特許第5737438号(P5737438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5737438-ゴム組成物および空気入りタイヤ 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5737438
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20150528BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150528BHJP
   C08C 19/22 20060101ALI20150528BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20150528BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L15/00
   C08K3/00
   C08C19/22
   C08L45/00
   B60C1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-16821(P2014-16821)
(22)【出願日】2014年1月31日
【審査請求日】2014年12月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】桐野 美昭
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013-32471(JP,A)
【文献】 特表2008-517071(JP,A)
【文献】 特開2008-208163(JP,A)
【文献】 特開昭48-16996(JP,A)
【文献】 特公昭47-25712(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00−21/02
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ジエン系ポリマーを10質量%以上含むジエン系ゴムと、芳香族変性テルペン樹脂とを含有し、
前記変性ジエン系ポリマーが、未変性ジエン系ポリマー(A)を、カルボキシ基を有するニトロン化合物(B)によって得られる変性ポリマーであり、
前記芳香族変性テルペン樹脂の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜50質量部である、ゴム組成物。
【請求項2】
前記ニトロン化合物(B)が、下記式(b)で表されるニトロン化合物である、請求項1に記載のゴム組成物。
【化1】

(式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。)
【請求項3】
前記ニトロン化合物(B)が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記変性ジエン系ポリマーの変性率が、0.01〜2.0mol%である、請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
更に、白色充填剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ等に用いられるゴム組成物に含まれるポリマーとして、ニトロン基を有する化合物(ニトロン化合物)で変性された変性ポリマーが知られている。
例えば、特許文献1には、「変性ブタジエンゴムを5〜100重量%含むジエン系ゴム100重量部にシリカを10〜120重量部配合したゴム組成物であって、前記変性ブタジエンゴムが、シス含量が90%以上のブタジエンゴムを、窒素含有複素環を分子中に有するニトロン化合物で変性したものであることを特徴とするゴム組成物。」が開示されている([請求項1])。また、特許文献1には、ニトロン化合物により変性することで発熱性が低減することが示されている([0006]など)。なお、損失正接(損失係数)であるtanδ(60℃)は、値が小さいほど、低発熱で、低転がり抵抗であると評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−32471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、環境問題などの観点から、車両走行時の燃費性能のさらなる向上が求められ、それに伴い、変性によるさらなる低転がり抵抗性が要求されており、また、安全性などの観点から、高いレベルのウェットグリップ性能も要求されている。
このようななか、本発明者らが特許文献1に記載された「窒素含有複素環を分子中に有するニトロン化合物で変性した変性ブタジエンゴム」を含有するゴム組成物を検討したところ、変性剤であるニトロン化合物の種類によっては、高いレベルで低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能の両立を図ることが困難となる場合があることが明らかとなった。
【0005】
そこで、本発明は、優れた低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能を両立することができる空気入りタイヤを作製することができるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、カルボキシ基を有するニトロン化合物を用いて変性した変性ジエン系ポリマーとともに芳香族変性テルペン樹脂を特定量配合したゴム組成物を用いることで、優れた低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能を両立することができる空気入りタイヤを作製することができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
[1] 変性ジエン系ポリマーを10質量%以上含むジエン系ゴムと、芳香族変性テルペン樹脂とを含有し、
上記変性ジエン系ポリマーが、未変性ジエン系ポリマー(A)を、カルボキシ基を有するニトロン化合物(B)によって得られる変性ポリマーであり、
上記芳香族変性テルペン樹脂の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜50質量部である、ゴム組成物。
[2] 上記ニトロン化合物(B)が、下記式(b)で表されるニトロン化合物である、[1]に記載のゴム組成物。
【化1】

(式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。)
[3] 上記ニトロン化合物(B)が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、[1]または[2]に記載のゴム組成物。
[4] 上記変性ジエン系ポリマーの変性率が、0.01〜2.0mol%である、[1]〜[3]のいずれかに記載のゴム組成物。
[5] 更に、白色充填剤を含有する[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム組成物。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、優れた低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能を両立することができる空気入りタイヤを作製することができるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のゴム組成物、および、そのゴム組成物を用いた空気入りタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、変性ジエン系ポリマーを10質量%以上含むジエン系ゴムと、芳香族変性テルペン樹脂とを含有し、上記変性ジエン系ポリマーが、未変性ジエン系ポリマー(A)を、カルボキシ基を有するニトロン化合物(B)によって得られる変性ポリマーであり、上記芳香族変性テルペン樹脂の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜50質量部である、ゴム組成物である。
本発明のゴム組成物は、このような変性ジエン系ポリマーおよび芳香族変性テルペン樹脂を特定量含有しているため、空気入りタイヤとしたときに優れた低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能を両立することができる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0012】
まず、カルボキシ基を有するニトロン化合物により変性した変性ジエン系ポリマーを用いることにより、コンパウンドの調製の際に白色充填剤(特にシリカ)や他の充填剤(特にカーボンブラック)の取り込みが改善され、その結果、これらの充填剤の分散が良好となるため、低転がり抵抗性が良好となり、ウェットグリップ性が良好になると考えられる。
このことは、後述する比較例8が示すように、カルボキシ基と比較して極性の低いピリジン環を有するニトロン化合物で変性した変性スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を使用した場合には、低転がり抵抗性が劣ることからも推察される。
【0013】
以下、ジエン系ゴム、変性ジエン系ポリマーおよびその調製方法、芳香族変性テルペン樹脂、ならびに、白色充填剤および他の添加剤について詳述する。
【0014】
〔ジエン系ゴム〕
本発明のゴム組成物が含有するジエン系ゴムは、後述する変性ジエン系ポリマーを10質量%以上含み、主鎖に二重結合を有するものであれば特に限定されず、その具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明においては、ジエン系ゴムにおける後述する変性ジエン系ポリマーの含有量は、10〜100質量%であるのが好ましく、30〜100質量%であるのがより好ましい。なお、含有量について「100質量%」とは、ジエン系ゴムとして変性ジエン系ポリマーのみを配合した場合をいう。
また、変性ジエン系ポリマーとともにジエン系ゴムを併用する場合、このようなジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)および/または芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム(特に、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR))であるのが好ましい。
【0016】
〔変性ジエン系ポリマー〕
本発明のゴム組成物が含有する変性ジエン系ポリマーは、未変性ジエン系ポリマー(A)を、カルボキシ基を有するニトロン化合物(B)によって変性することで得られる変性ポリマーである。
【0017】
<未変性ジエン系ポリマー(A)>
上記未変性ジエン系ポリマー(A)は、炭素−炭素不飽和結合を有するポリマーである。
ここで、「炭素−炭素不飽和結合」とは、炭素−炭素二重結合(C=C)および/または炭素−炭素三重結合(C≡C)を含む概念である。
また、「未変性」とは、後述するニトロン化合物(B)により変性されていないことを意味するものであり、他の成分により変性(特に末端変性)されたポリマーを排除するものではない。
【0018】
このような未変性ジエン系ポリマー(A)としては、例えば、加硫可能なジエン系ゴム成分が挙げられ、その具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、後述するニトロン化合物(B)との相溶性が高く、反応性に優れるという理由から、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムであるのが好ましい。
また、上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴムとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。なかでも、得られるタイヤの耐摩耗性の観点から、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)であることが好ましい。
【0019】
<ニトロン化合物(B)>
上記ニトロン化合物(B)としては、少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有するニトロン(以下、便宜的に「カルボキシニトロン」ともいう。)であれば特に限定されないが、例えば、下記式(b)で表されるカルボキシニトロンが好適に用いられる。なお、ニトロンとは、酸素原子がシッフ塩基の窒素原子に結合した化合物の総称である。
【0020】
【化2】
【0021】
式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。
mが示す整数としては、ニトロン化合物を合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
nが示す整数としては、ニトロン化合物を合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
また、mとnとの合計(m+n)は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0022】
このような式(b)で表されるカルボキシニトロンとしては特に制限されないが、下記式(b1)で表されるN−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b2)で表されるN−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b3)で表されるN−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b4)で表されるN−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、下記式(b5)で表されるN−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、および、下記式(b6)で表されるN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物であることが好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
ニトロン化合物(B)の合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ヒドロキシアミノ基(−NHOH)を有する化合物と、アルデヒド基(−CHO)を有する化合物とを、ヒドロキシアミノ基とアルデヒド基とのモル比(−NHOH/−CHO)が1.0〜1.5となる量で、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等)下で、室温で1〜24時間撹拌することにより、両基が反応し、ニトロン基を有するニトロンを与える。
【0025】
<変性ジエン系ポリマーの調製方法>
変性ジエン系ポリマーの製造方法としては特に制限されないが、上述した未変性ジエン系ポリマー(A)とニトロン化合物(B)とを、例えば100〜200℃で1〜30分間混合する方法が挙げられる。
このとき、下記式(I)または下記式(II)に示すように、未変性ジエン系ポリマー(A)が有する共役ジエンに由来する二重結合とニトロン化合物(B)が有するニトロン基との間で、環化付加反応が起こり、五員環を与える。なお、下記式(I)は1,4−結合とニトロン化合物との反応を表し、下記式(II)は1,2−ビニル結合とニトロン化合物との反応を表す。
【0026】
【化4】
【0027】
ここで、未変性ジエン系ポリマー(A)に反応させるニトロン化合物(B)の量は、未変性ジエン系ポリマー(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0028】
本発明においては、このようにして調製される変性ジエン系ポリマーの変性率は特に制限されないが、低転がり抵抗性がより向上する理由から、0.01〜2.0mol%であることが好ましく、0.02〜1.5mol%であることがより好ましい。
ここで、変性率とは、未変性ジエン系ポリマー(A)が有する共役ジエンに由来する全ての二重結合のうち、ニトロン化合物(B)によって変性された割合(mol%)を表し、より具体的には、ニトロン化合物(B)による変性によって上記式(I)または上記式(II)の構造が形成された割合(mol%)を表す。変性率は、例えば、未変性ジエン系ポリマー(A)および変性ジエン系ポリマー(すなわち、変性前後のポリマー)のNMR測定を行うことで求めることができる。
【0029】
〔芳香族変性テルペン樹脂〕
本発明のゴム組成物が含有する芳香族変性テルペン樹脂は、テルペン類と芳香族化合物とを重合することにより得られる。
テルペン類としては、具体的には、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、カンフェンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、フェノール、インデンなどが挙げられる。
これらのうち、芳香族変性テルペン樹脂としては、芳香族化合物としてスチレン化合物を用いるスチレン変性テルペン樹脂が好ましい。
【0030】
本発明においては、芳香族変性テルペン樹脂は、軟化点が60〜180℃であるのが好ましく、100〜130℃であるのがより好ましい。なお芳香族変性テルペン樹脂の軟化点はJIS K6220−1(環球法)に基づき測定するものとする。
【0031】
このような芳香族変性テルペン樹脂としては、例えば、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO−125,同TO−115,同TO−105,同TR−105などの市販品を用いることができる。
【0032】
上記芳香族変性テルペン樹脂の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.10〜50質量部であるのが好ましく、1〜40質量部であるのがより好ましい。
【0033】
〔白色充填剤〕
本発明のゴム組成物は、タイヤのウェットグリップ性能がより向上する理由から、白色充填剤を含有するのが好ましい。
上記白色充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、シリカが好ましい。
【0034】
シリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記白色充填剤の含有量は特に制限されないが、上記ジエン系ゴム100質量部に対して8〜130質量部であるのが好ましく、25〜95質量部であるのがより好ましい。
【0036】
〔カーボンブラック〕
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを含有するのが好ましい。
上記カーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。
【0037】
上記カーボンブラックの含有量は特に制限されないが、上記ジエン系ゴム100質量部に対して25〜80質量部であることが好ましく、40〜60質量部であることがより好ましい。
【0038】
〔シランカップリング剤〕
本発明のゴム組成物は、上述した白色充填剤(特に、シリカ)を含有する場合、タイヤの補強性能を向上させる理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。
上記シランカップリング剤を配合する場合の含有量は、上記白色充填剤100質量部に対して、2〜16質量部であるのが好ましく、4〜10質量部であるのがより好ましい。
【0039】
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
これらのうち、補強性改善効果の観点から、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび/またはビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを使用することが好ましく、具体的には、例えば、Si69[ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド;エボニック・デグッサ社製]、Si75[ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド;エボニック・デグッサ社製]等が挙げられる。
【0041】
〔他の添加剤〕
本発明のゴム組成物は、上記ジエンゴム(上記変性ジエン系ポリマーを含む)および上記芳香族変性テルペン樹脂ならびに上記白色充填剤、上記カーボンブラックおよび上記シランカップリング剤以外に、炭酸カルシウムなどのフィラー;硫黄等の加硫剤;スルフェンアミド系、グアニジン系、チアゾール系、チオウレア系、チウラム系などの加硫促進剤;酸化亜鉛、ステアリン酸などの加硫促進助剤;ワックス;アロマオイル;老化防止剤;可塑剤;等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられている各種のその他添加剤を配合することができる。
これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、硫黄は0.5〜5質量部、加硫促進剤は0.1〜5質量部、加硫促進助剤は0.1〜10質量部、老化防止剤は0.5〜5質量部、ワックスは1〜10質量部、アロマオイルは5〜30質量部、それぞれ配合してもよい。
【0042】
〔ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を先に混合し(例えば、60〜160℃で混合し)、冷却してから、硫黄または加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0043】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物を使用した空気入りタイヤである。なかでも、本発明の組成物をタイヤトレッドに使用した空気入りタイヤであることが好ましい。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは図1に示す態様に限定されるものではない。
【0044】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0045】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<ニトロン化合物(カルボキシニトロン)の合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(2)で表されるテレフタルアルデヒド酸(30.0g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(1)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(3)で表されるニトロン化合物を得た(41.7g)。収率は86%であった。
【0048】
【化5】
【0049】
<ニトロン化合物(ピリジルニトロン)の合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(5)で表されるピリジルアルデヒド酸(21.4g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(4)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(6)で表されるピリジルニトロンを得た(39.0g)。収率は90%であった。
【0050】
【化6】
【0051】
<変性ジエン系ポリマー(変性SBR)の調製>
160℃のバンバリーミキサーに未変性のSBR(NIPOL 1739、日本ゼオン社製)を投入して2分間の素練りを行った後、先に合成したカルボキシニトロンまたはピリジルニトロンを下記第1表に示す割合(質量部)で配合し、5分間で混合し、変性SBR1〜5を調製した。なお、下記第1表中、モル比(ニトロン/SBR)とは、未変性のSBRにおけるブタジエン骨格が有する二重結合とニトロン化合物とのモル比を表す。
得られた変性SBR1〜5についてNMR測定を行い、変性率を求めた。具体的には、カルボキシニトロンを使用した例については、変性前後のポリマーについて、CDCl3を溶媒とした1H−NMR測定(CDCl3、400MHz、TMS)により、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピーク面積を測定し、変性率を算出した。また、ピリジルニトロンを使用した例についても、ピリジル基に由来するピーク面積を測定した以外は同様に変性率を算出した。なお、変性後のポリマー(変性ブタジエンゴム)の1H−NMR測定は、変性後の生成物をトルエンに溶解して、メタノールに沈殿させる精製を2回繰り返した後に、減圧下で乾燥したサンプルを用いて測定した。結果を下記第1表に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
<比較例1〜11および実施例1〜9>
下記第2表に示す成分を、下記第2表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第2表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、80℃のバンバリーミキサーで5分間混合した。次に、ロールを用いて、硫黄および加硫促進剤を混合し、ゴム組成物を得た。
【0054】
<評価用加硫ゴムシートの作製>
調製した各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で20分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0055】
<ウェットグリップ性能:tanδ(0℃)>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度0℃の損失正接tanδ(0℃)を測定した。
結果を第2表に示す。なお、結果は、変性SBRおよび芳香族変性テルペン樹脂を配合せずに調製した比較例1の結果を100%とするパーセンテージで表した。また、tanδ(0℃)の値が大きいほど、ウェットグリップ性能が優れる。
【0056】
<低転がり抵抗性:tanδ(60℃)>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、温度60℃の損失正接tanδ(60℃)を測定した。
結果を第2表に示す。なお、結果は、変性SBRおよび芳香族変性テルペン樹脂を配合せずに調製した比較例1の結果を100%とするパーセンテージで表した。また、tanδ(60℃)の値が小さいほど、低転がり抵抗性が優れる。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
上記第2表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・SBR:Nippol 1739〔ゴム分100質量部に対する油展量:37.5質量部、スチレン量:40質量%、日本ゼオン社製〕
・変性SBR1〜5:上記第1表に記載された変性SBR
・シリカ:ZEOSIL 165GR(ロディアシリカコリア社製)
・カーボンブラック:ショウブラック N339(キャボットジャパン社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号(正同化学社製)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(日油社製)
・老化防止剤:SANTOFLEX 6PPD(Soltia Europe社製)
・芳香族変性テルペン樹脂:YSレジン TO−125(ヤスハラケミカル社製)
・シランカップリング剤:Si69(エボニック・デグサ社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
・加硫促進剤(CZ):ノクセラー CZ−G(大内振興化学工業社製)
・加硫促進剤(DPG):ソクシノール D−G(住友化学社製)
【0060】
上記第2表に示す結果から明らかなように、変性ジエン系ポリマーおよび芳香族変性テルペン樹脂の少なくとも一方を配合していないゴム組成物は、ウェットグリップ性能が比較例1と同程度(110%程度以下)であるか、低転がり抵抗性に劣ることが分かった(比較例2〜7および9〜11)。
また、変性ジエン系ポリマーおよび芳香族変性テルペン樹脂を配合する場合であっても、ピリジルニトロンで変性した変性ジエン系ポリマーを用いると、ウェットグリップ性能は良好となるが、低転がり抵抗性に劣ることが分かった(比較例8)。
これに対し、カルボキシニトロンで変性した変性ジエン系ポリマーおよび芳香族変性テルペン樹脂を配合したゴム組成物は、いずれもウェットグリップ性能および低転がり抵抗性が良好となることが分かった(実施例1〜9)。
特に、実施例1〜4の対比から、カルボキシニトロンによる変性率の高い変性ジエン系ポリマーの方がウェットグリップ性能および低転がり抵抗性がより良好となることが分かった。
また、実施例2、5および6の対比から、ジエン系ゴムにおける変性ジエン系ポリマーの含有量が30質量%以上であると、低転がり抵抗性がより良好となることが分かった。
更に、実施例7〜9の対比から、芳香族変性テルペン樹脂の配合量が多い方が、ウェットグリップ性能がより良好となることが分かった。
【要約】
【課題】優れた低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能を両立することができる空気入りタイヤを作製することができるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】変性ジエン系ポリマーを10質量%以上含むジエン系ゴムと、芳香族変性テルペン樹脂とを含有し、
前記変性ジエン系ポリマーが、未変性ジエン系ポリマー(A)を、カルボキシ基を有するニトロン化合物(B)によって得られる変性ポリマーであり、
前記芳香族変性テルペン樹脂の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜50質量部である、ゴム組成物。
【選択図】なし
図1