特許第5736621号(P5736621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736621撮像機能を有するカテーテルおよびそれを用いた血管内観察システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736621
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】撮像機能を有するカテーテルおよびそれを用いた血管内観察システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20150528BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   A61B1/00 300P
   A61B8/12
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-507684(P2013-507684)
(86)(22)【出願日】2012年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2012058197
(87)【国際公開番号】WO2012133562
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-80732(P2011-80732)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】山越 憲一
(72)【発明者】
【氏名】田中 志信
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−323323(JP,A)
【文献】 特表2009−539575(JP,A)
【文献】 特開2002−045369(JP,A)
【文献】 特表2003−522007(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0214889(US,A1)
【文献】 特開2004−105743(JP,A)
【文献】 S. Tanaka et al., Development of a vascular endoscopic system for observing inner wall of large arteries for the use, Information Technology and Applications in Biomedicine (ITAB),2010年11月,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
A61B 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡機能を有するカテーテルであって、当該カテーテルは、
管状本体と、該管状本体の先端の外周縁部からさらに前方へと延びるように設けられたフードとを有し、
前記管状本体内には、該管状本体の先端から前方へ流体を射出するための流体送出用チャネルと、該管状本体の先端から外界を観察するための撮像用チャネルとが少なくとも設けられ、かつ、該管状本体の先端から所定長さの区間を少なくとも一つの側方へ屈曲させ得る屈曲機構が設けられ、
前記フードは、基本形状が円筒形または先端に向かって広がる中空の円錐台形であり、該フードの先端部は、前記基本形状を斜めに切断して得られる形状となっており、その先端面には該フード内の空洞が開口しており
前記該流体送出用チャネルは、その先端から噴出される流体の流れが、前記フードの先端部の外周縁の壁部のうちの最も先端側に位置する部分から外部へ出ようとする流れとなるように、管状本体の中心から外側に偏った位置に設けられており、かつ、
前記フードは、該フードの先端部の外周縁の壁部のうちの、少なくとも、最も先端側に位置する部分が、前記開口の最も先端側に位置する部分から外部へ出ようとする前記流体の流れを妨げるように、フードの内側の方へ屈曲している、
前記カテーテル。
【請求項2】
フードの先端部の基本形状が、該フードの基本形状である円筒形または円錐台形の中心軸に対して、30度〜60度の角度をなす平面にて、該基本形状を切断して得られる形状である、請求項1記載のカテーテル。
【請求項3】
フードの基本形状が円筒形であって、その外径が管状本体の外径と等しい、請求項1または2記載のカテーテル。
【請求項4】
フードの基本形状が、先端に向かって広がる中空の円錐台形であって、
管状本体の先端部の外径が、該管状本体の基部から中間部に至る胴体外径よりも細くなっており、その先端の外周縁部から、該フードが前方へ広がりながら延びるように設けられており、
該フードの先端における最大外径が、管状本体の基部から中間部に至る胴体外径と等しい、請求項1または2記載のカテーテル。
【請求項5】
当該カテーテルの管状本体の内部には、撮像用チャネルを持った内視鏡が挿通されており、管状本体の先端部の細くなった部分が、少なくとも流体送出用チャネルを確保しながらも前記内視鏡の胴体を保持し得るように細くなっている、請求項4記載のカテーテル。
【請求項6】
フードの先端の開口の外周縁部のうち、最も先端側にある点をAとし、最も後端側にある点をBとして、
AとBとを結ぶ線分が、当該カテーテルの中心軸に平行に近づいていく方向へと、または、その逆の方向へと、管状本体の先端部分が屈曲するように、屈曲機構による屈曲方向と、フードの開口の傾きの方向とが、関係付けられている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項7】
当該カテーテルの管状本体には、当該カテーテルが挿入される観察対象の内壁に対して超音波診断を行うことができるように、超音波発信−受信素子として作動する超音波振動子が1以上設けられている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項8】
複数の超音波振動子が、電子式フェーズド・アレイとして設けられている、請求項7に記載のカテーテル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のカテーテルと、
該カテーテルの管状本体内に含まれる流体送出用チャネルの先端から透明流体を射出すべく、該流体送出用チャネルに該透明流体を送るための流体送出装置と、
該流体送出装置の駆動を制御するための制御装置とを、
少なくとも有して構成される血管内観察システムであって、
流体送出装置は、制御装置に制御されて、流体送出用チャネルへの流体の送出と停止を行ない得るように構成され、
制御装置は、前記カテーテルを挿入すべき生体の心臓の動作を示す信号を入力信号として受け入れ、該入力信号に基いて、該カテーテルの先端において血流が停止する時期に、前記カテーテルの流体送出用チャネルの先端から所定量の透明流体が射出されるよう、流体送出装置を制御するように構成されている、
前記血管内観察システム。
【請求項10】
前記カテーテルの管状本体内に含まれる撮像用チャネルが、流体送出用チャネルから透明流体が射出されるタイミングと同期して、観察対象部の撮像を開始し、所定の時間だけ撮像を行うように構成されているか、または、
カテーテルに含まれる管状本体の撮像用チャネルは常に観察対象部の撮像を行っているが、流体送出用チャネルから透明流体が射出されるタイミングと同期して、制御装置が、該撮像の記録を開始し、所定の時間だけ撮像の記録を行うように構成されている、
請求項9記載の血管内観察システム。
【請求項11】
前記カテーテルの管状本体には、当該カテーテルが挿入される観察対象の内壁に対して超音波診断を行うことができるように、超音波発信−受信素子として作動する超音波振動子が1以上設けられている、請求項9記載の血管内観察システム。
【請求項12】
複数の超音波振動子が、電子式フェーズド・アレイとして設けられている、請求項11に記載の血管内観察システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像機能を持ったカテーテルと、それを用いて血管内の観察を行う血管内観察システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内に挿入される種々の内視鏡(撮像機能を内部に含んだカテーテルをも含む)のなかでも、血管内に挿入される内視鏡には、観察対象部(血管内壁面など)を見ることができるようにすべく、先端部分にバルーンと呼ばれる血流遮断用の装置が設けられる場合がある(例えば、特許文献1、2など)。
バルーンは、通常、生理食塩水を血管内に注入するためのチャネルと共に用いられる。
図18に模式的に示すように、血管100内の観察部位の近傍でバルーン210を同図のように膨張させて血液400を遮断し、内視鏡200内のチャネルを通じて生理食塩水300を血管内に送り込むことによって、血管内の観察部位付近が生理食塩水で充填され、内視鏡200内の撮像用チャネルを通じて目視的な観察が可能になる。
【0003】
一方、近年、生活習慣の変化や、高齢化などによって、心疾患患者が増加しており、それに伴って、血管内にカテーテル等の医療器具を挿入して行う治療(血管内手術)の要求も増加している。血管内手術は、血管内腔を目視し、病変の詳細な形状や色調を肉眼で観察しながら行うことができ、かつ、低侵襲であるという利点がある。
【0004】
しかしながら、本願発明者等がバルーンによる血流遮断を伴う血管内手術を詳細に検討したところ、次の問題が存在することがわかった。
該問題とは、先ず、バルーンによる血流遮断を伴う血管内手術は、血管壁を目視可能とするために血液を生理食塩水にて置換しているが、その際に血流の上流側に設置したバルーンを拡張させ観察部への血液流入を防ぐ必要があるために、長時間の観察ができないという問題である。また、大動脈などの大血管では、バルーンを適用すると心臓(左心室)からの血流を遮断し全身への血液循環を停止させることになり、バルーンの適用が困難であり、よって、目視を伴う治療も困難であるという問題もある。
【0005】
上記の問題を解決すべく、先ず、本発明者らは、図19(a)に示すように、内視鏡本体500の先端に円筒形のフード(hood、覆い)600を設け、該フードの先端開口部の形状を、該フードの円筒形の胴体を斜めに切断した形状とし、さらに、図19(b)に示すように、血管100の内部において、内視鏡本体500の先端部を屈曲させて、フード600で観察対象部を囲み、流体射出用チャネル510から透明流体(例えば、生理食塩水)310をフード内に噴射しながら、撮像チャネル520にて血管内壁の観察対象部を撮像し得るように構成した(以下、この内視鏡を「フード付き内視鏡」とも呼ぶ)。
このフード付き内視鏡によって、図19(b)に示すように、流体射出用チャネル510から透明流体(生理食塩水)310をフード内に噴射すれば、バルーンに比べて少ない噴射量であっても、観察対象部の周囲の不透明な流体(血液など)410を効果的に排除でき、該観察対象部の様子を視覚的に観察できるようになった。
【0006】
しかしながら、本発明者らが、自ら提案した上記フード付き内視鏡の観察性能をより詳細に検証したところ、次のような改善すべき点が未だ存在することがわかった。
(イ)上記フード付き内視鏡は、血液などの不透明な流体が周囲からフード内に侵入しないように、該フードによって観察対象部を密閉的に覆うことが理想であるが、実際の内視鏡の操作では、図19(b)のようにぴったりとフードの開口部全周を観察対象部の周囲の壁面にうまく密着させるような操作は難しいので、フードの開口部が観察対象部の壁面から微量だけ離れてしまい、血液などの不透明な流体が隙間からフード内に侵入しやすく、視界が妨げられやすい。そのため、血液などがフード内に侵入しないように比較的多量の生理食塩水を放出しなければならない。また、内視鏡を円周方向(管軸を中心として胴体の外周を巡る方向)に回転させながら血管内壁を連続的に観察したいという臨床的な要求があり、その場合には、フードの開口部を積極的に観察対象部の壁面から微量だけ離しながら内視鏡を回転させて観察を続けなければならないため、やはり、比較的多量の生理食塩水を放出して血液のフード内への侵入を抑制しなければならない。
(ロ)フード内に透明流体を噴射すると、フードと観察対象部との間の隙間から透明流体がフードの外へと流出することになる。その際、図20に太い矢印で示すように、噴射した透明流体は、噴射の勢いによって、フードの最先端側から外部へスムーズに流れ出してしまうので、フード内全体が効率よく透明化されない。この現象は、流体射出用チャネルの位置を変えても大きく改善されることはなく、フード内を全体的に透明化するためには、図18のバルーンの場合ほどではないが、比較的多量の透明流体の噴射が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−112954号公報
【特許文献2】特開2007−289231号公報
【特許文献3】特願平10−514603号(特表2001−500415号公報)
【特許文献4】国際公開第1999/049910号
【特許文献5】国際公開第2006/000942号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題を解決し、血管内のような懸濁した流体の中でも、より少ない量の透明流体で、観察対象部を可視化することを可能とする器具を提供し、かつ、その器具を有効に利用するためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、自ら提案した上記のフード付き内視鏡をさらに改善すべく鋭意研究を行った結果、フードの開口部の全周のうち、少なくとも最先端側に位置する部位を、フードの内側に屈曲させた構造とすれば、フード内に噴射される透明流体がその屈曲した部分に当たってフード内や開口付近で滞留し、それによって、フードの開口部が観察対象部から離れていても、また、より少ない噴射量であっても、効果的にフード内を透明化し得ることを見い出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の主たる構成は、次のとおりである。
(1)内視鏡機能を有するカテーテルであって、当該カテーテルは、
管状本体と、該管状本体の先端の外周縁部からさらに前方へと延びるように設けられたフードとを有し、
前記管状本体内には、該管状本体の先端から前方へ流体を射出するための流体送出用チャネルと、該管状本体の先端から外界を観察するための撮像用チャネルとが少なくとも設けられ、かつ、該管状本体の先端から所定長さの区間を少なくとも一つの側方へ屈曲させ得る屈曲機構が設けられ、
前記フードは、基本形状が円筒形または先端に向かって広がる中空の円錐台形であり、該フードの先端部は、前記基本形状を斜めに切断して得られる形状となっており、その先端面には該フード内の空洞が開口しており、これに加えてさらに、該フードの先端部の外周縁の壁部のうちの、少なくとも、最も先端側に位置する部分が、前記開口の最も先端側に位置する部分から外部へ出ようとする前記流体の流れを妨げるように、フードの内側の方へ屈曲している、
前記カテーテル。
(2)フードの先端部の基本形状が、該フードの基本形状である円筒形または円錐台形の中心軸に対して、30度〜60度の角度をなす平面にて、該基本形状を切断して得られる形状である、上記(1)記載のカテーテル。
(3)フードの基本形状が円筒形であって、その外径が管状本体の外径と等しい、上記(1)または(2)記載のカテーテル。
(4)フードの基本形状が、先端に向かって広がる中空の円錐台形であって、
管状本体の先端部の外径が、該管状本体の基部から中間部に至る胴体外径よりも細くなっており、その先端の外周縁部から、該フードが前方へ広がりながら延びるように設けられており、
該フードの先端における最大外径が、管状本体の基部から中間部に至る胴体外径と等しい、上記(1)または(2)記載のカテーテル。
(5)当該カテーテルの管状本体の内部には、撮像用チャネルを持った内視鏡が挿通されており、管状本体の先端部の細くなった部分が、少なくとも流体送出用チャネルを確保しながらも前記内視鏡の胴体を保持し得るように細くなっている、上記(4)記載のカテーテル。
(6)フードの先端の開口の外周縁部のうち、最も先端側にある点をAとし、最も後端側にある点をBとして、
AとBとを結ぶ線分が、当該カテーテルの中心軸に平行に近づいていく方向へと、または、その逆の方向へと、管状本体の先端部分が屈曲するように、屈曲機構による屈曲方向と、フードの開口の傾きの方向とが、関係付けられている、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のカテーテル。
(7)当該カテーテルの管状本体の胴体上には、当該カテーテルが挿入される観察対象の内壁に対して超音波診断を行うことができるように、超音波発信−受信素子として作動する超音波振動子が1以上設けられている、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のカテーテル。
(8)複数の超音波振動子が、電子式フェーズド・アレイとして設けられている、上記(7)に記載のカテーテル。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のカテーテルと、
該カテーテルの管状本体内に含まれる流体送出用チャネルの先端から透明流体を射出すべく、該流体送出用チャネルに該透明流体を送るための流体送出装置と、
該流体送出装置の駆動を制御するための制御装置とを、
少なくとも有して構成される血管内観察システムであって、
流体送出装置は、制御装置に制御されて、流体送出用チャネルへの流体の送出と停止を行ない得るように構成され、
制御装置は、前記カテーテルを挿入すべき生体の心臓の動作を示す信号を入力信号として受け入れ、該入力信号に基いて、該カテーテルの先端において血流が停止する時期に、前記カテーテルの流体送出用チャネルの先端から所定量の透明流体が射出されるよう、流体送出装置を制御するように構成されている、
前記血管内観察システム。
(10)前記カテーテルの管状本体内に含まれる撮像用チャネルが、流体送出用チャネルから透明流体が射出されるタイミングと同期して、観察対象部の撮像を開始し、所定の時間だけ撮像を行うように構成されているか、または、
カテーテルに含まれる管状本体の撮像用チャネルは常に観察対象部の撮像を行っているが、流体送出用チャネルから透明流体が射出されるタイミングと同期して、制御装置が、該撮像の記録を開始し、所定の時間だけ撮像の記録を行うように構成されている、
上記(9)記載の血管内観察システム
)前記カテーテルの管状本体の胴体上には、該カテーテルが挿入される観察対象の内壁に対して超音波診断を行うことができるように、超音波発信−受信素子として作動する超音波振動子が1以上設けられている、上記(9)記載の血管内観察システム。
(1)複数の超音波振動子が、電子式フェーズド・アレイとして設けられている、上記(1)に記載の血管内観察システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明でいう「カテーテル」とは、〔腔、管、血管などに挿入する中空、管状の器具〕であるが、生体内に挿入される管状の医療用器具のみならず、物品内に挿入可能な管状器具であってもよい。
本発明でいう「チャネル」は、管路、電路、導波路、熱伝達路など、目的の作用を伝えるように構成された経路を意味し、かつ、単なる伝送用の経路のみならず、〔基端と先端とを結ぶ電路と、先端の発光(撮像)装置〕のように、その作用を果たすように構成された装置や構造を含むものである。
本発明でいう「撮像用チャネル」とは、先端で撮像し、得られた像を基部へと送るように構成された、先端のカメラと電路、光ファイバーなどの、経路および装置を意味する。
本発明でいう「流体射出用チャネル」とは、基部から送った流体を先端側に送り、先端から射出することができるように構成された、管路や隙間などの経路および装置を意味する。
本発明でいう「内視鏡機能を有するカテーテル」とは、管状の器具としてのカテーテルの内部に内視鏡機能を発揮するための撮像部品を設けたものであってもよく、カテーテルの内部に独立した製品としての内視鏡を挿通したものであってもよく、また、内視鏡そのものであってもよい。よって、管状本体内に撮像用チャネルと流体送出用チャネルとを設ける構成は、より具体的には次のような態様が挙げられるが、それらに限定はされず、任意の組み合わせにて構成してよい。
(ア)管状本体が単純な管であり、撮像用チャネルが独立した内視鏡であり、流体送出用チャネルが流体送出用の独立した管である態様。
(イ)管状本体が単純な管であり、撮像用チャネルが独立した内視鏡であり、流体送出用チャネルが、管状本体内の残りの隙間を利用したものである態様。
(ウ)管状本体が、内視鏡の外側の管であって、内視鏡内に流体送出用チャネルが設けられる態様。この場合、当該カテーテルは、流体送出用チャネルを内部に有する内視鏡であると言うこともできる。
上記のような種々の態様のなかでも、カテーテルとして用いられる単純な管の内部に、極細径の内視鏡を挿通する上記(ア)、(イ)の態様は、既存の製品を部品としてより多く利用でき、また、図19に示すものに比べて構造がより単純であるので製作が容易であり、部品・材料面においても、組み立て・メンテナンス面においても、コストを低くすることができるので好ましい。
【0012】
本発明によるカテーテルは、その管状本体の先端に、円筒形または円錐台形を基本形状とするフードを備えており、その先端部が斜めに切断した形状となっている。これによって、図1に示すように、管状本体1の先端部を屈曲させてフード2の開口を観察対象部に接近または接触させ、流体射出用チャネル11から透明流体(例えば、生理食塩水)fを噴射すれば、フードの覆いによって、少ない噴射量であっても、観察対象部の周囲を効果的に透明化でき、観察対象部の様子を視覚的に観察できる。
さらに、本発明によるカテーテルでは、図1に示すように、該フード2の先端部の外周縁の壁部のうちの、少なくとも、最も先端側に位置する部分(以下、この部分を「フード最先端部分」ともいう)22が、開口の最も先端側に位置する部分から外部へ出ようとする前記流体fの流れを妨げるように、フード2の内側の方へ屈曲している。
フード最先端部分に前記の屈曲を与えたことによって、流体射出用チャネル11から噴射された透明流体fは、図20のようなスムーズな流出が妨げられ、図1に太い矢印で例として示すように、フード最先端部分の屈曲部で流れを曲げられて観察対象部の方へと向かい、フードの開口付近で乱れて滞留するようになる。この開口付近での滞留によって、図1のように、フードの開口面21が観察対象部の壁面から1mm程度離れていても、また、少ない噴射量であっても、観察対象部の周囲を効果的に透明化でき、観察対象部の様子を視覚的に観察できる。
【0013】
また、図3(a)に示すように、フードの基本形状を、先端に向かって内径が広がる円錐台形状としながらも、開口部分で流れを滞留させると、撮像時の視野が広がり、観察対象部を広範囲に観察することが可能になる。
【0014】
また、本発明によるカテーテルを血管内観察用の内視鏡として適用する場合、本発明では、心臓の動作に起因して血流が変動する点(特に、心拡張期に起因して血流がほぼ静止する瞬間が存在する点)に着目し、その血流がほぼ静止する瞬間に所定量の透明流体を射出することによって、少ない量の透明流体の射出で、観察対象部の周囲を効果的に透明化することを提案している。
本発明による血管内観察システムは、前記した〔血流がほぼ静止する瞬間に同期した透明流体の射出〕を達成し得るよう制御系が構成されており、心臓の動作信号を入力とし、血流がほぼ静止する瞬間の適切なタイミングに、適量の透明流体をフード内に射出し、観察対象部の周囲を効果的に透明化して、撮像を可能にしている。
【0015】
また、本発明の好ましい制御構成では、前記した透明流体の射出に同期して、即ち、フード内が透明化するタイミングにて、撮像または撮像の記録を行なうことが可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のカテーテルの構成を示した図であって、当該カテーテルの中心軸線に沿って切断した先端部の断面図である。管状本体内の撮像用チャネルや屈曲機構などの各チャンネルや機構の詳細な構造は、図示を省略している。
図2図2は、本発明のカテーテルの先端部の断面を示した模式図であって、特に、フード最先端部分の屈曲の様子や各部の形状や寸法を説明するための図である。同図は、管状本体の中心軸Yと、フードの開口の外周縁部のうちの最も先端側にある点Aと、最も後端側にある点Bとを含んだ平面によって切断したときの断面図である。この切断の仕方は、図1図3図19(b)、図20でも同様である。
図3図3は、円錐台形に広がるフードの態様例を示した断面図である。図3(b)、(c)は、それぞれ、図3(a)のX−X断面を示している。
図4図4は、本発明によるカテーテルの他の構成例を示した断面図である。同図の態様では、カテーテルの管状本体に、血管内超音波診断を行うための超音波振動子が設けられている。図4(a)では、超音波振動子だけは断面を示さず外側を見せている。図4(b)では、超音波振動子も断面を見せているが、詳しい内部構造は省略している。
図5図5は、本発明の血管内観察システムの構成の一例を示した図である。図5(a)は、当該システムを構成する各装置の接続関係を示したブロック図であり、図5(b)は、当該システムの操作方法を例示するための、入力信号と各部の動作のタイムチャートである。
図6図6は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認した実験設備の構成を説明する概略図である。
図7図7は、図6の実験設備において、配管内に観察すべき目標物として配置した標的模様の寸法仕様を示した図である。
図8図8は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認した実験の結果を示すグラフ図である。
図9図9は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認した実験の結果を示すグラフ図である。
図10図10は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認するための実施例を示す図である。
図11図11は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認するための実施例の結果を示す図である。
図12図12は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認するための他の実施例の結果を示す図である。
図13図13は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認するための、その他の実施例を示す図である。
図14図14は、本発明のカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認するための、その他の実施例の結果を示す図である。
図15図15は、実施例5において製作したカテーテルの構成を示す図である。
図16図16は、実施例5において行った静特性試験および動特性試験の結果を示すグラフ図である。
図17図17は、実施例5で製作したカテーテルおよび血管内観察システムの作用効果を確認した実験の結果を示すグラフ図である。
図18図18は、従来の、バルーン付き内視鏡の使用状態を模式的に示した図である。
図19図19は、バルーン付き内視鏡の問題を解決すべく、本発明者らが提案したフード付き内視鏡の構成を示す図である。
図20図20は、図19に示したフード付き内視鏡において、本発明者らが見出した改善すべき問題点を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によるカテーテルは、図1に示すように、管状本体1を有し、かつ、その先端からさらに前方へと延びるように設けられたフード2を有して構成される。
管状本体1は、図1に示すように、その内部に、流体送出用チャネル11と撮像用チャネル12とが少なくとも設けられる。流体送出用チャネル11は、操作部である手元側(図示せず)から透明流体fを送って先端面から射出し得るよう構成され、撮像用チャネル12は、観察対象部の画像を手元に送るよう構成されている。本発明でいう「撮像用チャネル」とは、先端側の前方の映像を取り込んで手元側へ送る装置を意味する。この撮像用チャネルによって、当該カテーテルは、内視鏡機能を備えている。また、管状本体1は、図1に示すように、その先端部分を少なくとも一つの側方(図1では、図の下方)へ屈曲させ得る屈曲機構を有している。
フード2の基本形状は、図1のような円筒形、または、先端に向かって広がる中空の円錐台形である。このフード2は、管状本体1の先端からさらに前方へと延びている。
流体射出用チャネル11は、該フード内に透明流体fを送り出し、撮像用チャネル12は、フード内から外界を撮影するものである。そして、該フード2の先端側は、前記基本形状である円筒形または円錐台形(図の例では円筒形)を斜めに切断して得られる形状となっており、その先端面には該フード内の空洞が開口している。そして、本発明では、このフードにさらなる変形が加えられており、フード最先端部分22が、前記開口の最も先端側に位置する部分から外部へ出ようとする前記透明流体fの流れを妨げるように、フードの内側の方へ屈曲している。
【0018】
上記の構成によって、上記発明の効果の説明で述べたとおり、管状本体1の先端部を屈曲させて、フードを観察対象部に被せるように位置させることができ、その状態で、流体射出用チャネル11から透明流体(生理食塩水など)fをフード内に噴射すれば、その流れがフード最先端部分22に当たり、例えば図1の太い矢印のように滞留する。この滞留によって、少ない噴射量であっても、観察対象部の周囲の不透明な流体(血液など)40を効果的に排除でき、撮像用チャネル12による観察対象部の撮像が可能になる。
【0019】
当該カテーテルは、医療用のみならず、不透明な流体中の観察対象部を外部から視覚的に観察する全ての用途に使用可能である。とりわけ、当該カテーテルは、生体内の種々の部位の観察に好適であり、血管内、特にバルーンの使用が好ましくないような、上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈などの、大血管内での使用に有用である。
【0020】
当該カテーテルの撮像用チャネルや流体送出用チャネルの先端部から手元側の操作部までの各部の基本的な内部構造、先端の各種情報を手元側に伝える機構、手元側での操作を先端側に伝える機構などは、従来公知のカテーテルや内視鏡に搭載された機構を参照してよい(例えば、特許文献3など)。
管状本体には、流体射出用チャネルと撮像用チャネルとが少なくとも設けられるが、撮像用の照明用チャネルが加えられることが好ましい。
また、単なる観察対象部の画像を取得することだけでなく、観察対象部に対してその場で種々の処置(観察対象部の切断や一部の取得などの機械的な処置、観察対象部への加熱、電流・電圧の印加、レーザー光の照射、投薬、蛍光観察、断層像の取得などの処置)を行う場合には、それらの用途に応じて、鉗子チャネル、特殊光照射用ファイバ、光干渉断層計(OCT;Optical Coherence Tomography)プローブ用チャネルなど、種々の光ファイバやチャネルが加えられてもよい。
【0021】
管状本体の胴体の外径や内径は、特に限定はされないが、配管内の観察などの産業用途では、最大外径は15mm程度、最大内径は10mm程度であり、医療用途では、最大外径は10mm程度、最大内径は8mm程度である。とりわけ血管内の観察用途では、管状本体の胴体の最大外径は6mm程度、最大内径は5mm程度であり、より好ましい最大外径は5mm程度であり、より好ましい最大内径は4mm程度である。
一方、管状本体の胴体の最小径は、用途に関わらず、内部に内視鏡機能を備えることができる寸法、または、内視鏡を挿通し得る寸法であればよい。屈曲機構、撮像チャネル、流体送出用チャネルを内部に設けると、現時点では、管状本体の最小外径は6mm程度、最小内径は5mm程度であるが、細径化技術の進歩と共に、管状本体の最小径は、適宜小さくしてもよい。また、図3に示す態様など、設計上、局所的に細い部分や太い部分を形成する必要がある場合には、前記の好ましい範囲にかかわらず、適宜、外径を変更してもよい。
内径は、管状本体の材料の強度に応じて適宜変更してよい。
血管内の観察用途では、フードの機械的な強度や、管状本体とフードとの接続部の構造、流体送出用チャネルの流体抵抗などを鑑みれば、管状本体の胴体の外径の好ましい最小径は3mm程度であり、4mm程度が実用的でより好ましい最小径である。
【0022】
管状本体の材料は、特に限定はされないが、一般的な医療用カテーテルとして用いる場合には、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(例えば、テフロン(登録商標))、ナイロン、シリコーンゴム、などが好ましい材料として挙げられる。
管状本体は、全長にわたって同じ材料によって形成してもよいが、例えば、屈曲機構によって屈曲させる部分だけに柔軟な材料を用い、他の部分に剛性の高い材料を用いるなど、部分によって材料を変更してもよい。
【0023】
流体送出用チャネルを独立した管とする場合の内径は、管状本体の胴体の外径や、他のチャンネルの存在に応じて適宜決定すればよい。
例えば、血管内の観察用途では、管状本体の胴体の好ましい外径は、上記のとおり、4mm〜6mmであり、その場合の流体送出用チャネルの好ましい内径は、1mm〜2mm程度である。
流体送出用チャネルの先端の射出口は、単純な開口であってもよいし、意図した角度の広がりや流速にて透明流体を噴射し得るように設計されたノズルやオリフィスとなっていてもよい。
【0024】
流体送出用チャネルを独立した管とする場合の管の材料は、特に限定はされないが、カテーテルや内視鏡に用いられる管材料を用いてよく、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(例えば、テフロン(登録商標))、ナイロン、シリコーンゴム、等が好ましいものとして挙げられる。
【0025】
流体送出用チャネルから射出すべき透明流体は、観察対象部が置かれた状況や環境、障害物との組合せに応じて、気体や液体であってよい。
例えば、懸濁した下水配管内への適用では、透明流体としては水が挙げられ、血管内への適用では、透明流体としては、生理食塩水、あるいは患者本人の血漿または血清をあらかじめ所定量採取しておき、これを用いるのが好ましい態様として挙げられる。
透明流体の射出流量は、カテーテルの外径、フードの内径、排除すべき不透明な流体の粘性などに応じ、速やかに観察が可能となる量を適宜決定すればよい。
当該カテーテルを血管内に適用するに際し、内径5mm〜4mm程度のフード内に透明流体として生理食塩水を射出する場合、血流が停止するタイミングに同期するのであれば、該生理食塩水の射出時間は、0.1〔秒〕〜0.3〔秒〕程度が好ましい。また、該生理食塩水の流量は、2〔mL/秒〕〜5〔mL/秒〕程度が好ましく、フード最先端部分の滞留作用を鑑みれば、1〔mL/秒〕〜3〔mL/秒〕程度とすることも可能である。
【0026】
撮像用チャネルは、先端部で得た画像を光ファイバー束を通じて手元部までイメージを伝送するイメージガイドや、先端部にCCDカメラを配置し信号線などを通じて手元部まで画像データを伝送する構成、あるいは画像データを無線伝送し、体外に設置した受信機で受像する構成であってもよい。
【0027】
先端部での撮像をより好ましく行なうために、当該カテーテルには、照明用チャネルを設けることが好ましい。照明用チャネルは、光ファイバを通じて手元部から先端部まで光を伝送するライトガイドの態様や、先端部にLEDなどの発光素子を配置し電線などを通じて手元部で発光を操作する態様などが挙げられるが、光源の種類は限定されない。
【0028】
図1に示すように、管状本体には、斜めになったフードの開口を観察対象部に接近させるように、先端部を直線状態から少なくとも一つの側方へ曲げる屈曲機構が設けられる。
該屈曲機構は、直線状態から管状本体を一つの側方へ曲げ、もとの直線状態へと戻すことが可能な機構が好ましい。また、用途に応じては、前記一つの側方からもとの直線状態へと戻り、さらに反対側へも同様に屈伸動作を行う双方向への屈伸動作が可能な機構が好ましい。前記のような反対側への屈曲によって、血管の屈曲に対応してフードで観察対象部を覆うことができる。
【0029】
該屈曲機構は、例えば、管状本体の胴体表層内に長手方向に沿って手元部から先端部までワイヤーを配置した機構(該ワイヤーを手元部で引っ張ることによって先端部の所定の部位で管状本体を曲げるように構成したもの)や、形状記憶合金の屈曲動作・復帰動作とヒーターとを適宜組み合わせた機構(必要に応じて復帰バネも用いられる)、超小型のエアシリンダーを圧縮空気で駆動する機構、いわゆる「人工筋肉」と称される高分子アクチュエータを用いた機構、などが挙げられる。上記した双方向への屈伸動作は、例えば、管状本体の胴体外周の互いに180度反対側の位置に、それぞれワイヤーを配置することによって、達成可能である。
これらの屈曲機構は、カテーテルや内視鏡における種々の公知技術を参照してよい。
管状本体が単純な管であって、その内部に内視鏡を挿通する態様の場合には、内視鏡に備えられた屈曲機構を利用してもよい。
【0030】
フードの基本形状は、図1に示すような円筒形であるか、または、図3に示すような先端に向かって広がる中空の円錐台形(所謂メガフォンのような形状)であって、図1に示すように、その胴体の先端が斜めに切断され、その斜めの切り口がフードの先端側の開口となっているものであればよい。
尚、フードの基本形状は、外径、内径が中心軸方向に一定である文字通りの円筒形や、外径・内径が直線的に増加する文字通りの円錐台形のみならず、本願発明の目的が達成される範囲内において、局所的に外径、内径が変化した部分が加えられていてもよい。よって、フード先端の開口の形状も、基本形状は、円筒形や円錐台形を斜めに切断したときの単純な楕円形であるが、フードの形状に加えられる変形に応じた断面形状となっていてもよい。
本発明でいう〔斜めに切断して得られる形状〕とは、結果の形状を表現したものであって、必ずしも斜めに切断して形成する必要はなく、そのような形状となっている型を用いて形成してもよい。
斜めの切断面は、平面であってもよいし、観察対象部の面に沿うように湾曲した曲面であってもよい。
【0031】
本発明では、図1および図3に示すように、フード最先端部分22を、フードの内側の方へ屈曲させた形状として、透明流体fの流れを妨げて該流体を滞留させる。フード最先端部分がフードの内側の方へ屈曲しても、フードの先端面は、波打つことなく、平面、または、観察対象部の面に沿うように湾曲した曲面となるように、フード最先端部分に隣接する部分も適宜変形することが好ましい。
【0032】
フード最先端部分の屈曲は、その部分だけの局所的な屈曲であってもよいが、図2に示すように、フードの筒全体が屈曲し、かつ、管状本体の外径よりも外側に膨らまないように、端面21にて斜めに切断して得られる形状が好ましい。
図2の態様では、フードの先端の開口の外周縁部のうち、最も先端側にある点をAとし、最も後端側にある点をBとし、フード最先端部分が屈曲を開始する点をA2とし、〔線分A2−Bを含んで紙面に垂直な平面〕を屈曲の界面として、中心軸Yを持ったフード2の円筒が、中心軸Y’を持った第二の円筒2’へと屈曲している。この屈曲は、図のような突然の折れ曲がりであってもよいし、曲線を描いた湾曲であってもよい。同図のA1は、フード最先端部分を屈曲させなかった場合の、最も先端側となる架空の点である。
図2の態様では、先端面21は、〔線分A−Bを含んで紙面に垂直な平面(先端面)〕にて第二の円筒2’を切断した面となっている。これによって、点Bは、もとのフード2の円筒の外径から逸脱しないようになっている。換言すると、点Bは、もとのフードの胴体上にある。
【0033】
図2の態様を参照しながら、各部の好ましい寸法を例示する。細部の面取りや丸みは、必要に応じて適宜設けてよい。
フードの先端の〔斜めに切断して得られる形状〕における、斜めの角度(中心軸Yと先端面21とがなす角度)θ1は、30度〜60度が好ましく、40度〜50度がより好ましい角度である。ただし、この角度θ1は、必ずしも最も好ましい値が1点存在するというわけではなく、角度によってそれぞれの利点がある。例えば、θ1が30度程度の鋭利な場合には、管状本体を30度屈曲させただけで、フードが側方の観察対象部を広く覆うという利点がある。一方、θ1が60度程度の場合には、フードが側方の観察対象部を覆うには、管状本体を60度まで屈曲させる必要があるが、観察対象部をより直視に近い状態で観察できるという利点がある。
屈曲の界面〔線分A2−Bを含んで紙面に垂直な平面〕と、中心軸Yとがなす角度θ2は、屈曲をどこから開始するかを決定するものであり、50度〜70度程度が好ましく、55度〜65度がより好ましい。
屈曲した中心軸Y’と、先端面21〔線分A−Bを含んで紙面に垂直な平面〕とがなす角度θ3は、屈曲の程度(フード最先端部分22の傾き)を決定するものであり、65度〜85度程度が好ましく、70度〜80度がより好ましい。
フード最先端部分22の屈曲の結果として、フードの先端の開口の外周縁部のうちの最も先端側にある点Aは、フード内に張り出す。図2(b)に示すように、その張り出し量Δeは、流体送出用チャネルからの流体の流れを妨げる程度と強く関係するので、好ましい滞留が得られるように、例えば点A2の位置を変更して、適宜Δeの量を決定すればよい。
フードの内径dに占めるΔeの割合は、10%〜20%程度が好ましい。より具体的には、フードの内径dが4mm〜5mm程度の場合、張り出し量Δeは、例えば、0.4mm〜1.0mm程度が好ましく、0.6mm〜0.9mm程度がより好ましい値である。
【0034】
フードの外径と管状本体の外径との差は、小さい方が好ましい。
フードと管状本体は、一体であってもよいし、互いに別個の部品であってもよい。
フードと管状本体とを互いに別個の部品として形成する場合には、接着剤、熱溶着、溶接、ねじ込み、嵌め合い、圧着、ネジ止め、継手の利用など、公知の連結方向・接合方法を適宜用い、組み合わせて、両者を結合すればよい。
【0035】
図3(a)は、フードの開口部をフレアー状(円錐台形状)に広げた場合の一例を示す断面図である。フードをこのように広げることで、視野が広がり、より好ましい観察が可能になる。この場合でも、フード最先端部分22は内側に屈曲しており、射出される流体の滞留を生じさせるようになっている。
フードにこのような変形を加える場合には、例えば、血管等に穿刺する際には縮んでいて、血管内に入ると広がるというような弾性、伸縮性をフード材質に与えることが好ましい。
【0036】
図3は、本発明の他の好ましい態様を示す図であって、同図の例では、フードの基本形状が、先端に向かって広がる中空の円錐台形となっている。
同図に示すように、管状本体1が、先端部1aにおいて、基部〜中間部の胴体外径よりも細くなっており、その先端の外周縁部から、フード2が前方へ広がりながら延びている。
この場合のフードの広がり量は、特に限定はされないが、対象物への挿入具合を鑑みると、図3のように、先端における最大外径を、管状本体の基部から中間部に至る胴体外径と等しくするのが好ましい態様である。
フードの広がりの角度θ4は、25度〜45度が好ましく、30度〜40度がより好ましい。
【0037】
図3の態様では、管状本体1の内部に、撮像用チャネルを持った内視鏡12aが挿通されている。そして、図3(b)、(c)に、図3(a)のX−X断面を示すように、管状本体の先端部の細くなった部分1aが、少なくとも流体送出用チャネル11を確保しながらも、前記内視鏡12aの胴体を保持し得るように細くなっている。
図3(b)、(c)の態様では、流体送出用チャネルは、管状本体1と内視鏡12aとの間の隙間であるが、別個の管が挿通されていてもよい。いずれの態様でも、管状本体1は、内視鏡12aの胴体外周を等間隔に3点で保持するように細くなっており、その3点の間の3箇所が流体送出用チャネル11となっている。
この流体送出用チャネルの各断面積や断面形状は、噴射すべき流体の流速を考慮して、適宜決定すればよい。
【0038】
フードの材料は、金属、セラミックなどの無機材料、プラスチックやシリコーンゴム、などの有機高分子材料など、目的に応じた機械的強度、耐薬品性、耐環境性、耐食性、生体適合性、柔軟性、伸縮性などを有するものであればよい。
チタンやステンレスなどの金属は、機械的強度に優れており、例えば、フードの外径が、4mm〜6mmであるような場合には、厚さを0.3mm〜0.5mmとすることができる。
有機高分子材料としては、可撓性および耐圧力性の点から、ポリオレフィンやポリアミドエラストマーなどが好ましい材料として挙げられる。
ポリオレフィンやポリアミドエラストマーなどの有機高分子材料は、柔らかく、観察対象部を傷つけることが少ないが、フードの外径が、4mm〜6mmであるような場合には、厚さを0.5mm〜0.8mm程度とすることが好ましい。
【0039】
当該カテーテルを生体などの対象物内に挿入する際には、同時に、血管造影(アンギオグラフィー)によって、当該カテーテルの先端のフードの様子をモニターしてもよい。
この場合、フードがポリマーであっても、血管造影の画像に映し出されるように、フードに金属製のマーカーを設けることが好ましい。
マーカーとして好ましい金属材料は、ステンレススチールやチタンなどが挙げられる。
フードに金属製のマーカーを形成する方法は、例えば、図13(a)に示すように、極細径のステンレス製ワイヤをフード内の長手方向に沿って埋入する方法などが挙げられる。
【0040】
管状本体の屈曲機構による屈曲方向と、フードの開口との関係は次のとおりである。
図2に示すように、フードの先端の開口の外周縁部(フードの肉を含めた縁部)のうち、最も先端側にある点をAとし、最も後端側にある点をBとして、線分A−Bが、当該カテーテルの管状本体の中心軸Yに平行に近づいていく方向へ(即ち、図1に示す屈曲方向へ)管状本体が屈曲するように、また、その逆の方向へ管状本体が屈曲するように、屈曲方向とフードの開口の傾きとを関係付ける。
当該カテーテルの実際の組立では、管状本体の屈曲機構の屈曲方向に、フードの開口の向きを合わせればよい。
【0041】
管状本体内の各チャネルの配置と、フードの傾きとの関係は、管状本体を屈曲させた状態において、次の作用を考慮して適宜決定することが好ましい。
(i)流体送出用チャネルから透明流体を噴射したときに、より効果的に不透明な流体(血液など)を排除できるような位置に流体送出用チャネルを設けること。
(ii)観察対象部をよりこのましく撮像し得るなど、撮像により有利な位置に、撮像用チャネルを設けること。
(iii)照明用チャネルを設ける場合には、観察対象部によりこのましく光を照射し得るなど、照明により有利な位置に、該照明用チャネルを設けること。
(iv)その他として、例えば、鉗子用チャネルを設ける場合には、使用する鉗子の形状に応じて鉗子操作が十分可能なスペースが確保できる位置に設けること。
図1の例では、屈曲の外側(図の上側)に流体送出用チャネル11が設けられている。これは、血流の上流側(図の左側)からフード内に侵入してくる血液をより効果的に排除し、かつ、流体送出用チャネルから噴出された透明流体fを、フード最先端部分の屈曲に効果的に当てて滞留させることを意図したものである。
【0042】
本発明では、前方を観察し得る全てのカテーテルの胴体、とりわけ、透明流体を噴出して先端付近を撮像し得る当該カテーテルの胴体に超音波振動子を搭載し、壁面の超音波診断機能を付与することを提案する。図4は、その具体的な態様の一例を示している。
超音波振動子は、超音波トランスデューサとも呼ばれ、外部駆動回路と組み合わされて、超音波発信−受信素子として機能する。超音波振動子を用いた超音波診断、特に、血管内超音波診断(Intravascular Ultrasound: IVUS)は、血管の内部側から内壁360度の断層画像を得ることができるものである。
超音波振動子を用いて超音波診断を行うための技術自体(振動子の材料や構造、素子を駆動し超音波の送受信を行うための電気的・電子的な回路構成、画像表示装置など)、および、それを血管内超音波診断に適用する技術自体は、例えば上記特許文献4、5などの記載のとおり、よく知られている。
しかしながら、従来用いられている血管内超音波診断のための器具は、カテーテルのような細長い器具の胴体に超音波振動子を搭載しただけのものであるため、血管壁の画像を得ることはできるが、前方の画像が得られないという欠点がある。
そのため、実際の血管内壁の超音波診断を行う場合において血管内超音波診断用の器具を挿入し、目的の部位へと器具を前進させていく場合に、操作側の感触だけに依存して器具を進めなければならず、器具の先端が血管壁を突き破るという事故が起ることがある。
これに対して、図4(a)のように、先端付近の血管の様子を透明流体を噴出しながら撮像し得る当該カテーテルの胴体に超音波振動子51を搭載し、壁面の超音波診断を可能にすれば、先端付近の様子を画像で確認できるので、先端部が血管壁を突き破るというような事故を防止することができる。
また、本発明のカテーテルの胴体に超音波診断用の超音波振動子を搭載することで、血管壁内部の病変(例えば粥状硬化、石灰化など)や血管の弾性特性(動脈硬化度)を知ることができる。
【0043】
図4(a)の態様では、複数の超音波振動子51が管状本体の胴体を周方向に取り囲むように一定間隔をおいて複数配置され、電子式フェーズドアレイ50となっている。超音波振動子51は外側に露出していてもよいが、図4(a)の態様では、血管の内壁を傷つけないように、管状本体を構成するチューブで覆われている。
図4(a)の態様には、振動子用の駆動装置、制御装置、画像表示装置なども付帯し、フェーズドアレイ法を実施し得るように構成されているが(図示せず)、それらの装置自体は公知技術を参照すればよい。
図4(b)に内部断面を示すように、電子式フェーズドアレイ50の中心部の貫通孔52を内視鏡12aが通過しており、その隙間を通って透明流体(生理食塩水といったもの)fが先端へ向かうことができるようになっている。
本発明において管状本体の胴体に血管内超音波診断のための超音波振動子を設ける場合には、超音波振動子を管状本体の胴体周囲に沿って機械的に回転させてもよいが、そのような回転用の機構のために全体が太くなってしまうので、図4(b)に示すように多数の素子を不動に配置した電子式フェーズドアレイが好ましい態様である。
内視鏡12aの内部には透明流体(生理食塩水といったもの)を送るためのチャネルを設けてもよいが、内視鏡が太くなる。これに対して、図4(b)に示すような、内視鏡の外側に沿ったスペースを利用する態様は、外径がコンパクトになるので好ましい。
【0044】
次に、本発明によるカテーテルを用いた血管内観察システムの構成について説明する。
当該システムは、図5(a)に構成の一例を模式的に示すように、本発明によるカテーテルCと、流体送出装置32と、制御装置30とを少なくとも有して構成される。流体送出装置32は、該カテーテルCの管状本体1の流体送出用チャネルに透明流体を送るためのポンプ装置であって、制御装置30からの命令(出力信号等)に応じて、流体送出用チャネルへの流体の送出と停止を行ない得るように構成されている。
制御装置30は、前記カテーテルを挿入すべき患者の心臓の動作を示す信号を入力信号として受け入れるように構成されている。図5(a)の例では、カテーテルCが患者の血管100内に挿入されており、心電図装置(ECG)33Aの出力信号が制御装置30に入力される構成となっている。心電図装置33Aは、本発明のシステムに含まれるセンサー機器とみなしてもよいし、患者の心臓の動作を示す信号を発する外部信号源とみなしてもよい。
【0045】
制御装置30は、シーケンス回路を主体として構成してもよいが、患者の心臓の動作を示す信号をモニターし、解析し、該信号と適切に同期させながら透明流体を射出させるという複雑な信号制御を行う点からは、コンピュータを中心に構成し、操作者が画面上でまたは外付けの制御パネルで各タイミングのパラメータを微調整し得るように構成する態様が好ましい。
ポンプや電磁弁などの外部機器と制御装置との接続に必要なインターフェイスや、画像表示装置、プリンターなどは適宜設ければよい。
【0046】
当該システムの重要な特徴は、制御装置30が、患者の心臓の動作を示す信号(図5(a)の例では、心電図装置33Aの出力信号)を入力信号として受け入れ、該入力信号に基いて演算を行ない、カテーテルCの先端において血流が停止する適切な時期に、流体送出用チャネル11の先端からフード2の内部に所定量の透明流体が射出されるように、流体送出装置32を制御するよう構成されている点にある。
これによって、本発明のカテーテルの操作者が、観察対象部までカテーテルを送り込み、屈曲機構を操作してフードで観察対象部を囲えば、血流が停止する適切な時期に生理食塩水をフード内に適量噴射させることができ、観察対象部を見ることができる。
【0047】
流体送出装置32は、制御装置30の命令によって透明流体を送る動作を開始する単純なポンプやシリンダーであってもよい。血流が静止するタイミングに合わせて、急峻な立ち上がりで透明流体の射出を行うためには、圧力容器に透明流体を収容し、圧縮空気で該容器内を常に加圧しておき、該容器の射出口に設けた電磁弁を開閉することによって透明流体の射出と停止を行う態様が好ましい。
【0048】
また、図5(a)の例では、好ましい態様として、撮影装置31が設けられており、管状本体1の撮像チャネルから送られてきた映像を電気信号(デジタル画像データや、アナログのビデオ信号など)に変換し、制御装置30に送るよう構成されている。
このような撮影装置は、撮像チャネルに応じて、または、使用目的に応じて、カメラ(写真機)やビデオカメラなどを適宜設ければよい。撮像チャネルの先端にCCDカメラなどの撮影装置が含まれている場合には、その信号出力を制御装置30に直接入力してもよい。
【0049】
図5(b)は、電磁弁を制御して透明流体の定量吐出を行う場合における、患者の心臓の動作を示す心電図装置からの信号(ECG出力)と、該信号に基づいた電磁弁の動作のタイミング、映像を取り込むための適切なタイミングの関係を示したタイムチャートである。
図5(b)に示すように、ECG出力の波形のうち心収縮期を示すピーク部分から、適切なしきい値を設定することで初期時刻T0を作り出し、該初期時刻から血管内に血流の静止が生じるまでの遅延時間を実験的に得ておき、血流の静止の瞬間にカテーテルの先端から透明流体が射出されるように、該初期時刻から適切な遅延時間t1だけ遅れた時刻T1から電磁弁の動作を開始する。このとき、電磁弁の動作開始から透明流体の射出までの遅延時間を考慮することが好ましい。t2は、血流の静止が終わることに基づいた、または、透明流体投与による患者の血液希釈を考慮した、電磁弁の開放期間である。
さらに、電磁弁の動作開始時刻T1からフード内が透明になるまでの遅延時間t3を実験的に得ておき、該遅延時間t3が経過した時点で映像の取り込みを開始する。t4は、フード内の透明性が失われる時間に基づいた撮影期間である。
【0050】
撮像用チャネルの動作は、図5(b)に示すように、流体送出用チャネルからの透明流体の射出タイミングと同期して(適当な遅延時間t3の後に)、観察対象部の撮像を開始し、所定の時間t4だけ撮像を行うように構成してもよい。
また、撮像用チャネルが常に観察対象部の撮像を行って映像信号を出し続けている場合には、透明流体の射出タイミングと同期して、制御装置が該撮像の記録を開始し、所定の時間だけ撮像の記録を行うものであってもよい。
【実施例】
【0051】
実施例1
人体の循環器系における心臓の脈動とそれに伴う血流の変動とを模擬的に再現する循環装置を構成し、該装置を用いて本発明によるカテーテルとシステムの有用性を確認した。
図6は、該循環装置の構成を示すブロック図である。同図に示すように、該循環装置は、動脈圧負荷用の密閉チャンバ41と、抵抗42と、静脈系リザーバ43と、心臓の収縮拡張動作を模した圧縮空気型拍動流ポンプ44とが、順に、血管を模した配管パイプP1によって環状に連結されて、脈拍を生じさせながら、矢印の方向に液体を循環させる循環器が再現されている。
動脈圧負荷用の密閉チャンバ41の作用は、心収縮期に心室(拍動流ポンプ)から駆出された血液を一時的に貯め込む大動脈のコンプライアンス(弾力性)を模擬したものである。
静脈系リザーバ43の作用は、心拡張期に心室へ血液を一挙に送り込むために血液を貯め込んでおく心房の役目を模擬したものである。
抵抗42の作用は、血管の抵抗(総末梢循環抵抗)を模擬したものである。
管内を循環する流体は、水道水に市販の白濁性入浴剤(主成分:炭酸水素ナトリウム)を10〔g/L〕の割合で混ぜ合わせた白濁液とした。
【0052】
上記循環装置の動作特性は、以下のとおりである。
周波数:1〔Hz〕
振幅:5〔Vp-p〕
duty比:30〔%〕
密閉チャンバの平均内圧:13.3〔kPa〕
脈圧:8.0〔kPa〕
平均流量:6〔L/min〕
【0053】
また、心臓であるポンプ44の直後には、流量計33Bを接続し管内の流体の流れの変動を表す信号を記録するとともに、心電図の代わりとしてポンプ44の駆動信号が、本発明によるシステムの制御装置30に入力される構成とした。
また、管内の観察部位45には、観察対象の標的として、図7に示した同心円状のマークを配置した。同図のとおり、該マークは、全て同一の太さ1mmで描き、外径10mmの円と、外径6mmの円と、外径2mmの円とからなる同心円と、十字模様とを組み合わせた模様を4つ連ねた模様である。
この該マークを撮影して、白濁液をどの程度排除し、どの程度鮮明に見えるのかを、輝度差にて評価するものとした。「輝度差」とは、水を満たした状態における標的の白色部分の輝度を255、黒色部分の輝度を0として、数値化したものである。
【0054】
上記循環装置に対して適用した本発明のカテーテルシステムは、図5(a)に示したものと同様であって、本実施例では、カテーテルが配管パイプに挿入され、その先端部が観察部位45に到達している。
【0055】
〔フード〕
フードは、本実施例品として、図2(a)に示す形状のものを作成し、比較例品として、フード最先端部分に屈曲を設けない図19(b)に示す形状のものを作成した。本実施例品と比較例品との差異は、フード最先端部分の屈曲の有無だけである。
本実施例品と比較例品は、共に、図2(a)に示すように、フードの基本形状が円筒形であって、内径は5.5mmであり、円筒形の中心軸Yと開口面21とがなす角度θ1は40度とした。
また、本実施例品では、図2(a)に示すように、フード最先端部分の屈曲の界面〔線分A2−Bを含んで紙面に垂直な平面〕と中心軸Yとがなす角度θ2を60度とし、屈曲した中心軸Y’と先端面21〔線分A−Bを含んで紙面に垂直な平面〕とがなす角度θ3を75度とした。
【0056】
流体送出装置の構成は、圧力容器に透明な水を収容し、該容器内を常に0.3MPaに加圧しておき、該容器の射出口に設けた電磁弁を300msecの間だけ開くことによって(噴射時間300msec)、水を射出し停止する構成とした。ポンプの拍動数は、毎分100回とした。
また、流量計33Bによる管内の流体の流れの変動に基いて、各遅延時間を適切に設定し、観察部位で水流が停止する瞬間に射出が行われるようにした。
【0057】
〔性能確認実験〕
先ず、本実施例品のカテーテルのフードの先端面を標的のマーク面から約1mm離した状態で保持し、水を噴射したところ、図8のグラフ図に四角形の点でプロットして示すように、300msecの噴射期間内において、標的のマークが鮮明に確認できる輝度差のピークが得られた。1回当たりの水の噴射総量は、4mlである。その時に撮影したマークの画像は、図8のグラフ図中に示したとおりである。
これに対して、比較例品のカテーテルのフードの先端面をマーク面に接触させた状態で保持し、水を噴射したところ、図8のグラフ図に三角形の点でプロットして示すように、300msecの噴射期間内では、マークはある程度の鮮明度で確認できたが、300msecの噴射期の後で、鮮明にマークが確認できるピークが得られた。
また、この比較例品のカテーテルのフードの先端面をマーク面から約1mm離した状態で保持し、水を噴射したところ、図8のグラフ図に丸形の点でプロットして示すように、マークが鮮明に確認できることはなかった。
以上の実験から、本発明によって、フードの先端面がマーク面から離れた状態でも、マークが鮮明に確認できることがわかった。
【0058】
実施例2
上記実施例1における圧力容器の内圧と電磁弁の開放時間(噴射時間)とを変更したときに、実施例品によって、マークがどの程度見えるかを確認した。
本実施例では、圧力容器の内圧を0.1MPaとし、電磁弁の開放時間(噴射時間)を100msecとした。
図9のグラフ図に、本実施例における実施例品の結果(圧0.1MPa、噴射時間100msec)を丸形の点でプロットして示し、その時に撮影したマークの画像を、同図のグラフ図に示す。
また、同じ図9のグラフに、実施例1における実施例品の結果(圧0.3MPa、噴射時間300msec)を四角形の点でプロットし、重ね合わせて示す。
【0059】
本実施例品のカテーテルのフードの先端面をマーク面から約1mm離した状態で保持し、(圧0.1MPa、噴射時間100msec)にて水を噴射したところ、図9のグラフ図に丸形の点でプロットして示すように、100msecの噴射期間において、マークが鮮明に確認できるピークが得られた。
本実施例の結果から、噴射圧と噴射時間とを減少させても、マークが観察可能であることがわかった。また、1回当たりの水の噴射総量は、噴射圧と噴射時間とを減少させたことにより、0.6mlにまで減少しており、生体内でより多くの回数の噴射と撮像ができることがわかった。また、フードの先端面をマーク面から約1mm離した状態でもマークが鮮明に確認できることから、カテーテルの先端を円周方向に回転させながら、血管の内壁面を連続的に観察可能であることがわかった。
【0060】
実施例3
本実施例では、全身麻酔をした体重約30kgのブタの下行大動脈内に、長さ45mm、直径10mmの胆管用ステント(材料:ニッケル・チタン合金)を挿入し、また、長さ15mm、直径10mmの人工血管(材料ダクロン基材、コラーゲンコーティング)を吻合し、腹部大動脈から本発明のカテーテルを逆行性に挿入し、ブタの心電に同期させて生理食塩水を噴射して、ステント、人工血管、血管分岐部等の可視化の具合を調べた。また、このとき、アンギオ装置(血管造影装置)により当該カテーテルの位置を確認した。
当該カテーテルは、ポリウレタンからなる、外径6.2mm、内径5.6mmのチューブを管状本体として、これに、外径1.4mmの内視鏡を挿通し、先端にフードをシリコーンゴム系接着剤によって接合したものである。
フードは、管状本体と同じ外径、内径であって、先端部の形状は、実施例1のフードと相似形とした。
図10(a)に、システム全体の構成を示す。図10(b)はステント、図10(c)は人工血管を示す写真図である。
【0061】
図11は、ステント(図11(a))を挿入した場合のアンギオ撮像写真図(図11(b))、および、内視鏡撮像写真図(図11(c))である。
図11(b)のように、アンギオ撮像によって、下行大動脈に当該カテーテルの先端部が確認され、かつ、ステントが留置されていることがわかる。そして、図11(c)のように、生理食塩水を噴出させながらの内視鏡撮像により、血液中でのステントの端部の可視化が確認できた。
【0062】
図12(c)、(d)は、人工血管を下行大動脈に端−端吻合した場合の内視鏡撮像写真図である。図12(a)、(b)は、本実施例の後、人工血管を、縫合部血管と共に取り出したものである。図12(b)に示すように、人工血管の両端には縫合糸があり、人工血管の壁面には管軸方向にマーカー(黒色の糸を縫い込んで付けられた直線的な印)が設けられている。
図12(c)、(d)の写真図のとおり、吻合部の縫合糸と人工血管のマーカーの可視化が確認できた。尚、実際の観察実験では、図12(c)、(d)の写真図は、カラー写真であり、人工血管の両端部の縫合糸や管軸方向のマーカーは、本願明細書に添付した白黒の写真図と比べて、より鮮明に識別可能なものとなっている。
【0063】
実施例4
本実施例では、全身麻酔をした体重約35kgのブタの胸部大動脈内に、長さ45mm、直径10mmのステント(材料ニッケル・チタン合金)を挿入し、図13(a)に示すフレア状(円錐台形)に広がったフードを先端に取り付けたカテーテルによって、図13(b)に示すように、ステントの端部の網目の1つを太くして目印とし、その目印の部分の観察を試みた。カテーテルのフード以外の仕様は、実施例3と同様である。
フードの材料は、シリコーンゴム、広がり角度は35度である。円筒形の中心軸Yと開口面21とがなす角度θ1は30度とした。
腹部大動脈から前記カテーテルを挿入し、アンギオ装置により可視化部位を特定しながら、ブタの心電に同期させて生理食塩水を噴射し、ステントの前記目印の観察を行った。
図14の内視鏡撮像写真図に示すように、血液中でありながら、ステントに設けた前記目印の可視化が確認できた。
【0064】
実施例5
本発明によるカテーテルと血管内観察システムの実用性と汎用性の向上を目的として、試験的に製作した外管内に市販の内視鏡を挿通して本発明のカテーテルとし、大血管内視鏡システムを構成して、実施例1と同様に模擬的な基本性能試験を行った。
【0065】
本実施例で製作したカテーテルは、図15(a)に示す外管に、市販の軟性内視鏡を挿通したものであり、手元側に設けた接続口から生理食塩水を注入し先端から噴射して、血管内の可視化を行う簡易な構成となっている。該生理食塩水は、図3(a)に示すように、外管とカテーテルとの隙間を通って先端のフード内に噴射される。
市販の軟性内視鏡は、図15(b)に示す先端面を持ち、全体の様子は図15(c)に示すとおりである。
【0066】
上記外管は、図15(a)に示すように、大きく区分すると、手元側のコネクター部と、中間の補強部と、先端側の非補強部とに分けられる。コネクター部には、内視鏡挿入口と生理食塩水接続口とが設けられている。中間の補強部には、耐圧性や耐キンク性を高める目的で、金属素線を編んで形成した管状の編組体が外管の最外被覆層の直下に設けられている。この編組体の素線は、材料がステンレス(チタンなどの医療用補強材料でも可能)であり、厚さ0.04mm×幅0.11mmのいわゆる平角線である。また、該編組体の編組ピッチは2.8mmであり、編組体の外径は3.66mmである。上記市販の軟性内視鏡は、この管状の編組体の内部を通過する。
先端側の非補強部は、内視鏡の首振りによって図15(a)に示すように屈曲できるように前記編組体の無い柔軟な構造となっており、最先端にはフードが一体的に設けられている。フードは、図3(a)に示す形状とした。
【0067】
非補強部(フードの広がりを除く)と補強部の外径は、共に4.8mmとなっており、成人の股動脈からアプローチ可能なサイズになっている。
外管の最外被覆層の材料は、非補強部と補強部に互いに異なるポリアミド系の樹脂を使用している。非補強部にはJIS K6253に規定されたショアD硬度25の材料を用いて柔軟にし、補強部には、上記管状の編組体による補強を施していない状態における前記ショアD硬度が40の材料を用いた。
【0068】
当該カテーテルから生理食塩水を噴射し撮像するための外部の制御装置、配管の構成は、実施例3および図10(a)に示した構成と同様であり、概要は次の通りである。生理食塩水を満たした圧力容器をガスボンベによって加圧し、外部からのECG波形に同期して、電磁弁の開閉によりカテーテルに送り、先端から噴射する構成とした。イメージガイドで得られた動画をコンピュータのプログラムによって処理することで、噴射時の可視化された部分だけをモニター画面に表示することもできるようになっている。
また、図10(a)のとおり、別個のコントロールボックスを設け、図5(b)に示した噴射時間(電磁弁開閉時間)やタイミング(電磁弁開閉遅れ時間)、映像取込時間や映像取込遅れ時間の設定を、実際の可変抵抗器の操作によって簡単に微調整し得る構成とした。
【0069】
上記のように構成したシステム、および、上記実施例1で説明した図6の循環装置を用い、実施例1と同様の操作手順にて、性能確認実験を行った。
〔静特性試験〕
生理食塩水の代わりに水を入れた圧力容器をガスボンベによって加圧し、内圧を0.1〜0.4MPaの間で、0.1MPaずつ変化させて噴射を行い、それぞれの流量〔ml/min〕を計測した。
図16(a)に実験結果をグラフとして示す。得られたグラフより圧力容器の内圧と、噴射量とは、ほぼ比例関係となっていることが確認できる。
〔動特性試験〕
図6に示すように、当該カテーテルの先端を配管パイプP1に挿入した状態で、動脈圧負荷用の密閉チャンバを操作して、当該カテーテルの先端の噴射口に動脈圧を模擬する負荷圧(0MPa、0.0133MPa(=100mmHg)、0.0266MPa(=200mmHg)をかけた。そして、圧力容器の内圧を0.1〜0.4MPaの間で変化させ、かつ、1回の噴射時間を100〜200msの間で変化させて、それぞれの場合において、1回の噴射量〔ml/beat〕を計測した。
図16(b)に計測結果をグラフとして示す。図16(b)のグラフから、圧力容器の内圧と噴射時間とを変化させることで、噴射量を任意の値に制御することができ、その値は、噴射口の圧力、即ち動脈圧にほとんど影響を受けないことが確認できた。
【0070】
〔in vitro可視化性能評価実験〕
実施例1と同様の手順にて、図6の循環回路を用いてin vitro可視化性能評価実験を行った。循環流体には、実施例1と同様の白濁液を血液の代替として使用し、管壁内面(大動脈内壁面に相当)に貼った図7のマークを観察した。噴射のためのトリガ信号としては擬似ECG波形信号を入力した。この時、循環回路は、実験動物(ブタ)の生理的条件を想定して駆動した。
噴射時間を100〜200msecの間で変化させ、かつ、圧力容器の内圧を0.1〜0.2MPaの間で変化させて、フードの先端の開口部を、マーク面から1mm程度離した非接触の状態で、マークを撮影した。そして、実施例1と同様に、白濁液をどの程度排除し、どの程度鮮明に見えるのかを、輝度差にて評価した。
【0071】
図17に評価結果をグラフとして示す。同図のグラフより、各噴射条件において、マークが見えるようになっていることが確認できる。また、いずれの条件においても生理食塩水の噴射時間よりも長い間可視化された状態が続いている。これは噴射された生理食塩水がフード内に滞留していることによるものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のカテーテルおよびシステムによって、血管内のような懸濁した不透明流体の中で、フードの端面が観察対象部から0.5mm〜1mm程度離れていても、より少量の透明流体の吐出によって、観察対象部の周囲の不透明流体を効果的に除去し、視覚的に観察することが可能になった。
【0073】
本出願は、日本で出願された特願2011−080732(出願日:平成23年3月31日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図16
図18
図19
図20
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図17