特許第5736609号(P5736609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736609
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】セラミック多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20150528BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20150528BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20150528BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20150528BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/12
   B01D63/06
   C04B41/85 C
   C04B41/89 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-41387(P2011-41387)
(22)【出願日】2011年2月28日
(65)【公開番号】特開2012-176367(P2012-176367A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2013年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(74)【代理人】
【識別番号】100161403
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 静夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森島 克也
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−263498(JP,A)
【文献】 特開2010−214329(JP,A)
【文献】 特開2002−273129(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01704909(EP,A1)
【文献】 特開2007−237109(JP,A)
【文献】 特開2009−214075(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113715(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0298115(US,A1)
【文献】 特開2009−241054(JP,A)
【文献】 米国特許第06716275(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/02
B01D 63/06
B01D 69/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通セルと、流体の流路となる該貫通セルの内表面に形成されたMF膜層と、該基材の流体流路方向端面に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該ガラスシール層が、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラスからなり、該ガラスシール層と基材との間に、アルカリ成分含有率が1%以下のシリカ―バリウム系のガラスからなる表層剥離防止層を有することを特徴とするセラミック多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明はセラミック多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック多孔質膜は、簡便な操作により液体中の懸濁物質や微生物等を効果的に除去し得るため、食品加工分野で使用されることも多い。
【0003】
一般に食品加工分野で使用される機器類は、機器に付着するタンパク成分の除去を目的として、苛性ソーダで洗浄される。例えば、洗浄対象が有機膜の場合には、0.01〜0.05重量%もしくはpH12以下の苛性ソーダで洗浄を行うことが通常であるが、有機膜に比べて耐食性の強いセラミック多孔質膜の場合には、0.5〜2重量%程度の苛性ソーダを用いて洗浄を行うことも可能である。
【0004】
図2には、通常、食品加工分野で使用されるセラミック多孔質膜の断面説明図を示している。図2に示すように、該セラミック多孔質膜1は、弾性材料からなるO−リング等のシール材2によって、基材の外周面3と流体流路方向端面4とが、気密的に隔離されるようにハウジング5内に収納されて使用される。該基材を構成するセラミック多孔体(比較的平均細孔径が大きい)の端面の構造に関し、端面をガラスシール6で被覆する技術が開示されている(特許文献1等)。
【0005】
流体流路方向端面4をガラスシール6で被覆することにより、被処理流体は、図2に実線(F)で示すように、必ず、貫通セル7と、該貫通セル7の表面に形成された濾過膜11を透過して基材の外周面3に流出することになる。当該構造によれば、図2に破線(F´)で示すように、基材の端面側4から基材の内部に浸入した被処理流体が、濾過膜11を透過することなく基材の外周面側に流出してしまう現象を回避し、目的とする濾過を確実に行うことができる。
【0006】
ただし、従来技術では、高濃度(≧2wt%)、高温(≧70℃)の苛性ソーダを用いた洗浄を長期間繰り返し行うと、ガラスシールと基材の境界面が浸食される傾向があり、その耐食性が十分ではない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−263498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は前記の問題を解決し、高濃度のアルカリを用いた膜洗浄に対して高い耐食性を有するセラミック多孔質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明のセラミック多孔質膜は、多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通セルと、流体の流路となる該貫通セルの内表面に形成されたMF膜層と、該基材の流体流路方向端面に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該ガラスシール層が、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラスからなり、該ガラスシール層と基材との間に、アルカリ成分含有率が1%以下のシリカ―バリウム系のガラスからなる表層剥離防止層を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るセラミック多孔質膜は、流体の流路となる複数の貫通セルと、該貫通セルを形成した多孔質アルミナ基材と、貫通セルの内表面に形成されたMF膜層と、該基材の流体流路方向端面に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該ガラスシール層を、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラスから構成とすることにより、高濃度のアルカリを用いた膜洗浄の長期間の繰り返しによっても、アルカリによる該ガラスシール層の溶出を効果的に抑制している。本発明で、アルカリ成分含有率とは、ガラス組成中のNaO+KO+LiOの比率を意味している。なお、従来より、セラミック多孔質膜の洗浄を0.5〜2重量%程度の苛性ソーダを用いて繰り返し行うと、ガラスシールと基材の境界面が徐々に浸食される現象が観察されていた。これは、基材成分のアルミナとガラス成分との反応により生じたネフェリン中に含有されるNaOおよびKOが、苛性ソーダと反応性を有し、該反応部位に僅かに空隙が生じることに起因する。これに対し、本発明では、前記構成のガラスシール層と基材との間に、表層剥離防止層を有する構成とすることにより、基材とガラスシール層の直接接触を回避し、ガラスシール層と基材の境界面におけるネフェリンの生成を抑制し、ネフェリン中に含有されるNaOおよびKOが苛性ソーダと反応して基材に空隙が生じる現象およびこれに伴うガラスシール層の剥離を効果的に抑制可能としている。即ち、上記効果を有する本発明の構成によれば、高濃度のアルカリを用いた膜洗浄の長期間の繰り返しによっても、アルカリによるガラスシール層の溶出および剥離の問題を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明のように、ガラスシール層と基材との間に、アルカリ成分含有率が1%以下のシリカ―バリウム系のガラスからなる表層剥離防止層を有する構成することにより、ガラスシール層と表層剥離防止層の軟化点を最適に調整することができる。すなわち、当該構成によれば、基材表面に2層のガラス釉薬を重ねた後、該2層のガラス層を同時に焼成処理することができ、作業工程を簡略にすることができる。また、この構成によれば、ガラスシール層と基材との接着性を向上させることができるので、ガラスシール層の剥離を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のセラミック多孔質膜の断面説明図である。
図2】従来から食品加工分野で使用されるセラミック多孔質膜の断面説明図(ハウジングに収納された状態図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0016】
本発明のセラミック多孔質膜は、流体の流路となる複数の貫通セル7の内表面にMF膜層8を有するアルミナ質基材を用い、該MF膜層8を有する多孔質基材の流体流路方向端面4に、表層剥離防止層9を形成する工程(以下、第一工程という)と、表層剥離防止層9に重ねてガラスシール層10を形成する工程(以下、第二工程という)を経て製造される。
【0017】
(第一工程)
本発明に用いるアルミナ質基材には、流体の流路となる貫通セル7が形成されている。該貫通セル7の表面にはMF膜層8を有している。第一工程では、該アルミナ質基材の上下端部に表層剥離防止層9を形成する。表層剥離防止層としては、アルカリ成分含有率が1%以下のシリカ―バリウム系のガラスを使用することが好ましい。このガラスはアルカリ成分含有率が低いにもかかわらず、アルミナ質基材との接着性に優れ、かつ、低融点である。アルカリ成分含有率が1%を超えると、アルカリ成分がネフェリン生成の要因となるので好ましくない。
【0018】
このように、ガラスシール層と基材との間に、表層剥離防止層9を有する構成とすることにより、基材とガラスシール層の直接接触を回避し、ガラスシール層と基材の境界面におけるネフェリンの生成を抑制し、ネフェリン中に含有されるNaOおよびKOが苛性ソーダと反応して基材に空隙が生じる現象およびこれに伴うガラスシール層の剥離を効果的に抑制することができる。
【0019】
(第二工程)
第二工程では、前記工程で形成した表層剥離防止層9を被覆するガラスシール層10を形成する。本発明のガラスシール層とは、少なくとも前記基材の流体流路方向端面4を被覆するように配置された液不透過性のシール材であって、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラス釉薬で構成されたものを意味する。このガラスシール層は、被処理流体が基材端面から基材内部に浸入することを防止する。このガラスは耐食性に優れ、しかも低融点である。アルカリ成分含有率が15%を超えると耐食性が低下するので好ましくない。またアルカリ成分含有率が10%未満であると融点が上昇するため、アルカリ成分含有率は10〜15%とすることが好ましい。
【0020】
ガラスシール層は、従来手法に従って形成すればよく、例えば、以下のような方法により形成することができる。まず、ガラス原料を、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系の組成となるように混合し、溶融して均一化し、これを冷却した後に平均粒径10〜20μm程度となるように粉砕したフリットを用意する。次いで、そのフリットに対し、水、及び有機バインダを加えて混合することによりガラスシール形成用スラリーを調製する。そのガラスシール形成用スラリーをセラミックフィルタの両端面に塗布し、乾燥した後、焼成することにより、ガラスシール層を形成することができる。
【0021】
該ガラスシール層を、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラス釉薬から構成とすることにより、高濃度のアルカリを用いた膜洗浄の繰り返しによっても、アルカリによる該ガラスシール層の溶出を効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、ガラスシール層をアルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラスから構成し、表層剥離防止層をアルカリ成分含有率が1%以下のシリカ―バリウム系のガラスから構成することにより、ガラスシール層と表層剥離防止層の軟化点を最適に調整することができるため、基材表面に2層のガラス釉薬を重ねた後、該2層のガラス層を同時に焼成処理するとができ、作業工程を簡略にすることができる。しかも基材―表層剥離防止層―ガラスシール層間の物理的な接着性を向上させることができる。
【0023】
本発明は、基材とガラスシール層の直接接触を回避する構成を採用することにより、基材とガラスシール層の直接接触を回避し、ガラスシールと基材の境界面におけるネフェリンの生成を抑制し、ネフェリン中に含有されるNaOおよびKOが苛性ソーダと反応して基材に空隙が生じる現象を効果的に抑制可能とするものであるから、他の実施形態としてもよい。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施例を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
モノリス形状を有し、各貫通セルの表面にMF膜を有するアルミナ質基材の流体流路方向端面側に、表1左欄のガラス組成を有する釉薬Aを、ガラスシール層として形成したもの(比較例1)、表1右欄のガラス組成を有する釉薬Bをガラスシール層として形成したもの(比較例2)、表1のガラス組成を有する釉薬Bを塗布・乾燥して表面の平坦化を行い、続いて表1のガラス組成を有する釉薬Aを塗布・乾燥後、焼成し、釉薬Aをガラスシール層とし、基材とガラスシール層との間に釉薬Bの表層剥離防止層を形成したもの(実施例)、をそれぞれ作成し、下記の条件下で、NaOH水溶液の循環を行う耐蝕試験を行った。
(耐蝕試験条件)
使用エレメント φ30(φ3×37穴)-150mm
薬液 2wt%-NaOH 75℃
線速 1m/sec
濾過圧力 0.1MPa
【0027】
250時間、500時間、1000時間、1500時間経過毎に表面の状態、及び剥離の有無を検証したところ、比較例1では、500時間で基材とガラスシール層の界面に隙間が一様に発生し、1000時間では、ガラスシール層が完全に剥離した。比較例2では、ガラスシール層の剥離は1000時間まで観察されないものの、ガラスシール層の表面が侵食され(アルカリ溶出量:0.004wt%/h)、ザラつきが観察された。実施例では、1500時間経過後も、基材と釉薬層との間の剥離は起こらず、また、ガラスシール層の表面(アルカリ溶出量:0.002wt%/h)も、ほぼ無傷であった。
【0028】
上記実施例により、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラス釉薬を表層とするガラスシール層を形成することにより、ガラスシール層の表面のアルカリ溶出が効果的に抑制でき、かつ、該表層と基材との間に、基材とガラスシール層の直接接触を回避する釉薬層を形成することにより、基材表面からの釉薬層の剥離が効果的に抑制出来ることが確認された。
【符号の説明】
【0029】
1 セラミック多孔質膜
2 シール材
3 外周面
4 流体流路方向端面
5 ハウジング
6 ガラスシール
7 貫通セル
8 MF膜層
9 表層剥離防止層
10 ガラスシール層
11 濾過膜
図1
図2