(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却器および前記除湿器は、前記対象空間に吹き出す空気を冷却するための熱媒体が流れ、前記熱媒体と前記空気との間で熱交換を行わせる、前記空気の冷却機能および除湿機能を併せ持った冷却熱交換器(22)である、
請求項1又は2に記載の空調システム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)空調システムの全体構成
本発明の一実施形態に係る空調システム10は、室内空間RMの顕熱負荷および潜熱負荷を必要量だけ処理し、室内空間RMの湿度と温度とを調節することができるように構成されたシステムであり、半導体の製造工場などのクリーンルームに設置される。
図1に示すように、空調システム10は、室内空間RMから室内空気RAを取り込み、湿度や温度を調節した後の空気を、供給空気SAとして室内空間RAへ送る。空調システム10は、主として、チラーユニット50と空調ユニット20とを備え、冷媒回路51と放熱回路60と熱媒体回路40とを有している。
【0018】
(2)空調システムの詳細構成
(2−1)冷媒回路
冷媒回路51は、チラーユニット50に含まれており、冷媒を循環させて蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う閉回路である。冷媒回路51には、圧縮機52、放熱器54、膨張弁56、蒸発器58などが接続されている。
【0019】
圧縮機52は、運転容量の調節が可能である。圧縮機52のモータには、インバータを介して電力が供給される。インバータの出力周波数を変更すると、モータの回転数(回転速度)が変更され、圧縮機52の運転容量が変わる。
【0020】
放熱器54は、冷媒回路51と接続されている第1伝熱管と、放熱回路60と接続されている第2伝熱管とを有しており、冷媒回路51側の第1伝熱管を流れる冷媒と放熱回路60側の第2伝熱管を流れる熱媒体との間で熱交換を行わせる。
【0021】
蒸発器58は、冷媒回路51と接続されている第1伝熱管と、熱媒体回路40と接続されている第2伝熱管とを有しており、冷媒回路51側の第1伝熱管を流れる冷媒と熱媒体回路40側の第2伝熱管を流れる熱媒体との間で熱交換を行わせる。
【0022】
(2−2)放熱回路
放熱回路60には、熱媒体としての水が充填されている。放熱回路60には、上述した放熱器54と水ポンプ62とクーリングタワー70とが接続されている。水ポンプ62は、吐出流量の調節が可能であり、放熱回路60の水を循環させる。クーリングタワー70では、放熱回路60を循環する水が冷却される。なお、
図1において、水ポンプ62に付した矢印は、放熱回路60における水の流れる方向を意味している。
【0023】
(2−3)熱媒体回路
熱媒体回路40は、熱媒体としての水が充填された閉回路を構成している。熱媒体回路40には、上述した蒸発器58と循環ポンプ42と空気冷却熱交換器22とが接続されている。循環ポンプ42は、容量調整が可能であって吐出流量を調節することができ、熱媒体回路40の水を循環させる。蒸発器58では、熱媒体回路40を循環する熱媒体が冷却される。なお、
図1において、循環ポンプ42に付した矢印は、熱媒体回路40における水の流通方向を意味している。
【0024】
また、
図1には、1つの空調ユニット20とその空気冷却熱交換器22とだけが示されているが、熱媒体回路40は、複数の空調ユニットそれぞれの空気冷却熱交換器22と蒸発器58とを結んでおり、全体流量は循環ポンプ42の吐出流量によって決まり、各空気冷却熱交換器22に流す熱媒体の流量は流量調整弁44の開度によって決まる。
【0025】
(2−4)空調ユニットの構成
空調ユニット20は、概ね直方体形状のケーシング21を有している。ケーシング21の内部には、空気が流通する空気通路が形成されている。空気通路の流入端には、吸込ダクト32の一端が接続している。吸込ダクト32の他端は室内空間RMにつながっている。空気通路の流出端には、給気ダクト31の一端が接続している。給気ダクト31の他端は室内空間RMにつながっている。
【0026】
ケーシング21内の空気通路には、上流側から下流側に向かって順に、空気冷却熱交換器22、電気ヒータ24、散水式加湿器26、及び送風ファン28が配備されている。電気ヒータ24は、空気冷却熱交換器22を通過した空気を加熱する。電気ヒータ24は、空気の温度を上げるための機器であり、出力を段階的に変化させることが可能で、空気の加熱量を調節できる。散水式加湿器26は、ケーシング21の外部に設置されたタンク(図示省略)の水をノズルから空気中へ散布することで、ケーシング21内を流れる空気を加湿する。散水式加湿器26は、空気の湿度を高めるための機器であり、空気への加湿量を調節できる。送風ファン28は、インバータ制御によって回転数を段階的に変化させることが可能で、送風量を調節できる送風機である。送風ファン28は、空気冷却熱交換器22、電気ヒータ24および散水式加湿器26を経て室内空間RMへと吹き出される空気の流れを生成する。
【0027】
空気冷却熱交換器22は、空気を冷却して、空気の温度を下げたり空気を除湿して湿度を低めたりする機器である。すなわち、空気冷却熱交換器22は、空気の冷却機能および除湿機能を併せ持っており、空気を露点温度以下まで冷却することができる。空気冷却熱交換器22は、複数の伝熱フィンと、それらの伝熱フィンを貫通する伝熱管とを有する、フィンアンドチューブ式の熱交換器である。前述のように、空気冷却熱交換器22の伝熱管には、熱媒体回路40を循環する熱媒体である冷水が流れ、伝熱管および伝熱フィンを介して冷水の冷熱が空気に供給されることで空気が冷却される。
【0028】
(2−5)空調システムコントローラの構成
空調システム10は、制御手段としての空調システムコントローラ80をさらに備えている。コントローラ80については、後に詳述する。
【0029】
(3)空調システムの基本動作
次に、空調システム10の運転動作について説明する。空調システム10は、空気の冷却と除湿を行う冷房除湿運転(
図6参照)、空気の冷却と加湿を行う冷房加湿運転(
図7参照)、空気の除湿と加熱とを行う除湿暖房運転(
図8参照)および空気の加熱と加湿とを行う暖房加湿運転(
図9参照)のいずれかを行うことで、例えば室内空間RMの温度および湿度を、設定温度(目標温度)である23℃および設定湿度(目標湿度)である50%になるように空気調和を行う。
【0030】
図6に示す冷房除湿運転では、圧縮機52、水ポンプ62、循環ポンプ42、および送風ファン28の運転が行われる。冷房除湿運転では、基本的には、電気ヒータ24が停止状態となり、散水式加湿器26の散水も停止状態となる。冷房除湿運転では、冷媒回路51において冷凍サイクルが行われる。具体的に、圧縮機52で圧縮された冷媒が、放熱器54において、放熱回路60を流れる水に放熱して凝縮する。放熱器54で冷却された冷媒は、膨張弁56で減圧された後に、蒸発器58において、熱媒体回路40を流れる水から吸熱して蒸発する。蒸発器58で蒸発した冷媒は、圧縮機52に吸入されて圧縮される。なお、放熱器54で加熱された放熱回路60を流れる水は、クーリングタワー70において室外空気へ放熱する。熱媒体回路40では、冷媒回路51の蒸発器58で冷却された水が、空気冷却熱交換器22において、ケーシング21内の空気通路を流れる空気を冷却する。空気冷却熱交換器22を通過した水は、冷媒回路51の蒸発器58に戻って再び冷却される。熱媒体回路40では、蒸発器58において水が冷媒から得た冷熱が、空気冷却熱交換器22に搬送され空気に供給される。空調ユニット20では、吸込ダクト32によって室内空間RMから取り込まれた室内空気RAが、ケーシング21内の空気通路を流れる。この空気は、空気冷却熱交換器22において熱媒体回路40の水によって冷却されて除湿される。空気冷却熱交換器22で冷却/除湿された空気は、給気ダクト31を経由して、供給空気SAとして室内空間RMへ供給される。なお、室内空気の顕熱負荷および潜熱負荷が、空気冷却熱交換器22による冷却/除湿によって必要量だけ丁度処理され、空気の再加熱や加湿が必要ない場合に、この冷房除湿運転が行われることになる。
【0031】
図7に示す冷房加湿運転は、冷房除湿運転に加えて散水式加湿器26の散水による加湿が行われる運転である。空気冷却熱交換器22において熱媒体回路40の水によって空気が冷却されて除湿されるまでは、上述の冷房除湿運転と同じであり、その冷却/除湿された空気に散水式加湿器26による散水が行われる。この冷房加湿運転は、空気冷却熱交換器22による冷却/除湿で、設定温度は達成されるが、冷却に伴う除湿効果によって室内空間RMの湿度が設定湿度を下回るようなときに行われる運転である。
【0032】
図8に示す除湿暖房運転は、再熱除湿運転とも呼ばれる運転で、空気冷却熱交換器22による除湿/冷却で、設定湿度は達成されるが、除湿に伴う冷却効果によって室内空間RMの温度が設定温度を下回るようなときに行われる運転である。この除湿暖房運転では、空気冷却熱交換器22において除湿のために空気に供給された冷熱量が大きく、必要以上に空気が冷やされた場合に、電気ヒータ24が作動して空気を再加熱する。
【0033】
図9に示す暖房加湿運転では、電気ヒータ24、散水式加湿器26及び送風ファン28の運転が行われる。一方、圧縮機52、水ポンプ62、及び循環ポンプ42は、停止される。暖房加湿運転では、空調ユニット20において、室内空間RMから取り込まれた空気が、まず電気ヒータ24によって加熱され、次に散水式加湿器26によって加湿されて、供給空気SAとして室内空間RMへ供給される。
【0034】
(4)空調システムのコントローラによる詳細制御
上述の空調システムの基本動作は、
図2に示すコントローラ80によって制御される。制御手段としての空調システム10に備わるコントローラ80は、具体的には、圧縮機52、膨張弁56、水ポンプ62、循環ポンプ42、流量調整弁44、電気ヒータ24、散水式加湿器26、送風ファン28、等を制御する。コントローラ80は、空調ユニット20や熱媒体回路40の機器だけではなく、チラーユニット50の冷媒回路51や放熱回路60の機器の制御も行うが、ここでは空調ユニット20や熱媒体回路40の機器の制御に焦点を当てて説明を行う。冷媒回路51や放熱回路60の機器の制御では、圧縮機52、膨張弁56、水ポンプ62の出力や開度を調節して、熱媒体回路40において蒸発器58から流出する冷水の温度が目標値になるようにするが、ここでは冷水の温度を一定の目標値に制御しているという前提で説明を進める。
【0035】
コントローラ80は、
図2に示すように、室内空間RMの空気の温度を測る室内温度センサ95、室内空間RMの空気の湿度を測る室内湿度センサ96、その他の各種センサからの入力を受けて、空調ユニット20の電気ヒータ24、散水式加湿器26および送風ファン28や熱媒体回路40の循環ポンプ42および流量調整弁44の制御を行う。また、コントローラ80は、記憶部としてのメモリ81を有している。このメモリ81には、ユーザーによって入力された室内空間RMの設定温度や設定湿度が記憶されている。
【0036】
コントローラ80は、メモリ81等に書き込まれているプログラムをCPUが実行することにより各機器の制御を行うが、CPUがプログラムを実行することで、コントローラ80は種々の機能を持つことになる。ここでは、それらのコントローラ80の機能を、
図2に示すように、冷熱量調整部82、加熱量調整部84、加湿量調整部86、送風量調整部88と称することにする。また、
図2において、コントローラ80を、2つのPID調節器を含むものとして表現している。このうち、設定温度と室内温度センサ95による室内温度の計測値とが入力され冷却要求出力値TcMVや加熱要求出力値ThMVを出力するものを温度PID調節器101と呼び、設定湿度と室内湿度センサ96による室内湿度の計測値とが入力され除湿要求出力値HcMVや加湿要求出力値HhMVを出力するものを湿度PID調節器102と呼ぶ。温度PID調節器101は、加熱要求出力値ThMVを出力する加熱PID101aと、冷却要求出力値TcMVを出力する冷却PID101bとを含んでいる。湿度PID調節器102は、除湿要求出力値HcMVを出力する除湿PID102aと、加湿要求出力値HhMVを出力する加湿PID102bとを含んでいる。そして、冷熱量調整部82は、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVの大きなほうの値を、冷熱出力指示値として循環ポンプ42および流量調整弁44に送る。加熱量調整部84は、加熱要求出力値ThMVを、加熱出力指示値として電気ヒータ24に送る。加湿量調整部86は、加湿要求出力値HhMVを、加湿出力指示値として散水式加湿器26に送る。また、送風量調整部88は、送風出力指示値を送風ファン28に送る。
【0037】
(4−1)温度PID調節器による冷却要求出力値および加熱要求出力値の決定
温度PID調節器101は、制御入力(PV)、設定入力(SV)および制御出力(MV)を備えるPIDコントローラであって、標準的なPID制御基本式による演算を行う機器である。制御入力(PV)として室内温度センサ95による室内温度の計測値である現在温度PVtが入力され、設定入力(SV)としてメモリ81に記憶されている設定温度SVtが入力され、制御出力(MV)として冷却要求出力値TcMVおよび加熱要求出力値ThMVを出力する。
【0038】
温度PID調節器101は、
図3に示すように、室内温度センサ95で計測された現在温度PVtと設定温度SVtとの偏差に基づき、比例動作(P動作)、積分動作(I動作)および微分動作(D動作)を組み合わせたPID制御ロジックを用いて、冷却要求出力値TcMVおよび加熱要求出力値ThMVを演算する。PID制御ロジックには、下記の式1および式2が用いられる。式2はPID動作の演算式である。
(式1):
u(n)=u(u−1)+Δu(n)
(式2):
Δu(n)=Kp×[e(n)−e(n−1)]+(T/Tl)×e(n)+(TD/T)×[e(n)−2×e(n−1)+e(n−2)]
u(n)は、今回の顕熱負荷計算で算出される出力値、u(n−1)は、前回の顕熱負荷計算で算出された出力値、Δu(n)は、修正値、をそれぞれ表している。Kpは、比例ゲイン、Tlは、積分時間、TDは、微分時間、Tは、タイムステップ、をそれぞれ表している。e(n)は、今回の顕熱負荷計算における室内温度センサ95の計測値と設定温度との差、e(n−1)は、前回の顕熱負荷計算における室内温度センサ95の計測値と設定温度との差、e(n−2)は、前々回の顕熱負荷計算における室内温度センサ95の計測値と設定温度との差、をそれぞれ表している。
【0039】
(4−2)湿度PID調節器による除湿要求出力値および加湿要求出力値の決定
湿度PID調節器102も、温度PID調節器101と同様のPIDコントローラであって、制御入力(PV)として室内湿度センサ96による室内湿度の計測値である現在湿度PVhが入力され、設定入力(SV)としてメモリ81に記憶されている設定湿度SVhが入力され、制御出力(MV)として除湿要求出力値HcMVおよび加湿要求出力値HhMVを出力する。
【0040】
湿度PID調節器102は、
図3に示すように、室内湿度センサ96で計測された現在湿度PVhと設定湿度SVhとの偏差に基づき、温度PID調節器101と同様のPID制御ロジックを用いて、除湿要求出力値HcMVおよび加湿要求出力値HhMVを演算する。演算方法については、温度PID調節器101と同様であるため説明は省略する。
【0041】
(4−3)冷熱量調整部による冷却要求出力値および除湿要求出力値の修正
冷熱量調整部82は、空気冷却熱交換器22において熱媒体から空気へと供給される冷熱量を調整するために設けられたコントローラ80の機能部であり、冷熱出力指示値を循環ポンプ42および流量調整弁44に送り、空気冷却熱交換器22を流れる熱媒体の流量を調節する。ここでは、熱媒体回路40において蒸発器58から流出する冷水の温度を一定の目標値に制御しているという前提なので、空気冷却熱交換器22を流れる熱媒体(冷水)の流量に応じて冷却熱交換器22における熱媒体から空気へと供給される冷熱量が変わる。
【0042】
上述のように、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVの大きなほうの値が、冷熱量調整部82から循環ポンプ42および流量調整弁44に冷熱出力指示値として送られるが、その前に、冷熱量調整部82は、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVの修正を行う。
【0043】
(4−3−1)加熱要求出力値および加湿要求出力値による修正
冷却要求出力値TcMVおよび加熱要求出力値ThMVは、相反する要求に関する値であるため、一方がゼロではない値になっていれば他方はゼロになるように、冷熱量調整部82による修正が行われる(
図3〜
図5参照)。
【0044】
また、除湿要求出力値HcMVおよび加湿要求出力値HhMVは、相反する要求に関する値であるため、一方がゼロではない値になっていれば他方はゼロになるように、冷熱量調整部82による修正が行われる。
【0045】
(4−3−2)増分値の比較結果に基づく修正
上記のように、冷却要求出力値TcMVおよび加熱要求出力値ThMVは、一方がゼロにならなければ他方に値が入らないため、室内空間RMの負荷変動によって除湿暖房運転から冷房加湿運転に移行するような場合に、加湿動作が遅れて室内空間RMの湿度が設定湿度を大きく下回ってしまうことが想定される(
図10(a),(b)参照)。また、逆に冷房加湿運転から除湿暖房運転に移行するような場合に、加熱動作が遅れて室内空間RMの温度が設定温度を大きく下回ってしまうことが想定される(
図11(a),(b)参照)。こうなってしまうと、加湿を行う散水式加湿器26や加熱を行う電気ヒータ24を余分に動かす必要が生じ、無駄なエネルギーを消費してしまうことになる。
【0046】
このような事態を回避するために、ここでは、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロより大きく且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロ以下であるときに、除湿要求出力値HcMVをゼロにする(
図4参照)。さらに、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロ以下であり且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロより大きいときに、冷却要求出力値TcMVをゼロにする(
図5参照)。
【0047】
また、ともに空気冷却熱交換器22の制御パラメータである冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVについては、それらの増分値ΔTcMVおよび増分値ΔHcMVを監視することによって、冷却/除湿のどちらが支配的になるのかを判断できる。このような本願発明者の新しい知見に基づき、ここでは、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロより大きく且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロ以下であるときに、除湿要求出力値HcMVをゼロにするという修正に加え、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値を新しい冷却要求出力値TcMVにするという修正を、冷熱量調整部82に行わせている。また、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロ以下であり且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロより大きいときに、冷却要求出力値TcMVをゼロにするという修正に加え、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値を新しい除湿要求出力値にするという修正を、冷熱量調整部82に行わせている。ここで、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値は、今の冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値、或いは、それよりも前回の冷却要求出力値TcMVまたは除湿要求出力値HcMVが大きければその値、である。
【0048】
(4−3−3)定期的な冷却負荷推定処理,除湿負荷推定処理に基づく修正
以上のように、冷熱量調整部82は、温度PID調節器101の冷却PID101bから出力される冷却要求出力値TcMVおよび湿度PID調節器102の除湿PID102aから出力される除湿要求出力値HcMVの修正を行う。これに加え、冷熱量調整部82は、数秒単位の間隔(
図12の時間間隔Tpを参照)で行われるPID動作(演算)とは異なる、1分以上の数分単位の間隔(
図12の時間間隔Tbを参照)で定期的に行われる冷却負荷推定処理および除湿負荷推定処理に基づく出力値修正も行っている。この冷却負荷推定処理および除湿負荷推定処理と、それに基づく出力値の修正について、
図12を参照しながら説明する。
【0049】
冷熱量調整部82は、定期的に、室内空間RMの冷却負荷および除湿負荷を推定し、それらの推定負荷に基づき、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVの変更が必要だと判断したときに、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVを書き換える。
図12に、室内空間RMの冷却負荷の推定処理およびそれに基づく冷却要求出力値TcMVの修正(書き換え)の概要を示す。冷却負荷の推定処理は、数分の時間間隔Tbで定期的に行われる。この推定処理では、まず冷却PID101bからPID動作で演算された冷却要求出力値TcMVを受信し、最適制御値Qsloadの計算を行う。この計算は、以下の計算式を用いて行われる。
(式3):
Qsload(i−1)は、前回の推定処理における最適制御値、Qscは、空気冷却熱交換器22の定格能力、をそれぞれ表している。定格能力Qscについては、値を大きくしすぎると負荷増減量が大きくなりハンチングの要因になり、小さすぎると逆に応答性がわるくなるので、運転温湿度条件での顕熱能力値、潜熱能力値を用いる。もし空気冷却熱交換器22やチラーユニット50が過剰設計されている場合でも、その過剰に設計された設計値に基づいた顕熱能力値、潜熱能力値を用いる。
【0050】
TcMVpv(i)は、今回受信した冷却要求出力値TcMV、TcMVmv(i−1)は、前回の推定処理で冷却PID101bに送信した最適制御値(書き換え後の前回の冷却要求出力値TcMV)、をそれぞれ表している。但し、前回の推定処理で冷却PID101bへの最適制御値の送信が行われなかったときには、TcMVmv(i−1)は前回の推定処理で受信した冷却要求出力値TcMVpv(i−1)となる。
【0051】
また、(Gac/Ga)の0.5乗(平方根)は、送風ファン28の風量による修正係数である。Gacは、送風ファン28の定格風量、Gaは、現在の風量を、それぞれ表している。
【0052】
以上のようにして求めた最適制御値Qsloadは、今回冷却PID101bから受信した冷却要求出力値TcMVとの差が大きければ、冷却PID101bに送信されて冷却要求出力値TcMVの書き換えが行われる。最適制御値Qsloadと冷却要求出力値TcMVとの差が小さければ、冷却PID101bへの最適制御値Qsloadの送信は行われず、冷却要求出力値TcMVの修正(書き換え)も行われない。
【0053】
なお、制御開始時においては、循環ポンプ42のモータのインバータ周波数、流量調整弁44の開度および熱媒体回路40の配管モデルから空気冷却熱交換器22に流れている水量と送水ヘッドを計算し、空調ユニット20の入口条件(入口空気量、空気温湿度)や加熱、加湿の入力値から能力を計算して、それを現在の冷却負荷とする。制御開始時以外の前回のQsload(i−1)についても、例えば制御操作(送水圧)の時間遅れを考慮して、前回の流量調整弁44の開度と現在の送水圧から同様の計算で求めることもある。例えば、前回に循環ポンプ42へ負荷5kwでの制御値を送信したが、送水圧が増加せず4kWの能力しかでていないのに室内空間RMの温度が下がりすぎて流量調整弁44の開度を下げていくような場合があり、前回の5kWから負荷増減分を引いても現在能力4kW以上となれば外乱要因になるため、前回の負荷を現在の送水圧での能力に置き換えて換えて再度計算することもある。
【0054】
次に、室内空間RMの除湿負荷の推定処理や除湿要求出力値HcMVの修正であるが、上記の室内空間RMの冷却負荷の推定処理や冷却要求出力値TcMVの修正と同様であるため、最適制御値Qlloadの計算式だけを以下に示す。
(式4):
Qlload(i−1)は、前回の推定処理における最適制御値、Qlcは、空気冷却熱交換器22の定格能力、をそれぞれ表している。
【0055】
HcMVpv(i)は、今回受信した除湿要求出力値HcMV、HcMVmv(i−1)は、前回の推定処理で除湿PID102aに送信した最適制御値(書き換え後の前回の除湿要求出力値HcMV)、をそれぞれ表している。但し、前回の推定処理で除湿PID102aへの最適制御値の送信が行われなかったときには、HcMVmv(i−1)は前回の推定処理で受信した除湿要求出力値HcMVpv(i−1)となる。
【0056】
(4−4)冷熱量調整部による冷熱出力指示値の決定
上述のように、冷熱量調整部82は、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVの大きなほうの値を、冷熱出力指示値として循環ポンプ42および流量調整弁44に送る。これに応じて、循環ポンプ42の吐出流量および流量調整弁44の開度が調整され、空気冷却熱交換器22を流れる熱媒体(冷水)の流量が調整される。
【0057】
(4−5)加熱量調整部による加熱要求出力値の修正
加熱量調整部84は、電気ヒータ24から空気に供給される加熱量を調整するために設けられたコントローラ80の機能部であり、加熱出力指示値を電気ヒータ24に送る。
【0058】
加熱量調整部84は、加熱PID101aから出力される加熱要求出力値ThMVに基づいた加熱出力指示値を電気ヒータ24に送るが、その前に、加熱要求出力値ThMVの修正を行う。
【0059】
(4−5−1)冷却要求出力値による修正
冷却要求出力値TcMVおよび加熱要求出力値ThMVは、相反する要求に関する値であるため、一方がゼロではない値になっていれば他方はゼロになるように、加熱量調整部84による加熱要求出力値ThMVの修正(ゼロにする修正)が行われる(
図3〜
図5参照)。
【0060】
(4−5−2)定期的な加熱負荷推定処理に基づく修正
加熱量調整部84は、定期的に、室内空間RMの加熱負荷を推定し、その推定負荷に基づき、加熱要求出力値ThMVの変更が必要だと判断したときに、加熱要求出力値ThMVを書き換える。
【0061】
室内空間RMの加熱負荷の推定処理や加熱要求出力値ThMVの修正であるが、上記の室内空間RMの冷却負荷の推定処理や冷却要求出力値TcMVの修正と同様であるため、最適制御値Eloadの計算式だけを以下に示す。
(式5):
Eload(i−1)は、前回の推定処理における最適制御値、Ecは、電気ヒータ24の定格能力、をそれぞれ表している。
【0062】
ThMVpv(i)は、今回受信した加熱要求出力値ThMV、ThMVmv(i−1)は、前回の推定処理で加熱PID101aに送信した最適制御値(書き換え後の前回の加熱要求出力値ThMV)、をそれぞれ表している。但し、前回の推定処理で加熱PID101aへの最適制御値の送信が行われなかったときには、ThMVmv(i−1)は前回の推定処理で受信した加熱要求出力値ThMVpv(i−1)となる。
【0063】
なお、電気ヒータ24の加熱能力は送風ファン28の風量による影響を殆ど受けないため、冷却負荷の推定処理で用いた(Gac/Ga)の0.5乗という修正係数は使用していない。
【0064】
(4−6)加熱量調整部による加熱出力指示値の決定
加熱量調整部84は、加熱PID101aから出力される加熱要求出力値ThMVを加熱出力指示値として電気ヒータ24に送る。それに基づいて電気ヒータ24の出力が自動的に調節され、電気ヒータ24から空気に供給される加熱量が調整される。
【0065】
(4−7)加湿量調整部による加湿要求出力値の修正
加湿量調整部86は、散水式加湿器26から空気に供給される加湿量を調整するために設けられたコントローラ80の機能部であり、加湿出力指示値を散水式加湿器26に送る。
【0066】
加湿量調整部86は、加湿PID102bから出力される加湿要求出力値HhMVに基づいた加湿出力指示値を散水式加湿器26に送るが、その前に、加湿要求出力値HhMVの修正を行う。
【0067】
(4−7−1)除湿要求出力値による修正
除湿要求出力値HcMVおよび加湿要求出力値HhMVは、相反する要求に関する値であるため、一方がゼロではない値になっていれば他方はゼロになるように、加湿量調整部86による加湿要求出力値HhMVの修正(ゼロにする修正)が行われる(
図3〜
図5参照)。
【0068】
(4−7−2)定期的な加湿負荷推定処理に基づく修正
加湿量調整部86は、定期的に、室内空間RMの加湿負荷を推定し、その推定負荷に基づき、加湿要求出力値HhMVの変更が必要だと判断したときに、加湿要求出力値HhMVを書き換える。
【0069】
室内空間RMの加湿の推定処理や加湿要求出力値HhMVの修正であるが、上記の室内空間RMの冷却負荷の推定処理や冷却要求出力値TcMVの修正と同様であるため、最適制御値Kloadの計算式だけを以下に示す。
(式6):
Kload(i−1)は、前回の推定処理における最適制御値、Kcは、散水式加湿器26の定格能力、をそれぞれ表している。
【0070】
HhMVpv(i)は、今回受信した加湿要求出力値HhMV、HhMVmv(i−1)は、前回の推定処理で加湿PID102bに送信した最適制御値(書き換え後の前回の加湿要求出力値HhMV)、をそれぞれ表している。但し、前回の推定処理で加湿PID102bへの最適制御値の送信が行われなかったときには、HhMVmv(i−1)は前回の推定処理で受信した加湿要求出力値HhMVpv(i−1)となる。
【0071】
なお、散水式加湿器26の加湿能力は送風ファン28の風量による影響を殆ど受けないため、冷却負荷の推定処理で用いた(Gac/Ga)の0.5乗という修正係数は使用していない。
【0072】
(4−8)加湿量調整部による加湿出力指示値の決定
加湿量調整部86は、加湿PID102bから出力される加湿要求出力値HhMVを加湿出力指示値として散水式加湿器26に送る。それに基づいて散水式加湿器26の散水量が自動的に調節され、散水式加湿器26から空気に供給される加湿量が調整される。
【0073】
(4−9)送風量調整部による送風出力指示値の決定
送風量調整部88は、送風ファン28による送風量を調整するために設けられたコントローラ80の機能部であり、送風出力指示値を送風ファン28に送り送風ファン28の回転数を変化させることで、空気冷却熱交換器22、電気ヒータ24および散水式加湿器26を経て室内空間RMへと吹き出される空気の送風量を調整する。送風出力指示値を受けた送風ファン28は、その指示値に応じてファンステップが調節される。
【0074】
送風量調整部88は、必要量の室内空間RMの顕熱負荷および潜熱負荷が処理できる冷熱量、加熱量、加湿量および送風量の組合せの中に、第1の組合せと、その第1の組合せよりも送風量が小さい第2の組合せとが存在するときに、第2の組合せを選択する。そのようにして決まった送風ファン28の送風量を前提として、上記の冷熱量調整部82、加熱量調整部84および加湿量調整部86は、冷却要求出力値TcMV、除湿要求出力値HcMV、加熱要求出力値ThMVおよび加湿要求出力値HhMVを求め、冷熱出力指示値、加熱出力指示値および加湿出力指示値を決定している。
【0075】
具体的には、送風量調整部88は、必要量の顕熱負荷および潜熱負荷が処理できる冷熱量、加熱量、加湿量および送風量の組合せの中から、送風量が最も小さくなる組合せを選択し、その送風量を前提として冷熱量、加熱量および加湿量を決めている。
【0076】
これは、例えば、従来は次のような状況が生じていることに本願発明者が気づいて発明した送風量の決定方法である。その状況とは、クリーンルームの空調において、目標となる設定温度および設定湿度が23℃/50%であり、空気が27℃/60%であったときに、例えば所定風量のときには一旦空気を12℃/95%まで冷却することによって空気中に含まれる水分量を減らし、電気ヒータで再加熱して23℃/50%にするような状況である(27℃で相対湿度60%のときの水分量よりも12℃で相対湿度95%のときの水分量のほうが少ない)。この状況では、電気ヒータの消費エネルギーが空調システム全体の消費エネルギーに占める割合が20%〜40%にもなり、ヒートポンプに較べてエネルギー効率の悪い電気ヒータに高い出力を出させており、空調システム全体の消費エネルギーが大きい。
【0077】
このような状況について本願発明者は、顕熱負荷および潜熱負荷に対する顕熱負荷の比である顕熱比(SHF)から空気冷却熱交換器22が処理する顕熱負荷および潜熱負荷の顕熱比が大きく外れるか小さく外れるかは、風量によって変わるということを見いだした。同一の冷却能力のときには、風量が大きいほど顕熱比が大きく、風量が小さいほど顕熱比が小さくなる。そして、本願発明者は、予め風量(送風量)および冷熱量による冷却熱交換器の顕熱処理量(冷却処理量)および潜熱処理量(除湿処理量)のモデル式又はデータを作成しておき、送風ファン28のファンステップごとに負荷処理に必要となる冷熱量、加熱量および加湿量を求め、空気冷却熱交換器22、電気ヒータ24および散水式加湿器26の能力の範囲で送風量を一番小さくできる冷熱量、加熱量および加湿量の組合せを算出することを発明している。
【0078】
以上のように、送風量調整部88およびコントローラ80は、必要量の顕熱負荷および潜熱負荷が処理できる最も小さい送風量から送風出力指示値を決め、その送風量を前提として、上述の冷熱出力指示値、加熱出力指示値および加湿出力指示値を決めている。
【0079】
なお、計算時間の短縮のため、全てのファンステップごとの計算ではなく、現在値のファンステップの上下1ステップのみの計算し、数回にかけて送風量を一番小さくできる冷媒量、加熱量および加湿量の組合せを算出および各指示値を決めてもよい。
【0080】
また、同じ顕熱負荷および潜熱負荷に対する一つの送風ファンのファンステップにおける冷媒量、加熱量の組合せは、ただ1つでしかないので、送風出力指示値のみの変更ではなく、送風出力指示値を変更したときには必ず冷熱出力指示値および加熱出力指示値を変更することになる。
【0081】
(5)空調システムの特徴
(5−1)
この空調システム10では、空気の冷却および除湿の2つの動作を空気冷却熱交換器22に担わせており、コントローラ80は、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値に応じて、空気冷却熱交換器22において熱媒体から空気へと供給される冷熱量を制御している。一方、冷却と加熱とは相反する動作であり、除湿と加湿とも相反する動作であるため、冷却要求出力値TcMVがゼロでなければ加熱要求出力値ThMVに応じた電気ヒータ24による加熱は行われず、除湿要求出力値HcMVがゼロでなければ加湿要求出力値HhMVに応じた散水式加湿器26による加湿は行われない。
【0082】
このような空調システム10において、もしも、上述のように冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVや除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVに基づいて冷却要求出力値TcMVや除湿要求出力値HcMVを強制的にゼロにする制御を行わなければ、室内空間RMの負荷変動が起こり加熱と除湿とが要求される第1状況(除湿暖房運転)から冷却と加湿とが要求される第2状況(冷房加湿運転)に移行する必要があるときに、現実には加熱や加湿の動作に遅れが出てしまい、不要なエネルギー消費が生じてしまうことになる(
図10(a),(b)参照)。なぜなら、第1状況から第2状況に至って除湿要求出力値HcMVがゼロになってから加湿が行われるのでは、それまでの間に、除湿要求出力値HcMVよりも大きくなった冷却要求出力値TcMVに基づいて調整されている冷熱量が空気冷却熱交換器22において熱媒体から空気へと供給されて除湿要求量以上の除湿動作が行われることがあり、その場合には加湿が開始される時点で既に室内空間RMの湿度が目標湿度を大きく下回る状態になってしまうからである。また、
図11(a)に示すように、第2状況から第1状況に移行する必要がある負荷変動が起こった場合、冷却要求出力値TcMVがゼロになってから加熱が行われるのでは、それまでの間に、冷却要求出力値TcMVよりも大きくなった除湿要求出力値HcMVに基づいて調整されている冷熱量が空気冷却熱交換器22において熱媒体から空気へと供給されて冷却要求量以上の冷却動作が行われることがあり、その場合には加熱が開始される時点で既に室内空間RMの温度が目標温度を大きく下回る状態になってしまうからである(
図11(b)参照)。
【0083】
このような不要なエネルギー消費が生じることを回避するために、空調システム10では、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロより大きく且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロ以下であるときに、除湿要求出力値HcMVをゼロにし(
図4参照)、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロ以下であり且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロより大きいときに、冷却要求出力値TcMVをゼロにしている(
図5参照)。すなわち、空調システム10では、空気の冷却および除湿の2つの動作を担う空気冷却熱交換器22に対する冷熱量の制御を決める冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVについて、冷却と除湿との何れが支配的になっていくのかをコントローラ80が判断し、支配的ではないほうの出力値をゼロにする制御を行っている。具体的には、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVおよび除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVを監視し、一方がゼロより大きく他方がゼロ以下であるときに、増分値がゼロ以下のほうの出力値を強制的にゼロに書き換えている。これにより、顕熱および潜熱の負荷変動への追従性が向上し、加熱や加湿の開始が遅れて不要なエネルギー消費が生じてしまうことが抑制される(
図10(c),(d)および
図11(c),(d)を参照)。
【0084】
(5−2)
また、空調システム10では、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロより大きく且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロ以下であるときに、除湿よりも冷却のほうが支配的になってきていると判断し、除湿要求出力値HcMVを強制的にゼロに書き換えるとともに、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値を新しい冷却要求出力値TcMVとして書き込む制御を行っている(
図4参照)。このように、冷却と除湿のうち冷却が支配的になってきて除湿要求出力値HcMVの増分値がゼロ以下になったときに、支配的になってきている冷却の動作が優先されるように冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVを書き換えるため、加湿の動作が遅れることが抑制されるとともに、冷却要求出力値TcMVが適切に修正されて、顕熱および潜熱の負荷変動への追従性が向上している(
図10(c),(d)を参照)。
【0085】
一方、冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロ以下であり且つ除湿要求出力値HcMVの増分値ΔHcMVがゼロより大きいときには、冷却よりも除湿のほうが支配的になってきていると判断し、冷却要求出力値TcMVを強制的にゼロに書き換えるとともに、冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVのうち大きいほうの出力値を新しい除湿要求出力値HcMVとして書き込む制御を行っている(
図5参照)。このように、冷却と除湿のうち除湿が支配的になってきて冷却要求出力値TcMVの増分値ΔTcMVがゼロ以下になったときに、支配的になってきている除湿の動作が優先されるように冷却要求出力値TcMVおよび除湿要求出力値HcMVを書き換えるため、加熱の動作が遅れることが抑制されるとともに、除湿要求出力値が適切に修正されて、顕熱および潜熱の負荷変動への追従性が向上している(
図11(c),(d)を参照)。
【0086】
(5−3)
この空調システム10では、基本的には、設定温度および設定湿度に対する現在温度および現在湿度の偏差に基づいた出力値(加熱要求出力値ThMV、冷却要求出力値TcMV、除湿要求出力値HcMV、加湿要求出力値HhMV)の決定が温度PID調節器101や湿度PID調節器102で行われて、各機器(循環ポンプ42、流量調整弁44、電気ヒータ24、散水式加湿器26)の制御が行われる。ただ、更に潜熱負荷や顕熱負荷の推定精度を高めて適切な制御を行うために、空調システム10では、定期的に室内空間RMの冷却負荷、除湿負荷、加熱負荷および加湿負荷の推定が行われ、例えば冷却負荷推定処理においては、推定された最適制御値Qsloadと冷却PID101bから受信した冷却要求出力値TcMVとの差が大きければ、冷却PID101bの冷却要求出力値TcMVの修正(書き換え)が行われる。このように各負荷推定処理において、出力値(加熱要求出力値ThMV、冷却要求出力値TcMV、除湿要求出力値HcMV、加湿要求出力値HhMV)の修正が行われるため、単に温度PID調節器101や湿度PID調節器102だけを使って制御する場合に較べて、負荷に応じた適切な空調制御が行われることになる。
【0087】
定期的な負荷推定処理は、1分以上の数分単位の間隔で行われるため、温度PID調節器101や湿度PID調節器102における数秒単位の間隔で行われるPID動作では考慮できないことまで加味した推定が行われることになり、潜熱負荷や顕熱負荷の推定精度が高くなるというメリットが得られている。すなわち、温度PID調節器101や湿度PID調節器102での偏差に基づく出力値の決定では微小時間の変化だけしか考慮されていないという推定方法のデメリットが、定期的な負荷推定処理によって緩和され、結果として負荷の推定精度が向上し適切な空調制御が行われるようになっている。
【0088】
なお、空調システム10では、(Gac/Ga)の0.5乗(平方根)という送風ファン28の風量による修正係数を用いて、冷却負荷の最適制御値Qsloadや除湿負荷の最適制御値Qlloadの計算を行っている。空気冷却熱交換器22のように、熱媒体と空気との間で熱交換をさせるような機器では、通過する空気の風量によって能力が変わるが、ここでは風量による修正係数を用いているため、より適切な最適制御値が求まり、引いては適切な空調制御ができるようになっている。
【0089】
(5−4)
空調システム10では、室内空間RMに吹き出される空気の冷却および除湿を空気冷却熱交換器22が担い、加熱を電気ヒータ24が担う。空気冷却熱交換器22において熱媒体である冷水から空気へと冷熱が供給されると、空気の温度が下がるとともに、空気に含まれる水分が結露することで空気の湿度が下がる。したがって、室内空間RMの潜熱負荷を必要量だけ処理するために空気の除湿を行ったことに付随して、室内空間RMの顕熱負荷を必要量以上に処理してしまい空気の温度が下がりすぎる現象が起こることがあるが、そのときには電気ヒータ24によって空気を再加熱し、室内空間RMの顕熱負荷および潜熱負荷を必要量だけ処理する(
図8参照)。ここで、室内空間RMの潜熱負荷を必要量だけ処理することについて考えると、送風ファン28による送風量が多い場合には空気冷却熱交換器22における単位時間当たりの熱媒体から空気への冷熱量が少なくても大丈夫であるが、送風量が少ない場合には単位時間当たりの空気への冷熱量が多く必要となる。したがって、これまでは、制御に余裕を持たせるために、送風量をある程度確保する制御を採ることが多かった。
【0090】
しかし、本願の発明者は、送風量が多くなると、送風量が少ない場合に較べて、空気冷却熱交換器22が処理する顕熱負荷および潜熱負荷の総量に対する顕熱負荷の処理量の割合(Sensible Heat Factor;顕熱比)が大きくなり、潜熱負荷を処理したときに同時に処理される顕熱負荷の処理量が増えてしまうことに気づいた。そこで、本願の発明者は、送風量に着目し、必要量の顕熱負荷および潜熱負荷が処理できる冷熱量、加熱量および送風量の組合せの中に、第1の組合せと、その第1の組合せよりも送風量が小さい第2の組合せとが存在するときに、第2の組合せを選択して冷熱量、加熱量および送風量を調整することを考え出した。これにより、空気冷却熱交換器22で空気の顕熱負荷を必要量以上に処理してしまう場合にも、その超過処理量を小さく抑えることができるようになり、その結果、電気ヒータ24による再加熱の加熱量が抑えられて空調システム10の省エネルギー化を図ることができるようになっている。
【0091】
例えば、
図13を参照すると、風量1、除湿量(冷却量)1、加熱量1という第1の組合せのときには電気ヒータ24による再熱量が第1再熱量となる。一方、風量1よりも小さい風量2、除湿量(冷却量)2、加熱量2という第2の組合せのときには電気ヒータ24による再熱量が第2再熱量となる。風量が少ない風量2の第2の組合せのときには、風量が少ない分だけ空気冷却熱交換器22に流す冷水の量を増やす必要があるけれども、電気ヒータ24による再熱量が、第1の組合せのときの第1再熱量よりも小さい第2再熱量になる。第2の組合せでは、冷水の量が増えるためにチラーユニット50の消費電力が少し増えてしまうが、電気ヒータ24の消費電力が減り、全体としては消費電力量が抑制される。ここでは、電気ヒータ24の効率よりも、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うチラーユニット50の効率のほうが高いためである。すなわち、比較的エネルギー効率が悪い電気ヒータ24を採用していても、できるだけ送風ファン28の送風量を絞る空調システム10では、電気ヒータ24による再加熱の加熱量が抑えられ、空調システム10全体の省エネルギー化を図ることができている。
【0092】
(6)変形例
(6−1)変形例1A
上記の実施形態に係る空調システム10では、熱媒体回路40において蒸発器58から流出する冷水の温度が一定に制御されているという前提で、冷熱量調整部82の冷熱出力指示値に応じて循環ポンプ42の吐出流量および流量調整弁44の開度が調整され、空気冷却熱交換器22を流れる熱媒体(冷水)の流量が調整されて、空気冷却熱交換器22における熱媒体から空気へと供給される冷熱量の調整が行われるという説明をしている。
【0093】
しかし、更に熱媒体回路40において蒸発器58から流出する冷水の温度というパラメータを使い、冷水の温度および冷水の流量によって空気冷却熱交換器22における熱媒体から空気へと供給される冷熱量の調整を行うこともできる。この場合、冷水の温度を調整するときに、チラーユニット50の圧縮機52、膨張弁56、水ポンプ62の出力や開度が調節されることになり、チラーユニット50の能力を上げて冷水の温度を低くして、さらに風量を絞ることで電気ヒータ24の再熱量を抑制することができる。
【0094】
(6−2)変形例1B
上記の実施形態に係る空調システム10では、温度PID調節器101や湿度PID調節器102においてPID制御ロジックを使っているが、このPID制御ロジックの他に、PI制御やI−PDなど派生的なPID制御など、別の公知の制御ロジックを用いることも可能である。
【0095】
(6−3)変形例1C
上記の実施形態に係る空調システム10では、室内空間RMから取り込まれた室内空気RAが空調ユニット20のケーシング21内の空気通路を流れ、空気調和後に供給空気SAとして室内空間RMへ供給される形態を想定しているが、
図1において破線で示すように、室外から取り込んだ室外空気OAを外気取り入れダクト33を介してケーシング21内に取り込み、その空気を空気調和して室内空間RMへ供給するように構成することもできる。また、室内空気RAおよび室外空気OAの両方を空調ユニット20に取り入れて室内空間RMへと供給する空調システムにおいても、本発明を適用することができる。
【0096】
(6−4)変形例1D
上記の実施形態に係る空調システム10では、電気ヒータ24の加熱能力や散水式加湿器26の加湿能力が送風ファン28の風量による影響を殆ど受けないことに鑑み、定期的な負荷推定処理における最適制御値の計算において送風ファン28の風量による修正係数を使っていないが、加熱器として温水コイル(空気加熱熱交換器)を使ったり加湿器として蒸気コイルを使ったりする場合には、冷却負荷の最適制御値Qsloadや除湿負荷の最適制御値Qlloadの計算と同様に送風ファン28の風量による修正係数を使うことが望ましい。