特許第5736898号(P5736898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5736898トルクリミッタおよびそのリリーストルク検定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5736898
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】トルクリミッタおよびそのリリーストルク検定方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20150528BHJP
   F16D 1/091 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   F16D7/02 B
   F16D1/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-71674(P2011-71674)
(22)【出願日】2011年3月29日
(65)【公開番号】特開2012-207680(P2012-207680A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2014年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】米山 展央
【審査官】 広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−040418(JP,U)
【文献】 実開昭53−104850(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径部に嵌合用穴を有するとともに一方側の軸方向端部に回転伝達手段を備えた軸部材と内部に油圧拡張室を有する筒部材と、を有し、前記軸部材の外周面に前記筒部材の内周面を外嵌し、前記筒部材の前記油圧拡張室に圧油を供給し、前記油圧拡張室の圧油で前記筒部材の内周面を縮径して、前記内周面を前記軸部材の外周面に押し付けて、前記軸部材と前記筒部材とを摩擦結合してトルクを伝達するとともに、前記軸部材または前記筒部材に所定値以上の負荷がかかって、前記筒部材の内周面が 前記軸部材の外周面に対してスリップして、前記軸部材が前記筒部材に対して軸回りの位置が変化したとき、前記油圧拡張室の圧油が外部に排出される油圧拡張形式のトルクリミッタの、リリーストルクを検定するリリーストルク検定方法であって、
前記軸部材の前記嵌合用穴に検定用嵌合部材を所定のしめしろで嵌合した後、前記軸部材の前記回転伝達手段を、トルク検定装置の入力軸または出力軸に係合して、前記リリーストルクを検定することを特徴とするトルクリミッタのリリーストルク検定方法。
【請求項2】
前記リリーストルク検定の後、前記軸部材に備えた前記回転伝達手段を除去するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタのリリーストルク検定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクリミッタに係り、より詳しくは、油圧拡張形式のトルクリミッタとそのリリーストルク検定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクリミッタとしては、特開平7−310753号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
このトルクリミッタは、図6に示すように、軸部材210の外周面211に筒部材2の内周面21を外嵌し、筒部材3の油圧拡張室30に圧油を供給し、その油圧拡張室30の圧油で筒部材2の内周面21を縮径して、その内周面21を軸部材210の外周面211に押し付けて、軸部材210と筒部材2とを摩擦結合してトルクを伝達するようになっている。
【0003】
そして、シャーバルブ6で油圧拡張室内30の圧油をシールする一方、上記軸部材210に、シャーバルブ6の端部に係止するシャーラグ5を固定している。また、軸部材210の内周部には軸部材210の外周面211と平行な嵌合用穴212が形成されており、嵌合用穴212の内周面には少なくとも1本のキー溝213が軸方向に延在している。
【0004】
機械に組み込まれた状態では、軸部材210の嵌合用穴212に機械の回転軸9が嵌合され、軸方向のキー92によって滑り止めがなされる。また、機械の回転軸9と前記軸部材210との間で大きなトルクを伝達できるよう大きなしめしろが与えられる。前記しめしろによって軸部材210の外周面211が拡径され、筒部材2の内周面21に押し付けられ軸部材210と筒部材2との摩擦結合が強まり軸部材210と筒部材2との間の摩擦結合が強まり、伝達トルクが増大する。
【0005】
上記軸部材210または筒部材2に所定値以上の負荷がかかって、筒部材2の内周面21が軸部材210の外周面211に対してスリップして、上記軸部材210が筒部材2に対して軸回りの位置が変化したとき、前記シャーラグ5でシャーバルブ6の端部が切断されて、油圧拡張室30の圧油がシャーバルブ6内に形成された油抜き孔61を介して、外部に排出されるようになっている。これにより、筒部材2の内周面21の、軸部材210の外周面212への押し付けをなくし、軸部材210と筒部材2の摩擦結合を解いて、トルクの伝達を遮断している。
【0006】
油圧拡張形式のトルクリミッタについては、各個体について機械に組み込まれる前に、油圧拡張室の圧油が外部に排出されトルクの伝達が遮断されるトルク(以下リリーストルクと称す)を確認するリリーストルク検定が必要である。また、リリーストルク検定に当たっては、機械に組み込まれた状態を想定して、軸部材の嵌合用穴とのしめしろが機械の回転軸と同等の検定用軸と、設備で使用されるキーと同等諸元のキーが用いられる。そして、リリーストルク検定完了後は上記検定用軸はトルクリミッタから取り外される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−310753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、リリーストルク検定においては、非常に大きなトルクを入力するため、図7に示す、キー92と軸部材210のキー溝213との円周方向隙間と検定用軸247の捩り弾性変形によって、前記の検定用軸247と軸部材210の嵌合穴212の間に、滑りが発生する。この滑りによって軸部材210の嵌合穴212の内周面に傷がつく。また、キー92と軸部材210のキー溝213との間の円周方向の圧力によって、軸部材210のキー溝213の側面が陥没したり、損傷をきたすことがある。このような状態では機械の回転軸9の嵌合に不都合が生じるため、修復が必要である。さらに、場合によっては、検定用軸247の取り外しが困難な状態になることもある。
【0009】
この結果、傷の修復や検定用軸247の取り外しに多大の工数が費やされ、さらにトルクリミッタの商品価値は損なわれる。
【0010】
この発明の目的は、機械に組み込まれる前のリリーストルク検定において、検定用軸と軸部材の嵌合穴との間の滑りを防止することで、軸部材の傷の修復や検定用軸の取り外しに多大の工数を費やすことなく、かつ商品価値が損なわれないトルクリミッタおよびトルクリミッタのリリーストルク検定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、内径部に嵌合用穴を有するとともに一方側の軸方向端部に回転伝達手段を備えた軸部材と内部に油圧拡張室を有する筒部材と、を有し、前記軸部材の外周面に前記筒部材の内周面を外嵌し、前記筒部材の前記油圧拡張室に圧油を供給し、前記油圧拡張室の圧油で前記筒部材の内周面を縮径して、前記内周面を前記軸部材の外周面に押し付けて、前記軸部材と前記筒部材とを摩擦結合してトルクを伝達するとともに、前記軸部材または前記筒部材に所定値以上の負荷がかかって、前記筒部材の内周面が 前記軸部材の外周面に対してスリップして、前記軸部材が前記筒部材に対して軸回りの位置が変化したとき、前記油圧拡張室の圧油が外部に排出される油圧拡張形式のトルクリミッタの、リリーストルクを検定するリリーストルク検定方法であって、
前記軸部材の前記嵌合用穴に検定用嵌合部材を所定のしめしろで嵌合した後、前記軸部材の前記回転伝達手段を、トルク検定装置の入力軸または出力軸に係合して、前記リリーストルクを検定することである。
【0012】
上記方法によると、リリーストルクの検定時において、前記軸部材の内径部の嵌合用穴に内嵌する検定用軸と前記軸部材との間でのトルク伝達は行われず、前記軸部材と前記筒部材との間で直接トルクの伝達が行われる。このため、前記検定用軸と前記軸部材の嵌合穴の間の滑りを防止することができ、リリーストルク検定による前記軸部材の嵌合穴の傷の発生を防止できる。
【0015】
上記の課題を解決するため、請求項に係る発明の構成上の特徴は、前記リリーストルク検定の後、前記軸部材に備えた前記回転伝達手段を除去するステップを含むことである。
【0016】
本方法によると前記トルクリミッタを機械に組込んだ後、前記回転伝達手段と機械との干渉が無くなる為、リリーストルク検定時において回転伝達手段として大型かつ高能力の回転伝達手段を前記軸部材と一体に設けることが可能となり、別体の大型かつ高能力の回転伝達手段を追加する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械に組み込まれる前のリリーストルク検定において、検定用軸と軸部材の嵌合用穴との間の滑りを防止することで、傷の修復や検定用軸の取り外しに多大の工数を費やすことなく、かつ商品価値が損なわれないトルクリミッタおよびトルクリミッタのリリーストルク検定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態のトルクリミッタの軸方向の断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態のトルクリミッタのトルク検定方法の説明図である。
図3】本発明の第2の実施形態のトルクリミッタの軸方向の断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態のトルクリミッタのトルク検定方法の説明図である。
図5】検定後の本発明の第2の実施形態のトルクリミッタの軸方向の断面図である。
図6】従来例のトルクリミッタの軸方向の断面図である。
図7】従来例のトルクリミッタのトルク検定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態のトルクリミッタ1の軸方向の断面図である。
このトルクリミッタ1は、軸部材10と、第1の筒部材2と、第2の筒部材3と、シャーバルブ6と、シャーラグ5と玉軸受7および玉軸受8とを有する。
【0021】
前記軸部材10は、略円筒状の外周面11と外周面11と同心で略円筒状の有底の嵌合用穴12を有している。また嵌合用穴12には断面が矩形で軸方向に延びるキー溝13が形成されている。トルクリミッタ1が機械に組み込まれた状態では、嵌合用穴12には機械の回転軸9がしめしろをもって内嵌されて、キー92によって回り止めがなされる。
また、軸部材10の外面には半径方向外方に突出する断面略L字形状のシャーラグ5が固定されている。
【0022】
さらに軸部材10の嵌合用穴12の開放側の軸方向外方の端部には回転伝達手段としての複数のねじ穴14が円周上に形成されている。この複数のねじ穴14は後述のリリーストルク検定時に使用され、機械に組み込まれた状態では、どの部品とも係合しない。
【0023】
前記第1の筒部材2は、軸部材10の外周面11に当接する略円筒状の内周面21を有している。前記軸部材10の外周面11と、第1の筒部材2の内周面21との間には、焼付き防止用の潤滑油であるトラクションオイルが塗布されている。また第1の筒部材2の一方側の端部には回転伝達手段としてのフランジ22が設けられており、フランジ22には相手部品との締結用の軸方向の複数の円筒形の通し穴22aが形成されている。
【0024】
前記第2の筒部材3は、第1の筒部材2の略円筒状の外周面23に当接する略円筒状の内周面33を有している。また、第2の筒部材3は、シャーバルブ取付穴31と、第2の筒部材3の内周面33の軸方向の所定長さに亘って第2の軸部材3の軸方向に延在する略筒状の油圧拡張室30を有している。
前記シャーバルブ6は、シャーバルブ取付穴31に嵌入されている。シャーバルブ6がシャーバルブ取付穴31に嵌入されている状態で、シャーバルブ6の一端部は、第2の筒部材3の外周面よりも径方向の外方に突出している。
【0025】
また、前記断面略L字形状のシャーラグ5は、略径方向に延びると共に、第2の筒部材3の端面に軸方向に対向する径方向延在部50と、この径方向延在部50につながっていると共に、第2の筒部材3の外周面に沿って軸方向に延在する軸方向延在部51とを有している。シャーバルブ6の一端部は、シャーラグ5の軸方向延在部51によって、係止されている。
【0026】
また、シャーバルブ6は、一端のみが開口したチューブ61を有している。このチューブ61は、シャーバルブ6がシャーバルブ取付穴31に嵌入されている状態で、略第2の筒部材3の径方向に延在している。また、シャーバルブ6がシャーバルブ取付穴31に嵌入されている状態でチューブ61の閉鎖側の一端部は、第2の筒部材3の外周面よりも径方向の外方に突出している。
【0027】
また、チューブ61の閉鎖側とは反対側の開口は、油通路37および周方向延在室38を介して、油圧拡張室30の軸方向の一端部に連通している。チューブ61および油通路37は、油抜き孔を構成し、油通路37は、油抜き孔の径方向延在部を構成している。油圧拡張室30のシャーバルブ6側は、密封空間になっている。
【0028】
前記玉軸受7は、軸部材10の外面に外嵌固定された内輪71と、第2の筒部材3の内面に内嵌固定された外輪72と、内輪71の軌道面と外輪72の軌道面と間に配置された玉73とを有している。また、前記玉軸受8は、軸部材10の外面に外嵌固定された内輪81と、第1の筒部材2の内面に内嵌固定された外輪82と、内輪81の軌道面と外輪82の軌道面と間に配置された玉83とを有している。玉軸受7および8は、軸部材10が第1の筒部材2および第2の筒部材3に対して相対回転しているとき、軸部材10を第1の筒部材2および第2の筒部材3に対して回転自在に支持するようになっている。
【0029】
油抜き孔の径方向延在部としての油通路37は、第2の筒部材3の径方向に延在している。また、前記周方向延在室38は、油圧拡張室30に開口し、油圧拡張室30に連通している。周方向延在室38は、軸方向の断面において、断面略矩形状の形状を有している。また、周方向延在室38は、軸方向に垂直な断面において円弧状に延在している。
【0030】
上記構成において、軸部材10または第1の筒部材2に所定値以下の負荷(トルクの伝達を行う範囲の負荷)がかかっている場合には、図示しないカプラを介して油圧拡張室30に注入されたのち密封された油圧拡張用の油で、第1の筒部材2の内周面21を縮径して内周面21を軸部材10の外周面11に押し付けて、軸部材10と第1の筒部材2とを摩擦結合して軸部材10と第1の筒部材2との間でトルクを伝達するようになっている。
【0031】
一方、軸部材10または第1の筒部材2に所定値以上の負荷(トルクの伝達を行う範囲よりも大きな負荷)がかかって、軸部材10の外周面11が、第1の筒部材2の内周面21に対してスリップして、軸部材10と第2の筒部材3の軸回りの位置が変化した場合、シャーラグ5がシャーバルブ6の上記一端部(チューブ61の径方向の外方の端部)を切断して、油圧拡張室30内の油圧拡張用の油を、一端部が切断されたシャーバルブ6を介して外部に排出するようになっている。
【0032】
このようにして、第1の筒部材2の内周面21の軸部材10の外周面11に対する押圧力をなくして、軸部材10と第1の筒部材2の摩擦結合を解いてトルクの伝達を遮断するようになっている。このようにして、軸部材10または第1の筒部材2に過負荷が生じた場合において、トルクの伝達を遮断して、トルクリミッタ1に連結されている高価な機械を保護している。
【0033】
トルクリミッタ1を機械に組み込むに当たっては、上述の所定以上負荷がかかった場合に確実にトルクの伝達が遮断されることを確認する為、各個体についてリリーストルク(一端部が切断されたシャーバルブ6を介して油圧拡張室26内の油圧拡張用の油が外部に排出され、トルクの伝達が遮断されるトルク値)の検定が必要である。
【0034】
図2は、本発明の第1の実施形態のトルクリミッタ1のリリーストルク検定方法の説明図である。以下図1および図2に従ってトルクリミッタ1のリリーストルク検定方法を説明する。
【0035】
リリーストルク検定装置4は駆動部41、検定用入力フランジ47、トルク検出部42、支持部44および支持部45を備えている。
駆動部41は、支持部44に回転自在支持され、後述の被検定トルクリミッタ1Aの軸部材10を駆動する入力軸46を有している。入力軸46は一方側の端部にモータ等の回転が入力されるプーリ46a、他方側の端部に径方向外方に延在するフランジ46bを有し、フランジ46bには複数のねじ穴46cが軸方向に形成されている。
【0036】
検定用入力フランジ47は断面がL字形の円筒部材で、円筒部47aと円筒部47aの一方側端部に径方向に延在するフランジ47bを有する。フランジ47bには、入力軸46の複数のねじ穴46cに対峙して軸方向の複数の通し穴47cが形成されている。円筒部47aには軸部材組立て品10Aの軸部材10の端面に形成された複数のボルト穴14と対峙して設けられた軸方向の複数の通し穴47dが形成されている。また、複数の通し穴47dのフランジ47b側の端部には深さが後述のボルト49aの頭の高さより深い座ぐりを有している。
【0037】
トルク検出部42はトルク検出機本体43と出力軸48を有している。出力軸48は一方側の端部に検出機本体43に回転を伝えるスプライン等の継ぎ手部48a、他方側の端部に径方向外方に延在するフランジ48bを有している。フランジ48bには被検定トルクリミッタ1Aの第1の筒部材2のフランジ22に形成された複数の通し穴22aと対峙して、複数のねじ穴48cが軸方向に形成されている。出力軸48は支持部45に回転自在支持され、被検定トルクリミッタ1Aの第1の筒部材2から伝達される回転トルクをトルク検出機本体43に伝える。トルク検出機本体43は、例えばトルク値を電気信号として出力する通常ダイナモメータと呼ばれる動力計を用いる。
【0038】
以下検定の手順を説明する。まず、トルクリミッタ1の軸部材10の嵌合用穴12に、機械の回転軸9と等しい外径寸法および嵌合部長さの円筒形の検定用嵌合部材40を内嵌し、軸部材組立て品10Aを組立てる。内嵌の方法として、例えば軸部材10を加熱し、検定用嵌合部材40との間に温度差を設けるいわゆる焼嵌めを用いると、容易に内嵌することができる。
【0039】
次に、検定用嵌合部材40が内嵌された軸部材組立て品10Aを、第2の筒部材3の内径面33に予め内嵌された第1の筒部材2の内周面21の所定の位置に挿入し被検定トルクリミッタ1A(検定用嵌合部材40が内嵌されたトルクリミッタ1)を組立てる。
組立てられた被検定トルクリミッタ1Aの軸部材組立て品10Aと第1の筒部材2との間で所定のトルクが伝達できるように、油圧拡張用の油を図示しないカプラを介して油圧拡張室30に注入したあと密封し被検定のトルクリミッタ1Aを完成させる。
【0040】
つぎに、被検定トルクリミッタ1Aの軸部材組立て品10Aに検定用入力フランジ47を取付ける。ボルト49aを検定用入力フランジ47の複数の通し穴47dを通して軸部材10の端面に形成された複数のボルト穴14に締結することにより、検定用入力フランジ47は被検定トルクリミッタ1Aの軸部材組立て品10Aに固定される。
【0041】
つぎに、ボルト49bを検定用入力フランジ47のフランジ47bに形成された複数の通し穴47d通して入力軸46のフランジ46bに形成された複数のねじ穴46cと締結するとともに、ボルト49cを第1の筒部材2のフランジ22に形成された複数の通し穴22aを通して、出力軸48のフランジ48bに形成された複数のねじ穴48cと締結することによって、被検定トルクリミッタ1Aをリリーストルク検定装置4の所定に位置に回転自在に配置する。
【0042】
次にモータ等によって入力軸46を回転させ、被検定トルクリミッタ1Aを介して、トルク検出機本体43に回転トルクを伝え、トルク検出機本体43から出力されるトルク値を読み取る。
ここで、被検定トルクリミッタ1Aの第1の筒部材2と軸部材10との間に滑りが発生し、シャーバルブ6一端部が切断され、油圧拡張室26内の油圧拡張用の油が外部に排出され、トルクの伝達が遮断されるまでトルク検出機本体43の負荷を暫時増加させる。
このとき読み取られたトルク値の最大値が被検定トルクリミッタ1Aのリリーストルクである。
【0043】
上述のリリーストルク検定が完了した後、被検定トルクリミッタ1Aをトルク検定装置4から取外す。取外した被検定トルクリミッタ1Aから嵌合部材40が内嵌された軸部材組立て品10Aを抜取る。さらに抜取られた軸部材組立て品10Aの嵌合用穴12に内嵌された検定用嵌合部材40を抜取る。抜取る方法としては例えば軸部材10を加熱し、検定用嵌合部材40との間に温度差を設けると容易に抜取ることができる。検定用嵌合部材40を抜取った軸部材10を第2の筒部材3の内径面33に予め内嵌された第1の筒部材2の内周面21の所定の位置に挿入しトルクリミッタ1を再度組立てる。
以上のステップでトルクリミッタ1のリリーストルク検定は完了する。
【0044】
第1の実施形態のトルクリミッタおよびトルク検定方法によると、被検定トルクリミッタ1Aではトルクリミッタ1の軸部材10の嵌合用穴12に機械の回転軸9に代え機械の回転軸9と等しい外径寸法および嵌合部長さの円筒形の検定用嵌合部材40を内嵌することにより、軸部材10の外周面11が機械の回転軸9の内嵌時と同等に拡径され、第1の筒部材2の内周面21に押し付けられる。このため、機械の回転軸9の内嵌時と同等の軸部材10の外周面11と第1の筒部材2の内周面21との摩擦結合となり、被検定トルクリミッタ1Aのリリーストルクは機械に組込まれたトルクリミッタ1のリリーストルクと同等となる。
【0045】
また、機械の回転軸が内嵌される前記軸部材10の嵌合用穴12を介せず、前記軸部材10を回転させてリリーストルクの検定を行うため、前記軸部材10の嵌合用穴12と検定用嵌合部材40との間にトルク伝達による滑りは発生せず、滑りによる損傷を防止することができる。
【0046】
すなわち軸部材10の嵌合用穴12にトルクの作用しない検定用軸40を内嵌し、軸部材10の端面の回転伝達手段としてのボルト穴で軸部材10を駆動することで、機械に組込まれた状態と同等のリリーストルクを確保し、傷の修復や検定用軸の取り外しに多大の工数を費やすことなく、かつ商品価値が損なわれないトルクリミッタおよびトルクリミッタのリリーストルク検定方法を提供することができる。
【0047】
図3は、本発明の第2の実施形態のトルクリミッタ101の軸方向の断面図である。
第2の実施形態のトルクリミッタ101では、第1の実施形態のトルクリミッタ1の構成と同一構成の説明を省略することにする。また、第2の実施形態のトルクリミッタ101では、第1の実施形態のトルクリミッタ1と共通の作用効果については説明を省略することにし、第1の実施形態のトルクリミッタ1と異なる作用効果についてのみ説明を行うことにする。
【0048】
このトルクリミッタ101は、軸部材110と、第1の筒部材2と、第2の筒部材3と、シャーバルブ6と、シャーラグ5と玉軸受7および玉軸受8とを有する。
前記軸部材110は、略円筒状の外周面111と外周面111と同心で略円筒状の有底の嵌合用穴112を有している。また嵌合用穴112には断面が矩形で軸方向に延びるキー溝113が形成されている。また、軸部材110の外面には半径方向外方に突出する断面略L字形状のシャーラグ5が固定されている。
【0049】
軸部材110の嵌合用穴112の開放側端部には径方向外方に延在する回転伝達手段としてのフランジ114が形成されている。フランジ114には軸方向の複数の通し穴114aが周上に形成されている。このフランジ114および通し穴114aは後述のごとく、リリーストルク検定時に使用され、機械に組み込まれる前に切断して除去される。
【0050】
図4は、本発明の第2の実施形態のトルクリミッタ1のリリーストルク検定方法の説明図である。以下図3および図4に従ってトルクリミッタ1のリリーストルク検定方法を説明する。リリーストルク検定装置4は駆動部41、検定用入力フランジ47、トルク検出部42、支持部44および支持部45を備えている。
【0051】
以下検定の手順を説明する。まず、トルクリミッタ101の軸部材110の嵌合用穴112に、機械の回転軸9と等しい外径寸法および嵌合部長さの円筒形の検定用嵌合部材40を内嵌し、軸部材組立て品110Aを組立てる。内嵌の方法として、例えば軸部材110を加熱し、検定用嵌合部材40との間に温度差を設けるいわゆる焼嵌めを用いると、容易に内嵌することができる。
【0052】
つぎに、検定用嵌合部材40が内嵌された軸部材組立て品110Aを、第2の筒部材3の内径面33に予め内嵌された第1の筒部材2の内周面21の所定の位置に挿入し被検定トルクリミッタ101A(検定用嵌合部材40が内嵌されたトルクリミッタ101)を組立てる。
組立てられた被検定トルクリミッタ101Aの軸部材組立て品110Aと第1の筒部材2との間で所定のトルクが伝達できるように、油圧拡張用の油を図示しないカプラを介して油圧拡張室30に注入したあと密封し被検定トルクリミッタ101Aを完成させる。
【0053】
つぎに、ボルト49bを軸部材110のフランジ114に形成された複数の通し穴111a通して入力軸46のフランジ46bに形成された複数のねじ穴46cと締結するとともに、ボルト49cを第1の筒部材2のフランジ22に形成された複数の通し穴22aを通して出力軸48のフランジ48bに形成された複数のねじ穴48cと締結することによって、被検定トルクリミッタ101Aをリリーストルク検定装置4の所定に位置に回転自在に配置する。
【0054】
以下第1の実施形態と同一ステップで、被検定トルクリミッタ101Aのリリーストルクを読取り、被検定トルクリミッタ101Aをトルク検定装置4から取外し、取外した被検定トルクリミッタ101Aから嵌合部材40が内嵌された軸部材組立て品110Aを抜取る。さらに抜取られた軸部材組立て品110Aの軸部材110の嵌合用穴112に内嵌された検定用嵌合部材40を抜取る。
【0055】
図5は、リリーストルク検定後の本発明の第2の実施形態のトルクリミッタ101の軸方向の断面図である。
第2の実施形態においては、リリーストルク検定完了後、検定用嵌合部材40を抜取った軸部材110のシャーラグ5固定部より軸方向外方のフランジ114を含む端部を砥石カッタ等の工具で切断し、除去する。前期端部が除去された軸部材110を第2の筒部材3の内径面33に予め内嵌された第1の筒部材2の内周面21の所定の位置に挿入し、トルクリミッタ101を組立てる。以上のステップでトルクリミッタ101のリリーストルク検定は完了する。
【0056】
第2の実施形態のトルクリミッタおよびトルク検定方法による作用効果は、第1の実施形態のトルクリミッタおよびトルク検定方法による作用効果に加え、回転伝達手段を切除することにより軽量、コンパクトになることである。さらにリリーストルク検定時において回転伝達手段として大型かつ高能力の回転伝達手段を前記軸部材と一体に設けることが可能となり、別体の大型かつ高能力の回転伝達手段を追加する必要がなくなる効果がある。
【0057】
第1の実施形態および第2の実施形態では軸部材の軸方向の端部に形成する回転伝達手段は、ねじ穴およびフランジであるが、この発明では前記回転伝達手段はスプライン等の他の形式の回転伝達手段であっても良い。
【0058】
第1の実施形態および第2の実施形態では軸部材が入力軸に、筒部材が出力軸に係合されているが、この発明では軸部材が出力軸に、筒部材が入力軸に係合されても良い。
【0059】
第1の実施形態および第2の実施形態では筒部材は2個の筒部材で構成されているが、この発明では筒部材は一体であっても良い。
【符号の説明】
【0060】
1、101,201 ‥ トルクリミッタ
2、3 ‥ 筒部材
10、110、210 ‥ 軸部材
11、111、211 ‥ 軸部材の外周面
12、112、212 ‥ 嵌合用穴
14 ‥ ねじ穴(回転伝達手段)
114 ‥ フランジ(回転伝達手段)
21 ‥ 筒部材の内周面
30 ‥ 油圧拡張室
4 ‥ トルクリミッタ検定装置
40 ‥ 検定用嵌合部材
46 ‥ 入力軸
48 ‥ 出力軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7