(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バランサシャフトの回転軸線は、前記変速機構の入力軸の回転軸線と前記補機連結用シャフトの回転軸線とを含む平面よりも前記クランクシャフト側へ偏倚して位置することを特徴とする請求項3に記載の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造。
前記第一ケース半体と前記第二ケース半体との分割面上に位置する回転軸線を有するとともに前記クランクシャフトを挟んで前記変速機構の入力軸に向き合う第二バランサシャフトと、
前記クランクシャフトを挟んで前記バランサシャフトに向き合うポンプ駆動用シャフトと、を備え、
前記バランサシャフトは、前記変速機構の入力軸よりもシリンダ側に位置することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造。
前記変速機構は、前記ミッション室内外へ一体的に挿抜可能なユニット型変速機構であり、回転軸線方向が互いに平行に位置する入力軸および出力軸と、前記入力軸および前記出力軸を支持する軸支持部材と、を備え、
前記軸受保持部は、前記ミッション室内に位置する前記軸支持部材に隣接して位置する軸受保持半部を備え、前記軸受保持半部を取り外すと前記変速機構が位置する空間と前記軸受を保持する軸受保持穴とを連通することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用する自動二輪車を示す左側面図である。
【0016】
なお、本実施形態において、前後、上下、左右の表現は、自動二輪車1に乗車するライダーを基準にする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用する自動二輪車1は、車体フレーム2と、車体フレーム2の前方に位置する前輪5と、車体フレーム2の前方に位置して前輪5を回転自在に軸支するステアリング機構6と、車体フレーム2の後方に位置する後輪7と、車体フレーム2の後方に伸びて後輪7を回転自在に軸支するスイングアーム8と、車体中央下部に位置する内燃機関としてのエンジン10と、を備える。
【0018】
車体フレーム2は、例えばツインチューブ型のものであり、前上端部に位置するヘッドパイプ11の直後で左右方向へ一対に拡開して互いに平行に後斜下方に延びる左右一対のメインフレーム12と、メインフレーム12の後端部に接続して略上下方に延びる左右一対のセンタフレーム13と、センタフレーム13の後上端部から後方に延びる左右一対のシートレール15と、を備える。
【0019】
メインフレーム12は、タンクレールを兼ねており、その上方に位置する燃料タンク16を支持するとともに、燃料タンク16の下方にエンジン10を懸架する。シートレール15は、その上方前半部に位置するライダシート17および上方後半部に位置するピリオンシート18を支持する。また、メインフレーム12は、左右のセンタフレーム13の略中央下部に架かりスイングアーム8を上下方向へ揺動自在に軸支するピボット軸19を備える。
【0020】
ステアリング機構6は、サスペンション機構(図示省略)を内装して前輪5を回動自在に支持する左右一対のフロントフォーク21と、ハンドルバー22と、を備える。ライダーは、ハンドルバー22によって前輪5を左右に操舵する。
【0021】
エンジン10は、車体の後方に延びてエンジン10の排気ガスを排出するエキゾーストパイプ25に接続する。エキゾーストパイプ25の後端は、排気マフラ26に接続する。
【0022】
後輪7は、ドリブンスプロケット27を備える。
【0023】
また、自動二輪車1は、ドリブンスプロケット27に巻掛かりエンジン10から駆動力を伝達するドライブチェーン28を備える。
【0024】
さらに、自動二輪車1は、車体の前部を覆う流線形のカウリング29を備える。カウリング29は、走行中の空気抵抗を低減し、走行風圧からライダーを保護する。
【0025】
次に、自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジン10について詳細に説明する。
【0026】
図2は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンを示す右側面図である。
【0027】
図2に示すように、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジン10は、4サイクル多気筒エンジン、例えば4サイクル直列4気筒エンジンであり、クランクケース31と、シリンダブロック32と、シリンダヘッド33と、ヘッドカバー35と、オイルパン36と、クラッチ機構37と、を備える。
【0028】
クランクケース31は、上下に2分割可能であり、第一ケース半体としてのアッパクランクケース38と第二ケース半体としてのロアクランクケース39とを備える。
【0029】
シリンダブロック32は、アッパクランクケース38の上部に位置し、直立よりやや前傾している。シリンダブロック32は、ピストン(図示省略)を略上下方向に摺動自在に収納するシリンダボア(図示省略)を有する。
【0030】
シリンダヘッド33は、シリンダボアの上方を塞ぎ、ピストンとの間に燃焼室(図示省略)を仕切る。ピストンは、燃焼室内で周期的に起きる混合気の燃焼によって往復運動する。
【0031】
オイルパン36は、ロアクランクケース39の下部に組み付く。
【0032】
クラッチ機構37は、乾式クラッチである。クラッチカバー41は、クランクケース31の側壁に組み付いてクラッチ機構37を部分的に覆う。
【0033】
図3は、
図2のIII−III線において、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンを示す断面図である。
【0034】
図2および
図3に示すように、エンジン10は、クランクシャフト42と、変速機構43の入力軸45および出力軸46と、第一バランサシャフト48と、第二バランサシャフト49と、補機連結用シャフトとしてのジェネレータシャフト51と、ポンプ駆動用シャフト52と、を備える。
【0035】
クランクシャフト42、入力軸45、出力軸46、第一バランサシャフト48、第二バランサシャフト49、ジェネレータシャフト51およびポンプ駆動用シャフト52の各中心軸線は相互に平行に位置してエンジン10の幅方向に延びる。
【0036】
クランクシャフト42、入力軸45および第二バランサシャフト49は、アッパクランクケース38とロアクランクケース39との分割面53上に位置する回転軸線を有する。換言すれば、クランクケース31の分割面53は、クランクシャフト42、入力軸45および第二バランサシャフト49のそれぞれの回転軸線を含む平面上に位置する。
【0037】
クランクシャフト42は、アッパクランクケース38とロアクランクケース39とが協働して仕切るクランク室54内にある。クランクシャフト42は、シリンダブロック32の下方、より詳しくはシリンダ中心線の延長線と分割面53とが交わる位置の近傍に回転軸線を位置する。クランクケース31は、アッパクランクケース38の軸受半部55aとロアクランクケース39の軸受半部(図示省略)を有してクランクシャフト42を回転自在に軸支するジャーナル軸受55を備える。
【0038】
また、クランクシャフト42は、コンロッド56を介してピストンに連結し、ピストンの往復運動を回転運動に変換する。クランクシャフト42は、入力軸45に回転力を伝える回転一体のプライマリドライブギア58を備える。
【0039】
入力軸45は、クランクシャフト42の後方に位置し、クラッチ機構37に接続する。入力軸45は、プライマリドライブギア58に噛み合うプライマリドリブンギア59を回転自在に軸支する。また、入力軸45は、複数段のミッションドライブギア61を備える。
【0040】
クラッチ機構37は、アッパクランクケース38およびロアクランクケース39が協働して仕切るクラッチ室81内に位置する。クラッチ機構37は、プライマリドリブンギア59を備える。クラッチ機構37は、その断続によって入力軸45に対しプライマリドリブンギア59を回転一体化または回転自在化し、クランクシャフト42と入力軸45との回転力を伝達または遮断する。
【0041】
ジェネレータシャフト51は、入力軸45の斜め前上方に位置する。ジェネレータシャフト51は、プライマリドリブンギア59に噛み合う回転一体のジェネレータドリブンギア62と、第一バランサシャフト48に回転力を伝える回転一体のバランサドライブギア63と、を備える。ジェネレータシャフト51は、補機としてのジェネレータ65に接続する。ジェネレータシャフト51は、ジェネレータ65を回転駆動して発電を促す。なお、ジェネレータシャフト51は、ジェネレータ65の他に補機として、例えば停止中のエンジン10を始動するスタータモータ(図示省略)を接続できる。
【0042】
第一バランサシャフト48は、クランクケース31の分割面53から離間する回転軸線を有し、変速機構43の入力軸45よりもシリンダ側に位置する。第一バランサシャフト48の回転軸線は、入力軸45の回転軸線とジェネレータシャフト51の回転軸線とを含む平面よりもクランクシャフト42側へ偏倚して位置する。第一バランサシャフト48は、クランクシャフト42と入力軸45との間に位置し、かつ入力軸45とジェネレータシャフト51との間に位置する。第一バランサシャフト48は、バランサドライブギア63に噛み合う回転一体の第一バランサドリブンギア67を備える。
【0043】
すなわち、クランクシャフト42の回転力は、変速機構43を介して第一バランサシャフト48へ伝わる。より具体的には、クランクシャフト42の回転力は、プライマリドライブギア58、プライマリドリブンギア59、ジェネレータドリブンギア62、ジェネレータシャフト51、バランサドライブギア63および第一バランサドリブンギア67を順次に経て第一バランサシャフト48へ伝わる。
【0044】
ジェネレータドリブンギア62は、プライマリドライブギア58と同じ諸元(同一の直径および歯数)の歯車であり、ジェネレータシャフト51をクランクシャフト42と同一回転速度、かつ同一方向に回転駆動する。一方、第一バランサドリブンギア67は、バランサドライブギア63と同じ諸元(同一の直径および歯数)の歯車であり、第一バランサシャフト48をジェネレータシャフト51と同一回転速度、かつ反対方向に回転駆動する。ひいては、第一バランサシャフト48は、クランクシャフト42と同一回転速度、かつ反対方向に回転駆動する。
【0045】
他方、第二バランサシャフト49は、クランクシャフト42の前方に位置し、クランクシャフト42を挟んで変速機構43の入力軸45に向き合う。クランクケース31は、アッパクランクケース38の軸受半部71aとロアクランクケース39の軸受半部(図示省略)を有してクランクシャフト42を回転自在に軸支するジャーナル軸受71を備え、クランクシャフト42と同じように第二バランサシャフト49を回転自在に軸支する。
【0046】
また、第二バランサシャフト49は、プライマリドライブギア58に噛み合う回転一体の第二バランサドリブンギア72を備える。第二バランサドリブンギア72は、プライマリドライブギア58と同じ諸元(同一の直径および歯数)の歯車であり、第二バランサシャフト49をクランクシャフト42と同一回転速度、かつ反対方向に回転駆動する。
【0047】
ポンプ駆動用シャフト52は、第二バランサシャフト49の前方に位置し、クランクシャフト42を挟んで第一バランサシャフト48に向き合う。ポンプ駆動用シャフト52は、第二バランサドリブンギア72に噛み合うポンプドリブンギア(図示省略)を備える。ポンプ駆動用シャフト52は、油ポンプ(図示省略)を駆動してオイルパン36からエンジンオイルをくみ上げてエンジン10の各部に供給する。
【0048】
ところで、エンジン10は、複数(本実施形態では4つ)の気筒間における爆発タイミングの間隔が異なる不等間隔爆発エンジンであり、クランクシャフト42にトルク変動を生じ、このトルク変動にともなう不等間隔のリズムで後輪7が路面をグリップして等間隔爆発エンジンよりもトラクションを得る。ただし、不等間隔爆発エンジンは、ピストンの往復運動にともなう慣性力の他に、クランクシャフト42のクランクウェイト42aの回転慣性によってエンジン10の1次振動が増大する。そこで、エンジン10は、エンジン10の1次振動を抑制するため、クランクシャフトの回転慣性を打ち消す振動抑制機構としての第一バランサシャフト48および第二バランサシャフト49を備える。第一バランサシャフト48および第二バランサシャフト49は、クランクシャフト42と同一の回転速度で反対方向に回転することによって、ピストンおよびクランクウェイト42aに生じる慣性力を相殺してエンジン10の1次振動を抑制する。
【0049】
第一バランサシャフト48は、貫通孔73aを有する第一バランサウェイト73と、貫通孔73aを貫き第一バランサウェイト73と回転一体の第一バランサ支持軸75と、を備える。他方、第二バランサシャフト49は、貫通孔76aを有する第二バランサウェイト76と、貫通孔76aを貫き第二バランサウェイト76と回転一体の第二バランサ支持軸77と、を備える。
【0050】
そして、クランクケース31は、ジャーナル軸受71(すなわち、アッパクランクケース38の軸受半部71aおよびロアクランクケース39の軸受半部)によって第二バランサシャフト49を挟み込むようにして軸支することで第二バランサシャフト49の回転精度を高める。
【0051】
他方、第一バランサシャフト48は、クランクケース31の分割面53から離間する回転軸線を有するため、第二バランサシャフト49のようにアッパクランクケース38とロアクランクケース39とで挟み込むことが難しい。
【0052】
そこで、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、第一バランサシャフト48を軸支する軸受78と、軸受78を保持するとともに分割可能な軸受保持部79と、を備える。
【0053】
次に、軸受78および軸受保持部79について詳細に説明する。
【0054】
図4および
図5は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンを示す右側面図である。
【0055】
図6は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンのクラッチ室を示す斜視図である。
【0056】
図4に示すように、エンジン10は、クランクケース31からクラッチカバー41を取り外すと、エンジン10の右側方に向けてクラッチ機構37を露出する。そして、クラッチ機構37は、第一バランサシャフト48の回転軸線方向視において軸受78に覆い被さる。
【0057】
次に、
図5および
図6に示すように、エンジン10は、入力軸45からプライマリドライブギア58およびクラッチ機構37を一体的に取り外すと、エンジン10の右側方に向けて第一バランサシャフト48を軸支する軸受78および軸受保持部79と、変速機構43とを露出する。なお、
図6は、軸受78の図示を省略している。
【0058】
軸受保持部79は、ミッション室82内に位置するミッションカバー85に隣接して位置する第一軸受保持半部79aと、クランクケース31(より詳しくは、アッパクランクケース38)に一体の第二軸受保持半部79bと、第一軸受保持半部79aと第二軸受保持半部79bとを結合する締結部材95と、を備える。なお、第二軸受保持半部79bもクランクケース31から取り外すことができるようにしても良い。
【0059】
図7は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンを示す斜視図である。
【0060】
図7に示すように、エンジン10の変速機構43は、アッパクランクケース38およびロアクランクケース39が協働して仕切るミッション室82内外へ一体的に挿抜可能なユニット型変速機構である。変速機構43は、回転軸線方向が互いに平行に位置する入力軸45および出力軸46と、入力軸45および出力軸46を支持する軸支持部材としてのミッションカバー85と、シフト機構86と、を備える。
【0061】
出力軸46は、入力軸45の下方に位置する。また、出力軸46は、入力軸45のミッションドライブギア61に噛み合う複数段のミッションドリブンギア88と、ドライブスプロケット89と、を備える。ドライブスプロケット89は、クランクケース31の左側方外側に突出する出力軸46の左側の軸端部に位置する。ドライブスプロケット89は、ドライブチェーン28を介してドリブンスプロケット27にエンジン10の駆動力を伝達し後輪7を駆動する。すなわち、エンジン10が発生するクランクシャフト42の回転力(エンジン10の駆動力)は、プライマリドライブギア58、プライマリドリブンギア59およびクラッチ機構37を経て入力軸45に伝わり、ミッションドライブギア61およびミッションドリブンギア88で回転数およびトルクを調整し、出力軸46へ伝わる。この後、エンジン10の駆動力は、ドライブスプロケット89、ドライブチェーン28およびドリブンスプロケット27を順次に経て後輪7に伝わる。
【0062】
シフト機構86は、出力軸46に平行な回転軸線を有するシフトカム91と、シフトカム91に平行な中心線を有するシフトフォークシャフト92と、シフトカム91によってシフトフォークシャフト92の中心線方向へ移動してミッションドリブンギア88のいずれかを出力軸46に回転一体化するシフトフォーク93と、を備える。
【0063】
一方、軸受保持部79は、ミッション室82から変速機構43を取り出すと第一軸受保持半部79aと第二軸受保持半部79bとを分割可能な状態になる。
【0064】
図8は、本発明の実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造を適用するエンジンを示す斜視図である。
【0065】
図8に示すように、自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造の軸受保持部79は、締結部材95の締結を解除し、第二軸受保持半部79bから第一軸受保持半部79aを取り外すと、変速機構43が位置する空間と軸受78を保持する軸受保持穴79cとを連通する。この状態において、第一バランサシャフト48は、変速機構43が位置する空間を経て(
図8中の破線矢)ミッション室82内外に容易に配置あるいは取り出すことができる。
【0066】
本実施形態に係る軸受保持部79は、第一軸受保持半部79aと第二軸受保持半部79bとを結合して軸受78を挟み込むように保持するので、軸受保持部79と軸受78との間に僅かな隙間もなく強固に軸受78を保持することができる。ひいては、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、軸受78の保持に係る寸法精度を高め、第一バランサシャフト48の回転精度を高めることができる。
【0067】
このように構成された本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、第一バランサシャフト48を軸支する軸受78を分割可能な軸受保持部79で挟み込むように保持することによって、従来の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造が必要とした余裕のある隙間を必要とせず、第一バランサシャフト48の組付精度を高め、ひいては回転精度を高めて振動や異音の発生を防止できる。
【0068】
ここで、従来の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、クランクケースの分割面から離間しているためにバランサシャフトの組み付けに際して余裕のある隙間を要するにもかかわらず、当該バランサシャフトをクランクシャフトとともにクランク室に納める。このような従来の自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、バランサシャフト、支持軸および軸受に対する熱入力が大きく、熱膨張差によって隙間が拡大してバランサシャフトの回転精度がますます低下し、振動や異音を発生し易くなる虞があった。
【0069】
そこで、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、第一バランサシャフト48をクランク室54とは別のミッション室82側へ配置し、しかも変速機構43を介して回転力を伝達することで、クランク室54あるいはクランクシャフト42から伝わる熱を抑制し、ひいては熱影響による第一バランサシャフト48の回転精度の低下を抑制し、ひいては回転精度を高めて振動や異音の発生を防止できる。
【0070】
また、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、クラッチ室81に外気を導入して乾式クラッチであるクラッチ機構37を冷却するところ、第一バランサシャフト48の軸受78に塵埃や泥砂が付着しないよう軸受78をクラッチ機構37で隠蔽し、軸受78が機能を喪失することのないよう保護できる。なお、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、湿式のクラッチを適用する場合、プライマリドリブンギア59の外周の一部を浸漬するようクラッチ室81の底部にエンジンオイルを貯留する。プライマリドリブンギア59は、入力軸45の回転にともなってクラッチ室81内のエンジンオイルを掻き揚げ、クラッチ室81内にエンジンオイルを飛散し、軸受78を適宜に潤滑できる。
【0071】
さらに、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、クランクシャフト42の回転力を第一バランサシャフト48へ伝えるジェネレータシャフト51によって第一バランサシャフト48と入力軸45との回転軸線間距離を近づけ、エンジン10の小型化に寄与する。従来のエンジンの場合、一般的に補機を駆動する回転軸と変速機構の入力軸との間に追加的な歯車(所謂、アイドルギア)を配置して相互軸間の回転力を伝達するため、追加的な歯車によって部品点数が増加するとともにエンジンが大型化してしまうところ、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、ジェネレータシャフト51を介してクランクシャフト42の回転力を第一バランサシャフト48へ伝えることで、動力伝達経路の部品点数を削減できるとともに、エンジン10の小型化に寄与できる。
【0072】
さらにまた、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、第一バランサシャフト48の回転軸線を入力軸45の回転軸線とジェネレータシャフト51の回転軸線とを含む平面よりもクランクシャフト42側へ偏倚して位置することによって、エンジン10の重心位置をおおよそクランクシャフト42の近傍に近づけることができる。ここで、変速機構の入力軸、バランサシャフトおよびジェネレータシャフトなどが直線状に並ぶなどして重心位置がクランクシャフトから大きく離れたエンジンは、車体フレームにエンジンを懸架するための生産機械(特にロボットアーム等の先端に取り付けるエンジン保持用治具)に過大なモーメント荷重が作用して当該生産機械の故障を生じる虞があった。また、このようなエンジンは、安全上の理由から、重心位置を考慮して多方向から保持可能な専用の特殊な治具を準備する必要を生じ、製造コストを押し上げることにもなる。そこで、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、エンジン10の重心位置をおおよそクランクシャフト42の近傍に近づけることによって、生産機械の故障を防ぎ、専用の特殊な治具を不要にして余分な製造コストの増加を防ぐことができる。
【0073】
また、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、クランクケース31の分割面53上に位置する回転軸線を有するとともにクランクシャフト42を挟んで入力軸45に向き合う第二バランサシャフト49、クランクシャフト42を挟んで第一バランサシャフト48に向き合うポンプ駆動用シャフト52、入力軸45よりもシリンダ側に位置する第一バランサシャフト48によって、クランクシャフト42を基準にクランクシャフト42、入力軸45、出力軸46、第一バランサシャフト48、第二バランサシャフト49、ジェネレータシャフト51およびポンプ駆動用シャフト52を前後上下方に偏ることなく配置することができるため、エンジン10の重心位置をおおよそクランクシャフト42の近傍に近づけることができる。
【0074】
さらに、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、一体的に挿抜可能なユニット型の変速機構43を備え、第一軸受保持半部79aを取り外すと変速機構43が位置する空間と軸受78を保持する軸受保持穴79cとを連通することによって、第一バランサシャフト48の着脱に要する作業スペースを確保できるとともに、当該作業の際に第一バランサシャフト48に比べて極めて大きい容積を有する変速機構43が位置する空間を経由することで第一バランサシャフト48をクランクケース31に接触することなく容易に着脱できる。また、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造は、第一バランサシャフト48の着脱に要する作業スペースを変速機構43が位置する空間で賄うことによって、第一バランサシャフト48の着脱に要する余分な空間を必要とせず、ひいてはエンジン10の小型化に寄与できる。
【0075】
したがって、本実施形態に係る自動二輪車用エンジンのバランサシャフト支持構造によれば、クランクケース31にバランサシャフト48、49を高い精度で組み付け、振動や異音の発生を防止できる。