(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
回転体は、回転機械に設けられ、その軸を中心として回転する。本発明の対象となる回転機械は、流体と力を及ぼし合う回転翼が回転体に設けられた流体機械である。この回転機械には、原動機と被動機がある。原動機は、流体が回転翼に作用させる圧力により回転体が回転駆動されることで、流体の持つエネルギーを回転運動エネルギーに変換する。原動機としては、例えば、ガスタービン(軸流タービン、ラジアルタービン)がある。被動機は、回転駆動されている回転翼が流体に圧力を作用させることで、回転運動エネルギーを流体に与える。被動機としては、例えば、圧縮機(遠心圧縮機、航空エンジンなどに設けられる軸流圧縮機、斜流圧縮機、横流圧縮機、ポンプ)がある。また、本発明の対象となる回転機械には、原動機と被動機の両方の機能を持つ過給機もある。
【0003】
回転機械の回転体のバランス修正において、回転体のアンバランスを測定し、除去部を切削する方法として、例えば特許文献1が既に知られている。
【0004】
特許文献1は、回転体を回転シャフトに固定するために除去対象部を用い、アンバランスの修正量と修正方向を、除去対象部が円形であると想定して求めた場合でも、修正方向に影響されることなく正確な修正量を加工でき、かつその修正によりアンバランス方向が変化せず、これにより、再修正及び再計測の必要性をなくし、修正工程の作業性及び歩留まりを大幅に高めることができる回転体の回転バランス修正装置及び方法を提供することを目的としている。
【0005】
そのために、頂点検出器により除去対象部の頂点位置を検出し、補正制御装置により除去対象部が円形であると想定して予め求められたアンバランスの修正量と修正方向を、軸心と修正方向に最も近い除去対象部の頂点を結ぶ方位角と修正方向との相対角に応じてそれぞれ補正修正量と補正修正方向として補正するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、
図1(A)のような回転体32に取り付けられて、回転軸33を中心に回転する除去対象部31において、計測によって求められたアンバランス量(ここではMとする)についてアンバランス方位D1に沿った形で切削を行う場合、1箇所について切削できる量は、
図1(B)のようにエンドミル等の切削工具等によって除去部34aを切削可能な最大量(ここではM
maxとする)までに限られる。
【0008】
また、従来、アンバランス量Mが、1箇所について切削できる最大量M
maxを超える場合には、
図1(C)(D)に示すように、2又は3箇所の切削を行うことによって、バランス修正を行っている。
【0009】
図1(C)の場合において、アンバランス方位D1を両側に30度傾けた半直線D2、D3と、除去対象部31の外周との交点における2箇所を、それぞれ除去部34b、34cとし切削を行う。
【0010】
この場合に、除去部34b、34cにおける切削量をそれぞれM
maxとすると、2箇所で切削できるアンバランス量は、√3M
maxとなる。
【0011】
さらに、
図1(D)の場合において、アンバランス方位D1と、これを両側に60度傾けた半直線D4、D5と、除去対象部31の外周との交点における3箇所を、それぞれ除去部34d、34e、34fとし切削を行う。
【0012】
この場合に、除去部34d、34e、34fにおける切削量をそれぞれM
maxとすると、3箇所で切削できるアンバランス量は、2M
maxとなる。
【0013】
しかし、
図1(D)の場合であっても、アンバランス量が2M
maxを超えていた場合には、アンバランスを解消するだけの切削ができないことから、従来は不良品であるとして廃棄せざるを得ないという問題点があった。
【0014】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、アンバランス量が1箇所について切削できる最大量の2倍を超えた場合であっても、アンバランス量を許容値以下に抑えて不良品の発生率を低減することができる回転体のアンバランス修正加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、回転体の除去対象部を部分的に切削除去してアンバランス量を低減する回転体のアンバランス修正加工方法であって、
前記回転体のアンバランスの量と方位を計測し、
前記回転体の回転軸から前記アンバランスの方位に向けて延びる仮想半直線を第1半直線と、該第1半直線から周方向両側に60度傾いた半直線をそれぞれ第2半直線及び第3半直線と定義し、
前記アンバランス量が、1箇所について切削除去できる最大量の2倍を超える場合に、前記第1半直線上、第2半直線上及び第3半直線上の3箇所において前記最大量を切削除去
し、
前記切削除去後に、前記回転体のアンバランスの量と方位を再計測し、
残存するアンバランス量が所定の許容値を超える場合に、
前記回転体の回転軸から前記アンバランスの方位に向けて延びる仮想半直線を第1半直線と、該第1半直線から周方向両側に30度傾いた半直線をそれぞれ第2半直線及び第3半直線と再定義し、
ベクトルの和が計測によって求められた前記アンバランス量に相当する深さまで、再定義した前記第2半直線上及び第3半直線上の2箇所において切削除去する、ことを特徴とする回転体のアンバランス修正加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の方法によれば、計測したアンバランス量が、1箇所について切削除去できる最大量の2倍を超える場合でも、アンバランスの方位に位置する第1半直線上、第2半直線上及び第3半直線上の3箇所において前記最大量を切削除去するので、アンバランス量をゼロにできなくても、大幅に低減することができる。
従って、その後に回転体のアンバランスの量と方位を再計測することで、残存するアンバランス量が所定の許容値未満である良品の比率を高め、不良品を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
図2は、本発明による方法を実施するための修正加工装置の構成図である。
この図において、1は除去対象部、2は回転体、3は回転軸、4は切削工具、6は制御機構、7は位置制御部、8は角度センサ、9は加速度センサ、10は過給機、11は回転装置、12は演算装置、13はマウント、13aは張出部である。
【0021】
角度センサ8は、回転体2の回転角を検出し、検出した回転角を演算装置12に出力する。この回転角は、回転体2が1回転することでゼロ度〜360度まで変化する。即ち、回転角は、所定の始点となる回転体2の回転位相(始点回転角)から回転体2が回転した角度を示す。
角度センサ8は、例えば、磁気センサや画像センサであり、複数組み合わせて機能するものであってもよい。
【0022】
加速度センサ9は、回転体2が回転している状態で、回転体2の加速度(即ち、振動)を検出し、検出した加速度を演算装置12に出力する。加速度センサ9は、例えば磁気センサであってよい。
なお、加速度センサ9は、好ましくは、張出部13aに取り付けられており、さらに好ましくは、回転体2と同じ高さに位置する。
【0023】
過給機10は、この例では、マウント13によって支えられており、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼(図示しない)と、タービン翼と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼とを有する。
回転体2は、この例では、タービン翼とコンプレッサ翼とが連結軸で連結された回転体であり、除去対象部1は、連結軸の一端(図で左端)に取り付けられた六角ナットである。
【0024】
回転装置11は、マウント13に内蔵されており、回転体2の一端を把持して回転体2を回転させ、これによって回転体2の回転方向位置を調整している。
回転装置11は、例えば、回転体2の一端部を把持するコレットチャック等の把持機構(図示しない)と、把持機構を回転体2の回転軸3周りに回転させる回転駆動機構と、回転駆動機構を制御して回転体2の回転方向位置を調節する制御部とを有している。
【0025】
演算装置12は、例えば、加速度センサ9が検出した加速度と角度センサ8が検出した回転角との関係を表す振動データを生成し、位置制御部7に指示を与え、切削工具4を動作させて除去対象部1を部分的に切削除去する。
切削除去する位置は、除去対象部1(この例では六角ナット)の外周部であり、例えば、回転中心から一定の位置を回転するエンドミルの端面で切削するのがよい。
【0026】
マウント13は、回転体2を軸受(図示しない)によって支え、加速度センサ9によって振動計測を可能にしている。
【0027】
図3は、本発明による回転体のアンバランス修正加工方法の全体フロー図である。この図において、本発明の方法は、S1〜S12の各工程(ステップ)からなる。
【0028】
初めに、回転体2のアンバランスの量Mと方位を計測する(S1)。
次に、切削が1回目の場合(S2でYES)には、アンバランス量Mの大きさに応じて、1箇所切削(S6)、2箇所切削(S7)、3箇所切削(S8)、3箇所全切削(S9)のいずれかを実施する。
【0029】
アンバランス量Mが1箇所について切削除去できる最大量M
max未満である場合(S3でYES)には、1箇所切削(S6)により、
図1(A)(B)に示したように、回転体2の回転軸3から計測によって求められた方位に向けて延びる仮想半直線(第1半直線と呼ぶ)と除去対象部1(この例では六角ナット)の外周部との交点位置を、計測によって求められたアンバランス量Mに相当する深さまで切削除去する。第1半直線は、
図1におけるアンバランス方位D1に相当する。
この切削除去で、計測されたアンバランス量Mを計測された方位で除去したことになり、切削除去後のアンバランス量Mは、ゼロまたはゼロに近い値となる。
【0030】
アンバランス量Mが1箇所について切削除去できる最大量M
maxを超えるが√3M
max未満である場合(S4でYES)には、2箇所切削(S7)により、
図1(C)に示したように、上述した第1半直線から周方向両側に30度傾いた2つの半直線D2、D3と除去対象部1の外周部との交点位置(2箇所)を、ベクトルの和が計測によって求められたアンバランス量Mに相当する深さまで切削除去する。
【0031】
同様に、アンバランス量Mが√3M
maxを超えるが2M
max未満である場合(S5でYES)には、3箇所切削(S8)により、
図1(D)に示したように、上述した第1半直線から周方向両側に60度傾いた2つの半直線(それぞれ第2半直線及び第3半直線と呼ぶ)と除去対象部1の外周部との交点位置(3箇所)を、ベクトルの和が計測によって求められたアンバランス量Mに相当する深さまで切削除去する。この場合、第2半直線と第3半直線は、
図1(D)における半直線D4、D5に相当する。
【0032】
この2箇所切削(S7)及び3箇所切削(S8)により、計測されたアンバランス量Mを計測された方位で除去したことになり、切削除去後のアンバランス量Mは、ゼロまたはゼロに近い値となる。
【0033】
アンバランス量Mが2M
maxを超える場合(S5でNO)には、3箇所全切削(S9)により、3箇所切削(S8)と同一箇所、すなわち前記第1半直線上、第2半直線上及び第3半直線上の3箇所において1箇所について切削除去できる最大量M
maxを切削除去する。
この3箇所全切削(S9)では、計測されたアンバランス量Mに相当する量は切削除去していないが、計測された方位で2M
maxを超える量を除去したことになり、アンバランス量をゼロにできなくても、大幅に低減することができる。
【0034】
図3において、1箇所切削(S6)、2箇所切削(S7)、3箇所切削(S8)、3箇所全切削(S9)のいずれかを実施した後、回転体2のアンバランスの量Mと方位を再計測する(S1)。
なお、1箇所切削(S6)、2箇所切削(S7)、3箇所切削(S8)の場合には、切削除去後のアンバランス量Mが、ゼロまたはゼロに近い値となっているので、再計測(S1)を省略して、すべて良品(アンバランス修正済)としてもよい。
【0035】
次に、切削が2回目の場合(S2でNO)には、アンバランス量Mの大きさにかかわらず、上述した2箇所切削(S7)を実施する
(S10)。なお、ここで1箇所切削(S6)を併用してもよい。
【0036】
次いで、回転体2のアンバランスの量Mと方位を再計測し(S11)、再計測されたアンバランス量Mを予め設定した許容値αと比較する(S12)。
S12において、アンバランス量Mが許容値α未満であれば、良品(アンバランス修正済)とし、アンバランス量Mが許容値αを超える場合は、不良品と判断して、修正加工を終了する。
【0037】
上述した本発明の方法によれば、計測したアンバランス量Mが、1箇所について切削除去できる最大量M
maxの2倍を超える場合でも、アンバランスの方位に位置する第1半直線上、第2半直線上及び第3半直線上の3箇所において前記最大量M
maxを切削除去するので、アンバランス量をゼロにできなくても、大幅に低減することができる。
従って、その後に回転体2のアンバランスの量と方位を再計測することで、残存するアンバランス量Mが所定の許容値未満である良品の比率を高め、不良品を少なくすることができる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。