特許第5737255号(P5737255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737255
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】チオノカルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 327/26 20060101AFI20150528BHJP
   C07C 327/24 20060101ALI20150528BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
   C07C327/26
   C07C327/24
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-213968(P2012-213968)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-65693(P2014-65693A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】野村 孝史
(72)【発明者】
【氏名】田中 麻子
(72)【発明者】
【氏名】足達 健二
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 Horst Viola et al,Friedel-Crafts-Reaktionen mit Thiosaurechloriden,Chem. Ber.,1968年,101(10),3517-3529
【文献】 Klaus Hartke en al,α,β-acetylenic dithio and thiono esters,Tetrahedron Letters,1989年,30(9),1073-1076
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式 中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2):R- MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化2】
(式中、Ar及びRは、上記に同じ)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法であって、
3価の鉄化合物、1価若しくは2価の銅化合物、2価のニッケル化合物、2価の亜鉛化合物、及び2価のコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分の存在下に、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2)で表されるグリニャール化合物とを反応させる、アリールチオノカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
非プロトン性有機溶媒中で反応を行う、上記項1に記載のアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
一般式(4):R-Y(式中、Rは置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物とを反応させた後、反応生成物を一般式(1):
【化3】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化4】
(式中、Ar及びRは、上記に同じ)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法であって、
一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物を反応させる工程を、3価の鉄化合物、1価若しくは2価の銅化合物、2価のニッケル化合物、2価の亜 鉛化合物、及び2価のコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分の存在下で行う、アリールチオノカルボン酸エステルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料等として有用なアリール基を有するチオノカルボン酸のエステル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式 R1C=(S)OR2(式中、R1及びR2は、それぞれ置換基を有することのあるアリール基である)で表されるアリールチオノカルボン酸アリールエステルは、例えば、液晶材料等として有用な化合物である。
【0003】
この様な構造を有するチオノカルボン酸エステルの製造方法としては、例えばクロロチオンギ酸エステルと芳香族化合物とを反応させる方法(非特許文献1)、カルバニオンをジチオ炭酸エステル又はチオン炭酸エステルで処理する方法(非特許文献2)、オルトエステルを硫化水素と反応させる方法(非特許文献3)、カルボン酸エステルを五硫化二リン又はLawesson反応剤で処理する方法(非特許文献4)、チオノカルボン酸塩化物とアルコール又はフェノールとを反応させる方法(非特許文献5)、ニトリルをアルコールと反応させ、次いで硫化水素と反応させる方法(非特許文献6)、メチル芳香族化合物を硫黄とアルコールとで処理する方法(非特許文献7)、チオアシルジスルフィッドとアルコラートとを反応させる方法(非特許文献8)等の各種の方法が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法の内で、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献4、非特許文献7等に記載されている方法は、収率が低く、特に、非特許文献4に記載の方法については、反応に100℃以上の高温を要し、副生成物が多量に生成するという欠点があり、効率的な方法とは言えない。
【0005】
また、非特許文献3、非特許文献6等に記載されている方法は、毒性が強く、その取り扱いに特殊な設備を要する硫化水素を使用する為、工業的製造方法には適さない。さらに非特許文献5に記載されている方法では、原料であるチオノカルボン酸塩化物の合成収率が低く、総合的に優れた方法とは言えない。また非特許文献8の方法は、ジチオカルボン酸誘導体からチオアシルジスルフィドを合成後、アルコラートと反応させる等反応工程数が多いために簡便な方法とは言えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Viola, et al., Chem. Ber., 101, 3517(1968)
【非特許文献2】Liebigs Ann.Chem., 1973, 1637
【非特許文献3】A. Ohno, et al., Tetrahedron Lett., 1968, 2083
【非特許文献4】Synthesis, 1973, 149 ; Bull. Chem. Soc. Belg., 87, 293(1987)
【非特許文献5】S.Scheithauer et al., Chem. Ber., 98, 838(1965)
【非特許文献6】Liebigs Ann. Chem., 1974, 671
【非特許文献7】Z. Chem., 6,108(1966)
【非特許文献8】K.A.Latif et al.,Tetrahedron, 26, 4247(1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、液晶材料等として有用なアリールチオノカルボン酸エステルを、比較的簡便で工業的に有利な方法によって、収率よく製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ハロゲン化チオカルボニル化合物を原料として用い、これをアリール基又はシクロアルキル基を有するグリニャール化合物と反応させる方法によれば、比較的安全な原料を用いて、穏和な反応条件で収率よく、目的とするアリールチオノカルボン酸エステルを製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法を提供するものである。
項1. 一般式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2):R-MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3):
【0012】
【化2】
【0013】
(式中、Ar及びRは、上記に同じ)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法。
項2. 非プロトン性有機溶媒中で反応を行う、上記項1に記載のアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法。
項3. 3価の鉄化合物、1価若しくは2価の銅化合物、2価のニッケル化合物、2価の亜鉛化合物、及び2価のコバルト化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分の存在下に、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2)で表されるグリニャール化合物とを反応させる、上記項1又は2に記載の方法。
項4. 一般式(4):R-Y(式中、Rは置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物とを反応させた後、反応生成物を一般式(1):
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と反応させることを特徴とする、一般式(3):
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、Ar及びRは、上記に同じ)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法。
項5. 一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物を反応させる工程を、3価の鉄化合物、1価若しくは2価の銅化合物、2価のニッケル化合物、2価の亜鉛化合物、からなる群から選択される少なくとも一種の成分の存在下で行う、上記項4に記載の方法。
【0018】
以下、本発明のアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法について具体的に説明する。
【0019】
本発明のアリールチオノカルボン酸エステルの製造方法は、下記一般式(1):
【0020】
【化5】
【0021】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2):R-MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール化合物とを反応させる方法である。この方法によれば、比較的穏和な反応条件によって、一般式(3):
【0022】
【化6】
【0023】
(式中、Ar及びRは、上記に同じ)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルを収率良く得ることができる。
【0024】
以下、まず、本発明の製造方法で用いる原料化合物について具体的に説明する。
【0025】
原料化合物
(1)ハロゲン化チオカルボニル化合物
原料として用いる一般式(1):
【0026】
【化7】
【0027】
で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物において、Arは、置換基を有することのあるアリール基であり、具体例として、置換基を有することのあるフェニル基、置換基を有することのあるナフチル基等を例示できる。
【0028】
これらのアリール基における置換基としては、後述する、一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物との反応に対して不活性な置換基であれば特に限定はない。この様な置換基の具体例としては、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルコキシ基、シアノ基、アリール基、ハロゲン原子等を例示できる。これらの内で、アルキル基としては、例えば、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基を例示でき、フルオロアルキル基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基の水素元素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基を例示できる。アルコキシ基として、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルコキシ基を例示でき、フルオロアルコキシ基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたフルオロアルコキシ基を例示できる。置換基としてのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、等を例示でき、これらのアリール基は、更に反応に対して不活性な置換基を有してもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを例示できる。
【0029】
また、上記一般式(1)において、Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを例示でき、特に、塩素原子が好ましい。
【0030】
(2)グリニャール化合物
一般式(2):R-MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール化合物において、Rで表される基の内で、置換基を有することのあるアリール基としては、置換基を有することのあるフェニル基、置換基を有することのあるナフチル基等を例示できる。これらのアリール基における置換基は、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物との反応に対して不活性であって、更に、後述する 一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物から一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物を製造する反応に対しても不活性な置換基であればよい。この様な置換基の具体例としては、上記したArで表されるアリール基の置換基と同様の基を例示できる。
【0031】
また、Rで表される基の内で、置換基を有することのあるシクロアルキル基におけるシクロアルキル基としては、炭素数3〜8程度のシクロアルキル基、好ましくは炭素数5〜7程度のシクロアルキル基を例示できる。この様なシクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基などを挙げることができる。シクロアルキル基における置換基は、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物との反応に対して不活性であって、更に、後述する 一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物から一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物を製造する反応に対しても不活性な置換基であればよい。この様な置換基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、フルオロアルキル基等を例示できる。これらの置換基の内で、アルキル基としては、例えば、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基を例示でき、フルオロアルキル基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基の水素元素の一部又は全部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基を例示できる。置換基としてのシクロアルキル基としては、炭素数3〜8程度のシクロアルキル基を例示でき、このシクロアルキル基には、更に、アルキル基などの反応に対して不活性な基が置換していてもよい。
【0032】
一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物を得るには、例えば、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物とを反応させればよい。
【0033】
この反応で用いることができるマグネシウム化合物としては、一般式(4)で表されるハロゲン化物と反応してグリニャール化合物を形成できる化合物であれば特に限定はない。この様なマグネシウム化合物の具体例としては、金属マグネシウム、i-PrMgCl(イソプロピルマグネシウムクロリド)、i-PrMgBr(イソプロピルマグネシウムブロミド)、n-BuLiとi-PrMgCl またはi-PrMgBr から調整できるアート錯体i-PrBu2MgLi等を例示できる。
【0034】
マグネシウム化合物の使用量は、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物1モルに対して、1.0〜10.0モル程度とすればよく、1.0〜2.0モル程度とすることが好ましい。
【0035】
一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物との反応は、通常、反応に不活性な非プロトン性溶媒中で行うことが好ましい。非プロトン性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等を例示できる。これらの、非プロトン性溶媒は、必要に応じて、二種以上混合して用いてもよい。
【0036】
反応溶媒中の原料濃度については特に限定はなくが、例えば、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物の濃度として、0.5〜10.0mol/L程度とすればよい。
【0037】
一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物との反応では、反応温度は、0〜100℃程度とすることが好ましく、20〜70℃程度とすることがより好ましい。
【0038】
反応時の圧力については、特に限定はなく、通常は常圧下で反応を行うことができる。反応時の雰囲気については、特に限定はないが、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。反応時間は、通常、30分〜10時間程度とすればよい。
【0039】
一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物との反応は、LiCl、ヨウ素、ジブロモエタン等の存在下に行うことによって、一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物の収率をより向上させることができる。これらの化合物の使用量は、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物1モルに対して、1.0〜5.0モル程度とすることが好ましく、1.0〜1.2モル程度とすることがより好ましい。
【0040】
上記した方法によって、一般式(2):R-MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物を得ることができる。
【0041】
アリールチオノカルボン酸エステルの製造方法
上記した通り、本発明の目的物である一般式(3):
【0042】
【化8】
【0043】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基であり、Rは置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基である。)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルは、下記一般式(1):
【0044】
【化9】
【0045】
(式中、Arは、上記に同じであり、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2):R-MgY(式中、R及びYは、上記に同じである)で表されるグリニャール化合物とを反応させることによって得ることができる。
【0046】
一般式(2):R-MgY(式中、R及びYは、上記に同じである)で表されるグリニャール化合物の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物1モルに対して、0.8〜2.0モル程度とすればよく、0.9〜1.2モル程度とすることが好ましい。
【0047】
一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物との反応は、非プロトン性溶媒中で行うことが好ましい。非プロトン性溶媒としては、例えば、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物との反応に用いる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
【0048】
反応溶媒中の原料濃度については特に限定はなくが、例えば、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物の濃度として、0.1〜3.0mol/L程度とすればよい。
【0049】
ハロゲン化チオカルボニル化合物とグリニャール化合物との反応の反応温度は、一般式(2):R-MgYにおいて、Rが置換基を有することのあるアリール基であるグリニャール化合物を用いる場合には、-78〜25℃程度とすることが好ましく、-50〜0℃程度とすることがより好ましい。また、一般式(2):R-MgYにおいて、Rが置換基を有することのあるシクロアルキル基であるグリニャール化合物を用いる場合には、-78〜0℃程度とすることが好ましく、-78〜-30℃程度とすることがより好ましい。
【0050】
反応時の圧力については、特に限定はなく、通常は常圧下で行うことができる。反応時の雰囲気については、特に限定はないが、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。反応時間は、通常、0.5〜10.0時間程度とすればよい。
【0051】
本発明の製造方法では、特に、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物との反応を、触媒の存在下に行うことによって、目的物である一般式(3)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルの収率を向上させることができる。触媒としては、3価の鉄化合物、1価若しくは2価の銅化合物、2価のニッケル化合物、2価の亜鉛化合物、2価のコバルト化合物等を用いることができ、これらの化合物を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。これらの化合物の具体例としては、3価の鉄化合物として、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、塩化第二鉄等を例示でき、1価若しくは2価の銅化合物として、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅などのハロゲン化銅:シアン化銅(CuCN)、塩化第二銅、テトラクロロ銅(II)ジリチウム (Li2CuCl4)等を例示でき、2価のニッケル化合物として、塩化ニッケル等を例示でき、2価の亜鉛化合物として、塩化亜鉛等を例示でき、2価のコバルト化合物として塩化コバルト等を例示できる。
【0052】
これらの触媒の使用量は、一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物1モルに対して、0.01〜2.00モル程度とすることが好ましく、0.01〜0.10モル程度とすることがより好ましい。
【0053】
上記した方法によれば、目的とする一般式(3):
【0054】
【化10】
【0055】
で表されるアリールチオノカルボン酸エステルを収率よく得ることができる。
【0056】
上記した方法で得られたアリールチオノカルボン酸エステルは、シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶などの公知の方法によって精製して回収することができる。
【0057】
本発明方法では、一般式(1):
【0058】
【化11】
【0059】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と、一般式(2):R-MgY(式中、Rは、置換基を有することのあるアリール基又は置換基を有することのあるシクロアルキル基を示し、Yはハロゲン原子を示す)で表されるグリニャール化合物とを直接反応させて、一般式(3)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルを得ることに代えて、一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物の原料となる一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物とを反応させた後、反応生成物を一般式(1):
【0060】
【化12】
【0061】
(式中、Arは、置換基を有することのあるアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と反応させる方法によっても、目的とする一般式(3)
【0062】
【化13】
【0063】
(式中、Ar及びRは、上記に同じである。)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルを得ることができる。この方法では、中間生成物である一般式(2):R-MgYで表されるグリニャール化合物を分離することなく、連続した方法で目的とする一般式(3)で表されるアリールチオノカルボン酸エステルを収率よく得ることができる。この連続方法における、一般式(4):R-Yで表されるハロゲン化物とマグネシウム化合物を反応させる工程と、この反応の反応生成物を一般式(1)で表されるハロゲン化チオカルボニル化合物と反応させる工程における各反応条件は、前述した各反応工程毎の反応条件と同様とすればよい。
【0064】
上記した方法で得られたアリールチオノカルボン酸エステルは、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、再結晶などの公知の方法によって精製して回収することができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明によれば、比較的安価で安全性の高い原料を用いて、しかも穏和な反応条件で、目的とするアリールチオノカルボン酸エステルを収率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0067】
実施例1
撹拌子及び温度計を備えた50mL 三口フラスコに、窒素雰囲気下、マグネシウム (1.6 g, 64.0mmol)、LiCl (2.7 g, 64.0mmol)、THF (10.0mL) を加え、クロロベンゼン(7.2 g, 64mmol)を加え、室温で2時間撹拌し、グリニアヤール化合物を発生させた。
【0068】
次いで、撹拌子及び温度計を備えた200mL の別の三口フラスコに、窒素雰囲気下、フェニルクロロチオホルマート (11.0 g, 64.0mmol)及びトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)(Fe(acac)3)(0.7 g, 1.9mmol)、THF(50.0mL)を加え、-30℃に冷却後、上記した方法で得たグリニヤール化合物を添加し、2時間撹拌して、反応を終了させた。
【0069】
この混合液を室温に戻し、トルエン/塩酸水で抽出し、有機層を減圧留去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、黄色固体のフェニルチオベンゾアート (11.9 g, 55.5mmol) を得た。87%収率であった。
【0070】
実施例2〜19
下記表1及び表2に記載の原料を用いて、実施例1と同様の方法で反応を行った。生成物の種類及び収率を表1及び表2に記載する。尚、表中、化合物(2)の欄に記載した各グリニャール化合物は、各グリニャール化合物の前駆体となるハロゲン化物を原料として用いて、実施例1と同様にして、マグネシウムと反応させて得た。また、表中、触媒の項目に記載した数値は、化合物(1)を基準とした触媒量のmol%である。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
実施例20
撹拌子及び温度計を備えた50mL 三口フラスコに、窒素雰囲気下、マグネシウム (1.6 g, 64mmol)、ジブロモエタン(0.6 g, 3.2mmol)、及びシクロペンチルメチルエーテル(CPME) (10.0mL) を加え、ブロモシクロヘキサン(10.4 g, 64mmol)を加えて、60℃で1時間撹拌し、グリニアヤール化合物を発生させた。
【0074】
次いで、撹拌子及び温度計を備えた200mLの 別の三口フラスコに、窒素雰囲気下、フェニルクロロチオホルマート (11.0 g, 64mmol)、テトラクロロ銅(II)ジリチウム0.1Mテトラヒドロフラン溶液(19mL, 1.9mmol)、及びTHF(10mL)を加え、-30℃に冷却後、上記した方法で得たグリニヤール化合物を添加し、2時間撹拌して、反応を終了させた。この混合液を室温に戻し、トルエン/塩酸水で抽出し、有機層を減圧留去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、黄色固体のシクロヘキシルチオベンゾアート (10.1 g, 46mmol) を得た。72%収率であった。
【0075】
実施例21〜23
下記表3に記載の原料を用いて、実施例20と同様の方法で反応を行った。生成物の種類及び収率を表3に記載する。尚、表中、化合物(2)の欄に記載した各グリニャール化合物は、各グリニャール化合物の前駆体となるハロゲン化物を原料として用いて、実施例20と同様にして、マグネシウムと反応させて得た。また、表中、触媒の項目に記載した数値は、化合物(1)を基準とした触媒量のmol%である。
【0076】
【表3】