下に、カフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を説明する。
【0041】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではない。なお、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0042】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0043】
次に、熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープを、熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、該凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このようにして有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。ポリウレタン樹脂が凝固した後、多孔性三次元網状構造材料を水などで洗浄し、該多孔性三次元網状構造材料に残留している有機溶媒や孔形成剤を除去する。
【0044】
この多孔性三次元網状構造材料は、さらに、その網状構造を構築している骨格基材自体にも微細な孔が形成されていることが好ましい。特に、この多孔性三次元網状構造材料は、平均孔径が100〜650μmであり、且つ乾燥状態における見掛け密度が0.10g/cm以下の連通性の三次元網状構造を形成しており、なお且つ、その網状構造を構築している骨格基材自体が空隙率70%以上の多孔質体であり、且つ該骨格基材の表層は、微細孔が点在する緻密な層となっていることが好ましい。この微細孔は、骨格基材の表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とするため、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を高めることが可能である。ただし、この骨格基材自体の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造部の平均孔径の計算の概念には含まれない。
【0045】
このように、多孔性三次元網状構造材料の網状構造を構築する骨格基材自体が高空隙率の多孔質であり、且つ該骨格基材の表層は微細孔が点在する緻密な層となっており、この表層の微細孔を介して骨格基材内部の空孔が外部に連通していることにより、次のような効果が奏される。即ち、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材が多孔質であるために、この骨格基材にコラーゲンなどの細胞外マトリックス、アルブミン、酸素、老廃物、水、電解質などが浸潤し、該骨格基材と生体組織との間でこれらの拡散・交換が行われる。これにより、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給することができる。なお、細胞の骨格基材内部への浸潤は、骨格基材表層の緻密層によってバリアされるため、骨格基材の内部には細胞成分は存在しない。これにより、骨格基材の内部が目詰まりすることが防止され、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給する毛細血管様の機能が維持される。この結果、良好な組織の浸潤、生着、成熟、血管新生という生体埋入材料として有用な機能が発現される。
【0046】
ポリウレタン製多孔性三次元網状構造材料の骨格基材の空隙率を求めるには、まず、平均孔径の測定を前記の通り行う。即ち、多孔性三次元網状構造材料の切断面を撮影し、その写真において樹脂部分を白とし、空隙(空気部分)を黒として画像処理法により白部分の面積と黒部分の面積とを計算する。画像処理により得られた測定視野総面積と、空隙部分総面積と、JIS K7311によるポリウレタン樹脂の比重とより計算上の見掛け密度を求める。この見掛け密度は、一般に実測値よりも約10倍以上大きな値となる。この誤差は、多孔性三次元網状構造材料の骨格部分がポリウレタン樹脂からなる中実構造であると仮定したことにより生じる。そこで、計算上の見掛け密度Aと実測値の見掛け密度Bとを計算式(A−B)/A×100(%)に代入して計算することにより、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材自体の空隙率を求めることが可能となる。計算上の見掛け密度が0.91g/cmであり、実測値の見掛け密度が0.077g/cmの場合、多孔性三次元網状構造材料の骨格基材は、空隙率91.5%の多孔質であると計算される。
【0047】
このポリウレタン製多孔性三次元網状構造材料では、骨格基材の表面に微細孔が存在しているが、これは細胞が浸潤し得るサイズではなく、あくまで細胞の生着の助けになる凹凸を形成する程度のものである。即ち、前述の通り、この微細孔により、骨格基材の表面が複雑な凹凸のある表面となるため、細胞の生着性が高いものとなる。ただし、この微細孔は、細胞が浸潤し得るサイズではないものの、栄養分や酸素、水などは浸潤しうるサイズであるため、この微細孔を介して骨格基材と生体組織との間で栄養分や酸素、水などの拡散・交換が行われる。即ち、この骨格基材を介して多孔性三次元網状構造材料全体に酸素や栄養分を補給することができる。
【0048】
上記の各実施の形態は、いずれも本発明の一例を示すものであり、本発明は上記の構成に限定されない。
【符号の説明】
【0049】
1 パッド
1a 高所
1b 低所
1c 段差面
1F 前面
1R 後面
2 貫通孔
3 切目
4a 第1の凸条
4b 第2の凸条
5 ドライブライン(生体刺入体)
6 カフ部材
6a 高所
6b 低所
6c 段差面
7 貫通孔
8 スリット
9 カフ部材ユニット
図1
図2
図3
図4
図5