特許第5736752号(P5736752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5736752-管板に対する管溶接部の補修方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736752
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】管板に対する管溶接部の補修方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20150528BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20150528BHJP
   B23P 6/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B23K31/00 D
   B23K9/00 501H
   B23P6/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-272343(P2010-272343)
(22)【出願日】2010年12月7日
(65)【公開番号】特開2012-121037(P2012-121037A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中川 明
(72)【発明者】
【氏名】大沢 清春
(72)【発明者】
【氏名】臼井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】八木 大輔
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−052794(JP,A)
【文献】 特開平07−119885(JP,A)
【文献】 特開2007−182929(JP,A)
【文献】 特開昭54−137153(JP,A)
【文献】 特開昭55−119285(JP,A)
【文献】 特開昭55−003565(JP,A)
【文献】 特開平09−136160(JP,A)
【文献】 実開平03−009268(JP,U)
【文献】 特開2004−324920(JP,A)
【文献】 特開平03−181692(JP,A)
【文献】 英国特許第01591659(GB,B)
【文献】 特開2012−013260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
F16L 55/16
B23P 6/00
B23P 15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管板に穿設された多数の貫通孔に対し管を挿入接続し溶接してなる管板に対する管溶接部の補修方法であって、
前記管板に対する管の欠陥が生じた溶接部を切除する溶接部切除工程と、
該溶接部切除工程で溶接部が切除された管の端部を拡管することにより、前記貫通孔に対する管の隙間をなくす第一拡管工程と、
該第一拡管工程で拡管された管外周と管板との接触部に環状溝を切削する環状溝切削工程と、
該環状溝切削工程で切削された環状溝にリングを埋め込むリング埋込工程と、
該リング埋込工程で環状溝に埋め込まれたリングを含め前記管の端部を再度拡管する第二拡管工程と、
該第二拡管工程で管の端部と共に拡管されたリングが埋め込まれた環状溝を埋めるように初層溶接する初層溶接工程と、
該初層溶接工程で溶接された初層溶接部に重ねて前記切除した溶接部を埋め戻すように残層溶接する残層溶接工程と
を有することを特徴とする管板に対する管溶接部の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管板に対する管溶接部の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、化学プラント等に用いられるシェル・アンド・チューブ形の多管式熱交換器としてのチューブリアクタは、円筒状のシェル内部に、多数の伝熱用の管を配設し、該管の両端部を管板で支持すると共に、前記シェルの両端に鏡板をフランジ接合し、前記管の内部には触媒を充填してあり、前記チューブリアクタの運転時には、一方の鏡板の内部へ原料ガスが供給されて接触気相酸化反応が行われ、該接触気相酸化反応によって生成された生成物が他方の鏡板の内部を経て送出されると共に、前記管外部における管板で仕切られたシェル内部には、反応熱を吸収するための熱媒体(HTS:Heat transfer salt)が流通されており、該熱媒体により前記接触気相酸化反応で生じた反応熱が除去されるようになっている。
【0003】
そして、前記管の両端部は、管板に穿設された貫通孔に挿入接続し、該管板の表面(シェル内部に流通する熱媒体と接触しない側の表面)に直接溶接してあるが、該溶接部に傷等が発生し、そこから熱媒体が漏洩した場合には、パッチと称される板状の栓で前記管板に対する管の溶接部全体を覆うようにして、該管を塞ぐことが行われていた。
【0004】
尚、前述の如きチューブリアクタと関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−182929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の如く、溶接部に欠陥が生じた管を栓で塞いでしまうのでは、その分だけ、熱交換率や触媒の反応率に寄与する管の本数が減ってしまい、プラントとしての効率が低下するという欠点を有していた。
【0007】
そこで、前記管を栓で塞がないで、そのまま管が生かせる補修方法の開発が望まれているが、このように管を生かすためには、欠陥が生じた溶接部を切除して、新しく溶接し直す必要がある。
【0008】
因みに、前記欠陥が生じた溶接部を切除する際には、前記シェル内部の熱媒体は抜き出されるが、該熱媒体を完全に抜き出すことは困難であり、このため、前記欠陥が生じた溶接部を切除すると、そこから残存した熱媒体が漏れてしまい、不純物が新たな溶接部に混ざり込み、溶接品質が低下するといった問題が生じることから、補修溶接ができなくなる虞があった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、溶接部に欠陥が生じた管を栓で塞ぐことなく、溶接に悪影響を及ぼす熱媒体が管板と管との間に残存していても、不純物の新たな溶接部への混入を阻止し得、溶接品質を低下させずに補修溶接を確実に行い得る管板に対する管溶接部の補修方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、管板に穿設された多数の貫通孔に対し管を挿入接続し溶接してなる管板に対する管溶接部の補修方法であって、
前記管板に対する管の欠陥が生じた溶接部を切除する溶接部切除工程と、
該溶接部切除工程で溶接部が切除された管の端部を拡管することにより、前記貫通孔に対する管の隙間をなくす第一拡管工程と、
該第一拡管工程で拡管された管外周と管板との接触部に環状溝を切削する環状溝切削工程と、
該環状溝切削工程で切削された環状溝にリングを埋め込むリング埋込工程と、
該リング埋込工程で環状溝に埋め込まれたリングを含め前記管の端部を再度拡管する第二拡管工程と、
該第二拡管工程で管の端部と共に拡管されたリングが埋め込まれた環状溝を埋めるように初層溶接する初層溶接工程と、
該初層溶接工程で溶接された初層溶接部に重ねて前記切除した溶接部を埋め戻すように残層溶接する残層溶接工程と
を有することを特徴とする管板に対する管溶接部の補修方法にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
前述の如く補修を行えば、従来のように、溶接部に欠陥が生じた管を栓で塞いでしまうのとは異なり、熱交換率や触媒の反応率に寄与する管の本数が減ってしまうことが避けられ、プラントとしての効率が低下する心配が全くなくなる。
【0013】
又、仮に、前記環状溝を切削せず且つ該環状溝にリングを入れないで単に拡管のみを行った場合、熱媒体の漏れは一時的に防げるが、この状態で溶接をすると、溶接熱によって拡管部に残存した熱媒体が不純物として新たな溶接部に混ざり込んでしまうことは避けられない。しかしながら、本発明では、前記リングが介装される形となるため、残存した熱媒体が不純物として新たな溶接部である初層溶接部に混ざり込んでしまうことが避けられ、溶接品質が低下するといった問題が生じる心配もない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の管板に対する管溶接部の補修方法によれば、溶接部に欠陥が生じた管を栓で塞ぐことなく、溶接に悪影響を及ぼす熱媒体が管板と管との間に残存していても、不純物の新たな溶接部への混入を阻止し得、溶接品質を低下させずに補修溶接を確実に行い得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の管板に対する管溶接部の補修方法の実施例を示す断面図であって、(a)は欠陥が生じた溶接部を示す図、(b)は欠陥が生じた溶接部を切除した状態(溶接部切除工程)を示す図、(c)は溶接部が切除された管の端部を拡管した状態(第一拡管工程)を示す図、(d)は拡管された管外周と管板との接触部に環状溝を切削した状態(環状溝切削工程)を示す図である。
図2】本発明の管板に対する管溶接部の補修方法の実施例を示す断面図であって、(a)は切削された環状溝にリングを埋め込んだ状態(リング埋込工程)を示す図、(b)は環状溝に埋め込まれたリングを含め管の端部を再度拡管した状態(第二拡管工程)、(c)は管の端部と共に拡管されたリングが埋め込まれた環状溝を埋めるように初層溶接した状態(初層溶接工程)を示す図、(d)は初層溶接部に重ねて前記切除した溶接部を埋め戻すように残層溶接した状態(残層溶接工程)を示す図である。
図3】本発明の管板に対する管溶接部の補修方法が適用されるチューブリアクタの一例を示す全体概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1(a)〜図1(d)、図2(a)〜図2(d)、及び図3は本発明の管板に対する管溶接部の補修方法の実施例であって、該管板に対する管溶接部の補修方法が適用されるチューブリアクタは、一般に図3に示されるような構造を有しており、円筒状のシェル1内部に、多数の伝熱用の管2を配設し、該管2の両端部(図3の例では上下端部)を管板3で支持すると共に、前記シェル1の両端(図3の例では上下端)に鏡板4をフランジ接合し、前記管2の内部には触媒(図示せず)を充填してある。
【0018】
前記チューブリアクタの運転時には、一方(図3の例では下側)の鏡板4の内部へ原料ガスが供給されて接触気相酸化反応が行われ、該接触気相酸化反応によって生成された生成物が他方(図3の例では上側)の鏡板4の内部を経て送出されると共に、前記管2外部における管板3で仕切られたシェル1内部には、反応熱を吸収するための熱媒体が流通されており、該熱媒体により前記接触気相酸化反応で生じた反応熱が除去されるようになっている。
【0019】
前記管2の両端部(図3の例では上下端部)は、管板3に穿設された貫通孔5に挿入接続し、該管板3の表面(シェル1内部に流通する熱媒体と接触しない側の表面)に直接溶接してある。
【0020】
そして、図1(a)には、前記管板3の貫通孔5に挿入接続された管2の溶接部6を示し、該溶接部6に欠陥が生じているものとする。尚、パッチと称される板状の栓(図示せず)で前記管板3に対する管2の溶接部6全体を覆うようにして、該管2を塞ぐことが行われている場合には、グラインダー又はホイールカッターにて前記栓を予め取り外しておく。
【0021】
先ず、図1(b)に示す如く、前記溶接部6のビードを開先加工機にて追い込み、削り取ることにより、前記管板3に対する管2の欠陥が生じた溶接部6を切除する(溶接部切除工程)。
【0022】
続いて、図1(c)に示す如く、前記溶接部切除工程で溶接部6が切除された管2の端部を拡管することにより、前記貫通孔5に対する管2の隙間をなくす(第一拡管工程)。因みに、前記管2として1インチ配管が用いられ、その外径が約25[mm]、肉厚が約1.5[mm]である場合、前記管2の端部約20[mm]の範囲を部分的に、専用の拡管器により拡管率が2〜3[%]程度となるよう拡管を行う。
【0023】
前記第一拡管工程で管2の端部を拡管したら、図1(d)に示す如く、前記拡管された管2外周と管板3との接触部に環状溝7を切削する(環状溝切削工程)。この場合、開先加工機のバイト形状を溝切り用に変えて、管2外周に深さ約8[mm]で、半径方向の幅が2〜3[mm]程度の環状溝7を加工すれば良い。尚、前記環状溝7の半径方向の幅のうち前記管2外周を削り取る量はおよそ0.2〜0.3[mm]程度とすれば良い。
【0024】
ここで、前記環状溝7を加工した部分を水洗浄し、残存する熱媒体を溶解させ、その後、アルコール洗浄を行って乾燥させ、更に、バキュームにて前記アルコールに溶解した熱媒体を取り除くようにする。
【0025】
更に、目視検査(VT)にて、前記環状溝7内に熱媒体、切子、鉄粉等が残存していないかを確認する。尚、必要に応じてBTB溶液検査を併用する。
【0026】
前記環状溝切削工程で切削された環状溝7に異物が残存していないことを確認したら、図2(a)に示す如く、前記環状溝7にリング8を埋め込む(リング埋込工程)。該リング8の材質は、管板3と同じ材質、例えば、炭素鋼とし、ハンマー等で軽く叩いて環状溝7に嵌入する。
【0027】
前記リング埋込工程で環状溝7にリング8を埋め込んだら、図2(b)に示す如く、該リング8を含め管2の端部を再度拡管する(第二拡管工程)。該第二拡管工程では、前記第一拡管工程より広くした前記管2の端部約25[mm]の範囲を部分的に、専用の拡管器により拡管率が2〜3[%]程度となるよう拡管を行う。
【0028】
前記第二拡管工程でリング8を含め管2の端部を再度拡管したら、図2(c)に示す如く、管2の端部と共に拡管されたリング8が埋め込まれた環状溝7を埋めるように初層溶接する(初層溶接工程)。該初層溶接工程においては、前記リング8を完全に溶かさないようにする。溶接方法としては、ガスタングステンアーク溶接(GTAW:Gas-shielded Tungsten Arc Welding)とし、自動、手動のいずれも可能であり、又、溶材としては軟鋼用溶材を選定できる。
【0029】
前記初層溶接工程で管2の端部と共に拡管されたリング8が埋め込まれた環状溝7を埋めるように初層溶接したら、24時間後に、初層溶接部9に対し、非破壊評価(NDE:Non-Destructive Evaluation)として浸透探傷(PT)或いは磁粉探傷(MT)を行う。
【0030】
この後、図2(d)に示す如く、該初層溶接部9に重ねて前記切除した溶接部6(図1(a)及び図1(b)参照)を埋め戻すように残層溶接する(残層溶接工程)。該残層溶接工程における溶接方法としては、前記初層溶接工程と同様、ガスタングステンアーク溶接を採用でき、自動、手動のいずれも可能であり、又、溶材としては軟鋼用のものを選定できる。
【0031】
前記残層溶接工程で初層溶接部9に重ねて前記切除した溶接部6を埋め戻すように残層溶接したら、24時間後に、残層溶接部10に対し、前記初層溶接部9と同様、非破壊評価として浸透探傷或いは磁粉探傷を行う。
【0032】
以上のように補修を行えば、従来のように、溶接部6に欠陥が生じた管2を栓で塞いでしまうのとは異なり、熱交換率や触媒の反応率に寄与する管2の本数が減ってしまうことが避けられ、プラントとしての効率が低下する心配が全くなくなる。
【0033】
又、仮に、前記環状溝7を切削せず且つ該環状溝7にリング8を入れないで単に拡管のみを行った場合、即ち、図1(c)に示す状態とするだけでも熱媒体の漏れは一時的に防げるが、この状態で溶接をすると、溶接熱によって拡管部に残存した熱媒体が不純物として新たな溶接部に混ざり込んでしまうことは避けられない。しかしながら、本実施例では、前記リング8が介装される形となるため、残存した熱媒体が不純物として新たな溶接部である初層溶接部9に混ざり込んでしまうことが避けられ、溶接品質が低下するといった問題が生じる心配もない。
【0034】
こうして、溶接部6に欠陥が生じた管2を栓で塞ぐことなく、溶接に悪影響を及ぼす熱媒体が管板3と管2との間に残存していても、不純物の新たな溶接部への混入を阻止し得、溶接品質を低下させずに補修溶接を確実に行い得る。
【0035】
尚、本発明の管板に対する管溶接部の補修方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、チューブリアクタに限らず、溶接に悪影響を及ぼす熱媒体が管板と管との間に残存する可能性のあるものであれば、どのような機器にも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
2 管
3 管板
5 貫通孔
6 溶接部
7 環状溝
8 リング
9 初層溶接部
10 残層溶接部
図1
図2
図3