【文献】
田村興造,平川長,面谷幸男,岸本節二,地上式LNGタンクのポンプバレルの耐震設計方法,構造工学論文集,日本,土木学会,1996年 3月,Vol.42A,pp.669-676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒状のタンク側壁とタンク屋根とからなるタンクの外周部における周方向の一部に、上記タンク屋根よりタンクの内底部付近まで上下方向に延びる複数本の配管と、該各配管同士の水平方向に対応する個所同士を結合する配管結合部材と、該配管結合部材により結合された配管の或る個所をタンク側壁に支持させるための水平方向の配管支持部材とからなるポンプバレルを備えたポンプバレル付きタンクの解析モデルを作成し、
該解析モデルについて、タンクの底面の中心を原点とするタンク全体についての円筒座標を設定し、
次に、タンク内の液体のラグランジュアン汎関数の変分と、タンク側壁及びタンク屋根からなるタンクシェルのラグランジュアン汎関数の変分と、配管及び、配管に接続された配管結合部材及び配管支持部材からなる梁部材のラグランジュアン汎関数の変分を求めると共に、
該各変分を基に、上記ポンプバレル付きタンクの支配方程式系を変分原理の形で導き、
次いで、タンク内の液体の速度ポテンシャルの解、及び、液面変位の解のモード展開式として上記配管が介入した状態で適用可能な許容関数を求め、
且つ前記タンク内の液体の速度ポテンシャルの解を求めるときに、タンクの底面の中心を原点としてタンク全体について設定された円筒座標に加えて、配管毎に該配管の中心を基準とする局所的円筒座標を設定して、各配管の周辺領域で上記局所的円筒座標に基づいて求めた液体の速度ポテンシャルにおける第1種ベッセル関数に関する項を、タンク全体について設定した上記円筒座標での速度ポテンシャルである該円筒座標でのラプラス方程式の解で置き換えて、各配管表面とタンク側壁での境界条件にガレルキン法を適用してなる速度ポテンシャルを設定して、その解を求めるようにし、
又、上記タンクシェルの変位の解を、液体と非連成時の固有モードで展開した形に表してなる許容関数を求め、
更に、上記梁部材の変位の解を、各梁部材におけるタンク接合部での適合条件を満たす静的変位に、両端固定時の固有モードが加算された形に表してなる許容関数を求め、
その後、上記液体運動、タンクシェルの変位及びポンプバレルの梁部材の変位の解の許容関数を、上記変分原理に代入し、ガレルキン法により離散化させて一般化座標に関する時間の常微分方程式を導出して、該導出された常微分方程式を解くことにより、上記ポンプバレルの応答を計算するようにすることを特徴とするポンプバレルの振動予測方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1(a)(b)乃至
図4は本発明のポンプバレルの振動予測方法の実施の一形態として、たとえば、
図1(a)(b)に示す如きポンプバレル2付きの円筒状のタンク1におけるポンプバレル2の振動の予測に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0024】
1.1 解析モデル
ここで、先ず、本発明のポンプバレルの振動予測方法を適用するポンプバレル付きタンク1の解析モデルについて説明する。
【0025】
図1乃至
図3は、上記ポンプバレル付きタンクの解析モデルを示すもので、円板状のタンク底3と、円筒状のタンク側壁4と、球面状のタンク屋根5から構成されるタンク1において、該タンク屋根5の外周部における周方向の或る個所に、ポンプバレル2を構成するための2本の配管6iの上端部が取り付けてある。なお、上記配管6の符号に付したiは、個々の配管6iを識別するために各配管6iに与える番号(1、2・・・)であり、後述する各パラメータに付されたiは、i番目の配管6iに関するパラメータであることを示すものである。又、
図1中に付したパラメータは、aは円筒状としてある上記タンク側壁4の半径、Hはタンク高さ、H
1は上記タンク側壁4の高さ、hはタンク内に貯蔵された液体9の液深をそれぞれ示すものである。
【0026】
上記タンク1は、水平面内で直交するX軸及びY軸と、鉛直上向きのZ軸からなるXYZ直交座標系における原点Oに、タンク底3の中心を配置させてなるものとし、更に、該タンク1について、
図1(a)(b)に示す如く、上記原点Oを基準とする以下のグローバルな円筒座標
【数1】
を設定する。
【0027】
なお、「グローバル」とは、空間全体(例えばタンク全体)を表す座標系(グローバル座標系)を示す。又、後述の「ローカル」とは、空間全体の中にある個々の物体(例えば配管)などの局所的なものを表す座標系(ローカル座標系)を示す。
【0028】
上記各配管6iは、たとえば、
図1(a)(b)及び
図3に示すように、上下方向の複数個所(
図3では3個所)を、水平な梁部材である配管結合部材7によって互いに結合し、更に、
図1(a)及び
図3に示すように、該各配管6iにおける上下方向の複数個所(
図3では3個所)を、該各個所毎に2本ずつV字状に配した水平な梁部材である配管支持部材8を介してタンク側壁4に取り付けて支持させるようにして、上記配管6iと、配管結合部材7と、配管支持部材8により、柔軟骨組構造のポンプバレル2が構成してある。
【0029】
ここで、上記各配管6iの振動に関しては、タンク1内に貯蔵された液体9との連成を考える必要がある。そのため、次の4つの仮定の下で解析を行うものとする。
(1)上記配管結合部材7、及び、配管支持部材8については、断面の直径が配管6iの断面直径に比べて小さいので、上記タンク1内の液体9との相互作用は考えず、配管6i、及び、タンク1の弾性変位によって生じた運動エネルギ、及び、弾性歪みエネルギを介して、配管6i及びタンク1と連成振動するものとする。
(2)上記液体9の運動は非圧縮完全流体の渦なし流れとする。
(3)上記タンク1は柔軟な軸対称シェル(タンクシェル)としてモデル化する。なお、タンクシェルとは、上記タンク1における曲面を有する部分、すなわち、タンク側壁及びタンク屋根を指すものである。
(4)上記タンク1内で液体9が揺動(スロッシング)するときのスロッシング周波数に比して高い周波数域で起こる運動を対象とするため、液面波高は小さく、線形理論を用いる。
【0030】
次に、各配管6iに関して、
図2に示すように、上記タンク1について設定したグローバルな円筒座標に加えて、該各配管6iに関して液体との連成振動解析のための
図2に示す如き局所的円筒座標を導入する。
図2において、
【数2】
である。
【0031】
更に、上記配管6i、配管結合部材7及び配管支持部材8によって構成された上記柔軟骨組構造のポンプバレル2について、各構成部材の識別を行うために、
図3に示すように、上記各配管6iと各配管結合部材7と各配管支持部材8のそれぞれの両端である部材端に、個別の番号N1〜N26が付してある。
図3においてはタンク1を図示してないが、部材端N7及びN14は、上記各配管6iの上端部におけるタンク屋根5との接続部である。又、部材端N15〜N26は、上記各配管支持部材8におけるタンク側壁4との接続部である。なお、各部材端N1〜N6及びN8〜N13の座標と、タンク屋根5と対応する位置に配置される部材端N7及びN14と、タンク側壁4と対応する位置に配置される部材端N15〜N26の接続条件は、後述する数値例題の節(2.1節〜2.4節)で与える。
【0032】
1.2 解析手順
本発明のポンプバレルの振動予測方法を概説すると、以下のような解析手順としてある。
(1)先ず、支配方程式系を変分原理(エネルギ原理)の形で導く(1.3節)。
ここで説明を補足すると、本発明のポンプバレルの振動予測方法における解析では、解をモード展開で表し、支配方程式に代入してフーリエ展開のようにして展開係数(時間のみの関数)に関する常微分方程式に帰着させるようにする。このような方法をガレルキン法といい、解をモード関数で表したものを許容関数(ある条件を満たしているので許される関数)と呼ぶ。この方法を実行するためには、支配方程式だけでは不十分で、支配方程式を変分原理の形(変分を乗じて積分した形)に表したものが必要になる。よって、本発明のポンプバレルの振動予測方法では、先ず、支配方程式系を変分原理の形で導くようにするのである。
(2)次に、タンク1内に貯留された液体9の速度ポテンシャルの解、及び、液面変位の解のモード展開式を決定する(1.4節)。
(3)次いで、タンク1の変位の解を、液体9と非連成時の固有モード(FEMで決定)で展開した形に表す(1.5節;これは、荷重を受けない場合のモードを基底として、任意荷重に対する解を表すことを意味するものである)。
(4)更に、部材変位の解を、両端での適合条件(結合部分での変位の連続性)を満たす静的変位に、両端固定時の固有モードが重畳した(加算された)形に表す(1.6節)。
(5)その後、上記(2)〜(4)で求めた液体9運動、タンク1変位、ポンプバレル2の部材変位の解を上記(1)で導いた変分原理に代入し、ガレルキン法により一般化座標に関する時間の常微分方程式を導出する(1.7節)。しかる後、この常微分方程式を解くことにより、上記ポンプバレル2の応答を計算するようにする。
【0034】
1.3 支配方程式系の変分原理による導出
先ず、タンク1に貯蔵された液体9と、タンクシェルと、配管結合部材7及び配管支持部材8からなる梁部材系について、それぞれラグランジュアン汎関数の変分計算を行う。
【0035】
・液体のラグランジュアン汎関数の変分計算
タンク1内に貯蔵された液体9のラグランジュアン汎関数は次式によって与えられる。
【数3】
【0036】
上記液体9の液圧は、圧力方程式より次のように表される。
【数4】
【0037】
上記式(1)の変分計算を実行する。変分をとる変数として、上記液圧だけでなく、液体領域Vを変動させる量として、下記の量
【数5】
を考慮する。このような液体領域Vの変動を考慮した変分計算の方法は、非特許文献1の付録Aに詳細に説明している。計算の結果次式を得る。
【数6】
【0038】
・タンクシェルのラグランジュアン汎関数の変分計算
次に、タンクシェルのラグランジュアン汎関数を、
図4に示すような円すい台シェル要素を用いた有限要素法により求める。
図4において
【数7】
である。タンクシェルのラグランジュアン汎関数を各周方向波数に関して求め、変分をとると下記のようになる。
【数8】
【0039】
・梁部材系のラグランジュアン汎関数の変分計算
梁部材系のラグランジュアンを求めるため、各梁部材b(説明の便宜上、上記配管6i及び、配管結合部材7と配管支持部材8を代表する符号としてbを用いる。後述する各パラメータに付されたbは、梁部材bに関するパラメータであることを示すものである。)に関し部材座標x,y,zを設定する。xを軸方向座標とし、y,z方向は、鉛直部材ではX,Y方向にとり、その他の部材では次のようにしてx方向の単位ベクトルe
xの(X,Y,Z)成分(c
x,c
y,c
z)からy,z方向の単位ベクトルe
y,e
zの(X,Y,Z)成分を求めることにより決定する。
【数9】
【0040】
部材変位を
u
b,v
b,w
b:x,y,z方向の並進変位
θ
b :x軸回りの回転変位
とすると、梁部材系のラグランジュアン汎関数の変分は、次式によって与えられる。
【数10】
【0041】
後述する1.5節及び1.6節で、各梁部材bの変位の許容関数を、タンク1との結合部での適合条件を満たすように定める。この許容関数を上記式(4)及び式(6)に代入し、これらの式を常微分方程式系に変換する。更に、構造系(タンク1及び梁部材b)の加振加速度による慣性力の仮想仕事
【数11】
を考慮して、構造系のラグランジュアン汎関数の変分[上記式(4)及び式(6)]と慣性力仮想仕事[式(7)]を、次の形にマトリックス表示する。
【数12】
【0042】
前述の式(3)と上記式(8)の和を0においたものが、液体−構造連成系の変分原理を与え、各項は次のように支配方程式系を表す:
式(3)の右辺第1項は、液体9内の連続条件(ラプラス方程式)を表す。
式(3)の右辺第2項は、タンク底3の表面で法線方向の流速成分が0となる条件を表す。
式(3)の右辺第3項は、液面の振動速度とZ方向の流速成分が等しい条件を表す。
式(3)の右辺第4項は、タンク側壁4の表面(タンク内側面)で、法線方向のタンク1と液体9の速度成分が等しい条件を表す。
式(3)の右辺第5項は、配管6iの表面で、法線方向の配管6iと液体9の速度成分が等しい条件を表す。
式(3)の右辺第6項(最後から4番目の項)は、液体9の体積一定条件を表す。
式(3)の右辺第7項(最後から3番目の項)は、液面で圧力が0となる条件を表す。
式(3)の右辺第8項及び第9項(最後の2項)と式(8)は、動液圧、加振加速度による慣性力を受ける構造系(タンク1及び梁部材b)の運動方程式を表す。
【0043】
1.4 液体運動に関する解の許容関数
【0044】
・速度ポテンシャルの解
加振周波数がスロッシング周波数に比べて高いとき、スロッシング波高は小さいが液体9が接している構造体近くでは液体9の運動が卓越する。このような液体運動を表すラプラス方程式の解によって、速度ポテンシャルを求める。配管6iの近くでは、速度ポテンシャルは、配管6iに関する局所的円筒座標系
【数13】
を用いて次のように表される。
【数14】
配管6iのX,Y方向の変位によって起こる配管6iの周りの周方向波数1の成分を考慮している。上記式(10)の固有値は、波高ηは小さいことから液面の力学的境界条件を
【数15】
と近似することにより求めている。注意すべき点は、液面での鉛直方向の流速
【数16】
は0(ゼロ)でないため、液面の振動速度
【数17】
を0(ゼロ)としているわけではないことである。高周波数域で、変位より速度が卓越する運動形態に則した近似である。
【0045】
上記式(9)の右辺第1項は、配管6iの近くのみで支配的であり、右辺第2項は他の領域で支配的となる。ここで、液体領域V全体の液体運動を解析するための一方法として、各配管6iの周辺領域で上記式(9)のように解を設定し、これらの解に領域境界での連続条件を課すことが考えられる。しかし、この方法は複雑な計算を要する。この問題を解決するために、本発明では、簡便な近似手法として、各配管6iに関する上記解の式(9)の第2項を、グローバルな速度ポテンシャル(全体座標でのラプラス方程式の解)で置き換え、各配管6iの表面、及び、タンク側壁4での境界条件にガレルキン法(重み付き残差法)を適用する。すなわち、速度ポテンシャルを次のように与える。
【数18】
【0046】
以下、次のように称する。
【数19】
【0047】
上記配管6iに関するローカルな速度ポテンシャル(式13)は、r
i→∞ですぐに0に収束し、他の配管 6i´(≠6i)とタンク側壁4の近くでは省略できる。
【0048】
・液面変位(波高)の解
液面変位(波高)の解は、独立に設定せず、上述の速度ポテンシャルの解を、液面の運動学的境界条件
【数20】
に代入して次のように定める。
【数21】
【0049】
1.5 タンクシェルの許容関数
各周方向波数mに関して上記式(4)に関する固有値問題
【数22】
を解き、固有モードを求め、節点変位ベクトルをモードの線形結合によって表す。
【数23】
【0050】
図4のFEM要素内の任意点の変位を、節点変位の補間により求めた結果を、次の形に表す。
【数24】
【0051】
1.6 部材変位の許容関数
【数25】
とする。又、全体座標(X,Y,Z)から部材座標(x,y,z)への変換を表す行ベクトルを次のように定義する。
【数26】
【0052】
部材の自由度を、両端の自由度と部材モード座標に縮小するため、部材ijの変位を両端の並進変位U
i,U
j及び回転変位Θ
i,Θ
jによる静的変位と、両端固定条件下の梁部材bのモード関数で次のように表す。
【数27】
ここで、右辺第1項が静的変位であり、関数f
11(x)等は適合条件、たとえば、
【数28】
より下記のようになる。
【数29】
【0053】
上記式(22)の右辺第2項は、両端固定条件下の部材モード関数の重ね合わせを表し、
【数30】
である。
【0054】
いくつかの部材の一端jは、タンク屋根5、あるいはタンク側壁4に結合されている。
【0055】
もし、jでの並進3自由度、及び、回転3自由度が、すべて上記式(20)から計算されるタンクシェルの並進及び回転変位に等しく拘束されれば、式(22)で次の置換を行う。
【数31】
【数32】
ここで
【数33】
【0056】
上記式(25)、式(26)を次のように表す。
【数34】
ここで、たとえば、
【数35】
【0057】
しかし、上記部材の一端jでの6自由度が全てタンク1に拘束されているとは限らず、この場合、上記式(29)は使うことができない。
【0058】
そこで、6自由度別に与えられた任意の拘束条件に対する式を得るため、次のパラメータ
【数36】
と記法
【数37】
を導入して、次の置換を式(22)に行う。
【数38】
【0059】
その結果、式(22)は、関数P
1mpβ(x),Q
1k(x)等の適切な定義により次の形に表される。
【数39】
【0060】
1.7ガレルキン方による離散化
前述した変分の式(3)、式(4)、式(6)、式(7)の和を0とおいたものが変分原理を与える。この変分原理[式(3)、式(4)、式(6)、式(7)]に、速度ポテンシャル[式(11)]、波高[式(15)]、タンクシェルの変位[式(19)、式(20)]、梁部材の変位[式(33)]を代入し、ガレルキン法により一般化座標に関する時間の常微分方程式系を導出する。
【0061】
式(3)の右辺の第5項と第9項(最終項)の配管6i表面での式の計算は、
図4を参照して、次の2点に留意して行う。
(1)全体速度ポテンシャルの配管6i表面での値は、配管6iの外径がタンク1の外径に比べ小さいので、
【数40】
での値で近似できる。
(2)各配管6iに関し、該各配管6iに取り付けてポンプバレル2を構成する梁部材bの法線r
i方向の速度、速度ポテンシャルの法線方向微分は、次のように計算できる。
【数41】
【0062】
よって、常微分方程式系は、次のマトリックス方程式の形に導かれる。
【数42】
【0063】
先ず、加振加速度を0とした場合の、液体、タンク、部材連成系の固有値問題
【数43】
を解いて固有振動数と固有モードを決定する。
【0064】
次に、加振に対する強制振動解析のため、次の変数変換を行う。
【数44】
【0065】
上記式(38)を、式(36)に代入するとモード座標qに関する常微分方程式が以下のように導かれる。
【数45】
【0066】
上記式(39)は次のように書ける。
【数46】
【0067】
上記式(40)にM
k−1を乗じ、減衰比ζ
kを導入すると
【数47】
となる。
【0068】
よって、上記式(41)、すなわち、速度項に対応するモード座標q(具体的にはq(t))の時間による1階微分項としての減衰を含む式を解くことによって、系の応答を計算することができるようになる。
【0069】
このように、本発明のポンプバレルの振動予測方法によれば、第1に、タンク1内に貯蔵された液体9の速度ポテンシャルを求めるときに、各配管6iの近くでの速度ポテンシャルを、配管6i毎の近傍に設定した局所的円筒座標系
【数48】
を用いた各配管6i近傍でのローカルな速度ポテンシャルと、タンク1の全域に設定したグローバルな円筒座標
【数49】
を用いたグローバルな速度ポテンシャルとの加算(重ね合わせ)で表す手法を導入していることから、ポンプバレル2における数本の配管6iがタンク1内に貯蔵された液体9の領域に部分的に存在(介在)する場合の液体運動の解析的取り扱いが可能になる。
【0070】
又、第2に、ポンプバレル2の配管6iに接続した配管結合部材7や配管支持部材8からなる梁部材bの変位を、その両端での適合条件、すなわち、他の部材との結合部分での変位の連続性の条件を満たす静的変位の多項式と、両端固定条件に対するモード関数(固有モード)との加算された形に表すようにして、その解析を行うようにしてあることから、上記各梁部材bをFEM要素分割する手法に比して、計算自由度を大きく低減させることができる。
【0071】
以上の2点により、地震時等のタンク1の振動時に、該タンク1の振動と、タンク1内で揺動する貯蔵液体9の運動の双方に連成してポンプバレル2に生じる振動を解析する際の計算の自由度を従来に比して低減させることができるため、計算の高速化を図ることできる。又、上記のように計算の自由度が減ることに伴って、入力データの作成も容易になる。
【0072】
よって、従来、ポンプバレルの振動の予測を汎用解析プログラムによる3次元FEM解析によって振動解析する場合には、入力データの作成と計算に数日を要していたが、上記本発明のポンプバレルの振動予測方法を用いる場合は、入力データの作成を40〜50分程度、計算を十数秒程度で実現することが可能になり、ポンプバレル2の設計用パラメータスタディを従来に比して便利なものとすることができる。
【0073】
更には、上記2点の工夫に基づく計算ツールの作成により、動液圧、構造系の変位及び応力の時刻歴応答、或る時刻での分布、周波数応答を解析するための時間及びコストを低減させることができる。
【0074】
2.1 数値例題
本発明のポンプバレルの振動予測方法の効果として、以上のようにして決定される上記式(41)及び式(42)を基に、数値例題を用いてポンプバレル2の振動予測を行った解析結果について示す。
【0075】
2.2 計算パラメータ
数値例題に用いたパラメータを、以下の表1乃至表4に示す。
【0080】
ポンプバレル2の骨組構造としては、
図3に示したものを用いた。
図3の構造は、上記表2から分かるようにXZ面に関して対称で、2本の配管6iを結合する配管結合部材7は、全てY軸に平行に配置してある。配管支持部材8は全て水平で長さが等しく、部材端N2,N4,N6,N9,N11,N13を通る2本の配管支持部材8のなす角は56度である。
【0081】
表5に、タンクに結合された部材端の並進、回転変位の拘束状態を示す。
【0083】
本解析で考慮したモードは、周方向波数m=0−5、タンク変位のZ方向モード次数p=1−5、液体9の速度ポテンシャルのZ方向モード次数n=1−5である。
【0084】
2.3 固有振動数及びモード
表6に、式(37)によって決定される固有振動数を示す。各モードについて、どの周方向波数成分が支配的であるかを調べ、表6に示した。
【0086】
上記において、
【数50】
の成分が支配的なモードを、それぞれ、
【数51】
と以下簡単に呼ぶ。
【0087】
表6のように、高い周方向波数成分をもつモードが低振動数領域に多く現れる。しかし、下記の点に基づき、9次振動モード及び10次振動モードが地震によって励起される重要なモードである。
【0089】
図6、
図7に、それぞれ9次振動モード、10次振動モードでのタンク1、配管6iの変位を示す。配管6i(i=1,2)の全体座標X,Y方向の変位をu
Xi,u
Yiと表記している。
【0090】
図6に示された9次振動モードに関しては、次の3点が観察できる。
(1)配管6i(i=1,2)について、Y方向変位u
Y1,u
Y2は、X方向変位u
X1,u
X2に比べ非常に小さい。
(2)配管6i(i=1,2)のX方向変位u
X1,u
X2は同位相、Y方向変位u
Y1,u
Y2は逆位相である。
(3)タンク1と配管6iを結ぶ水平な配管支持部材8の位置Z=2.5m、13.5m、32.0mで、周方向角座標0度でのタンク側壁4の半径方向の変位[
図6(a)]が、配管6i(i=1,2)のX方向変位に近い値となっている。
【0091】
図7に示された10次振動モードに関しては、上記9次振動モードとは対照的に、次の3点が観察できる。
(1)配管6i(i=1,2)について、X方向変位は、Y方向変位に比べ非常に小さい。
(2)配管6i(i=1,2)のX方向変位u
X1,u
X2は逆位相、Y方向変位u
Y1,u
Y2は同位相である。
(3)タンク1と配管6iを結ぶ水平な配管支持部材8の位置Z=2.5m、13.5m、32.0mで、周方向角座標0度でのタンク側壁4の周方向の変位[
図7(a)]が、配管6i(i=1,2)のY方向変位に近い値となっている。
【0092】
2.4 時刻歴応答
式(41)中の減衰比ζ
kを0.03とし、加振入力として、9次振動モードの固有振動数としてのω
9/2π=3.469Hzに近い加振周波数3.5Hzを有する、X方向の5波正弦波共振
【数53】
を与えて時刻歴応答を計算した。結果の一例として、
図8にタンク側壁4の半径方向変位を、又、
図9に配管6i(i=1)の全体座標X方向の変位をそれぞれ示す。
【0093】
図10は、上記
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sでの、応答分布を示すものである。
図10(d)の曲げ応力の中立面からの距離zは、最大正値、すなわち部材の外半径である。
図10(b),(c)より、
図6(a),(b)に示された固有振動数の9次振動モードが顕著に励起されていることが確かめられる。
【0094】
図11(a)(b)は、上記
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sでの、部材端N4−N19,N4−N20,N6−N23,N6−N24にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)の部材座標z方向の変位w
bによる曲げ応力−E
bz∂
2w
b/∂x
2の分布を示すものである。中立面からの距離zは、最大正値、すなわち支持部材の外半径である。w
bは鉛直面内での変位である。
【0095】
図11(a)で、部材端N4−N19に対応する配管支持部材8における曲げ応力と、部材端N4−N20に対応する配管支持部材8の曲げ応力は、逆符号になっている。これは、次の理由による。
【0096】
すなわち、部材軸に垂直な2本の部材座標軸y,zを定める際、式(5a)のようにe
yのX成分が正となるようにした。このため、鉛直面内にある部材座標zの向きは、部材端N4−N19に対応する配管支持部材8では鉛直方向の全体座標Zの向きと逆である。
【0097】
これらの配管支持部材8の変位については、
図12に上記
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sにて、部材端N4−N19,N4−N20にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)におけるZ方向変位分布を示すように、共に下向きで殆ど等しい。このため、曲げ応力は、
図11(a)のように、絶対値が等しく逆符号となるのである。
【0098】
同様に、
図11(b)では、部材端N6−N23に対応する配管支持部材8と、部材端N6−N24に対応する配管支持部材8の曲げ応力が逆符号となる。
【0099】
これは、上記と同様に、式(5a)と、
図12に示したように上記
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sでの部材端N6−N23,N6−N24にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)におけるZ方向変位分布が共に下向きで殆ど等しくなることから説明される。
【0100】
更に、上記各配管支持部材8については、タンク側壁4との結合部で、該配管支持部材8の曲げ応力がかなり大きくなることが分かる。
【0101】
図13(a)(b)は、
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sでの、部材端N4−N19,N4−N20にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)と、部材端N6−N23,N6−N24にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向応力E
b∂u
b/∂xの分布をそれぞれ示すものである。この軸応力は、時刻t=1.43sで各々の支持位置でのタンク側壁4の半径方向の加速度
【数54】
が、
図8及び
図10(b)から分かるように負(減速)であるため、圧縮応力となる。
【0102】
又、下記の2点が観察できる
(1)
図13(a)より、部材端N4−N20に対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向圧縮応力は、部材端N4−N19に対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向圧縮応力の2倍程度大きい。
(2)
図13(b)より、部材端N6−N24に対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向圧縮応力は、部材端N6−N23に対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向圧縮応力の6倍程度大きい。
【0103】
ここで、先ず、上記(2)の理由について考える。
図3の構造は、XZ面に関して対称で、2本の配管6iを結合する配管結合部材7はY軸に平行である。部材端N6−N13に対応する配管結合部材7の軸方向の高い剛性のため、部材端N6とN13間の距離が変わらないように振動が生じる。すなわち、部材端N6とN13は共にX方向に変位する。部材端N6のX方向変位における部材端N6−N23方向の成分は、部材端N6−N24方向の成分より小さい。その理由は、部材端N6−N23に対応する配管支持部材8と、部材端N6−N24に対応する配管支持部材8は共に水平で長さは等しく、且つ部材端N23とN24は円筒状のタンク側壁4の表面(内面)に位置しているためである。したがって、上記(2)の結果となる。
【0104】
このように、上記2本の配管6iを結合する配管結合部材7の軸方向の高い剛性が、配管6iの同一個所に取り付けてある2本の配管支持部材8同士の軸方向圧縮応力の差異を増加させる。
図3に示したように、部材端N4とN11との間には配管結合部材が設置されていないため、上記(1)、(2)のように、部材端N4−N19に対応する配管支持部材8と、部材端N4−N20に対応する配管支持部材8との軸方向圧縮応力の差は、上記部材端N6−N23に対応する配管支持部材8と、部材端N6−N24に対応する配管支持部材8の軸方向圧縮応力の差よりも小さくなる。
【0105】
配管結合部材7がないと仮定した場合、部材端N6の変位の方向は、
図3における線分N23−N24の垂直2等分線の方向に近づく。したがって、部材端N6の変位の、部材端N6−N23方向と、部材端N6−N24方向の成分の差異が減少し、部材端N6−N23に対応する配管支持部材8と、部材端N6−N24に対応する配管支持部材8との軸方向圧縮応力の差異が低減する。同様に、部材端N4−N19に対応する配管支持部材8と、部材端N4−N20に対応する配管支持部材8の軸方向圧縮応力の差異が低減する。
【0106】
この考えを確かめるため、
図3のポンプバレル2の構成は変化させることなく配管結合部材7を除いた状態を模すことを目的として、該
図3の構成における3本の各配管結合部材7の密度、及び、ヤング率を千分の1に低減させた状態について、
図13(a)(b)の場合と同様に、
図8、
図9で時刻歴応答が最大となる時刻t=1.43sでの、部材端N4−N19,N4−N20にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)と、部材端N6−N23,N6−N24にそれぞれ対応する配管支持部材8(
図3参照)の軸方向応力の分布について計算を行った。その結果を
図14(a)(b)に示す。
【0107】
図14(a)(b)を
図13(a)(b)とそれぞれ比較した結果から、配管結合部材7を除くことにより、配管6iの同一個所に取り付けてある2つの各配管支持部材8同士の軸方向圧縮応力の差異は低減することが分かる。又、配管支持部材8に作用する軸方向圧縮応力の最大値を低減させるためには、配管結合部材7を除くことが有効であることが分かる。
【0108】
2.4 周方向応答解析結果
図15に、周波数応答の一例として、タンクに作用する動圧
【数55】
の加振加速度
【数56】
の周波数に対する応答を示す。
【0109】
図15より、周波数応答の共振ピークが、9次振動モードの固有振動数ω
9/2π=3.469Hz付近に現れていることが分かる。
【0110】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記実施の形態では、ポンプバレル2として、2本の配管6iを備えた構成について説明したが、配管6iの数が1本、又は、3本以上としてあるポンプバレル2を振動予測対象としてもよい。
【0111】
又、配管6iの長さ寸法や配置の変更に応じて、配管結合部材7の配置や本数、配管支持部材8の配置や本数が図示した以外の形式としてあるポンプバレル2を対象として、該ポンプバレルに生じる振動の予測に適用するようにしてもよい。
【0112】
ポンプバレル2を備えたタンク1であって、地震時、更には、地震時以外にも何等かの加振加速度が入力される可能性のあるタンク1であれば、LNGタンク以外のいかなる使用目的のタンクであっても振動予測対象としてよい。
【0113】
円筒状のタンク側壁を有するタンクであって、タンク底の中心を原点Oとする円筒座標で表すことが可能なタンク1であれば、タンク側壁4の半径aと、その高さH
1と、タンク1の高さHの比が図示した以外の比率となる形式のタンク1に装備されたポンプバレル2の振動の予測に適用してもよい。
【0114】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。