(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737393
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】チョコレート用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20150528BHJP
A23G 1/00 20060101ALI20150528BHJP
A23G 1/30 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
A23D9/00 500
A23G1/00
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-516335(P2013-516335)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2012062737
(87)【国際公開番号】WO2012161105
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2013年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-116492(P2011-116492)
(32)【優先日】2011年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 栄治
(72)【発明者】
【氏名】山口浩太郎
【審査官】
松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−174988(JP,A)
【文献】
特開2008−306944(JP,A)
【文献】
特開2009−284899(JP,A)
【文献】
米国特許第02726158(US,A)
【文献】
英国特許出願公開第01495254(GB,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0088652(US,A1)
【文献】
特開平09−285255(JP,A)
【文献】
特開2007−319043(JP,A)
【文献】
特開2010−144158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
A23G 1/00−9/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂A及び油脂Bを含み、油脂Aと油脂Bの合計量が70重量%以上であり、油脂Aと油脂Bの比率(油脂A/油脂B)が0.5から20であり、5重量%から30重量%のSSO型トリグリセリド(1,2−ジ飽和−3オレイン酸トリグリセリド、もしくは2,3−ジ飽和−1オレイン酸トリグリセリド)及び11重量%以下のS3型トリグリセリド(トリ飽和トリグリセリド)を含むチョコレート用油脂組成物。但しSはパルミチン酸またはステアリン酸、Oはオレイン酸を表す。
前記油脂Aは構成脂肪酸中ラウリン酸が10重量%から50重量%であり、パルミチン酸とステアリン酸の合計が20重量%から60重量%であるエステル交換油。
前記油脂Bは原料油脂をエステル交換した後に分別により高融点成分又は高融点成分及び低融点成分を除去する工程から得られる、25重量%以上のSSO型トリグリセリド及び15重量%以下のS3型トリグリセリドを含む油脂。
【請求項2】
油脂Bの構成脂肪酸中、パルミチン酸とステアリン酸の重量比(パルミチン酸/ステアリン酸)が1以上である請求項1に記載のチョコレート用油脂組成物。
【請求項3】
固体脂含量(Solid Fat Content)が30℃で15%以上、40℃で10%以下であり、構成脂肪酸中飽和脂肪酸が90重量%以下であり、トランス脂肪酸が5重量%以下である請求項1又は2に記載のチョコレート用油脂組成物。
【請求項4】
油脂Aの原料油脂がパーム核油、ヤシ油、パーム油、綿実油、それらの分別油、及びそれらの硬化油から選ばれる2種以上の植物油脂である、請求項1から3何れか1項に記載のチョコレート用油脂組成物。
【請求項5】
油脂Bの原料油脂がパーム油、綿実油、シア脂、サル脂それらの分別油、及びそれらの硬化油から選ばれる1種以上の植物油脂である請求項1から4何れか1項に記載のチョコレート用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5何れか1項に記載のチョコレート用油脂組成物を使用してなるチョコレート。
【請求項7】
請求項1〜5何れか1項に記載のチョコレート用油脂組成物をチョコレート全体に対して20〜70重量%使用するチョコレートの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非テンパリング型ハードバター及びそれを利用したチョコレート類に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレート類に使用される油脂(ココアバターを含めた広義のハードバター)は、チョコレートを製造する際のテンパリングの要否により、テンパリング型と非テンパリング型の二種に大別される。テンパリング型ハードバターは、ココアバターの如くその主要なトリグリセリド成分が1,3−飽和−2−不飽和トリグリセリドからなるのが特徴であり、シャープで良好な口溶けを持ち、ココアバターと任意に置換して使用できるが、結晶多型現象を持つためテンパリング処理を施す必要があり、使用用途が限定される面がある
【0003】
非テンパリング型ハードバターは、ラウリン酸型とトランス酸型に大別され、ラウリン酸型は、ラウリン酸が主たる構成脂肪酸であり、テンパリング型と同様のシャープで良好な口溶けを持つが、ソーピーフレーバー発生のリスクがある。一方、トランス酸型は、液体油脂を硬化触媒及び含硫化合物若しくは被毒触媒等の触媒の存在下で異性化硬化する事により得られるトランス酸型不飽和脂肪酸を主要構成脂肪酸としており、テンパリング型に比べると口溶けのシャープさ及び風味が劣る。
【0004】
近年、各種脂肪酸に関する多くの栄養生理学的な知見が明らかになりつつある。例えば、飽和脂肪酸やトランス酸を多く含む油脂の摂取量が過剰である場合には、動脈硬化などの心臓病になるリスクを高めるとの研究結果が得られており、これら飽和脂肪酸やトランス酸が低減されたまたはトランス酸を実質的に含まないタイプのハードバターが要望されている。
【0005】
上記要望に対し、ラウリン酸型非テンパリング型ハードバターはトランス酸を実質的に含まないという利点を有する反面、飽和脂肪酸含量を95重量%以上含むという問題を有する。そのため、その飽和脂肪酸の割合を低減するために、ラウリン系油脂とパーム系油脂のエステル交換油が提案されている。上記のラウリン系油脂とは、ヤシ油やパーム核油などのラウリン酸に富む油脂のことであり、これら油脂、これら油脂の分別油脂および硬化油脂の少なくとも1種以上を含む。一方パーム系油脂とはパーム油、パーム油の分別油脂および硬化油脂の1種以上を含む。
【0006】
特許文献1及び特許文献2ではラウリン系油脂とパーム系油脂のエステル交換油に特定条件の乳化剤やパーム油の極度硬化油等を少量配合した非トランスの非テンパリング型チョコレート用油脂が提案されているが、かかる油脂はコーティングチョコレートに用いた際の固化速度の改善を課題とするもので、飽和脂肪酸はラウリン酸型非テンパリング型と比較し若干低減されている程度であり十分とは言えない。特許文献3ではパーム系油脂のエステル交換油とパーム系油脂とラウリン系のエステル交換油脂を配合した油脂組成物が開示されているが、ソフトなコーティング素材を用途とするものであり、ハードバターとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−142152号公報
【特許文献2】特開2010−142153号公報
【特許文献3】公表特許WO2009−116396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、トランス酸を実質的に含まず、従来のラウリン酸型非テンパリング型ハードバターに比較し、飽和脂肪酸の低減された非テンパリング型ハードバター及びそれを利用したチョコレート及びチョコレート製造法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ラウリン系油脂とパーム系油脂のエステル交換油においては、パーム系油脂の割合を増やすにつれ飽和脂肪酸の割合は低減するが、反対にシャープで良好な口どけは悪化し、特にチョコレートにしたときのワキシー感が問題となり、飽和脂肪酸の低減と口どけの両立を実現することが必要なことを見出した。
【0010】
さらに本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ラウリン系油脂とパーム系油脂のエステル交換油の口どけの悪化やワキシー感は高融点成分であるS3型トリグリセリド(トリ飽和トリグリセリド)によってもたらされることを知見し、このエステル交換油にSSO型トリグリセリド(1,2−ジ飽和−3オレイン酸トリグリセリド、もしくは2,3−ジ飽和−1オレイン酸トリグリセリド)を主体とし、S3型トリグリセリドが十分に低減された油脂を配合することで、飽和脂肪酸の低減と口どけの両立を実現でき、上記課題を解決できる油脂が得られることを見出し、さらに意外にもブルーム耐性をも向上させられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第1は、油脂A及び油脂Bを含み、油脂Aと油脂Bの合計量が70重量%以上であり、油脂Aと油脂Bの重量比(油脂A/油脂B)が0.5から20であり、5重量%から30重量%のSSO型トリグリセリド(1,2−ジ飽和−3オレイン酸トリグリセリド、もしくは2,3−ジ飽和−1オレイン酸トリグリセリド)及び11重量%以下のS3型トリグリセリド(トリ飽和トリグリセリド)を含むチョコレート用油脂組成物。但しSはパルミチン酸及びステアリン酸、Oはオレイン酸を表す。
前記油脂Aは構成脂肪酸中ラウリン酸が10重量%から50重量%であり、パルミチン酸とステアリン酸の合計が20重量%から60重量%であるエステル交換油。
前記油脂Bは原料油脂をエステル交換した後に分別により高融点成分又は高融点成分及び低融点成分を除去する工程から得られる、25重量%以上のSSO型トリグリセリド及び15重量%以下のS3型トリグリセリドを含む油脂である。
第2は、油脂Bの構成脂肪酸のうちパルミチン酸/ステアリン酸の重量比が1以上である第1記載のチョコレート用油脂組成物である。
第3は、固体脂含量(Solid Fat Content)が30℃で15%以上、40℃で10%以下であり、構成脂肪酸中飽和脂肪酸が90重量%以下であり、トランス脂肪酸が5重量%以下である第1または第2記載のチョコレート用油脂組成物である。
第4は、油脂Aの原料油脂がパーム核油、ヤシ油、パーム油、綿実油、それらの分別油、及びそれらの硬化油から選ばれる2種以上の植物油脂である、第1から3何れか1に記載のチョコレート用油脂組成物である。
第5は、油脂Bの原料油脂がパーム油、綿実油、それらの分別油、及びそれらの硬化油から選ばれる1種以上の植物油脂である第1から4何れか1に記載のチョコレート用油脂組成物である。
第6は、第1〜5何れか1に記載のチョコレート用油脂組成物を使用してなるチョコレートである。
第7は、第1〜5何れか1に記載のチョコレート用油脂組成物をチョコレート全体に対して20〜70重量%使用するチョコレートの製造法である。
【発明の効果】
【0012】
SSO型トリグリセリドを多く含む油脂とラウリン酸を含むエステル交換油を配合することにより、トランス酸を実質的に含まず、飽和脂肪酸の低減された、口どけ、ブルーム耐性に優れる非テンパリング型ハードバター及びそれを利用したチョコレートの提供を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のチョコレート用油脂組成物は油脂A及び油脂Bを含み、油脂Aと油脂Bの合計量が70重量%以上であることが必要であり、好ましくは80重量%以上であり、更に好ましくは90〜100重量%であり、最も好ましくは95〜100重量%である。さらに油脂Aと油脂Bの重量比(油脂A/油脂B)が0.5から20であることが必要であり、好ましくは0.8から9であり、更に好ましくは1から4である。前記重量比が0.5より少ないとハードバターとしての硬さが不十分となり、20より多いと飽和脂肪酸が十分に低減せず、いずれも好ましくない。
本発明のチョコレート用油脂組成物は5重量%から30重量%のSSO型トリグリセリドを含むことが必要であり、好ましくは10重量%から25重量%である。SSO型トリグリセリドが5重量%より少ないと飽和脂肪酸が十分に低減せず、30重量%より多いとハードバターとしての硬さが不十分となるため、いずれも好ましくない。
本発明のチョコレート用油脂組成物は11重量%以下のS3型トリグリセリドを含むことが必要であり、好ましくは9重量%以下である。S3型トリグリセリドが11重量を超えるとチョコレートとしての口どけが低下し、いわゆるワキシーな食感になってしまう。
【0014】
本発明のチョコレート用油脂組成物を構成する油脂Aはその構成脂肪酸中ラウリン酸を10重量%から50重量%含むことが必要であり、好ましくは20重量%から40重量%である。またパルミチン酸とステアリン酸の合計が20重量%から60重量%であることが必要であり、好ましくは30重量%から50重量%である。ラウリン酸が10重量%未満で、パルミチン酸とステアリン酸の合計が60重量%を超えると、チョコレートとしての口どけが低下し、いわゆるワキシーな食感になってしまう。またラウリン酸が50重量%を超え、パルミチン酸とステアリン酸の合計が20重量%未満であると、ハードバターとしての硬さが十分でなく、さらに飽和脂肪酸が十分に低減しない。
【0015】
油脂A及び油脂Bの原料油脂としてはパーム核油やヤシ油などのラウリン系油脂、大豆油、なたね油、ひまわり種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂等ラウリン系以外の植物性油脂ならびに乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の1種以上の単独又は混合油、それらの硬化及び/または分別油、若しくはエステル交換油が使用できる。
【0016】
本発明のチョコレート用油脂組成物を構成する油脂A又は油脂Bを得るためのエステル交換工程は、トリグリセリドの1位と3位に結合する脂肪酸のみを酵素(リパーゼ)を用いて特異的に交換する方法(1、3位特異的エステル交換)と、酵素若しくは金属触媒(例えばナトリウムメチラート)を用いて結合する位置に関係なくランダムに交換する方法(ランダムエステル交換)に分けられる。本発明におけるエステル交換とは、後者のランダムエステル交換が好ましい。これはより多くのトリグリセリドの種類が生成するランダムエステル交換の方が、非テンパリング型チョコレートでは長期にわたる品質の安定性に優れるためである。
【0017】
油脂Bを得るための分別工程は溶剤分別、乾式分別などの分別方法により、高融点成分又は低融点成分及び高融点成分を除去して得ることができる。分別前の油脂の組成に応じ適宜分別条件を調整することによって、25重量%以上のSSO型トリグリセリド及び15重量%以下のS3型トリグリセリドを含む油脂を容易に得ることができる。
【0018】
本発明における油脂Bはその構成脂肪酸のうちパルミチン酸/ステアリン酸の重量比が1以上であるのが好ましく、1未満では、チョコレートの口溶けが低下する問題がある。
【0019】
本発明のチョコレート用油脂組成物の固体脂含量(SFC)は30℃で15%以上、40℃で10%以下が好ましい。さらに好ましくは30℃で25%以上又は40℃で5%以下である。30℃で15%未満であると、かみだしが硬くすっと溶けるというチョコレートとしての好ましい食感が得られにくい。また40℃で10%を超えると口どけが低下し、いわゆるワキシーな食感になってしまう。なおSFC値はAOCS official method cd16b-93 (ダイレクト法) に準じて測定する。
一方本発明のチョコレート用油脂組成物の構成脂肪酸中飽和脂肪酸は好ましくは90重量%以下、さらに好ましくは85重量%以下である。この飽和脂肪酸含量は、ラウリン酸型ハードバターの95重量%以上より、大きく低減されたものである。またトランス脂肪酸は5重量%以下であることが好ましい。
【0020】
SSO型トリグリセリドの含有量の分析は、下記に示す高速液体クロマトグラフによるトリグリセリド組成分析により、P2O(ジパルミトイルオレオイルグリセリド)、St2O(ジステアロイルオレオイルグリセリド)及びPStO(パルミトイルステアロイルオレオイルグリセリド)をS2O含量として合算し、その後同じく下記に示す薄層クロマトグラフによる対称型、非対称型トリグリセリド組成分析でS2O中のSOS型とSSO型トリグリセリドの比を測定することで、SSO型トリグリセリド含有量を算出した。
一方S3型トリグリセリドの含有量の分析は、下記に示す高速液体クロマトグラフによるトリグリセリド組成分析により、P3(トリパルミトイルグリセリド)、P2St(ジパルミトイルステアロイルグリセリド)、PSt2(ジステアロイルパルミトイルグリセリド)及びSt3(トリステアロイルグリセリド)をS3含量として合算した。
【0021】
<測定方法>(1)トリグリセリド組成;高速液体クロマトグラフ(カラム:ODS、溶離液:アセトン/アセトニトリル=80/20、液量:0.9ml/分、カラム温度:25℃、検出器:示差屈折計)で測定した。(2)対称型、非対称型トリグリセリド組成:薄層クロマトグラフ(プレート:硝酸銀薄層プレート、展開溶媒:ベンゼン/ヘキサン/ジエチルエーテル=75/25/2、検出器:デンシトメータ)
【0022】
本発明のチョコレート用油脂組成物においては、本発明の効果を阻害しない程度であれば、油脂Aと油脂B以外の他の油脂を含有させてもよい。
前記他の油脂として、パーム油中融点部油脂を含む場合はチョコレートとしての口どけの点で好適である。パーム油中融点部油脂の含有量に特に制限はないが、通常は、合計量として、油脂組成物の全重量に対し、30重量%未満であり、好ましくは20重量%未満であり、特に好ましくは10重量%未満であり、もっとも好ましくは5重量%未満である。
【0023】
また前記他の油脂として、融点45℃以上の油脂を含む場合はチョコレートとしての固化速度を改善する点で好適である。融点45℃以上の油脂としてはハイエルシン酸なたね油の極度硬化油やパーム油の極度硬化油、パームステアリンなどが例示される。
融点45℃以上の油脂の含有量に特に制限はないが、通常は、合計量として、油脂組成物の全重量に対し、10重量%未満であり、好ましくは5重量%未満であり、特に好ましくは3重量%未満である。
【0024】
本発明のチョコレート用油脂組成物には、通常の製菓用途に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を適宜添加することができる。これらの添加量は本発明のチョコレート用油脂組成物に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
前記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、等が挙げられる。
【0025】
以上のようにして得られた本発明のチョコレート用油脂組成物は、単独又はココアバターを配合してチョコレート用の油脂として使用することができ、テンパリング処理を省略してチョコレートを製造することができる。なお、ここでいうチョコレートとは、規約(「チョコレート類の表示に関する公正規約」)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、準スイートチョコレート、準ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート或いはストロベリーのようなカラーチョコレート、及び各種チョコレート様食品を包含する。
これらのチョコレートに対し、本発明のチョコレート用油脂組成物を20〜70重量%使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を例示して本発明を詳細に説明する。なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
【0027】
(実験例1)油脂Aの調製
二段分別パームステアリン(ヨウ素価12)40部、パーム核ステアリン(ヨウ素価7)60部を混合した原料油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を定法に従い精製を行い油脂Aとした。
油脂Aの構成脂肪酸中、ラウリン酸は32重量%、パルミチン酸とステアリン酸の合計は42重量%であった。
【0028】
(実験例2)油脂B−1の調製
パームステアリン(ヨウ素価31)を原料油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を定法に従い精製を行った後、アセトン分別により、高融点成分と低融点成分を除去し得られた中融点部を定法に従い精製を行い油脂B−1を得た。
油脂B−1の構成脂肪酸のうちパルミチン酸/ステアリン酸の比は9.7であった。
【0029】
(実験例3)
パームステアリン(ヨウ素価31)を原料油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を定法に従い精製を行った
【0030】
(実施例1)
油脂A65部と油脂B−1 35部を混合し実施例1の油脂とした。
(実施例2)
油脂A90部と油脂B−1 10部を混合し実施例2の油脂とした。
(実施例3)
油脂A40部と油脂B−1 60部を混合し実施例3の油脂とした。
(実施例4)
油脂A75部と油脂B−1 25部を混合し実施例4の油脂とした。
(比較例1)
油脂Aを比較例1の油脂とした。
(比較例2)
油脂A65部と実験例3で得られた油脂35部を混合し比較例2の油脂とした。
【0031】
(比較例3)
ラウリン酸型非テンパリング型ハードバターである、「パルケナH」(不二製油株式会社製)の飽和脂肪酸含量は99.9%、トランス酸含量は0.0%であった。
(比較例4)
トランス酸型非テンパリング型ハードバターである、「メラノH1000」(不二製油株式会社製)の飽和脂肪酸含量は39.5%、トランス酸含量は43.0%であった。
【0032】
(実施例5)
ココアパウダー10部、脱脂粉乳20部、砂糖40部、実施例4の油脂30部、レシチン0.4部を原料にして定法に従いチョコレート生地を調製した。さらにこのチョコレート生地を油脂が融解している温度(50℃)で型に流し込み、5℃で冷却固化した。固化したチョコレートは20℃で1週間熟成(エージング)した後、1日で17℃を10時間、28℃を10時間保持できる恒温器(温度を17℃から28℃に変えるのに2時間、同様に28℃から17℃に変えるのに2時間)に保管しサイクルテストを行い、2週間後のチョコレートの表面状態を目視により確認したが、艶も残り良好な状態であった。
【0033】
(比較例5)
チョコレート生地の原料油脂として実施例4の油脂に代えて比較例1の油脂を用いる他は実施例5と同様にチョコレートの調製、サイクルテストを行い、同じく2週間後のチョコレート表面を確認したが、すでにブルームが出現していた。
【0034】
(実験例4)油脂B−2の調製
パーム油(ヨウ素価52)40部、二段分別パームステアリン(ヨウ素価12)35部、シア脂(ヨウ素価58)25部を混合した原料油脂に、金属触媒(ナトリウムメトキシド)0.3部を加え、真空下80℃で60分ランダムエステル交換させた。得られた油脂を、アセトンを用いて、二段分別を行い、得られた中融点画分を定法に従い精製を行い油脂B−2とした。
油脂B−2の構成脂肪酸のうちパルミチン酸/ステアリン酸の比は3.3であった。
【0035】
(実験例5)パーム油中融点部油脂の調整
パーム油から乾式三段分別を行いパーム油中融点部油脂を得た。ヨウ素価は34であった。
(実施例6)
油脂A 61部、油脂B−2 31部、実験例5の油脂 8部を混合し実施例6の油脂とした。
【0036】
(実施例7)
チョコレート生地の原料油脂として実施例4の油脂に代えて実施例6の油脂を用いる他は実施例5と同様にチョコレートの調製、サイクルテストを行い、同じく2週間後のチョコレート表面を確認したところ実施例5と同様、艶も残り良好な状態であった。
【0037】
それぞれの油脂の分析値を表1に示す。
<表1>
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、トランス酸を実質的に含まず、飽和脂肪酸の低減された、口どけ、ブルーム耐性に優れる非テンパリング型ハードバターに関し、またそれを利用したチョコレート類に関する。