(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。尚、本発明におけるppmとは、全て重量ppmのことを示す。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0022】
[1]ポリカーボネート樹脂
(構造式(1)で表されるジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物であって分子内に下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含んでいる。
【0024】
(但し、式(1)において酸素原子に水素原子が結合した構造を除く。)
ここで、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物としては、2個のアルコール性水酸基をもち、分子内に連結基−CH
2−O−を有する構造であって、当該構造として酸素原子に水素原子が結合した構造を除く、結合構造を含むジヒドロキシ化合物であって、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応してポリカーボネートを生成し得る化合物であれば如何なる構造の化合物であっても使用することが可能であり、複数種併用しても構わない。
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂は、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加えて、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有することが好ましい。この場合、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物が、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有することを妨げない。複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物が、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有する場合は、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を2種以上有するポリカーボネート樹脂となる。勿論、複素環式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物であって、且つその分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を2種以上有するポリカーボネート樹脂であっても構わない。
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂に用いるジヒドロキシ化合物として、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有さないジヒドロキシ化合物を併用しても構わない。
以下、その分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物をジヒドロキシ化合物(I)と略記することがある。
【0025】
(ジヒドロキシ化合物(I))
ジヒドロキシ化合物(I)における「連結基−CH
2−O−」とは、水素原子以外の原子と互いに結合して分子を構成する構造を意味する。この連結基において、少なくとも酸素原子が結合し得る原子又は炭素原子と酸素原子が同時に結合し得る原子としては、炭素原子が最も好ましい。ジヒドロキシ化合物(I)中の「連結基−CH
2−O−」の数は、1以上、好ましくは2〜4である。
【0026】
さらに具体的には、ジヒドロキシ化合物(I)としては、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等で例示されるような、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等で例示されるオキシアルキレングリコール類、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]ジフェニルメタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−1−フェニルエタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,4−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,3−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]プロパン、2,2−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−tert−ブチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−4−メチルペンタン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]オクタン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]デカン、2,2−ビス[3−ブロモ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−シクロヘキシル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、等で例示されるビス(ヒドロキシアルコキシアリール)アルカン類、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1−ビス[3−シクロヘキシル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロペンタン、等で例示されるビス(ヒドロキシアルコキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ−テル、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、等で例示されるジヒドロキシアルコキシジアリールエーテル類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルフィド、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルフィド等で例示されるビスヒドロキシアルコキシアリールスルフィド類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルホキシド、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルホキシド等で例示されるビスヒドロキシアルコキシアリールスルホキシド類、4,4’−ビス(2−ヒドロキエトキシフェニル)スルホン、4,4’−ビス[4−(2−ジヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]スルホン等で例示されるビスヒドロキシアルコキシアリールスルホン類、1,4−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,2−ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3−ビス[2−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、1,4−ビス[2−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、1,3−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−5,7−ジメチルアダマンタンが挙げられる。これらジヒドロキシ化合物(I)は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
分子内に前記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物は、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物であることが好ましい。
【0028】
(一般式(2)中、A
1,A
2は、各々独立して、任意の2価の炭化水素基を表し、Xは、メチレン基、カルボニル基、直接結合の何れかを表す。)
【0029】
ここで、A
1,A
2として、炭素数6〜炭素数20を有する炭化水素基、炭素数6〜炭素数12を有する芳香族炭化水素基等が好ましい。
炭素数6〜炭素数20を有する炭化水素基の具体例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン等の直鎖状の2価のアルキレン基;1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基等の分岐鎖を含む2価のアルキレン基が挙げられる。
【0030】
さらに、下記[A]群に示されるような脂環構造を持つ2価のアルキレン基が挙げられる。
【0032】
(上記[A]群に示される各環構造における2つの結合手の置換位置、即ち、水酸基と芳香族基への置換位置については任意である。)
【0033】
A
1,A
2は、得られる樹脂の物性が良好であることから、各々独立にメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基などの炭素数4以下のアルキレン基、及び下記[B]群に示されるような脂環構造を持つ2価の基であることが好ましい。
【0035】
(上記[B]群に示される環構造における2つの結合手の置換位置、即ち、水酸基と芳香族基への置換位置については任意である。)
【0036】
さらに合成が容易な点から、A
1,A
2は、各々独立に、メチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基及び下記[C]群で示されるような脂環構造を持つ2価の基であることがより好ましい。
【0038】
(上記[C]群に示される環構造における2つの結合手の置換位置、即ち、水酸基と芳香族基への置換位置については任意である。)
【0039】
一般式(2)において、Xは、メチレン基、カルボニル基又は直接結合であり、芳香環が固定されて光学的な特性が良好となることから、好ましくは、カルボニル基又は直接結合である。
【0040】
具体的な化合物としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(1−メチル−2−ヒドロキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−2−ヒドロキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシクロヘキシル)フルオレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0041】
次に、A
1,A
2として、炭素数6〜炭素数12を有する芳香族炭化水素基の具体例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3’−メチル−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0042】
(複素環式ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂は、前述した分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加え、複素環式ジヒドロキシ化合物および脂環式ジヒドロキシ化合物から選ばれる、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有することが好ましい。より具体的には例えば、複素環式ジヒドロキシ化合物としては、下記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される複素環式ジヒドロキシ化合物や、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2−(5−エチル−5−ヒドキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オール等のスピロ炭化水素誘導体が挙げられる。
【0044】
中でも、複素環式ジヒドロキシ化合物として、前記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0045】
上記式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にあるイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらのジヒドロキシ化合物のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0046】
尚、イソソルビドは酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。また、蟻酸の発生を防止するような安定剤を添加してあるような場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする。安定剤としては還元剤や制酸剤が用いられる。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。このようなアルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒ともなるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
【0047】
酸化分解物を含まないイソソルビドを得るために、必要に応じてイソソルビドを蒸留しても良い。また、イソソルビドの酸化や、分解を防止するために安定剤が配合されている場合も、必要に応じて、イソソルビドを蒸留しても良い。この場合、イソソルビドの蒸留は単蒸留であっても、連続蒸留であっても良く、特に限定されない。蒸留は、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で、減圧蒸留を実施する。このようなイソソルビドの蒸留を行うことにより、蟻酸含有量が20ppm以下、特に5ppm以下である高純度のイソソルビドを用いることができる。
【0048】
尚、イソソルビド中の蟻酸含有量の測定方法は、イオンクロマトグラフを使用し、以下の手順に従い行われる。
イソソルビド約0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料としてギ酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークをギ酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いた。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/min、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−H
2SO
4水溶液を用いる。
【0049】
(脂環式ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂は、前述した分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加え、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有することが好ましい。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環、6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高くすることができる。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。
脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素原子数が過度に大きいと、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価になる傾向がある。炭素原子数が小さいほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
【0050】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(II)又は(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH
2−R
1−CH
2OH (II)
HO−R
2−OH (III)
(但し、式(II),式(III)中、R
1,R
2は、置換基を有していても構わない炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)
【0051】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(II)において、R
1が下記一般式(IIa)(式中、R
3は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0053】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、R
1が下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1で表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0055】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、R
1が下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
【0057】
また、上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(II)において、R
1が下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
【0059】
一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(II)において、R
1が下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
【0061】
また、上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(III)において、R
2が下記一般式(IIIa)(式中、R
3は炭素数1〜12のアルキル基で表される。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0063】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(III)において、R
2が下記一般式(IIIb)(式中、nは0又は1で表す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0065】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(III)において、R
2が下記一般式(IIIc)(式中、mは0、又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が用いられる。
【0067】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(III)において、R
2が下記一般式(IIId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が用いられる。
【0069】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(III)において、R
2が下記一般式(IIIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が用いられる。
【0071】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0072】
尚、上記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジオール化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。また、複素環式ジヒドロキシ化合物および脂環式ジヒドロキシ化合物を併用することも好ましい。この場合複素環式ジヒドロキシ化合物および脂環式ジヒドロキシ化合物の両方またはいずれか一方が、式(1)の構造を有することを妨げ無い。
【0073】
(その他のジヒドロキシ化合物)
尚、本発明のポリカーボネート樹脂は、分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物と、上述した複素環式ジヒドロキシ化合物および脂環式ジヒドロキシ化合物以外の他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が含まれていても良い。
【0074】
このようなその他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール、ビスフェノール類等が挙げられる。
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0075】
ビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0076】
さらに、ビスフェノールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ−2−メチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレンが挙げられる。
これらのその他のジヒドロキシ化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0077】
その他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善等の効果を得ることもできる。尤も、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有割合が過度に多いと、本来の光学特性の性能を低下させることがある。
このため、本発明のポリカーボネート樹脂においては、ポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に対する分子内に構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物と複素環式ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物との合計の割合が90モル%以上であることが好ましい。
【0078】
(ポリカーボネート樹脂の物性)
本発明のポリカーボネート樹脂は、硫黄元素の含有量が5ppm以下であり、好ましくは3ppm以下であり、さらに好ましくは2ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂に含まれる硫黄元素の含有量が過度に多いと、重合性が低下し、重合時間が長くなり、得られるポリマーの色調が悪くなったり、耐加水分解性が低下する場合がある。
ポリカーボネート樹脂に含まれる硫黄元素の含有量を5ppm以下の範囲に調整する方法は特に限定されないが、例えば、共重合の組成を調整する、使用する原料モノマーを精製して用いる、得られるポリマーを一度溶液にして精製する等が挙げられる。
【0079】
本発明のポリカーボネート樹脂の固有粘度は、通常、0.2〜1.0dl/g、好ましくは0.3〜0.8dl/gである。固有粘度が過度に小さいと、溶融成形により得られるフィルムの機械的強度が低下する傾向がある。また、固有粘度が過度に大きいと、溶融時の流動性が低下して成形性に劣る傾向がある。
【0080】
また、本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が110℃未満であるとこれを原料とするフィルムの耐熱性が劣る傾向となる。ただし、ガラス転移温度が過度に高いと、フィルムに延伸するとき延伸むらが起きやすいため、ガラス転移温度は200℃以下であることが好ましい。
【0081】
また、本発明のポリカーボネート樹脂の光弾性係数の絶対値は25×10−12Pa
−1以下であることが好ましく、より好ましくは20×10
−12Pa
−1以下である。光弾性係数の絶対値が25×10
−12Pa
−1を超過するとこれを原料としてフィルムにしたときフィルム面内での位相差のばらつきが大きくなる。
【0082】
尚、ポリカーボネート樹脂中の硫黄の含有量、ポリカーボネート樹脂の固有粘度、ガラス転移温度、光弾性係数は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0083】
[2]ポリカーボネート樹脂の製造方法
本発明のポリカーボネート樹脂は、従来公知の重合方法により製造することができる。重合方法としては、ホスゲンを用いる溶液重合法、炭酸ジエステルとヒドロキシ化合物とを反応させる溶融重合法のいずれの方法でも良い。
なかでも、重合触媒の存在下に、前述した分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられる複素環式ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物と、その他のジヒドロキシ化合物とを、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
【0084】
ここで、溶融重合において使用する分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物は、硫黄元素の含有量が9ppm以下であることが好ましい。また、硫黄元素の含有量が5ppm以下であることがさらに好ましく、3ppm以下であることが特に好ましい。
分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に含まれる硫黄元素の含有量が過度に多いと、重合性が低下し、重合時間が長くなり、得られるポリマーの色調が悪くなったり、耐加水分解性が低下する場合がある。
分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物に含まれる硫黄元素の含有量を9ppm以下の範囲に調整する方法は特に限定されないが、例えば、分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物の原料(例えば、フルオレン等)の硫黄元素含有量の低いものを使用する、再結晶精製の条件を適正化する等が挙げられる。
【0085】
(炭酸ジエステル)
溶融重合法で用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0087】
(一般式(4)において、B
1、B
2は、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の脂肪族基または置換基を有していてもよい芳香族基であり、B
1とB
2は同一であっても異なっていてもよい。)
【0088】
上記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示される。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。
【0089】
前述した溶融重合法において、一般式(4)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いる分子内に構造式(1)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物を含む全ジヒドロキシ化合物に対し、0.90〜1.10のモル比率で用いることが好ましく、0.96〜1.04のモル比率で用いることがさらに好ましい。
溶融重合法において使用する炭酸ジエステルのモル比が過度に小さいと、製造されたポリカーボネート樹脂の末端OH基が増加し、ポリマーの熱安定性が悪化し、また所望する高分子量体が得られない傾向がある。一方、使用する炭酸ジエステルのモル比が過度に大きいと、同一重合条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望する分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる傾向がある。さらに、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存する炭酸ジエステル量が増加する傾向があり、残存炭酸ジエステルが、成形時又は成形品の臭気の原因となる傾向がある。
【0090】
(重合触媒)
溶融重合における重合触媒(エステル交換触媒)としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用される。アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のみを使用することが特に好ましい。なお、本明細書において、「アルカリ金属」及び「アルカリ土類金属」という用語を、それぞれ、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における「第1族金属」及び「第2族金属」と同義として用いる。
【0091】
重合触媒として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
【0092】
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0093】
また、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と併用される塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。
【0094】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0095】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0096】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
これらの塩基性化合物も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0097】
上記重合触媒の使用量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、全ジオール成分1モルに対して、金属換算量として、通常、0.1μモル〜100μモルの範囲内で用い、好ましくは0.5μモル〜50μモルの範囲内であり、さらに好ましくは1μモル〜25μモルの範囲内である。重合触媒の使用量が過度に少ないと、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られない傾向がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる。
【0098】
(重合反応)
溶融重合は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目の反応は140〜220℃、好ましくは150〜200℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら反応温度を上げていき、同時に発生するフェノールを反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が200Pa以下で、210〜280℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行う。
重縮合反応において、温度と反応系内の圧力のバランスを制御することが重要である。特に、温度、圧力のどちらか一方が速く変化すると、未反応のモノマーが留出し、ジオール化合物と炭酸ジエステルのモル比が変動し、重合度が低下する傾向がある。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0099】
(リン化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物を重合時に添加することができる。
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、全ジオール成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。リン化合物の添加量が過度に少ないと、着色防止効果が小さく、過度に多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
【0100】
亜リン酸化合物を添加する場合は、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、全ジオール成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することが好ましい。亜リン酸化合物の添加量が過度に少ないと、着色防止効果が小さく、過度に多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0101】
リン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することが好ましい。その場合の添加量は、リン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、先に記載した、全ジオール成分に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が過度に少ないと、着色防止効果が小さく、過度に多いと、ヘイズが高くなる原因となったり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりすることもある。
【0102】
(付加成分)
本発明のポリカーボネート樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で各種の配合剤を配合することができる。配合剤としては、例えば、成形時等におけるポリカーボネート樹脂の分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤、酸化防止剤、溶融成形時の離型性をより向上させるための離型剤、耐候性を向上させるための光安定剤や紫外線吸収剤、樹脂や紫外線吸収剤に基づく製品の黄色味を打ち消すためのブルーイング剤等が挙げられる。
【0103】
熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられる。具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0104】
これらのなかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0105】
熱安定剤は、溶融重合時に添加した添加量に加えて更に追加で配合することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を配合して、ポリカーボネート共重合体を得た後に、後に記載する配合方法で、さらに亜リン酸化合物を配合すると、重合時のヘイズの上昇、着色、及び耐熱性の低下を回避して、さらに多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部〜1重量部が好ましく、0.0005重量部〜0.5重量部がより好ましく、0.001〜0.2重量部が更に好ましい。
【0106】
酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部〜0.5重量部が好ましい。
【0107】
離型剤としては、例えば、一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価又は多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。このような一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、例えば、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。
これらのなかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。
【0108】
高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。このような脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。
これらの離型剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。離型剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部〜5重量部が好ましい。
【0109】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、本願発明の目的を損なわない範囲で、光安定剤や紫外線吸収剤を配合することができる。
光安定剤や紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。
これらの光安定剤や紫外線吸収剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。このような光安定剤や紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.01〜2重量部が好ましい。
【0110】
ブルーイング剤としては、ポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Viol et31[CA.No 68210、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]及び一般名Solvent Blue45[CA.No61110]が代表例として挙げられる。これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
これらのブルーイング剤は、通常、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.1×10
−5〜2×10
−4重量部の割合で配合される。
【0111】
本発明のポリカーボネート樹脂と各種添加剤との配合方法は、例えば、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合する方法;上記各成分を、例えば、塩化メチレンなどの共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法などがあるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるポリマーブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
【0112】
[3]透明フィルム、光学フィルム及び位相差フィルム
上述したポリカーボネート樹脂を原料として、透明フィルムを製膜することができる。また、透明フィルムとして成膜した光学フィルムを、製膜後に延伸することにより位相差フィルムを製造することができる。製膜方法としては、従来公知の溶融押出法、溶液キャスト法等が挙げられる。
【0113】
尚、上述した光学フィルムの原料として、本発明のポリカーボネート樹脂に加え、ビスフェノールAやビスフェノールZ等から得られる他のポリカーボネート樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどにより変性されたポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンシクロヘキサンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等の他の樹脂の1種又は2種以上との組成物であってもよい。
【0114】
光学フィルムの厚みは、通常、30μm〜200μmであり、好ましくは50μm〜150μmである。また、製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値が過度に大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内のばらつきが大きくなる傾向がある。
【0115】
光学フィルムの延伸方法は、公知の縦、横どちらか一方の一軸延伸、縦横にそれぞれ延伸する二軸延伸等の延伸方法を用いることができる。また、特殊な二軸延伸を施し、フィルムの三次元での屈折率を制御することも可能である。
位相差フィルム作製の延伸条件としては、フィルム原料のガラス転移温度の−20℃から+40℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、フィルム原料のガラス転移温度の−10℃から+20℃の範囲である。延伸温度がポリカーボネート樹脂のガラス転移温度より過度に低いと、延伸フィルムの位相差が大きくなり、所望の位相差を得るためには延伸倍率を低くしなければならず、フィルム面内の位相差のばらつきが大きくなる傾向がある。一方、延伸温度がガラス転移温度より過度に高いと、得られるフィルムの位相差が小さくなり、所望の位相差を得るための延伸倍率を大きくしなければならず適正な延伸条件幅が狭くなる傾向がある。
【0116】
位相差フィルムは、各種液晶表示装置用の位相差板として用いることができる。位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償用に用いる場合には、その位相差値は、一般的には、400nmから2000nmまでの範囲で選択される。また、位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nmから400nmの範囲で選択される。位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nmから200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nmから180nmまでである。位相差フィルムは単独で用いることもできるし、2枚以上を組み合わせて用いることもでき、他のフィルム等と組み合わせて用いることもできる。
【0117】
位相差フィルムは、公知のヨウ素系又は染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。また、位相差フィルムを1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。さらに、位相差フィルムを、偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。さらにまた、位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。但し、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の物性、特性の評価は次の方法により行った。
【0119】
(1)ポリカーボネート樹脂中の硫黄元素の含有量
試料を白金製ボートに採取し、石英管管状炉(三菱化学株式会社製AQF−100型)で加熱し、燃焼ガス中の硫黄、塩素分を0.03%の過酸化水素水溶液で吸収した。吸収液中のSO
42−,Cl
−イオンクロマトグラフ(Dionex社製ICS−1000型)で測定した。
【0120】
(2)ジヒドロキシ化合物中の硫黄元素の含有量
前述したポリカーボネート樹脂中の硫黄元素の測定方法に準じた方法で測定した。
【0121】
(3)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度Tgの測定
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に従い、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて測定した。ポリエステル樹脂約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温した。得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を採用した。
【0122】
(4)ポリカーボネート樹脂の極限粘度の測定
ウベローデ型粘度計(中央理化製DT−504型自動粘度計)を用い、溶媒として、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの1:1混合溶媒を用い、温度30.0℃±0.1℃で測定した。濃度は1.00g/dlになるように、精密に調製した。
サンプルは120℃で撹拌しながら、30分で溶解し、冷却後測定に用いた。
溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式より相対粘度η
relを求めた。
η
rel=t/t
0
相対粘度η
relから、下記式より比粘度η
spを求めた。
η
sp=(η−η
0)/η
0=η
rel−1
比粘度η
spを濃度c(g/dl)で割って、下記式より還元粘度(換算粘度)η
redを求めた。
η
red=η
sp/c
次に、濃度cが減少する希薄溶液を数点調製し、それぞれの還元粘度を測定した。最後に、還元粘度を濃度cに対してプロットしたグラフ上で、無限希釈(c=0)に外挿した点に基づいて極限粘度[η]を求めた。
【0123】
(5)ポリカーボネート樹脂の色調(b値)
JIS K7373に準拠し、光電色彩計(日本電色工業株式会社製ZE−2000)を用い、試料ペレットを直径30mm、高さ12mmの円柱状の石英セルに充填し、約90度ずつ回転させながら、4回平均で三刺激値X,Y,Zを測定し、下記式によりb値を求めた。
b値=70(Y−100Z/Zn)/L
(式中、L=10Y
1/2、Znは、完全拡散反射面の標準の光によるZ値を表す。)
【0124】
(6)ポリカーボネート樹脂の耐加水分解性
試料ペレットをプレッシャークッカー試験機(平山製作所社製、形式:PC−242)に入れ、120℃、水蒸気圧0.11MPaで24時間処理した。耐加水分解性は、処理前の極限粘度に対する処理後の極限粘度の保持率(%)で示した。
【0125】
(合成例1)
(9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)
撹拌機、冷却管を備えた反応容器に、純度99.5重量%のフルオレノン350質量部とフェノキシエタノール(四日市合成株式会社製、商品名:PHE−G)1070質量部を仕込み、β−メルカプトプロピオン酸2.3質量部を加え、95%の硫酸570質量部を60分間かけて滴下した。その後、反応温度を50℃に保ち、5時間保持した。
反応終了後、反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液920質量部を液温が80℃になるように滴下し、加えた。滴下終了後のpHは約8であった。その後、メタノール2500質量部を加えて、10℃まで冷却し、固形物を析出させた。
【0126】
次いで、この固形物を濾過し、トルエン3500質量部、純水1000質量部85℃に加熱した。水相を除去した後、有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。有機相を10℃まで冷却し、トルエンを留去して、固形分を得た。
その後、酢酸エチル15000質量部に溶解し、活性炭(日本ノリット株式会社製、商品名:SX+)を35質量部入れ、60℃で2時間加熱撹拌した。次いで、活性炭を濾過し、酢酸エチルを留去し、乾燥した。得られた9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの硫黄含有量は4.2ppmであった(「BHEPF−1」と記す。)。尚、9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの構造式を以下に示す。
【0127】
【化21】
【0128】
(合成例2)
(9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)
合成例1において、水洗を1回しか行わなかったこと以外は、合成例1と同様の操作を行った。得られた9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの硫黄含有量は8.3ppmであった(「BHEPF−2」と記す。)。
【0129】
(合成例3)
(9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)
撹拌機、冷却管を備えた反応容器に、純度99.5重量%のフルオレノン45質量部とフェノキシエタノール(四日市合成株式会社製、商品名:PHE−G)138質量部を仕込み、β−メルカプトプロピオン酸0.2mlを加えて、95%の硫酸40mlを30分間かけて滴下した。その後、反応温度を50℃に保ち、5時間保持した。
【0130】
反応終了後、反応液にメタノール100mlを加えて、1時間撹拌を続け、次いで、純水150mlを加えて、反応生成物を析出させ、室温まで冷却した後、濾過及び/または分離を行った。得られた固形分に対し、800mlのメタノールを用いて、加温して、撹拌しながら溶解させ、室温まで冷却しながら、固体を析出させ、再結晶精製を行った。析出物を濾過し、その後乾燥させた。
得られた9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの硫黄含有量は15ppmであった(「BHEPF−3」と記す。)。
【0131】
(合成例4)
(参考例1)9H−Fluorene−9,9−diacetic acid, 9,9−ditert−butyl esterの合成
撹拌機と冷却管を備えた反応容器に、窒素を通し、カリウム−tert−ブトオキサイド68.9質量部とテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記する。)178質量部を入れサスペンジョンとし、撹拌しながら内温を3℃まで冷却した。この中に89質量部のTHFに溶解したフルオレン30質量部を内温が6℃を超えないように滴下速度を調節しながら、45分かけて滴下した。得られたスラリー状の混合物にTHFを44.5質量部追加して内温が3℃まで下がるまで冷却撹拌した。このスラリー液に、ブロモ酢酸tert−ブチル119.7質量部をTHF89質量部に溶解した溶液を90分かけて滴下した。この間、内温が10℃を超えないように滴下速度を調節した。
【0132】
滴下終了後、さらに撹拌を30分継続した後に内容液を室温に戻した。その後、反応液を300質量部の純水にあけ、酢酸エチル448.5質量部で抽出した。有機層を1N塩酸304.6質量部で1回、純水300質量部で3回、飽和食塩水358.5質量部で1回洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過し、その後、溶媒を留去して、目的物のジ−tert−ブチルエステルを褐色の油状物として得た。
【0133】
(参考例2)9H−Fluorene−9,9−diacetic acidの合成
次いで、撹拌機と冷却管を備えた反応容器に、窒素を通し、参考例1で得たジ−tert−ブチルエステル全量と、ジクロロエタン376.1質量部、トリフロオロ酢酸92.7質量部を入れ、内温が60℃になるように加温、6.5時間反応させた。冷却後、生成した沈殿をろ過、溶媒を留去した。さらに真空乾燥して目的物のジカルボン酸とモノカルボン酸の混合物を褐色の油状物として得た。この一部をサンプリングし、
1H−NMRを測定したところこの油状物は、ジカルボン酸とモノカルボン酸の4.2/1の混合物であることが判明した。この混合物は精製することなく次の還元反応に使用した。
【0134】
(参考例3)9H−Fluorene−9,9−diethanolの合成
次いで、撹拌機と冷却管を備えた反応容器に、窒素を通し、65%濃度(トルエン溶液)のRed−Al 101.5質量部、THF44.5質量部、トルエン86.7質量部を入れて撹拌し良く溶解させた。この溶液に、参考例2で合成した、ジカルボン酸とモノカルボン酸の混合物72.5mmolをTHF/トルエン(1/2体積比)の混合溶媒78.7質量部に溶解した溶液を20分かけて滴下して添加した。この間、内溶液の温度は28℃から35℃に上昇するのが観察された。室温で1.5時間、さらに内温53℃に昇温して、5時間撹拌して反応を完結させた。その後、内温を8℃まで冷却して3N希塩酸421.6質量部を注意深く添加して反応混合物をクエンチした。クエンチ液は2層に分かれたので、有機層は分離し、水層は、3N希塩酸を105.4質量部添加した後に酢酸エチル89.7質量部で抽出、先の有機層とこの酢酸エチル層を混合して有機層とし、この有機層を純水200質量部、飽和食塩水239質量部で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を留去後、酢酸エチル−ヘキサン系混合溶媒で再結晶し、9.94質量部の目的物9H−フルオレン−9,9−ジエタノールを白色針状晶として得た。
【0135】
得られた9H−フルオレン−9,9−ジエタノール9.94質量部に酢酸エチル9000質量部を加え、溶解し、活性炭(日本ノリット株式会社製、商品名:SX+)を0.5質量部入れ、60℃で2時間加熱撹拌した。その後、活性炭を濾過し、酢酸エチルを留去し、乾燥した。得られたフルオレン−9,9−ジエタノールの硫黄含有量は4.8ppmであった(「DEF−1」と記す。)。尚、フルオレン−9,9−ジエタノールの構造式を以下に示す。
【0136】
【化22】
【0137】
(合成例5)
合成例4において、活性炭処理しなかった以外は、同様の操作を行い、フルオレン−9,9−ジエタノールを合成した。得られたフルオレン−9,9−ジエタノールの硫黄含有量は、12ppmであった(「DEF−2」と記す。)。
【0138】
(合成例6)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル会社製:商品名BCF)の硫黄含有量を測定したところ、13ppmであった(「BCF−1」と記す。)。
尚、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンの構造式を以下に示す。
【化23】
【0139】
(合成例7)
酢酸エチル15000質量部に、合成例6のBCF−1を700質量部溶解し、活性炭(日本ノリット株式会社製、商品名:SX+)を35質量部入れ、60℃で2時間加熱攪拌した。次いで、活性炭を濾過し、酢酸エチルを留去し、乾燥した。得られた9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチル)フルオレンの硫黄含有量を測定したところ、4.1ppmであった(「BCF−2」と記す。)。
結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
(実施例1)
イソソルバイド(以下、「ISB」と略記する。)27.65質量部に対して、合成例1で作製した9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF−1)62.22質量部、トリシクロデカンジメタノール(以下、「TCDDM」と略記する。)27.85質量部及びジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記する。)101.33質量部と、触媒として炭酸セシウム2重量%水溶液0.39×10
−1質量部(全ジヒドロキシ化合物1molに対し、金属換算で10μmol)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を170℃に加熱し、必要に応じて撹拌しながら、60分間かけて原料を溶解させた。
【0142】
その後、70分間かけて220℃まで昇温し、90分間保持した。一方、原料溶解後、40分間かけて圧力を常圧から13.3kPaにし、120分間保持した。さらに、20分かけて240℃に昇温した。圧力は、30分かけて0.13kPaまで減圧し、反応終了まで保持した。
原料溶解後、減圧開始より撹拌停止までの時間を重合時間とし、重合時間は217分間、得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.733dl/gであった。
【0143】
(実施例2)
実施例1において、合成例1で得たBHEPF−1に代えて、合成例2で得たBHEPF−2に代えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。重合時間は268分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.691dl/gであった。
【0144】
(実施例3)
ISOB78.5質量部に対して、合成例4で作製した9H−フルオレン−9,9−ジエタノール(DEF−1)34.1質量部及びDPC146質量部と触媒として炭酸セシウム2質量%水溶液0.85×10
−2質量部(全ジヒドロキシ化合物1molに対し、金属換算で16μmol)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、加熱槽温度を180℃に加熱し、必要に応じて撹拌しながら、45分間かけて原料を溶解させた。
【0145】
その後、20分間かけて200℃まで昇温し20分間保持した後、200℃から225℃へ20分間で昇温し30分間保持した。さらに225℃から240℃まで15分間で昇温し、反応終了まで保持した。一方、原料溶解後、20分間かけて圧力を常圧から20kPaにし、50分間保持した。さらに、60分間かけて0.13kPaまで減圧し、反応終了まで保持した。
重合時間は215分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.643dl/gであった。
【0146】
(比較例1)
実施例1において、合成例1で得たBHEPF−1に代えて、合成例3で得たBHEPF−3に代えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。重合時間は447分間である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.447dl/gであった。
【0147】
(実施例4)
合成例4で作製したDEF−1に代えて、合成例5で作製したDEF−2を使用した以外は、実施例3と同様の操作を行った。重合時間は250分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.556dl/gであった。
【0148】
(実施例5)
実施例2において、原料溶解後、70分間かけて220℃まで昇温し、90分間保持した。一方、原料溶解後、40分間かけて圧力を常圧から13.3kPaにし、120分間保持した。さらに、20分かけて280℃に昇温した。圧力は、30分かけて0.13kPaまで減圧し、反応終了まで保持した以外は、実施例2と同様の操作を行った。重合時間は250分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.523dl/gであった。
【0149】
(比較例2)
比較例1において、触媒量を3倍にした以外は、比較例1と同様の操作を行った。重合時間は263分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は0.702dl/gであった。
【0150】
(実施例6)
ISB55.1質量部に対し、合成例7の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF−2)を61.1質量部及びDPC117.6質量部と触媒として炭酸セシウム2質量%水溶液0.88質量部(全ジヒドロキシ化合物1molに対して10μmol)を反応容器に投入し、窒素雰囲気下で170℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、60分間かけて原料を溶解させた。
その後、実施例1と同様に昇温、減圧し、反応終了まで保持した。
重合時間は、240分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は、0.593dl/gであった。
【0151】
(比較例3)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとして合成例6のBCF−1を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行った。
重合時間は、300分である。得られたポリカーボネート樹脂の極限粘度は、0.458dl/gであった。
結果を表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
表2に示す結果から、実施例1および2と比較例1を比較することにより、ポリカーボネート樹脂中の硫黄元素含有量が5ppmより大きいと、重合速度が低下し、重合時間が長くなり、且つ色調が悪化することがわかる。
更に、実施例1,2と比較例2とを比較すれば、モノマー中の硫黄元素含有量が多くポリマー中の硫黄元素含有量が多くなるような場合でも、触媒量を増加させることにより重合速度を高めることは出来るが、その場合にはポリマーの色調が悪くなることが分かる。
実施例5と比較例1または比較例2とを比較すると、ポリマー中の硫黄元素含有量が5ppm以下であるにも拘わらず、実施例5のポリカーボネート樹脂は色調の点に限っては両比較例に劣っている。しかしながら、重合速度、重合時間、極限粘度、耐加水分解性の全てで比較例1または比較例2よりも好適なポリカーボネート樹脂となっており、総合的には実施例5のポリカーボネート樹脂は、硫黄元素含有量が5ppmより大きなポリカーボネート樹脂よりも好適なものである。
【0154】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。