(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オートインジェクタにより試料を吸引して滞留部に滞留させた後、ポンプとカラムとを連通する流路に前記滞留部を接続することによって、前記ポンプの往復運動により前記流路内に送液される移動相を前記滞留部に導き、前記カラムへと試料を送る液体クロマトグラフであって、
前記ポンプの往復運動が所定の位相となるタイミングで、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続するように、前記オートインジェクタにより試料を吸引するタイミングを遅延させるための遅延時間を算出する遅延時間算出手段を含み、
前記オートインジェクタは、前記遅延時間算出手段により算出された遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始することを特徴とする液体クロマトグラフ。
前記ポンプが、複数種類の移動相を混合した状態で送液することにより、低圧グラジエント分析のために前記カラムへと試料を送ることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
前記オートインジェクタにおける分析の準備完了タイミングと、前記準備完了信号の出力タイミングとの間の時間のずれを短縮するように、前記ポーリング信号送信手段によるポーリング信号の送信態様を調節するポーリング調節手段をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の液体クロマトグラフ。
オートインジェクタにより試料を吸引して滞留部に滞留させた後、ポンプとカラムとを連通する流路に前記滞留部を接続することによって、前記ポンプの往復運動により前記流路内に送液される移動相を前記滞留部に導き、前記カラムへと試料を送る液体クロマトグラフの制御プログラムであって、
前記ポンプの往復運動が所定の位相となるタイミングで、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続するように、前記オートインジェクタにより試料を吸引するタイミングを遅延させるための遅延時間を算出する遅延時間算出手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする制御プログラム。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフの中には、サンプルループと呼ばれる滞留部に試料を吸引した後に、オートインジェクタから準備完了信号が出力され、当該準備完了信号を受信したシステムコントローラからの分析指示信号に基づいて、ポンプにより送液される移動相を滞留部に導くようになっているものがある(例えば、下記特許文献1の段落[0070]などを参照)。
【0003】
図6は、従来の液体クロマトグラフにおける制御態様の一例を示したタイムチャートである。この従来例における液体クロマトグラフでは、システムコントローラからの指示信号に基づいて、ポンプ及びオートインジェクタが動作するようになっている。
【0004】
当該液体クロマトグラフにおける分析の準備が開始された場合には、まず、システムコントローラからオートインジェクタに準備指示信号が出力される(T1)。このとき、試料を吸引する際の対象となる試料容器の番号や吸引量などが、準備指示信号とともにオートインジェクタに出力される。
【0005】
準備指示信号を受信したオートインジェクタは、指定された試料容器へとアームを移動させて、当該アームに取り付けられたニードルにより試料容器から試料を吸引する。吸引された試料は滞留部に滞留し、その後にニードルが注入ポートに接続される。これにより、オートインジェクタにおける分析の準備が完了し、システムコントローラからポーリング信号として出力される準備完了問合せ信号(T2)に基づいて、準備完了信号がオートインジェクタからシステムコントローラに送信される(T3)。
【0006】
準備完了信号を受信したシステムコントローラは、ポンプ及びオートインジェクタなどの各部に対して分析指示信号を出力する(T4)。これに伴い、液体クロマトグラフに備えられた各部が分析のための動作を開始し、オートインジェクタが移動相の流路に滞留部を接続する。この流路切換により、滞留部に滞留している試料が移動相によってカラムへと送られ、当該試料の分析が行われる。複数回の分析を連続して行う場合には、上記のような工程が繰り返されることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような工程において滞留部に滞留する試料は、時間の経過とともに拡散する性質を有している。そのため、試料を吸引してから滞留部に移動相が導かれるまでの時間(以下、「滞留時間」と呼ぶ。)が長期化した場合には、滞留部に滞留する試料の拡散量が多くなってしまう。その結果、カラムを通過した試料を検出する検出器において、得られる信号のバンド幅が広がり、感度や分離度が低下するおそれがある。このような観点から、試料の滞留時間は短いことが好ましい。
【0009】
上記特許文献1では、試料を注入する際の圧力低下を防止するという観点から、ポンプの往復運動の位相(ピストンの機械的な位置)と他の動作との間に一貫したタイミング関係を強いることが提案されている(段落[0054]参照)。しかしながら、滞留部に試料が滞留してから所定時間が経過した後に試料が注入されるような構成となっているため(段落[0089]及び[
図3]などを参照)、上記のような試料の滞留時間の長期化による問題が生じてしまう。
【0010】
一方で、複数回の分析を連続して行う場合には、各分析時に吸引する試料の滞留時間を一定にすることにより、測定の再現性を高めることが好ましい。しかしながら、上記特許文献1では、複数回の分析を連続して行う場合に、各分析時に吸引する試料の滞留時間にばらつきが生じてしまう。このような測定の再現性の観点は、試料の滞留時間に限られるものではなく、例えば滞留部に移動相が導かれる際におけるポンプの往復運動の位相も、各分析時において一定であることが好ましい。
【0011】
特に、複数種類の移動相を混合した状態で単一のポンプにより送液し、いわゆる低圧グラジエント分析を行うような場合には、測定の再現性の問題が生じやすい。すなわち、各分析時に移動相が滞留部に導かれる際、ポンプの往復運動の位相が一定でなければ、分析開始後の混合液の時間的な濃度変化が各分析時において一定とならず、リテンションタイムの再現性が悪くなるという問題がある。
【0012】
また、ポーリング信号を介した制御が行われる場合、所定の間隔で送信されるポーリング信号のタイミングによっては、ポンプ及びオートインジェクタなどの各部の動作完了タイミングと、ポーリング信号に対する応答信号の出力タイミングとの間に時間のずれが生じる場合がある。この場合、上記時間のずれが試料の滞留時間の短縮や測定の再現性の向上に悪影響を与えるおそれがある。また、近年においては、より多くの試料を短時間かつ高精度で分析することが要求される場合が多いため、上記時間のずれをできるだけ短くしてリテンションタイムの再現性を高めることが好ましい。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試料の滞留時間を短縮することができる液体クロマトグラフ及びその制御プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、測定の再現性を向上することができる液体クロマトグラフ及びその制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る液体クロマトグラフは、オートインジェクタにより試料を吸引して滞留部に滞留させた後、ポンプとカラムとを連通する流路に前記滞留部を接続することによって、前記ポンプの往復運動により前記流路内に送液される移動相を前記滞留部に導き、前記カラムへと試料を送る液体クロマトグラフであって、前記ポンプの往復運動が所定の位相となるタイミングで、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続するように、前記オートインジェクタにより試料を吸引するタイミングを遅延させるための遅延時間を算出する遅延時間算出手段を含み、前記オートインジェクタは、前記遅延時間算出手段により算出された遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始することを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、遅延時間算出手段により算出された遅延時間が経過するまで試料の吸引が開始されないため、試料の滞留時間を短縮することができる。これにより、吸引後の試料の拡散を抑え、分析時に感度や分離度が低下するのを防止することができる。また、試料の滞留時間が短縮されることにより、吸着性の高い試料が用いられた場合におけるキャリーオーバーを抑制し、残留試料が次の分析に影響を与えるのを防止することができる。
【0016】
また、ポンプの往復運動が所定の位相となるタイミングで流路に滞留部が接続されるように、試料を吸引するタイミングを遅延させることにより、吸引を開始してから滞留部に移動相が導かれるまでの滞留時間を、各分析時において一定にすることができる。さらに、滞留部に移動相が導かれる際におけるポンプの往復運動の位相が、各分析時において一定となる。試料の滞留時間及び滞留部に移動相が導かれる際におけるポンプの往復運動の位相の両方が、各分析時において一定となることにより、測定の再現性を向上することができる。
【0017】
このように、上記構成によれば、試料の滞留時間の短縮と測定の再現性の向上を両立することが可能である。特に、試料の吸引前に予め遅延時間を算出し、当該遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始することにより、ポンプからの信号を常時監視しなくても、ポンプが所定の位相となるタイミングで移動相を滞留部に導くことが可能となる。これにより、ポンプからの信号の受信タイミングのずれなどに起因して測定の再現性が低下するのを防止することができる。このような効果は、後述する低圧グラジエント分析の場合やポーリング信号を介して制御を行う場合に特に顕著となる。
【0018】
前記液体クロマトグラフは、前記遅延時間算出手段により算出された遅延時間を前記オートインジェクタに送信する遅延時間送信手段をさらに含み、前記オートインジェクタは、前記遅延時間を受信した後、当該遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始するものであることが好ましい。この場合、オートインジェクタが、予め受信した遅延時間に基づいて自動的に試料の吸引を開始するため、最適なタイミングで確実に試料の吸引を開始することができ、測定の再現性をより向上することができる。
【0019】
前記ポンプが、複数種類の移動相を混合した状態で送液することにより、低圧グラジエント分析のために前記カラムへと試料を送るものであってもよい。このような低圧グラジエント分析を行う場合であっても、滞留部に移動相が導かれる際におけるポンプの往復運動の位相が、各分析時において一定となることにより、分析開始後の混合液の時間的な濃度変化が各分析時において一定となるため、リテンションタイムの再現性を向上することができる。すなわち、低圧グラジエント分析に好適な液体クロマトグラフを提供することができる。
【0020】
前記液体クロマトグラフは、所定の間隔で前記オートインジェクタ及び前記ポンプにポーリング信号を送信するポーリング信号送信手段と、前記オートインジェクタ及び前記ポンプに分析指示信号を出力する分析指示信号出力手段とをさらに含み、前記オートインジェクタは、試料を吸引して前記滞留部に滞留させ、分析の準備が完了した後、前記ポーリング信号送信手段により送信されたポーリング信号に基づいて準備完了信号を出力するとともに、当該準備完了信号に応答して前記分析指示信号出力手段から出力される分析指示信号に基づいて、前記流路に前記滞留部を接続するものであってもよい。
【0021】
このようなポーリング信号を介した制御が行われる場合、所定の間隔で送信されるポーリング信号のタイミングによっては、ポンプ及びオートインジェクタなどの各部の動作完了タイミングと、ポーリング信号に対する応答信号の出力タイミングとの間に時間のずれが生じる場合がある。この場合、上記時間のずれが試料の滞留時間の短縮や測定の再現性の向上に悪影響を与えるおそれがあるが、上記のような構成を採用することにより、試料の滞留時間の短縮と測定の再現性の向上の観点において好適な液体クロマトグラフを提供することができる。
【0022】
前記液体クロマトグラフは、前記オートインジェクタにおける分析の準備完了タイミングと、前記準備完了信号の出力タイミングとの間の時間のずれを短縮するように、前記ポーリング信号送信手段によるポーリング信号の送信態様を調節するポーリング調節手段をさらに含んでいてもよい。
【0023】
ポーリング信号を介した制御が行われる場合、所定の間隔で送信されるポーリング信号のタイミングによっては、オートインジェクタにおける分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間に時間のずれが生じる場合がある。しかし、上記のようにポーリング信号の送信態様を調節して、オートインジェクタにおける分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間の時間のずれを短縮することにより、測定の再現性を効果的に向上することができる。
【0024】
上記のようなポーリング信号を介した制御が行われる構成の代わりに、前記オートインジェクタが、前記準備完了信号を割込信号として出力するような構成であってもよい。この場合、ポーリング信号を介した制御のように、オートインジェクタにおける分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間に時間のずれが生じることがないため、測定の再現性を向上することが可能である。
【0025】
また、前記液体クロマトグラフは、前記ポンプの送液速度を変化させることにより、前記ポンプの往復運動が前記所定の位相となるタイミングを調節する位相調節手段をさらに含んでいてもよい。この場合、ポンプの送液速度を変化させることにより遅延時間をできるだけ短くすることができる。
【0026】
前記所定の位相は、予め定められた特定の位相であってもよい。例えば、ポンプの送液圧力が最も高い位相となるタイミングで流路に滞留部が接続されるように、試料を吸引するタイミングを遅延させれば、分析性能を向上することが可能である。
【0027】
あるいは、前記液体クロマトグラフは、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続したときの前記ポンプの往復運動の位相を記憶する位相記憶手段をさらに含んでいてもよい。前記遅延時間算出手段は、前記ポンプの往復運動が前記位相記憶手段に記憶されている位相となるタイミングで、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続するように、前記遅延時間を算出可能であってもよい。この場合、1回目の分析時に位相記憶手段にポンプの往復運動の位相を記憶しておけば、2回目以降の分析時に当該位相を用いて遅延時間を算出することにより、測定の再現性を維持することができる。また、1回目の分析時には、遅延時間を設ける必要がないため、分析時間を短縮することができる。
【0028】
前記オートインジェクタは、各分析時に、試料を吸引するためにそれぞれ異なる吸引位置に変位する変位部を備えていてもよい。この場合、前記液体クロマトグラフは、前記オートインジェクタにより試料の吸引を開始してから前記準備完了信号が出力されるまでの時間が各分析時において一定となるように、前記変位部の変位時間に応じた待機時間を設定する待機時間設定手段をさらに含んでいてもよい。
【0029】
上記のように、各分析時で異なる吸引位置に変位部を変位させて試料を吸引する場合、吸引位置によって変位部の変位時間が異なるため、上記待機時間を設定しなければ、試料の吸引を開始してから準備完了信号が出力されるまでの時間にばらつきが生じることとなる。しかし、上記のように待機時間を設定することにより、試料の吸引を開始してから準備完了信号が出力されるまでの時間を各分析時において一定にすることができるため、測定の再現性をさらに向上することができる。
【0030】
本発明に係る液体クロマトグラフの制御プログラムは、オートインジェクタにより試料を吸引して滞留部に滞留させた後、ポンプとカラムとを連通する流路に前記滞留部を接続することによって、前記ポンプの往復運動により前記流路内に送液される移動相を前記滞留部に導き、前記カラムへと試料を送る液体クロマトグラフの制御プログラムであって、前記ポンプの往復運動が所定の位相となるタイミングで、前記オートインジェクタが前記流路に前記滞留部を接続するように、前記オートインジェクタにより試料を吸引するタイミングを遅延させるための遅延時間を算出する遅延時間算出手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、遅延時間算出手段により算出された遅延時間が経過するまで試料の吸引が開始されないため、試料の滞留時間を短縮することができる。また、試料の滞留時間及び滞留部に移動相が導かれる際におけるポンプの往復運動の位相の両方が、各分析時において一定となることにより、測定の再現性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体クロマトグラフの構成例を示したブロック図である。この液体クロマトグラフは、システムコントローラ1、ポンプ2、オートインジェクタ3、カラムオーブン4、検出器5及び低圧グラジエントバルブ6などを備え、低圧グラジエント分析を行うことができる。
図1における各部を結ぶ一点鎖線は、それらの各部が電気的に接続されていることを意味している。
【0034】
システムコントローラ1は、例えばコンピュータにより構成されており、CPU(Central Processing Unit)の他、ROM(Read-Only Memory)及びRAM(Random-Access Memory)を含む記憶部やタイマなどを備えている(いずれも図示せず)。当該システムコントローラ1は、ポンプ2、オートインジェクタ3、カラムオーブン4、検出器5及び低圧グラジエントバルブ6などに電気的に接続され、これらの各部との間で信号を送受信することができる。
【0035】
ポンプ2は、例えばプランジャポンプからなり、プランジャを往復移動させることにより吸込及び吐出を行うことができる。当該ポンプ2には、低圧グラジエントバルブ6を介して、複数種類の移動相が吸い込まれる。この例では、溶媒A及び溶媒Bが移動相として用いられているが、これに限らず、3種類以上の移動相が用いられるような構成であってもよい。
【0036】
上記ポンプ2は、プランジャの移動に伴い生じる負圧によって移動相を吸い込み、その後のプランジャの移動によって移動相を圧縮して送液する。すなわち、ポンプ2は、プランジャのストロークなどを伴う往復運動によって移動相を送液する。プランジャは、例えば1秒〜数十秒といった比較的長い時間をかけて1往復する。そのため、ポンプ2により送液する際のプランジャの位置(往復運動の位相)によって、送液圧力が変化するという特性を有している。
【0037】
低圧グラジエントバルブ6は、例えば電磁弁からなり、所定のデューティ比でオン/オフを繰り返すことにより、そのデューティ比に応じた濃度からなる溶媒A及び溶媒Bの混合液を生成する。低圧グラジエント分析においては、上記デューティ比を時間の経過とともに変化させることにより、移動相の混合液の濃度を時間の経過とともに変化させるようになっている。
【0038】
オートインジェクタ3は、試料を自動的に吸引して、移動相の流路7内に供給するための装置である。当該オートインジェクタ3は、複数の試料容器31から順次に試料を吸引し、それぞれの試料を分析のために流路7内に供給する。オートインジェクタ3には、流路7に接続された流路切換バルブ30が備えられている。流路切換バルブ30は、例えば回転式のバルブであって、等間隔に配置された6つのポートのうち隣り合う2つずつのポートを連通するパスの位置が、流路切換バルブ30の回転に伴い移動することによって、流路が切り換えられるようになっている。流路切換バルブ30の各ポートには、ポンプ2、カラム8、注入ポート34及び洗浄機構35などが接続されている。
【0039】
例えば、オートインジェクタ3は、各分析時に、それぞれ異なる吸引位置に変位する変位部としてのアーム(図示せず)を備えている。当該アームには、例えばニードル32が取り付けられており、
図1に破線で示すようにニードル32を移動させることにより、各吸引位置に配置された試料容器31からニードル32を介して試料を吸引することができる。吸引された試料は、例えばサンプルループと呼ばれる滞留部33に滞留し、その後に、
図1に実線で示すようにニードル32が移動して注入ポート34に接続されることにより、分析の準備が完了する。
【0040】
分析の準備が完了した後、流路切換バルブ30が回転されることにより、流路7に滞留部33が接続される。これにより、カラム8は、試料を保持する滞留部33を介して、ポンプ2に連通される。したがって、ポンプ2の往復運動により流路7内に送液される移動相が滞留部33に導かれ、当該滞留部33内の試料が移動相によってカラム8へと送られる。本実施形態では、ポンプ2が複数種類の移動相を混合した状態で送液することにより、低圧グラジエント分析のためにカラム8へと試料を送ることができる。洗浄機構35は、ニードル32などを洗浄するための機構であるが、本発明には直接関係がないため、詳細な説明を省略する。
【0041】
カラムオーブン4は、内部にカラム8を収容し、当該カラム8を加熱するための加熱装置である。カラム8へと送られた試料は、当該カラム8を通過する過程で成分ごとに分離される。分離された各成分は、検出器5により検出され、その検出結果がシステムコントローラ1に入力される。これにより、システムコントローラ1は、検出器5から入力される検出結果に基づいて分析を行うことができる。なお、検出器5を通過した試料は、移動相とともに廃液されるようになっている。
【0042】
図2は、システムコントローラ1の構成例を示した機能ブロック図である。また、
図3は、本実施形態に係る液体クロマトグラフの制御態様の一例を示したタイムチャートである。
【0043】
図2に示すように、システムコントローラ1は、CPUが制御プログラムを実行することにより、例えば通信部10、ポーリング調節部11、位相調節部12、遅延時間算出部13及び待機時間設定部14などとして機能する。通信部10は、例えばポーリング信号送信部101、位相情報受信部102、準備指示信号送信部103、準備完了信号受信部104及び分析指示信号送信部105などとして機能する。また、システムコントローラ1の記憶部は、例えば変位時間記憶部15などとして機能する。
【0044】
ポーリング信号送信部101は、ポンプ2及びオートインジェクタ3を含む当該液体クロマトグラフの各部100に対して、所定の間隔でポーリング信号を送信するポーリング信号送信手段を構成している。液体クロマトグラフの各部100は、受信したポーリング信号に基づいて、システムコントローラ1に応答信号を送信する。例えば、ポーリング信号は、液体クロマトグラフの各部100に対して、それぞれ0.5〜1秒程度に1回の間隔で送信される。そのため、ポーリング信号が送信されるタイミングによっては、各部100の動作完了タイミングと、ポーリング信号に対する応答信号の出力タイミングとの間に時間のずれが生じる場合がある。
【0045】
位相情報受信部102は、ポンプ2から位相情報を受信する位相情報受信手段を構成している。ポンプ2には、例えばプランジャの位置を検出するためのセンサ(図示せず)が備えられており、当該センサからの入力信号に基づいてポンプ2の往復運動の位相情報を得ることができる。当該位相情報は、例えばポーリング信号送信部101からポンプ2に送信されるポーリング信号(位相問合せ信号:
図3のT11)に基づいて、ポンプ2からシステムコントローラ1に送信される(
図3のT12)。
【0046】
準備指示信号送信部103には、例えば遅延時間送信部106及び待機時間送信部107が含まれる。遅延時間送信部106には、遅延時間算出部13により算出された遅延時間が入力され、待機時間送信部107には、待機時間設定部14により設定された待機時間が入力される。準備指示信号送信部103は、オートインジェクタ3に試料の吸引準備を指示するための準備指示信号を送信する準備指示信号送信手段を構成している。当該準備指示信号を送信する際に(
図3のT13)、遅延時間送信部106及び待機時間送信部107から遅延時間及び待機時間を送信することにより、オートインジェクタ3に試料の吸引を開始するタイミングなどを指示することができる。上記準備指示信号には、例えば試料を吸引する際の対象となる試料容器31の番号や吸引量などが含まれていてもよい。
【0047】
オートインジェクタ3は、準備指示信号を受信した後、指定された試料容器31へとアームを移動させてニードル32から試料を吸引し、滞留部33に試料を滞留させる。その後、ニードル32が注入ポート34に接続されることにより、オートインジェクタ3における分析の準備が完了する(
図3のT14)。このとき、例えばポーリング信号送信部101からオートインジェクタ3に送信されるポーリング信号(準備完了問合せ信号:
図3のT15)に基づいて、準備完了信号がオートインジェクタ3からシステムコントローラ1に出力される(
図3のT16)。準備完了信号受信部104は、上記のようにしてオートインジェクタ3から出力される準備完了信号を受信する準備完了信号受信手段を構成している。
【0048】
分析指示信号送信部105は、準備完了信号の受信に基づいて、当該液体クロマトグラフの各部100に分析指示信号を出力する分析指示信号出力手段を構成している。分析指示信号は、準備完了信号の受信に伴って直ちに出力されることが好ましい。分析指示信号の出力(
図3のT17)に伴い、ポンプ2及びオートインジェクタ3などの各部100が分析のための動作を開始する。このとき、オートインジェクタ3が流路切換バルブ30を回転させることにより、移動相の流路7に滞留部33が接続される。この流路切換により、滞留部33に滞留している試料が移動相によってカラム8へと送られ、当該試料の分析が行われる。複数回の分析を連続して行う場合には、上記のような工程が繰り返されることとなる。
【0049】
遅延時間算出部13は、オートインジェクタ3により試料を吸引するタイミングを遅延させるための遅延時間を算出する遅延時間算出手段を構成している。遅延時間算出部13には、位相情報受信部102で受信したポンプ2の往復運動の位相情報が入力されるようになっている。遅延時間算出部13は、例えば受信したポンプ2の往復運動の位相情報と、ポンプ2の往復運動の速度(あるいは周期)とに基づいて、ポンプ2の往復運動が所定の位相となるタイミングで、オートインジェクタ3が流路7に滞留部33を接続するように、最小の遅延時間を算出する。
【0050】
すなわち、オートインジェクタ3が、遅延時間算出部13により算出された遅延時間を受信した後、当該遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始することにより、その後に準備完了信号を受信したシステムコントローラ1から分析指示信号が出力されたときに、ポンプ2の往復運動が上記所定の位相となる最先のタイミングで、流路7に滞留部33が接続されるようになっている。オートインジェクタ3は、遅延時間算出部13により算出された遅延時間が経過するタイミングで試料の吸引を開始できるように、吸引開始前に停止時間が設けられるような構成であってもよいし、吸引開始前の動作速度が遅くなるような構成であってもよい。
【0051】
本実施形態では、遅延時間算出部13により算出された遅延時間が経過するまで試料の吸引が開始されないため、試料の滞留時間を短縮することができる。また、ポンプ2の往復運動が所定の位相となるタイミングで流路7に滞留部33が接続されるように、試料を吸引するタイミングを遅延させることにより、吸引を開始してから滞留部33に移動相が導かれるまでの滞留時間を、各分析時において一定にすることができる。さらに、滞留部33に移動相が導かれる際におけるポンプ2の往復運動の位相が、各分析時において一定となる。試料の滞留時間及び滞留部33に移動相が導かれる際におけるポンプ2の往復運動の位相の両方が、各分析時において一定となることにより、測定の再現性を向上することができる。
【0052】
特に、低圧グラジエント分析を行う場合には測定の再現性の問題が生じやすいが、本実施形態では、滞留部33に移動相が導かれる際におけるポンプ2の往復運動の位相が、各分析時において一定となることにより、分析開始後の混合液の時間的な濃度変化が各分析時において一定となるため、リテンションタイムの再現性を向上することができる。
【0053】
また、本実施形態では、オートインジェクタ3が、予め受信した遅延時間に基づいて自動的に試料の吸引を開始するため、最適なタイミングで確実に試料の吸引を開始することができ、測定の再現性をより向上することができる。ただし、遅延時間算出部13により算出された遅延時間が経過するタイミングで、システムコントローラ1からオートインジェクタ3に準備指示信号が出力され、オートインジェクタ3が、準備指示信号を受信した直後に試料の吸引を開始するような構成などであってもよい。
【0054】
本実施形態において、上記所定の位相とは、予め定められた特定の位相を意味しており、例えば送液圧力が最も高い位相であることが好ましい。ポンプ2の送液圧力が最も高い位相となるタイミングで流路7に滞留部33が接続されるように、試料を吸引するタイミングを遅延させれば、分析性能を向上することが可能である。
【0055】
待機時間設定部14は、アームの変位時間に応じた待機時間を設定する待機時間設定手段を構成している。上記待機時間は、オートインジェクタ3により試料の吸引を開始してから準備完了信号が出力されるまでの時間を各分析時において一定にするための時間である。具体的には、いずれの吸引位置で試料を吸引した場合であっても、吸引を開始してから準備完了信号が出力されるまでの時間が、アームの変位時間が最長となる場合の時間と一致するように、準備完了信号を出力する前の待機時間が設定される。
【0056】
したがって、アームの変位時間が短い吸引位置に対しては比較的長い待機時間が設定され、アームの変位時間が長い吸引位置に対しては比較的短い待機時間が設定される。変位時間記憶部15には、各分析時における試料の吸引位置と、当該吸引位置で試料を吸引する際のアームの変位時間とが対応付けて記憶されており、待機時間設定部14は、当該変位時間記憶部15に記憶されている情報に基づいて待機時間を設定することができる。このように待機時間を設定し、試料の吸引を開始してから準備完了信号が出力されるまでの時間を各分析時において一定にすることにより、測定の再現性をさらに向上することができる。待機時間中は、アームが停止されるような構成であってもよいし、アームの変位速度が遅くなるような構成であってもよい。
【0057】
ポーリング信号送信部101により送信されるポーリング信号の間隔及び順序などの態様は、ポーリング調節部11により調節することができる。当該ポーリング調節部11は、ポーリング信号の送信態様を調節するポーリング調節手段を構成しており、位相情報受信部102で受信したポンプ2の往復運動の位相情報が入力されるようになっている。これにより、ポーリング調節部11は、オートインジェクタ3における分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間の時間のずれ(
図3の△T)を短縮するように、ポーリング信号の送信態様を調節することができるようになっている。ただし、ポンプ2の往復運動の位相情報ではなく、算出された遅延時間などに基づいて、ポーリング信号の送信態様を調節することも可能である。
【0058】
このように、ポーリング信号の送信態様を調節して、オートインジェクタ3における分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間の時間のずれ(△T)を短縮することにより、測定の再現性を効果的に向上することができる。例えば、上記時間のずれ(△T)がなくなるようにポーリング信号の送信態様を調節した場合には、オートインジェクタ3における分析の準備完了タイミングに合わせてポーリング信号(準備完了問合せ信号)が送信されることにより、オートインジェクタ3が、当該ポーリング信号の受信直後に準備完了信号を出力することとなる。
【0059】
ただし、上記のようなポーリング信号を介した制御に限らず、例えばオートインジェクタ3が、準備完了信号を割込信号として出力するような構成であってもよい。すなわち、オートインジェクタ3がポーリング信号の受信に応答して準備完了信号を出力するのではなく、オートインジェクタ3から自動的に準備完了信号が出力され、当該準備完了信号に基づいて、システムコントローラ1が割込処理により分析指示信号を送信するような構成であってもよい。この場合、ポーリング信号を介した制御のように、オートインジェクタ3における分析の準備完了タイミングと、準備完了信号の出力タイミングとの間に時間のずれ(△T)が生じることがないため、測定の再現性を向上することが可能である。
【0060】
ポンプ2におけるプランジャの位置は、位相調節部12により調節することができる。すなわち、ポンプ2の送液速度は、一定ではなく、位相調節部12により変更可能であってもよい。当該位相調節部12は、ポンプ2の往復運動が上記所定の位相(予め定められた特定の位相)となるタイミングを調節する位相調節手段を構成しており、位相情報受信部102で受信したポンプ2の往復運動の位相情報が入力されるようになっている。本実施形態では、位相調節部12は、分析開始前の所定時間だけポンプ2の送液速度を変化させることにより、分析指示信号の出力タイミング(
図3のT17)を早めることができ、その結果、遅延時間をできるだけ短くすることができる。
【0061】
図4は、システムコントローラ1による制御の流れを示したフローチャートである。当該液体クロマトグラフの動作は、例えば、システムコントローラ1に備えられた操作部(図示せず)を用いて、各分析時に使用する試料容器31の番号や吸引量などを指定する操作が行われた後、分析の準備を指示する操作が行われることにより開始される。分析の準備が開始された場合には、まず、位相問合せ信号としてのポーリング信号が、システムコントローラ1からポンプ2に送信される(ステップS101)。
【0062】
その後、システムコントローラ1は、ポンプ2から位相情報を受信するか否かを監視し(ステップS102)、位相情報を受信した場合には(ステップS102でYes)、当該位相情報に基づいて遅延時間を算出する(ステップS103)。また、システムコントローラ1は、試料を吸引する際の対象となる試料容器31の番号などに基づいて、待機時間を設定する(ステップS104)。
【0063】
そして、システムコントローラ1は、試料の吸引準備を指示するための準備指示信号を、遅延時間及び待機時間とともにオートインジェクタ3に送信する(ステップS105)。これに伴い、オートインジェクタ3が試料の吸引準備を開始することとなる。その後、システムコントローラ1は、ポーリング信号の送信態様の調節(ステップS106)及びポンプ2の往復運動の位相の調節(ステップS107)を行う。
【0064】
図3に示すように、準備指示信号を受信したオートインジェクタ3は、その後に遅延時間が経過するまで待ってから、アームを移動させてニードル32から試料を吸引する。そして、吸引した試料を滞留部33に滞留させた状態で、ニードル32が注入ポート34に接続されることにより、オートインジェクタ3における分析の準備が完了し、このタイミングに合うように調節された準備完了問合せ信号がシステムコントローラ1からオートインジェクタ3に送信される(ステップS108)。ただし、オートインジェクタ3は、アームを移動させた後に遅延時間の経過を待つような構成や、遅延時間中にアームを移動させるような構成などであってもよい。
【0065】
その後、システムコントローラ1は、オートインジェクタ3から準備完了信号を受信するか否かを監視することとなるが(ステップS109)、準備完了問合せ信号が調節されたタイミングで送信されるため、直ちにオートインジェクタ3から準備完了信号を受信することとなる。準備完了信号を受信した場合(ステップS109でYes)、システムコントローラ1は、ポンプ2及びオートインジェクタ3などの各部100に対して分析指示信号を送信する(ステップS110)。これにより、液体クロマトグラフに備えられた各部100が分析のための動作を開始する。
【0066】
図5は、システムコントローラ1の変形例を示した機能ブロック図である。上記実施形態では、ポンプ2の往復運動が予め定められた特定の位相となるタイミングで流路7に滞留部33が接続されるように、遅延時間を算出する場合について説明したが、この例では、ポンプ2の往復運動が位相記憶部16に記憶されている位相となるタイミングで流路7に滞留部33が接続されるように、遅延時間を算出するようになっている。この例におけるシステムコントローラ1は、位相記憶部16に関する構成以外は上記実施形態と同様であるため、同様の構成については図に同一符号を付して説明を省略する。
【0067】
位相記憶部16は、オートインジェクタ3が流路7に滞留部33を接続したときのポンプ2の往復運動の位相を記憶する位相記憶手段を構成している。例えば、複数回の分析を連続して行う場合には、1回目の分析時に、流路7に滞留部33を接続したときのポンプ2の往復運動の位相を位相情報受信部102で受信し、当該位相を位相記憶部16に記憶させる。そして、2回目以降の分析時には、ポンプ2の往復運動が位相記憶部16に記憶されている位相となるタイミングで、オートインジェクタ3が流路7に滞留部33を接続するように、遅延時間算出部13が遅延時間を算出する。このような構成であっても、試料の滞留時間を各分析時において一定にすることができるため、測定の再現性を維持することができる。また、1回目の分析時には、遅延時間を設ける必要がないため、分析時間を短縮することができる。
【0068】
以上の実施形態では、ポンプ2がプランジャポンプである場合について説明したが、これに限らず、例えばピストンポンプなどの他の往復ポンプによりポンプ2が構成されていてもよい。すなわち、ポンプ2は、往復運動により移動相を送液するような構成であれば、他のいかなる構成であってもよい。
【0069】
オートインジェクタ3は、アームを変位させて試料を吸引するような構成に限らず、アーム以外の他の変位部を試料の吸引位置に変位させるような構成であってもよい。試料容器31を保持する部材を変位部として、当該部材を変位させるような構成とすることも可能である。また、オートインジェクタ3が、試料の吸引位置によって変位部の変位時間が異ならないような構成である場合にも、本発明は適用可能である。
【0070】
オートインジェクタ3は、回転式の流路切換バルブ30に限らず、他の構成を有するバルブによって、流路7に滞留部33を接続するものであってもよい。また、バルブに限らず、他の流路切換手段によって、流路7に滞留部33を接続するような構成を採用することも可能である。滞留部33は、ループ状の構成に限らず、他のいかなる構成であってもよい。
【0071】
ポーリング調節部11及び位相調節部12の少なくとも一方を省略することも可能である。また、待機時間設定部14を省略して、遅延時間算出部13により算出された遅延時間のみに基づいて、オートインジェクタ3が試料を吸引するような構成であってもよい。
【0072】
液体クロマトグラフの制御は、システムコントローラ1に限らず、他の装置により行われてもよい。この場合、液体クロマトグラフの外部に設けられた制御装置により制御を行うような構成であってもよいし、液体クロマトグラフの内部に備えられた各部100のいずれかが制御を行うような構成であってもよい。
【0073】
また、液体クロマトグラフの制御を行うためのプログラムが、制御プログラムとして個別に提供されてもよい。この場合、当該制御プログラムを用いて制御を行うコンピュータが、液体クロマトグラフの制御装置として機能し、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。また、上記制御プログラムを記憶媒体に記憶した状態で提供することも可能である。