特許第5736832号(P5736832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736832
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】多段変速式作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/42 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   F16H63/42
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-35704(P2011-35704)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-172770(P2012-172770A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078260
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 レイ子
(74)【代理人】
【識別番号】100086450
【弁理士】
【氏名又は名称】菊谷 公男
(72)【発明者】
【氏名】楫野 豊
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−012833(JP,A)
【文献】 特開2004−251351(JP,A)
【文献】 特開2002−188713(JP,A)
【文献】 特開2006−070983(JP,A)
【文献】 特開2007−30779(JP,A)
【文献】 特開2010−285150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12;61/16−61/24
61/66−61/70;63/40−63/50
B60K 20/00−20/08;23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段変速構成の伝動系を切換えて作業車速域を設定する副変速部(D)と、この副変速部(D)の各変速段について多段変速構成の伝動系を切換えて一定速度の作業車速を設定する多段変速構成の主変速部(B,C)とからなる多段変速伝動装置を備えてエンジン動力を走行部(6,7)に変速伝動する多段変速式作業車両において、
上記副変速部(D)の変速段と主変速部(B,C)の変速段との組合わせ別に走行時間を通算し、その中で走行時間が最長となる変速段の組合わせを不揮発記録する共通メモリと、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリとを設け、
これらのメモリのいずれかを選択するワンタッチ耕耘スイッチ(163)を設け、当該スイッチ(163)により選択した共通メモリ若しくは特定メモリに記録された変速段の組合せを呼び出して、呼び出した変速段に再設定する制御部を備えたことを特徴とする多段変速式作業車両。
【請求項2】
多段変速構成の伝動系を切換えて作業車速域を設定する副変速部(D)と、この副変速部(D)の各変速段について多段変速構成の伝動系を切換えて一定速度の作業車速を設定する多段変速構成の主変速部(B,C)とからなる多段変速伝動装置を備えてエンジン動力を走行部(6,7)に変速伝動する多段変速式作業車両において、
上記多段変速伝動装置には、多段変速構成の伝動系を切換えてエンジン動力を作業機に変速伝動するPTO変速部(G)を設け、PTO回転数とエンジン回転数とから算出したPTO変速部(G)の変速段と、上記副変速部(D)及び主変速部(B,C)の変速段との、それぞれの変速段の組合わせ別に走行時間を通算し、その中で走行時間が最長となる変速段の組合わせを不揮発記録する共通メモリと、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリとを設け、
これらのメモリのいずれかを選択するワンタッチ耕耘スイッチ(163)を設け、当該スイッチ(163)により選択した共通メモリ若しくは特定メモリに記録された変速段の組合せを呼び出して、呼び出した変速段に再設定する制御部を備えたことを特徴とする多段変速式作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、変速段の組合わせ別の走行時間について長い方から複数の組合わせにつ
いて不揮発記録し、その記録された変速段の複数の組合わせから選択した変速段に再設定することを特徴とする請求項1、2いずれかに記載の多段変速式作業車両。
【請求項4】
削除
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車速を多段に切替える変速伝動装置を備えた多段変速式作業車両に関す
るものである。
【背景技術】
【0002】
走行車速を多段に切替える変速伝動装置を備えた多段変速式作業車両に関し、シフトレ
バーの切替え操作を要することなく、スイッチ操作により増減速して所要の車速を選択で
きるものにあっては、特許文献1に記載の作業車両の如く、作業に合わせて選択した変速
段位置を記録しておいて、その変速段位置に再設定するメモリ変速方式とすることによ
り、中断した作業を再開する際に、作業に合わせた再度の車速調節を要することなく、自
動的に変速位置を再設定して迅速に作業を開始することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−251351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のメモリ変速方式は、シフトレバーを手動操作して変速段を切替
える所謂スタンダード仕様の変速伝動装置の場合には適用できないことから、中断した作
業を再開する場合であっても、作業開始の都度、作業に合わせて再度の変速調節が必要と
なり、また、圃場の整地作業を前年と同様に行う場合等において、作業者における過去の
記憶が当てにならないことから、シフトレバーを手動操作して適宜の変速段で試しながら
安定した整地走行ができるまで調節する試行調節作業に時間を取られるという問題があっ
た。
【0005】
特に、圃場規模が小さくて作業量が少ない事業場では、多くが上記スタンダード仕様に
よるものであることから、それ故に、本来の作業時間に比して試行調節作業が大きな時間
を占め、全体としての作業能率が確保できないという結果に至る場合があった。
【0006】
本発明の目的は、シフトレバーを手動操作して変速段を切替える変速伝動装置の場合に
あって、効率の良い変速調節作業によって迅速な作業再開を可能とする多段変速式作業車
両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、多段変速構成の伝動系を切換えて作業車速域を設定する副変速
部(D)と、この副変速部(D)の各変速段について多段変速構成の伝動系を切換えて一
定速度の作業車速を設定する多段変速構成の主変速部(B,C)とからなる多段変速伝動
装置を備えてエンジン動力を走行部(6,7)に変速伝動する多段変速式作業車両におい
て、
上記副変速部(D)の変速段と主変速部(B,C)の変速段との組合わせ別に走行時間を通算し、その中で走行時間が最長となる変速段の組合わせを不揮発記録する共通メモリと、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリとを設け、
これらのメモリのいずれかを選択するワンタッチ耕耘スイッチ(163)を設け、当該スイッチ(163)により選択した共通メモリ若しくは特定メモリに記録された変速段の組合せを呼び出して、呼び出した変速段に再設定する制御部を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記多段変速伝動装置の主変速部と副変速部の変速段をそれぞれ選択して一定速度で作
業走行すると、その走行時間が副変速部と主変速部の変速段の組合わせ別に通算されてそ
の中の最長となる変速段の組合わせが記録され、作業走行のそれぞれの時点までの範囲で
最高頻度の変速段の組合わせが再設定される。
【0009】
請求項2に係る発明は、多段変速構成の伝動系を切換えて作業車速域を設定する副変速
部(D)と、この副変速部(D)の各変速段について多段変速構成の伝動系を切換えて一
定速度の作業車速を設定する多段変速構成の主変速部(B,C)とからなる多段変速伝動
装置を備えてエンジン動力を走行部(6,7)に変速伝動する多段変速式作業車両におい
て、
上記多段変速伝動装置には、多段変速構成の伝動系を切換えてエンジン動力を作業機に変速伝動するPTO変速部(G)を設け、PTO回転数とエンジン回転数とから算出したPTO変速部(G)の変速段と、上記副変速部(D)及び主変速部(B,C)の変速段との、それぞれの変速段の組合わせ別に走行時間を通算し、その中で走行時間が最長となる変速段の組合わせを不揮発記録する共通メモリと、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリとを設け、
これらのメモリのいずれかを選択するワンタッチ耕耘スイッチ(163)を設け、当該スイッチ(163)により選択した共通メモリ若しくは特定メモリに記録された変速段の組合せを呼び出して、呼び出した変速段に再設定する制御部を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記多段変速伝動装置の主変速部、副変速およびPTO変速部の変速段をそれぞれ選択
して一定速度で作業走行すると、その走行時間が主変速部、副変速およびPTO変速部の
それぞれの変速段の組合わせ別に通算されてその中の最長となる変速段の組合わせが記録
され、作業走行のそれぞれの時点までの範囲で最高頻度の変速段の組合わせが再設定される。
【0011】
また請求項2に係る発明では、前記制御部は、PTO回転数とエンジン回転数とからPTO変速部(G)の変速段を算出することを特徴とする。
上記PTO変速部の変速段は、PTO回転数とエンジン回転数とを用いて算出される。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項1〜2の構成において、前記制御部は、変速段の組合わせ別の走行時間について長い方から複数の組合わせについて不揮発記録し、その記録された変速段の複数の組合わせから選択した変速段に再設定することを特徴とする。
上記多段変速式作業車両は、変速伝動装置の変速段の組合わせの中で稼動頻度の高い複
数の組合わせから選択した変速段に再設定される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明により、上記多段変速伝動装置の主変速部と副変速部の変速段をそ
れぞれ選択して一定速度で作業走行すると、その走行時間が副変速部と主変速部の変速段
の組合わせ別に通算されてその中の最長となる変速段の組合わせ、すなわち作業走行のそれぞれの時点までの範囲で最高頻度の変速段の組合わせが共通メモリに記録される。そしてワンタッチ耕耘スイッチ(163)共通メモリの組み合わせを選択すれば、作業走行の中断後においても、それまでの最高頻度の変速状態に直ちに再設定でき、これにより迅速な作業開始が可能となる。
これらに加えて、請求項1に係る発明では、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリを備え、共通メモリと特定メモリが選択可能になっているため、作業の実績に基づく再設定か作業者の好みに基づく再設定か、いづれかを選択することにより幅広い状況に対応が可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明により、上記多段変速伝動装置の主変速部、副変速およびPTO変
速部の変速段をそれぞれ選択して一定速度で作業走行すると、その走行時間が主変速部、
副変速およびPTO変速部のそれぞれの変速段の組合わせ別に通算されてその中の最長と
なる変速段の組合わせ、すなわち作業走行のそれぞれの時点までの範囲で最高頻度の変速段の組合わせが共通メモリに記録される。そしてワンタッチ耕耘スイッチ(163)共通メモリの組み合わせを選択すれば、作業走行の中断後においても、それまでの最高頻度の変速状態に直ちに再設定でき、これにより迅速な作業開始が可能となる。
これらに加えて、請求項2に係る発明では、作業者による任意の変速段の組合わせを不揮発記録する特定メモリを備え、共通メモリと特定メモリが選択可能になっているため、作業の実績に基づく再設定か作業者の好みに基づく再設定か、いづれかを選択することにより幅広い状況に対応が可能となる。
またPTO回転数とエンジン回転数とを用いることにより、PTO変速位置を検出するための特段のセンサ部材を要することなく、PTO変速部の変速段を算出することができる。
【0015】
削除
【0016】
請求項に係る発明により、請求項1〜2の効果に加え、変速伝動装置の変速段の組合わせの中で稼動頻度の高い複数の組合わせから選択した組合せに再設定できるので、上記多段変速式作業車両は、作業状態によって変速段の変動を伴う作業走行についてカバーすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トラクタの側面図
図2】トランスミッションの伝動系統展開線図
図3】操作卓の要部斜視図
図4】作業記録システムの構成ブロック図
図5】作業記録システムの制御フローチャート
図6】PTO変速部を加えた図5と同様の制御処理のフローチャート
図7】PTO回転数の特性線図
図8】変速段の組合わせの表示例
図9】付帯情報の表示例
図10】作業状態を再設定する制御処理のフローチャート
図11】作業状態の判別処理のフローチャート
図12】ロータリ作業のための再設定処理のフローチャート
図13】ロータリ作業のための別の制御処理のフローチャート
図14】スイッチパネルの見取図
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつ
つ説明する。
図1は、本発明の適用対象となる作業車の一例として示すトラクタの全体側面図で、機
体前部のボンネット1内に搭載したコモンレール式のディゼルエンジン2の動力を、PT
O軸回転一定ミッションケース3A(第1ミッションケース)、或いはPTO軸回転車速
対応型ミッションケース3B(第2ミッションケース)内で適宜に変速して前輪軸4と後
輪軸5に伝動し、前輪6と後輪7の両方或は後輪7のみを駆動する構成としている。機体
上のキャビン26内に設ける操縦席10に座った作業者が、中央に立設するステアリング
ハンドル8を操作して前輪6を操向しながら走行する。機体の後方へ突出するヒッチ9に
は、ロータリ耕うん機などの作業機を装着し、前記ミッションケース3A(3B)から後
方へ向かって突出するPTO軸11でヒッチ9に装着する作業機を駆動する。
【0019】
図2は、PTO変速機構Gを備えている第1ミッションケース3A内の動力伝動線図で
ある。前後進について走行動力を8段に変速出力し、また、作業機動力は、PTO軸11
からの出力回転数を複数段(正転3段、逆転1段)に変速して、一定回転で駆動する構成
である。これら走行動力および作業機動力はシフトレバーの操作によって変速する所謂ス
タンダード仕様に構成する。以下、全体構成を説明する。
【0020】
エンジン2の回転出力は、エンジン2の出力軸に継手105で連結しているメイン入力
軸13に入力される。このメイン入力軸13においては、第1メインギヤ106と、第2
メインギヤ108、及び第3メインギヤ20が固着している。第1メインギヤ106が油
圧前後進クラッチAの正転ギヤ107と噛み合い、第2メインギヤ108が第1カウンタ
ギヤ18を介して油圧前後進クラッチAの逆転ギヤ19と噛み合っている。第3メインギ
ヤ20がPTOクラッチFのPTO入力ギヤ21と噛み合って動力伝動する構成としてい
る。
【0021】
従って、油圧前後進クラッチAの前進クラッチA1を入れると油圧前後進クラッチAを
装着した第1メイン軸23が正転し、後進クラッチA2を入れると第1メイン軸23が逆
転し、PTOクラッチFを入れるとPTOクラッチ軸103が回転する。
【0022】
第1メイン軸23の回転は、油圧4段に変速する変速クラッチ装置Bと、高低2段に変
速する高低油圧切換クラッチCと、機械式に4段変速する4段変速装置D(副変速装置)
を通過して変速され、走行最終変速軸であるベベルギヤ軸14に伝動される構成である。
従って、変速段が4段変速(変速クラッチ装置B),2段変速(高低油圧切換クラッチC
),4段変速(副変速装置D)の構成であるので、4×2×4=32の合計32段で変速
される構成である。主変速装置の1速から8速は、油圧4段に変速する変速クラッチ装置
Bと、高低2段に変速する高低油圧切換クラッチCとの組み合わせの変速段のことを示し
ている。
【0023】
ベベルギヤ軸14から伝動される前輪6の回転は、増速クラッチEで後輪7よりも早く
回転可能である。前記副変速装置Dは、1速(超低速),2速(低速),3速(中速),
4速(高速)に変速可能であるが、2速(低速),3速(中速),4速(高速)間の変速
についてはシンクロ機構が入っているので、停車することなく変速可能である。また、前
記副変速装置Dにおいては、3段仕様にすることもある。3段仕様については、機種に応
じて1速(低速),2速(中速),3速(高速)仕様や、2速(低速),3速(中速),
4速(高速)仕様などがあり、副変速装置Dの部分の構成のみを変更することで、容易に
仕様変更が可能な構成としている。
【0024】
メイン入力軸13から第3メインギヤ20とPTO入力ギヤ21で伝動されるPTOク
ラッチ軸103の回転は、PTOクラッチFから第1PTO軸22に伝動され、PTO変
速機構Gで正転3段と逆転1段に変速される。
【0025】
以下、動力伝動機構を詳細に説明する。
油圧前後進クラッチA(前進クラッチA1と後進クラッチA2)で伝動された第1メイ
ン軸23の回転は、軸端に固着した第1ギヤ15から第1変速軸24の第1変速ギヤ16
を介して第1変速軸24に伝達される。この第1変速軸24には、油圧4段変速の変速ク
ラッチ装置Bの1速・3速用変速クラッチB1が装着されている。また、前記第1ギヤ1
5から第2変速軸25の第2変速ギヤ17を介して第2変速軸25に伝達される。この第
2変速軸25には、油圧4段変速の変速クラッチ装置Bの2速・4速用変速クラッチB2
が装着されている。
【0026】
第1変速軸24と第2変速軸25の回転を第2メイン軸42に伝達する構成について説
明する。
1速クラッチB11を繋ぐと、第7ギヤ40から第2メイン軸42にスプライン嵌合し
た第6ギヤ39に伝動されて第2メイン軸42を回転する。2速クラッチB22を繋ぐと
、第9ギヤ38から第2メイン軸42にスプライン嵌合した第8ギヤ37に伝動して第2
メイン軸42を回転する。
【0027】
3速クラッチB13を繋ぐと、第11ギヤ31から第2メイン軸42にスプライン嵌合
した第10ギヤ30に伝動して第2メイン軸42を回転する。4速クラッチB24を繋ぐ
と、第13ギヤ36から第2メイン軸42にスプライン嵌合した第12ギヤ41に伝動し
て第2メイン軸42を回転する構成としている。
【0028】
第2メイン軸42の回転は、第1継手43で高低切換軸44に伝動される。高低切換軸
44には、高低油圧切換クラッチCが設けられている。この高低油圧切換クラッチCの高
速クラッチC1を繋ぐと、高速クラッチギヤ45から第1カウンタ軸47の第14ギヤ4
6に伝動され、高低油圧切換クラッチCの低速クラッチC2を繋ぐと、低速クラッチギヤ
48からカウンタ軸47の第16ギヤ49に伝動される。
【0029】
油圧高低切換クラッチCを駆動側軸に装着することで、機械式4段変速装置D(副変速
装置)の変速時に切る油圧高低切換クラッチCの慣性回転力を少なく出来て、機械式4段
変速装置D(副変速装置)のシンクロ機能が良好になる。
【0030】
また、高低油圧切換クラッチCを、油圧4段変速の変速クラッチ装置Bと機械式4段変
速装置D(副変速装置)との間に設けることで、油圧4段変速の変速クラッチ装置Bを2
重噛みで慣性回転を止めて油圧高低切換クラッチCを切ることで、機械式4段変速装置D
(副変速装置)のシンクロ機能が良好に働き、変速が良好に行えるようになる。
【0031】
第1カウンタ軸47の回転は、第2継手50で第2カウンタ軸51に伝動され、4段変
速装置D(副変速装置)で変速される。この4段変速装置Dの第1変速クラッチD1を第
18ギヤ53側へ切り換えると、第17ギヤ52から第18ギヤ53に伝動されてベベル
ギヤ軸14が高速で駆動される。
【0032】
また、4段変速装置D(副変速装置)の第1変速クラッチD1を第20ギヤ55側へ切
り換えると、第19ギヤ54から第20ギヤ55に伝動されてベベルギヤ軸14が中速で
駆動される。
【0033】
4段変速装置D(副変速装置)の第2変速クラッチD2を第22ギヤ57側へ切り換え
ると、第19ギヤ54から第20ギヤ55に伝動され、続いて第25ギヤ60から第26
ギヤ61に伝動され、第27ギヤ62から第28ギヤ63に伝動されてベベルギヤ軸14
が低速で駆動される。
【0034】
また、第2変速クラッチD2を第24ギヤ59側へ切り換えると、第19ギヤ54から
第20ギヤ55に伝動され、第25ギヤ60から第26ギヤ61に伝動され、第27ギヤ
62から第28ギヤ63に伝動され、第22ギヤ57から第21ギヤ56に伝動され、第
23ギヤ58から第24ギヤ59に伝動されてベベルギヤ軸14が超低速で駆動される。
【0035】
4段変速装置D(副変速装置)は、第21ギヤ56と第26ギヤ61を第2カウンタ軸
51に遊嵌することで、ベベルギヤ軸14と第2カウンタ軸51の2軸構成となって、省
スペースとなっている。
また、4段変速装置D(副変速装置)については、変速用の第17ギヤ52と、第19
ギヤ54と、第26ギヤ61と、第27ギヤ62と、第21ギヤ56と、第23ギヤ58
とが、第2カウンタ軸51に設けられていることで、シンクロ機能が良好になる。
【0036】
ベベルギヤ軸14の軸端は、ナット27で締め付けることで、各ギヤやクラッチの軸方
向幅の製作誤差を調整可能となり、精度よく構成可能となる。
ベベルギヤ軸14の回転は、このベベルギヤ軸14と一体に形成した第1ベベルギヤ6
4が後輪駆動軸65の第2ベベルギヤ66と噛み合っており、後ベベルギヤ組83(差動
装置)と後輪駆動軸65と後遊星ギヤ組84を介して後輪7を装着する後輪軸5を駆動す
る構成である。
【0037】
また、ベベルギヤ軸14の端部にスプライン嵌合する第29ギヤ67は、第30ギヤ6
8と第31ギヤ69を介して第1前輪駆動軸71に固着(スプライン嵌合)の第32ギヤ
70に噛み合っており、第1前輪駆動軸71を駆動する構成としている。
【0038】
第1前輪駆動軸71の前軸端に前輪変速クラッチEを装着しており、前輪変速クラッチ
Eの等速クラッチE2を繋ぐと、第1前輪駆動軸71の回転がそのままで第2前輪駆動軸
79に伝動される。前輪変速クラッチEの増速クラッチE1を繋ぐと、第33ギヤ75と
第34ギヤ76と第35ギヤ78と第36ギヤ77を介して、第1前輪駆動軸71の回転
が増速して第2前輪駆動軸79に伝動される構成としている。
【0039】
第2前輪駆動軸79の先は、従来と同様に、前ベベルギヤ組80(差動装置)と前縦駆
動軸81と前遊星ギヤ組82を介して前輪6を装着する前輪軸4を駆動する。
前記PTO入力ギヤ21の回転は、PTOクラッチFを入れることでPTOクラッチ軸
103から第3継手85と第1PTO軸22と第4継手86を介して、第2PTO軸73
を回転する構成である。
【0040】
第2PTO軸73に並設するPTOクラッチ軸104には、PTO変速機構Gを構成し
ていて、第1PTO変速クラッチG1と第2PTO変速クラッチG2を設けている。
【0041】
第1PTO変速クラッチG1を第38ギヤ88側に入れると、第2PTO軸73の回転
が第37ギヤ87と第38ギヤ88を介してPTOクラッチ軸104に低速で伝動される
。第1PTO変速クラッチG1を第40ギヤ91側に入れると、第2PTO軸73の回転
が第39ギヤ90と第40ギヤ91を介してPTOクラッチ軸104に中速で伝動される
【0042】
第2PTO変速クラッチG2を第42ギヤ93側に入れると、第2PTO軸73の回転
が第41ギヤ92と第42ギヤ93を介してPTOクラッチ軸104に高速で伝動される
。第2PTO変速クラッチG2を第44ギヤ96側に入れると、第2PTO軸73の回転
が第43ギヤ95と第45ギヤ101と第44ギヤ96を介してPTOクラッチ軸104
が逆回転で伝動される。前記第45ギヤ101は、カウンタ軸97に支持されている。
前記PTOクラッチ軸104に伝達された動力は、PTO継手74aとPTO接続軸7
4を介してPTO11を回転駆動する構成としている。
【0043】
(操縦席)
操縦席10周りの操作具および表示部について説明すると、図3の要部斜視図に示すよ
うに、ステアリングハンドル8を支持するステアリングコラムに情報表示部であるメータ
ーパネル121、主変速レバー122、アクセルレバー123、同ステアリングコラムの
基部にクラッチペダル131、パーキングレバー132、左右ブレーキペダル133a,
133b、アクセルペダル134、操縦席10の左アームレストにPTO変速レバー14
1、副変速レバー142、右アームレストに耕深調整レバー143、コントロールレバー
144、傾き調節スイッチ145、水平制御切換スイッチ146、バックアップ切換スイ
ッチ147等を配置する。
【0044】
また、別途配置した電子油圧操作ボックスには、スイッチパネルの見取図を図14に示
すように、メモリ調整部311、接続感度設定部312、上げ位置調整ダイヤル313、
下げ速度調整ダイヤル314、ブレーキ調整ダイヤル315、最高速規制スイッチ321
、オートアクセルスイッチ322、バックアップスイッチ323、オートリフトスイッチ
324、デセラスイッチ325、オート切換スイッチ326、3P切換スイッチ327、
水平切換スイッチ328を配置する。
【0045】
上記ミッションケース3A,3Bは、主変速レバー122の切換操作によって走行動力
を多段に変速する手動切替式の多段変速伝動装置を構成し、また、手動切替式のPTO変
速部Gを備えてPTO変速レバー141による切替え操作により作業機に多段変速動力を
出力する。この多段変速伝動装置について、一定速度の作業走行における走行動力および
作業機動力の変速段別の稼動時間を記録する作業記録システムを設ける。
【0046】
(作業記録システム)
作業記録システムは、図4のシステム構成ブロック図に示すように、走行系コントロー
ラS、メータパネル121および電子油圧&駆動系コントローラTをCAN通信により連
係して制御部を構成し、走行系コントローラSによる作業走行の稼動時間をカウントする
とともに、この走行系コントローラSに入力される変速位置検出スイッチ161による主
変速の位置、その時の副変速の位置別に稼動時間を通算し、この通算稼動時間が最長とな
る変速位置を作業状態メモリに不揮発記録し、次の作業走行の際にその記録内容をメータ
パネル121に表示するように、表示選択スイッチ121aによって画面表示を切換可能
に構成する。また、多様な制御のために、PTO変速位置センサ162、ワンタッチ耕耘
スイッチ163、PTO回転センサ165、エンジン回転センサ166等の信号を入力す
る。
【0047】
上記構成による作業記録システムの具体的な制御処理は、図5のフローチャートに示す
ように、副変速レバー142の切換え操作による作業走行の範囲において、作業時間カウ
ントの処理ステップ1(以下において「S1」のごとく略記する。)により主変速と副変
速の変速段の組合わせ別に作業走行時間をカウントし、その中で通算時間が最長である組
合わせについて、その時の副変速位置と主変速位置を不揮発記録(S2,S3)する。
【0048】
上記制御処理により、多段変速伝動装置の主変速部と副変速部の変速段をそれぞれ選択
して一定速度で作業走行すると、その走行時間が副変速部と主変速部の変速段の組合わせ
別に通算されてその中の最長となる変速段の組合わせが作業状態メモリに不揮発記録され
ることから、作業中断後において、この不揮発記録による副変速と主変速のそれぞれの変
速段位置を表示選択スイッチ121aによってメータパネル121に表示することにより
、それまでの作業走行において最高頻度の変速状態の変速段の組合わせが確認できるので
、その表示に基づいて副変速レバー142と主変速レバー122とを切替え操作すること
により、変速状態に再設定して以前の作業状態を再現することができ、迅速な作業開始が
可能となる。
【0049】
変速位置をレバー方式ではなくボタン操作等で設定する構成においては、記憶している
変速位置を表示するのみならず自動で実際の変速位置を再現可能であるが、副変速レバー
142と主変速レバー122のようにレバー方式で記憶している変速位置を設定する方式
においては、自動で変速位置を再現することが難しい。したがって、前述のように構成す
ることで、レバー方式で手動操作して変速段を切替える多段変速伝動装置にあっても、煩
雑な試行調節走行を要することなく、表示に基づく切換え操作によって変速段を設定する
ことにより、作業走行の中断後においてもそれまでの最高頻度の変速状態を容易に再設定
して迅速な作業開始が可能となる。特に、主変速部B,Cの変速が油圧式多板クラッチを
用いたものでなく、機械式の変速装置の構成である場合に有効である。
また、図2に示す主変速部B,Cは油圧多板クラッチを利用した変速であるので、主変速
レバー122の回動基部にモータを設けておいて、主変速レバーを自動で動かしながら記
憶している変速位置を自動で再現するように構成してもよい。
【0050】
この場合において、図6のフローチャートに示すように、副変速部Dと主変速部B、C
にPTO変速部Gを加えた変速段の組合わせについて前記同様の作業状態メモリによる不
揮発記録とその表示をする制御処理を構成することにより、作業走行による走行時間が主
変速部、副変速およびPTO変速部のそれぞれの変速段の組合わせ別に通算されてその中
の最長となる変速段の組合わせが記録され、また表示されることから、PTO変速部を含
む作業走行における変速状態について容易に再設定して迅速な作業開始が可能となる。
【0051】
この場合において、前記PTO変速部の変速段は、図7のPTO回転数の特性線図に示
すように、PTO回転数とエンジン回転数とから算出することができるので、PTO回転
センサ165とエンジン回転センサ166を用いてPTO変速部の変速段を算出するよう
に多段変速式作業車両の制御処理を構成することにより、PTO変速位置を検出するため
の特段のセンサ部材の装着を要することなく、PTO変速部の変速段を算出することがで
きる。
【0052】
また、上記の変速段の組合わせ別については、図8の変速段の組合わせの表示例に示す
ように、作業走行について副変速部Dが「低」と「中」の2段、主変速部B,Cが「1」
〜「8」の8段、PTO変速部Gが「1」と「2」の2段の各変速段の組合わせの中で、
通算の走行時間の長い方から複数の組合わせ(図例では5件)について作業状態メモリに
不揮発記録し、その記録された変速段の複数の組合わせを表示する制御処理を構成するこ
とにより、変速伝動装置の変速段の組合わせの中で稼動頻度の高い複数の組合わせを確認
することができるので、作業状態によって変速段の変動を伴う作業走行についてカバーす
ることができる。
【0053】
さらに、図9の付帯情報の表示例に示すように、副変速部Dと主変速部B,Cの変速段
による変速段およびPTO変速部Gの変速段の情報に加えて、各種電子油圧や水平関係、
走行関係の設定状態を対応して不揮発記録および表示することにより、複雑な仕様装備を
有するトラクタの使用に際して、作業者が細部の取扱いに不慣れな状況にあっても各設定
状態を容易に確認することができる。
【0054】
また、上記の共通的に取扱われる項目についての共通メモリ処理のほかに、作業者によ
る任意の設定項目について不揮発記録および表示するための特定メモリ処理のための制御
処理を構成することにより、特異な条件や圃場においてそこだけの特定の設定を行った場
合等にその設定項目を含めた作業状態の再設定が可能となることから、幅広い状況に適用
することが可能となる。
【0055】
また、各種項目についての作業状態の再設定に際しては、図10のフローチャートに示
すように、メーターパネル121の表示に基づく作業者操作のみならず、選択枝によって
電子油圧、水平関係、および走行関係を直ちに設定の状態に再設定(S11)させ、主変
速部と副変速部およびPTO変速部については、変速操作によって表示の変速段が再設定
された時の表示色の変更等による画像表示等による操作ガイド(S12)を設ける。
【0056】
このように、メーターパネル121の表示による選択操作および操作ガイドにより、作
業者による煩雑な再設定の操作を要することなく、実績のある作業状態を迅速かつ簡単に
再設定することができて、作業者の操作労力を軽減するとともに、誤操作を回避すること
ができる。
【0057】
次に、上記作業記録システムにおける作業状態の判別処理について説明する。
図11は、作業状態の判別処理のフローチャートである。作業状態の判別処理は、クラ
ッチが接続状態(S21)、方向選択が前進(S22)、作業機が下げ又はPTOスイッ
チが入り(S23)の全てに該当する場合を作業状態(S24)として判定して走行時間
のカウントを行うことにより、作業車両の作業実績に基づいて高精度の作業状態の再設定
が可能となる。
【0058】
次に、ロータリ作業のための再設定処理について説明する。
トラクターにロータリを取付けて行う圃場の耕耘作業は、圃場地質等に応じて個別の制
御設定が必要となることから、トラクターの工場出荷時は、一般的に使用される制御内容
に設定されており、個別の圃場作業に適合した耕耘作業設定のために、ロータリ作業が安
定するまで作業者の調整試行のための作業走行を強いられるとともに、そのようにして特
定された制御内容に設定調節するために、ロータリ作業の開始の都度、煩雑な設定操作を
要することから、このような問題を解決するために、メモリワンタッチモードの制御処理
を構成する。
【0059】
具体的には、ロータリ作業に使用する各種制御の設定状態にワンタッチで再設定するた
めのワンタッチ耕耘スイッチ163を設け、図12のロータリ作業のための再設定処理の
フローチャートに示すように、ワンタッチ耕耘スイッチ163の操作(S31)がメモリ
ワンタッチモード(S32)であれば、作業状態メモリに不揮発記録された設定状態が呼
び出されて各制御項目を再設定(S33)する制御処理を構成することにより、不揮発記
録された最長時間の作業の設定状態に即時再設定されることから、ロータリ作業の設定状
態に迅速かつ簡単に再設定することができて、作業者の操作労力を軽減するとともに、誤
操作を回避することができる。
【0060】
上記構成において、メモリワンタッチモードに使用する作業状態メモリは、前述の最長
作業時間についての作業走行の共通項目を不揮発記録する共通メモリと、作業者による任
意の設定項目について不揮発記録するための特定メモリのいずれかを選択可能に構成した
上で、図13のフローチャートに示すように、ワンタッチ耕耘スイッチ163の操作(S
41)がメモリワンタッチモード(S42)である場合に、メモリの選択(S43)に応
じて、共通メモリによる場合(S44a)と特定メモリによる場合(S44b)の再設定
を行う。
【0061】
このようにして、共通メモリによる場合(S44a)は作業実績に応じて更新された結
果による設定となり、
特定メモリによる場合(S44b)は常に一定のカスタム設定となり、その選択によって
幅広い状況に対応することができる。
【符号の説明】
【0062】
2 エンジン
6 前輪(走行部)
7 後輪(走行部)
8 ステアリングハンドル
9 ヒッチ
10 操縦席
11 PTO軸
26 キャビン
121 メータパネル
121a 表示選択スイッチ
122 主変速レバー
123 アクセルレバー
141 PTO変速レバー
142 副変速レバー
143 耕深調整レバー
144 コントロールレバー
145 調節スイッチ
146 水平制御切換スイッチ
147 バックアップ切換スイッチ
161 主変速位置検出スイッチ
162 PTO変速位置センサ
163 ワンタッチ耕耘スイッチ
165 PTO回転センサ
166 エンジン回転センサ
A 油圧前後進クラッチ
B 変速クラッチ装置(主変速部)
C 油圧高低切換クラッチ(主変速部)
D 副変速部
G PTO変速部
S 走行系コントローラ
T 駆動系コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14