特許第5737189号(P5737189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5737189単結晶基板、それを用いて得られるIII族窒化物結晶及びIII族窒化物結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737189
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】単結晶基板、それを用いて得られるIII族窒化物結晶及びIII族窒化物結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20150528BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20150528BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20150528BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B25/20
   C23C16/34
   H01L21/205
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-550004(P2011-550004)
(86)(22)【出願日】2011年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2011050452
(87)【国際公開番号】WO2011087061
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2013年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-7307(P2010-7307)
(32)【優先日】2010年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 健史
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰宏
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−197276(JP,A)
【文献】 特開2005−340747(JP,A)
【文献】 特開2009−126727(JP,A)
【文献】 特開2000−022212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/34
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物結晶を成長させるために用いられるIII族窒化物単結晶基板であって、
当該単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、当該単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(1)および(2)を満たし、
裏面が凹面であることを特徴とする単結晶基板。
Z1>0・・・式(1)
Z2<0・・・式(2)
【請求項2】
前記成長面の結晶学的面が{0001}面、{10−10}面、{11−20}面、{11−22}面および{20−21}面のいずれか1である、請求項1に記載の単結晶基板。
【請求項3】
前記成長面の結晶学的面が(0001)面である、請求項1に記載の単結晶基板。
【請求項4】
窒化ガリウム基板である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単結晶基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の単結晶基板を準備する工程と、該準備した単結晶基板の成長面上にIII族窒化物結晶を気相成長させる工程とを含む、III族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
III族窒化物結晶を気相成長させる方法が、HVPE法、MOCVD法、MBE法又は昇華法のいずれか1である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記III族窒化物結晶を成長させる工程の後に、該工程で成長したIII族窒化物結晶から前記単結晶基板を除去する工程を有する、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記III族窒化物結晶を成長させる工程で成長させる結晶がGaN結晶である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の単結晶基板を準備する工程と、該準備した単結晶基板の成長面上にIII族窒化物結晶を成長させてデバイス構造を形成する工程とを含む、半導体発光素子または半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶を成長させるために用いられる単結晶基板および該単結晶基板を用いて得られるIII族窒化物結晶とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、高融点であり、しかも融点付近の窒素の解離圧が高いことから、融液からのバルク成長が困難である。一方、ハイドライド気相成長(HVPE)法および有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の気相成長法を用いることによって、III族窒化物半導体基板を製造できることが知られている。
【0003】
例えば、窒化ガリウム半導体基板を製造する場合、サファイア等の下地基板を気相成長装置の成長室(リアクター)内にセットする。該リアクター内に、ガリウム化合物を含有するガスと窒素化合物を含有するガスなどからなるIII族窒化物半導体形成用ガスを供給することにより、下地基板上に窒化ガリウム半導体を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。そして、その後、下地基板などの部分を研磨またはレーザーを照射する方法を用いて除去することにより、所望のIII族窒化物半導体基板を得ることができる。
【0004】
前記の気相成長法のうち、HVPE法は他の成長方法に比べて高い成長速度が実現できる特徴をもつことから、III族窒化物半導体の厚膜成長が必要な場合や、十分な厚みを有するIII族窒化物半導体基板を得るための方法として有効である。
【0005】
従来、1枚の異種の下地基板上に500μm〜1mm程度の厚さの単結晶窒化ガリウムを成長し、下地基板を取り除き、加工研磨を行うことにより1枚の窒化ガリウム単結晶基板を得ていた。しかし、この方法では非常に製造の効率が悪く、安価な単結晶窒化ガリウム基板を供給することはできない。
【0006】
そこで、下地基板上に数mm〜数cmの厚さの単結晶を成長し、その単結晶バルクをスライシングすることによって、1枚の下地基板から複数枚の窒化ガリウム単結晶基板を得る手法が注目されている。
【0007】
しかしながら、このような場合に数10μm〜数100μm以上の厚膜を成長させる段階で問題が発生する。数10μm〜数100μm以上の厚膜成長を行うと成長中に結晶にクラックが発生するため、大面積の結晶が得られない。
【0008】
このような結晶のクラックを抑制するために、下地基板の形状を制御する技術が提案されている。具体的には、特許文献1には、より高品質な窒化物半導体結晶を成膜することができる単結晶基板として、主面が凸面であって、鏡面に研磨されている単結晶基板が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、面内のオフ角のばらつきの小さい窒化物半導体基板を得るために、表面の形状が凸形状であって反り量が20〜100μmである下地基板を用いることが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、発光強度のばらつきの小さいIII族窒化物半導体デバイスを提供することを目的として、III族元素からなる原子面が凸状となる、特定の反り比を有するIII族窒化物半導体結晶基板が記載されている。
【0011】
他にも、このような結晶のクラックを抑制するために、下地基板の結晶学的面形状(及び結晶軸)の反り量を制御する技術が提案されている。具体的には、特許文献4には、下地基板の成長面の反りの曲率半径を2m以上にすることによりクラックを抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特開2008−124151号公報
【特許文献2】日本国特開2009−167057号公報
【特許文献3】日本国特開2009−161436号公報
【特許文献4】日本国特開2009−23861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1、2、3は物理的形状の反りだけを規定しており、特許文献4は成長面の反りを示すことで結晶学的面形状の反りだけを規定している。そのため、これらの基板上に成長する結晶のクラックを抑制する効果は十分ではなく、特に得られる結晶が大面積である場合、または膜厚が厚い場合には、クラックの発生が顕著に見られるという問題がある。
【0014】
本発明者らは、このような従来技術の課題を解決し、クラックの発生を抑制し、大面積で厚膜のIII族窒化物結晶を得ることが出来る単結晶基板を提供するものである。さらに、そのような単結晶基板を用いて、クラックフリーのIII族窒化物結晶及びその製造方法をも提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、成長面の物理的形状の反り量と結晶学的面形状の反り量の両者に着目し、クラックが抑制された大面積で厚膜のIII族窒化物結晶を成長させ得る単結晶基板を見出し、本発明に到達した。
【0016】
すなわち本発明の要旨は、以下である。
1.III族窒化物結晶を成長させるために用いられる単結晶基板であって、該単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(1)を満たすことを特徴とする単結晶基板。
−40<Z2/Z1<−1・・・式(1)
2.前記単結晶基板の成長面にIII族窒化物結晶を含む、前項1に記載の単結晶基板。
3.前記単結晶基板の面積が20cm以上である、前項1又は2に記載の単結晶基板。
4.前記Z1の値が−50μm以上、50μm以下である、前項1〜3のいずれか1項に記載の単結晶基板。
5.前記単結晶基板が六方晶系の結晶であって、その成長面の結晶学的面が{0001}面、{10−10}面、{11−20}面、{11−22}面および{20−21}面のいずれか1である、前項1〜4のいずれか1項に記載の単結晶基板。
6.前記Z2の値の絶対値が0μm以上、312μm以下である、前項1〜5のいずれか1項に記載の単結晶基板。
7.III族窒化物結晶を成長させるために用いられる単結晶基板であって、該単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする単結晶基板。
Z1>0・・・式(2)
Z2<0・・・式(3)
8.前項1〜7のいずれか1項に記載の単結晶基板上にIII族窒化物結晶を成長させ、単結晶基板を除去して得られる、III族窒化物結晶。
9.前項1〜7のいずれか1項に記載の単結晶基板を準備し、該単結晶基板上にIII族窒化物結晶を成長させる、III族窒化物結晶の製造方法。
10.III族窒化物結晶を成長させる方法が、HVPE法、Naフラックス法およびソルボサーマル法のいずれか1である、前項9に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の単結晶基板は、成長面の物理的形状の反り量と結晶学的面形状の反り量が特定の関係を有しているので、該単結晶基板上での結晶成長途中において、クラックの発生を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の単結晶基板を選択することで、厚膜に成長させる工程に入る前の基板検査の段階で、該単結晶基板を用いて得られるIII族窒化物結晶のクラックの有無を判断することができる。その結果、厚膜かつ大面積のIII族窒化物結晶を安定に製造することができ、生産性の向上が期待できる。
【0019】
加えて、本発明の単結晶基板を用いて半導体発光素子や半導体デバイスを作製した場合には、歩留まり良く高品質の半導体発光素子や半導体デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)〜(e)は、本発明の単結晶基板の製造方法の一例を示した概略図である。
図2図2は、結晶学的面形状の曲率半径と反り量の関係を示した概略図である。図2において、Rは曲率半径、Xは単結晶基板の直径、およびΔZは反り量を示し、次の式を満たす。R=(X/2)+(R−ΔZ)、R=1/2*{((X/2)/ΔZ)+ΔZ}、ΔZ−2RΔZ+(X/2)=0、ΔZ=−R±√R−(X/2)
図3図3(a)〜(d)は、物理的形状の反り量と結晶学的面形状の反り量が異なる、4パターンの単結晶基板の概略図である。図3(a)において、物理的形状は凸であり、結晶学的面形状は凸である。図3(b)において、物理的形状は凸であり、結晶学的面形状は凹である。図3(c)において、物理的形状は凹であり、結晶学的面形状は凸である。図3(d)において、物理学的形状は凹であり、結晶学的面形状は凹である。
図4図4は、実施例および比較例で用いたHVPE装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、本発明の単結晶基板およびそれを用いたIII族窒化物結晶の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0022】
本発明の単結晶基板は、III族窒化物結晶を成長させるために用いられる単結晶基板であって、該単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0023】
−40<Z2/Z1<−1・・・式(1)
【0024】
また本発明の単結晶基板は、III族窒化物結晶を成長させるために用いられる単結晶基板であって、該単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする。
【0025】
Z1>0・・・式(2)
【0026】
Z2<0・・・式(3)
【0027】
なお、本明細書において単結晶基板の成長面とは、単結晶基板上にIII族窒化物結晶を成長させる面を指し、成長面の反対側を裏面と呼ぶこととする。
【0028】
また、以下において本発明の単結晶基板上に厚膜のIII族窒化物結晶を成長させる場合を例として説明を行っているが、本発明の単結晶基板の用途はこれに限られるものではない。例えば、本発明の単結晶基板上にIII族窒化物結晶を成長させてデバイス構造を形成し、半導体発光素子や半導体デバイスを作製する場合にも、同様にクラックを抑え、平坦で均一なIII族窒化物結晶を得ることができるため好ましい。
【0029】
(単結晶基板の物理的形状、結晶学的面形状)
本発明の単結晶基板は、成長面の物理的形状が凸面であって結晶学的面形状の反りが凹状である場合(例えば図3(b))、または成長面の物理的形状が凹面であって結晶学的面形状の反りが凸状である(例えば図3(c))ような単結晶基板である。
【0030】
具体的には、第1の形態は、単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0031】
−40<Z2/Z1<−1・・・式(1)
【0032】
本明細書において、物理的形状の反り量(Z1)とは、光学式検査装置を用いて単結晶基板全面の凹凸を測定し、その最大値と最小値の差分のことをいう。光学式検査装置としては、例えば、NIDEK平面度測定装置FT−17(NIDEK社製)などを用いることができる。ここで、物理的形状の反り量(Z1)は、単結晶基板の成長面が凸形状の場合には反り量をプラスの数値で表し、成長面が凹形状の場合には反り量をマイナスの数値で表す。
【0033】
本明細書において、結晶学的面形状の反り量(Z2)とは、結晶学的面形状の曲率半径より換算して求めた値である。ここで、結晶核的面形状の曲率半径と結晶軸の曲率半径は一致する値である。
【0034】
結晶軸の曲率半径は、単結晶基板の中心から±8mmの場所におけるX線回折測定より(0002)面の回折ピーク値を測定し、回折ピーク値のシフト量から算出する値である。以下の手順で結晶学的面形状の反り量(Z2)を求める。
(i)X線回折測定より、単結晶基板の中心から±8mmの場所における回折ピークのシフト量より、単結晶基板の曲率半径を求める。ここで、回折ピークは、a軸方向とm軸方向の単結晶基板の中心から±8mmの場所における回折ピークを測定し、ここでの曲率半径はa軸とm軸の曲率半径の平均値とする。
(ii)求められた曲率半径から、図2の曲率半径(R)と反り量(ΔZ)の関係より、単結晶基板の直径(X)まで拡大した場合のΔZ、すなわち、結晶学的面形状の反り量(Z2)を求める。単結晶基板は面内の各領域で曲率半径が異なっているが、中心から直径±8mmを有効径とし、該有効径における曲率半径が面内で一様に分布していると仮定している。
【0035】
ここで、結晶学的面形状の反り量(Z2)は、単結晶基板の結晶軸が成長面方向に対して凸状の面を形成するように並んでいる場合に反り量をプラスの数値で表し、成長面方向に対して凹状の面を形成するように並んでいる場合に反り量をマイナスの数値で表す。
【0036】
これらのZ1とZ2が上記式(1)の関係を満たすことで、本発明の単結晶基板上での結晶成長途中においては、クラックの発生を抑制することができる。このような本発明の単結晶基板としては、例えば図3(b)、(c)のような形態が挙げられる。これらの単結晶基板が本発明の効果を奏する理由は以下のように考えられる。
【0037】
単結晶基板上に結晶成長する場合、単結晶基板に内在する歪が極力少ないほうがよい。該歪量は、成長面の物理的形状の反り量および結晶学的面形状の反り量と関係がある。
【0038】
例えば、物理的形状の反りが凸面の場合、基板の裏面側には成長面側より多くの圧縮応力が内在、または、基板の成長面側には裏面側より多くの引っ張り応力が内在している。同様に、結晶学的面形状の反りが凹状の場合、基板の成長面側には裏面側より多くの圧縮応力が内在、または、基板の裏面側には成長面側より多くの引っ張り応力が内在している。
【0039】
つまり、成長面の物理的形状が凸面であって結晶学的面形状の反りが凹状である単結晶基板の場合、または成長面の物理的形状が凹面であって結晶学的面形状の反りが凸状である単結晶基板の場合は、物理的形状による歪量と結晶学的面形状による歪量が相殺されて、結果的に単結晶基板に内在する歪を少なくすることができると考えられる。このため、式(1)を満たすような内在する歪が少ない単結晶基板上に結晶成長を行うと、クラックの発生を抑えることができる。
【0040】
式(1)の右辺式Z2/Z1<−1は、成長面の物理的形状の反りと同じ反り量でかつ反りの向きが逆の結晶学的面形状の反りを有する下地基板を境界値として表した式である。つまり、物理的な反り量と同じ量だけ結晶学的な反りが逆向きに内在していれば、単結晶基板内の内在する歪が相殺されると推察される。式(1)において、Z2/Z1<−1.5であることが好ましく、Z2/Z1<−2であることがより好ましい。
【0041】
また、物理的形状の反り量(Z1)の値としては、−50μm以上であることが好ましく、−40μm以上であることがより好ましく、−30μm以上であることがさらに好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。
【0042】
結晶学的面形状の反り量(Z2)の値としては、その絶対値が0μm以上であることが好ましく、31μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、312μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の単結晶基板の具体的な第2の形態は、単結晶基板の成長面における物理的形状の反り量をZ1(μm)とし、単結晶基板の成長面における結晶学的面形状の曲率半径から算出した反り量をZ2(μm)とした場合に、下記式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする。なお、Z1及びZ2は上述の意味と同様である。
【0044】
Z1>0・・・式(2)
【0045】
Z2<0・・・式(3)
【0046】
具体的には、成長面の物理的形状が凸面であって、結晶学的面形状が凹状であるような場合であり、例えば図3(b)のような形態である。このような場合には、物理的な反り量と結晶学的な反り量が逆向きに内在することとなり、単結晶基板内に内在する歪が相殺されると推察される。
【0047】
これは、上述の第1の形態の場合と同様に考えられる。よって、このような単結晶基板を用いて得られるIII族窒化物結晶はクラックが発生せず、大面積で厚膜のIII族窒化物結晶を得ることが可能となる。
【0048】
現実的な加工精度限界、および、物理的形状は平坦が好ましいことから、Z1は100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
また、Z2は−31μm(曲率半径10m)以下であることが好ましく、−50um以下であることがより好ましい。また、現実的な加工精度限界、および、結晶学的面形状は平坦が好ましいことから、−312μm(曲率半径1m)以上であることが好ましく、−156μm(曲率半径2m)以上であることがより好ましい。
【0049】
これら本発明の単結晶基板の形は特に制限されず、取得しようとしているIII族窒化物結晶の形状にあわせて決定することができる。通常は円形、楕円形および矩形が好ましく、中でも円形がより好ましい。
【0050】
本発明の単結晶基板のサイズも、取得しようとしているIII族窒化物結晶のサイズにあわせて決定することができる。成長面が円形である場合の直径や成長面が矩形である場合の最大径は、通常10〜300mmであることが好ましく、20〜150mmであることがより好ましく、50〜100mmであることがさらに好ましい。
【0051】
単結晶基板のサイズとしては、面積は20cm以上であることが好ましく、46cm以上であることがより好ましく、81cm以上であることがさらに好ましい。
【0052】
単結晶基板の厚さとしては、100μm〜1000μmであることが好ましく、300μm〜500μmであることがより好ましい。
【0053】
(単結晶基板の種類)
本発明の単結晶基板は、III族窒化物結晶を成長することが出来る成長面を有するものであれば、特に種類は限定されないが、得られるIII族窒化物結晶の結晶性が良好であることから六方晶系の結晶であることが好ましく、成長させるIII族窒化物結晶と格子定数の近い六方晶系の結晶であることがより好ましい。例えば、サファイア、酸化亜鉛結晶および窒化物結晶などが挙げられる。
【0054】
中でも、窒化物結晶であることが好ましく、成長面に成長させるIII族窒化物結晶と同一種の窒化物結晶がより好ましい。例えば、窒化ガリウムなどが挙げられる。特に、単結晶基板の成長面にIII族窒化物結晶を含むことが好ましい。
【0055】
サファイアの格子定数はa軸で4.758Å、c軸で12.983Åである。窒化ガリウムの格子定数はa軸で3.189Å、c軸で5.185Åである。
【0056】
単結晶基板の面方位は、III族窒化物結晶を成長することが出来る成長面であれば特に方位は限定されず、例えば、{0001}面、{10−10}面、{11−20}面、{11−22}面および{20−21}面などが好ましく、中でも(0001)面がより好ましい。
【0057】
本明細書において、「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における(0001)面である。III族窒化物結晶では、「C面」は、III族面であり、窒化ガリウムでは、Ga面に相当する。
【0058】
また、本明細書において「C面」は、±0.01°以内の精度で計測されるC軸から25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のことを指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0059】
本明細書において、{10−10}面とは「M面」のことであり、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{1−100}面と等価な面である。該{1−100}面と等価な面は、非極性面であり、通常は劈開面である。
【0060】
{1−100}面と等価な面は、(1−100)面、(−1100)面、(01−10)面、(0−110)面、(10−10)面および(−1010)面である。
【0061】
また、本明細書において「M面」は、±0.01°以内の精度で計測されるM軸からA軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のこと指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0062】
さらに、「M面」は、±0.01°以内の精度で計測されるM軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のこと指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0063】
本明細書において、{11−20}面とは「A面」のことであり、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{11−20}面と等価な面である。該{11−20}面と等価な面は、非極性面である。
【0064】
{11−20}面と等価な面としては、(11−20)面、(−1−120)面、(1−210)面、(−12−10)面、(−2110)面および(2−1−10)面である。
【0065】
また、本明細書において「A面」は、±0.01°以内の精度で計測されるA軸からM軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のこと指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0066】
さらに、「A面」は±0.01°以内の精度で計測されるA軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のこと指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0067】
本明細書において、{11−22}面とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{11−22}面と等価な面である。該{11−22}面と等価な面は、半極性面である。
【0068】
{11−22}面と等価な面は、(11−22)面、(−1−122)面、(1−212)面、(−12−12)面、(−2112)面および(2−1−12)面である。
【0069】
また、本明細書において{11−22}面は、±0.01°以内の精度で計測される<11−22>軸からM軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のこと指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0070】
さらに、{11−22}面は、±0.01°以内の精度で計測される<11−22>軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面であることが好ましく、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0071】
本明細書において、{20−21}面とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{20−21}面と等価な面である。該{20−21}面と等価な面は、半極性面である。
【0072】
{20−21}面と等価な面としては、(20−21)面、(2−201)面、(02−21)面、(0−221)面、(−2201)面および(−2021)面が好ましい。
【0073】
また、本明細書において{20−21}面は、±0.01°以内の精度で計測される<20−21>軸からA軸方向へ15°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のことを指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0074】
さらに、{20−21}面は±0.01°以内の精度で計測される<20−21>軸からC軸方向へ25°傾斜した方向の範囲内に成長面がある単結晶基板の成長面のことを指し、10°傾斜した方向の範囲内の成長面であることが好ましく、5°傾斜した方向の範囲内の成長面であることがより好ましい。
【0075】
(単結晶基板の製造方法)
本発明で用いられる単結晶基板の製造方法は特に限定されず、一般的に知られる方法で製造することが出来る。
【0076】
例えば単結晶基板の結晶成長方法としては、例えば、Hydride Vapor Phase Epitaxy(HVPE)法、Meral−organic Chemical Vapor Deposition(MOCVD)法、Molecular Beam Epitaxy(MBE)法、昇華法、Naフラックス法およびソルボサーマル法等を挙げることができる。
【0077】
また、単結晶基板の結晶の加工方法としては、物理的形状の反り量(Z1)が本発明の範囲内となればよく、一般的に知られる方法で製造することが出来る。
【0078】
具体的には、例えば研削・機械研磨・化学的機械的研磨によって、図1(a)に示すように、結晶1から凸A面と凹B面を有する単結晶基板4(結晶12)を得る加工方法が挙げられる。
【0079】
以下、単結晶基板の加工方法の一例として詳細に説明するが、本発明の単結晶基板の加工方法はこれに限られるものではない。
【0080】
先ず、凹B面が平面になるように結晶1に反りを与える湾曲工程を実施する〔図1(b)〕。
【0081】
ここで、湾曲工程においては、凹B面が平面になるように結晶1に反りを与えることができればその加工方法は特に限定されず、例えば、歪を利用した方法、湾曲プレートを利用した方法および圧縮力を利用した方法などが挙げられる。
【0082】
歪を利用した湾曲工程は、互いに表裏の関係にあるA面とB面を有する結晶のB面に歪を加えてB面が凸形状になるように湾曲させる工程である。例えば、図1(b)では凹B’面側に加工歪を与えて湾曲させることが可能である。
【0083】
B面に加える歪と歪の形成方法は、B面が凸形状になって結晶全体が湾曲するものであればその種類は特に制限されない。歪の形成方法としては、例えば、研削、研磨およびスライスなどを挙げることができる。具体的には、ビトリファイド砥石、ダイヤモンド遊離砥粒またはダイヤモンド固定砥粒ワイヤを用いて処理する方法などを例示することができる。
【0084】
B面に歪を形成する際には、A面側をプレートに接するように貼り付けて行うことが好ましい。歪は、B面のみに形成してもよいし、B面とA面の両方に形成してもよい。A面に歪を形成する際には、B面側をプレートに接するように貼り付けて行うことが好ましい。また、両面に歪を形成する場合は、各面の歪の形成手段や形成方法は同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
なお、本明細書においてプレートとは、研削・研磨・スライス時に装置に取付けるために結晶を貼り付けるプレートを意味する。歪を形成する際に結晶を貼り付けるプレート面は、研削・研磨・スライス後に均一な基板厚みを得るために平坦なものが好ましい。また、プレートへの貼り付けおよび固定は、ワックス等を介して行ってもよいし、両面接着性のフィルムを介して行ってもよい。
【0086】
本明細書において、歪とは研削・研磨で砥粒が結晶表面を削り取ったり、スライスしたりした後に生じるマイクロクラックまたは転位により生じるものであり、その結果結晶表面に生じる張力を「歪力」と呼ぶこととし、ここでは結晶内部に生じる「内部応力」とは区別することとする。
【0087】
マイクロクラックまたは転位は、透過型電子顕微鏡(TEM)やカソードルミネッセンス(CL)法で確認することができる。歪は基板の反り量に影響を与え、研削・研磨時の砥粒の大きさや研削速度、基板に加わる圧力等により変化する。
【0088】
歪力すなわち結晶表面に生じる張力の大きさは、結晶の反り量・縦弾性係数・基板形状から推察できる。面αと面βをもつ基板の表裏における歪力の大小を比較する場合は、反り量の方向から容易に推察でき、面αが凸になるように反っている場合は面αの歪力は面βの歪力よりも大きいと表現する。
【0089】
湾曲プレートを利用した湾曲工程は、互いに表裏の関係にあるA面とB面を有する結晶のA面を湾曲プレート上に接面固定し、B面が凸形状になるように湾曲させる工程である。
【0090】
湾曲プレートは凸形状のプレートであり、曲率半径が1m以上であることが好ましく、6.25〜62.5mであることがより好ましい。湾曲プレートの好ましい曲率半径は、湾曲プレートに接面固定する前の結晶の反り量と、目的とする単結晶基板の反り量に応じて決定される。
【0091】
ここで、湾曲プレートとは、結晶を支持する面が凸形状に湾曲しているプレートである。また、湾曲プレートの曲率半径は、凸形状に湾曲しており、結晶と接する面の曲率半径のことを指す。湾曲プレートの素材は加工中変形しない材料であれば種類は特に制限されない。具体的には、セラミックおよびアルミ合金等が挙げられる。
【0092】
圧縮力を利用した湾曲工程は、互いに表裏の関係にあるA面とB面を有する結晶のA面側にA面の周縁からA面の中心に向かう圧縮力を加え、B面が凸形状になるように湾曲させる工程である。
【0093】
例えば、A面の周縁とその近傍の結晶側面を含む領域をA面の中心を通る結晶の中心軸方向へ押圧したり、A面を覆う領域にA面の中心に向かう応力をかけたりすることにより、A面の周縁からA面の中心に向かう圧縮力を加えることができる。
【0094】
その具体的な態様は特に制限されないが、A面の周縁とその近傍の結晶側面を含む領域に塗布したワックスまたはA面を覆う領域に塗布したワックスを冷却して硬化する際のワックスの収縮により、圧縮力を加える態様などが挙げられる。
【0095】
いずれの歪形成方法や湾曲の形成手段を採用した場合であっても、上述の湾曲工程によって図1(b)に示すように凹B’面側が凸形状になるように湾曲し、凹B面と凸A面が平面ないしは略平面となる。したがって、湾曲工程における反り量が、最終的に製造される単結晶基板の反り量に大きな影響を与える。
【0096】
他の製造条件を一定にした場合は、湾曲工程における反り量を制御することにより、最終的に製造される単結晶基板の反り量を制御することができる。あらかじめ両者の関係を明らかにしておけば、制御が容易になる。
【0097】
たとえば歪みを利用した湾曲工程を実施する場合、結晶の反り量と結晶厚みとの間に相関がある。このため、特定の反り量を得たい場合は、結晶厚みを制御することが好ましい。結晶の反り量と結晶厚みの相関は、例えば図1(c)のようなグラフで表すことができる。したがって、あらかじめこのような相関関係を把握しておけば、任意の結晶の反り量を実現することが可能である。
【0098】
次に、結晶2を凸A面側がプレートに対向するように配置する。固定は結晶2の反り形状を保ったままプレートに貼り付ける。
【0099】
次に、結晶2の凸形状をしている凹B面側の平坦化を実施し、結晶中の凹B’面と凹B面にはさまれる領域21〔図1(b)〕を除去し、結晶3〔図1(d)〕を得る。平坦化の際に生じる歪は化学機械的研磨で除去してもよいし、エッチングで除去してもよい。また、III族窒化物結晶の形成の際、問題とならない程度に歪を残してもよい。
【0100】
次に、結晶3を、凹B面をプレートに対向するように配置する。固定は凹B面が平坦になるように加圧しながら実施することが好ましい。
【0101】
次に、結晶3の凹形状となっている凸A面側の平坦化を実施し、結晶33〔図1(d)〕を除去し、単結晶基板4〔図1(e)〕を得る。平坦化の際に生じる歪は化学的機械的磨で除去してもよいし、エッチングで除去してもよい。また、III族窒化物結晶の形成の際、問題とならない程度に歪を残してもよい。単結晶基板4の形状は図1(e)に限らず、歪を残す場合は凹B面が凸になる場合もある。
【0102】
(III族窒化物結晶の製造方法)
本発明の単結晶基板上にIII族窒化物結晶を成長させ、単結晶基板を除去してIII族窒化物結晶を製造することが出来る。好ましくは、本発明の単結晶基板上にIII族窒化物結晶形成用ガスを供給することにより、単結晶基板上にIII族窒化物を結晶成長させる、III族窒化物結晶の製造方法である。
【0103】
結晶成長させるIII族窒化物結晶の種類は特に制限されない。例えば、GaN、InN、AlN、InGaN、AlGaNおよびAlInGaNなどを挙げることができる。中でも、GaN、AlNおよびAlGaNが好ましく、GaNがより好ましい。
【0104】
本発明のIII族窒化物結晶の製造方法において用いることができる結晶成長方法としては、例えば、Hydride Vapor Phase Epitaxy(HVPE)法、Meral−organic Chemical Vapor Deposition(MOCVD)法、Molecular Beam Epitaxy(MBE)法および昇華法等の気相法を挙げることができる。また、液相法としては、例えば、Naフラックス法およびソルボサーマル法等を挙げることができる。
【0105】
高純度結晶が得られるという理由から、好ましいのはHVPE法、MOCVD法、Naフラックス法およびソルボサーマル法であり、最も好ましいのはHVPE法である。
【0106】
次に、本発明の単結晶基板を用いてIII族窒化物結晶を成長させる工程について説明する。
【0107】
結晶成長に用いる装置の詳細は特に制限されない。例えば、図4に示すようなHVPE装置を用いることができる。
【0108】
図4のHVPE装置は、リアクター100内に、下地基板を載置するための基板ホルダー(サセプター)107と、成長させるIII族窒化物結晶の原料を入れるリザーバー105とを備えている。
【0109】
また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜104と、排気するためのガス排出管108が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター106が設置されている。
【0110】
リアクター100の材質としては、例えば、石英および多結晶ボロンナイトライド(BN)ステンレス等が挙げられる。好ましい材質は石英である。
【0111】
リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガスとしては、例えばHガス、Nガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0112】
基板ホルダー107の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。基板ホルダー107の形状は、本発明の下地基板を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に成長している結晶の上流側に構造物が存在しないものであることが好ましい。
【0113】
上流側に結晶が成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。
【0114】
基板ホルダー107の単結晶基板載置面の大きさは、載置する単結晶基板よりも小さいことが好ましい。すなわち、ガス上流側から見たときに、単結晶基板の大きさで基板ホルダー107が隠れるくらいの大きさであることがさらに好ましい。
【0115】
単結晶基板を基板ホルダー107に載置するとき、単結晶基板の成長面はガス流れの上流側(図4ではリアクターの上方)を向くように載置することが好ましい。すなわち、ガスが第1結晶成長面に向かって流れるように載置することが好ましく、ガスが第1結晶成長面に垂直な方向から流れるようにすることがより好ましい。このように単結晶基板を載置することによって、より均一で結晶性に優れたIII族窒化物結晶を得ることができる。
【0116】
リザーバー105には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料としては、例えば、Ga、AlおよびInなどを挙げることができる。
【0117】
リザーバー105にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー105に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー105にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。
【0118】
このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えばHガス、Nガス、He、NeおよびArのような不活性ガス等を挙げることができる。
【0119】
前記ガスは混合して用いてもよい。キャリアガスは雰囲気ガスと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0120】
導入管101からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNHガスを供給する。また、導入管102からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。
【0121】
導入管102から供給するキャリアガスと導入管103から供給するキャリアガスは同じものであることが好ましい。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiHおよびSiHCl等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0122】
導入管104からは、エッチングガスを供給することができる。エッチングガスとしては、塩素系のガスを挙げることができ、HClガスを用いることが好ましい。エッチングガスの流量を総流量に対して好ましくは0.1%〜3%程度とすることによりエッチングを行うことができる。より好ましい流量は総流量に対して1%程度である。ガスの流量はマスフローコントロラー(MFC)等で制御することができ、個別のガスの流量は常にMFCで監視することが好ましい。
【0123】
導入管101、102および104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、V族源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさおよび形状、原料の反応性並びに目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0124】
ガス排出管108は、ガス導入のための導入管101〜104とは反対側のリアクター内壁から排出することができるように設置するのが一般的である。図4では、ガス導入のための導入管101〜104が設置されているリアクター上面とは反対に位置するリアクター底面にガス排出管108が設置されている。
【0125】
ガス導入のための導入管がリアクター右側面に設置されている場合は、ガス排出管はリアクター左側面に設置されていることが好ましい。このような態様を採用することによって、一定方向に向けて安定にガスの流れを形成することができる。
【0126】
HVPE法による結晶成長は、通常は800℃〜1200℃で行うことが好ましく、900℃〜1100℃で行うことがより好ましく、925℃〜1070℃で行うことがさらに好ましく、950℃から1050℃で行うことが特に好ましい。
【0127】
リアクター内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。
【0128】
エッチングを行うときのエッチング温度や圧力は、上記の結晶成長の温度や圧力と同一であっても異なっていてもよい。
【0129】
結晶成長を行った後に得られるIII族窒化物結晶は、結晶面の境界に多結晶体を有することがある。ここでいう多結晶体とは、例えば六方晶系の結晶格子を形成することができず、しかるべき位置に原子がいない状態の結晶を意味する。すなわち結晶方位が無秩序な微小な結晶の集合体をいい、非常に小さな単結晶粒の集まりを意味する。
【0130】
前記多結晶体を有する場合は、多結晶体を除去する工程を行った後に、さらに多結晶体を除去した結晶の表面にIII族窒化物結晶を成長する工程を行う。そのようにして得られたIII族窒化物結晶が、なお結晶面の境界に多結晶体を有するときは、再び多結晶体を除去する工程を行い、さらに表面にIII族窒化物結晶を成長する工程を行う。このような操作を繰り返すことによって、多結晶体を有さないIII族窒化物結晶を得ることができる。
【0131】
本発明の製造方法によって得られるIII族窒化物結晶の結晶系は、六方晶系であることが好ましい。また、得られるIII族窒化物結晶は、単結晶であることが好ましい。単結晶基板の上に成長させるIII族窒化物結晶の厚さは1mm〜10cmが好ましい。
【0132】
結晶成長後に研削、研磨、レーザー照射等を行う場合は、ある程度の大きさの結晶が必要になるため、単結晶基板の上に成長させるIII族窒化物半導体結晶の厚さは5mm〜10cmが好ましく、1cm〜10cmがより好ましい。
【0133】
本発明の製造方法によって得られたIII族窒化物結晶は、そのまま用いてもよいし、研削やスライス加工などの処理を行ってから用いてもよい。ここでスライス加工とは、(a)成長した結晶を下地基板として使用できるようにC面表面の品質を均一にする加工や、(b)成長初期部分には内在する転位から発生するストレスがあることを考慮してその部分を切り捨てるために行う加工をいう。
【0134】
スライス加工は、具体的には、内周刃スライサーおよびワイヤーソースライサー等を用いて行うことができる。本発明では、スライス加工を行うことによって、形状がほぼ同じで、転位密度がより低く、かつ、表面欠陥が少ない結晶を製造することが好ましい。
【0135】
本発明の製造方法によれば、表面粗さが1nm以下であるC面やM面を備えているIII族窒化物結晶を得ることができる。特に、結晶成長後に研磨を行わなくても、表面粗さが1nm以下であるC面またはM面をもつことを備えているIII族窒化物結晶を製造することができる点で優れている。
【0136】
なお、本発明における表面粗さ(Rms)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて10μm角の表面粗さを測定したデータから自乗平均平方根で計算することにより求められる。
【0137】
本発明の製造方法により製造したIII族窒化物結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。
【0138】
また、本発明の製造方法により製造したIII族窒化物結晶を下地基板として用いて、さらに大きなIII族窒化物結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0139】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0140】
なお、以下の実施例および比較例では、図4に示すHVPE装置を用いて結晶成長を行った。
【0141】
<評価方法>
(1)物理的形状の反り量(Z1)
単結晶基板の全面の凹凸を光学式の検査装置(NIDEK社製 NIDEK平面度測定装置FT−17)で測定し、凹凸の最大値と最小値の差分を反り量(Z1)とした。単結晶基板の成長面が凸形状の場合をプラス、成長面が凹形状の基板の場合をマイナスとして表した。
【0142】
(2)結晶学的面形状の反り量(Z2)
単結晶基板の中心から±8mmの場所におけるX線回折測定より(0002)面の回折ピーク値を、PANalytical社製 X’Pert−MRDで測定し、回折ピーク値のシフト量から結晶学的面形状の曲率半径を算出した。ここで、回折ピークは、a軸方向とm軸方向の単結晶基板の中心から±8mmの場所における回折ピークを測定し、ここでの曲率半径はa軸とm軸の曲率半径の平均値とした。
【0143】
求められた曲率半径から、図2の曲率半径と反り量の関係より、単結晶基板直径まで拡大した場合のΔZ、すなわち、結晶学的面形状の反り量(Z2)を求めた。なお、単結晶基板は面内の各領域で曲率半径が異なっているが、中心から直径±8mmを有効径とし、この有効径における曲率半径が面内で一様に分布していると仮定した。
【0144】
<実施例1>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径50mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板の物理的形状における反り量(Z1)は6μmであり、結晶学的面形状の反り量(Z2)は−103μmであった。
【0145】
前記GaN自立基板を、直径70mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置き(図4)、HVPE装置のリアクター100内に図4に示すように配置した。
【0146】
リアクター内を1025℃まで昇温した後、HキャリアガスG1と、NキャリアガスG2と、GaとHClの反応生成物であるGaClガスG3と、NHガスG4とを、導入管101〜104からそれぞれ供給しながら、GaN層を23.5時間成長させた。
【0147】
前記GaN層成長工程において、成長圧力を1.01×10Paとし、GaClガスG3の分圧を7.39×10Paとし、NHガスG4の分圧を7.05×10Paとした。GaN層成長工程終了後、リアクター内を室温まで降温し、III族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが3.0mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0148】
<実施例2>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は7μmであり、Z2は−93μmであった。
【0149】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.7mmであり、クラックは見られなかった。
【0150】
<実施例3>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は10μmであり、Z2は−106μmであった。
【0151】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.4mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0152】
<実施例4>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径50mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は13μmであり、Z2は−55μmであった。
【0153】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約3.0mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0154】
<実施例5>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径50mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は13μmであり、Z2は−82μmであった。
【0155】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約3.2mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0156】
<実施例6>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ398μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は15μmであり、Z2は−91μmであった。
【0157】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.4mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0158】
<実施例7>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ662μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は20μmであり、Z2は−131μmであった。
【0159】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を24時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.9mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0160】
<実施例8>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ484μm、直径53mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は21μmであり、Z2は−91μmであった。
【0161】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.7mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0162】
<実施例9>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ399μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は26μmであり、Z2は−110μmであった。
【0163】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.4mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0164】
<実施例10>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径47mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は12μmであり、Z2は−66μmであった。
【0165】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが3.5mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0166】
<実施例11>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ390μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は17μmであり、Z2は−79μmであった。
【0167】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.4mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0168】
<実施例12>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径50mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は22μmであり、Z2は−134μmであった。
【0169】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約3.0mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0170】
<実施例13>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は23μmであり、Z2は−94μmであった。
【0171】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約2.3mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0172】
<実施例14>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は27μmであり、Z2は−92μmであった。
【0173】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約2.4mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0174】
<実施例15>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ399μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は27μmであり、Z2は−67μmであった。
【0175】
前記GaN自立基板を用いて実施例1においてリアクター内の温度を1020℃とし、GaN層の成長時間を20時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが約2.7mmであり、目視で確認したところクラックは見られなかった。
【0176】
<比較例1>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ404μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は−13μmであり、Z2は−117μmであった。
【0177】
前記GaN自立基板を用いて、実施例2と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.7mmであり、目視で確認したところクラックが見られた。
【0178】
<比較例2>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ400μm、直径50mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は−40μmであり、Z2は−129μmであった。
【0179】
前記GaN自立基板を用いて、実施例1と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが3.3mmであり、目視で確認したところクラックが見られた。
【0180】
<比較例3>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ666μm、直径53mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は−42μmであり、Z2は−164μmであった。
【0181】
前記GaN自立基板を用いて、実施例7と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが3.7mmであり、目視で確認したところクラックが見られた。
【0182】
<比較例4>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ390μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は−15μmであり、Z2は−130μmであった。
【0183】
前記GaN自立基板を用いて、実施例2と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.5mmであり、目視で確認したところクラックが見られた。
【0184】
<比較例5>
単結晶基板として、表面が{0001}面からなる厚さ403μm、直径54mm円形である窒化ガリウム(GaN)自立基板を準備した。該単結晶基板のZ1は−9μmであり、Z2は−127μmであった。
【0185】
前記GaN自立基板を用いて、実施例2と同様にしてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶厚膜を得た。得られたGaN単結晶厚膜は、触針式の膜厚計で測定した厚さが2.8mmであり、目視で確認したところクラックが見られた。
【0186】
表1および表2に結果を示す。
【0187】
【表1】
【0188】
【表2】
【0189】
表1および表2に示すように、実施例1から実施例15では、クラックが発生せず良質のGaN単結晶厚膜が得られた。
【0190】
一方、表2に示すように、比較例1から比較例5では、成長初期に発生したと推測されるクラックが入り、クラックは厚膜成長後に閉じることが無く、結果的にクラックフリーな領域が小面積のGaN単結晶しか得ることができなかった。
【0191】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2010年1月15日付で出願された日本特許出願(特願2010−007307)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の単結晶基板を用いてIII族窒化物結晶を成長させると、クラックの発生を抑制できるので、厚膜のIII族窒化物結晶を得ることが出来、よって大面積のIII族窒化物半導体基板を作製することができる。
【0193】
また、本発明の単結晶基板を選択することで、厚膜に成長させる工程に入る前の基板検査の段階で、これを用いて得られるIII族窒化物結晶のクラックの有無を判断することができるため、結果的にIII族窒化物結晶の歩留まりを向上させ、平坦で均一な厚膜のIII族窒化物結晶を安価に作製することが可能である。
【0194】
さらに、本発明の単結晶基板を用いて半導体発光素子や半導体デバイスを作製した場合には、平坦で均一なIII族窒化物結晶を得ることができるため、歩留まり良く高品質の半導体発光素子や半導体デバイスを得ることができる。
【0195】
得られたIII族窒化物結晶は、発光ダイオード、半導体レーザー等の半導体発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0196】
1〜3 結晶
4 単結晶基板
11、21 結晶中の凹B’面と凹B面に挟まれる領域
12、22、32 結晶中の凹B面と凸A面に挟まれる領域
13、32、33 結晶中の凸A面と凸A’面に挟まれる領域
100 リアクター
101〜104 導入管
105 リザーバー
106 ヒーター
107 基板ホルダー
108 ガス排出管
G1 窒素源となる原料ガス
G2 キャリアガス
G3 III族原料ガス
図1
図2
図3
図4