(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空気案内翼の前記回転軸に対する傾斜角度が、前記回転動翼への前記空気の流入速度がマッハ1を下回る角度に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のガスタービンエンジン。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るガスタービンエンジンの一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明においては、ガスタービンエンジンの一例として、2軸のジェットエンジンを挙げて説明を行う。
【0015】
図1は、本実施形態のジェットエンジンS1の概略構成を模式的に示す断面図である。この図に示すように、本実施形態のジェットエンジンS1は、アウターカウル1と、インナーカウル2と、ファン3と、低圧圧縮機4と、高圧圧縮機5と、燃焼器6と、高圧タービン7と、低圧タービン8と、シャフト9と、主ノズル10と、空気案内翼11とを備えている。
【0016】
アウターカウル1は、ジェットエンジンS1のなかで最も上流側に配置された円筒形部材であり、空気の流れ方向の上流端及び下流端が開口端とされ、上流端が空気取込口として機能するものである。
そして、アウターカウル1は、
図1に示すように、その内部にインナーカウル2の上流側及びファン3を収容している。
なお、本実施形態においてアウターカウル1は、本発明における回転動翼(ファン動翼3a)を囲うケースに相当する。
【0017】
インナーカウル2は、アウターカウル1よりも小径の円筒形部材であり、アウターカウル1と同様に、空気の流れ方向の上流端及び下流端が開口端とされている。
このインナーカウル2は、ジェットエンジンS1の主要部である低圧圧縮機4と、高圧圧縮機5と、燃焼器6と、高圧タービン7と、低圧タービン8と、シャフト9と、主ノズル10、空気案内翼11等を内部に収容している。
【0018】
なお、インナーカウル2の内部は、アウターカウル1に取込まれた空気の一部及び燃焼器6で生成される高温ガスが通る流路(以下、コア流路12と称する)とされている。
また、
図1に示すように、アウターカウル1とインナーカウル2とは、空気の流れ方向から見て回転軸L(中心軸)を中心として同心円状に配置されており、隙間を空けて配置されている。そして、アウターカウル1とインナーカウル2との隙間は、アウターカウル1内に取込まれた空気のうち、コア流路12に流れこまない残部を外部に排出するバイパス流路13とされている。
また、アウターカウル1及びインナーカウル2は、不図示のパイロンにより航空機の機体に取り付けられている。
【0019】
ファン3は、アウターカウル1内に流れ込む空気流を形成するものであり、シャフト9に固定される複数のファン動翼3a(回転動翼)と、バイパス流路13に配置される複数のファン静翼3bとを備えている。
なお、後に詳説するシャフト9は、空気の流れ方向から見て、半径方向に2つに分割されている。より詳細には、シャフト9は、芯部である中実の第1シャフト9aと、第1シャフト9aを囲って外側に配置される中空の第2シャフト9bとによって構成されている。
そして、ファン動翼3aは、シャフト9の第1シャフト9aに固定されている。また、ファン動翼3aは、
図1(b)に示すように、回転軸L周りに複数配列されており、回転駆動されることによって空気を下流に向けて圧送する。
【0020】
低圧圧縮機4は、
図1に示すように、高圧圧縮機5よりも上流側に配置されており、ファン3によってコア流路12に送り込まれた空気を圧縮するものである。
この低圧圧縮機4は、シャフト9の第2シャフト9bに固定される動翼4aと、インナーカウル2の内壁に固定される静翼4bとを備えている。
なお、動翼4aは、環状に等間隔で複数配列されて1つの動翼列を構成している。また、静翼4bも環状に等間隔で複数配列されて1つの静翼列を構成している。そして、低圧圧縮機4では、空気の流れ方向において、静翼列から始まり、静翼列と動翼列とが交互に複数配置されている。
そして、低圧圧縮機4が備える静翼列のうち、最も上流側に位置する静翼列を構成する静翼4bは、ジェットエンジンS1の半径方向に向く回転軸を中心として回動可能とされており、コア流路12に流れ込む空気の流れ方向を調節するインレットガイドベーンとして機能する。
【0021】
高圧圧縮機5は、
図1に示すように、低圧圧縮機4よりも下流側に配置されており、低圧圧縮機4から送り込まれた空気をさらに高圧に圧縮するものである。
この高圧圧縮機5は、シャフト9の第2シャフト9bに固定される動翼5aと、インナーカウル2の内壁に固定される静翼5bとを備えている。
なお、低圧圧縮機4と同様に、動翼5aは、環状に等間隔で複数配列されて1つの動翼列を構成している。また、静翼5bも環状に等間隔で複数配列されて1つの静翼列を構成している。そして、空気の流れ方向において、静翼列と動翼列とが交互に複数配置されている。
【0022】
燃焼器6は、高圧圧縮機5の下流側に配置されており、高圧圧縮機5から送り込まれる圧縮空気と、不図示のインジェクタから供給される燃料との混合気を燃焼することによって高温ガスを生成するものである。
【0023】
高圧タービン7は、燃焼器6の下流側に配置されており、燃焼器6から排出される高温ガスから回転動力を回収するものである。
この高圧タービン7は、シャフト9の第2シャフト9bに固定される複数のタービン動翼7aと、コア流路12に固定される複数のタービン静翼7bとを備えており、タービン静翼7bに整流された高温ガスをタービン動翼7aで受けて第2シャフト9bを回転駆動する。
【0024】
低圧タービン8は、高圧タービン7の下流側に配置されており、高圧タービン7を通過した高温ガスからさらに回転動力を回収するものである。
この低圧タービン8は、シャフト9の第1シャフト9aに固定される複数のタービン動翼8aと、コア流路12に固定される複数のタービン静翼8bとを備えており、タービン静翼8bによって整流された高温ガスをタービン動翼8aで受けて第1シャフト9aを回転駆動する。
【0025】
シャフト9は、空気の流れ方向に向いて配置される棒状部材であり、タービン(高圧タービン7及び低圧タービン8)にて回収された回転動力をファン3及び圧縮機(低圧圧縮機4及び高圧圧縮機5)に伝達するものである。
このシャフト9は、上述のように、半径方向に2つに分割されており、第1シャフト9aと、第2シャフト9bとによって構成されている。
そして、第1シャフト9aは、上流側に低圧圧縮機4の動翼4a及びファン3のファン動翼3aが取り付けられ、下流側に低圧タービン8のタービン動翼8aが取り付けられている。
また、第2シャフト9bは、上流側に高圧圧縮機5の動翼5aが取り付けられ、下流側に高圧タービン7のタービン動翼7aが取り付けられている。
【0026】
主ノズル10は、低圧タービン8のさらに下流側に設けられると共に、ジェットエンジンS1の後方に向けて低圧タービン8を通過した高温ガスを噴射するものである。
そして、この主ノズル10から高温ガスが噴射される際の反作用によってジェットエンジンS1の推力が得られる。
【0027】
空気案内翼11は、アウターカウル1の内壁面に設けられてファン動翼3aの上流側に配置されると共に、ファン動翼3aへの空気流入方向をファン動翼3aの回転軸Lに対して傾斜させてファン動翼3aの回転方向前方に向けるものである。
言い換えれば、空気案内翼11は、ファン動翼3aに流入する空気の流れ方向を、ファン動翼3aの回転方向前方に向けることによって、回転軸Lに対して傾斜させるものである。
【0028】
図1(b)に示すように、空気案内翼11は、回転軸L周りに複数設けられており、回転軸Lを中心とする環状形状のアウターカウル1の内壁面の全周に等間隔で設けられている。
【0029】
図2(a)は、空気案内翼11の作用を説明するための模式図である。この図に示すように、空気案内翼11は、仮に空気案内翼11が存在しない場合には回転軸方向L1が流れ方向となるファン動翼3aへの空気の流入方向(以下、絶対流入方向と称する)を、ファン動翼3aの回転方向前方に向けて傾斜させる。なお、
図2(a)においては、長さが流速を示す絶対流入速度ベクトルU1が指し示す方向が絶対流入方向として示されている。
【0030】
このように絶対流速度入ベクトルU1が回転軸方向L1に対してファン動翼3aの回転方向前方に向けて傾斜されることによって、回転周速度ベクトルU2が一定であったとしても、回転周速度ベクトルU2と絶対流入ベクトルU1とを合成して得られる相対流入速度ベクトルU3の長さで示される相対流入速度が低下される。
【0031】
回転軸方向L1に対する絶対流入速度ベクトルU1の傾斜角度θは、空気案内翼11の前縁と後縁とを結ぶ直線軸の回転軸方向L1(すなわち回転軸L)に対する傾斜角度に依存して規定される。
つまり、相対流入速度は、空気案内翼11の前縁と後縁とを結ぶ直線軸の回転軸方向L1に対する傾斜角度を変更することによって調節することができる。
【0032】
ここで、アウターカウル1内における空気流路の圧量損失は、上述の相対流入速度がマッハ1を超えた場合に急激に増大する。
このため、本実施形態のジェットエンジンS1においては、空気案内翼11の前縁と後縁とを結ぶ直線軸の回転軸方向L1に対する傾斜角度が、相対流入速度(すなわち相対流入速度ベクトルU3の長さ)がマッハ1を下回る角度に設定されている。
具体的には、ジェットエンジンS1の機種によって、ファン動翼3aの回転速度(すなわち、回転周速度ベクトルU2)とファン動翼3aへの空気の供給量(すなわち、絶対流入ベクトルU1)が異なるが、一例としては、回転軸方向L1に対する絶対流入速度ベクトルU1の傾斜角度θが10〜20°となるように、空気案内翼11の前縁と後縁とを結ぶ直線軸の回転軸方向L1に対する傾斜角度を設定することができる。
【0033】
次に、
図2(b)を参照して、空気案内翼11の高さA、空気案内翼11とファン動翼3aとの間の隙間B及び空気案内翼11の長さCについて説明する。
【0034】
図2(b)に示すように、空気案内翼11は、空気流れの最も上流側に位置する前端から空気流れの最も下流側に位置する後端側に向かうなかで、中央部よりもやや後端側で最も高さ(アウターカウル1の内壁面からの突出量)が高くなるように前端から徐々に隆起し、その後、後端に向けて徐々に突出量が減少するように形状設定されている。
【0035】
空気案内翼11の高さAは、アウターカウル1の内壁面から最も突出している領域の高さである。
ここで、ファン動翼3aにおいては、ハブ側からチップ側にかけて全ての領域で相対流入速度がマッハ1を超える恐れがあるのではなく、回転周速度が最も速いチップ側の領域でのみ相対流入速度がマッハ1を超える恐れがある。
このため、空気案内翼11の高さAは、回転軸L方向から見て、相対流入速度がマッハ1を超える恐れがあるファン動翼3aのチップ側の領域のみに重なるように設定されている。
つまり、本実施形態において空気案内翼11は、回転軸L方向から見て、ファン動翼3aのチップ側のみに設けられている。
【0036】
空気案内翼11とファン動翼3aとの間の隙間Bは、ジェットエンジンS1の稼働時における温度上昇により空気案内翼11やファン動翼3a等が熱膨張することを考慮し、ジェットエンジンS1の稼働時に空気案内翼11とファン動翼3aとが接触しないように設定されている。
【0037】
空気案内翼11の長さCは、上述の前端から後端までの長さである。この長さCは、空気案内翼11の強度が満足されるように、上述の空気案内翼11の高さHに依存して設定される。
具体的には、空気案内翼11の長さCは、当該空気案内翼11の長さCを空気案内翼11の高さAで割った値が0.5以上となるように設定することが考えられる。
【0038】
以上のような構成を有する本実施形態のジェットエンジンS1においては、定常状態では、ファン3の駆動によってアウターカウル1内に空気が取込まれ、その一部がコア流路12に流入する。
そして、コア流路12に流入した空気は、低圧圧縮機4及び高圧圧縮機5によって順次圧縮され、燃焼器6に供給される。
燃焼器6に供給された圧縮空気は、燃料と混合されて混合気とされる。そして、当該混合気が燃焼器6によって燃焼されることによって高温ガスが生成される。
燃焼器6において生成された高温ガスは、高圧タービン7及び低圧タービン8を通過して主ノズル10からジェットエンジンS1の後方に噴射される。これによって推進力が得られる。
【0039】
なお、高温ガスが高圧タービン7を通過する際に、高圧タービン7によって回転動力が回収され、第2シャフト9bを介して高圧圧縮機5の動翼5aが回転駆動される。
また、高温ガスが低圧タービン8を通過する際に、低圧タービン8によって回転動力が回収され、第1シャフト9aを介して低圧圧縮機4の動翼4a及びファン3のファン動翼3aが回転駆動される。
【0040】
そして、本実施形態のジェットエンジンS1においては、上述のように、空気案内翼11によってファン動翼3aに流入する空気の方向がファン動翼3aの回転方向前方に向けられる。このため、ファン動翼3aに対する空気流の相対流入速度が低下する。
つまり、本実施形態のジェットエンジンS1によれば、ファン動翼3aの回転数を低減させることなくファン動翼3aに対する空気流の相対流入速度を低下させることができる。
したがって、本実施形態のジェットエンジンS1によれば、
図2(c)のグラフに示すように、空気流の相対流入速度に比例関係のある衝撃波による圧力損失を低減させることが可能となる。
なお、
図2(c)は、空気案内翼11が存在する範囲におけるファン動翼3aでの衝撃波による圧力損失を示すグラフであり、横軸は衝撃波による圧力損失の高低を示し、縦軸は空気案内翼11が存在する範囲(
図2(b)に示すAの範囲)におけるファン動翼3aの高さ位置を示している。
【0041】
また、本実施形態のジェットエンジンS1においては、空気案内翼11がファン動翼3aの回転軸L周りに複数等間隔で設けられている。
このため、回転軸L方向からみて空気流れ分布が均一化され、空気案内翼11によって空力性能が低下することを防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態のジェットエンジンS1においては、空気案内翼11の回転軸Lに対する傾斜角度が、ファン動翼3aへの空気の相対流入速度が空気案内翼11の存在しない時よりも小さくなる角度に設定されている。
このため、ファン動翼3aにおいてファン動翼3aへの相対流入速度が空気案内翼11の存在しない時よりも小さくなり、確実に衝撃波による圧力損失の低減を図ることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のジェットエンジンS1においては、回転軸L方向から見て、空気案内翼11がファン動翼3aのチップ側のみに設けられている。
このため、空気案内翼11をファン動翼3aのハブ側までの設ける場合と比較して、空気案内翼11の材料使用量を低減させ、製造コスト及び重量を低下させることができる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態においては、ファン動翼3aのハブ側寄りに位置する空気案内翼11の先端が湾曲面を有する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、空気案内翼11の先端が平面形状を有する構成を採用することもできる。
【0046】
また、上記実施形態においては、
図3(a)に示すように、ファン動翼3aのチップ側がハブ側よりも後流側に後退した形状である構成について説明した。
しかしながら、本発明における回転動翼はチップ側がハブ側よりも後流側に後退したファン動翼3aである必要はなく、例えば、
図3(b)に示すように、空気の流れ方向においてチップ側がハブ側と略同一に位置するファン動翼3aや、
図3(c)に示すように、チップ側がハブ側よりも後流側に突出したファン動翼3aであっても良い。
このようにファン動翼3aが形状変化する場合には、
図3(a)〜(c)に示すように、空気案内翼11の形状も合わせて変化する。
【0047】
また、上記実施形態においては、空気案内翼11がアウターカウル1と同一材料で一体形成されている。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、
図4(a)に示すように、空気案内翼11をアウターカウル1と異種材料で形成してアウターカウル1に嵌め込む構成や、
図4(b)に示すように、空気案内翼11をアウターカウル1と同一材料で一体形成し、その先端領域11aのみ剛性の高い材料で形成することも可能である。
【0048】
また、上記実施形態においては、空気案内翼11が高さ方向における全ての領域で回転軸Lに対する傾斜角度が同一であった。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、チップ側においてより大きな圧力損失低下効果を実現するために、空気案内翼11の根元領域を先端領域よりも回転軸Lに対して大きく傾斜させるようにしても良い。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、本発明のガスタービンエンジンをジェットエンジンに適用した例について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、他のガスタービンエンジンに適用することも可能である。