(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736778
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受及びこれを用いたピニオン軸支持装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20150528BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20150528BHJP
F16C 33/54 20060101ALI20150528BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20150528BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20150528BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/54 A
F16C33/66
F16H57/04 N
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-1226(P2011-1226)
(22)【出願日】2011年1月6日
(65)【公開番号】特開2012-141050(P2012-141050A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】前田 高弘
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−240900(JP,A)
【文献】
実開昭53−101955(JP,U)
【文献】
特開2009−108956(JP,A)
【文献】
特開平11−048805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 19/36
F16C 33/54
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方側の端部に大鍔部を有する内輪と、この内輪の径方向外方に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配置され、前記大鍔部に摺接する大端面を有している複数の円すいころと、この複数の円すいころの周方向の間隔を保持する保持器と、を備えている円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記軸方向一方側の端部に、当該円すいころ軸受に供給された潤滑油の一部を保持可能な保持空間と、この保持空間に対する前記潤滑油の出入を可能とする開口部とを有し、かつ前記保持器の回転が開始されたときに前記保持空間に保持した潤滑油を前記開口部から流出させて前記大鍔部と前記大端面との接触部に供給する、環状の潤滑油保持部が設けられており、
前記潤滑油保持部は、前記保持器の外周側に設けられるとともに、前記外輪との間、及び、前記外輪が装着されるハウジングとの間の少なくとも一方に、ラビリンス隙間を形成していることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記潤滑油保持部は、軸方向両側に配置された一対の側壁部と、径方向両側に配置された一対の周壁部とを備え、これら一対の側壁部及び周壁部によって囲まれた空間が前記保持空間とされており、
前記開口部は、軸方向他方側の前記側壁部の径方向内側であって、前記円すいころの大端面の近傍で当該大端面に臨む位置に形成されている請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記潤滑油保持部は、前記外輪の前記軸方向一方側の端面との間にラビリンス隙間を形成している請求項1又は2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記潤滑油保持部は、前記ハウジングの装着孔内面との間にラビリンス隙間を形成している請求項1〜3のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記潤滑油保持部は、前記保持器とは別体に形成された潤滑油保持部材により構成されており、当該潤滑油保持部材が前記保持器に装着されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
潤滑油が貯留されるハウジングと、このハウジングに装着された請求項1〜5のいずれか1項に記載の円すいころ軸受と、この円すいころ軸受によって回転自在に支持されるピニオン軸と、このピニオン軸のピニオンギヤに噛み合い、回転することによってハウジングに貯留された潤滑油をはね上げるリングギヤと、を備えていることを特徴とするピニオン軸支持装置。
【請求項7】
軸方向一方側の端部に大鍔部を有する内輪と、この内輪の径方向外方に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配置され、前記大鍔部に摺接する大端面を有している複数の円すいころと、この複数の円すいころの周方向の間隔を保持する保持器と、を備えている円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記軸方向一方側の端部に、当該円すいころ軸受に供給された潤滑油の一部を保持可能な保持空間と、この保持空間に対する前記潤滑油の出入を可能とする開口部とを有し、かつ前記保持器の回転が開始されたときに前記保持空間に保持した潤滑油を前記開口部から流出させて前記大鍔部と前記大端面との接触部に供給する、環状の潤滑油保持部が設けられ、
前記潤滑油保持部は、前記保持器の外周側に設けられるとともに、前記外輪の外周面が嵌合されるハウジングの装着孔内面との間にラビリンス隙間を形成していることを特徴とする円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受及びこれを用いたピニオン軸支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されるデファレンシャル装置は、エンジンの出力を伝達するためのプロペラシャフトに接続されて回転駆動されるピニオン軸と、このピニオン軸の先端に設けられたピニオンギヤと噛み合うリングギヤと、このリングギヤに一体回転可能に連結され左右一対の後輪を回転させる差動機構とを備えている。ピニオン軸は、デファレンシャル装置のハウジングに装着された軸方向に一対の円すいころ軸受により回転自在に支持されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、デファレンシャル装置のハウジングには潤滑油が貯留されており、リングギヤの回転によって貯留された潤滑油をはね上げることで、当該潤滑油がハウジングの内部で循環される。特に、一対の円すいころ軸受は、リングギヤによりはね上げられて両円すいころ軸受の軸方向の間に供給された潤滑油によって潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−315566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような円すいころ軸受は、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部ですべりが生じるが、エンジンの始動時などピニオン軸の回転初期は、リングギヤによるはね上げ作用で十分に潤滑油が循環されないため、当該接触部において貧潤滑状態となり、「焼付き」や「かじり」が生じやすくなるという欠点がある。
【0006】
特許文献1に記載された技術は、内輪の大鍔部の外周面を、円すいころの大端面側ほど外径が拡大する傾斜面に形成し、内輪の回転による遠心力で、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に潤滑油を積極的に供給している。しかしながら、この技術においてピニオン軸の回転初期においては十分に潤滑油を供給することができず、貧潤滑状態を解消するのは困難である。
【0007】
本発明は、円すいころ軸受によって支持される軸の回転初期においても、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に潤滑油を供給することができる円すいころ軸受及びこれを用いたピニオン軸支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、軸方向一方側の端部に大鍔部を有する内輪と、この内輪の径方向外方に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配置され、前記大鍔部に摺接する大端面を有している複数の円すいころと、この複数の円すいころの周方向の間隔を保持する保持器と、を備えている円すいころ軸受であって、
前記保持器の前記軸方向一方側の端部に、当該円すいころ軸受に供給された潤滑油の一部を保持可能な保持空間と、この保持空間に対する前記潤滑油の出入を可能とする開口部とを有し、かつ前記保持器の回転が開始されたときに前記保持空間に保持した潤滑油を前記開口部から流出させて前記大鍔部と前記大端面との接触部に供給する、環状の潤滑油保持部が設けられて
おり、
前記潤滑油保持部は、前記保持器の外周側に設けられるとともに、前記外輪との間、及び、前記外輪が装着されるハウジングとの間の少なくとも一方に、ラビリンス隙間を形成していることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、円すいころ軸受によって支持された軸の回転初期においても、潤滑油保持部の保持空間に保持された潤滑油を用いて、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部の潤滑を行うことが可能となる。したがって、回転初期の貧潤滑状態を解消し、「焼付き」や「かじり」の発生を抑制することができる。
【0010】
(2)前記潤滑油保持部は、軸方向両側に配置された一対の側壁部と、径方向両側に配置された一対の周壁部とを備え、これら一対の側壁部及び周壁部によって囲まれた空間が前記保持空間とされており、前記開口部は、軸方向他方側の側壁部の径方向内側であって、前記円すいころの大端面の近傍で当該大端面に臨む位置に形成されていることが好ましい。
このような構成によって、保持器の回転が停止しているときに、潤滑油保持部の下部側において保持空間に潤滑油を保持することができ、保持器の回転に伴う潤滑油保持部の回転によって保持空間に保持された潤滑油を開口部から流出させて、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に潤滑油を供給することができる。
【0011】
(3)前記潤滑油保持部は、
前記外輪の前記軸方向一方側の端面との間にラビリンス隙間を形成していることが好ましい。
円すいころ軸受は、その回転によってポンプ作用を奏し、円すいころの小端面側から引き込んだ潤滑油を大端面側へ向けて軸方向一方側かつ径方向外側へ流動させる。そして、潤滑油保持部と外輪の軸方向一方側の端面との間にはラビリンス隙間が形成されているので、このラビリンス隙間へ向かう方向への潤滑油の流れ、すなわち円すいころ軸受の軸方向一方側で径方向外側へ抜ける潤滑油の流れが抑制され、径方向内側へ向かう潤滑油の流れが多くなる。これにより、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に対してより多くの潤滑油を供給することができる。
【0012】
(4)前記潤滑油保持部は、
前記ハウジングの装着孔内面との間にラビリンス隙間を形成していることが好ましい。
このような構成によって、ハウジングの装着孔内面と潤滑油保持部との間のラビリンス隙間に向かう潤滑油の流れ、すなわち円すいころ軸受の軸方向一方側で径方向外側へ抜ける潤滑油の流れが抑制され、径方向内側へ向かう潤滑油の流れが多くなる。これにより、内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に対してより多くの潤滑油を供給することができる。
【0013】
(5)前記潤滑油保持部は、前記保持器とは別体に形成された潤滑油保持部材により構成されており、当該潤滑油保持部材が前記保持器に装着されていることが好ましい。
このような構成によって、保持器自身に加工を施すことによって潤滑油保持部を形成する必要が無くなる。そのため、保持器として、従来から使用されていた公知のものを流用し、当該保持器に対して潤滑油保持部材を装着することによって本発明の円すいころ軸受を安価に構成することが可能となる。
【0014】
(6)本発明のピニオン軸支持装置は、潤滑油が貯留されるハウジングと、このハウジングに装着された上記の円すいころ軸受と、この円すいころ軸受によって回転自在に支持されるピニオン軸と、このピニオン軸のピニオンギヤに噛み合い、回転することによってハウジングに貯留された潤滑油をはね上げるリングギヤと、を備えていることを特徴とする。
(7)本発明は、軸方向一方側の端部に大鍔部を有する内輪と、この内輪の径方向外方に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配置され、前記大鍔部に摺接する大端面を有している複数の円すいころと、この複数の円すいころの周方向の間隔を保持する保持器と、を備えている円すいころ軸受であって、前記保持器の前記軸方向一方側の端部に、当該円すいころ軸受に供給された潤滑油の一部を保持可能な保持空間と、この保持空間に対する前記潤滑油の出入を可能とする開口部とを有し、かつ前記保持器の回転が開始されたときに前記保持空間に保持した潤滑油を前記開口部から流出させて前記大鍔部と前記大端面との接触部に供給する、環状の潤滑油保持部が設けられ、前記潤滑油保持部は、前記保持器の外周側に設けられるとともに、前記外輪の外周面が嵌合されるハウジングの装着孔内面との間にラビリンス隙間を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、潤滑油保持部に保持された潤滑油を用いて内輪の大鍔部と円すいころの大端面との接触部に潤滑油を供給することができ、特に、円すいころ軸受によって支持された軸の回転初期における貧潤滑状態を解消し、焼付きやかじりの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るピニオン軸支持装置を適用したデファレンシャル装置を示す断面図である。
【
図2】軸方向一方側の円すいころ軸受を示す断面図である。
【
図3】同円すいころ軸受の下部側を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るピニオン軸支持装置を適用したデファレンシャル装置を示す断面図である。
デファレンシャル装置1は、自動車のエンジンの出力を当該デファレンシャル装置1の左右方向(
図1の紙面貫通方向)の両側にそれぞれ配置された駆動輪である後輪に伝達するためのものであり、エンジンの出力を伝達するためのプロペラシャフト(図示せず)に一体回転可能に接続されるピニオン軸2と、このピニオン軸2の軸方向一端部(先端部)に設けられたピニオンギヤ2aに噛合するリングギヤ3と、リングギヤ3に一体回転可能に連結され、後輪を回転させる差動機構4と、これらを収容するハウジング5とを備えている。
【0018】
また、デファレンシャル装置1は、軸線Lがほぼ横向きに配置されたピニオン軸2の軸方向一方側(リングギヤ3側;
図1の左側)を支持する第1の円すいころ軸受6と、ピニオン軸2の軸方向他方側(反リングギヤ3側;
図1の右側)を支持する第2の円すいころ軸受10とを備えている。
ピニオン軸2は、2つの円すいころ軸受6,10によってハウジング5に対して回転自在に支持されている。ハウジング5には、2つの円すいころ軸受6,10を嵌合するための装着孔5aが形成されている。ピニオン軸2の軸方向他端部はハウジング5の外部へ突出してプロペラシャフトが接続される。エンジンの回転動力は、トランスミッションを介してプロペラシャフト及びピニオン軸2に伝達され、このピニオン軸2のピニオンギヤ2aに噛み合うリングギヤ3に伝達される。
【0019】
デファレンシャル装置1は、ピニオン軸2の軸線Lが、自動車の車体水平方向を示す基準線Sに対して角度θで傾斜するように車体に搭載されている。通常、後輪駆動の自動車は、そのレイアウト上、後輪がエンジンよりも低位に配置されるため、エンジン(トランスミッション)とデファレンシャル装置1とを接続するプロペラシャフトは、後ろ下がり傾斜状に配置され、このプロペラシャフトに接続されるピニオン軸2も、軸線Lが後ろ下がり傾斜状に配置される。このため、第2の円すいころ軸受10は、自動車の車体が水平な状態にあるときには、第1の円すいころ軸受6よりも僅かに高位に配置される。
【0020】
ハウジング5の内部には、差動機構4や、リングギヤ3、両円すいころ軸受6,10等を潤滑するための潤滑油Rが貯留されている。本実施の形態では、油面R1の高さが一対の円すいころ軸受6,10にまで到らない量の潤滑油Rが貯留されている。
また、上述のように、デファレンシャル装置1は、ピニオン軸2の軸線Lと、車体水平方向を示す基準線Sとが角度θとなるように搭載されるので、自動車の車体が水平な状態にあるときには、油面R1は、基準線Sに平行となる。
【0021】
また、この潤滑油Rは、リングギヤ3の回転によって図中矢印T1の方向にはね上げられ、再度ハウジング5の下部に流下して貯留される。すなわち、デファレンシャル装置1は、潤滑油Rがハウジング5内部で循環するように構成されている。
第1,第2の円すいころ軸受6,10は、リングギヤ3によってはね上げられて第1,第2の円すいころ軸受6,10の間に供給された潤滑油Rによって潤滑される。第1,第2の円すいころ軸受6,10の間に供給された潤滑油Rは、これら軸受が有するポンプ作用によって、円すいころ13の小端面側から円すいころ軸受6,10内に引き込まれ(矢印T2)、円すいころ13の大端面側から排出される。
【0022】
図2は、軸方向一方側(
図1の左側)の第1の円すいころ軸受6を示す断面図である。また、
図3は、第1の円すいころ軸受6の下部側を拡大して示す断面図である。
図2に示されるように、ピニオン軸2の軸方向一端側(ピニオンギヤ2a側)を支持する第1の円すいころ軸受6は、ピニオン軸2に一体回転可能に固定された内輪11と、ハウジング5に固定された外輪12と、内外輪11,12間に転動自在に配置された複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を内外輪11,12の周方向に沿って等間隔に保持するための保持器14とを備えている。なお、以下の説明において、
図2及び
図3の左側(円すいころ13の大端面13b側)を軸方向一方側(又は、軸方向一端側)といい、
図2の右側(円すいころ13の小端面13c側)を軸方向他方側(又は、軸方向他端側)という。
【0023】
内輪11は、例えば、軸受鋼等を用いて形成された円筒状の部材であり、その外周には円すいころ13が接触して転動する内輪軌道面11aが形成されている。内輪軌道面11aは、軸方向一方側ほど外径が大きくなるように傾斜状に形成されている。また、内輪11の外周の軸方向一端部には大鍔部11bが径方向外方へ突設され、軸方向他端部には小鍔部11cが径方向外方へ突設されている。
【0024】
外輪12は、例えば、軸受鋼等を用いて形成された円筒状の部材であり、内輪11の外周側に同心に配置されている。外輪12の内周には、円すいころ13が接触し転動する外輪軌道面12aが形成されている。外輪軌道面12aは、軸方向一方側ほど内径が大きくなるように傾斜状に形成されている。また、外輪12の外周面は、ハウジング5に形成された装着孔5aに嵌合、固定されている。
【0025】
複数の円すいころ13は、軸受用鋼等からなり、截頭円すい形状に形成されている。円すいころ13の外周面は、両軌道面11a,12aに接触して転動する転動面13aとされており、軸方向一方側の端面がより面積の大きい大端面13bとされ、軸方向他方側の端面がより面積の小さい小端面13cとされている。また、円すいころ13は、内輪11の大鍔部11bと小鍔部11cとによって軸方向の移動が規制されている。内輪11と外輪12とは、両者の軌道面11a,12aの間で複数の円すいころ13が転動することによって相対回転する。
【0026】
図3に示されるように、保持器14は、鋼等の金属やポリアミド樹脂等の合成樹脂から形成され、軸方向一端側に配置された大径環状部14aと、軸方向他端側に配置された小径環状部14bと、大径環状部14aと小径環状部14bとの間に架設された複数の柱部14cとを有している。複数の柱部14cは周方向に間隔をあけて配置されており、周方向に隣接する柱部14cと、大径環状部14a及び小径環状部14bとによって囲まれた空間が、円すいころ13を収容するためのポケットとされている。
【0027】
保持器14の大径環状部14aの外周面には、潤滑油保持部材(潤滑油保持部)15が設けられている。この潤滑油保持部材15は、保持器14と同様に金属や合成樹脂から環状に形成され、潤滑油Rを保持するための保持空間Sを内部に有している。より具体的に、潤滑油保持部材15は、径方向の両側に配置された一対の周壁部(内周壁部15a、外周壁部15c)と、軸方向両側に配置された一対の側壁部(外側壁部15b、内側壁部15d)とを有し、内周壁部15aが、保持器14の大径環状部14aの外周面に嵌合、固定されている。そして、一対の周壁部15a,15cと、一対の側壁部15b、15dとによって囲まれる空間が、潤滑油Rを保持するための保持空間Sとされている。
【0028】
保持空間Sは、内側壁部15dの径方向内側に形成された開口部15eにおいて開放されている。この開口部15eは、円すいころ13の大端面13aの近傍位置において当該大端面13aに臨むように(対向するように)形成されている。
【0029】
内側壁部15dは、外輪12の軸方向一方側の側面12bに対して微小な隙間t1をあけて対向して配置されている。また、外周壁部15cは、ハウジング5の装着孔5aに対して微小な隙間t2をあけて対向して配置されている。これらの隙間t1,t2は、潤滑油Rの流通を制限するラビリンス隙間を構成している。
【0030】
図1に示すように、第2の円すいころ軸受10は、第1の円すいころ軸受6に対して軸方向に逆向きに配置されているだけで、以上に説明した第1の円すいころ軸受6と略同様の構成を備えている。したがって、第2の円すいころ軸受10についての詳細な説明は省略する。
【0031】
図1に矢印T1で示すように、リングギヤ3によってはね上げられ、第1,第2の円すいころ軸受6,10の間に供給された潤滑油Rは、第1、第2の円すいころ軸受6,10の回転によるポンプ作用で、
図2の矢印T2に示すように円すいころ13の小端面13c側から内外輪11,12の間に引き込まれ、軸方向一方側(
図2の左側)及び径方向外側へ向けて流れて円すいころ13の大端面13b側から排出される。
【0032】
この際、
図3に示すように、潤滑油保持部材15と外輪12及びハウジング5との間には、ラビリンス隙間t1,t2が形成されているため、内外輪11,12の間を流れる潤滑油Rが隙間t1,t2から流出してしまうことが抑制される。そのため、潤滑油Rは、矢印T3で示すようにより径方向内側へ流れやすくなり、内輪11の大鍔部11bと円すいころ13の大端面13bとの接触部に積極的に供給される。この作用によって、当該接触部におけるすべり摩擦に起因する焼付きやかじりの発生を抑制することができる。
【0033】
また、円すいころ軸受6のポンプ作用によって矢印T2のように流れる潤滑油Rは、その一部が潤滑油保持部材15の開口部15eから保持空間S内に流入し、保持される。そして、保持空間S内に保持された潤滑油Rは、ピニオン軸2の回転停止後、次に回転し始めるときの初期潤滑のために利用される。
すなわち、ピニオン軸2の回転が停止すると、保持空間S内の潤滑油Rは、専ら重力によって開口部15eから下方に流れるが、潤滑油保持部材15の下部側では、外周壁部15cと内外側壁部15b、15dとに囲まれた部分で潤滑油Rが保持される。そして、ピニオン軸2が回転を開始すると、これに伴って潤滑油保持部材15も周方向に回転し、潤滑油保持部材15の下部側に保持された潤滑油Rが上方へ引き上げられつつ開口部15eから流出する。この開口部15eは、円すいころ13の大端面13bの近傍で当該大端面13bに臨む位置に配置されているので、開口部15eから流出した潤滑油Rは、円すいころ13の大端面13bに供給され、内輪11の大鍔部11bとの接触部が適切に潤滑される。したがって、ピニオン軸2の回転開始時に、リングギヤ3によるはね上げ作用で十分に潤滑油Rが循環されていない状態であっても、大鍔部11bと大端面13bとの接触部を適切に潤滑し、焼付きやかじりの発生を抑制することができる。
【0034】
なお、ハウジング5の潤滑油Rが、潤滑油保持部材15を浸積させる程度にまで貯留されている場合には、ピニオン軸2の回転停止時に、潤滑油Rに浸積された潤滑油保持部材15内に開口部15eから潤滑油Rを流入させることも可能である。
【0035】
潤滑油保持部材15は、保持空間Sに潤滑油Rを保持する機能だけでなく、外輪12及びハウジング5との間にラビリンス隙間t1,t2を形成し、円すいころ軸受6の軸方向一方側かつ径方向外側へ潤滑油Rが流出するのを抑制する機能をも有しているので、これらの機能を別々に備えた複数の部材をそれぞれ円すいころ軸受6,10に設ける場合に比べて、部品点数を少なくし、製造コストを低減することができる。
【0036】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更できるものである。
例えば、潤滑油保持部材(潤滑油保持部)15は、保持器14と一体に形成されたものであってもよい。但し、潤滑油保持部材15を保持器14とは別体に形成することで、従来から使用されている保持器14を流用して潤滑油保持部材15を装着することで、本発明の円すいころ軸受6,10を安価に構成することができる。
潤滑油保持部材15は、保持器14の内周側に設けることも可能である。
また、本実施の形態では、2つのラビリンス隙間t1,t2が形成されているが、いずれか一方のみであってもよい。また、ピニオン軸2は、水平に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:デファレンシャル装置、2:ピニオン軸、3:リングギヤ、5:ハウジング、6:第1の円すいころ軸受、10:第2の円すいころ軸受、11:内輪、11b:大鍔部、12:外輪、13:円すいころ、13b:大端面、15:潤滑油保持部材、15a:内周壁部、15b:外側壁部、15c:外周壁部、15d:内側壁部、15e:開口部、S:保持空間、t1:ラビリンス隙間、t2:ラビリンス隙間