【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、前述の課題を解決するために、試行錯誤を繰り返した結果、いずれかの圧縮機ロータの出口側断面積(出口断面積)が入口側断面積(入口断面積)よりも大きくなるように構成するという条件の下で、各動翼の前縁
及び後縁のハブ側部分をハブ側からチップ側(先端側)へ向けて後退するようにスイープさせた場合(
図3(a)に示す新規な圧縮機ロータの場合)に、各動翼の前縁
及び後縁のハブ側部分をスイープさせない場合(
図3(b)に示す比較用の圧縮機ロータの場合)に比較して、
図4(a)(b)(c)に示すように、ハブ付近におけるガスの減速を抑えて、ガスの減速状態を動翼の全スパンに亘って一様な減速状態に近づけることができると共に、
図5(a)(b)に示すように、動翼の出口付近におけるエネルギー損失の大きな領域を小さくすることができるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。
【0011】
ここで、
図3(a)は、新規な知見に関する特徴を有した新規な圧縮機ロータを示す模式的な側断面図、
図3(b)は、新規な圧縮機ロータの比較用の圧縮機ロータを示す模式的な側断面図、
図4(a)は、新規な圧縮機ロータ及び比較用の圧縮機ロータについて、動翼の前縁付近の流量係数と動翼のスパン比との関係を示す図、
図4(b)は、新規な圧縮機ロータ及び比較用の圧縮機ロータについて、動翼の50%コードの流量係数と動翼のスパン比との関係を示す図、
図4(c)は、新規な圧縮機ロータ及び比較用の圧縮機ロータについて、動翼の後縁付近の流量係数と動翼のスパン比との関係を示す図、
図5(a)は、新規な圧縮機ロータについて、動翼の出口付近におけるエネルギー損失の大きな領域を示す模式的な後視図、
図5(b)は、比較用の圧縮機ロータについて、動翼の出口付近におけるエネルギー損失の大きな領域を示す後視図であって、これらの関係は、3次元定常粘性CFD(Computational Fluid Dynamics)解析により求めたものである。また、
図3(a)に示す新規な圧縮機ロータにおいては、各動翼の先端の径方向位置(径方向の位置)が前縁から後縁にかけて同じになっており、動翼の後縁のハブ側部分がハブ側からチップ側(先端側)へ向けて後退するようにスイープしてあって、動翼の前縁のハブ側部分のスイープ角は、動翼の後縁のハブ側部分のスイープ角と同じである。
【0012】
本発明の第1の特徴は、ガスを軸方向へ圧縮して搬送する軸流圧縮機において、前記軸方向へ延びており、内側に環状のガス流路が形成された筒状の圧縮機ケースと、前記圧縮機ケース内に前記軸方向に沿って設けられ、周方向に等間隔に配設されかつ前記ガス流路内に位置する複数の静翼を備えた複数段の圧縮機ステータと、前記圧縮機ケース内に前記軸方向に沿って複数段の前記圧縮機ステータと交互に設けられ、外周面が前記ガス流路の径方向内側の壁面の一部を構成しかつ軸心周りに回転可能なディスク、及び前記ディスクの外周面に等間隔に設けられかつ前記ガス流路内に位置する複数の動翼を備えた複数段の圧縮機ロータと、を具備し、いずれかの前記圧縮機ロータの出口側断面積(出口断面積)が入口側断面積(入口断面積)よりも大きくなるように構成され、前記いずれかの前記圧縮機ロータにおける各動翼の前縁及び後縁は、ハブ側からチップ側へ向けて後退するようにスイープ(湾曲)しているハブ側部分(基端側部分)と、前記ハブ側部分に連続しかつ
前記ハブ側部分よりも先端側のすべての部分であってかつ主流方向に垂直
になっているチップ側部分とをそれぞれ有することを要旨とする。
【0013】
なお、前記軸流圧縮機は、ジェットエンジン等のガスタービンエンジンの構成機器として用いられる圧縮機に限られるものでない。
【0014】
第1の特徴によると、複数段の前記圧縮機ロータを回転させることにより、複数段の前記圧縮機ロータと複数段の前記圧縮機ステータを協働させて、前記ガス流路内に取り入れたガスを軸方向へ圧縮して搬送することができる。
【0015】
また、前記いずれかの前記圧縮機ロータの出口側断面積が入口側断面積よりも大きくなるように構成されているため、前記動翼の仕事を十分に確保しつつ、前記動翼の反りを小さくして、前記動翼の正圧面と負圧面との圧力差を低減できる。
【0016】
そして、前記いずれかの前記圧縮機ロータの出口側断面積が入口側断面積よりも大きくなるように構成され、前記いずれかの前記圧縮機ロータにおける各動翼の前縁
及び後縁のハブ側部分がハブ側からチップ側へ向けて後退するようにスイープしているため、前述の新規な知見を適用すると、各動翼の前縁
及び後縁のハブ側部分をスイープさせない場合(
図3(b)に示す比較用の圧縮機ロータの場合)に比較して、ハブ付近におけるガスの減速を抑えて、ガスの減速状態を前記動翼の全スパンに亘って一様な減速状態に近づけることができると共に、前記動翼の出口付近におけるエネルギー損失の大きな領域を小さくすることができる。
【0017】
本発明の第2の特徴は、ガスタービンエンジンにおいて、第1の特徴からなる軸流圧縮機を具備したことを要旨とする。
【0018】
第2の特徴の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前記動翼の反りを小さくして、前記動翼の正圧面と負圧面との圧力差を低減することができるため、前記動翼の正圧面側から負圧面側へのクリアランスフローを低減して、前記軸流圧縮機のストールを抑えつつ、前記軸流圧縮機の作動域を低流量側に拡大することができる。
【0020】
また、ガスの減速状態を前記動翼の全スパンに亘って一様な減速状態に近づけることができるため、前記動翼の全スパンに亘ってガスの静圧を十分に上昇させて、前記圧縮機ロータの圧力比、換言すれば、前記軸流圧縮機の圧力比を高めることができる。
【0021】
更に、前記動翼の出口付近におけるエネルギー損失の大きな領域を小さくすることができるため、前記圧縮機ロータの効率、換言すれば、前記軸流圧縮機の効率(圧縮機効率)を高めることができる。
【0022】
よって、前記軸流圧縮機の作動域を拡大した上で、前記軸流圧縮機の高圧力比及び高効率化を図ることができる。