(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
10.0以上12.0以下原子%のSi、1.5以上7.5未満原子%のTi、2.0より多く8.0以下原子%のTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、
Ni及びTaを含む第2相分散物並びにNi固溶体相のいずれか一方又は双方と、L12相とからなる組織又はL12相からなる組織を有するNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする耐熱軸受。
10.0以上12.0以下原子%のSi、1.5以上7.5未満原子%のTi、2.0より多く8.0以下原子%のTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有する鋳塊を作製する工程と、
前記鋳塊に対して950〜1100℃の温度で均質化熱処理を行う工程と、
前記均質化熱処理がされた鋳塊で軸受を形成する工程とを備える耐熱軸受の製造方法。
10.0以上12.0以下原子%のSi、1.5以上7.5未満原子%のTi、2.0より多く8.0以下原子%のTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有する鋳塊を作製する工程と、
前記鋳塊で軸受を形成する工程と、
形成された軸受に対して950〜1100℃の温度で均質化熱処理を行う工程とを備える耐熱軸受の製造方法。
10.0以上12.0以下原子%のSi、1.0以上9.0以下原子%のTi、0.5以上8.5以下原子%のAl、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、L12相からなる組織、又はNi固溶体相とL12相とからなる組織を有するNi3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする耐熱軸受。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
この発明の耐熱軸受は、1つの観点に従うと、10.0以上12.0以下原子%のSi、1.5以上7.5未満原子%のTi、2.0より多く8.0以下原子%のTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、Ni及びTaを含む第2相分散物並びにNi固溶体相のいずれか一方又は双方と、L1
2相とからなる組織又はL1
2相からなる組織を有するNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、高温で安定して動作する軸受が提供される。以下、この発明に係る軸受を「Taが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の軸受」と呼ぶ。
なお、この明細書において、Ni
3(Si,Ti)を基本組成とする金属間化合物合金を「Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金」と呼ぶ。
【0013】
Taが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の軸受は、その実施形態において、前記Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が、10.0以上12.0以下原子%のSi、4.5以上6.5以下原子%のTi、3.0以上5.0以下原子%のTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、Ni固溶体相とL1
2相とからなる組織又はL1
2相からなる組織を有してもよい。また、実施形態において、前記Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金がL1
2相からなる単相組織を有してもよい。さらに、実施形態において、前記Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が、合計で19.0〜21.5原子%のSi、Ti及びTa、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有してもよい。
以下、各組成の含有量について詳述する。なお、この明細書において「〜」の記載は、特に記載がない限り、数値範囲の両端を含む。
【0014】
Niの含有量は、例えば,78.5〜81.0原子%であり、好ましくは,78.5〜80.5原子%である。Niの具体的な含有量は、例えば,78.5,79.0,79.5,80.0,80.5又は81.0原子%である。Niの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0015】
Siの含有量は、7.5〜12.5原子%であり、好ましくは、10.0〜12.0原子%である。Siの具体的な含有量は、例えば,7.5,8.0,8.5,9.0,9.5,10.0,10.5,11.0,11.5,12.0又は12.5原子%である。Siの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0016】
Tiの含有量は、1.5以上7.5未満原子%であり、好ましくは、4.5〜6.5原子%である。Tiの具体的な含有量は、例えば,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0又は7.5原子%である。Tiの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0017】
Taの含有量は、2.0より多く8.0以下原子%であり、好ましくは、3.0〜5.0原子%である。Taの具体的な含有量は、例えば,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5又は8.0原子%である。Taの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0018】
また、Ti及びTaの含有量は、Ti及びTaが合計で9.0〜11.5原子%であってもよい。例えば、Ti及びTaの含有量の合計は、9.0,9.5,10.0,10.5,11.0又は11.5原子%である。Ti及びTaの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0019】
また、Si,Ti及びTaは、合計で19.0〜21.5原子%であり、好ましくは,19.5〜21.5原子%である。
【0020】
上記各元素の含有量は、Ni,Si,Ti及びTaの含有量の合計が100原子%になるように適宜調整される。
【0021】
Bの含有量は、25〜500重量ppm,好ましくは25〜100重量ppmである。Bの具体的な含有量は、例えば,25,40,50,60,75,100,150,200,300,400又は500重量ppmである。Bの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0022】
なお、この軸受の材料であるNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、実質的にNi、Si、Ti、B及びTaの元素からなってもよく、これ以外の不純物元素を含んでいてもよい。例えば、上記不純物元素は不可避的不純物であり、実質的にNi、Si、Ti、B及びTaの元素のみからなるNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金であってもよい。
【0023】
以上のような材料で形成されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、例えば、室温においてビッカース硬さが430〜510であり、好ましくは450〜490である。具体的には例えば、430,440,450,460,470,480,490である。室温におけるビッカース硬さは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲であってよい。
また、500℃におけるビッカース硬さが、440〜490であってもよい。
【0024】
また、この軸受の材料のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、Ni及びTaを含む第2相分散物並びにNi固溶体相のいずれか一方又は双方と、L1
2相とからなる組織又はL1
2相からなる組織を有する。
ここで、Ni及びTaを含む第2相分散物並びにNi固溶体相のいずれか一方又は双方と、L1
2相とからなる組織又はL1
2相からなる組織とは、(1)Ni及びTaを含む第2相分散物、Ni固溶体相及びL1
2相からなる組織、(2)Ni及びTaを含む第2相分散物及びL1
2相からなる組織、(3)Ni固溶体相及びL1
2相からなる組織、(4)L1
2相からなる組織、のいずれかの組織である。Ni及びTaを含む第2相分散物は、例えば、Ni
3Taである。
【0025】
このNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、好ましくは、L1
2相からなる単相組織、又はL1
2相とNi固溶体相からなる組織を有する。Ni
3Taのような硬質第二相が分散すると剥離やクラック導入の起点となりやすいため、L1
2相単相、又はNi固溶体相のような、マトリックスと硬さがあまり違わない相として存在する方が軸受の形成に好ましいからである。L1
2相は、Taを固溶したNi
3(Si,Ti)相であり、Ni固溶体相は、fcc構造である。
【0026】
また、より好ましくはL1
2相からなる単相組織を有する。硬さの増加伴い耐摩耗性が向上するからであり、このような組織であれば硬さが向上する。また、軸受の変形や寸法精度による寿命の点でもL1
2相からなる単相組織が好ましい。
なお、軸受の製造性・加工性(例えば、転造加工性)を向上させるために、L1
2相とNi固溶体相からなる組織を有するNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で軸受を形成してもよい。
【0027】
(第2実施形態)
また、この発明の他の耐熱軸受は、他の観点に従うと、10.0以上12.0以下原子%のSi、1.0以上9.0以下原子%のTi、0.5以上8.5以下原子%のAl、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、L1
2相からなる組織、又はNi固溶体相とL1
2相とからなる組織を有するNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成されたことを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、高温で安定して動作する軸受が提供される。以下、この発明に係る軸受を「Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の軸受」と呼ぶ。
【0029】
Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の軸受は、その実施形態において、前記Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が、10.0以上12.0以下原子%のSi、6.5以上8.5以下原子%のTi、1.0以上3.0以下原子%のAl、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有し、L1
2相からなる組織からなる組織をしてもよい。さらに、実施形態において、前記Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が、合計で19.0〜21.5原子%のSi、Ti及びAl、残部が不純物を除きNiからなる合計100原子%の組成を有する金属間化合物の重量に対して25以上500以下重量ppmのBを含有してもよい。
以下、第1実施形態と同様に、Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の各組成の含有量について詳述する。
【0030】
Niの含有量は、例えば,78.5〜81.0原子%であり、好ましくは,78.5〜80.5原子%である。Niの具体的な含有量は、例えば,78.5,79.0,79.5,80.0,80.5又は81.0原子%である。Niの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0031】
Siの含有量は、7.5〜12.5原子%であり、好ましくは、10.0〜12.0原子%である。Siの具体的な含有量は、例えば,7.5,8.0,8.5,9.0,9.5,10.0,10.5,11.0,11.5,12.0又は12.5原子%である。Siの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0032】
Tiの含有量は、1.0〜9.0原子%であり、好ましくは、6.5〜8.5原子%である。Tiの具体的な含有量は、例えば,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5,8.0,8.5又は9.0原子%である。Tiの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0033】
Alの含有量は、0.5〜8.5原子%であり、好ましくは、1.0〜3.0原子%である。Alの具体的な含有量は、例えば,0.5,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5,8.0又は8.5原子%である。Alの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0034】
また、Ti及びAlの含有量は、Ti及びAlが合計で9.0〜11.5原子%であってもよい。例えば、Ti及びAlの含有量の合計は、9.0,9.5,10.0,10.5,11.0又は11.5原子%である。Ti及びAlの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0035】
また、Si,Ti及びAlは、合計で19.0〜21.5原子%であり、好ましくは,19.5〜21.5原子%である。
【0036】
上記各元素の含有量は、Ni,Si,Ti及びAlの含有量の合計が100原子%になるように適宜調整される。
【0037】
Bの含有量は、25〜500重量ppm,好ましくは,25〜100重量ppmである。Bの具体的な含有量は、例えば,25,40,50,60,75,100,150,200,300,400又は500重量ppmである。Bの含有量の範囲は、ここで例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0038】
なお、この軸受の材料であるNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、実質的にNi、Si、Ti、B及びAlの元素からなってもよく、これ以外の不純物元素を含んでいてもよい。例えば、上記不純物元素は不可避的不純物であり、実質的にNi、Si、Ti、B及びAlの元素のみからなるNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金であってもよい。
【0039】
以上のような、Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、例えば、室温においてビッカース硬さが370〜440である。また、500〜600℃におけるビッカース硬さが、例えば、360〜400である。
【0040】
また、Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、L1
2相からなる組織、又はNi固溶体相とL1
2相とからなる組織を有する。この組織は、好ましくはL1
2相からなる単相組織を有する。このような組織であれば、Alが添加されていない基本組成のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金と同様の高強度特性が維持され、かつ延性が改善される。また耐酸化性も顕著に向上する。さらに軸受の変形や寸法精度による寿命の点でもL1
2相からなる単相組織が好ましい。
なお、Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、L1
2相からなる単相組織でも軸受の製造性・加工性(例えば、転造加工性)に優れるが、さらに製造性・加工性を向上させるため、L1
2相とNi固溶体相からなる組織を有するNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で軸受を形成してもよい。
【0041】
(軸受の構成)
第1及び第2の実施形態で説明した軸受(Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の軸受)は、転がり軸受であってもよいし、また、すべり軸受であってもよい。転がり軸受やすべり軸受であれば特に限定されないが、例えば、玉軸受、ころ軸受、ジャーナル軸受であってもよいし、ラジアル軸受やスラスト軸受であってもよい。
【0042】
例えば、転がり軸受を挙げると、他の実施形態に係る軸受は、内輪と、外輪と、内輪と外輪の間で転動する転動体とから構成され、前記転動体がセラミック材料で形成され、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方(つまり、一方又は両方)が、前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成される。
このような転がり軸受は、高温で硬さを維持できる材料により内輪、外輪及び転動体が形成されているので、上記の構造の軸受と同様に、摩耗しにくい構造となり、その結果、高温で安定して動作することができる。
【0043】
図1に、具体的な例を示す。
図1は、内輪及び外輪の両方が前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された転がり軸受(玉軸受)の断面図である。
図1に示す転がり軸受1は、内周面と外周面とを有する内輪2と、内周面と外周面とを有し、前記内輪2の外周面に内周面を向けて配置された外輪3と、内輪2の外周面と外輪3の内周面との間で転動する転動体4と、転動体4が転動可能な状態で転動体4を保持する保持器5とで構成されている。内輪2の外周面と外輪3の内周面にはそれぞれ転動体が転動する軌道面2A、3Aが設けられ、この軌道面2A、3Aで転動体4が転動するように所定の軸受内部すきまで内輪2と外輪3が設置されている。
【0044】
この転がり軸受1では、内輪2、外輪3は前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成され、転動体4はセラミック材料で形成されている。軌道面が高温で硬さを維持できる材料であればよいので、例えば、この内輪2及び外輪3は、例えば、内輪2と外輪3の軌道面2A、3Aが前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成され、軌道面以外が他の合金で形成されてもよい。また、内輪2、外輪3のいずれか一方、又は軌道面2A、3Aのいずれか一方は、前記Ta又はAlが添加されたNi基金属間化合物合金で形成されてもよい。
【0045】
なお、保持器4には、潤滑機能を持った材料で形成された保持器が好ましい。例えば、グラファイト、軟質金属、セラミック又はこれらの複合体が好ましい。
【0046】
また、別の例として、すべり軸受を挙げると、この実施形態に係る軸受は、軸を支える部分(例えば、すべり面)が前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成される。このようなNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、高温であっても硬さを維持するので、軸を支える部分が摩耗しにくい構造となり、その結果、この構造のすべり軸受は、高温で安定して動作することができる。
【0047】
図2に、この実施形態に係る軸受の変形例としてすべり軸受の例を示す。
図2は、すべり軸受の断面図である。
図2に示すすべり軸受1Aは、いわゆる1層構造(ソリッドタイプ)のジャーナル軸受である。円筒形状に形成され、その内周面にすべり面2Bが形成されている。このすべり軸受では、前記Ta又はAlが添加されたNi基金属間化合物合金ですべり面2Bを含む軸受全体が形成されている。前記Ta又はAlが添加されたNi基金属間化合物合金で軸受全体が形成されてもよいが、例えば、内周面を構成し、前記Ta又はAlが添加されたNi基金属間化合物合金で形成された合金層と、その外周側に鋼で形成された裏金層で構成される、いわゆる2層構造(バイメタルタイプ)のすべり軸受であってもよい。
【0048】
このように、内輪や外輪などの軌道部品がNi基金属間化合物合金で形成されることが好ましく、転動体がセラミック材料で形成されることが好ましい。ここで、軌道部品とは、軌道面や軌道溝を備える軌道輪をいい、たとえば、転がり軸受の場合、内輪、外輪が該当し、スラスト軸受の場合、軌道盤がこれに該当する。
【0049】
転動体は、線膨張係数が小さく、凝着や損傷が生じにくいものが好ましいので、転動体の材料としてセラミック材料が好ましい。具体的には、例えば、窒化ケイ素が好ましい。また、炭化ケイ素、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)等の材料であってもよい。このように、転動体がセラミック材料で形成されると、高温で安定して動作する軸受が提供できる。
【0050】
(軸受の耐熱特性)
第1及び第2の実施形態で説明した軸受(前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された軸受)は、耐熱特性に優れる。すなわち、耐熱軸受として使用できる。ここで、耐熱軸受とは、例えば、500℃〜600℃の温度で使用される軸受である。後述するインゴットの高温におけるビッカース硬さの値からすると、この軸受は、300℃〜800℃で使用されてもよい。例えば、300℃,350℃,400℃,450℃,500℃,550℃,600℃,650℃,700℃,750℃,800℃を挙げることができ、ここに例示した数値のいずれか2つの範囲内であってもよい。
【0051】
(軸受の製造方法)
まず、前記Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の鋳塊を作製する。例えば、上記実施形態の組成になるように各元素の地金を用意し、その後、これらを溶解炉で溶融し鋳型に注入して凝固させる。
【0052】
ここで高温強度を向上させ、変形の均一性を実現するため、好ましくは凝固した鋳塊に対してさらに熱処理を行う。この熱処理は、不均一な凝固組織を除去するために行う熱処理(均質化熱処理)であり、その条件は、特に限定されない。熱処理は、例えば、真空中において、950℃〜1100℃の温度で24〜48時間処理してもよい。この熱処理により、凝固速度に起因する凝固ひずみや大型の鋳塊で発生する鋳造組織の不均一性を解消することができる。また、この熱処理により、fcc構造のNi固溶体相を低減でき、ビッカース硬さを向上させることができる。このため、高温で安定して動作する軸受の材料に好適である。
【0053】
次に、得られた金属間化合物合金の鋳塊を所定の形状に加工し、軸受を作製する。例えば、得られた鋳塊を切断し、切削加工することにより所定の形状の軸受を作製する。ここで鋳塊を切断し、切削加工することを挙げたが、これは例示にすぎず、切削加工に限られない。例えば、塑性加工のような周知の方法を適宜適用することができる。あるいは、内輪および外輪の形状に直接、溶解・鋳造する方法や粉末冶金法により、内輪,外輪の形状に直接仕上げてもよい。
【0054】
最後に、上記内輪および外輪,転動体を用いて軸受を組み立てる。なお、転動体は、内輪と外輪が所定の軸受内部すきまをなす大きさのものを選定し入手すればよい。
【0055】
なお、得られた鋳塊を切断し、切削加工したのちに、熱処理を行ってもよい。
【0056】
(実施例)
次に、第1及び第2実施形態で示した組成のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金を用いて実施例1及び2の軸受を作製し、耐熱回転試験の評価を行った。これにより、実施例1及び実施例2の軸受が500℃の高温環境下で安定して動作することを実証した。
【0057】
ここで、実施例1の軸受は、Taが3at.%添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成した。Taの添加量は以下の実験結果から3at.%とした。
【0058】
図3〜8は、表1に示すTa添加量のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の各特性を測定した結果を示す図である。(表1では、Ti及びTaの合計含有量が一定となるように、これらの金属間化合物の組成を定めている。なお、Bの含有量は、Ni,Si,Ti及びAlの合計100at.%の組成をもつ合金の総重量に対する重量割合(wt.ppm)量である。)
【0060】
図3は、Taを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金のSEM写真であり、
図4は室温におけるビッカース硬さとTa含有量の関係を示すグラフである。また、
図5は、ビッカース硬さと温度の関係を示すグラフである。また、
図6は、ピンオンディスク式摩耗試験を説明するための概念図であり、
図7は、そのピンオンディスク式摩耗試験の結果を示すグラフである。さらに、
図8は、耐酸化性試験による質量増加量と時間との関係を示すグラフである。
【0061】
ここで、
図4におけるビッカース硬さ試験の条件は、荷重1kgで、保持時間20秒である(室温約25℃)。また、
図5におけるビッカース硬さ試験の条件は、荷重1kg、保持時間20秒であり、還元雰囲気中(Ar+約10%H
2)にて毎分10℃で昇温させて測定している。
さらに、
図6及び
図7のピンオンディスク式摩耗試験は、ディスク9には、超硬(G5)を用い、ピン8は各試料で円柱状に形成した。具体的には、高さが15mm(
図6に示すH)、直径が5mm(
図6に示すD)の円柱状のピン8をディスク9の中心から15mmの距離(
図6に示すX)に配置して試験を行った。ピンオンディスク式摩耗試験は、室温(約25℃)、大気雰囲気中で、荷重100N、回転数300rpm、試験時間30分、総すべり距離1413.7mの条件で行った。試験は潤滑油を採用しない乾燥摩耗試験とした。耐摩耗性は、上記総すべり距離後のピンの重量及び体積の減少量で評価した。
また、
図8の耐酸化性試験は、TG−DTA(Thermogravimetry‐Differential Thermal Analysis)によって行った。具体的には、900℃で大気暴露したときの、試料の単位表面積当たりの質量増加量を測定することによって行った。
【0062】
図3を参照すると、Ta添加量が5at.%以下であればL1
2単相組織が維持されるが、Ta添加量が5at.%を超えると、L1
2マトリックス中に板状のNi
3Ta相が分散することがわかる。
また、
図4を参照すると、Ta添加量が増加するに従い室温におけるビッカース硬さがほぼ直線的に増加することがわかる。(
図4では、Ta添加量が6at.%までビッカース硬さが上昇している。例えば、
図4から、Ta添加量が2at.%で約430Hv、Ta添加量が3at.%で約450〜460Hv、Ta添加量が5at.%で約480〜490Hvの硬さを示し、最大で510Hvの硬さを示している。)
また、
図5を参照すると、Taの添加は室温におけるビッカース硬さのみならず高温においても有効であることがわかる。(500℃又は600℃で、Ta添加量が2at.%で約440Hvであり、Ta添加量が7at.%で約490Hvであった。)
また、
図6及び
図7を参照すると、ビッカース硬さの増加に起因して耐摩耗性が向上していることがわかる。特に、Ta添加量が2at.%より多いときに耐摩耗性が大幅に向上していることがわかる。
また、
図8を参照すると、Taの添加により耐酸化性も向上することがわかる。
【0063】
硬さの増加に伴い耐摩耗性が向上するので、軸受性能は硬さが増加したときに良好であると推察される。以上の測定結果から、Ni
3Ta相が出現せず、硬さ試験及び摩耗試験も良好である3at.%のTaの添加量を採用した。
【0064】
また、実施例2の軸受は、Alが2at.%添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成した。Alの添加量は以下の実験結果から2at.%とした。
【0065】
図9〜12は、表2に示すAl添加量のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の各特性を測定した結果を示す図である。(表2では、Ti及びAlの合計含有量が一定となるように、これらの金属間化合物の組成を定めている。なお、Bの含有量は、Ni,Si,Ti及びAlの合計100at.%の組成をもつ合金の総重量に対する重量割合(wt.ppm)量である。)
【0067】
図9は、Alを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金のSEM写真であり、
図10は、Alを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、室温・大気中引張試験における公称応力−公称ひずみ曲線である。また、
図11は、Alを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、高温引張試験の結果を示すグラフである。さらに
図12は、Alを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、耐酸化性試験による質量増加量と時間との関係を示すグラフである。
【0068】
ここで、
図10の引張試験は、平行部長さ10mm、幅4mmの試料を用い、室温大気中で歪み速度8.4×10
-5S
-1の条件で実施した。また、
図11の高温引張試験は、平行部長さ10mm、幅4mmの試料を用い、室温〜700℃、真空中で歪み速度8.4×10
-5S
-1の条件で実施した。さらに
図12の耐酸化性試験は、900℃大気中における酸化増量を測定することにより実施した。なお、
図11及び
図12における、「Mo−alloyed」「Co−alloyed」「Cr−alloyed」は、上記表2の「NST−2Al」のAlに代えて、Mo,Co,又はCrを2at.%添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金であり、Alを2at.%添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金と比較するための試料である。
【0069】
図9を参照すると、2at.%のAlを添加すると、Alが添加されていないNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金(表2のNST)と同じL1
2単相組織が維持され、Alの添加量が増加するに従い、Ni固溶体相(
図9の白色部)が増加することがわかる。
また、
図10を参照すると、室温強度特性も基本組成材(Alが添加されていないNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金。表2のNST)と同様の高強度特性が維持されることがわかる。
また、
図11を参照すると、高温強度特性を低減させることなく延性を改善できることがわかる。
さらに、
図12を参照すると、2at.%のAl添加により耐酸化性が改善することがわかる。
【0070】
以上の測定結果から、強度特性や耐酸化性が良好な2at.%のAl添加量を採用した。
【0071】
(性能試験)
上記で説明した含有量のTa又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金を次の方法で作製した。
(1)鋳塊の作製
まず、表3に示す組成になるようにNi,Si,Ti,Ta,Alの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量し、この地金を真空誘導溶解(VIM)法により約8kgの鋳塊からなる試料を作製した。
ここで、Taが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が実施例1の軸受の材料となる合金であり(この合金を「実施例1合金」又は「NST−3Ta」と呼び、その鋳塊を「実施例1鋳塊」と呼ぶ)、Alが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が実施例2の材料の合金である(この合金を「実施例2合金」又は「NST−2Alと呼び、その鋳塊を「実施例2鋳塊」と呼ぶ)。
【0072】
【表3】
表3において、Bの含有量は、Ni,Si,Ti及びAlの合計100at.%の組成をもつ合金の総重量に対する重量割合(wt.ppm)量である。
【0073】
次に、鋳造偏析を解消し、均質化するための処理として、1050℃で48時間保持の真空熱処理(炉冷)を行う均質化熱処理を行った。また、組織観察及び硬さ試験のため、上記の鋳塊と同様にして作製した鋳塊について950℃で24時間の均質化熱処理を行った試料も作製した。
【0074】
(2)玉軸受の加工
次に、1050℃48時間の均質化熱処理を行った鋳塊を所定の厚さに切断し、得られた円盤状素材を切削加工して、実施例1及び2の各合金で形成された内輪及び外輪を製作した。内径・外径及び端面に粗研削加工を施し、内輪と外輪の軌道面に最終仕上げである超仕上げ研削加工を施した。
【0075】
(3)耐熱玉軸受の組立
さらに、前記製作した内輪と外輪とが所定の軸受内部すきまをなすように、窒化ケイ素セラミックス球を組み込み、更に、固体潤滑剤保持器を装着して、
図1に示す玉軸受を完成させた。これにより実施例1及び2の軸受を作製した。
【0076】
(組織観察)
実施例1及び2の鋳塊について、断面組織を評価した。
図13に実施例1及び2のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金のSEM写真を示す。
図13において、(a)〜(c)が2at.%のAlを添加した合金の鋳塊(実施例2鋳塊)であり、(d)〜(f)が3at.%のTaを添加した合金の鋳塊(実施例1鋳塊)である。また(a)及び(d)が鋳造のまま(鋳造のみで特に熱処理を施していない)、(b)及び(e)が950℃24時間の均質化熱処理後、(c)及び(f)が1050℃48時間の均質化熱処理後、のSEM写真である。
【0077】
図13の(a),(d)を参照すると、Ta又はAl添加のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、両合金とも鋳造のままの状態ではデンドライト状組織であることがわかる。このデンドライトのコアは、fcc構造のNi固溶体相であると考えられる(
図13の(a),(d)の白色部分)。
次に、
図13の(b),(e)を参照すると、950℃で24時間の均質化熱処理を行うと、両合金ともデンドライトが減少していることがわかる。特に、Ta添加のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金では、デンドライト組織がほぼ完全に消失している(
図13の(e)参照)。
さらに、
図13の(c),(f)を参照すると、より高い温度で均質化熱処理(1050℃48時間)を行うと、さらにデンドライトが減少することがわかる。Al添加のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は、完全にデンドライトが消失していないが、Ta添加のNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金では、L1
2単相組織となっていることがわかる。
図13の結果から、Al(融点:660℃)に比べ高融点であるTa(融点:2996℃)を高濃度に添加した実施例1合金(NST−3Ta)のほうが実施例2合金(NST−2Al)よりも拡散が遅いように思われるが、均質化熱処理によるL1
2単相化は、実施例1合金(NST−3Ta)のほうが容易であることがわかった。
【0078】
(室温硬さ試験)
また、実施例1及び2の鋳塊について、室温ビッカース硬さ試験を行った。荷重は1kgで、保持時間は20秒とした。結果を
図14及び表4に示す。
図14は、この発明の実施例1及び2で用いたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、各熱処理と室温におけるビッカース硬さとの関係を示すグラフである。(a)〜(c)が2at.%のAlを添加した鋳塊のグラフであり、(d)〜(f)が3at.%のTaを添加した鋳塊のグラフである。また(a)及び(d)が鋳造のまま(鋳造のみで特に熱処理を施していない)、(b)及び(e)が950℃24時間の均質化熱処理後、(c)及び(f)が1050℃48時間の均質化熱処理後、のグラフである。
【0080】
図14及び表4を参照すると、実施例1合金(NST−3Ta)のほうが実施例2合金(NST−2Al)よりも硬いことがわかる。また、実施例1合金(NST−3Ta)及び実施例2合金(NST−2Al)の両合金とも均質化熱処理により硬さ変化はそれほど大きくないものの、ばらつきが小さくなっていることがわかる(
図14のエラーバー参照)。これは均質化熱処理によりデンドライトが減少して組織が均質化するからである。
【0081】
また、実施例1及び2の鋳塊について、室温ロックウェル硬さ試験も実施した。測定はCスケールとした。結果を表5に示す(表の単位は、HRCである)。
【0082】
【表5】
ここで、表5における「鋳塊No.1」〜「鋳塊No.4」は鋳塊の番号であり、実施例1及び2についてそれぞれ2つの鋳塊を測定した。平均値は整数に丸めて記載している。なお、表5における均質化熱処理とは、1050℃48時間の熱処理である。
【0083】
表5を参照すると、
図14と同様に、実施例1合金(NST−3Ta)のほうが実施例2合金(NST−2Al)よりも硬いことがわかる。また、実施例1合金(NST−3Ta)及び実施例2合金(NST−2Al)の両合金とも均質化熱処理により硬さ変化はそれほど大きくないものの、ばらつきが小さくなっていることがわかる。
【0084】
(高温ビッカース硬さ試験)
また、実施例1及び2の鋳塊について、高温ビッカース硬さ試験を行った。この試験には、均質化熱処理を行っていない鋳塊を用いた(鋳造のまま)。測定温度は、室温、300℃,500℃,600℃,800℃,900℃とし、荷重は1kgで、保持時間は20秒であった。測定は還元雰囲気中(Ar+約10%H
2)で行い、昇温速度は毎分10℃で行った。またSUS440C、SUS630についても測定を行った。(SUS440Cは、ステンレス鋼中で最高硬さを示し、耐熱・特殊環境用のボールベアリング(ball bearing:玉軸受)の材料である。)結果を
図15及び表6に示す。
【0086】
図15は、この発明の実施例1及び2で用いたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図15において、(1)3at.%のTaを添加した鋳塊、(2)2at.%のAlを添加した鋳塊、(3)SUS630、(4)SUS440Cであり、(3)及び(4)は(1)及び(2)と比較するための試料である。
【0087】
図15及び表6を参照すると、実施例1合金(NST−3Ta)、実施例2合金(NST−2Al)ともに、室温ではSUS630とほぼ同等、又はSUS440Cのほぼ半分の硬さであるが、600℃以上ではSUS630及びSUS440Cを上回っていることがわかる。高温ビッカース硬さ試験は測定が短時間であるが、軸受の実操業は長時間であるので、実際の軸受では、実施例1合金(NST−3Ta)及び実施例2合金(NST−2Al)の優位性がより顕著となると考えられる。
【0088】
(熱膨張係数測定)
また、実施例1及び2の鋳塊について、熱膨張係数も測定した。その結果を
図16に示す。
図16は、この発明の実施例1及び2で用いたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、温度と平均熱膨張係数との関係を示すグラフである。(1)3at.%のTaを添加した鋳塊、(2)2at.%のAlを添加した鋳塊、(3)Inconel X750、(4)Inconel 718、(5)Inconel 713Cであり、(3)〜(5)は(1)及び(2)と比較するための試料である。
【0089】
図16を参照すると、市販のニッケル合金とほぼ同等の値を示していることがわかる。その値はセラミックの転動体と十分に適合したものである。
【0090】
(耐熱回転試験)
実施例1及び2(実施例1及び2の内輪及び外輪を用いた玉軸受)について、耐熱回転試験を行った。また、比較例として、SUS440Cの軸受を作製し、この比較例も評価した。耐熱回転試験を行った。(SUS440Cはステンレス鋼のなかで最高の硬さを示す硬質材料である。)
具体的には、高温の環境下で玉軸受を回転動作させ、その後、その玉軸受の外観や寸法測定から評価した。また、SUS440C(Fe−18Cr−1C)で形成された外輪及び内輪で組み立てた、実施例と同一形状の玉軸受についても、同様の試験を行って評価した。
試験の条件は、温度:500℃,負荷:60kgf,回転数:166min
-1(設定:dn値5000)とした。
玉軸受は、仕様:6206Y3とし,転動体:窒化ケイ素セラミックス(セラミックボール3/8インチ(9.525mm,品番FYH−SN)),保持器:BS10609 62R−06(虹技社製)を用いた。表7に軸受の構成等を示す。
【0092】
ここで、表7で示すように、比較例、実施例1、実施例2に試験番号を付した。
図17〜
図25における「10−H06」,「10−H07」,「10−H08」の記載は試験番号「DUT−10−H06」,「DUT−10−H07」,「DUT−10−H08」にそれぞれ対応している。
【0093】
試験時間は1000時間とした。実施例1及び2は、500℃1000時間という条件にもかかわらず、回転試験停止後(すなわち1000時間の試験後)の高温状態では手回しで軽く回り、良好な状態を維持していた(常温状態に温度を下げると、軸受内部すきまが無くなりロックした状態となった)。
一方、比較例(SUS440Cで形成された内外輪を用いた軸受)は、634時間で軸受内部すきまが過大となり破損した。このため、比較例は634時間で試験を終了させた。その結果を
図17〜
図25及び表8に示す。
図17〜
図19は、各軸受の耐熱回転試験前後の状態を示す写真であり、
図20〜
図25は、耐熱回転試験後に各軸受を分解したときの各部品の状態を示す写真である。また、表8は、耐熱回転試験後の内輪及び外輪について摩耗量を測定した結果を示す表である。
【0095】
図17〜
図19を参照すると、比較例は多くの摩耗粉が発生しているのに対し、実施例1及び2は摩耗粉がほとんど発生していないことがわかる。
図18〜
図19でわずかに粉体(うぐいす色であった)が観察されているが、これは実施例1及び2の各合金が酸化したNi酸化物と推定される。
【0096】
また、
図20〜
図25を参照すると、比較例の内輪・外輪及び実施例1及び2の内輪・外輪は、ともに耐熱回転試験で酸化し金属色を失い黒く変色しているものの、その軌道溝の摩耗が相違していることがわかる。比較例は、軸受軌道溝が大きく摩耗しているが、実施例1及び2は、軸受軌道溝及び転動体に保持器からのガラス状の付着物が付着しているものの(転動体への付着物厚みは約7μm)、その金属軸受母材自身はほとんど摩耗していない。また、軌道溝の欠陥や焼き付きも観察されなかった。
なお、保持器からのガラス状の付着物は、高温で内外輪及び転動体の摩耗を減らす働きをしているが、この付着物により軸受内部すきまが減少し、常温で熱膨張がなくなると軸受がロックした状態となった。
【0097】
また、表8を参照すると、比較例は1050μm以上も軸受内部すきまが増加しているが、実施例1及び2初期設定値のままで軸受内部すきまが変化していないことがわかる。また、硬度(ロックウェル硬さ)も、試験前後で比較例は劣化している(硬さの値が小さくなっている)が、実施例1及び2はほとんど変化していない。
【0098】
また、1000時間の耐熱回転試験終了後、実施例1及び2の高温耐摩耗性の要因を探るため、実施例1及び2の内輪をワイヤ放電加工で切断し、その断面についてビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さ試験は、荷重100g、保持時間20秒、室温環境で行った(マイクロビッカース硬さ試験機を用いた)。
図26にその測定点を示し、表9及び表10に測定されたビッカース硬さの値を示す。
図26は、耐熱回転試験後の実施例1及び2の内輪の断面におけるビッカース硬さの測定箇所を説明するための図である。また、表9は実施例1の内輪断面のビッカース硬さを示す表であり、表10は実施例2の内輪の断面のビッカース硬さを示す表である。
図26において、測定点A(符号21)及び測定点B(符号22)は実施例1及び2における内輪内部(断面の中心部)に対応する。また、測定箇所C(符号23)は内輪の軌道溝中央部に、測定箇所D(符号24)及び測定箇所E(符号25)は内輪の軌道溝端部にそれぞれ対応する。軌道溝中央部及び軌道溝端部は転動体(すなわちセラミックボール)が接触する部分であり、特に前者の軌道溝中央部は、転動体が強く接触する部分である。また、測定箇所C〜Eは、
図26における破線上の複数の点を測定点とし、表9及び表10において「表面からの位置」としてその位置を示している。なお、表9及び表10における長さ(a),(b)はビッカース硬さ試験の圧子によるビッカース圧痕の対角線の長さを示している。
【0101】
表9及び表10を参照すると、実施例1及び2ともに、測定箇所C〜E(符号23〜25)の表面(表面からの位置が0.1mm)でビッカース硬さが向上していることがわかる。例えば、測定点A,Bと比較すると、実施例1のC−1で232〜238もビッカース硬さの値が大きくなっている。また、実施例2のC−1でも136〜146もビッカース硬さの値が大きくなっている。さらに、軌道溝端部ではビッカース硬さの変化がそれほど大きくないものの、実施例1及び2ともに、軌道溝端部を含めた軌道溝表面付近で概ねビッカース硬さの値が大きくなっている(測定箇所C〜Eの表面から0.1mm参照。特に転動体が強く接触する測定箇所Cで顕著である)。
この結果から、転動体が軌道溝を転動することにより、実施例1及び2の内外輪の材料、すなわちTa又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が加工硬化し、この加工硬化現象のため、実施例1及び2の軸受の寿命が延びている一因であることが推察できる。この現象は
図15で示されるSUS440C等で観察されない現象であり、この現象から、Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金が耐熱軸受に適した材料であることがわかる。
【0102】
さらに、実施例1及び2の高温耐摩耗性の要因を探るため、軸受材料自体の熱処理時間に伴う硬さ変化も調べた。
図27は、この発明の実施例1で用いたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の、熱処理時間とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図27において、熱処理の温度は600℃であり、大気中で熱処理を行い、炉冷後、室温でビッカース硬さの測定を行っている。また(1)実施例1の合金(3at.%のTaを添加したNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金)、(2)NST(Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の基本組成材)、(3)比較例の合金(SUS440C)である。
【0103】
図27を参照すると、比較例の合金(SUS440C)は熱処理時間の経過とともにその硬さが減少しているのに対し、実施例1の合金では熱処理時間が長期間となってもその硬さはほぼ一定であることがわかる。また、NST(Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金の基本組成材)も同様の性質を示すことから、実施例2の合金も同様の性質を示すことが推察される。この結果から、実施例1及び2はその材料が高温においても安定した硬さを示すため、高温で安定して動作すると推察される。
【0104】
以上の結果から、実施例1及び2の軸受が500℃という高温で1000時間以上の寿命があり、耐熱軸受として実用に耐えるものであることが実証された。このように、Ta又はAlが添加されたNi
3(Si,Ti)系金属間化合物合金で形成された軸受は高温で安定して動作する。このため、例えば、従来は冷却をしなければ使用ができなかった高温環境下で冷却を必要としない装置(例えば、実施例1の軸受を使用した熱処理装置)を実現できる。また、軸受を高温環境から隔離して配置するような装置設計も不要となるので、例えば、熱処理装置であれば、炉の省エネルギー、性能アップ(炉内温度の精度が向上)、省スペースが実現可能となる。
【0105】
なお、Ni
3(Si,Ti)系金属間化合物合金は非磁性の特性を有するから、この金属間化合物合金で形成された軸受は、磁化することによる摩耗粉の軌道輪内への堆積が生じ難く、結果として、摩耗の加速を抑制する性質を有している。また、この軸受は非磁性であることが求められる用途(例えば、半導体製造装置)でも好適に用いることができる。