【実施例】
【0021】
冷間圧延した真鍮板から幅2mm×長さ10mm×厚さ0.2mmの試料を切り出して基板を作成した。真鍮板は、fcc構造のα相とCsCl型のβ’相とからなる。この基板を1.6モルの塩酸水溶液にて酸洗した後、大気中で150℃に加熱した。その後直ちに真空室に挿入し、真空度10
−3Paに保持するとともに、Arイオンビームを照射角度40°、加速電圧5kVまたは9kV、電流0.5mAの条件下で、10〜70分照射した。照射後に照射面のナノ・マイクロ突起と下地の形状を走査電子顕微鏡、Laser Scanning Microscopy(LSM)にて観察するとともに、組成と相をEPMA、Glancing Angle X-ray Diffraction(GAXRD)にて解析した。
【0022】
加速電圧9kV、照射時間0分、10分、30分、70分での真鍮板の表面の走査電子顕微鏡写真を
図1〜4に示す。非処理品においては、当然ながら突起は成長していない。10分照射で再結晶して表面に隆起が現れた。その後30分、70分と照射時間が長くなるにつれて円錐体状のナノ・マイクロ突起が成長していくことが認められる。
【0023】
図5に示すように、円錐体状のナノ・マイクロ突起について、ナノ・マイクロ突起の底面の直径X、高さh又はh’から突起体の体積を求めた。
図5(a)は加速電圧5kV、
図5(b)は加速電圧9kVにおける照射時間と突起体体積との関係を示すものであるが、いずれの場合においても、体積は時間とともに増加するが、その後ある時間で飽和した。
【0024】
次に、Johnson-Mehl-Avrami方程式によって円錐体状突起の成長機構の推定をおこなった。Johnson-Mehl-Avrami方程式は、以下の式2、3である。
X=1−exp(−Btk) (式2)
lnln{1/(1−X)}=klnt+lnB (式3)
【0025】
上記した式2、3において、Xは体積分率、Tは時間、kはAvrami指数である。よって、klntとlnln{1/(1−X)}との関係からkを求めて成長機構を推定することができる。
【0026】
図6(a)は、加速電圧5kVにおける上記関係を示すグラフであるが、kは約2.27であった。また、
図6(b)は、加速電圧9kVにおける上記関係を示すグラフであるが、kは約1.81であった。両者のkの値が異なることから、ナノ・マイクロ突起の成長は拡散律速であるが、加速電圧で成長速度が異なる可能性がある。例えばk=1.5〜2.5では、核生成点が減少しながら拡散律速で成長していることが考えられる。
【0027】
EPMA分析において、ナノ・マイクロ突起にZnの濃化しているものが認められた。また、Znの濃度帯には、Zn35−40mass%のα相とZn45mass%のβ’相との2領域があることを確かめた。また、加速電圧9kVにおける下地部分では、照射時間の増加とともにZn濃度は増加傾向にあることが分かった。
【0028】
図7、8に、加速電圧9kV、照射時間20分、40分処理品での走査電子顕微鏡写真を示す。
図7に示すものは20分処理品であって、微量のZnを含むがCu主体の小さいナノ・マイクロ突起であり、その底面の直径は0.5〜1μm、アスペクト比は10〜20であった。また、
図8に示すものは40分処理品であって、1μm程度の微小な多数のナノ・マイクロ突起のほかに、比較的大きなCu−Znからなるナノ・マイクロ突起が散見される。微小なナノ・マイクロ突起のアスペクト比は約10であった。
【0029】
以上のような20分処理品、40分処理品を未処理品とともに用いて、COシフト反応におけるCO転化率を測定した。なお、比較材としてArイオンビーム非照射の非処理品を用いた。
【0030】
図9に反応容器と試料の充填状態を示す。反応容器はSUS316製であって、上方に開口部を有し、容器内高さ10mm、内径25mmである。この反応容器の内部に未処理品、20分処理品、40分処理品を各9枚ずつ図のように十字状に並べた。
【0031】
図10に反応装置の概略構成を示す。すなわち、上下の触媒加熱用ヒータ−の間に9枚の試料を充填した反応容器を挿入して加熱するとともに、ヒーターの内部にCOを含む反応ガスを挿通させて、反応容器に導き、反応後のガスを四重極質量分析器に導入してCO転化率を測定した。なお、反応前のガス組成は、CO(1%)+H2O(5%)+He(残部)であり、ガス流量は40ml/min、反応温度は400℃とした。
【0032】
測定の結果、未処理品のCO転化率は2.2%であったが、20分処理品のCO転化率は15.4%、40分処理品のCO転化率は13.5%であって、処理品は未処理品に対して約7倍にCO転化率が高められていることが分った(
図11)。したがって、本発明は、従来の粉末触媒では使用できない部位に使用できるCO転化率の高い板状のCOシフト触媒として、工業的価値大なものであることが確かめられた。
【0033】
また、真鍮板にArイオンビームを、加速電圧5kVにて40分照射してナノ・マイクロ突起を形成した合金板について、上記と同様にしてCO転化率を測定したところ、CO転化率8%であることを確かめた。