(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を通じて、本発明の物品の製造方法およびそれによって得られる物品について詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明の物品の製造方法は、概略的には、基材の表面にシラン化合物を含む膜を前駆体膜として形成し、その後、この前駆体膜を後処理し、これにより、シラン系膜を形成する方法としても理解され得、この後処理として、マイクロ波照射を実施するものである。
【0014】
まず、基材を準備する。本発明に使用可能な基材は、例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、任意の適切な材料で構成され得、少なくとも前駆体膜を形成する直前に、基材の表面を構成する材料が反応性基(シラン化合物の加水分解後のSiに結合した基または水酸基と反応し得る基)を有する限り、特に限定されない。
【0015】
例えば、本発明のシラン系膜を有する物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO
2、SiO、ZrO
2、TiO
2、TiO、Ti
2O
3、Ti
2O
5、Al
2O
3、Ta
2O
5、CeO
2、MgO、Y
2O
3、SnO
2、MgF
2、WO
3などが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiO
2および/またはSiOを用いることが好ましい。本発明のシラン系膜を有する物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、耐電防止層、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜、ハードコーティング層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0016】
基材の形状は特に限定されない。また、シラン系膜を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0017】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア−ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0018】
また、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi−H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0019】
次に、かかる基材の表面に、Siに結合した加水分解可能な基を有するシラン化合物を含む前駆体膜を形成する。
【0020】
本発明で用いられるシラン化合物は、Siに結合した加水分解可能な基を有する限り、特に限定されないが、含フッ素シラン化合物が好ましい。また、含フッ素シラン化合物として、Siに結合した加水分解可能な基に加えて、パーフルオロポリエーテル基を有するものを用いることができる。
【0021】
上記シラン化合物としては、クロロシラン類、アルコキシシラン類、シランカップリング剤の群から選ばれる1種もしくは2種以上が使用されるが、クロロシラン類としては、例えば、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等が挙げられ、アルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられ、特に、アルコキシシラン類が好適に用いられる。
【0022】
上記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミルエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
Siに結合した加水分解可能な基およびパーフルオロポリエーテル基を有する含フッ素シラン化合物の例として、以下の一般式(1a)および(1b)のいずれかで表される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
【化1】
これら式中、Rf
1は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。好ましくは、上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基は、末端炭素原子がCF
2H−であり他のすべての炭素原子がフッ素により全置換されているフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。
a、b、cおよびsは、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロポリエーテルの3種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびsの和は少なくとも1、好ましくは1〜100である。添字a、b、cまたはsを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC
4F
8)−は、−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2CF
2)−、−(OCF
2CF(CF
3)CF
2)−、−(OCF
2CF
2CF(CF
3))−、−(OC(CF
3)
2CF
2)−、−(OCF
2C(CF
3)
2)−、−(OCF(CF
3)CF(CF
3))−、−(OCF(C
2F
6)CF
2)−および−(OCF
2CF(C
2F
6))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
3F
6)−は、−(OCF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2)−および−(OCF
2CF(CF
3))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
2F
4)−は、−(OCF
2CF
2)−および−(OCF(CF
3))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCF
2CF
2)−である。
dおよびfは0または1である。
eおよびgは0以上2以下の整数である。
mおよびlは、1以上10以下の整数である。
Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、好ましくはヨウ素原子、塩素原子、フッ素原子である。
Yは水素原子または低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。
Zはフッ素原子または低級フルオロアルキル基を表す。低級フルオロアルキル基は、例えば炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。代表的には、Zはフッ素原子であり、dおよびfは1である。
TおよびR
1はSiに結合した基である。
Tは水酸基または加水分解可能な基を表す。加水分解可能な基の例としては、−OA、−OCOA、−O−N=C(A)
2、−N(A)
2、−NHA、ハロゲン(これら式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜3のアルキル基を示す)などが挙げられる。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってもよい。
R
1は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜22のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
nは1以上3以下の整数である。
【0024】
Siに結合した加水分解可能な基およびパーフルオロポリエーテル基を有する含フッ素シラン化合物の別の例として、以下の一般式(2a)および(2b)のいずれかで表される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
【化2】
これら式中、Rf
2は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。好ましくは、上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基は、末端炭素原子がCF
2H−であり他のすべての炭素原子がフッ素により全置換されているフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。
PFPEは、−(OC
4F
8)
s−(OC
3F
6)
b−(OC
2F
4)
c−(OCF
2)
d−を表し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。a、b、cおよびsは、ポリマーの主骨格を構成する3種のパーフルオロポリエーテル類の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびsの和は少なくとも1、好ましくは1〜100である。添字a、b、cまたはsを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC
4F
8)−は、−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2CF
2)−、−(OCF
2CF(CF
3)CF
2)−、−(OCF
2CF
2CF(CF
3))−、−(OC(CF
3)
2CF
2)−、−(OCF
2C(CF
3)
2)−、−(OCF(CF
3)CF(CF
3))−、−(OCF(C
2F
6)CF
2)−および−(OCF
2CF(C
2F
6))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
3F
6)−は、−(OCF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2)−および−(OCF
2CF(CF
3))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
2F
4)−は、−(OCF
2CF
2)−および−(OCF(CF
3))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCF
2CF
2)−である。
TおよびR
2はSiに結合した基である。
Tは水酸基または加水分解可能な基を表す。加水分解可能な基の例としては、−OA、−OCOA、−O−N=C(A)
2、−N(A)
2、−NHA、ハロゲン(これら式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜3のアルキル基を示す)などが挙げられる。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってもよい。
R
2は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜22のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
nは1以上3以下の整数である。
【0025】
Xは、それぞれ独立して、2〜7価の有機基を表す。当該X基は、式(2a)および(2b)において、パーフルオロポリエーテル部(PFPE部)と、シラン部(−SiT
mR
23−m)とを連結するリンカーと解される。したがって、当該X基は、式(2a)および(2b)で表される化合物が安定に存在し得るものであれば、いずれの2〜7価の有機基であってもよい。また、X基の価数に応じて、式中のαは、1〜6の整数となり、例えば、Xが2価の有機基の場合、αは1であり、Xが7価の有機基の場合、αは6である。
【0026】
好ましい態様において、Xは2〜4価の有機基であり、αは1〜3であり、より好ましくは、Xは2価の有機基であり、αは1である。
【0027】
上記Xの例としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式:
−(R
31)
p−(X
1)
q−R
32−
[式中:
R
31は、−(CH
2)
s−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CH
2)
s−であり、
R
32は、−(CH
2)
t−またはo−、m−もしくはp−フェニレン基を表し、好ましくは−(CH
2)
t−であり、
X
1は、−(X
2)
r−を表し、
X
2は、各出現において、それぞれ独立して、−O−、−S−、o−、m−もしくはp−フェニレン基、−C(O)O−、−CONR
34−、−O−CONR
34−、−NR
34−、−Si(R
33)
2−、−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−および−(CH
2)
n−からなる群から選択される基を表し、
R
33は、各出現において、それぞれ独立して、フェニル基またはC
1−6アルキル基を表し、好ましくはC
1−6アルキル基、より好ましくはメチル基であり、
R
34は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC
1−6アルキル基(好ましくはメチル基)を表し、
mは、各出現において、それぞれ独立して、1〜100の整数、好ましくは1〜20の整数であり、
nは、各出現において、それぞれ独立して、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
sは、1〜20の整数、好ましくは1〜6の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらにより好ましくは1または2であり、
tは、1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数であり、
rは、1〜10の整数、好ましくは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数であり、
pは、0または1であり、
qは、0または1である。]
で表される基が挙げられる。
【0028】
好ましくは、上記Xは、
C
1−20アルキレン基、
−R
31−X
3−R
32−、または
−X
4−R
32−
[式中、R
31およびR
32は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0029】
より好ましくは、上記Xは、
C
1−20アルキレン基、
−(CH
2)
s−X
3−(CH
2)
t−、または
−X
4−(CH
2)
t−
[式中、sおよびtは、上記と同意義である。]
である。
【0030】
上記式中、X
3は、
−O−、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR
34−、
−O−CONR
34−、
−Si(R
33)
2−、
−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−、
−O−(CH
2)
u−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−、
−CONR
34−(CH
2)
u−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−、
−CONR
34−(CH
2)
v−N(R
34)−、または
−CONR
34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R
33)
2−
[式中、R
33、R
34、mおよびvは、上記と同意義であり、
uは1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]を表す。X
3は、好ましくは−O−である。
【0031】
上記式中、X
4は、
−S−、
−C(O)O−、
−CONR
34−、
−CONR
34−(CH
2)
u−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−、
−CONR
34−(CH
2)
v−N(R
34)−、または
−CONR
34−(o−、m−またはp−フェニレン)−Si(R
33)
2−
を表す。
【0032】
より好ましくは、上記Xは、
C
1−20アルキレン基、
−(CH
2)
s−X
3−(CH
2)
t−、または
−X
4−(CH
2)
t−
[式中、各記号は、上記と同意義である。]
であり得る。
【0033】
さらにより好ましくは、上記Xは、
C
1−20アルキレン基、
−(CH
2)
s−O−(CH
2)
t−、
−(CH
2)
s−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−(CH
2)
t−、
−(CH
2)
s−O−(CH
2)
u−(Si(R
33)
2O)
m−Si(R
33)
2−(CH
2)
t−、または
−(CH
2)
s−O−(CH
2)
t−Si(R
33)
2 −(CH
2)
u−Si(R
33)
2−(C
vH
2v)−
[式中、各記号は、上記と同意義であり、vは1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜3の整数である。]
である。
【0034】
上記式中、−(C
vH
2v)−は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、例えば、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH(CH
3)−、−CH(CH
3)CH
2−であり得る。
【0035】
上記X基は、フッ素原子、C
1−3アルキル基およびC
1−3フルオロアルキル基(好ましくは、C
1−3パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0036】
上記Xの具体的な例としては、例えば:
−CH
2O(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3−、
−CH
2O(CH
2)
6−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−(CH
2)
2−、
−(CH
2)
3−、
−(CH
2)
4−、
−(CH
2)
6−、
−CONH−(CH
2)
3−、
−CON(CH
3)−(CH
2)
3−、
−CON(Ph)−(CH
2)
3−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH
2)
6−、
−CON(CH
3)−(CH
2)
6−、
−CON(Ph)−(CH
2)
6−(式中、Phはフェニルを意味する)、
−CONH−(CH
2)
2NH(CH
2)
3−、
−CONH−(CH
2)
6NH(CH
2)
3−、
−CH
2O−CONH−(CH
2)
3−、
−CH
2O−CONH−(CH
2)
6−、
−S−(CH
2)
3−、
−(CH
2)
2S(CH
2)
3−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2OSi(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
2Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
3Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
10Si(CH
3)
2(CH
2)
2−、
−CONH−(CH
2)
3Si(CH
3)
2O(Si(CH
3)
2O)
20Si(CH
3)
2(CH
2)
2−
−C(O)O−(CH
2)
3−、
−C(O)O−(CH
2)
6−、
−CH
2−O−(CH
2)
3−Si(CH
3)
2 −(CH
2)
2−Si(CH
3)
2−(CH
2)
2−、
−CH
2−O−(CH
2)
3−Si(CH
3)
2 −(CH
2)
2−Si(CH
3)
2−CH(CH
3)−、
−CH
2−O−(CH
2)
3−Si(CH
3)
2 −(CH
2)
2−Si(CH
3)
2−(CH
2)
3−、
−CH
2−O−(CH
2)
3−Si(CH
3)
2 −(CH
2)
2−Si(CH
3)
2−CH(CH
3)−CH
2−、
【化3】
などが挙げられる。
【0037】
また、別のX基の例としては、例えば下記の基が挙げられる:
【化4】
【化5】
[式中、Dは、
−CH
2O(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3−、
−CF
2O(CH
2)
3−、
−(CH
2)
2−、
−(CH
2)
3−、
−(CH
2)
4−、
−CONH−(CH
2)
3−、
−CON(CH
3)−(CH
2)
3−、
−CON(Ph)−(CH
2)
3−(式中、Phはフェニルを意味する)、および
【化6】
から選択される基であり、
Eは、−(CH
2)
n−(nは2〜6の整数)であり、
Dは、式(2a)および(2b)の分子主鎖のPFPEに結合し、Eは、Si原子に結合する。]
【0038】
さらに別のX基の例として、下記の基が挙げられる:
【化7】
[式中、各X基において、Tのうち任意の1つは、式(2a)および(2b)の分子主鎖のPFPEに結合する以下の基:
−CH
2O(CH
2)
2−、
−CH
2O(CH
2)
3−、
−CF
2O(CH
2)
3−、
−(CH
2)
2−、
−(CH
2)
3−、
−(CH
2)
4−、
−CONH−(CH
2)
3−、
−CON(CH
3)−(CH
2)
3−、
−CON(Ph)−(CH
2)
3−(式中、Phはフェニルを意味する)、または
【化8】
であり、別の少なくとも1つのTは、式(2a)および(2b)の分子主鎖のSi原子に結合する−(CH
2)
n−(nは2〜6の整数)であり、存在する場合、残りは、それぞれ独立して、メチル基またはフェニル基である。
【0039】
好ましくは、式(2a)および(2b)で表される化合物は、下記式(2a’)および(2b’)で表される化合物である。
【化9】
【0040】
上記式中、Rf
2、T、R
2、n、s、a、bおよびcは、上記式(2a)および(2b)に関する記載と同意義である。
dおよびfは0または1である。
hおよびjは1または2である。
iおよびkは2以上20以下の整数である。
Zはフッ素原子または低級フルオロアルキル基を表す。低級フルオロアルキル基は、例えば炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。代表的には、Zはフッ素原子であり、dおよびfは1である。
【0041】
Siに結合した加水分解可能な基およびパーフルオロポリエーテル基を有する含フッ素シラン化合物の更に別の例として、以下の一般式(3)で表される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf
3[−L
3p−X−R
31−Si(OR
32)
3]
q ・・・(3)
式中、Rf
3はパーフルオロポリエーテル基を表し、好ましくは炭素数1〜300のパーフルオロポリエーテル基である:ただし、末端炭素原子に結合するフッ素原子の全部または一部は水素原子であってもよい。
pは0または1を表す。
qは1または2を表す。
R
31はアルキレン基を表し、好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基である。
−OR
32は、Siに結合したアルコキシ基であり、R
32はアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
L
3は−CO−を表す。
Xは−O−、−NR
33−、−S−、−SO
2−、−SO
2NR
33−および−NR
33CO−からなる群より選択される基、好ましくは−O−を表す。R
33は水素原子または炭素数3以下のアルキル基を表す。
【0042】
また、本発明に用いる含フッ素シラン化合物は、パーフルオロポリエーテル基を有していなくてもよい。Siに結合した加水分解可能な基を有する含フッ素シラン化合物の他の例として、以下の一般式(4)で表される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
(Rf
4−L
4)
rSiT
nR
44−n−r ・・・(4)
式中、(Rf
4−L
4)−、TおよびR
4はいずれもSiに結合した基である。
Rf
4は炭素数1〜20の直鎖、分岐、環状の含フッ素アルキル基、または炭素数6〜14の含フッ素芳香族基を表す。
L
4は炭素数10以下の2価の連結基を表す。2価の連結基は、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基であってよく、このアルキレン基は、直鎖、分枝、置換(例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アルキル基、アリール基等による)または無置換の、内部に連結基(例えばエーテル、エステル、アミド)を有していてよい。
Tは水酸基または加水分解可能な基を表す。加水分解可能な基の例としては、−OA、−OCOA、−O−N=C(A)
2、−N(A)
2、−NHA、ハロゲン(これら式中、Aは、置換または非置換の炭素数1〜3のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは−OA(アルコキシ基)である。Aの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってもよい。
R
4は水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜22のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
nおよびrは1以上3以下の整数であって、nおよびrの和は4以下である。
なお、rは0であってもよいが、撥水性、撥油性、防汚性、表面滑り性(または潤滑性)などの機能を発揮するには、rは1以上3以下の整数であることが好ましい。
【0043】
Siに結合した加水分解可能な基およびパーフルオロポリエーテル基を有する含フッ素シラン化合物の別の例として、以下の一般式(5a)および(5b)のいずれかで表される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
【化10】
【0044】
これら式中、Rf
5は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。好ましくは、上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基は、末端炭素原子がCF
2H−であり他のすべての炭素原子がフッ素により全置換されているフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。
【0045】
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC
4F
8)
a−(OC
3F
6)
b−(OC
2F
4)
c−(OCF
2)
d−を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1、好ましくは1〜100である。添え字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC
4F
8)−は、−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2CF
2)−、−(OCF
2CF(CF
3)CF
2)−、−(OCF
2CF
2CF(CF
3))−、−(OC(CF
3)
2CF
2)−、−(OCF
2C(CF
3)
2)−、−(OCF(CF
3)CF(CF
3))−、−(OCF(C
2F
6)CF
2)−および−(OCF
2CF(C
2F
6))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
3F
6)−は、−(OCF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2)−および−(OCF
2CF(CF
3))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
2F
4)−は、−(OCF
2CF
2)−および−(OCF(CF
3))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCF
2CF
2)−である。
【0046】
Xおよびαは、上記式(2a)および(2b)に関する記載と同意義である。
【0047】
好ましい態様において、Xは2〜4価の有機基であり、αは1〜3であり、より好ましくは、Xは2価の有機基であり、αは1である。
【0048】
Yは、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表す。加水分解可能な基は、上記R
12に関する記載と同様のものが挙げられる。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0049】
上記Yは、好ましくは、水酸基、−OR(式中、RはC
1−12アルキル基、好ましくはC
1−6アルキル基、より好ましくはC
1−3アルキル基を表す)、C
1−12アルキル基、C
2−12アルケニル基、C
2−12アルキニル基、またはフェニル基であり、より好ましくは、−OCH
3、−OCH
2CH
3、−OCH(CH
3)
2である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C
1−6アルキル基、C
2−6アルケニル基、およびC
2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0050】
上記Qは、各出現において、それぞれ独立して、−Z−SiR
13pR
143−pを表す。
【0051】
上記Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表す。好ましくは、Zは、C
1−6アルキレン基、−(CH
2)
s’−O−(CH
2)
t’−(式中、s’は、1〜6の整数であり、t’は、1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH
2)
u’−(式中、u’は、0〜6の整数である)であり、より好ましくはC
1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C
1−6アルキル基、C
2−6アルケニル基、およびC
2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0052】
上記R
13は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。好ましくは、R
13は、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC
1−3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0053】
上記R
14は、各出現において、それぞれ独立して、炭素数1〜22のアルキル基、またはQ’を表す。
【0055】
上記pは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0〜3の整数であって、pの総和は1以上である。各QまたはQ’において、上記pが0である場合、そのQまたはQ’中のSiは、水酸基および加水分解可能な基を有しないことになる。このような水酸基および加水分解可能な基が存在しない場合、基材との接着力が低く、耐久性が低くなる。したがって、QまたはQ’中の少なくとも1つのSiは、少なくとも1つの水酸基または加水分解可能な基を有している必要がある。換言すれば、上記pの総和は、少なくとも1以上でなければならない。
【0056】
パーフルオロポリエーテル基を有する分子主鎖の末端のSi原子に結合する、−Q−Q’
0−5鎖の末端のQ’(Q’が存在しない場合、Q)において、上記pは、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。ここに、末端とは、−Q−Q’
0−5鎖の主鎖の末端のみならず、分枝鎖における末端も含む。即ち、−Q−Q’
0−5鎖が分枝鎖を形成する場合、末端は複数存在する。
【0057】
上記QにおけるR
14の少なくとも1つがQ’である場合、Q中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在する。かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。なお、「Q中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」とは、Q中において直鎖状に連結される−Z−Si−の繰り返し数と等しくなる。
【0058】
上記kは、1〜3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。kを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い摩擦耐久性を得ることができる。
【0059】
使用するシラン化合物は、シラン系膜に所望される機能、具体的には、撥水性、撥油性、防汚性、表面滑り性(または潤滑性)などに応じて適宜選択してよい。
【0060】
具体的なシラン化合物としては、例えば、ダイキン工業株式会社のオプツール(登録商標)シリーズ(例えば、オプツールDSX−E、オプツールAES、オプツールUD500等)や信越化学工業株式会社のKY−130、KY−178、KY−185、また、ダウコーニング社のDC2634などを使用することができる。
【0061】
前駆体膜の形成は、上記のようなSiに結合した加水分解可能な基を有するシラン化合物を、単独でまたは該化合物を含む膜形成用組成物として、基材の表面を被覆するように適用することにより実施できる。
【0062】
上記膜形成用組成物は、含フッ素オイルとして理解され得るフルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロポリエーテル化合物を含んでいてもよい(以下、「含フッ素オイル」と言う)。含フッ素オイルは、シラン系膜の表面滑り性を一層向上させるのに寄与する。
【0063】
膜形成用組成物中、上記シラン系化合物の合計100質量部に対して、含フッ素オイルは、例えば0〜80質量部、好ましくは0〜40質量部で含まれ得る。
【0064】
かかる含フッ素オイルとしては、以下の一般式(6)で表される化合物(パーフルオロポリエーテル化合物)が挙げられる。
R
21-(OC
4F
8)
s’-(OC
3F
6)
a’-(OC
2F
4)
b’-(OCF
2)
c’-R
22 ・・・(6)
式中、R
21は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。好ましくは、上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基は、末端炭素原子がCF
2H−であり他のすべての炭素原子がフッ素により全置換されているフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。
R
22は、水素原子、フッ素原子、または1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基である。好ましくは、上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいアルキル基は、末端炭素原子がCF
2H−であり他のすべての炭素原子がフッ素により全置換されているフルオロアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびs’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロポリエーテルの3種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびs’の和は少なくとも1、好ましくは1〜100である。添字a’、b’、c’またはs’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC
4F
8)−は、−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2CF
2)−、−(OCF
2CF(CF
3)CF
2)−、−(OCF
2CF
2CF(CF
3))−、−(OC(CF
3)
2CF
2)−、−(OCF
2C(CF
3)
2)−、−(OCF(CF
3)CF(CF
3))−、−(OCF(C
2F
6)CF
2)−および−(OCF
2CF(C
2F
6))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
3F
6)−は、−(OCF
2CF
2CF
2)−、−(OCF(CF
3)CF
2)−および−(OCF
2CF(CF
3))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCF
2CF
2CF
2)−である。−(OC
2F
4)−は、−(OCF
2CF
2)−および−(OCF(CF
3))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCF
2CF
2)−である。
【0065】
上記一般式(6)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物の例として、以下の一般式(6a)および(6b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
R
21-(OCF
2CF
2CF
2)
a’’-R
22 ・・・(6a)
R
21-(OCF
2CF
2CF
2CF
2)
s’’-(OCF
2CF
2CF
2)
a’’-(OCF
2CF
2)
b’’-(OCF
2)
c’’-R
22 ・・・(6b)
これら式中、R
21およびR
22は上記の通りであり;式(6a)中、a’’は1以上100以下の整数であり;式(6b)中、a’’およびs’’はそれぞれ独立して0以上30以下の整数であり、b’’およびc’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。これら式中、添字a’’、b’’、c’’またはs’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0066】
一般式(6a)で示される化合物および一般式(6b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(6a)で示される化合物よりも、一般式(6b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(6a)で表される化合物と、一般式(6b)で表される化合物とを、質量比1:1〜1:30で使用することが好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れたシラン系膜を得ることができる。
【0067】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf
1−F(式中、Rf
1は上記の通りである)で表される化合物であってよい。Rf
1−Fで表される化合物は、上記一般式(1a)、(1b)、(2a)、(2b)、(3)および(4)のいずれかで表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0068】
含フッ素オイルは、1000〜30000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。代表的には、一般式(6a)で表される化合物の場合には、2000〜6000の平均分子量を有することが好ましく、一般式(6b)で表される化合物の場合には、8000〜30000の平均分子量を有することが好ましい。これら平均分子量の範囲では、高い表面滑り性を得ることができる。
【0069】
また、上記膜形成用組成物は、更に、シリコーンオイルとして理解され得るシリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)を含んでいてもよい。シリコーンオイルは、シラン系膜の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0070】
膜形成用組成物中、上記シラン化合物の合計100質量部に対して、シリコーンオイルは、例えば0〜300質量部、好ましくは50〜200質量部で含まれ得る。
【0071】
かかるシリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0072】
前駆体膜の被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できるが、生産性が高いことから湿潤被覆法が好ましい。
【0073】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0074】
乾燥被覆法の例としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)および類似の方法が挙げられる。真空蒸着法の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0075】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0076】
湿潤被覆法を使用する場合、シラン化合物(単独または該化合物を含む組成物の形態であってよい)は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。シラン化合物または組成物の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:
炭素数5〜12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素;ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(C
3F
7OCH
3)、パーフルオロブチルメチルエーテル(C
4F
9OCH
3)、パーフルオロブチルエチルエーテル(C
4F
9OC
2H
5)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい))など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。なかでも、ヒドロフルオロエーテルが好ましく、パーフルオロブチルメチルエーテル(C
4F
9OCH
3)および/またはパーフルオロブチルエチルエーテル(C
4F
9OC
2H
5)が特に好ましい。
【0077】
前駆体膜の形成は、前駆体膜中でシラン化合物が、加水分解および脱水縮合のための触媒と共に存在するように実施することもできる。簡便には、湿潤被覆法による場合、シラン化合物(単独または該化合物を含む組成物の形態であってよい)を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、シラン化合物の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加したシラン化合物をそのまま真空蒸着処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体に、触媒添加したシラン化合物を含浸させたペレット状物質を用いて真空蒸着処理をしてもよい。
【0078】
触媒には、任意の適切な酸または塩基を使用できる。酸触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸などを使用できる。また、塩基触媒としては、例えばアンモニア、有機アミン類などを使用できる。
【0079】
以上のようにして前駆体膜を基材表面に形成した後、該前駆体膜が形成された基材にマイクロ波を照射する。
【0080】
本発明で照射するマイクロ波の周波数は、特に限定されないが、好ましくは300MHz〜300GHzであり、例えば、ITU(International Telecommunication Union)で規定される中心周波数が433.92MHz、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、24.125GHz、61.25GHz、122.5GHz、または245GHzのマイクロ波が用いられ、代表的には中心周波数2.45GHzのマイクロ波が用いられる。当該周波数を用いることにより、前駆体膜が形成された基材、および加水分解可能な基に作用する水分子が効率的に加熱され、シラン系膜の形成が促進される。
【0081】
本発明で照射するマイクロ波の出力は、特に限定されないが、好ましくは100W〜20kW、より好ましくは5〜15kW、特に好ましくは10kWである。出力を100W以上とすることにより、前駆体膜が効率的に加熱され、シラン系膜の形成が促進される。また、出力を20kW以下とすることにより、基材へのダメージを抑えることができる。
【0082】
本発明で照射するマイクロ波の照射時間は、マイクロ波の出力、前駆体膜の成分、水分の有無(後述する)等に応じて変化し得るが、一般的には0.1〜10分、好ましくは1〜3分である。本発明の方法は、このような短時間でシラン系膜を形成できることから、工業的に有利である。
【0083】
また、前駆体膜にマイクロ波を照射する前あるいは照射中に、前駆体膜に水分を供給してもよい。前駆体膜に水分を供給することにより、前駆体膜の加水分解可能な基の加水分解が促進され、高い摩擦耐久性を有するシラン系膜を得ることができる。
【0084】
前駆体膜に水分を供給する方法は、特に限定されず、例えば、水分の噴霧、水蒸気(スチーム)、過熱水蒸気の吹付けなどの方法が挙げられる。
【0085】
また、系内を、例えば80℃〜250℃、好ましくは80℃〜180℃、さらに好ましくは100℃〜150℃に維持することにより、基材および形成したシラン系膜に水滴が付着することを防止することができ、これによりシラン系膜形成後の乾燥工程を省くことができる。
【0086】
以上により、基材の表面に、前駆体膜に由来するシラン系膜が形成される。これにより得られるシラン系膜は、高い摩擦耐久性を有する。また、このシラン系膜は、高い摩擦耐久性に加えて、使用するシラン系化合物にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れが付くのを防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0087】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、本発明の方法によりシラン系膜の摩擦耐久性が向上する理由は次のように考えられる。シラン系膜の形成においては、前駆体膜に熱を加えることにより膜形成を促進することができる。しかしながら、一般的な乾燥空気を媒体とする加熱では、熱の伝導が効率的でなく、また温度のムラも生じやすい。一方、本発明の方法では、マイクロ波を照射することにより、前駆体膜が形成された基材が、直接的かつ均一に同時加熱されるので、非常に効率的に膜形成反応が進行する。また、前駆体膜に水分を供給することにより、前駆体膜のSiに結合した加水分解可能な基に水が作用して速やかに加水分解が生じる。そして、前駆体膜が形成された基材はマイクロ波により加熱されているので、シラン化合物同士の脱水縮合およびシラン化合物と基材の表面に存在する反応性基(例えば水酸基など)との間の反応(例えば脱水縮合)が速やかに生じる。この結果、シラン系膜そのものの膜強度およびシラン系膜と基材の表面との間の付着強度が増加し、よって、高い摩擦耐久性を有するシラン系膜が得られるものと考えられる。
【0088】
これによって得られるシラン系膜を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材の例には、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;PDP、LCDなどのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;プルーレイ(Blu-ray)(登録商標)ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバーなど。
【0089】
シラン系膜の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、シラン系膜の厚さは、1〜30nm、好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0090】
以上、本発明の製造方法によって得られるシラン系膜を有する物品について説明したが、これらは上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の物品の製造方法について、実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
・膜形成用組成物の調製
下記の式で表される化合物(分子量約4000)を主成分とする組成物0.1重量部と、ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200(パーフルオロブチルエーテル))99.9重量部とを混合して、膜形成用組成物を調製した。
【化11】
(式中、nnの平均値は20であり、mの平均値は3である。)
【0093】
・基材および前処理
基材として化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.55mm、平面寸法55mm×100mm)を用いた。基材(化学強化ガラス)を、大気圧プラズマ発生装置(エナーコン社プラズマ処理装置「Dyne-A-Mite IT」)を用いて、基材表面をプラズマ処理により洗浄および活性化した。
【0094】
・前駆体膜の形成
2流体ノズルを搭載したスプレー塗布装置(東邦化成社製)を用いて、上記で調製した膜形成用組成物を基材の表面に均一にスプレー塗布した。膜形成用組成物の塗布量は、基材1枚に対して0.2ml(塗布液流量3.0ml/min)とした。これにより、基材表面に前駆体膜を形成した。
【0095】
・後処理
次に、上記の前駆体膜が形成された基材を、マイクロ波発生装置(ミクロ電子社製)中に設置した。次いで、周波数2.45GHz、出力10kWのマイクロ波を1分間照射し、その後、装置から基材を取り出した。このようにして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0096】
(実施例2)
後処理の際に、水蒸気(流量40L/h)および熱風(120℃)を導入しながらマイクロ波を照射したこと以外は、実施例1と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0097】
(実施例3)
膜形成用組成物の調製に用いる含フッ素シラン化合物として、下記式で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。ただし、nの平均値は20である。
CF
3CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)
n CF
2CF
2CH
2OCH
2CH
2CH
2Si[CH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
3]
3
【0098】
(実施例4)
後処理の際に、水蒸気(流量40L/h)および熱風(120℃)を導入しながらマイクロ波を照射したこと以外は、実施例3と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0099】
(実施例5)
膜形成用組成物の調製に用いる含フッ素シラン化合物として、下記式で示される化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。ただしnの平均値は15、mの平均値は16である。
CF
3O(CF
2CF
2O)
n (CF
2O)
m CF
2CH
2OCH
2CH
2CH
2Si[CH
2CH
2CH
2Si(OCH
3)
3]
3
【0100】
(実施例6)
後処理の際に、水蒸気(流量40L/h)および熱風(120℃)を導入しながらマイクロ波を照射したこと以外は、実施例5と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0101】
(比較例1)
後処理が従来のように通常乾燥であること、すなわち、前駆体膜が形成された基材を、電気炉において120℃で1時間加熱して乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0102】
(比較例2)
後処理が従来のように通常乾燥であること、すなわち、前駆体膜が形成された基材を、電気炉において120℃で1時間加熱して乾燥したこと以外は、実施例3と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0103】
(比較例3)
後処理が従来のように通常乾燥であること、すなわち、前駆体膜が形成された基材を、電気炉において120℃で1時間加熱して乾燥したこと以外は、実施例5と同様にして前駆体膜に由来する含フッ素シラン系膜を基材表面に形成した。
【0104】
実施例および比較例の後処理条件を下記表1にまとめて示す。
【0105】
【表1】
【0106】
(評価)
以上の実施例および比較例にて基材表面に形成された含フッ素シラン系膜について、水の静的接触角を測定した。水の静的接触角は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水1μLにて実施した。
【0107】
まず、初期評価として、含フッ素シラン系膜形成後、膜表面に未だ何も触れていない状態で、水の静的接触角を測定した(摩擦回数 ゼロ回)。
【0108】
その後、摩擦耐久性評価として、スチールウール摩擦耐久性評価を実施した。具体的には、含フッ素シラン系膜を形成した基材を水平配置し、スチールウール(番手♯0000、寸法10mm×10mm×5mm)を含フッ素シラン系膜の露出上面に接触させ、その上に1000gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態でスチールウールを140mm/秒の速度で往復させた。往復回数2000回毎に水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。結果を表2に示す。また、同じ含フッ素シラン化合物を用いる、実施例1および2ならびに比較例1の結果を
図1に、実施例3および4ならびに比較例2の結果を
図2に、実施例5および6ならびに比較例3の結果を
図3にそれぞれ示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2および
図1〜3から理解されるように、150℃の乾燥空気での通常乾燥により後処理した場合と比較して、マイクロ波を用いて後処理することにより、含フッ素シラン系膜の摩擦耐久性が大幅に向上することが確認された。
【0111】
これは、通常乾燥が乾燥空気を媒体として基材を加熱するのに対して、マイクロ波は基材そのものを直接加熱するため、効率よく反応が進行するためと考えられる。
【0112】
また、マイクロ波と水蒸気を組み合わせた実施例2、4および6は、水蒸気を用いない実施例1、3および5と比較して、含フッ素シラン系膜の摩擦耐久性がさらに向上することが確認された。
【0113】
これは、水蒸気を用いることにより前駆体膜の加水分解可能な基に水が作用して速やかに加水分解が進行し、強固な含フッ素シラン系膜が形成されるためと考えられる。