【実施例】
【0018】
以下、本発明に係るクロマトグラフ用データ処理装置の一実施例について、
図5〜
図10を参照して説明する。
【0019】
図5は、本実施例によるデータ処理装置を備えるガスクロマトグラフ分析システムの概略構成図である。液体試料はシリンジ11等により試料気化室12に注入され、そこで気化されて、キャリアガス流路13から一定流量で供給されるキャリアガス流に乗ってカラム14内に送り込まれる。試料に含まれる各種成分は、カラム14を通過する間に時間的に分離されてカラム14から出て、順次、検出器15により検出される。検出器15による検出信号はデジタルデータに変換された後、逐次、データ処理装置16に送られ、そこで一旦、ハードディスク等の記憶部に格納される。1つの試料の分析が終了した後(或いは、連続に実行される複数の試料の分析が終了した後)、記憶部に格納されたデータが読み出され、クロマトグラムの作成、ピーク検出等の各種のデータ処理が行われる。
【0020】
なお、データ処理装置16の実体は専用又は汎用のコンピュータであり、所定の処理プログラムを動作させることにより、当該コンピュータをクロマトグラム作成部161、ベースライン決定部162、ピーク
トップ検出部163、ピーク幅算出部164として機能させる他、各種分析のためのデータ処理を実行させる。
【0021】
上記データ処理装置16において理論段数Nを算出する際の処理手順を、
図6のフローチャートに示す。まずデータ処理装置16内の記憶部から読み出したクロマトグラムデータに対し、クロマトグラム作成部161がクロマトグラムを作成し、ベースライン決定部162及びピーク
トップ検出部163が所定のアルゴリズムに基づいて、作成したクロマトグラムのベースライン及びピーク(単数又は複数)を決定・検出する(ステップS1、S2)。そして、各ピーク又は必要なピークのみに関し、ピーク開始時間Ts、ピークトップ時間Tp、ピーク終了時間Te、ピーク高さHp、ピーク面積S等、ピークを特徴付けるパラメータを算出する(ステップS3)。さらに、上記パラメータとクロマトグラムデータとを利用して、ピーク幅算出部164がピーク幅を算出し(ステップS4)、ピーク幅の算出方法に対応した式(1)や式(2)等の式により理論段数Nを求める(ステップS5)。
【0022】
本発明に係るデータ処理の特徴はステップS4のピーク幅算出処理にあるので、この処理に関し詳細に説明する。なお、ピーク幅の算出方法は、上記のように、大別して米国薬局方の方法と日本薬局方の方法との2種類があるが、まず米国薬局方の方法に準じてピーク幅Wを算出する手順を示す。
【0023】
[第1のピーク幅算出処理]
図7は、本実施例における第1のピーク幅算出処理のフローチャートである。以下、
図1及び
図8の説明図を参照しつつ、この第1のピーク幅算出処理の手順を説明する。
【0024】
本実施例における第1のピーク幅算出処理では、まず目的とするピークに対し、そのピーク開始時間からピーク終了時間までの間で、ピークトップPを挟んで前半部と後半部における変曲点を探索する(ステップS11)。なお、変曲点を探索する一般的なアルゴリズムは、次の通りである。
【0025】
ピークトップPから時間的にマイナス側に移動しつつ、ピーク波形上の各点において2次微分値及び1次微分値を算出し、2次微分値が0であって且つ1次微分値が0より大(つまり正値である)であるか否かを判定する。そして、この条件が満たされる際のクロマトグラム上の点を前半部の変曲点C1として採用する。後半部の変曲点C2については、ピークトップPから時間的にプラス側に移動する点と、1次微分値に関する判定条件が0より小(つまり負値である)となる点以外は同様である。なお、ピークトップPからではなく、ピークの裾野(ピーク開始点及びピーク終了点)から変曲点を探索する方法もある。また、2次微分値及び1次微分値の算出には、例えばサビツキ・ゴーレイ(Savitzky-Golay)の方法など既知のアルゴリズムを用いることができる。
【0026】
次に、変曲点がピークの前半部と後半部の両方で適切に検出されたか否かを判定する(ステップS12)。なお、ピーク形状が理想的なガウス分布に従う場合、変曲点はピーク高さHpの1/e
0.5(eは自然対数の底)倍の高さになることが分かっている(特開2004-184148号公報を参照)。従って、例えば検出された変曲点のベースラインからの高さが1/e
0.5Hpから所定範囲内に収まっているか否かにより、該変曲点が適切であるか否かを判定することができる。
【0027】
ステップS12において、
図1のように変曲点C1、C2がピークの前半部と後半部でそれぞれ適切に検出された場合は、各々の変曲点C1、C2において1次微分値を用いて接線を引き、該接線とベースラインとの交点B1、B2を検出する(ステップS1
6)。そして、両交点B1、B2間の距離をピーク幅Wとして採用する(ステップS1
7)。これらは従来通りの算出処理である。
【0028】
一方、
図8のように、ピークの前半部と後半部のいずれかの変曲点が適切に検出されない場合、このままではピーク幅を正しく算出することができない。このような場合、本実施例における第1のピーク幅算出処理では、検出された方の変曲点(
図8の例では点C2)に接線を引き、ベースラインBLとの交点B(又は交点B2)を検出すると共に、ピークトップPからベースラインBLに下ろした垂線とベースラインBLとの交点Qを検出する(ステップS13、S14)。そして、ステップS13及びS14で検出した2つの交点B、Q間の距離を求め、この距離の2倍の値をピーク幅Wとして採用する(ステップS15)。
これらステップS13〜S15の処理により、変曲点の一方が適切に検出されない場合であっても、ピーク幅Wを算出することが可能となる。
【0029】
[第2のピーク幅算出処理]
次に、日本薬局方の方法に準じてピーク高さの50%の位置におけるピーク幅W
0.5を算出する処理の手順を、
図2及び
図10の説明図を参照しつつ、
図9のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
本実施例における第2のピーク幅算出処理では、まず目的とするピークのベースラインBLからピークトップPまでの高さの50%の高さにベースラインBLに平行な直線PLを引き、該ピークとの交点を検出する(ステップS21)。そして、ステップS21で検出した交点が該ピークの前半部と後半部の両方において得られたか否かを判定する(ステップS22)。
【0031】
ステップS22において、ピークの前半部と後半部の両方において直線PLとの交点が存在する場合は、
図2に示すように各々の交点D1、D2の間の距離を求めることで、ピーク幅W
0.5を算出する(ステップS25)。
【0032】
一方、
図10のように、ピークの前半部と後半部のいずれかの交点が得られない場合、本実施例における第2のピーク幅算出処理では、ピークトップPから直線PLに下ろした垂線と該直線Sとの交点Rを求める(ステップS23)。そして、ステップS21で検出された方の交点(
図10の例では点D)と交点Rの間の距離を算出し、この距離の2倍の値をピーク幅W
0.5として採用する(ステップS24)。
これらステップS23及びS24における処理により、目的とするピークと直線PLとの交点のうちの一方が検出されない場合であっても、ピーク幅W
0.5を算出することが可能となる。
【0033】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎないから、上記記載の点以外についても、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更や修正を加えることができることは明らかである。例えば、本実施例では第2のピーク幅算出処理を、ベースラインからピークトップまでの高さの50%の高さにおけるピーク幅を求める場合について説明したが、より一般的にM%(0<M<100)としても同様の手順により算出することができる。
【0034】
また、特開2004-184148号公報では、ベースラインからピーク高さの1/e
0.5倍の高さにおけるピーク上の点を仮想変曲点として定め、ピークの前半部及び後半部の仮想変曲点における接線とベースラインとの2つの交点間の距離をピーク幅Wとして算出する方法を示しているが、このような算出方法に対しては、仮想変曲点の検出及び検出した仮想変曲点の判定については
図9のステップS21、S22と同様の処理で、判定後のピーク幅の算出については
図7のステップS13〜S17と同様の処理で、それぞれ行えば良い。