(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、熱電材料の電気的特性を向上させるための技術は多数開発されているものの、熱電材料の耐荷重強度、特に、熱電変換装置(モジュール)としての耐荷重強度を向上させるための技術開発は不充分であった。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、熱電変換装置の耐荷重強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明においては、一対の熱交換器において電極が形成された平面を平行に向かい合わせ、一方の平面に形成された電極と他方の平面に形成された電極とに熱電素子を接合する。すなわち、一対の熱交換器のそれぞれの平面に形成された電極間に電流が流れることに伴って一対の熱交換器の一方から他方に熱が流れる状態を構成する。
【0006】
さらに、熱電素子は菱面体結晶構造(空間群R3−m(−は通常、3の上方に表記される))の熱電材料によって構成される。すなわち、熱電素子は空間群R3−mの菱面体結晶を六方晶系の座標系で表記したときの結晶軸をc軸,a軸、結晶面をc面とした場合、当該c面が特定の配向方位に配向された材料によって構成される(以下、六方晶系の座標系で表記したときのc面を単にc面と呼ぶ)。本発明では、熱交換器における各平面の間において、当該特定の配向方位が熱交換器の平面に垂直となるように各熱電素子を配置する。すなわち、電極間の電流の方向とc面が配向された特定の配向方位とが平行になるように熱電素子を配置する。
【0007】
さらに、複数の熱電素子の少なくとも一部において、c面が配向された特定の配向方位が熱交換器の平面に平行な特定の補強方向に対して平行になるように、各熱電素子を配置する。すなわち、複数の熱電素子の少なくとも一部において、c面が配向された特定の配向方位が補強方向に向くように熱電素子を配置して熱電変換装置を構成する。上述の空間群の結晶構造をもつ材料においては、c面に垂直な方向に荷重をかけた場合よりもc面に平行な方向に荷重をかけた場合の方が、耐荷重強度が強い。従って、c面が特定の配向方位に配向されている材料、すなわち、c面の向きが特定の配向方位に揃っている材料においては、特定の配向方位に平行な方向への耐荷重強度が特定の配向方位に垂直な方向への耐荷重強度よりも強い。このため、本発明のように、複数の熱電素子の少なくとも一部において、c面が配向された特定の配向方位が熱交換器の平面に平行な補強方向に対して平行になるように、各熱電素子を配置することにより、補強方向への荷重に対する耐荷重強度が補強方向以外の方向への荷重に対する耐荷重強度よりも強い熱電変換装置を構成することが可能である。すなわち、補強方向に関する熱電変換装置の耐荷重強度を向上させることができる。
【0008】
ここで、一対の熱交換器は熱電素子を通じて熱を流すことができればよく、一方が吸熱側、他方が放熱側となって熱交換可能な素材によって構成すればよい。また、各熱交換器には少なくとも一つの平面が形成されており、平行な状態で向かい合うように各熱交換器を配置することで熱交換器の平面の間に熱電素子を配置できるように構成されていればよい。
【0009】
電極は平面に形成され、熱電素子と接合されることによって熱電素子に電流を流し、これによって電極間を熱が流れるように構成されていればよく、この限りにおいて平面上での電極の形状は各種の形状とすることが可能である。むろん、熱電素子は電極の形状似合わせて配置可能な位置が決定される。例えば、一対のp型熱電素子およびn型熱電素子を電気的に直列に接続することによって熱電変換を実現可能に構成されていればよい。むろん、一対のp型熱電素子およびn型熱電素子が電気的に直列に連続して複数対の熱電素子が直列的に連続するように構成してもよい。
【0010】
さらに、熱電素子は、c面が特定の配向方位に配向された材料によって構成される。c面を特定の配向方位に配向させた状態は、熱電素子内においてc面が特定の配向方位に平行となっている結晶が他の方位に配向している結晶よりも統計的に多くなっていればよい。すなわち、特定の配向方位に平行な方向に電流を流した場合に、他の方向に電流を流す場合と比較してより良い電気的特性(性能指数等)になっていればよい。より具体的には、押出処理(ホットプレス法等)や塑性変形を伴う押出処理(せん断付与押出法,ECAP法,ホットフォージ法等)、一方向凝固法,単結晶法等によってc面が特定の配向方位に配向するように熱電材料を製造し、当該特定の配向方位に平行な面を含む直方体として材料を切断することにより本発明にかかる熱電素子を製造する構成等を採用可能である。
【0011】
また、c面が特定の配向方位に向いていることが統計的に特定される熱電素子によって本発明にかかる熱電素子を構成してもよい。例えば、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置によって熱電材料を切断した断面を測定し、各測定点におけるc面の配向方位を測定する。また、当該測定結果に基づいてc面の配向方位の度数を特定し、配向方位の最頻値φを特定するとともに当該最頻値φからの配向方位の偏差の絶対値をΔφとし、φからΔφの範囲内にある配向方位の度数の累積値を特定する。そして、度数の累積値が全測定点の80%となるΔφを配向度とする。そして、当該配向度が例えば、40°,30°,20°,15°以下となっている場合に上述の最頻値φを熱電素子においてc面が配向された特定の配向方位とする構成を採用しても良い。
【0012】
さらに、空間群R3−mの菱面体結晶の結晶構造の材料において、当該菱面体結晶を六方晶系の座標系で表記したときのc面に垂直な方向に荷重をかけた場合よりもc面に平行な方向に荷重をかけた場合の方が、耐荷重強度が強いため、c面の配向方位が統計的に揃っている場合、熱電素子の耐荷重強度に異方性が生じる。そこで、耐荷重強度の異方性に基づいてc面が特定の配向方位に配向されていることを特定しても良い。例えば、対向する2つの正方形を有する直方体においてc面の配向方位がランダムであれば当該正方形の辺に平行な方向への耐荷重強度はいずれの辺についてもほぼ等しい。しかし、c面が正方形のいずれかの辺に平行な方向に配向していると、当該辺に平行な方向への耐荷重強度は強く、当該辺に垂直な方向への耐荷重強度は弱くなる。そこで、本発明にかかる熱電素子を、対向する2つの正方形を有する直方体であるとともに正方形のいずれかの辺に平行な方向への耐荷重強度をAとし、当該辺に垂直な方向への耐荷重強度をBとしたときA≠B(好ましくはA/B>1.1、さらに好ましくは1.16≦A/B≦1.44)となっている熱電素子によって構成してもよい。
【0013】
熱電素子は、電極間に電流を流す際に高い電気的性能を示し、熱交換器の平面に平行な補強方向について熱電変換装置の耐荷重強度が強くなるように配置されていればよい。すなわち、熱交換器の平面間で高い電気的性能となるように、熱交換器の平面とc面が配向された特定の配向方位とが垂直となるように条件を課した場合、特定の配向方位にはさらに当該平面に垂直な方向を軸とした回転自由度があるため、当該回転自由度の範囲内でc面が配向された特定の配向方位を調整することによって熱電変換装置の耐荷重強度を調整することが可能である。そこで、熱電素子の少なくとも一部おいて、c面が配向された特定の配向方位が熱交換器の平面に平行な特定の補強方向に対して平行になるように熱電素子を配置すれば、当該補強方向に特定の配向方位が平行になるように配置されていない場合と比較して熱電変換装置全体としての耐荷重強度を強くすることが可能である。
【0014】
補強方向は、熱交換器の平面に平行な任意の方向から耐荷重強度を向上させるべき方向として選択された特定の方向であれば良く、むろん、補強方向は2個以上であっても良い。例えば、第1の方向と、当該第1の方向に垂直な第2の方向とを補強方向とし、少なくとも一部の熱電素子においてc面が配向された特定の配向方位を第1の方向に平行とし、他の熱電素子における少なくとも一部についてc面が配向された特定の配向方位を第2の方向に平行とすれば、第1の方向および第2の方向についての耐荷重強度を強くすることが可能である。なお、c面が配向された特定の配向方位が補強方向に平行となっている熱電素子の数が増えるほど耐荷重強度が強くなるため、補強方向が1個であれば全ての熱電素子についてc面が配向された特定の配向方位が補強方向に平行となるように熱電素子を配置することが好ましい。また、補強方向がN個(Nは2以上の整数)であれば1/N個の熱電素子におけるc面が配向された特定の配向方位が第Nの方向に平行になるように熱電素子を配置することが好ましい。
【0015】
さらに、熱交換器の平面に平行な方向に熱電素子を切断した場合の断面が矩形となるように複数の熱電素子を構成し、かつ、特定の配向方位が当該矩形のいずれかの辺に平行となるように構成してもよい。この構成によれば、当該矩形のいずれかの辺に平行な方向の耐荷重強度が当該辺に垂直な方向の耐荷重強度よりも強くなる。従って、熱電素子において当該矩形の辺の向きを調整することによってc面が配向された特定の配向方位の向きを調整することが可能になり、複数の熱電素子において極めて容易にc面が配向された特定の配向方位の向きを揃えるなどの調整することが可能になる。
【0016】
さらに、熱電素子の形状を考慮して熱電変換装置の耐荷重強度を調整する構成を採用しても良い。例えば、複数の熱電素子を熱交換器の平面に平行な方向に切断した場合の断面形状から当該平面に平行な方向の複数の熱電素子の耐荷重強度を特定し、他の方向と比較して相対的に強い方向あるいは弱い方向を上述の補強方向とする構成を採用しても良い。すなわち、複数の熱電素子の少なくとも一部において、c面が配向された特定の配向方位は補強方向に平行に向けられるが、当該補強方向が、熱電素子の断面形状から特定される耐荷重強度が強いあるいは弱い方向と一致するように構成する。
【0017】
熱電素子の断面形状から特定される耐荷重強度が強い方向と上述の補強方向とを一致させる構成によれば、熱電素子の形状によって耐荷重強度が強くなっている方向を補強してより強くすることが可能である。一方、熱電素子の断面形状から特定される耐荷重強度が弱い方向と上述の補強方向とを一致させる構成によれば、熱電素子の形状によって耐荷重強度が弱くなっている方向を補強し、耐荷重強度の方向依存性を抑制することが可能である。
【0018】
ここで、熱交換器の平面に平行な方向の耐荷重強度は複数の熱電素子の断面形状から特定されればよい。従って、複数の熱電素子のそれぞれについて断面形状を評価して個々の熱電素子の耐荷重強度を特定しさらに複数の熱電素子の全体としての耐荷重強度を評価しても良いし、複数の熱電素子を集合として捉えて断面形状を評価しても良く、種々の構成を採用可能である。断面形状の評価としては、断面の外周の縦横比や断面二次モーメント等を採用可能である。また、複数の熱電素子を集合として捉える構成例としては、断面に平行な方向に移動させることによって熱電素子を詰めた状態を仮定し、その状態における断面の集合について耐荷重強度を評価しても良い。例えば、熱電素子を詰めた状態で断面が集合として長方形となる場合、長辺方向への耐荷重強度は強く、短辺方向への耐荷重強度は弱くなる。従って、長辺方向と特定の配向方位とが平行になるように熱電素子を配置すれば当該長辺方向への耐荷重強度をより強くすることができる。一方、短辺方向と特定の配向方位とが平行になるように熱電素子を配置すれば当該短辺方向への耐荷重強度をより強くすることができ、長辺方向と短辺方向との耐荷重強度の差異を抑制することができる。
【0019】
さらに、複数の熱電素子を熱交換器の平面に平行な方向に切断した場合の断面形状から当該平面に平行な方向の複数の熱電素子の耐荷重強度を特定し、当該耐荷重強度が同一である2個の方向を特定し、これらのいずれかを上述の補強方向とする構成を採用しても良い。2個の方向において断面形状から特定される耐荷重強度が略同一である場合、断面形状のみに着目すれば各方向の耐荷重強度は変わらないが、そのいずれか一方を補強方向としてc面が配向された特定の配向方位を一致させると、当該一方への耐荷重強度を強くすることが可能になる。
【0020】
なお、熱電素子を詰めた状態で断面が集合として正方形となる場合、ある辺に平行な方向への耐荷重強度と当該ある辺に垂直な辺に平行な方向への耐荷重強度は略一致する。従って、一方の辺の方向と特定の配向方位とが平行になるように熱電素子を配置すれば当該一方の辺への耐荷重強度をより強くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)熱電変換装置:
(2)配向方位による耐荷重強度の調整:
(2−1)実施例:
(3)他の実施形態:
【0023】
(1)熱電変換装置:
図1A〜
図1Cは、本発明の一実施形態にかかる熱電変換装置10を示す図であり、本実施形態にかかる熱電変換装置10は、熱電素子20と一対の熱交換器31を備えている。一対の熱交換器31のそれぞれ対向する2つの正方形を有する直方体であり、
図1Aは熱交換器31における正方形の面に対して垂直な方向から熱電変換装置10を眺めた上面図である。
図1Bは
図1AのA−A断面図であり、
図1Cは
図1BのB−B断面図である。なお、熱電素子20の断面図においては、熱電素子20がp型あるいはn型であることを明示するため、「p」あるいは「n」の文字を付記してある。
【0024】
本実施形態においては、一対の熱交換器31の一方において外面を構成する正方形の面31aと一対の熱交換器31の他方において外面を構成する正方形の面31bとが平行な状態で向かい合うように構成される。また、面31aと面31bとのそれぞれには電極32a,32bが形成されている。本実施形態において、電極32a,32bは長方形であるとともに、電極32a,32bを面31aに投影した場合に長方形の端部が重なる位置に形成されている。なお、本実施形態において、面31aには計18個の電極32aが形成され、面31bには計19個の電極32bが形成されている。
図1Cに示すように電極32aの中の2個には電流端子33が接続される。
【0025】
本実施形態において、熱電素子20はp型熱電素子20aおよびn型熱電素子20bからなり、p型熱電素子20aおよびn型熱電素子20bのそれぞれは向かい合う2つの正方形を有する同形の直方体で構成される。本実施形態においては、熱電素子20を構成する各正方形の一方が電極32aに接合され、他方が電極32bに接合され、電極32a,32bを介してp型熱電素子20aとn型熱電素子20bとが交互に配置されることによってp型熱電素子20aおよびn型熱電素子20bが電気的に直列に接続される。
【0026】
本実施形態においては、以上の構成において電流端子33から電流を流すことによって熱交換器31の一方から他方への熱流を促進することができる。また、熱交換器31の一方と他方とで熱勾配を与えることによって電流端子33間に電流を流すことができる。なお、
図1A〜
図1Cにおいては熱電変換装置10の構造を模式的に示しており、必要に応じて他の部材、例えば、熱交換器31における熱電素子20と逆側の表面に取り付けられた放熱フィンやファンなどを追加することが可能である。また、本実施形態の熱交換器31はアルミナや窒化アルミニウムなどの高熱伝導性セラミクスや表面に絶縁処理がなされた金属基板等によって構成可能である。さらに、電極32a,32bは銅やアルミニウムなどの高電気伝導体によって構成可能である。
【0027】
(2)配向方位による耐荷重強度の調整:
本実施形態において、熱電素子20は、菱面体結晶を構成するBiTe系の熱電素子であり、菱面体結晶を六方晶系の座標系で表記したときのc面が特定の配向方位に配向するようにして製造された材料を切断することによって構成される。すなわち、(Bi,Sb)
2(Te,Se)
3の組成とした材料に対して押出処理や塑性変形を伴う押出処理、あるいは一方向凝固法や単結晶法等を適用することによってc面を特定の配向方位に配向させた材料を製造する。そして、当該材料を対向する正方形をもつ直方体に切り出して熱電素子20とする。
【0028】
図2Aにおいては熱電素子20を模式的に示しており、c面が配向された特定の配向方位の方向を直線Cで示している。同
図2Aに示すように、熱電素子20は直方体を構成し、c面が配向された特定の配向方位は当該直方体を構成する正方形の面20cに対して垂直であるとともに、直方体を構成する長方形の面20dに対して垂直、長方形の面20eに対して平行となっている。なお、熱電素子20においては、c面が特定の配向方位に平行となっている結晶が他の方位に配向している結晶よりも統計的に多くなっていればよい。従って、全ての結晶のc面が厳密に直線Cと平行になっていなくても本発明の熱電素子20とすることができる。例えば、面20dに対して垂直な方向における耐荷重強度と面20eに対して垂直な方向における耐荷重強度とが異なる程度にc面が直線Cに近くなっていればよい。また、面20cに対して垂直な方向に電流を流した場合の熱電素子20の電気的特性が面20eに対して垂直な方向に電流を流した場合の熱電素子20の電気的特性よりも高い特性となっていればよい。さらに、上述の最頻値φを
図2Aの直線Cと平行な配向方位としたとき、上述の配向度が、例えば、40°(好ましくは30°以下、さらに好ましくは20°や15°以下)となっている場合にc面が配向された特定の配向方位が直線Cと平行であるとみなすことが可能である。むろん、以上のような製造工程の過程あるいは後において、材料に対して電解メッキや無電解メッキによってニッケルメッキや金メッキを施す構成とすることが可能である。
【0029】
図2Aに示すように、正方形の面20cを有する直方体においてc面が配向された特定の配向方位を面20dに対して垂直、面20eに対して平行に構成すると、面20dに対して垂直な方向における耐荷重強度は面20eに対して垂直な方向における耐荷重強度よりも強くなる。そこで、
図1A〜1Cに示す構造の熱電変換装置10において、熱電素子20の向きを調整することによって熱電変換装置10の耐荷重強度を調整することができる。
【0030】
本実施形態においては、複数の熱電素子20の形状から特定される耐荷重強度の方向依存性を強調あるいは抑制するように熱電素子20の向きを調整する構成としている。本実施形態においては、複数の熱電素子20を
図1Cのように面31a,31bに平行な方向に切断した場合の断面形状を集合として捉え、当該断面形状から耐荷重強度の方向依存性を特定する。
図1A〜1Cに示す熱電変換装置10の場合、面31a,31bに平行な方向に熱電素子20を移動させて隙間なく詰めた状態を仮定することによって熱電素子20を断面形状の集合を定義する。
【0031】
図2Bは、
図1Cに示すような断面において熱電素子20を隙間なく詰めた状態を示す図である(電極等は省略)。なお、同
図2Bにおいては、熱交換器31の面31a,31bの一辺に平行な方向をx軸方向として定義し、x軸に垂直な方向をy軸方向として定義した。本実施形態において、熱電素子20は、x軸に平行な方向およびy軸に平行な方向に各6個,計36個並べられるため、熱電素子20を隙間なく詰めることで構成される集合としての断面形状は
図2Bに示すように正方形となる。従って、当該集合としての断面形状において、x軸方向への長さとy軸方向への長さは等しく、断面形状からはx軸に平行な方向への耐荷重強度とy軸に平行な方向への耐荷重強度とは等しいと言える。
【0032】
従って、複数の熱電素子20においてc面が配向された特定の配向方位を特定の補強方向に揃えると、当該補強方向への耐荷重強度を強くすることができる。
図2Cは、
図1Cに示すような断面において熱電素子20に配向方位を示す直線Cを付すとともに断面を示すハッチ等を省略して示した図である。なお、座標系は
図2Bと同様である。同
図2Cに示す例では、複数の熱電素子20の全てにおいて配向方位がx軸と平行である。熱電素子20においては当該配向方位と平行な方向に対する耐荷重強度が強く、配向方位と垂直な方向に対する耐荷重強度が弱い。従って、
図2Cに示す例においてはx軸に対して平行な方向における耐荷重強度がy軸に対して平行な方向における耐荷重強度よりも強くなる。また、配向方位がy軸に対して平行となっている熱電素子20の数と、配向方位がx軸に対して平行となっている熱電素子20の数とが等しい場合と比較して、x軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度が強くなる。
【0033】
以上の例においては、x軸と平行な方向が補強方向であり、補強方向は1個であったが、補強方向を2個以上設定しても良い。
図2Dは2個の方向を補強方向として設定した場合の例を示しており、同
図2Dにおいても、
図1Cに示すような断面において熱電素子20に配向方位を示す直線Cを付すとともに断面を示すハッチ等を省略して示している。座標系は
図2Bと同様である。同
図2Dに示す例では、複数の熱電素子20の半数において配向方位がx軸と平行であり、半数において配向方位がy軸と平行である。従って、
図2Dに示す例においては配向方位の観点からも、x軸に対して平行な方向における耐荷重強度とy軸に対して平行な方向における耐荷重強度とが等しくなる。この結果、熱電素子20の集合としての断面形状から特定される耐荷重強度の方向依存性と同じ方向依存性を維持したまま耐荷重強度を強くすることができる。また、全ての熱電素子20における配向方位がx軸に対して平行となっている場合と比較して、y軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度が強くなる。
【0034】
(2−1)実施例:
次に、特定の組成のBiTe系熱電材料から切り出した熱電素子を利用した熱電変換装置10に関する耐荷重強度の測定例を説明する。測定対象の熱電変換装置10において、熱電素子20は、Bi
0.4Sb
1.6Te
3.0の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したp型熱電材料と、Bi
1.9Sb
0.1Te
2.7Se
0.3の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したn型熱電材料とによって構成される。すなわち、これらのp型熱電材料とn型熱電材料とのそれぞれにおいてc面が配向された特定の配向方位が直方体の面20cおよび面20dに垂直かつ面20eに平行になるように切り出して熱電素子20を構成した。なお、本実施例において、面20cは一辺0.7mmの正方形であり、面20cに垂直な方向の長さ(
図2Aにおける面20d,20eの長方形の長辺)は0.8mmである。また、熱電変換装置10の面31a,31bは一辺が6mmの正方形である。さらに、以上のようにして製造した熱電素子20において配向方位が直方体の面20cおよび面20dに垂直かつ面20eに平行であるとみなした場合の配向度は18°であった。当該配向度は熱電素子20の切断面をTSL社製のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置で計測し、解析ソフトウェア(名称:OIM,バージョン3.5)にて解析することによって確認されている。
【0035】
以上のようにして製造された熱電素子20を
図2Cおよび
図2Dに示す例のように配置して熱電変換装置10を構成し、それぞれの熱電変換装置10において、一方の熱交換器31を平面上に固定し、他方の熱交換器31の一端から平面に平行かつ熱交換器31の辺に対して垂直な方向に荷重を作用させ、熱電素子20が破壊された時点での荷重を測定した。その結果、
図2Dにおけるx方向に荷重を作用させた場合に熱電素子20が破壊された時点での荷重を100としたとき、
図2Cにおけるx方向は105、
図2Cにおけるy方向は95、
図2Dにおけるy方向は100の荷重を作用させた時点で熱電素子20が破壊された。
【0036】
従って、この例において、
図2Cのように全ての熱電素子20においてc面が配向された特定の配向方位をx方向に平行となるように熱電素子20を配置すると、
図2Dと比較してx方向に平行な荷重に対する耐荷重強度が5%向上し、y方向に平行な荷重に対する耐荷重強度が5%低下することが明らかになった。また、
図2Dのように、半数の熱電素子20においてc面が配向された特定の配向方位をx軸に平行となるように熱電素子20を配置し、半数の熱電素子20においてc面が配向された特定の配向方位をy軸に平行となるように熱電素子20を配置すると、x方向およびy方向のいずれにおいても等しい耐荷重強度を持たせることが可能である。従って、
図2Cに示す例は、他の方向と比較して特定の一方向に大きな荷重が作用する状況に適用することが好ましく、作用する荷重の方向依存性が小さい状況に適用することが好ましい。
【0037】
(3)他の実施形態:
本発明においては、c面が配向された特定の配向方位の向きを複数の熱電素子において調整することによって所望の方向への耐荷重強度を向上させることができればよく、上述の実施形態以外にも種々の構成を採用可能である。
【0038】
例えば、複数の熱電素子の配置パターンは
図1A〜1Cに示す構成に限定されない。
図3A〜3Eに示す構成においては、
図1A〜1Cに示す構成よりも熱電素子の個数が少なく、一対の熱交換器311のそれぞれが備える長方形の面を向かい合わせた状態において、各面の間に24個の熱電素子201を配置した例を示している。すなわち、熱交換器311のそれぞれが備える長方形の面の短辺に沿って4個、長辺に沿って6個の熱電素子201を並べることによって熱電変換装置を構成している。他の構成は、
図1A〜1Cに示す熱電変換装置と同様の構成である。なお、
図3A〜
図3Eにおいては、一対の熱交換器311のそれぞれが備える長方形の長辺に平行な方向をx軸方向として定義し、x軸に垂直な方向をy軸方向として定義した。また、
図3Aは、
図1Cのように、熱電素子201を、一対の熱交換器311のそれぞれが備える長方形の面に平行な方向で切断した状態を示している。
図3Bは、
図2Bのように熱電素子201を隙間なく詰めた状態を示す図である(電極等は省略)。
図3C〜
図3Eにおいては、c面が配向された特定の配向方位を直線Cにて示している。
【0039】
図3A,3Bに示す例において、熱電素子201を隙間なく詰めることで構成される集合としての断面形状は
図3Bに示すように長方形となる。従って、当該集合としての断面形状において、x軸方向への長さはy軸方向への長さよりも長く、断面形状からはx軸に平行な方向への耐荷重強度の方がy軸に平行な方向への耐荷重強度よりも相対的に強い。
【0040】
従って、
図3Cのように、複数の熱電素子201の全てにおいてc面が配向された特定の配向方位をx軸に平行な方向に揃えると、集合としての断面形状から特定される耐荷重強度がy軸方向よりも強いx軸方向について耐荷重強度を補強することができる。一方、
図3Dのように、複数の熱電素子201の全てにおいてc面が配向された特定の配向方位をy軸に平行な方向に揃えると、集合としての断面形状から特定される耐荷重強度がx軸方向よりも弱いy軸方向について耐荷重強度を補強することができる。
【0041】
さらに、同
図3Eに示すように、複数の熱電素子201の半数において配向方位をx軸に平行とし、半数において配向方位をy軸に平行とする構成を採用しても良い。この構成によれば、熱電素子201の集合としての断面形状から特定される耐荷重強度の方向依存性を維持したまま耐荷重強度を強くすることができる。また、全ての熱電素子201における配向方位がx軸に対して平行となっている場合と比較して、y軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度を強くすることができる。さらに、全ての熱電素子201における配向方位がy軸に対して平行となっている場合と比較して、x軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度を強くすることができる。
【0042】
次に、
図3C〜3Eに示す熱電変換装置に関する耐荷重強度の測定例を説明する。本例において、熱電素子201は、Bi
0.4Sb
1.6Te
3.0の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したp型熱電材料と、Bi
1.9Sb
0.1Te
2.7Se
0.3の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したn型熱電材料とによって構成される。これらのp型熱電材料とn型熱電材料とのそれぞれにおいても形状は
図2Aに示すような直方体であり、c面が配向された特定の配向方位は
図2Aに示す方向と同様である。なお、本実施例においても、面20cは一辺0.7mmの正方形であり、面20cに垂直な方向の長さは0.8mmである。また、熱交換器311において電極が形成される面の長方形の長辺は6mm,短辺は4.15mmである。さらに、以上のようにして製造した熱電素子201において配向方位が直方体の面20cおよび面20dに垂直かつ面20eに平行であるとみなした場合の配向度は18°であった。当該配向度は熱電素子201の切断面をTSL社製のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置で計測し、解析ソフトウェア(名称:OIM,バージョン3.5)にて解析することによって確認されている。
【0043】
以上のようにして製造された熱電素子201を
図3C〜3Eに示す例のように配置して熱電変換装置を構成し、上述の実施例と同様に熱電素子201が破壊された時点での荷重を測定した。そして、
図3Eに示す配置においてx方向に荷重を作用させて熱電素子201を破壊した場合の荷重とy方向に荷重を作用させて熱電素子201を破壊した場合の荷重との中央値を100として荷重の相対値を算出した。その結果、
図3Cにおけるx方向は120、
図3Cにおけるy方向は79、
図3Dにおけるx方向は106、
図3Dにおけるy方向は95、
図3Eにおけるx方向は114、
図3Eにおけるy方向は85の荷重を作用させた時点で熱電素子201が破壊された。従って、この例からもc面が配向された特定の配向方位を補強方向に揃えることによって、当該補強方向に対する耐荷重強度を向上させることが可能であるといえる。
【0044】
さらに、熱電素子の形状は上述の熱電素子20等のように正方形を含む構成に限定されない。例えば、
図4Aに示すように全ての面が長方形の直方体によって熱電素子202を構成してもよい。この例においては、長方形の面202cが電極に接合される面となり、c面が配向された特定の配向方位は面202cおよび面202dに対して垂直であるとともに、面202eに対して平行である。
【0045】
図4B〜4Fにおいては、一対の熱交換器312のそれぞれが備える長方形の面を向かい合わせた状態において、各面の間に18個の熱電素子202を配置した例を示している。すなわち、熱交換器312のそれぞれが備える長方形の面の短辺に沿って3個、長辺に沿って6個の熱電素子202を並べることによって熱電変換装置を構成している。また、電流端子を接続するための電極は当該長方形の面の両短辺側にそれぞれ形成されている。他の構成は、
図1A〜1Cに示す熱電変換装置と同様の構成である。なお、
図4B〜
図4Eにおいても、一対の熱交換器312のそれぞれが備える長方形の長辺に平行な方向をx軸方向として定義し、x軸に垂直な方向をy軸方向として定義した。また、
図4Bは、
図1Cのように、熱電素子202を、一対の熱交換器312のそれぞれが備える長方形の面に平行な方向で切断した状態を示している。
図4Cは、
図2Bのように熱電素子202を隙間なく詰めた状態を示す図である(電極等は省略)。
図4D〜
図4Eにおいては、c面が配向された特定の配向方位を直線Cにて示している。
【0046】
図4B,4Cに示す例において、熱電素子202を隙間なく詰めることで構成される集合としての断面形状は
図4Cに示すように正方形となる。従って、当該集合としての断面形状において、x軸方向への長さとy軸方向への長さとが等しく、断面形状からはx軸に平行な方向への耐荷重強度とy軸に平行な方向への耐荷重強度とが等しいと言える。
【0047】
従って、
図4Dのように、複数の熱電素子202の全てにおいてc面が配向された特定の配向方位をx軸に平行な方向に揃えると、x軸方向の耐荷重強度がy軸方向の耐荷重強度よりも強くなるように構成することができる。さらに、同
図4Eに示すように、複数の熱電素子202の半数において配向方位をx軸に平行とし、半数において配向方位をy軸に平行とする構成を採用しても良い。この構成によれば、x軸方向の耐荷重強度とy軸方向の耐荷重強度とが等しい状態を維持しながら耐荷重強度を補強することができる。また、全ての熱電素子202における配向方位がx軸に対して平行となっている場合と比較して、y軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度を強くすることができる。さらに、全ての熱電素子202における配向方位がy軸に対して平行となっている場合と比較して、x軸に対して平行な方向に対する耐荷重強度を強くすることができる。
【0048】
次に、
図4D〜4Eに示す熱電変換装置に関する耐荷重強度の測定例を説明する。本例において、熱電素子202は、Bi
0.4Sb
1.6Te
3.0の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したp型熱電材料と、Bi
1.9Sb
0.1Te
2.7Se
0.3の組成の材料について500℃の設定温度においてECAP法による押出処理を行って製造したn型熱電材料とによって構成される。また、これらのp型熱電材料とn型熱電材料とのそれぞれを
図4Aに示すような直方体に切り出す。本実施例において、面202cは短辺0.7mm,長辺1.4mmの長方形であり、面202cに垂直な方向の長さは0.8mmである。また、熱交換器312において電極が形成される面の長方形の長辺は6mm,短辺は4.6mmである。さらに、以上のようにして製造した熱電素子202において配向方位が直方体の面202cおよび面202dに垂直かつ面202eに平行であるとみなした場合の配向度は18°であった。当該配向度は熱電素子202の切断面をTSL社製のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置で計測し、解析ソフトウェア(名称:OIM,バージョン3.5)にて解析することによって確認されている。
【0049】
以上のようにして製造された熱電素子202を
図4D〜4Eに示す例のように配置して熱電変換装置を構成し、上述の実施例と同様に熱電素子202が破壊された時点での荷重を測定した。そして、
図4Eに示す配置においてx方向に荷重を作用させて熱電素子202を破壊した場合の荷重とy方向に荷重を作用させて熱電素子202を破壊した場合の荷重との中央値を100として荷重の相対値を算出した。その結果、
図4Dにおけるx方向は106、
図4Dにおけるy方向は95、
図4Eにおけるx方向は101、
図4Eにおけるy方向は99の荷重を作用させた時点で熱電素子202が破壊された。従って、
図4Eにおいてはx軸方向およびy軸方向への耐荷重強度がほぼ等しく、
図4Dにおいてはc面が配向された特定の配向方位をx軸方向に揃えることによって、当該x軸方向に対する耐荷重強度を向上させることが可能であるといえる。