(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(c)工程は、前記被験試料群の一つの前記オーバーラップペプチドについて得られる平均被験強度情報と、対応する前記オーバーラップペプチドの平均対照強度情報と、に基づいて、前記一つのオーバーラップペプチドの前記特異的結合が肯定されるとき、前記一つのオーバーラップペプチドを前記第1のエピトープ又はその候補とする工程である、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
前記(c)工程は、前記被験試料群の一つの前記オーバーラップペプチドを含んで所定数連続する複数のオーバーラップペプチドについて得られる複合被験強度情報と、対応する複数のオーバーラップペプチド毎の対照強度情報から得られる複合対照強度情報と、に基づいて、前記所定数連続する複数のオーバーラップペプチド全体として前記特異的結合が肯定されるとき、前記一つのオーバーラップペプチドを前記第1のエピトープ又はその候補とする工程である、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
前記(c)工程は、前記被験試料群の一つの前記オーバーラップペプチドについて得られる平均被験強度情報と、対応する前記オーバーラップペプチドの平均対照強度情報と、に基づいて、前記一つのオーバーラップペプチドの前記特異的結合が肯定され、かつ、
前記一つのオーバーラップペプチドを含んで所定数連続する複数のオーバーラップペプチドについて得られる複合被験強度情報と、対応する前記複数のオーバーラップペプチド毎の平均対照強度情報から得られる複合対照強度情報と、に基づいて、前記所定数連続する複数のオーバーラップペプチド全体として前記特異的結合が肯定されるとき、前記一つのオーバーラップペプチドを前記第1のエピトープ又はその候補とする工程である、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
請求項1又は2に記載のアレルギー検査方法に用いる、単一アレルゲンに対して脱顆粒を惹起するために有効な2種類以上のアレルゲン特異的エピトープの組み合わせ又はその候補を検出する方法であって、以下の工程;
(a)アレルギー陽性個体に由来する抗体を含有する被験試料と、複数のアレルギー陰性個体に由来する抗体を含有する対照試料群とのそれぞれにつき、
前記単一アレルゲンのタンパク質又はその一部のアミノ酸配列に基づく所定長の複数のオーバーラップペプチドが固定化されたアレイに、前記各群の試料をそれぞれ供給し、前記複数のオーバーラップペプチドと前記1種類又は2種類以上の抗体とを接触させる工程、
(b)前記複数のオーバーラップペプチドにつき、前記1種類又は2種類以上の抗体との特異的結合を検出する工程、及び
(c)前記アレルギー陽性個体につき、
前記各オーバーラップペプチドについて得られる個別の被験強度情報と、前記対照試料群の前記各オーバーラップペプチドについて得られる前記特異的結合の強度に関する平均対照強度情報とに基づいて、前記特異的結合が肯定される1種類又は2種類以上のオーバーラップペプチドを前記アレルゲン特異的エピトープの組み合わせを構成する第1のエピトープ又はその候補とし、当該第1のエピトープ又はその候補以外の他の前記オーバーラップペプチドから、前記平均対照強度情報に基づいて得られる臨界値以上あるいは当該臨界値を超える個別被験強度情報を有する1種又は2種以上の前記オーバーラップペプチドを前記アレルゲン特異的エピトープの組み合わせを構成する第2のエピトープ又はその候補とする工程、
を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】個体群の判別に有用な第1のエピトープの決定方法の概要を示す図である。
【
図2】個体群の判別に有用なエピトープのペアの決定方法の概要を示す図である。
【
図3】牛乳アレルギー陽性検体群についてβ−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図3〜
図5における配列No.1〜51は、配列番号1〜51のアミノ酸配列に対応している。
【
図4】牛乳アレルギー過敏症検体群についてβ−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図5】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてβ−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図6】牛乳アレルギー陽性検体群についてα−ラクトアルブミンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図6〜
図8における配列No.1〜40は、配列番号52〜91のアミノ酸配列に対応している。
【
図7】牛乳アレルギー過敏症検体群についてα−ラクトアルブミンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図8】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてα−ラクトアルブミンタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図9】牛乳アレルギー陽性検体群についてαs1−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図9〜
図11における配列No.1〜63は、配列番号92〜154に対応している。
【
図10】牛乳アレルギー過敏症検体群についてαs1−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図11】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてαs1−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図
【
図12】牛乳アレルギー陽性検体群についてαs2−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図12〜
図14における配列No.1〜66は、配列番号155〜220に対応している。
【
図13】牛乳アレルギー過敏症検体群についてαs2−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図14】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてαs2−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図15】牛乳アレルギー陽性検体群についてβ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図15〜
図17における配列No.1〜67は、配列番号221〜287に対応している。
【
図16】牛乳アレルギー過敏症検体群についてβ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図17】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてβ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図18】牛乳アレルギー陽性検体群についてκ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。なお、
図18〜
図20における配列No.1〜53は、、配列番号288〜340に対応している。
【
図19】牛乳アレルギー過敏症検体群についてκ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図20】牛乳アレルギー弱陽性検体群についてκ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の決定に用いたオーバーラップペプチドの番号、個々の識別番号、アミノ酸配列等を示す図である。
【
図21A】β−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図3に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図21B】β−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図3に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図22】α−ラクトグロブリンタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図6に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図23A】αs1−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図9に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図23B】αs1−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図9に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図24A】αs2−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図12に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図24B】αs2−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図12に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図25A】β−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図15に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図25B】β−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図15に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図26A】κ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図18に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図26B】κ−カゼインタンパク質のエピトープ又はその候補の解析結果を示す図であり、濃グレーの区画は、該当患者数が95パーセンタイル以上の組合わせを示し、中濃グレーの区画は、該当患者数が90パーセンタイル以上の組合わせを示す。縦及び横の項目欄には、
図18に示すオーバーラップペプチドの番号を示す。
【
図27】患者番号8において、アレルギー反応の誘発に関与すると考えられる2つIgEの組み合わせを示す。
【
図28A】実施例2のペプチドアレイの解析によって得られた10個のエピトープせットナーのうち、5個のエピトープセットの内容を示す図である。
【
図28B】実施例2のペプチドアレイの解析によって得られた10個のエピトープせットナーのうち、残り5個のエピトープセットの内容を示す図である。
【
図29】実施例2のテスト群についてのピークセットに含まれるエピトープペアに対する反応性の表を示す図である。
【
図30A】実施例2の学習群についてのピークセットに含まれるエピトープペアに対する反応性の表を示す図である。
【
図30B】実施例2の学習群についてのピークセットに含まれるエピトープペアに対する反応性の表を示す図である。
【
図30C】実施例2の学習群についてのピークセットに含まれるエピトープペアに対する反応性の表を示す図である。
【
図30D】実施例2の学習群についてのピークセットに含まれるエピトープペアに対する反応性の表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アレルゲンのエピトープ又はその候補を検出する方法に関する。本発明によれば、アレルギー症状の発現に重要なエピトープ又はその候補の組み合わせを取得できる。本検出方法によって決定される第1のエピトープ又はその候補は、被験試料群、すなわち、アレルギー陽性個体に共通性の高い重要なエピトープであるとともに、エピトープのセットを決定するのに重要な要素である。また、本検出方法によって決定される第2のエピトープ又はその候補は、多くのアレルギー陽性個体においてアレルギー反応を誘起する可能性の高い重要なエピトープセットであるといえる。
【0018】
また、こうして取得したエピトープ又はその候補の組み合わせを取得することで、偽陽性結果を抑制又は回避したアレルギー疾患の診断法を提供できるほか、アレルギー疾患の予防及び治療に役立てることができる。
【0019】
(アレルゲンのエピトープ又はその候補の検出方法)
(抗原抗体反応実施工程)
本発明のエピトープ又はその候補の検出方法は、まず、(a)被験試料として、複数のアレルギー陽性個体に由来する抗体を含有する被験試料群と、複数のアレルギー陰性個体に由来する抗体を含有する対照試料群とのそれぞれにつき、可能性あるアレルゲンタンパク質又はその一部のアミノ酸配列に基づく所定長の複数のオーバーラップペプチドが固定化された固相担体に、前記各群の試料をそれぞれ供給し、前記複数のオーバーラップペプチドと抗体とを接触させる工程を実施する。この工程により、オーバーラップペプチドと試料に含まれる抗体とを接触させて、抗原−抗体反応を生じさせることができる。
【0020】
被験試料は、アレルギー陽性個体に由来する抗体を含有する。被験試料は、抗体を含んでいればよく、特に限定されないが、例えば、アレルギー陽性個体から採取される血液や血清などが用いられる。アレルギー陽性個体は、ヒトの他、非ヒト動物であってよい。アレルギー陽性個体は、同一のアレルゲンに対するアレルギー陽性個体とする。例えば、牛乳、卵など個々の食品に対するアレルギー陽性個体、スギ花粉、ヒノキ花粉等、植物又はその部分に対するアレルギー陽性個体、ダニなど動物又はその部分に対するアレルギー陽性個体、真菌に対するアレルギー陽性個体等は、それぞれ同一のアレルゲンに対する陽性個体である。なお、同一のアレルゲンは、同一のタンパク質にまで限定されていてもよい。
【0021】
被験試料群は、複数の被験試料の集合である。被験試料群を構成する被験試料の数は特に限定されない。また、被験試料群を構成する被験試料の採取源であるアレルギー陽性個体は、アレルギー症状の程度やIgE抗体レベルが一定範囲に限定されていることが好ましい。アレルギー症状の程度等が大きく異なる場合、抗体が認識するエピトープも相違する可能性があり、重要なエピトープ及びセットを決定するのが困難になる場合もあるからである。したがって、所定のアレルギー症状やIgE抗体レベルの範囲のアレルギー陽性個体由来の被験試料からなる複数の被験試料群を準備してもよい。
【0022】
対照試料群は、複数の対照試料の集合である。対照試料の数は特に限定されない。対照資料の採取源であるアレルギー陰性個体は、少なくともアレルギー陽性個体のアレルゲンに対するアレルギー陰性個体である。アレルギー陰性個体は、例えば、アレルギー症状やIgE抗体レベルで決定することができる。
【0023】
オーバーラップペプチドは、可能性あるアレルゲンタンパク質又はその部分のアミノ酸配列に基づいて、適当な長さ(例えば、12〜25残基程度)で、オーバーラップ(配列の重複領域)が、例えば、8〜17残基程度となるように設計する。好ましくは、アレルゲンタンパク質の一次構造を全てカバーするアミノ酸配列にわたってオーバーラップペプチドを準備する。オーバーラップペプチドの各アミノ酸配列は、例えば、アレルゲンタンパク質のアミノ酸配列のN末端からC末端の方向に向かって所定長さのアミノ酸配列を、所定の残基づつずらして、所定残基数が重複することとなるように順次決定していくことができる。一定長さの重複領域を一つのアレルゲンタンパク質について準備するオーバーラップペプチドの数は、カバーする一次構造の大きさやオーバーラップペプチドの長さ及びオーバーラップ残基数によって異なる。牛乳アレルギーなど複数のタンパク質がアレルゲンとして関与する場合には、これらの複数のアレルゲンタンパク質から選択される1種又は2種以上のアレルゲンタンパク質につき、オーバーラップペプチドを準備することができる。
【0024】
例えば、牛乳アレルギーについてのエピトープを検出する場合には、アレルゲンタンパク質としては、主要な6つのミルクアレルゲンタンパク質であるα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、α
s1−カゼイン、α
s2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインから選択される1種又は2種以上が挙げられる。エピトープの検出にあたっては、これら全てのアレルゲンタンパク質について、オーバーラップペプチドをそれぞれ取得してもよいし、一部であってもよい。
【0025】
オーバーラップペプチドは、適当な固相担体に固定化される。固相担体は、抗原抗体反応の反応系で溶媒に不溶な担体であれば、その材質及び形状は特に制限されず、公知の固相担体が使用できる。固相担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すれば良く、例えば、テストプレート状、ビーズ状、球状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が挙げられる。好ましくは、固相担体は、テストプレート状、ディスク状、フィルター状等の平板状である。また、その材質としては、通常の免疫測定法用担体として用いられるもの、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等の合成樹脂、または、これらに公知の方法によりスルホン酸基、アミノ基などの反応性官能基を導入したもの、ガラス、多糖類、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物等が挙げられる。
【0026】
固相担体へのエピトープポリペプチドの固定化方法は、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用できるが、特に限定されない。当業者であれば、公知の方法から適宜選択してオーバーラップペプチドを固相担体に固定化することができる。
【0027】
固相担体に固定化されたオーバーラップペプチドに対して被験試料群の各被験試料及び対象試料群の各対照試料をそれぞれ供給して、オーバーラップペプチドと抗体との抗原抗体反応を生じさせる条件を付与する。かかる条件は、適宜決定される。
【0028】
(抗原抗体反応の検出工程)
次に、複数のオーバーラップペプチドにつき、各試料中の抗体との特異的結合を検出する工程を実施する。固相担体上での抗原抗体反応は、従来のイムノアッセイに用いられる標識物質を用いて検出することができる。標識物質としては、蛍光物質、発光物質、色素、酵素、補酵素、あるいはラジオアイソトープ等が挙げられる。標識物質は、エピトープポリペプチドや該エピトープポリペプチドに結合する抗体に対する二次抗体に直接結合して標識することができる。あるいは標識物質を認識する抗体やアビジン−ビオチン系などを利用して間接標識することもできる。特異的結合は、こうした標識物質に基づくシグナルの種類に応じた検出装置を用いて検出する。検出したシグナル強度は、特異的結合した抗体量に関連付けすることができる。
【0029】
(第1のエピトープ又はその候補の決定工程)
次に、第1のエピトープ又はその候補を決定する工程を実施する。第1のエピトープ又はその候補は、オーバーラップペプチドから選択される。各被験試料につき得られる固相担体上のオーバーラップペプチドについての個別のシグナル強度情報(以下、個別被験強度情報という。)が得られる。これらの個別被験情報から、被験試料群につき、同一のオーバーラップペプチドについての全ての個別被験強度情報の平均化したシグナル強度情報(平均被験強度情報という。)を得ることができる。平均被験強度情報は、例えば、全ての個別被験強度情報の単純平均とすることができる。
【0030】
一方、各対照試料につき得られる固相担体上のオーバーラップペプチドについての個別のシグナル強度情報(以下、個別対照強度情報という。)が得られる。これらの個別対照情報から、対照試料群につき、同一のオーバーラップペプチドについての全ての個別対照強度情報を平均化したシグナル強度情報(平均対照強度情報という。)を得ることができる。例えば、平均対照強度情報は、例えば、全ての個別対照強度情報の単純平均とすることができる。
【0031】
そして、個々のオーバーラップペプチドについて、得られた平均被験強度情報と平均対照強度情報とに基づいて、被験試料の抗体との特異的結合が肯定されるかどうかを判定する。具体的には、特定のオーバーラップペプチドについて得られる平均被験強度情報が平均対照強度情報に対して有意に高いといえるかどうかを判定する。判定方法としては例えば、以下の方法(1)〜(3)が挙げられる。
【0032】
(1)特定の一つのオーバーラップペプチドにつき、平均被験強度情報が平均対照強度情報よりも高く、t検定を両側検定で行うことより被験試料群と対照試料群で、例えば、p<0.05を充足するかどうかを判定し、p<0.05を充足するとき、特定の一つのオーバーラップペプチドと被験試料群の抗体との特異的結合を肯定する。
【0033】
(2)特定の一つのオーバーラップペプチを含む複数の連続するオーバーラップペプチドの平均被験強度情報を平均化した複合被験強度情報が、対照試料についても同様にして得られる複合対照強度情報よりも高く、t検定を両側検定で行うことより被験試料群と対照試料群で、例えば、p<0.05を充足するかどうかを判定し、p<0.05を充足するとき、特定の一つのオーバーラップペプチドと被験試料群の抗体との特異的結合を肯定する。
【0034】
なお、上記(2)において、特定の一つのオーバーラップペプチドを中心として前後所定の配列を含んで連続するオーバーラップペプチドとしては、例えば、前後2配列づつあるいは前後3配列づつを含む5連続又は7連続のオーバーラップペプチドとしてもよい。複合対照強度情報についても、同様である。また、これらの複合強度情報は、それぞれ、所定の平均被験強度情報の単純平均及び平均対照強度情報の単純平均とすることができる。
【0035】
(3)上記(1)かつ上記(2)を充足するとき、特定の一つのオーバーラップペプチドと被験試料群の抗体との特異的結合を肯定する。
【0036】
上記(1)〜(3)を適宜選択して用いることができるが、いずれの手法によって選択されるものであっても、重要なエピトープ又はその候補であるが、(3)が被験試料群に共通する重要なエピトープ又はその候補を検出するのに適している。なお、上記(1)〜(3)においては、上記説明で用いた以外の検定手法や有意水準を適用してもよい。
【0037】
以上のようにして、抗体との特異的結合が肯定されたオーバーラップペプチドを、アレルゲンにおける第1のエピトープ又はその候補とすることができる。好ましくは、全てのオーバーラップペプチドにつき、この工程を実施し、個々のオーバーラップペプチドが、被験試料群の抗体と特異的結合が肯定できるかどうかを判定し、第1のエピトープ又はその候補となりえるかどうかを判定する。こうして決定した第1のエピトープ又はその候補は、被験試料群、すなわち、アレルギー陽性個体に共通性の高い重要なエピトープであるとともに、エピトープのセットを決定するのに重要な要素である。
【0038】
第1のエピトープ又はその候補は、基本的には、特定の一つのオーバーラップペプチドであるが、連続する複数のオーバーラップペプチドが第1のエピトープ又はその候補であると決定されたときには、これら一連のオーバーラップペプチドを第1のエピトープ又はその候補としてもよい。オーバーラップペプチドはそれぞれオーバーラップを有しており、連続するオーバーラップペプチドを異なる第1のエピトープとすると、第2のエピトープを正確に決定できない場合もあるからである。
【0039】
(第2のエピトープ又はその候補の決定工程)
さらに本検出方法では、第2のエピトープ又はその候補の決定工程を実施する。この工程は、被験試料群から選択される被験試料に関し、既に前段の工程で決定した第1のエピトープ又はその候補に相当するオーバーラップペプチドが、当該被験試料の個別被験強度情報と対照強度情報とに基づいて、被験試料中の抗体との特異的結合が肯定されるかどうかを判定する。換言すれば、被験試料群において決定された第1のエピトープ又はその候補が、個別の被験試料においても第1のエピトープ又はその候補とすることができるかどうかを判定する。判定方法は、被験試料群について第1のエピトープ又はその候補となるかどうかの判定手法を、個々の被験試料につき適用することができる。好ましくは、上記(3)の手法を採用する。
【0040】
個々の被験試料につき、被験試料群について予め決定された第1のエピトープ又はその候補が存在すると判定できたとき、当該第1のエピトープ又はその候補以外の他のオーバーラップペプチドから、これらの平均対照強度情報に基づいて得られる臨界値以上あるいは当該臨界値を超える個別被験強度情報を有するオーバーラップペプチドがあるかどうかを判定する。ここで、平均対照強度情報に基づいて得られる臨界値は、例えば、平均対照強度情報に対して標準偏差(SD)の適当な倍数を増減したものとすることができる。具体的には、平均対照強度情報±1〜2SD等とすることができる。典型的には、平均対照強度情報±2SDである。
【0041】
判定は、臨界値を基準とすればよく、オーバーラップペプチドの個別被験強度情報が臨界値以上あるいは臨界値を超えるかどうかで行う。「以上」か「超える」かは、いずれかとすればよく、臨界値の種類等に応じて適宜決定される。
【0042】
特定のオーバーラップペプチドが臨界値以上又は臨界値を超える個別被験強度情報を有しているとき、当該特定オーバーラップペプチドを、アレルゲンにおける特定の第1のエピトープ又はその候補についての第2のエピトープ又はその候補と決定する。こうして決定された第2のエピトープ又はその候補は、その被験試料、ひいてはアレルギー陽性個体において、第1のエピトープ又はその候補と対又は対となってアレルギー反応を誘起する可能性の高いエピトープである。
【0043】
また、被験試料毎についての個別のエピトープ又はその候補の決定を、既に説明したアレルギー陽性個体群の被験試料群についてのエピトープ又はその候補の決定工程において併せて行ってもよい。すなわち、被験試料毎につき、上記被験試料群についての第1のエピトープ又はその決定工程に準じた方法で第1のエピトープ又はその候補を決定する。すなわち、被験試料群の平均被験強度情報を用いるのでなく、個別被験強度情報を用いて被験試料毎の第1のエピトープ又はその候補を決定する。そして、この第1のエピトープ又はその候補に組み合わせできる第2のエピトープ又はその候補を、上記と同様にして決定する。
【0044】
こうすることで、被験試料群全体としては、第1のエピトープ又はその候補としては決定できないが、個別の被験試料において固有の第1のエピトープ又はその候補として決定したオーバーラップペプチドに対して組み合わせ可能な第2のエピトープとなるオーバーラップペプチドを検出できる。こうした個体特異的なエピトープの組み合わせの存在が、より多くの個体において肯定されるときには、診断に有用であると考えられる。
【0045】
被験試料群につき、第2のエピトープ又はその候補を決定するには、オーバーラップペプチド毎に、第2のエピトープ又はその候補に該当すると判定された被験試料の個数情報を取得し、これらの個数情報を利用することが好ましい。個数情報が大きい、すなわち、第2のエピトープ又はその候補とする被験試料が多いオーバーラップペプチドは、被験試料群に共通する第2のエピトープといえるからである。
【0046】
例えば、被験試料群の被験試料の総数に対して所定割合以上の被験試料において第2のエピトープ又はその候補に該当するとされたオーバーラップペプチドを、被験試料群に共通の第2のエピトープ又はその候補とすることができる。判定基準の所定割合とは、例えば、好ましくは90パーセンタイル以上、より好ましくは、95パーセンタイル以上等とすることができる。ここでいう所定割合は、第2のエピトープに該当するオーバーラップペプチドの数や被験試料総数及び被験試料数に応じて適宜決定される。
【0047】
このようにして、第1のエピトープ又はその候補に対して第2のエピトープ又はその候補が決定される。こうして決定された被験試料群の第1のエピトープ又はその候補と第2のエピトープ又はその候補は、多くのアレルギー陽性個体においてアレルギー反応を誘起する可能性の高い重要なエピトープセットであるといえる。
【0048】
以上の説明においては、対照試料群についての抗原抗体反応工程及び検出工程を行うものとしたが、対照試料群につき標準的な平均対照強度情報等が既に得られていれば、実際の工程実施に替えて、こうした情報を用いて第1のエピトープ又はその候補及び第2のエピトープ又はその候補を決定することができる。
【0049】
また、以上の説明においては、被験試料群に共通する第1のエピトープ又はその候補と第2のエピトープ又はその候補を検出することを重点的に説明したが、後段にて説明するように、被験試料群に含まれる個々の被験試料につき、個々の第1のエピトープ又はその候補と第2のエピトープ又はその候補を検出するように実施することもできる。
【0050】
(アレルギー陽性個体のエピトープ又はその候補を検出する方法)
本発明は、個々のアレルギー陽性個体についてのアレルゲンのエピトープ又はその候補を検出する方法にも関する。検出方法は、既に説明した検出方法において、被験試料群に含まれる個別の被験試料につき、第1のエピトープ又はその候補及び第2のエピトープ又はその候補を決定するものとしてもよい。具体的には、第1のエピトープ又はその候補の決定工程を、個別の被験強度情報と平均対照強度情報に基づいて実施し、決定された第1のエピトープ又はその候補について、被験試料についての第2のエピトープ又はその候補を、個別被験強度情報と平均対照強度情報とに基づいて決定すればよい。また、アレルギー陽性個体のエピトープ又はその候補を検出するには、個別の被験試料について抗原抗体反応及び検出工程を実施すればよく、被験試料群としてこれらの工程を実施しなくてもよい。こうした個体特異的なエピトープの組み合わせを決定することで、より確度の高い診断が可能となる。
【0051】
(エピトープペプチド)
本発明によれば、牛乳アレルギー等のアレルゲンタンパク質のエピトープペプチド又はそのセットが提供される。エピトープペプチド及びそのセットは、牛乳アレルギーの診断、治療等に有用である。特に、本発明で特定されたエピトープペプチドのセットは、アレルギー症状の発現を誘発するのに関連が深いエピトープの組み合わせであるため、このセットを用いることで、偽陽性(アレルギー症状は発現しないがアレルゲンに対してIgEが高い検体)であるとの診断結果を回避してより確度の高い診断が可能である。
【0052】
例えば、アレルギー疾患のアレルゲンタンパク質のエピトープペプチド又はエピトープペプチドのセットに該当する可能性として検出されたペプチド(オーバーラップペプチド)に対して陽性(特に、エピトープペプチドセットの双方にペプチドに陽性)である検体(血清)は、アレルギー陽性検体であると判定できる。また、これらのエピトープに反応しない検体は陰性であり、エピトープペプチドセットの一方にしか反応しない検体も陰性であると判定できる。エピトープペプチドセットの一方にしか反応しない検体は、従来偽陽性として判断されていた検体(従来の抗原抗体反応による検査においては陽性であるがアレルギー症状が発現しない検体)に相当する。したがって、本発明のエピトープペプチド又はそのセットによれば、従来の検査方法では排除できなかった偽陽性検体を確実に排除できることになる。
【0053】
また、本発明のエピトープペプチド又はそのセットを用いることにより、従来のアレルギー検査においては患者に負担の大きいアレルゲン負荷試験をしなければ確定診断ができなかったところ、そのような負荷試験を回避して、しかも、偽陽性及び偽陰性の判定を回避又は抑制し、確度の高い判定が可能となっている。
【0054】
以上のことから、本明細書の開示におけるアレルギー検査方法は、アレルギー反応の発現に関連する2種以上のエピトープをそれぞれ含む2種以上のエピトープペプチドに対して、アレルギー疾患の可能性のある個体に由来する抗体を含有する被験試料を供給し、前記2種類以上のエピトープペプチドと前記抗体と接触させる工程と、前記2種類以上のエピトープペプチドにつき、前記抗体との特異的結合を検出する工程と、を備えることができる。これら2種類以上のエピトープペプチドは、上記の決定方法によって決定された第1のエピトープペプチドと第2のエピトープペプチドとを含むことができる。
【0055】
後述するように、エピトープペプチド又はそのセットに該当する可能性のペプチドを、各種形態でアレルギー検査又はそのキットとすることができるが、好ましくは、固相担体に固定化された形態を備える。固相担体は、好ましくはプレート等の平板状であり、いわゆるアレイ(ペプチドアレイ)の形態を採ることがより好ましい。例えば、食物負荷試験を代替するのに好ましい形態としては、所定のアレルギー疾患に関して可能性ある全てのアレルゲンタンパク質について検出されたエピトープペプチド又はそのセットに該当するオーバーラップペプチドが固定化されたペプチドアレイが挙げられる。
【0056】
本発明のエピトープペプチド又はそのセットとして用いることができるペプチドは、表1及び2に示すアミノ酸配列をそれぞれ有することができる。第1のエピトープとして好ましいものを表1に示す。これらの第1のエピトープ又はその候補は、
図21〜26において、各アレルゲンタンパク質毎に付けられた番号部分(縦及び横の項目欄)において色付け(最淡グレー色)して示した。また、好ましい組み合わせのエピトープペプチドのセットは、
図21〜
図26における濃グレー及び中濃グレーで着色した区画に相当する組み合わせが挙げられる。なかでも、濃グレーで着色した区画に相当する組み合わせが各アレルゲンタンパク質のエピトープセットとして用いるのに好適なエピトープペプチドの組み合わせである。また、これらの好ましい組み合わせの区画(濃グレー区画及び中濃グレー区画)であって、好ましい第1のエピトープをあわせ有する区画(最淡グレーで特定した領域内にある区画)がより多くの陽性患者において共通性があり重要な組み合わせである。一方、最淡グレー領域外にある濃グレー区画及び中濃グレー区画は、より個体特異的であるが重要な組み合わせである。
【0058】
本発明のエピトープペプチドは、特定される配列番号で表されるアミノ酸配列を少なくとも部分配列として含んでいる限り、そのアミノ酸残基数は特に限定されない。典型的には、特定されるアミノ酸配列からなる。なお、本発明のエピトープペプチドは、公知の手法によりアミノ酸置換、欠失あるいは付加などの修飾が加えられていてもよい。治療用途に適した溶解性や抗原抗体反応性を付与することも可能である。
【0059】
本発明のエピトープペプチドは公知のペプチド合成方法、例えば全自動ペプチド合成装置、酵母、大腸菌、哺乳動物細胞等による遺伝子組換えを用いた方法により製造することができる。
【0060】
本発明のエピトープペプチド、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態であってもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)の塩等が挙げられる
【0061】
本発明のエピトープペプチドを牛乳アレルギーの診断に用いる場合、各種のイムノアッセイの形態を採ることができる。例えば、標識免疫測定試薬で行われているように標識物質を利用して発色、発光、蛍光として上記抗原抗体反応を検出する方法、免疫学的凝集試薬で行われているように不溶性担体の凝集として目視や濁度により上記抗原抗体反応を検出する方法などのイムノアッセイが採用できる他、適当な固相担体に固定して用いることもできる。固相担体及び固定化方法としては既に説明したものを同様に用いることができる。好ましくはペプチドアレイの形態である。
【0062】
本発明のエピトープペプチドは牛乳アレルギー陽性個体(ヒトなど)に投与したとき、その個体の牛乳由来のアレルゲンに対するアレルギー応答を調節することができるので、減感作療法等のペプチド免疫療法に有用である。特に本発明のエピトープセットを用いることができる。
【0063】
本発明のエピトープペプチドを、牛乳アレルギー陽性個体に対する減感作療法等のペプチド免疫療法に使用する場合は、製薬上許容しうる適当な希釈剤、担体と組み合わせて使用することができる。牛乳アレルギー陽性個体としては、上記した各種アレルゲンタンパク質をと免疫学的に交差反応性を示す牛乳アレルギー陽性個体を含んでいる。
【0064】
投与方法には、注射(皮下、静脈注射等)、点眼、点鼻、経口、吸入、経皮などの簡便な方法を用いることができ、投与量としては、個体の年齢、体重、感作程度により、適宜決定されるが、注射による場合は、当該ペプチドを1投与量単位当たり、好ましくは約1μg〜50mg程度を投与することができる。経口投与の場合にはそのままあるいは必要に応じDDSの手法を用いてペプチドとして吸収されるようにすることが好ましい。
【0065】
以下、本発明を具体例を挙げて説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するものであって本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0066】
本実施例では、主要な6つのミルクアレルゲンタンパク質(α
s1−カゼイン、α
s2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン)の全アミノ酸配列を網羅した16-残基、3-オフセット(オーバーラップ13残基)からなるペプチドアレイを用いて、牛乳アレルギー患者の血清中のIgEの分析を行った。牛乳アレルギー陰性検体群(22検体)と比較し、牛乳アレルギー陽性検体群(61検体)、超過敏症検体群(9検体)、牛乳アレルギー弱陽性群(30検体)で有意にIgEの結合が認められるペプチド(IgE結合エピトープ領域)を特定した。実際のアレルギー症状の発現には患者血清中の2つのエピトープに対するIgEの組み合わせが必要であるため、牛乳アレルギー陽性検体群(61検体)に関しては牛乳アレルギーの誘発に関与する2つのペプチドの組み合わせを解析した。
【0067】
各群を構成する個体の要件は以下の通りとした。
1.牛乳アレルギー陽性検体(61検体)
過去に以下に定義される“牛乳アレルギー症状”が確認されていること
(1)牛乳負荷試験で、30ml以下の牛乳摂取で即時型反応陽性
(2)30ml以下の牛乳又はそれに相当する乳製品(育児用ミルクでは、60mlに該当)摂取で即時型反応
(3)牛乳を含む加工品で即時型反応あり、そこに含まれる他の成分のアレルギーが否定されている
(4)いずれの場合も、摂取から2時間以内に症状が確認されていること
【0068】
2.牛乳「超」過敏症検体(9検体)
(1)乳幼児期から牛乳アレルギーの既往(誘発症状)があって牛乳アレルギーの診断が確定している
(2)年齢が5歳を超えてから、牛乳の摂取・接触又は吸入によって即時型のアレルギー症状の経験がある。現在の年齢は問わない
(3)症状は、体の広範囲に及ぶ皮膚症状(紅斑・膨疹・浮腫)、呼吸器症状(咳、喘鳴、呼吸困難)、消化器症状(腹痛、嘔吐)、循環器症状の一つ以上を含む(湿疹の悪化、口腔粘膜症状のみ、接触部位に限定した蕁麻疹、下痢のみ、は除く)
(4)摂取から2時間以内に症状が出現している
(5)症状を誘発した牛乳含有食品が、以下のいずれかに該当する(負荷試験か誤食かは問わない)
10ml以下の牛乳又はそれに相当する乳製品、牛乳をわずかに含む加工品(ただし、同時に含まれる他の成分(卵や小麦など)のアレルギーが否定されていること)、乳成分のコンタミネーションや牛乳との接触・乳製品を加熱した水蒸気の吸入、乳成分を含有することがわかっている医薬品(ラックB、エンテロノン、メイアクト)
(6)牛乳特異的IgE抗体陽性(クラス1以上)
(7)乳幼児期から現在まで、牛乳完全除去を継続している。ただし、乳糖と治療用加水分解乳(ミルフィー、MA−1、MA−mi、ペプディエット)は摂取可能であってもよい
【0069】
3.牛乳アレルギー弱陽性群(30検体)
(1)牛乳アレルギー陽性検体」の定義を満たす
(2)牛乳IgE(CAP−RAST)クラス3以下
【0070】
(1)ペプチドアレイの作製
ペプチドアレイは、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、α
s1−カゼイン、α
s2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインの6種のアレルゲンタンパク質につき、それぞれ、配列番号1〜51、配列番号52〜91、配列番号92〜154、配列番号155〜220、配列番号221〜287、配列番号288〜340に記載のオーバーラップペプチドを化学合成し、ペプチドアレイを作製した。ペプチドへのアレイへの固定化は以下の通りとした。なお、固相担体としては、ガラス基板を用いた。その後、イムノアッセイ(検体の供給及び蛍光検出)を行い、検出した蛍光強度を数値化した。なお、蛍光スキャナーは、Agilent社製scanner model G2505B, software G2565BA/DAを用い、数値解析ソフトとしては、Axon社製Gene Pix.Proを用いた。
【0071】
(2)ペプチドの固定化
a)80℃で1時間加熱処理をした
b)(2×SSC,0.2%SDS)溶液に15分間浸漬した(室温)
c)(2×SSC,0.2%SDS)溶液に5分間浸漬した(95℃)
d)滅菌水中で10回程度振とうした(3回)
e)遠心乾燥する
【0072】
(3)イムノアッセイ
a)(50mMEthanolamine,0.1% SDS,0.1MTris(hydroxymethyl)aminomethane)溶液に90分間浸漬した(室温)
b)PBS−T(1×PBS,0.1% Tween20)溶液に5分間浸漬した(室温、3回)
c)(1% OVA,PBS−T)溶液で希釈した患者血清(1:10)200μLアプライした担体をマイクロカバーガラス(松浪ガラス社製size24×60mm、thickness No.4)で覆い、Humid chamber(Sigma社)内で1時間静置した(37℃)
d)c)で反応中の担体を4℃の環境下に移し、一晩静置した
e)PBS−T溶液中でマイクロカバーガラスを外した。
f)PBS−T溶液に5分間浸漬した(室温、3回)
g)(1%OVA、PBS−T)溶液で希釈したGoat anti−human IgE−Alexa647 polyclonal antibodies(1:500)200μLをc)と同様の手順で反応させ、暗所にて3時間静置した(室温)
h)PBS−T溶液中でマイクロカバーガラスを外す
i)PBS−T溶液に5分間浸漬した(室温、3回)
j)滅菌水中で10回程度振とうした(3回)
【0073】
(4)エピトープ解析
(a)第1のエピトープ又はその候補の決定
得られた蛍光強度情報を用いて、牛乳アレルギー陰性検体群と比較し、牛乳アレルギー陽性検体群(61検体)、超過敏症検体群(9検体)、牛乳アレルギー弱陽性群(30検体)で有意にIgEの結合が認められるエピトープ領域を下記の手順(
図1参照)で特定した。
【0074】
まず、最初に、シングルピーク(一つのオーバーラップペプチド)で患者群の平均蛍光強度値が陰性群より高く、t検定を両側検定で行うことより患者群と陰性群でp<0.05を満すペプチドを抽出した(a群)。次に、5配列ピーク(一つのオーバーラップペプチドを含む前後2個づつのオーバーラップペプチドからなる5連続のオーバーラップペプチド)の患者群の平均蛍光強度値が陰性群より高く、t検定を両側検定で行うことより患者群と陰性群でp<0.05を満たすペプチドを抽出した(b群)。a群でありかつb群であるオーバーラップペプチドを抽出した。これらのオーバーラップペプチドは、第1のエピトープ又はその候補に相当する。
【0075】
(b)牛乳アレルギー陽性検体群(61検体)に関して、第2のエピトープ又はその候補の決定及び牛乳アレルギー反応の誘発に関与する2つのエピトープの組み合わせの決定
スキームを
図2に示す。まず、陽性検体群の各検体につき、(a)で決定した第1のエピトープ又はその候補であって、5連続であっても、単独であっても双方において患者群に対して有意性を持つオーバーラップペプチドを抽出し、さらに、抽出したオーバーラップペプチド以外であって、陰性群(22検体)の平均蛍光強度値にその2SDを加えた値以上の強度を示すオーバーラップペプチド(第2のエピトープ又はその候補)を抽出した。陽性検体群の全ての検体についてこの作業を繰り返して、特定の第1のエピトープ又はその候補に対する第2のエピトープ又はその候補となるオーバーラップを有する検体数をオーバーラップペプチド毎に集計した。そして、該当検体数の90パーセンタイル以上で認められた2つのペプチドの組み合わせを抽出した。
【0076】
また、第1のエピトープの上記決定方法に準じて検体個別の蛍光強度値に基づき、牛乳アレルギー陽性検体群に含まれる検体毎にも行って検体個別の第1のエピトープを決定し、当該第1のエピトープに対して組合わせられる第2のエピトープを、上記と同様、陰性群の平均蛍光強度値の2SDを加えて値以上の強度を有するオーバーラップペプチドとしてエピトープのセットを決定し、これをカウントした。
【0077】
(結果)
(1)上記(a)の結果
主要な6つのミルクアレルゲン蛋白(β−lactalbumin、α−lactoglobulin,α
s1−casein,α
s2−casein,β−casein,κ−casein)の全アミノ酸配列を網羅した16−mer、3−offsetからなるオーバーラップペプチドに対し、患者群と陰性群で平均蛍光強度値の比較、t検定の両側検定、患者群で有意にIgEの結合が認められたペプチドの抽出をした結果を
図3〜
図20に示す。
【0078】
図3〜
図20に示すように、患者群は牛乳アレルギー陽性検体群(61検体)、超過敏症検体群(9検体)、牛乳アレルギー弱陽性群(30検体)を牛乳アレルギー陰性検体群(22検体)と比較した。シングルピーク、5配列のピーク、シングルピークかつ5配列のピークで有意差のあるペプチドは牛乳アレルギーの誘発に関与するIgE認識部位として非常に重要な配列候補である。タンパク別で比較すると、牛乳の主要アレルゲンとして特に重要なα
s1−caseinに関してはIgE結合領域がタンパク全体に最も広域に分布するのに対し、α−lactalbuminではほとんどIgE結合領域が認められなかった。なお、アレルギー陽性検体群につき検出した第1のエピトープ又はその候補であるオーバーラップペプチドは、表1に示す通りであった。
【0079】
(2)上記(b)の結果
実際のアレルギー症状の発現には患者血清中の2つのエピトープに対するIgEの組み合わせが必要であるため、次に牛乳アレルギー陽性検体中(61例)で認識される2つのIgE結合ペプチドの組み合わせを解析した。2つのIgE結合ペプチドの組み合わせをもつ陽性患者数をカウントした結果を
図21〜
図26に示す。なお、
図21〜
図26では、縦軸と横軸に示したそれぞれ、2つのペプチドを認識するIgEの組み合わせをもつ牛乳アレルギー陽性検体の数を交差するマス目に表示した。カットオフ値は牛乳アレルギー陰性検体群(22例)の平均蛍光強度値にその2SDを加えた値である。また、軸は同一タンパクのアミノ酸シークエンスのN末からC末の順にペプチドNo.を表記した。これらの図においては、アレルギー陽性検体群につき検出した第1のエピトープ又はその候補(表1参照)であるオーバーラップペプチドを、図毎の配列番号を示した項目欄において最淡グレー色で着色して示した。また、これらの図においては、検体群につき決定した第1のエピトープと第2のエピトープとの組合せのほか、検体群に含まれる個別の検体について決定した第1のエピトープと第2のエピトープとの組み合わせについても併せて記載している。
【0080】
図21〜
図26に示すように、本解析により、アレルゲンタンパク質毎に、患者群で重要性の高いエピトープの分布及びその組み合わせを判定できることがわかった(これらの図において最も濃い濃グレー区画及びそれよりも薄い中濃グレー区画で示す。)。しかも、二次元的に表示することでこれら容易に視覚的に把握できることもわかった。また、5配列と1配列の両方で有意性を持つ第1のエピトープ又はその候補と、カットオフ値以上のピークをもつ第2のエピトープ又はその候補を有する陽性検体カウント数は、患者vs非患者での結合に有意差あり(1seq window,5seq window)の領域でカウントした結果によく対応していた。以上のことから、該当患者数が90パーセンタイル以上の組み合わせに関してはより多くの患者で牛乳アレルギーの誘発を説明しうるIgE認識部位の組み合わせとして特に重要な候補であることがわかった。また、これらの特定のエピトープを選択して診断や治療に用いることができることも容易に理解された。
【0081】
濃グレー区画及び中濃グレー区画は、いずれも重要な組み合わせであるが、図中の区画のうち、アレルギー陽性検体群全体において共通性の高い第1のエピトープであると決定されたペプチドの区画(最淡グレー区画)にある区画は、より共通性が高いという点で重要な組み合わせであり、最淡グレー区画外にある区画は、より個体に特異的であるが重要な組み合わせである。例えば、これらを用いてアレイを作成する場合には、より少ないペプチドを固定する必要があるときには、より共通性の高くて重要な組み合わせを用いることが好ましい。表2〜表11にこれらの結果から得られるβ−ラクトグロブリン、α
s1−カゼイン、α
s2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインのそれぞれについて好ましいエピトープペプチドのセットを示す。
【0082】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【0083】
(3)患者個人レベルでの解析
最後に患者個人で見た場合、アレルギー反応の誘発に関与すると考えられる2つIgEの組み合わせを示す(
図27)。患者8番の血清中に存在するα
s1−caseinのペプチドID(N→C末の順:横軸)を認識するIgE(蛍光強度値:縦軸)の組み合わせを示す。この患者ではα
s1−casein中、5配列と1配列の両方で有意性を持つペプチド(No.52−56)と陰性群(22検体)の平均蛍光強度値にその2SDを加えた値以上のピークもつペプチド(No.2)との組み合わせが、アレルギー症状の誘発に関与している可能性が最も高いことがわかった。
【0084】
以上の結果からペプチドアレイを用いて、血清中IgEが結合する2つのペプチド(エピトープ)の組み合わせを解析することより、牛乳アレルギー症状の誘発を予測することが可能であり、かつこれらを診断及び治療に有用であることがわかった。
【実施例2】
【0085】
本実施例では、160人の牛乳アレルギーの疑いの患者につき、実施例1と同様にして作製した、6種のミルクアレルゲンタンパク質の全アミノ酸配列を網羅した16−残基、3−オフセットからなるペプチドアレイ及びイムノアッセイを用いて、血清中のIgEのエピトープ解析を行った。これらの患者については、既に臨床において牛乳アレルギーに関する診断が確定しているところ(表12)、その確定診断に基づき、これらの患者からテスト群(合計20名;牛乳アレルギー陽性10名、牛乳アレルギー陰性10名)を無作為に選別するとともに、残りを学習群(合計140名;牛乳アレルギー陽性117名、牛乳アレルギー陰性23名)とし、学習群のエピトープ解析から得られた診断に適した複数のエピトープセット(エピトープペア)に対する反応性の有無を診断の基礎として、テスト群及び学習群に適用して、診断確度を評価した。また、こうしたエピトープセットでなく、学習群のエピトープ解析から得られた複数個の単独のエピトープ(シングルエピトープ)に対する反応性の有無を診断の基礎としてテスト群及び学習群に適用して、その診断確度も併せて評価した。なお、陰性患者(健常者)とは、CAP−RASTのクラス判定によれば牛乳アレルギーの疑いはあったが、牛乳負荷試験で症状がでず、陰性が確定した患者である。また、患者(陽性患者)とは、牛乳負荷試験を行ったときアレルギー反応が出た負荷陽性検体(図中、負陽と称するときがある。)及び家庭で症状がでたことがある病歴陽性検体(図中、病陽と称するときがある。)とした。
【0086】
【表12】
【0087】
なお、エピトープ解析は、全てのオーバーラップペプチドにつき、シングルピーク(一つのオーバーラップペプチド)で学習群の平均蛍光強度値が陰性群より高く、t検定を両側検定で行うことより患者群と陰性群でp<0.01(P<0.05を用いてもよい)を満すオーバーラップペプチドを抽出した(条件1)。また、両側検定(Bonferroni)は、ペプチド配列数を先のt−検定に積算し、そのとき、p<0.01となったオーバーラップペプチドを抽出した(条件2)。さらに、陽性患者群の平均蛍光強度値/陰性患者の平均蛍光強度値を算出し、2.0以上となったオーバーラップペプチドを抽出した(条件3)。
【0088】
また、5配列ピーク(一つのオーバーラップペプチドを含む前後2個づつのオーバーラップペプチドからなる5連続のオーバーラップペプチド)の患者群の平均蛍光強度値が陰性群より高く、t検定を両側検定で行うことより患者群と陰性群でp<0.01(P<0.05を用いてもよい)を満たすペプチドを抽出した(条件4)。また、両側検定(Bonferroni)は、ペプチド配列数を先のt−検定に積算し、そのとき、p<0.01(P<0.05を用いてもよい)となったペプチドを抽出した(条件5)。さらに、陽性患者群の平均蛍光強度値/陰性患者の平均蛍光強度値を算出し、2.0以上となったペプチドを抽出した(条件6)。
【0089】
エピトープ候補の選択基準は、以下のとおりとした。
(1)5配列ピーク解析において、少なくとも条件4を充足するとき、一つのエピトープペア片方のエピトープの一つとして好ましく、より好ましくは、条件5又は条件6を充足し、さらに好ましくは条件5及び6を充足するオーバーラップペプチドが挙げられる。
(2)5配列ピーク解析における条件を充足するのに加えて、シングルピーク解析において、少なくとも条件1を充足するものがさらに好ましい。一層好ましくは、条件2又は条件3を充足し、さらに好ましくは条件2及び3を充足するオーバーラップペプチドが挙げられる。
(3)上記(1)、(2)に基づいて、エピトープペアの片方の候補が抽出される。
【0090】
(4)次に、少なくとも、こうして選択されたエピトープペアの片側候補の各オーバーラップペプチドにつき、当該オーバーラップペプチドと、当該オーバーラップペプチド以外のオーバーラップペプチドの双方について、平均蛍光強度値+2SD以上の蛍光値を有するとき、その陽性患者をカウントした。こうして学習群の全ての陽性患者につき、可能性あるエピトープペアに反応性がある陽性患者数を取得した。
【0091】
(5)可能性あるエピトープペアは、2次元のマトリックス上において一つのグリッドあるいはマス目として表示される。このグリッド又はます目にカウントできた陽性患者数を表示し、一定以上のカウントがある場合、あるいは、全陽性患者数の一定割合(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)以上のカウント数があるとき、そのグリッド又はマス目に対応するエピトープペアをより好ましいエピトープペア候補とすることできる。すなわち、可能性あるエピトープペアに関し、学習群の陽性患者数がより高い一定基準を満たすとき、より好ましいエピトープペア候補が選択される。
【0092】
こうしたより好ましいエピトープペア候補は、通常、マトリックス上において異なるエピトープのペアを表示する1のグリッドあるいはマス目(領域)又はこれらの2以上の集合(こうしたエピトープペアの集合を、エピトープセットという。)となって見出される。すなわち、例えば、エピトープペアは、一つの領域(一対のエピトープの組み合わせ)からなる場合もあり、2つの領域からなる場合もあり、さらに多くの領域から構成される場合もある。ここの領域に対応するエピトープセットが2×2の範囲内の領域、3×3の範囲内の領域からなる場合もあるなど、各種の態様が挙げられる。
【0093】
好ましいエピトープペア候補のなかでも、より好ましいエピトープペア候補を、実際に診断に用いるエピトープペアとする。例えば、以下のような点を基準に選択できる。
(1)ペアを構成する片方のエピトープがより高いレベルで条件4等の5配列ピークの要件を充足しているかどうか
(2)ペアを構成する片方のエピトープが、より高いレベルで条件1等のシングルピークの要件を充足しているかどうか
(3)そのエピトープペアに、より多くの陽性患者(絶対数又は全陽性患者に対する割合)が反応しているかどうか
【0094】
以上の選択基準に基づいてエピトープペアを探索したところ、αS1−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインにつき、他のアレルゲンタンパク質より多くのエピトープペアを見出した。
【0095】
こうした作業を経て、本実施例では、
図28A及び
図28Bに示す10個のエピトープセットを選択した。αs1カゼインにつき3セット、βカゼインにつき5セット及びκカゼインにつき2セットであった。それぞれのペプチド番号の右側には、シングルピーク解析及び5配列ピーク解析の各結果を示す。
図28A中、例えば、αS1カゼインのピークセット1は、合計9個のペプチドペアから構成されている。すなわち、ピークナンバーが23、24及び25がそれぞれ第1のエピトープであり、同37、38及び39がそれぞれ第2のエピトープであり、これらの第1のエピトープ及び第2のエピトープの組み合わせは9個である。(合計9ペア)から構成されている。したがって、10個のエピトープセットは、合計80個のエピトープペアを含んでいる。これらのエピトープペアはいずれも、牛乳アレルギーであるかどうかの診断に有効なエピトープペアである。なかでも、
図28A及び
図28Bにおいて、総合判定において二重丸が付されたエピトープを含むピークセット1〜3、ピークセット5、6は判定に好ましく、より好ましくは、総合判定において前記二重丸が付されたエピトープを含むエピトープペアがより好ましいエピトープペアである。
【0096】
以上のようにして学習群から得られた10個のエピトープセット(これらのセットには合計80個のエピトープペアが含まれている。)の各エピトープペアについて、テスト群(20検体)及び学習群(140検体)の各患者が、反応性を有しているかどうかを調べた。すなわち、これらの群に含まれる全ての患者につき、選択された個々のエピトープペアに関して健常者の平均値+2SD以上の蛍光強度値を有しているときに、反応性を肯定し、いずれか一つのエピトープペアにつき反応性が肯定されたとき、牛乳アレルギー陽性と判定することとした。テスト群についての反応性のまとめを
図29に示し、学習群についての反応性のまとめを
図30A〜
図30Dに示す。また、判定結果を表13に示す。なお、カバー率は、表中の「ピークセットのカバーする全領域内で一回でも検出されれば1とし、されなければ0とする」の欄の数値に基づいて算出した。
【0097】
また、学習群の陽性患者において、上記したシングルピーク及び5配列ピークの双方の条件を充足するオーバーラップペプチドを47個選択した。これらの47個のオーバーラップペプチドにつき、テスト群(20検体)及び学習群(140検体)の各患者が、反応性を有しているかどうかを調べた。すなわち、これらの群に含まれる全ての患者につき、選択されたエピトープのペプチドに関して健常者の平均値+2SD以上の蛍光強度値を有しているときに、反応性を肯定した。シングルピーク解析によって得られたエピトープによる判定結果を表14に示す。
【0098】
さらに、CAP−RAST法による結果を合わせて表15に示す。なお、学習群の患者において8名がCAP−RAST法が未測定であったため、これらの患者を判定から排除した。
【0099】
【表13】
【0100】
【表14】
【0101】
【表15】
【0102】
表13に示すように、ペプチドペアによる判定では、健常者(陰性患者)を陽性として判定してしまう偽陽性率(表中のカバー率(健常者))が、テスト群及び学習群のいずれについても低かった(テスト群:40.0%、学習群:17.4%)。また、CAP−RAST法でクラス4以上の健常者を陽性として判定してしまう偽陽性率(表中のカバー率(健常者クラス4以上)は、テスト群では0.0%であり、学習群では50.0%であった。一方、ペプチドペアを用いたとき牛乳アレルギー陽性患者を陽性となる率(表中カバー率(患者))は、テスト群で60.0%であり、学習群で74.4%であった。また、クラス4以上の患者が陽性となる率(表中、カバー率(クラス4以上))はテスト群で100%であり、学習群で91.7%であった。
【0103】
これに対して、シングルピーク解析によって得られたエピトープによる判定結果を示す表14に示すように、健常者を誤って陽性として判定しまう偽陽性率(表中のカバー率(健常者))がテスト群で80%、学習群で87%であった。また、クラス4以上の健常者を陽性と判定ししまう偽陽性率(表中のカバー率(健常者クラス4以上)は、テスト群では100.0%であり、学習群では100.0%であった。
【0104】
また、表15に示すように、CAP−RAST法によると、クラス1以上を陽性と判断したとすると、テスト群及び学習群につき、陰性であるのに陽性との判定がなされるのがそれぞれ100%、95.7%であった。
【0105】
以上のことから、エピトープペアによる判定は、健常者をアレルギー陽性として判定しまう偽陽性率を低下させることができることがわかった。また、シングルピーク解析によるペアでないエピトープ(シングルエピトープ)による判定は、クラスが低くてもアレルギー患者を陽性として判定できることがわかった。さらに、エピトープペアとシングルエピトープによる判定とを組み合わせると、患者陽性率が高く、偽陽性率の低いアレルギー診断ができるといえる。