特許第5737295号(P5737295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5737295鉛フリーハンダ用フラックス及び鉛フリーハンダペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737295
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】鉛フリーハンダ用フラックス及び鉛フリーハンダペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
   B23K35/363 E
   B23K35/363 C
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-548841(P2012-548841)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2011079135
(87)【国際公開番号】WO2012081688
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-281327(P2010-281327)
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】久保 夏希
(72)【発明者】
【氏名】岩村 栄治
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−232495(JP,A)
【文献】 特開2002−086292(JP,A)
【文献】 特開2008−030103(JP,A)
【文献】 特開平06−269988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有臭素系化合物、水酸基含有臭素系化合物、アミノ基含有臭素系化合物、および活性水素非含有臭素系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の臭素系化合物(b)に由来する臭素原子の臭素原子濃度が0.1gあたり400〜20000ppmであり、かつ、一般式(1):H2N−(CH2)n−X−(CH2)n−NH2(式中、nは1〜6の整数を、Xは−NH−CH2CH2−NH−またはピペラジン残基を示す)で表されるアミン系化合物(a)を0.01〜0.7重量%含有し、かつ更に、ロジン系ベース材(c)、活性剤(d)(前記(a)成分および(b)成分に該当するものを除く)、チクソトロピック剤(e)、ならびに溶剤(f)を含有する、鉛フリーハンダ用フラックス。
【請求項2】
前記アミン化合物(a)が、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、およびトリエチレンテトラミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の鉛フリーハンダ用フラックス。
【請求項3】
ロジン系ベース材(c)が水添ロジンおよび/またはアクリル化ロジンである、請求項1または2に記載の鉛フリーハンダ用フラックス。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の鉛フリーハンダ用フラックスと鉛フリーハンダ粉末を含有する鉛フリーハンダペースト。
【請求項5】
前記鉛フリーハンダ粉末の平均一次粒子径が1〜50μmである、請求項に記載の鉛フリーハンダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーハンダ用フラックス及び鉛フリーハンダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
ハンダ付用フラックスは、例えばIC、コンデンサ、抵抗器などの電子部品をプリント基板等に表面実装する際に用いる材料であり、ハンダペーストの主成分である。表面実装では、スクリーン印刷やディスペンサー等によってプリント基板の電極上にハンダペーストを供給し、その上に電子部品を載置し、次いで当該基板をハンダ金属の融点以上にリフロー等することによって、電子部品と電極が接合される。
【0003】
鉛フリーハンダ(Sn−Ag−Cu系、Sn−Cu系等)は、従前主流であった鉛共晶ハンダ(Sn−Pb系等)と比較して融点が高く、平均粒径が小さくかつ粒子径分布がブロードである等の理由により、酸化されやすい。このため、鉛フリーハンダを用いたハンダペーストでは、ハンダ付時に電極上で十分に濡れ広がらない、いわゆる「濡れ不良」が生ずるという問題がある。
これに対し、プリヒート温度を調節する、窒素雰囲気中でハンダ付けを行なう等の対策が従来よりなされている。しかし、プリヒート温度の調節を行った場合、濡れ不良を効果的に防止することができない。また、窒素雰囲気中でのハンダ付を行うことで濡れ性の低下を防止できるが、製造コストが増大するという問題がある。近年は大気雰囲気中での処置が主流となっており、大気雰囲気中で濡れ性の低下を防止する方法が強く求められている。
【0004】
また近年、電化製品がいっそう小型化するにつれ、ハンダペーストには、実装基板上の微小な電極パターンに対応した印刷性能が強く要求されている。ハンダペーストの印刷性能を向上する方法として、例えばハンダ粉末の平均粒子径を小さくする方法が検討されている。しかし、ハンダ粉末の表面積が増大するため、より酸化されやすくなり、濡れ性が悪化するという問題がある。また、ハロゲン系化合物をハンダペーストに用いる方法が検討されている。しかし、特に臭素系化合物を使用した場合等に、ハンダペーストが経時的に増粘しやすく、保存安定性が低下する問題がある。これに加えて、ハンダペーストが増粘することで濡れ不良を生じやすいという問題がある。更に電極が酸化している場合にも濡れ不良が生じやすく、特に高温多湿下で表面実装する場合に、濡れ不良の発生が大きな問題となっている。
【0005】
フラックスの保存安定性を改善する手段としては、例えば、ハンダ粉末とハロゲン系活性剤の反応を抑制する目的で、フラックス0.1gあたりのハロゲンイオン(臭素原子イオン等)の濃度を塩素換算値で300ppm以下に限定する方法が知られているが(特許文献1参照)、当該フラックスは大気中でハンダ付した際の濡れ性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−86292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粘度安定性に優れており、かつ大気中でハンダ付した場合においても良好な濡れ性を発現する鉛フリーハンダペーストを製造可能な、新規なフラックスを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、臭素原子の含有量を所定範囲に規定したフラックスに、更に特定のアミン化合物を所定量含ませることによって前記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち本発明は、臭素原子濃度が0.1gあたり400〜20000ppmであり、かつ、一般式(1):HN−(CH−X−(CH−NH(式中、nは1〜6の整数を、Xは−NH−CHCH−NH−またはピペラジン残基を示す)で表されるアミン系化合物(a)を0.01〜0.7重量%含有する、鉛フリーハンダ用フラックス(以下、単にフラックスという)、および、当該フラックスと鉛フリーハンダ粉末を含有する鉛フリーハンダペースト(以下、単にハンダペーストという)、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフラックスによるハンダペーストは保存安定性に優れており、窒素中だけでなく大気中でハンダ付しても良好な濡れ性を示す。それゆえ本発明のフラックスは、酸化により濡れ不良が生じやすい鉛フリーハンダ粉末にも、好適に用いることができる。また、本発明のハンダペーストは、リフロー時のソルダボール性やスクリーン印刷における連続印刷適性に優れる他、電極(銅、ニッケル等)が酸化しやすい高温多湿下での表面実装に適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフラックスは、臭素原子濃度が0.1gあたり400〜20000ppmであり、かつ、一般式(1):HN−(CH−X−(CH−NH(式中、nは1〜6の整数を、Xは−NH−CHCH−NH−またはピペラジン残基を示す)で表されるアミン系化合物(a)(以下、(a)成分という)を0.01重量%〜0.7重量%含有する点に特徴がある。
【0012】
本発明のフラックスにおける臭素原子の濃度は、ハンダペーストの保存安定性と濡れ性の観点より400〜20000ppm、より好ましくは800〜20000ppm、さらに好ましくは3000〜18000ppm、いっそう好ましくは7000〜15000ppmである。また、当該濃度は、例えば燃焼イオンクロマトグフィー法により測定できる。当該濃度は、具体的には、フラックス0.1gを高温(通常1200〜1300℃程度)で燃焼させた後、燃焼ガスを精製水に通液させることにより溶解させ、得られた精製液中の臭素イオンをイオンクロマトグラフィー装置で定量することによって求めることができる。また、検量線を作成する際には、臭素濃度が既知の固体標準試料を使用する。また、本測定方法は塩素など他のハロゲン原子の濃度測定にも適用可能である。
【0013】
(a)成分としては、前記式で表されるものであれば特に制限されず、各種公知のものを特に制限なく使用できる。なお、式中の「ピペラジン残基」とは、ピペラジンの窒素上の水素を除いた残りの構造をいう。(a)成分の具体種としては、例えば、N,N’−ビス(4−アミノブチル)−1,2−エタンジアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’−(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられ、これらの中でも濡れ性の点より前記式のnが1〜3のものが好ましく、具体的にはN,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、およびトリエチレンテトラミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、(a)成分の含有量は、保存安定性および濡れ性の観点より通常0.01重量%〜0.7重量%程度、好ましくは0.06重量%〜0.6重量%程度、いっそう好ましくは0.1重量%〜0.3重量%である。
【0014】
本発明のフラックスに含まれる臭素原子は、カルボキシル基含有臭素系化合物、水酸基含有臭素系化合物、アミノ基含有臭素系化合物、および活性水素非含有臭素系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の臭素系化合物(b)(以下、(b)成分という)に由来する。なお、「活性水素」とは、カルボキシル基、水酸基、アミノ基に含まれる活性水素をいう。
【0015】
前記カルボキシル基含有臭素系化合物としては、具体的には3−ブロモプロピオン酸、2−ブロモ吉草酸、5−ブロモ−n−吉草酸、2−ブロモイソ吉草酸、2,3−ジブロモコハク酸、2−ブロモコハク酸、2,2−ジブロモアジピン酸等のブロモジカルボン酸類が挙げられる。また、前記水酸基含有臭素系化合物としては、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、1,4−ジブロモ−2,3−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオール等のブロモジオール類が挙げられる。また、該アミノ基含有臭素系化合物としては、エチルアミン臭素酸塩、ジエチルアミン臭素酸塩、メチルアミン臭素酸塩等のブロモアミン類が挙げられる。また、該活性水素非含有臭素系化合物としては、1,2,3,4−テトラブロモブタン、1,2−ジブロモ−1−フェニルエタン等のブロモアルカン類;1−ブロモ−3−メチル−1−ブテン、1,4−ジブロモブテン、1−ブロモ−1−プロペン、2,3−ジブロモプロペン、1,2−ジブロモスチレン等のブロモアルケン類;4−ステアロイルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルベンジルブロマイド、4−ブロモメチルベンジルステアレート、4−ステアロイルアミノベンジルブロマイド、2,4−ビスブロモメチルべンジルステアレート、4−パルミトイルオキシベンジルブロマイド、4−ミリストイルオキシベンジルブロマイド、4−ラウロイルオキシべンジルブロマイド、4−ウンデカノイルオキシベンジルブロマイド等の他の活性水素非含有臭素系化合物が挙げられる。(b)成分としては、保存安定性および特に濡れ性の点で、前記ブロモカルボン酸類、ブロモアルコール類、ブロモアルカン類、およびブロモアルケン類からなるからなる群より選ばれる少なくとも1種が、特にブロモカルボン酸類および/またはブロモアルコール類が好ましい。
【0016】
フラックス中の(b)成分の含有量は特に限定されず、臭素原子濃度が前記範囲となる量であればよいが、通常は0.5〜3重量%程度、好ましくは1〜2.5重量%程度、いっそう好ましくは1〜2重量%である。
【0017】
本発明のフラックスには更に、各種公知のロジン系ベース材(c)(以下、(c)成分という)、活性剤(d)(前記(a)成分および(b)成分に該当するものを除く。以下、(d)成分という。)、チクソトロピック剤(e)(以下、(e)成分という)、ならびに溶剤(f)(以下、(f)成分という)を含ませることができる。これらは通常、臭素原子を含有しない。
【0018】
(c)成分としては、例えばガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の原料ロジン類;原料ロジンより得られる水添ロジンや、重合ロジン等の処理ロジン類;原料ロジン類や処理ロジン類とα,β不飽和カルボン酸類((メタ)アクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸等)とから得られるディールス・アルダー反応物(アクリル化ロジン、フマル化ロジン、マレイン化ロジン等);原料ロジン類や処理ロジン類、ディールス・アルダー反応物と多価アルコール(グリセリン、ペンタエリスリトール等)とのエステル化合物などが挙げられる。(c)成分の中でも、保存安定性および特に濡れ性の点より、水添ロジンおよび/またはアクリル化ロジンが好ましい。また、フラックス中の(c)成分の含有量も特に限定されないが、通常は25重量%〜69重量%程度、好ましくは30〜56重量%程度、いっそう好ましくは40〜50重量%である。
【0019】
なお、(c)成分に加え、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフイン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂類や、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム、ナイロンゴム、ナイロン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ等のエラストマ類といった他のベース材を用いることができる。
【0020】
(d)成分としては、例えば、コハク酸、安息香酸、アジピン酸、グルタル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピコリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の非ハロゲン系活性剤や、ジエチルアミン塩酸塩等の塩素系活性剤などが挙げられる。また、フラックス中の(d)成分の含有量は特に限定されないが、特に濡れ性の点より通常1〜15重量%程度、好ましくは5〜13重量%程度、いっそう好ましくは9〜12重量%である。
【0021】
(e)成分としては、例えば、ひまし油、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス等動植物系チクソトロピック剤や、ステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等のアミド系チクソトロピック剤などが挙げられる。また、フラックス中の(e)成分の含有量は特に限定されないが、特にスクリーン印刷における連続適性の観点より、通常3〜10重量%程度、好ましくは5〜8重量%程度、いっそう好ましくは5〜7重量%である。
【0022】
(f)成分としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール等の低級アルコール類;ブチルカルビトール、ヘキシルジグリコール、ヘキシルカルビトール等のエーテル系アルコール類;酢酸イソプロピル、プロピオン酸エチル、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル等のエステル類;n−ヘキサン、ドデカン、テトラデセン等の炭化水素類などが挙げられる。これらの中でも、リフロー時の温度(通常230〜260℃)を考慮すると、高沸点である前記エーテル系アルコール類が好ましい。また、フラックス中の(f)成分の含有量は特に限定されないが、通常26.49〜50重量%程度、好ましくは32.94〜45重量%程度、いっそう好ましくは34.9〜45重量%である。
【0023】
なお、本発明のフラックスには、酸化防止剤、防黴剤、艶消し剤等の添加剤を含ませることができる。当該酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、パラ−tert−アミルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等が挙げられる。フラックス中の添加剤の含有量は通常0.1〜5重量%程度である。
【0024】
本発明のフラックスは前記各成分を溶融、混練することにより得ることができる。混練器具としては例えばプラネタリーミル等が挙げられる。
【0025】
本発明のハンダペーストは、本発明のフラックスと鉛フリーハンダ粉末とを含有するものである。ハンダペースト中のフラックスの含有量は特に限定されないが、通常5〜30重量%程度である。ハンダペースト中の鉛フリーハンダ粉末の含有量は特に限定されないが、通常70〜95重量%程度である。また、当該ハンダペーストも公知の混練器具により製造できる。
【0026】
当該鉛フリーハンダ粉末としては、例えばSn−Ag系粉末、Sn−Zn系粉末、Sn−Ag−Cu系粉末、Au−Si系粉末、Bi―Cu系粉末や、これらにCu、Bi、In、Ni、Sb、Al等をドープしたものなどが挙げられる。また、ハンダ粒径も特に限定されないが、通常は平均一次粒子径が1〜50μm程度、好ましくは5〜40μm程度、いっそう好ましくは10〜30μmである。また、平均一次粒子径は、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定できる。なお、ハンダ粒子の形状は不定形や球形であってよく、球形である場合には通常、縦横のアスペクト比が1.2以内である。
【0027】
本発明のハンダペーストの物性は特に制限されないが、例えばスパイラル方式粘度測定法(JIS Z 3284 付属書6に準拠)による粘度が通常100〜300Pa・s程度であり、当該粘度より求めたチクソトロピー指数が通常0.3〜0.7程度である。当該粘度及びチクソトロピー指数の場合には、連続スクリーン印刷適性が向上する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を詳細に説明するが、これらによって何ら限定されるものではない。
【0029】
(1)フラックスの調製
実施例1
表1に示す成分を配合することによって(計100重量%)、フラックスを3700g調製した。




【0030】
【表1】
【0031】
次に、当該フラックスを0.1グラム採取し、市販の燃焼装置(製品名 「自動試料燃焼装置 AQF−100」 三菱化学アナリテック(株)社製)において1250℃で燃焼させ、生じた燃焼ガスを精製水に通過させることによってサンプル液を調製した。次いで、当該サンプル液を市販のイオンクロマトグラフィー装置(製品名「DX−500」、(株)日本ダイオネクス製)にセットし、臭素イオン濃度を自動測定した。臭素原子のピークに基づく検量線により、前記(b)成分に由来する臭素原子に基づく濃度は、フラックス0.1グラムあたり約9100ppmであることが判った。また、標準物質としては臭化物イオン標準溶液(和光純薬(株)社製)を使用した。
【0032】
実施例2
実施例1において、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてN,N’―ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン(東京化成工業(株)製)を使用(0.1重量%)した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約9100ppmであった。
【0033】
実施例3
実施例1におけるN,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてトリエチレンテトラミン(東京化成工業(株)製)を使用(0.1重量%)した他は実施例1と同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約9100ppmであった。
【0034】
実施例4
実施例1において、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてトリエチレンテトラミンを使用(0.5重量%)し、かつヘキシルジグリコールの使用量を35.5重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約9100ppmであった。
【0035】
実施例5
実施例1において、3−ブロモプロピオン酸の使用量を0.1重量%に変更し、かつトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールを使用せず(0重量%)、かつ水添ロジンおよびアクリル化ロジンの使用量をそれぞれ23.2重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約520ppmであった。
【0036】
実施例6
実施例1におけるトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの使用量を2.5重量%に変更し、かつN,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてトリエチレンテトラミンを使用(0.5重量%)し、かつアクリル化ロジンおよび水添ロジンの使用量をそれぞれ22.0重量%に変更し、かつヘキシルジグリコールの使用量を35.0重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約18800ppmであった。
【0037】
実施例7
実施例1における3−ブロモプロピオン酸およびトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの双方に代えて1,2,3,4−テトラブロモブタンを2.3重量%使用し、かつヘキシルジグリコールの使用量を35.1重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約19700ppmであった。
【0038】
実施例8
実施例1における3−ブロモプロピオン酸およびトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの双方に代えて2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオールを2.3重量%使用し、かつヘキシルジグリコールの使用量を35.1重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約14000ppmであった。
【0039】
実施例9
実施例1における3−ブロモプロピオン酸およびトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの双方に代えて2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオールを0.07重量%使用し、かつヘキシルジグリコールの使用量を37.33重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約410ppmであった。
【0040】
比較例1
実施例1において、3−ブロモプロピオン酸、トランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、およびN,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンをいずれも使用せず(0重量%)に、かつヘキシルジグリコールの使用量を37.5重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約0ppmであった。
【0041】
比較例2
実施例1において3−ブロモプロピオン酸の使用量を0.04重量%に変更し、かつトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールを使用せず(0重量%)に、かつ水添ロジン、アクリル化ロジンの使用量をそれぞれ23.23重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約210ppmであった。
【0042】
比較例3
実施例1において3−ブロモプロピオン酸の使用量を0.07重量%に変更し、かつトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールを使用せず(0重量%)に、かつ水添ロジンの使用量を23.22重量%、アクリル化ロジンの使用量を23.21重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約360ppmであった。
【0043】
比較例4
実施例1において3−ブロモプロピオン酸の使用量を2.1重量%に、トランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの使用量を2.0重量%に、アクリル化ロジンおよび水添ロジンの使用量をいずれも21.2重量%にした他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約24600ppmであった。
【0044】
比較例5
実施例1においてN,N’―ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンの使用量を0重量%に、ヘキシルジグリコールの使用量を36.0重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約9100ppmであった。
【0045】
比較例6
実施例1において3−ブロモプロピオン酸およびトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの双方に代えて1,2,3,4―テトラブロモブタンを1.6重量%使用し、かつN,N’―ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンを使用しなかった(0重量%)他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約13700ppmであった。
【0046】
比較例7
実施例1において3−ブロモプロピオン酸を使用せず、かつN,N’―ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてトリエタノールアミンを0.5重量%使用し、かつヘキシルジグリコールの使用量を36.0重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約6500ppmであった。
【0047】
比較例8
実施例1において3−ブロモプロピオン酸を使用せず、かつN,N’―ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンに代えてジエチルアミンを0.5重量%使用し、かつヘキシルジグリコールの使用量を36.0重量%に変更した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、フラックス0.1gあたりの臭素原子濃度は約6500ppmであった。
【0048】
比較例9
実施例1において、3−ブロモプロピオン酸およびトランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオールの双方に代えてジエチルアミン塩酸塩を1.5重量%使用した他は同様にして、フラックスを調製した(計100重量%)。また、当該フラックスにおける塩素原子濃度を、実施例1における燃焼イオンクロマトグラフィー法に従い求めたところ、フラックス0.1gあたり約4900ppmであった。なお、標準物質としては塩化物イオン標準溶液(和光純薬(株)社製)を用いた。
【0049】
(2)ハンダペーストの調製
実施例1〜9、比較例1〜9
実施例1のフラックスを11.0重量%、鉛フリーハンダ粉末(Sn96.5重量%−Ag3.0重量%−Cu0.5重量%;平均一次粒子径10〜25μm;山石金属(株)製)を89.0重量%配合したものを、プラネタリーミルにて混練することによりハンダペーストを調製した。実施例2〜9及び比較例1〜9のフラックスについても同様にしてハンダペーストを調製した。
【0050】
実施例10
実施例1において、鉛フリーハンダ粉末をSn96.5重量%−Ag3.0重量%−Cu0.5重量%、平均一次粒子径20〜38μmのやや粗いもの(三井金属(株)製)に変更した他は同様にしてハンダペーストを調製した。
【0051】
(3)保存安定性の評価
実施例1に係るハンダペーストの調製直後の粘度と、40℃の恒温槽中で24時間保温した後の粘度をそれぞれ市販のスパイラル方式粘度計(製品名「PCU−205」、共軸二重円筒形回転型、(株)マルコム製)により測定し、以下に示す計算式に基づき、当該ハンダペーストの増粘率を算出した。
【0052】
増粘率=〔(40℃、24時間保温後の10rpmでの粘度−ハンダペースト調製直後の10rpmでの粘度)÷(ハンダペースト調製直後の10rpmでの粘度)〕×100
【0053】
なお、前記保温条件は温度加速試験を意図したものであり、本試験における増粘率は、0℃〜10℃での三か月以上保管した後の増粘率を概ね再現している。そして、増粘率が10%未満である場合は保存安定性が良好であるとみなした。実施例2〜10及び比較例1〜9のフラックスについても同様にしてハンダペーストを調製した。
【0054】
(4)濡れ性試験(銅電極の酸化処理なし)
実施例1に係るハンダペーストについて、製造直後のものと、40℃の恒温槽中で24時間保温した後のものとの双方について、大気雰囲気下、銅電極板上での濡れ性を評価した(JIS Z 3284 附属書11に準拠)。他の実施例および比較例に係るハンダペーストについても同様にした。
【0055】
(5)濡れ性試験(銅電極の酸化処理あり)
実施例1に係るハンダペーストについて、上記試験(4)において使用された銅電極板を酸化処理(40℃、湿度90%、24時間)した銅電極板に置換した他は同様にして濡れ性を評価した。他の実施例および比較例に係るハンダペーストについても同様に評価した。
【0056】
濡れ性試験において、以下の基準に基づき評価した。
1 ハンダペーストから溶融したハンダが試験板を濡らし、ペーストを塗布した面積以上広がった状態。
2 ハンダペーストを塗布した部分は全て、ハンダで濡れた状態。
3 ハンダペーストを塗布した部分の大半は、ハンダで濡れた状態。
4 試験版にハンダが濡れた様子はなく、溶融したハンダが一つ又は複数のソルダボールとなった状態。
なお、本発明では「1」および「2」を良好と判断した。
【0057】
実施例1〜10の結果を表2に示す。また、比較例1〜9の結果を表3に示す。

【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表2および表3中、各記号は以下の意味である。
BAPED:N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン
BAPP:N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン
TETA:トリエチレンテトラミン
TEA:トリエタノールアミン
DEA:ジエチルアミン
BP:3−ブロモプロピオン酸
DBBD:トランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール
TBB:1,2,3,4−テトラブロモブタン
BBMPD:2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオール
DEAHC:ジエチルアミン塩酸塩
【0061】
表2,3の結果から、本発明の鉛フリーハンダ用フラックスを用いた鉛フリーハンダペーストは、粘度安定性に優れ、かつ大気中でハンダ付した場合においても良好な濡れ性を発現することが明らかである。