【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
実施例1
工程(i):メカニカルミリング処理
Na
2S(アルドリッチ社製純度99%)及びP
2S
5(アルドリッチ社製純度99%)を67:33、70:30、75:25及び80:20のモル比でそれぞれ遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカニカルミリング処理することで、67Na
2S−33P
2S
5、70Na
2S−30P
2S
5、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5を得た。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P−7を使用し、ポット及びボールはZrO
2製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で20時間行った。
【0025】
なお、上記製造法は、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non−Crystalline Solids 356 (2010) 2670−2673のExperimentalの記載に準じている。
上記4種のNa
2S−P
2S
580mgをプレス(圧力370MPa/cm
2)することで直径10mm、厚さ約1mmのペレットを得た。
【0026】
得られたガラス粉末のXRDパターンを
図1に、DTA曲線を
図2に、ラマンスペクトルを
図3に、
図3の要部拡大図を
図4に、
31PMAS−NMRを
図5にそれぞれ示す。
図1から、67Na
2S−33P
2S
5、70Na
2S−30P
2S
5及び75Na
2S−25P
2S
5では、アモルファス材料が得られたことが示されており、80Na
2S−20P
2S
5では、アモルファスに加えて一部Na
2Sが残存していることが示されている。
図2から、67Na
2S−33P
2S
5、70Na
2S−30P
2S
5、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5全てにおいてガラス転移点が確認されており、これらアモルファス材料がガラス状態であることが判る。なお、ガラス転移点は180〜200℃の間である。
【0027】
図3及び4から、67Na
2S−33P
2S
5では、P
2S
74-に由来するピークが主として見られる。70Na
2S−30P
2S
5では、Na
2Sの割合の増加につれて、P
2S
74-に由来するピークが減少し、そのピークに代わって、PS
43-に由来するピークが増加し、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5では、PS
43-に由来するピークが主として見られることが示されている。なお、
図3及び4の図中のピークの帰属が、PS
43-、P
2S
74-及びP
2S
64-にそれぞれ由来していることは、Na
2S−P
2S
5の系でのデータが入手できなかったため、Li
2S−P
2S
5の系でのデータから類推している。具体的には、PS
43-が419cm
-1、P
2S
74-が406cm
-1、P
2S
64-が382cm
-1であるとしている。
図5においても、
図3及び4と同様の傾向が見られる。
【0028】
工程(ii):熱処理
上記4種のガラスからなるペレットを、室温(25℃)から結晶化温度以上の280℃に向かって加熱し、ガラスをガラスセラミックス化した。更に、280℃に達してから、室温に向かってガラスセラミックスのペレットを冷却した。この加熱及び冷却サイクル中、約15℃毎に、ペレットの導電率を測定した。測定結果を
図6(a)〜(d)に示す。図中、黒丸はガラスセラミックスを、白丸はガラスを意味する。
【0029】
図6(a)から、67Na
2S−33P
2S
5では、ガラス状態とガラスセラミックス状態での導電率に差が殆どないことが示されている。
図6(b)〜(d)から、70Na
2S−30P
2S
5、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5では、ガラス状態とガラスセラミックス状態での導電率に差が生じていることが示されている。特に、前2者の場合、ガラスセラミックス状態の方が、ガラス状態より高い導電率を示している。
また、ガラスとガラスセラミックスのペレットの伝導の活性化エネルギー(Ea)を測定した結果を、室温での導電率の値と合わせて表1に示す。表1中、Gはガラス、GCはガラスセラミックスを意味する。また、表1の結果を、
図7にまとめて示す。
図7中、黒丸及び黒三角はガラスセラミックスを、白丸及び白三角はガラスを意味する。
【0030】
【表1】
【0031】
図7及び表1から、導電率及び伝導の活性化エネルギーが、ガラス状態とガラスセラミックス状態とで差を生じていることが判る。
熱処理後の67Na
2S−33P
2S
5、70Na
2S−30P
2S
5、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5のXRDパターンを
図8に、
31PMAS−NMRを
図9にそれぞれ示す。
図8には、下記文献Aに掲載されているNa
3PS
4結晶(正方晶)のXRDパターンも示す。
文献A:M.Jansen et al., Journal of Solid State Chemistry, 92(1992)110.
【0032】
図8から、
図1と比較して、結晶構造に由来するピークが存在していることから、4種のNa
2S−P
2S
5が、ガラスセラミック状態であることがわかる。また、
図8から、80Na
2S−20P
2S
5では、Na
3PS
4結晶と同様のピークパターンであるが、Na
2Sのモル%が小さくなるに従って、Na
3PS
4結晶と異なるパターンの存在が観測されるため、Na
3PS
4結晶とは異なる結晶の析出が考えられる。特に75Na
2S−25P
2S
5では、正方晶Na
3PS
4のパターンに類似する2θ位置にパターンを示すが、ピークの分裂が見られないことから立方晶Na
3PS
4が存在していると考えられる。また67Na
2S−33P
2S
5では、結晶の同定ができず、未知の結晶の析出が考えられる。また70Na
2S−30P
2S
5では、67Na
2S−33P
2S
5と75Na
2S−25P
2S
5のパターンを足し合わせたパターンとなっていることがわかる。
【0033】
図9から、75Na
2S−25P
2S
5及び80Na
2S−20P
2S
5では、PS
43-に由来するピークが主として見られ、67Na
2S−33P
2S
5では、P
2S
74-に由来するピークが主として見られる。70Na
2S−30P
2S
5では、PS
43-とP
2S
74-に由来するピークが両方見られる。
【0034】
実施例2
正極活物質としてNa
0.44MnO
2を、電解質として実施例2の75Na
2S−25P
2S
5からなるガラスセラミックス、導電剤としてアセチレンブラックを、40:60:6の重量比(全重量15.5mg)で秤量し、次いで混合し、プレスすることで正極を得た。
実施例2の75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックス70mgをプレスすることで固体電解質層を得た。
負極部分にはステンレススチールを用いた。より具体的には、初期充電時にステンレススチール上に金属ナトリウムを析出させることで負極とした。
正極、固体電解質層及び負極を積層し、プレスすることで、全固体二次電池を得た。得られた全固体二次電池は、十分な充放電特性を有していた。
【0035】
実施例3
75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットを製造するに際して、対応するガラスの熱処理の温度を280℃から270℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットを得た。
また、典型的なナトリウムイオン伝導性固体電解質であるβ−アルミナ80mgをプレス(圧力370MPa/cm
2)することで直径10mm、厚さ約1mmのペレットを得た。このペレットには、電解質用途の従来のβ−アルミナのペレットに付される1800℃以上での高温焼結を行っていない。
【0036】
得られた75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットの室温(約25℃)での周波数に対するインピーダンスの絶対値|Z|を測定した。測定結果を
図10に示す。また、
図10には、ガラスセラミックスに変換前の75Na
2S−25P
2S
5のガラスのペレットの室温でのインピーダンスの絶対値|Z|も示す。更に、
図10には、β−アルミナのペレットの70℃及び120℃で加温時のインピーダンスの絶対値|Z|も示す。β−アルミナのペレットの室温でのインピーダンスの絶対値|Z|の測定を試みたが、インピーダンスが大きすぎて測定不能であり、
図10にはプロットしていない。
なお、インピーダンスは、測定機器としてSolartron社製の品番1260を使用し、乾燥アルゴンガス中、0.1Hz〜8MHzの範囲内の周波数で測定された値である。
【0037】
図10から以下のことが分かる。
インピーダンスの絶対値|Z|は、大きいほど抵抗が高く(導電率が低く)、小さいほど抵抗が低い(導電率が高い)ことを意味している。また、一定のインピーダンスの絶対値|Z|を示す周波数の範囲では、周波数に対応するイオンの移動が生じているため、この範囲では、周波数が大きいほど、イオン伝導が速い、即ち導電率が高いことになる。具体的には、
(1)ガラスセラミックスのペレットは、全ての周波数において、他のどのペレットよりも抵抗が低いことが示されており、より導電率の高い電解質層を提供できる。
(2)ほぼ一定のインピーダンスの絶対値|Z|を示す周波数の領域が、ガラスセラミックのペレットは10
4〜10
7Hzの範囲内であり、β−アルミナ(70℃)及び(120℃)は0.1〜10Hzである。ガラスセラミックのペレットの方が、β−アルミナより、高い周波数でインピーダンスの絶対値|Z|が一定になるため、高い導電率を得られる。
(3)ほぼ一定のインピーダンスの絶対値|Z|を示す周波数の領域において、ガラスセラミックのペレットは10
3オーダの絶対値|Z|を示し、β−アルミナ(70℃)及び(120℃)は10
7〜10
9のオーダの絶対値|Z|を示す。つまり、ガラスセラミックのペレットは、β−アルミナより、10
4〜10
6低い絶対値|Z|を有しているため、高い導電率を得られる。
(4)β−アルミナのインピーダンスの絶対値|Z|は、室温におけるプレス成形体の方が、70℃及び120℃でのプレス成形体より極めて大きい。ガラスセラミックのペレットは、β−アルミナ(70℃)及び(120℃)より低い絶対値|Z|を有している。従って、室温でのプレスで高い導電率を得ることができる観点で、ガラスセラミックスの成形性の容易さは、プレス成形のみで作製する全固体二次電池用の固体電解質として極めて有利な点となる。
ことが分かる。
【0038】
実施例4
実施例3で得た75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレット及び75Na
2S−25P
2S
5のガラスペレットの温度に対する導電率の変化を
図11に示す。
図11中、黒丸はガラスセラミックスの、白丸はガラスの測定結果である。
更に、
図11に、β−アルミナ(焼結体)、Na
3Zr
2Si
2PO
12(NASICON)(焼結体)、60Na
2S−40(0.9GeS
2・0.1Ga
2S
3)のガラス、Na
3PS
4結晶(正方晶)、50Na
2S−50SiS
2のガラス、60Na
2S−40GeS
2のガラス及び50Na
2S−50P
2S
5のガラスのペレットの温度に対する導電率の変化の測定結果も示す。
【0039】
β−アルミナ(1800℃で焼成して得られた焼結体)のペレットは、J.Phys.D:Appl.Phys.、10、1487−1496(1977)に記載された方法で得られたものである。
Na
3Zr
2Si
2PO
12(NASICON)(焼結体)のペレットは、Solid State Ionics、122、127−136(1999)に記載された方法で得られたものである。
60Na
2S−40(0.9GeS
2・0.1Ga
2S
3)のガラスは、Solid State Ionics、178、1777−1784(2008)に記載された方法で得られたものである。
Na
3PS
4結晶(正方晶)は、M.Jansen et al., Journal of Solid State Chemistry, 92(1992)110.に記載された方法で得られたものである。
50Na
2S−50SiS
2のガラス及び60Na
2S−40GeS
2のガラス及び50Na
2S−50P
2S
5のガラスはJ.Non−Cryst.Solids、38&39、271−276(1980)に記載された方法で得られたものである。
【0040】
図11から以下のことが分かる。
75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットは、75Na
2S−25P
2S
5のガラス、60Na
2S−40(0.9GeS
2・0.1Ga
2S
3)のガラス、Na
3PS
4結晶(正方晶)、50Na
2S−50SiS
2のガラス、60Na
2S−40GeS
2のガラス及び50Na
2S−50P
2S
5のガラスのペレットよりも高い導電率を有していることが分かる。
例えば、75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットは、室温(25℃)で2×10
-4Scm
-1の導電率を有し、27kJmol
-1の伝導の活性化エネルギーを有している。75Na
2S−25P
2S
5のガラスのペレットは、室温で6×10
-6Scm
-1の導電率を有し、47kJmol
-1の活性化エネルギーを有している。Na
3PS
4結晶(正方晶)は、室温で1×10
-6Scm
-1の導電率を有している。
【0041】
Na
3Zr
2Si
2PO
12(NASICON)焼結体は、75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットと同等の、β−アルミナ焼結体は、75Na
2S−25P
2S
5のガラスセラミックスのペレットより高い導電率(10
-3Scm
-1)を示している。しかし、β−アルミナ(焼結体)及びNa
3Zr
2Si
2PO
12(NASICON)(焼結体)のペレットは、その製造に、1000℃以上の高温焼結が必要であり、環境負荷が大きく、製造コストが高くつく。また、高温処理により、焼結体が脆くなり、充放電の繰り返し可能数が低下する。更に、高温処理が必要なため、電極と電解質層とを一体形成できず、電解質層単独では高い導電率が得られるものの、電極と電解質層との一体での導電率は低下することになる。