(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737523
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】黒色系顔料、並びにそれを含む釉薬及び塗料
(51)【国際特許分類】
C09C 1/34 20060101AFI20150528BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20150528BHJP
C09C 1/24 20060101ALI20150528BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20150528BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20150528BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
C09C1/34
C01G49/00 A
C09C1/24
C09D201/00
C09D7/12
C09D5/32
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-125692(P2012-125692)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-249393(P2013-249393A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2014年6月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開者名:小林雄一、荒木悠伸、 刊行物名:平成23年度日本セラミックス協会東海支部学術研究会 講演予稿集 第38ページ、 発行年月日:平成23年12月3日 研究集会名:平成23年度日本セラミックス協会東海支部学術研究会、 主催者名:公益社団法人日本セラミックス協会東海支部、 開催日:平成23年12月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(73)【特許権者】
【識別番号】598151544
【氏名又は名称】カサイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄一
【審査官】
桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/103399(WO,A1)
【文献】
米国特許第6174360(US,B1)
【文献】
特開2000−072990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/34
C01G 49/00
C09C 1/24
C09D 5/32
C09D 7/12
C09D 201/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Cr、Fe)2O3固溶体からなるL*値が30以下の黒色系顔料であって、CrとFeとの比(モル比)を90〜97:10〜3として、かつ非スピネル構造をとる、ことを特徴とする黒色系顔料。
【請求項2】
(Cr、Fe)2O3固溶体からなり、L*値が30以下の黒色系顔料であって、CrとFeとの比(モル比)を80〜97:20〜3として、かつ非スピネル構造をとる、ことを特徴とする黒色系顔料。
【請求項3】
(Cr、Fe)2O3固溶体からなり、L*値が30以下の黒色系顔料であって、CrとFeとの比(モル比)を93〜97:7〜3として、かつ非スピネル構造をとる、ことを特徴とする黒色系顔料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに規定の黒色系顔料を含む釉薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに規定の黒色系顔料を含む塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系顔料の改良に関する。更に詳細には、(Cr、Fe)
2O
3固溶体からなる黒色顔料の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
建材の表面その他に用いられる黒色系の顔料は、太陽光の反射効率が悪いので建材を昇温させる。
そこで従来より、可視光の反射率を抑制して黒色系の色を維持しつつ、いわゆる熱線(赤外線)を選択的に反射する顔料(遮熱顔料)の検討がなされてきた。
本願出願人は特許文献1において、スピネル型結晶構造が選択的な赤外線反射性能に影響を与え、非スピネル型結晶構造とすることにより選択的な赤外線反射性能が向上することを提案している。
特許文献2にはCr
2O
3とFe
2O
3とを主成分とした非スピネル型(ヘマタイト型)の顔料が提案されている。この顔料は中赤外線(波長:2500nm)に対する選択的な反射性能を有している。
また、従来の顔料における選択的な赤外線反射性能に関して非特許文献1も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−184278号公報
【特許文献2】米国特許第6,174,360号公報 第16実施例、
図4
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】工業材料 vol.60, No.5, PP18-22
図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1において高日射反射塗料がその
図1に示されている。この明細書にこの
図1を引用する(明細書添付
図1参照)。
本発明者は、かかる高日射反射塗料に使用される遮熱顔料を得るべく鋭意研究を進めてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その結果、
図1に○で示す特性の遮熱顔料を得ることができた。
30弱のL*値を示すこの顔料は目視でほぼ黒色である。また、近赤外線の反射率が55%を超えている。
かかる特性の黒色系顔料は、(Cr、Fe)
2O
3固溶体において、CrとFeとの比(モル比、この明細書において同じ)を90〜97:10〜3として、かつ非スピネル構造をとることにより得られた。
この発明の他の局面は、L*値が30以下の顔料において、CrとFeとの比(モル比、この明細書において同じ)を90〜97:10〜3として、かつ非スピネル構造をとることとする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は各塗料における明度と近赤外線波長日射反射率の関係を示す図である。
【
図2】
図2は実施例の顔料と比較例の顔料における波長と反射率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3はCrの配合比と反射率との関係を示し、
図3(A)はCrの配合比と赤外線波長領域の日射反射率との関係、
図3(B)はCrの配合比と可視光波長領域の日射反射率との関係、
図3(C)はCrの配合比と全波長領域の日射反射率との関係をそれぞれ示す。
【
図4】
図4はCrの配合比と反射率比(赤外線/可視光)との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図2は、(Cr、Fe)
2O
3固溶体からなる顔料においてCr/Fe配合比を変化させたときの、波長と反射率との関係を示す。
なお、全ての試料は非スピネル構造をとっている。比較例(Ref.1)におけるCrとFeの配合比は50:50であり、実施例1(Ex1)はCr:Fe=80:20であり、実施例2(Ex2)はCr:Fe=93:7であり、実施例3(Ex3)はCr:Fe=94:6であり、実施例4(Ex4)はCr:Fe=95:5である。
図2において特に実施例2〜4の結果より、Cr/Fe配合比を90〜97:10〜3としたとき、可視光に非常に近い領域(即ち、エネルギーの高い)の赤外線(波長:850-1000nm)を高い効率で反射することがわかる。更に好ましい範囲はCrの配合比を93〜95%とする。
【0009】
図3(A)はCrの配合比と赤外線波長領域における日射反射率を示し、
図3(B)はCrの配合比と可視光波長領域における日射反射率を示し、
図3(C)はCrの配合比と全波長領域の日射反射率を示す。
図4はCrの配合比と赤外線と可視光との反射率の比を示している。
図3(C)より、Crの配合量が90%以上の範囲において赤外線波長領域の反射率が格段に向上することがわかる。他方、Crの配合比が97%を超えると可視光の反射率も高くなるので黒色を維持することができない。
なお、
図1における
“○”は実施例2〜4のデータを明度(L*)に換算したときものである。
【0010】
図2の結果の実施例1において、可視光に非常に近い領域の赤外線(波長:850-900nm)をより効率よく反射する傾向(850-900nmにおけうピーク)がCrの配合比を80%としたときから発現している。他方、比較例1に示すように、Crの配合比が50%のときにはかかるピークは見られない。従って、この発明の他の局面は、(Cr、Fe)
2O
3固溶体において、CrとFeとの比を80〜97:20〜3として、かつ非スピネル構造をとるものと規定される。
【実施例】
【0011】
この発明で用いる(Cr、Fe)
2O
3固溶体は、試薬Cr
2O
3と試薬Fe
2O
3とを所定の割合でビーズミルにより24時間湿式で粉砕混合し、その後乾燥解砕し、電気炉を用いて大気雰囲気中800℃〜1400℃で熱処理した。このようにして得られた試料を粉砕し、得られた粉末をX線回折(XRD)測定して非スピネル構造(ヘマタイト構造)であることを確認した。
このX線回折は、特許文献1に記載の方法に準じており、具体的には理学電気株式会社製の型式RINT2500V/PCを用い、ターゲット;Cu,電圧;40kV、電流;100mA、走査軸2θ/θの条件で行っている。
可視光と赤外光との反射率は分光光度計(島津製作所製の型番Solidspec-3700の分光計)で測定した。具体的には、粉末を押し固めた平板試料を作成し、この試料と標準白板(反射率99%、Labsphere(登録商標)とにハロゲンランプを照射してその反射光を上記分光光度計で測定した。
なお、出発原料として、CrやFeの塩化物、硝酸塩及び硫酸塩を用いることができる。
なお、
図2において、実施例1〜4は試薬Cr
2O
3と試薬Fe
2O
3とを出発物質としている。
また、
図2〜
図3に示す配合比は各出発原料の配合比(モル比)に基づいている。CrとFeとの固溶体におけるCrとFeのモル比は出発原料のモル比とほぼ等しくなる。
【0012】
上記において、固溶体には、明度、即ち黒色を損なわない範囲でかつ赤外線に対する高い選択的な反射率を損なわない範囲で、不純物が含まれてもかまわない。かかる不純物として、アルミニウム、アンチモン、ビスマス、ホウ素、リチウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ネオジウム、ニッケル、ニオブ、シリコン、スズ、チタン、バナジウム、亜鉛等を挙げることができる。
【0013】
この発明の黒色系顔料は塗料、釉薬に配合できることはもとより、その粒度を調整することにより、建材等の母材自体に分散させることができる。また、自動車、船舶、航空機、ロケット、各種産業機器、オフィス用品の表面に塗布することや、繊維に分散させることもできる。
【0014】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。