【実施例】
【0051】
(実施例1:菌体外多糖産生ビフィズス菌の培養およびビフィズス菌産生多糖の調製)
ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株(NITE BP−82)の培養および該微生物が産生する多糖の精製は、特許文献1の記載に従った。より詳細には以下の通りである。
【0052】
9質量%の脱脂乳溶液に、パンクレアチン(天野エンザイム株式会社)およびシリコンをそれぞれ終濃度が0.36質量%および0.01質量%となるように加えた。次いで、10N NaOHで溶液のpHを8に調整し、55℃にて4時間酵素を反応させて、酵素分解脱脂乳を得た。これに、カルチベータ(焼津水産化学工業株式会社)、ラクトース、およびアスコルビン酸ナトリウムを、それぞれ終濃度で、3.0質量%、2.5質量%、および0.2質量%となるように加え、これを121℃にて15分間オートクレーブで滅菌し、液体培地として使用した。
【0053】
上記で調製した液体培地を用いて前培養したビフィドバクテリウム ロンガム JBL05株(NITE BP−82)を、1%(v/v)となるように、5Lの同じ液体培地に接種し、37℃にて40時間静置嫌気培養を行い、粘性物質を産生させた。培養液を遠心分離し、菌体を除去した後、上清に終濃度20%となるようエタノールを加え、これを4℃に静置保存した。一晩静置後、遠心分離によりタンパク質を含む沈澱物を除去し、上清に終濃度50%となるようエタノールを加え、これを4℃にて静置保存した。一晩静置後、遠心分離により沈澱物を回収し、得られた粗精製多糖画分を凍結乾燥して保存した。
【0054】
粗精製多糖画分を、DEAE Sephadex A−50充填カラムを用いてさらに分画し、0.07M〜0.5MのNaClで溶出された画分を凍結乾燥し、精製多糖画分とした。
【0055】
(実施例2:ビフィズス菌産生多糖の構造解析)
実施例1で調製した精製多糖画分をTOYOPEARL HW65S充填カラムを用いてゲル濾過し、GPC−MALLS法により分子量を調べたところ、約54万であった。
【0056】
次に、ゲル濾過画分(多糖)に蟻酸を加え、加水分解した。この加水分解液を減圧乾固後、さらにトリフルオロ酢酸を加えて加水分解し、加水分解生成物を得た。ION−300カラム(東京化成工業株式会社)を用いたHPLC分析により、この多糖が、ガラクトース、グルコース、およびラムノースから構成されることがわかった。
【0057】
この加水分解生成物を常法により水素化ホウ素ナトリウムで還元し、無水酢酸とピリジンを加えてアセチル化したものを、R−225カラム(J&W Scientific)を用いてGC分析した。その結果、この多糖を構成するガラクトースと、グルコースと、ラムノースとのモル比は4:2:1であると判定した。
【0058】
上記加水分解生成物に、NADHの存在下、乳酸デヒドロゲナーゼを作用させたところ、乳酸が生じた。従って、この多糖画分にピルビン酸が存在することが確認された。また、多糖中のピルビン酸含有率は、5質量%であると確認された。
【0059】
多糖の結合様式を明らかにするため、メチル化して分析を行った。ゲル濾過画分(多糖)を常法によりメチル化した後に蟻酸を加えて加水分解し、この加水分解物を還元後アセチル化して得られた生成物をGC−MS測定にかけ、分析した。その結果、1,5−ジ−O−アセチル−2,3,4,6−テトラ−O−メチル−グルシトール、1,5−ジ−O−アセチル−2,3,4,6−テトラ−O−メチル−ガラクチトール、1,3,4,5−テトラ−O−アセチル−2,6−ジ−O−メチル−ラムニトール、1,3,5−トリ−O−アセチル−2,4,6−トリ−O−メチル−ガラクチトール、1,4,5−トリ−O−アセチル−2,3,6−トリ−O−メチル−グルシトール、1,4,5−トリ−O−アセチル−2,3,6−トリ−O−メチル−ガラクチトール、および1,4,5,6−テトラ−O−アセチル−2,3−ジ−O−メチル−ガラクチトールのメチル化された糖が得られた。
【0060】
また、NMR分析により、結合状態を検討した。これらのデータから、多糖は、以下の構造I(反復構造)を有することがわかった。
【0061】
【化4】
【0062】
(実施例3:ビフィズス菌産生多糖のTh1/Th2バランス改善作用)
実施例1で調製した精製多糖画分を水に溶解し、終濃度20μg/mlまたは200μg/mlとなるように添加した、ウシ胎児血清および抗生物質(抗生物質−抗真菌剤混合溶液、ナカライテスク)を含むRPMI-1640培地中で、C3H/HeJマウス(8週齢、雄、日本クレア)より調製した脾臓細胞を、5%CO
2下で37℃にて72時間培養した。培養上清を回収し、Th1型サイトカインであるインターフェロン−γ(IFN-γ)濃度およびTh2型サイトカインであるインターロイキン−4(IL-4)濃度をELISA法(BIOSOURCE、Invitrogen)で測定した。コントロールとして、同量の水を添加して培養し、同様に上記手順を行った。
【0063】
結果を
図1(A)〜(C)に示す。
図1(A)は、脾臓細胞に対するビフィズス菌産生多糖のインビトロ刺激によるIFN-γの産生を示すグラフである。縦軸はIFN-γ産生量(pg/ml)を表し、横軸は試験区を表す。
図1(B)は、脾臓細胞に対するビフィズス菌産生多糖のインビトロ刺激によるIL-4の産生を示すグラフである。縦軸はIL-4産生量(pg/ml)を表し、横軸は試験区を表す。
図1(C)は、脾臓細胞に対するビフィズス菌産生多糖のインビトロ刺激によるIFN-γとIL-4との産生比を示すグラフである。縦軸はIL-4に対するIFN-γの割合(IFN-γ/IL-4)を表し、横軸は試験区を表す。
【0064】
この結果、精製多糖画分(ビフィズス菌産生多糖)の添加では、同量の水を添加したコントロールと比べて濃度依存的に、IFN-γ産生量の増加とIL-4産生量の減少とが認められた。
【0065】
したがって、ビフィズス菌産生多糖の添加により、Th1型サイトカインの増加が認められ、Th1/Th2バランスがTh1優位となることが示された。すなわち、抗アレルギー作用が示された。
【0066】
(実施例4:ビフィズス菌産生多糖の抗アレルギー作用)
実施例1で調製した精製多糖画分をリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、これをゾンデを用いて、BALB/cマウス(8週齢、雄、株式会社紀和実験動物研究所)5匹に毎日経口投与した(20mg/kg体重/日)。コントロールとして、PBSのみを5匹に毎日経口投与した。ポジティブコントロールとして、プレドニゾロン(Sigma)を5匹に毎日経口投与した(3mg/kg体重/日)。投与開始後4日目に、右耳介に、アセトン(ナカライテスク)に溶解した0.3%の2,4,6-トリニトロ-1-クロロベンゼン(TNCB)(東京化成工業株式会社)を10μl塗布し(感作)、そして左耳介に、アセトンのみを同量塗布した。さらにTNCB塗布(感作)開始後4日目から1日おきに19日目まで本処置を繰り返した。感作開始後も、上記の経口投与は続けた。感作開始日から、TNCBの塗布ごとに耳介の厚さをノギスで測定した。測定は、毎回同じ条件で、同一試験者が行い、平均値を求めた(各群5匹)。感作開始後20日目に耳介の組織学的観察を行った。組織学的観察については、解剖後、10%中性緩衝ホルマリン(和光純薬工業株式会社)で固定した耳介より切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した(株式会社アプライドメディカルリサーチ委託)後、顕微鏡観察した。
【0067】
図2は、ビフィズス菌産生多糖を経口投与したマウスの耳介皮膚厚平均値の感作開始後の経時変化(各群5匹)を示すグラフである。縦軸は耳介皮膚厚(mm)を表し、横軸は感作後経過日数(日)を表す。黒丸はコントロール(PBSのみ)投与群、白丸はポジティブコントロール(プレドニゾロン)投与群、黒三角はビフィズス菌産生多糖投与群を表す。
【0068】
図3は、ビフィズス菌産生多糖を経口投与したマウスの感作開始後20日目のH&E染色耳介切片の顕微鏡写真を示す。上段から順に、コントロール(PBSのみ)投与群、ポジティブコントロール(プレドニゾロン)投与群、およびビフィズス菌産生多糖投与群を示す。
【0069】
精製多糖画分(ビフィズス菌産生多糖)の経口投与により、ポジティブコントロールのプレドニゾロンを経口投与したときと同様に、コントロールのPBSを経口投与したときと比べて、耳介厚の増加を有意に抑制した(
図2)。耳介の組織学的観察の結果もまた、精製多糖画分(ビフィズス菌産生多糖)の経口投与が、ポジティブコントロールのプレドニゾロンの経口投与と同様に、耳介に誘導される炎症を抑制し、耳介厚の増加を抑制することを示した(
図3)。すなわち、抗アレルギー作用を示した。
【0070】
(実施例5:菌体外多糖産生ビフィズス菌の抗アレルギー作用)
実施例4と同様の方法を用い、ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株(生菌体)の効果を検討した。
【0071】
PBSに懸濁した菌体外多糖産生ビフィズス菌ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05を、ゾンデを用いて、BALB/cマウス(8週齢、雄、株式会社紀和実験動物研究所)5匹に毎日経口投与した(生菌体10
8個/匹/日)。コントロールとしてPBSのみを5匹に毎日経口投与した。ポジティブコントロールとして、プレドニゾロン(Sigma)を5匹に毎日経口投与した(3mg/kg体重/日)。投与開始後4日目に、右耳介に、アセトン(ナカライテスク株式会社)に溶解した0.3%の2,4,6-トリニトロ-1-クロロベンゼン(TNCB)(東京化成工業株式会社)を10μl塗布し(感作)、そして左耳介に、アセトンのみを同量塗布した。さらにTNCB塗布(感作)開始後4日目から1日おきに19日目まで本処置を繰り返した。感作開始後も、上記の経口投与は続けた。感作開始日から、TNCBの塗布ごとに耳介の厚さをノギスで測定した。測定は、毎回同じ条件で、同一試験者が行い、平均値を求めた(各群5匹)。感作開始後20日目に耳介の組織学的観察を行った。組織学的観察については、解剖後、10%中性緩衝ホルマリン(和光純薬工業株式会社)で固定した耳介より切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した(株式会社アプライドメディカルリサーチ委託)後、顕微鏡観察した。
【0072】
図4は、菌体外多糖産生ビフィズス菌を経口投与したマウスの耳介皮膚厚平均値の感作開始後の経時変化(各群5匹)を示すグラフである。縦軸は耳介皮膚厚(mm)を表し、横軸は感作後経過日数(日)を表す。黒丸はコントロール(PBSのみ)投与群、白丸はポジティブコントロール(プレドニゾロン)投与群、黒四角は菌体外多糖産生ビフィズス菌投与群を表す。
【0073】
図5は、菌体外多糖産生ビフィズス菌を経口投与したマウスの感作開始後20日目のH&E染色耳介切片の顕微鏡写真を示す。上段から順に、コントロール(PBSのみ)投与群、ポジティブコントロール(プレドニゾロン)投与群、および菌体外多糖産生ビフィズス菌投与群を示す。
【0074】
ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株の生菌(菌体外多糖産生ビフィズス菌)の経口投与は、コントロールのPBSのみ経口投与と比べて、耳介厚の増加を有意に抑制した(
図4)。耳介の組織学的観察の結果もまた、ビフィドバクテリウム・ロンガムJBL05株の生菌体(菌体外多糖産生ビフィズス菌)の経口投与が、耳介に誘導される炎症を抑制し、耳介厚の増加を抑制することを示した(
図5)。すなわち、抗アレルギー作用を示した。
【0075】
(実施例6:ビフィズス菌産生多糖の塗布による抗アレルギー作用)
NC/Ngaマウス(7週齢、雄、日本エスエルシー)9匹の右耳介に、アセトン(ナカライテスク)に溶解した0.5%の2,4,6-トリニトロ-1-クロロベンゼン(TNCB)(東京化成工業株式会社)を10μl塗布し(感作)、そして左耳介に、アセトンのみを同量塗布した。さらにTNCB塗布(感作)開始後4日目から1日おきに本処置を2回繰り返した。耳介皮膚厚が均等になるように群分けした(各群3匹)。感作開始後9日目から、3匹に、実施例1で調製した精製多糖画分を水に溶解(1mg/ml)し、耳介表裏に各20μlずつ、毎日塗布した。別の3匹にコントロールとして水を、さらに別の3匹にポジティブコントロールとして水に溶解したプレドニゾロン(25mg/ml)を同様に塗布した。ビフィズス菌産生多糖、水、またはプレドニゾロンを塗布する30分以上前に、2日に1回TNCBを塗布した。感作開始日から、TNCBの塗布ごとに耳介の厚さをノギスで測定した。測定は、毎回同じ条件で、同一試験者が行い、平均値を求めた(各群3匹)。
【0076】
図6は、ビフィズス菌産生多糖を塗布したマウスの耳介皮膚厚平均値の感作開始後の経時変化(各群3匹)を示すグラフである。縦軸は耳介皮膚厚(mm)を表し、横軸は感作後経過日数(日)を表す。黒丸はコントロール(水のみ)塗布群、白丸はポジティブコントロール(プレドニゾロン)塗布群、黒三角はビフィズス菌産生多糖塗布群を表す。
【0077】
精製多糖画分(ビフィズス菌産生多糖)の塗布は、ポジティブコントロールのプレドニゾロンと同様に、コントロールの水のみ塗布と比べて、耳介厚の増加を抑制した(
図6)。すなわち、塗布によっても抗アレルギー作用を示した。