(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内燃機関に採用される燃料噴射装置として、燃焼室内へ燃料を噴射する筒内噴射弁と、吸気通路に燃料を噴射する吸気路噴射弁(ポート噴射弁)と、を適宜噴射駆動させて内燃機関を駆動するようにした筒内及び吸気路へ噴射を行なう燃料噴射装置が知られている。
この筒内噴射弁(DI弁とも記す)と吸気路噴射弁(MPI弁とも記す)の2系統の燃料系をもつ内燃機関の燃料噴射装置では、内燃機関の燃料噴射装置の全負荷・全回転数領域(以後全運転領域と記す)において、筒内噴射弁と吸気路噴射弁を共に噴射駆動させる方式を採るものがある。更に、全運転領域が、MPI弁だけが噴射するMPIオンリー噴射域(噴射モード)と,同時に筒内噴射弁と吸気路噴射弁の両弁を駆動して燃料を噴射するDI+MPI噴射域(噴射モード)とに区分されているものがある。
【0003】
このような各燃料噴射領域において、筒内噴射弁(直噴弁:DI弁)とポート噴射弁(吸気路噴射弁:MPI)の燃料噴射比率は回転と負荷に応じて設定している。例えば、低回転低負荷域では、DI噴射比率よりMPI噴射比率を大きく設定して少量燃料噴射の安定化を図り、高回転、高負荷域では、DI噴射比率をMPI噴射比率より大きく設定して高負荷運転の容易化、排ガス特性の確保を図っている。
この際、筒内噴射弁と吸気路噴射弁(DI弁とMPI弁)の両噴射モードの変更時には、その変更の判定条件として、DIインジェクタの先端温度やデポジット生成の要件などを考慮して決定している。
【0004】
しかし運転状態、即ち、機関運転域の変更に伴う噴射モードの変更により、噴射比率の変更が頻繁になると、噴射比率の変更過渡時における噴射作動が前後で重なり、A/Fフィードバックが不安定になる懸念がある。
そこで、このような、機関運転域の変更に伴う過渡時の噴射比率の変更の際には、テーリング処理(タイマーゾーン設定)をして、噴射モードの変更を抑制したうえでA/Fフィードバック制御を行なっている。
【0005】
なお、特許文献1(特開平4−237854号公報)には、低負荷時には圧縮行程で筒内噴射弁が燃料噴射し、高負荷時にはポート噴射弁が燃料を吸気ポートに噴射し、更に、ポート噴射弁での吸気管内噴射が開始される高負荷域よりも所定の低負荷側で、筒内噴射弁によりそれまでの圧縮行程のみの噴射に加えて、吸気行程でも所定量の燃料噴射が追加されるようにして、機関運転域の変更に伴う失火が生じることを防止するという燃料噴射装置が開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、単に、機関運転域の変更(噴射モードの変更)の場合に、一律にテーリング処理(タイマーゾーン設定)を行うと、運転操作性に違和感が生じ、特に、加速応答性に問題が生じやすい。なお、特許文献1の場合、機関運転域の変更に伴う失火を防止するが、テーリング処理に言及していない。
更に、筒内噴射弁と吸気路噴射弁(DI弁とMPI弁)からなる2系統の燃料系をもつ燃料噴射装置が用いる回転と負荷とで設定される運転領域において、予め設定されたDI弁とMPI弁の燃料噴射比率を運転領域が切り換わる毎に、テーリング処理をして変更するとした場合において、空気量が急変する加速運転の際には、テーリング中のA/Fの不整合が発生し易いし、ノッキングが発生する傾向にあり、改善が望まれている。
【0008】
本発明は以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、第1の機関運転域よりの加速の状態が所定値を上回る場合に加速の程度が頻繁に変動したとしても、第1の燃料噴射弁の駆動切換え頻度を抑え、噴射作動不良の発生を防止できる内燃機関の燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1の発明は、車両に搭載される内燃機関の燃料噴射装置であって、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、前記内燃機関の吸気通路に燃料を噴射する第2の燃料噴射弁と、前記内燃機関の機関回転数と負荷とに応じた燃料噴射量を算出する燃料噴射量演算手段と、前記車両の加速状態を検出する加速状態検出手段と、前記内燃機関の運転域が前記機関回転数と負荷とに応じた第1の機関運転域にあると前記燃料噴射量の燃料全てを前記第2の燃料噴射弁で噴射する第1の噴射域と、前記第1の機関運転域より高回転高負荷側の第2の機関運転域にあると前記燃料噴射量を所定比率で分割して前記第1の燃料噴射弁および前記第2の燃料噴射弁により噴射する第2の噴射域と、前記第1の噴射域と前記第2の噴射域を切り替える制御手段と、を具備し、前記制御手段は、前記加速状態検出手段により検出された前記加速状態を大、中、小の程度に区分し、前記第1の噴射域から前記第2の噴射域に切り替える際に、前記加速状態が前記中程度の際は、所定待ち時間の経過後に前記第2の噴射域に切り替えることを特徴とする。
【0010】
本願請求項2の発明は、請求項1記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記制御手段は、前記所定待ち時間の間に前記第2の燃料噴射弁からの燃料噴射量と前記第1の燃料噴射弁からの燃料噴射量の比率を段階的に変更することを特徴とする。
【0011】
本願請求項3の発明は、請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記制御手段は前記内燃機関の加速状態が前記中程度を上回ると、前記第1の燃料噴射弁からの燃料噴射量と第2の燃料噴射弁からの燃料噴射量との比率を前記所定比率とは異なる比率に変更し、前記所定待ち時間よりも短い時間の間噴射作動する加速制御を行う、ことを特徴とする。
【0012】
本願請求項4の発明は、請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記所定比率と異なる比率は、前記第1の燃料噴射弁の燃料噴射量が前記第2の燃料噴射弁の燃料噴射量より多くなるように設定することを特徴とする。
【0013】
本願請求項5の発明は、請求項1から4のいずれか一つに記載の内燃機関の燃料噴射装置において、前記加速の状態は前記内燃機関の吸入空気量、アクセル開度、スロットル開度の少なくとも一つ以上に基づいて検出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明は、加速状態検出手段によって検出された加速状態が中程度の際は、所定待ち時間の経過後に第2の機関運転域での第1、第2の燃料噴射弁による噴射処理を行うので、第1の機関運転域と第2の機関運転域との間で加速の程度が頻繁に変動したとしても、所定待ち時間の経過を待つことで第1の燃料噴射弁の駆動切換え頻度を抑えることが出来、第1の燃料噴射弁の噴口回りにデポジットが生じることによる噴射作動不良の発生を防止できる。
【0015】
請求項2の発明は、加速状態検出手段によって検出された加速状態が中程度の際は、所定待ち時間の間に第2の燃料噴射弁からの燃料噴射量と第1の燃料噴射弁からの燃料噴射量の比率を段階的に変更させるようにした噴射駆動をすることができる。
【0016】
請求項3の発明は、内燃機関の加速の状態が中程度を上回る場合に、第1の燃料噴射弁からの燃料噴射量と第2の燃料噴射弁からの燃料噴射量との比率を前記所定比率とは異なる比率に変更し、前記所定待ち時間よりも短い時間の間、噴射駆動することができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項3での所定比率と異なる比率として、第1の燃料噴射弁の燃料噴射量が第2の燃料噴射弁の燃料噴射量より多くなるように、噴射駆動することができる。
【0018】
請求項5の発明は、加速情報が内燃機関の吸入空気量、アクセル開度、スロットル開度の少なくとも一つ以上が所定値を上回る場合に容易に判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1の実施の形態である内燃機関の燃料噴射装置について説明する。
図1は、本発明の内燃機関の燃料噴射装置を適用した内燃機関(以後エンジンと記す)1の全体構成図である。このエンジン1はエンジン本体2の上部のシリンダヘッド3の左右側壁面に吸気マニホールド4及び排気マニホールド5が一体結合され、吸気マニホールド4には吸気路Riが、排気マニホールド5には排気路Reが接続される。
図1に示すように、エンジン1は4気筒であり、各気筒は主要部をなす燃焼室6を備え、各燃焼室6の吸気路Ri側はそれぞれ対応する吸気マニホールド4を介して共通のサージタンク7に接続されている。
【0021】
サージタンク7は、吸気ダクト8を介してエアクリーナ9に接続され、エアクリーナ9には、吸入吸気量Qa情報を得るエアフローメータ11が取り付けられる。吸気ダクト8には電動モータ121によって駆動されるスロットルバルブ12が配置されている。このスロットルバルブ12は、アクセルペダル13とは独立してエンジン制御装置(以後単にECUと記す)14の出力信号に基づいてその開度が制御される。さらに、スロットルバルブ12にはスロットル開度センサ28が配備され、同センサのスロットル開度θs情報がECU14に出力される。なお、
図1において、エンジン本体2には同本体内の水温Tw情報を検出する水温センサ43が配備され、その検出信号はECU14に出力されている。
【0022】
ECU14は、デジタルコンピュータから構成され、双方向性バス141を介して相互に接続されたROM142、RAM143、CPU144、入力ポート145および出力ポート146を備え、後述する制御機能を備える。
なお、アクセルペダル13の踏込み量に比例した出力を発生するアクセル開度センサ41、エンジン回転数Neを表わす出力パルスを発生する回転数センサ42の各検出信号は入力ポート145に入力される。ここで、ECU14のROM142には、上述のアクセル開度センサ41および回転数センサ42により得られる機関負荷率および機関回転数に基づき、運転状態に対応させて設定されている燃料噴射量の値Qfや機関冷却水温Twに応じた補正値などが予めマップ化されて記憶されている。
【0023】
図1に示すように、エンジン本体2の上部のシリンダヘッド3には機関駆動に連動する動弁系(一部のみ図示する)31の吸気カムシャフト32及び排気カムシャフト33が配備される。両シャフト32、33が駆動されることで不図示の吸排バルブが開閉駆動され、これにより燃焼室6に対して吸気路Ri側の吸気ポートip及び排気路Re側の排気ポートepをそれぞれ開閉作動させ、吸気及び排気作動を行う。
エンジン1の各燃焼室6から延びる排気路Re側は排気マニホールド5にそれぞれ連結され、この排気マニホールド5の合流部501の下流は排気管16を介して三元触媒15、マフラー161が順次接続されている。
図1に示すように、各気筒の燃焼室6には、燃焼室6に燃料を噴射する第1の燃料噴射弁である筒内噴射弁(DI噴射弁)17が設けられ、吸気マニホールド4に連通する吸気ポートip(吸気路Ri側)に燃料を噴射する第2の燃料噴射弁である吸気路噴射弁(MPI噴射弁)18が設けられ、全気筒が同様に構成される。
【0024】
各噴射弁17、18はECU14の燃料制御信号を高圧、低圧駆動回路(インジェクタドライバ)37、38を介して受けて、燃料供給源から供給された燃料をその噴射量を制御して燃焼室6、吸気ポートipにそれぞれ噴射する。なお、このような燃料供給系が筒内及び吸気路へ噴射を行なう燃料噴射装置の要部を構成する。
ここで、燃焼室6に燃料を噴射する第1の燃料噴射弁である筒内噴射弁17は、共通の第1燃料分配管(コモンレール)19に接続されており、この第1燃料分配管19は、機関駆動式の高圧燃料ポンプ21に接続されている。
燃料供給源側の高圧燃料ポンプ21の吐出側は燃圧調整手段である電磁スピル弁22を介して吸入側に戻されており、この電磁スピル弁22の開度が小さいときほど、高圧燃料ポンプ21から第1燃料分配管19に供給される燃料量が増大され、全開にされると燃料供給が停止され、同弁はECU14からの燃圧信号を受けて所定燃圧の燃料を筒内噴射弁17に供給する。
【0025】
一方、吸気ポートipに燃料を噴射する第2の燃料噴射弁である吸気路噴射弁18は、共通する低圧側の第2燃料分配管(コモンレール)23に接続されており、第2燃料分配管23および高圧燃料ポンプ21は共通の燃料圧レギュレータ24を介して、低圧燃料ポンプ25に接続されている。さらに、燃料供給源側である低圧燃料ポンプ25は燃料フィルタ26を介して燃料タンク27に接続されている。燃料圧レギュレータ24は低圧燃料ポンプ25から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、燃料の一部を燃料タンク27に戻すように構成されており、したがって吸気路噴射弁18に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ21に供給されている燃料圧が設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。
【0026】
図1に示すように、第1燃料分配管(コモンレール)19には管内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ43が取り付けられ、この燃料圧センサ43の出力電圧は、入力ポート145に入力される。
図1に示すように、エンジン本体2内に配備される4つの燃焼室6には筒内噴射弁17のほかに点火プラグ29が取り付けられる。
点火プラグ29には高電圧を出力する点火ユニット31が接続されている。この点火ユニット31は不図示のタイミング制御回路と高圧電源回路と点火コイルとで構成され、ECU14の点火信号Tspに応じて点火コイルに高電圧を発生し、所定点火時期に点火処理を行う。
【0027】
図1に示す排気路Reの上流側に位置する排気マニホールド5には、排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ(以下、A/Fセンサとも記す)44が取付けられ、このA/Fセンサ44の検出信号は入力ポート145に入力される。なお、A/Fセンサ44は空燃比に比例した出力電圧を発生するリニア空燃比センサであるが、これに代えて、空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかを三元触媒15の下流側でオン−オフ情報として検出するO2センサ45を代用してもよい。
【0028】
図1に示すように、三元触媒15は理論空燃比(ストイキオ)近傍において排気中のCO、HCの酸化とNOxの還元を行なって排気を浄化することができる。この三元触媒15の不図示の担持体に担持された触媒(プラチナ、ロジウム、パラジウム等)は、ある程度の温度(高温)にならないと、活性化せず、浄化機能が作用しない。そこで、エンジン1の燃料噴射装置では、エンジン1の冷態始動時には、三元触媒15の早期活性化を図るように、後述の暖気増量運転を実施している。
【0029】
なお、三元触媒15が活性化したか否かは、三元触媒15の排気下流側で、排気中の酸素濃度を検知して、判断することができる。これは、三元触媒15の下流側に設けられる酸素センサ45を用い、これが三元触媒15の活性化を示す領域の出力を発した際に、出口側排気温度の上昇(酸化反応)が生じたことによるものとして判断している。また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等を検知して三元触媒の温度を推定し、その結果に基づいて三元触媒15の活性化を判断することができる。
【0030】
次に、ECU14の制御機能を説明する。
図2に示すように、ECU14は、運転情報に応じて設定された噴射燃料量Qfの燃料を筒内噴射弁(第1の燃料噴射弁)17と吸気路噴射弁(第2の燃料噴射弁)18とが所定比率αで分割し、各分割噴射量Qf1,Qf2の燃料噴射をそれぞれが行うよう制御する燃料噴射制御手段A1と、点火順序(
図5(b)参照)が1−3−4−2の各気筒の点火プラグ21の点火時期Tspを制御する点火時期制御手段A2と、エンジン回転数Neを制御するエンジン回転数制御手段A3としての機能を備える。
【0031】
ここで燃料噴射制御手段A1は、
図3に示す運転域マップm1を予め設定する。この運転域マップm1では、エンジン回転数(機関回転数)Neと負荷(アクセルペダル開度)θaとに応じた機関運転域が所定の負荷θa1・回転数Ne1以下の低出力側であって、アイドル運転域(ID域)を含む低負荷域EL、この低負荷域ELより所定量大きい負荷θa2・回転数域Ne2にある中出力側の中負荷域EMと、この中負荷域EMより大きい高出力側の高負荷域EHとに分割している。
【0032】
その上で、アイドル運転域(ID域)を含む低負荷域ELを吸気路噴射弁18のみで噴射する第1の噴射域としてのMPIオンリー噴射域K1と設定する。更に、MPIオンリー噴射域K1を超えた高出力側の中、高負荷・回転数域EM,EHを筒内噴射弁17と吸気路噴射弁18が共に噴射する第2の噴射域としてのDI+MPI噴射域K2と設定する。ここでは、低負荷域ELと中、高負荷・回転数域EM,EHとを設定負荷ラインL1により区分けする。ここでは、DI+MPI噴射域を比較的大きく設定しており、中、高負荷・回転数域EM,EHでの加速特性を優先する運転域を拡大している。
【0033】
更に、MPIオンリー噴射域K1とDI+MPI噴射域K2の間、即ち設定負荷ラインL1と重なる位置には、所定幅で後述のタイマーゾーンEtが設定される。
図3のような運転域マップm1を備えた燃料噴射制御手段A1は、低負荷域ELであるMPIオンリー噴射域K1の噴射制御を行う低負荷制御部(MPIオンリー噴射制御部とも記す)A1−1と、中、高負荷回転数域EM,EHであるDI+MPI噴射域K2の噴射制御を行う中、高負荷制御部(DI+MPI噴射制御部とも記す)A1−2と、冷態始動時にID域において、暖気促進のため、所定の暖機時燃料量の燃料噴射を吸気路噴射弁18が行うよう制御する始動制御部A1−3と、低負荷域ELであるMPIオンリー噴射域内で加速値(δθa(n)=θa(n)−θa(n−1))(以後、単に加速値Accと記す)を大、中、小の加速判定値δθaH,δθaM,δθaLにより区分けすると共に、加速値Accに応じて加速増量噴射制御を行う加速制御部A1−4とを備える。
【0034】
ここで、低負荷制御部A1−1は、低負荷域ELであるMPIオンリー域K1において、エンジン回転数Neとアクセルペダル踏込量θaに応じた燃料噴射量Qfを所定の定常燃料量演算マップ(不図示)より求める。更に、この燃料噴射量Qfの燃料を各気筒の吸気路噴射弁(MPI弁)18のみで噴射するMPIオンリー噴射制御(
図5(b)参照)を実行し、エンジン1の低負荷域における回転安定化を図る。
【0035】
中、高負荷制御部(DI+MPI噴射制御部)A1−2は、中、高負荷回転数域EM,EHからなるDI+MPI噴射域K2において、エンジン回転数Neとアクセルペダル踏込量θaに応じた燃料噴射量Qfを所定の定常燃料量演算マップ(不図示)より求める。
更に、その燃料噴射量Qfの燃料を筒内噴射弁17と吸気路噴射弁18が共に噴射するDI+MPI噴射制御(
図6(b)参照)により噴射する。この際、予め設定した分配比率α、例えば、筒内噴射弁17の噴射量Qfが吸気路噴射弁18の噴射量Qfに対し多くなるよう、例えば、6(α):4(1−α)の比率となるように設定して、中、高負荷回転数域EM,EHであるDI+MPI噴射域でのエンジン1の回転安定化を図る。
【0036】
更に、始動制御部A1−3は、始動制御域(ID域:
図3参照)において、クランキング完了前はクランキング時燃料噴射を行なう。ここでは所定の始動時燃料量Qf(
図5(a)にはQfcと記す)を所定の冷態始動用燃料量演算マップ(不図示)で求める。更に、
図5(a)に示すように、始動時燃料量Qf(
図5(a)にはQfcと記す)の1/2の噴射量の燃料を1燃焼サイクルあたり2度(360度毎)の分割噴射時期I1、I2に分けて全筒に同時噴射を行う。なお、この際、点火時期制御手段A2が180度毎の点火時期(Tsp)に全筒同時点火を行い、クランキングが成され早期始動が成される。
【0037】
更に、始動制御部A1−3は、クランキング後の始動制御域(ID域)では、冷態始動時であれば冷態始動時のID時燃料噴射量Qfを、暖気後であれば暖気後のID時燃料噴射量Qfを読み取り、このID時燃料噴射量Qfの燃料を各気筒の吸気路噴射弁18のみで噴射するMPIオンリー噴射制御(
図5(b)参照)を実行し、エンジン1のアイドル運転域における回転安定化を図る。
【0038】
次に、加速制御部A1−4は、エンジン1が低負荷域ELであるMPIオンリー噴射域K1内で運転中に、アクセルペダル踏み込み量である負荷θaの前後制御周期での変化量としての加速状態である加速値Acc(=θa(n)−θa(n−1))を算出し、この加速値Accが所定値Acc1(加速意思を判定できる値として予め設定する)以上の加速判定が成されると加速増量噴射に入り、設定負荷ラインL1と重なるタイマーゾーンEtに入ると、テーリング処理と加速運転処理が加速の程度に応じて下記のように、行なわれる。
ここでのテーリング処理では、
図3に示すように、運転域がMPIオンリー噴射域K1よりDI+MPI噴射域K2に向かう際に、その変化時のアクセルペダル開度θaの変化より加速度Accを求める。
【0039】
ECU14は予め、車両の走行時におけるアクセルペダル開度θaの変化の程度である加速度Accのレベル(加速程度の段階)を、大、中、小のほぼ同等比率で区分して設定している。
ここで、判定された加速(符号a1,a2参照)の状態が所定値を上回る場合、即ち、加速程度が中程度の段階にあると、加速の状態が中程度と見做す。その場合を、
図3中に符号a2として示す。
【0040】
このように、加速の状態が中程度である場合は、テーリング処理のための待ち時間twの経過を待って、即ち、
図8(a)での時点ta2の経過の後に、DI+MPI噴射域K2での筒内噴射弁(第1の燃料噴射弁)17と吸気路噴射弁(第2の燃料噴射弁)18による噴射を行うよう制御する。なお、
図8(a)には、加速判定時ta1よりテーリングを実施し、DI弁(非作動)とMPI弁の噴射比率αを0:10の状態より7:3に段階的に変更し、時点ta2でDI+MPI噴射域K2に入ることで、テーリングを終えて、DI+MPI噴射域K2での通常噴射比率6:4に戻る制御の流れを概略的に示した。
【0041】
なお、
図8(a)には各燃焼サイクルを矩形枠で示し、各燃焼サイクルにおけるエンジン1の運転状態θa,Neに応じ算出された燃料噴射量Qfの燃料を所定の噴射比率α、即ち、DI弁と、MPI弁との各分割噴射量に分けた比率値(0〜10)を上下に分けて記載した。
【0042】
次に、加速値Accのレベル(加速程度の段階)が中程度を上回る大程度と判断され、
図3中に符号a1として示す高レベルにあると判断すると、上述のテーリング処理ではなく、
図8(b)に示すように、加速制御処理に入る、という制御の流れを概略的に示した。
この場合、加速判定時点ta1より、DI+MPI噴射域K2に入るまで、運転情報θa,Neに応じた加速時の加速燃料量Qfを演算し、通常噴射比率と異なり、筒内噴射弁17の燃料噴射量が吸気路噴射弁18の燃料噴射量より多くなる加速時噴射比率α(7:3)でDI弁とMPI弁を燃料噴射作動させる。DI+MPI噴射域K2に時点ta3に達した場合、レベル(加速程度の段階)が大程度のままであれば、
図8(b)に2点差線で示すようにその加速状態を継続する加速制御を行い、レベルが大の状態を離脱すると、DI+MPI噴射域K2での通常噴射比率6:4に戻って噴射作動する。
図8(b)に示されているように、加速制御は、待ち時間twより短い時間の間行われる。
【0043】
次に、本発明の実施の形態に係るエンジン1の燃料噴射装置の作動を、ECU14が行う燃料噴射制御処理として説明する。ここで、燃料噴射量制御ルーチンに先立ちメインルーチンではメインキースイッチのオンと同時に各種の運転情報データを取り込み、所定の格納エリアにストアしている。
しかも、エンジン1が始動時におけるクランキングに入ったことを検出した所定のタイミングで燃料噴射制御ルーチンが開始される。
【0044】
燃料噴射量制御ルーチンでは、燃料噴射制御でのエンジン回転数Ne、アクセル開度θa、スロットル開度θs、水温Tw、空燃比A/F、酸素濃度O2等のエンジン運転情報や、各運転情報に応じた設定値のデータを取り込み、最新データがストアされる。
【0045】
ここでエンジンがクランキング完了か否か判断し、クランキング処理中の時、冷態始動時あるいは暖気後のID時の燃料噴射量Qfcを読み取り、
図5(a)に示すように、始動時燃料量Qfcの噴射を1燃焼サイクルあたり2度(360度毎)の分割噴射時期I
1、I
2(=1/2Qfc)に分けて全筒に同時噴射し、点火プラグ29が180度毎の全筒同時点火を行い、クランキングが成される。
クランキングが完了した際には、低負荷域ELのMPIオンリー域K1内か否かを判断する。
【0046】
低負荷域ELでないときは燃料量演算マップ(不図示)より、現在のエンジン回転数Neとアクセルペダル踏込量θaに応じた燃料噴射量Qfを求める。一方、低負荷域ELと判断した場合は、
図5(b)に示すMPIオンリー噴射域K1での燃料噴射量を設定して噴射作動させる。すなわち、Qf(:10(1−α))でMPI弁のみが噴射駆動を実行し、低負荷での走行中のエンジン1の回転安定化を図る。一方、中、高負荷域EM,EHのDI+MPI噴射域K2である場合は、
図6(b)に示すDI+MPI噴射域での噴射量を設定し、すなわち、筒内噴射弁17の噴射量Qfが6(α)、吸気路噴射弁18の噴射量Qfが4(1−α)の比率となるように設定する。この設定状態で、DI+MPI噴射域での噴射を行なって走行中のエンジンの回転安定化を図り、メインルーチンにリターンする。
【0047】
低負荷域ELのMPIオンリー域K1内の際は、低負荷域ELでの加速判定がなされる。前回と今回のアクセル開度差である現加速値Acc(=θa(n)−θa(n−1))が所定の加速判定値Acc1を上回るか否か判断する。
【0048】
加速値Accが所定値Acc1を上回るとき、加速判定がなされると、ここでの加速が低負荷域ELのMPIオンリー域K1より中、高負荷域EM,EHのDI+MPI噴射域K2への中加速レベルか判断し、即ち、
図3の符号a1、a2の加速か否か判断する。
符号a2の中加速レベルであると、テーリング処理を
図8(a)に示すように行なう。即ち、DI弁17とMPI弁18の噴射率を、加速判定時点ta1より経時的に、α=(0/10〜7/3)を段階的に変化させ、テーリング処理のための待ち時間twの経過を待ってから、テーリングを中止し、メインルーチンにリターンする。
【0049】
この時点では、運転域が中、高負荷域EM,EHのDI+MPI噴射域K2に達しているので、筒内噴射弁17の噴射量Qfが6(α)、吸気路噴射弁18の噴射量Qfが4(1−α)の比率となるように設定する。この設定状態で、DI+MPI噴射域での噴射を行なって走行中のエンジンの回転安定化を図り、メインルーチンにリターンする。
【0050】
一方、加速度Accのレベル(加速程度の段階)が
図3の符号a1の大程度と判断されるとする。
【0051】
ここでは、
図8(b)に示すように、高負荷での加速制御処理に入る。この運転域では、加速判定時点ta1より、DI+MPI噴射域K2に入るまで、運転情報θa,Neに応じた加速時の加速燃料量Qfaを演算し、加速時噴射比率α(7:3)でDI弁とMPI弁を燃料噴射作動させる処理を繰り返す。
【0052】
DI+MPI噴射域K2に達した場合(時点ta3)、2点差線で示すようにその加速状態を継続する。加速値Accのレベルが大程度を脱すると、メインルーチンにリターンするが、この際、現運転域が高負荷域EM,EHのDI+MPI噴射域K2に達しているので、次の制御周期では、
図6(b)に示すように、筒内噴射弁17の噴射量Qfが6(α)、吸気路噴射弁18の噴射量Qfが4(1−α)の比率に設定され、この設定状態で、DI+MPI噴射域での噴射を行なって走行中のエンジンの回転安定化を図る。
【0053】
このように、第1実施形態では、タイマーゾーンEtに入ると、所定待ち時間twの経過後にDI+MPI噴射域K2でのDI弁17とMPI弁18による噴射を行うので、MPIオンリー噴射域K1とDI+MPI噴射域K2との間で加速の程度が頻繁に変動したとしても、所定待ち時間の経過を待つことで第1の燃料噴射弁の駆動切換え頻度を抑えることが出来、DI弁17の噴口回りにデポジットが生じることによる噴射作動不良の発生を防止できる。
更に、加速状態が中程度であって緩やかな加速運転域では、テーリング処理を所定待ち時間twの間行ってから、DI弁17とMPI弁18を噴射駆動するので、緩やかな加速運転域では安定したテーリングを行え、DI弁17の駆動切換え頻度を抑えることが出来、DI弁17の噴口回りにデポジットが堆積することを防止でき、噴射作動不良の発生を確実に防止できる。
【0054】
更に、エンジン1の加速値Accが所定値Acc1を上回る場合に、所定の加速時噴射比率αでDI弁17とMPI弁18を噴射駆動するので、加速応答性が改善される。
更に、MPIオンリー噴射域K1での加速時には、燃焼室6に燃料を噴射するDI弁17の分割噴射量が多くなるので(
図8(a)参照)、加速応答性が改善され、しかも、オーバーラップ時の排気路への未燃燃料の放出を抑制でき無駄な燃料噴射を抑制できる。
【0055】
上述のように、第1実施形態では、低負荷・低回転数域のような比較的狭い燃料噴射域
をオンリー噴射域としたが、場合により、
図4に示すマップm2のように、低、中負荷・低、中回転数域をオンリー噴射域とし比較的広く設定し、高負荷・高回転数域のみDI+MPI噴射域として設定しても良い。この場合も実施形態1と同様の作用効果が得られ、特に、
図4に示すマップm2のように、MPIオンリー噴射域(低、中負荷運転域)が比較的広く、その運転中の加速時において、燃料噴射モードが切り換わる閾線L1での切換えを抑制することとなり、運転域の過度の変更による違和感を低減できる。
更に、第1実施形態での加速制御処理の際、これの変形制御処理として、特に、加速の程度が
図7に示すように、増減頻繁に変動する場合を想定して制御を追加しても良い。
【0056】
即ち、この変形例では、
図7に示すように、MPIオンリー噴射域K1での加速時において、運転域が中レベルに時点ta4に達した際に、不図示のタイマーをセットし、中レベルに入ってから小レベルに増減頻繁に戻る場合は、その区間の時間をカウントし、戻り時間δtが設定値δt1より小さい場合は、運転域がMPIオンリー噴射域K1と見做して、DI弁の作動を抑制するように制御しても良い。この場合、DI弁の微小燃料の噴射を抑えるので、DI弁にデポジットが付着することを抑制することができる。
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。