特許第5737682号(P5737682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5737682耐熱性金属部材、耐熱性金属部材の製造方法、合金皮膜、合金皮膜の製造方法、ロケットエンジン、人工衛星および発電用ガスタービン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5737682
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】耐熱性金属部材、耐熱性金属部材の製造方法、合金皮膜、合金皮膜の製造方法、ロケットエンジン、人工衛星および発電用ガスタービン
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20150528BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20150528BHJP
   C22C 27/00 20060101ALI20150528BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20150528BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20150528BHJP
   C23C 10/48 20060101ALI20150528BHJP
   C23C 10/44 20060101ALI20150528BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20150528BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20150528BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20150528BHJP
   F02K 9/62 20060101ALI20150528BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
   C23C28/00 A
   C22C27/02 102Z
   C22C27/00
   B22F3/24 K
   B22F7/04 D
   C23C10/48
   C23C10/44
   F01D25/00 X
   F02C7/00 C
   F02C7/00 D
   F01D5/28
   F02K9/62
   !B22F1/00 R
   !B22F1/00 P
【請求項の数】18
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2014-92226(P2014-92226)
(22)【出願日】2014年4月28日
【審査請求日】2014年6月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】509326809
【氏名又は名称】株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】長田 泰一
(72)【発明者】
【氏名】升岡 正
(72)【発明者】
【氏名】増田 井出夫
(72)【発明者】
【氏名】大塚 元博
(72)【発明者】
【氏名】成田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大介
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05932033(US,A)
【文献】 特開2013−028834(JP,A)
【文献】 特開2002−327284(JP,A)
【文献】 特開2004−039315(JP,A)
【文献】 特開2006−241484(JP,A)
【文献】 特開2008−001962(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/038150(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00−12/02
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む耐熱性金属部材。
【請求項2】
上記内層は、Siを46.3原子%以上67.5原子%未満、Nbを26.2原子%以上35.2原子%以下、Re、Al、Mo、W、Ti、Cr、Hf、O、CおよびNからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を10.8原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である請求項1記載の耐熱性金属部材。
【請求項3】
上記外層は、Siを33.1原子%以上68.1原子%未満、Alを37.0原子%以下、Reを6.7原子%以上41.1原子%以下、Nb、Mo、W、Ti、Cr、Hf、O、CおよびNからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を16.3原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である請求項1または2記載の耐熱性金属部材。
【請求項4】
上記外層はNbを16.3原子%以下含む請求項1〜3のいずれか一項記載の耐熱性金属部材。
【請求項5】
上記中間層は結晶相としてMSi2 相(MはFe、Cr、Al、Mo、W、ReおよびHfからなる群から選択される少なくとも二種以上の元素)を含む請求項1〜4のいずれか一項記載の耐熱性金属部材。
【請求項6】
上記遷移領域と上記内層との間、上記内層と上記中間層との間および上記中間層と上記外層との間の少なくとも一つに境界領域を有する請求項1〜5のいずれか一項記載の耐熱性金属部材。
【請求項7】
上記内層は連続層または不連続層からなる請求項1〜6のいずれか一項記載の耐熱性金属部材。
【請求項8】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材上にReを含む層を形成する工程と、
上記Reを含む層を形成した上記金属基材に、Nb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末を蒸気源として1600℃以上1650℃以下の温度で第一Si拡散浸透処理を行う工程と、
上記第一Si拡散浸透処理を行った後、Si粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度で第二Si拡散浸透処理を10分以上行う工程とを有する耐熱性金属部材の製造方法。
【請求項9】
上記Reを含む層を電気めっき、および/または、少なくともReを含む粉末を有機バインダに混合したスラリの塗布により形成する請求項8記載の耐熱性金属部材の製造方法。
【請求項10】
上記第一Si拡散浸透処理および上記第二Si拡散浸透処理を10分以上13時間以下行う請求項8または9記載の耐熱性金属部材の製造方法。
【請求項11】
上記第二Si拡散浸透処理を行った後、Al粉末とSi粉末と焼結防止剤としてのSiC粉末との混合粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度でAl拡散浸透処理を行う工程をさらに有する請求項8〜10のいずれか一項記載の耐熱性金属部材の製造方法。
【請求項12】
上記Al拡散浸透処理を10分以上6時間以下行う請求項11記載の耐熱性金属部材の製造方法。
【請求項13】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材の表面に形成され、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む合金皮膜。
【請求項14】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材上にReを含む層を形成する工程と、
上記Reを含む層を形成した上記金属基材に、Nb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末を蒸気源として1600℃以上1650℃以下の温度で第一Si拡散浸透処理を行う工程と、
上記第一Si拡散浸透処理を行った後、Si粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度で第二Si拡散浸透処理を10分以上行う工程とを有する合金皮膜の製造方法。
【請求項15】
上記第二Si拡散浸透処理を行った後、Al粉末とSi粉末と焼結防止剤としてのSiC粉末との混合粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度でAl拡散浸透処理を行う工程をさらに有する請求項14記載の合金皮膜の製造方法。
【請求項16】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含むロケットエンジン。
【請求項17】
少なくとも一つのロケットエンジンを有し、
上記ロケットエンジンは、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む人工衛星。
【請求項18】
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む動翼を有する発電用ガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱性金属部材、耐熱性金属部材の製造方法、合金皮膜、合金皮膜の製造方法ならびにこの耐熱性金属部材あるいは合金皮膜を用いたロケットエンジン、人工衛星および発電用ガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星の軌道変換および姿勢制御用のロケットエンジンには、現在、軽量かつ高融点で加工性に優れたニオブ(Nb)基合金が使用されている。しかしながら、Nb基合金は耐高温酸化性に劣ることから、耐高温酸化性の向上を図る必要がある。
【0003】
従来、Nb基合金からなる基材の耐高温酸化性の向上を図るために、耐高温酸化性に優れるシリサイド化合物を基材表面にコーティングする技術が採用されている(非特許文献1参照。)。非特許文献1によると、このシリサイドコーティングでは、外層および拡散層はそれぞれMSi2 およびM5 Si3 (いずれもMは高融点金属の総称で典型的にはNbであり、Siはケイ素(シリコン)である)で与えられ、Nb基合金の耐酸化性は二酸化シリコン(SiO2 )および複合酸化物の形成により達成されるとされている。さらに、非特許文献1には、このシリサイドコーティングでは皮膜形成の段階から亀裂が存在するが、基材にまで達していないことから、燃焼条件下で長寿命を得ることが可能である、と記載されている。
【0004】
一方、ロケットエンジンにおいて、Nbを化学蒸着法で複数回積層して筒状に形成された強度層と、この強度層の内周面および外周面に、イリジウム(Ir)およびNbを交互に化学蒸着法で積層してIrおよびNbの層を少なくとも2層以上形成した中間層と、この中間層の内周面および外周面にIrを化学蒸着法で複数回積層して形成した表皮層とにより燃焼室を形成することが提案されている(特許文献1参照。)。特許文献1によると、IrおよびNbを交互に積層した積層コーティングは、表面温度が2000℃にも達する輻射冷却方式のロケットエンジンの燃焼室に適用することができるとされている。
【0005】
また、Nb−チタン(Ti)合金からなる基材の耐高温酸化性の向上を図るために、この基材に、複層構造[第一層は(Nb,Ti,鉄(Fe))Si2 、第二層は(Nb,Ti,Fe,クロム(Cr))3 Si2 ]のコーティングを施すことが提案されている(特許文献2参照。)。
【0006】
また、Nb−ハフニウム(Hf)基合金(C−103)からなる基材の耐高温酸化性の向上を図るために、Si粉末、アルミナ(Al2 3 )粉末および活性剤としてのフッ化ナトリウム(NaF)を用いた高Si活量シリコナイジング処理により、この基材にNbSi2 とNb5 Si3 との複層構造のコーティングを施すことが報告されている(非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−54302号公報
【特許文献2】米国特許第5721061号明細書
【特許文献3】特許第3904197号明細書
【特許文献4】特許第4271399号明細書
【特許文献5】特許第4323816号明細書
【特許文献6】特許第3942437号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.L. Chazen : Long Life 5 LBF Bipropellant Engines ; AIAA'85 paper 1378 (AIAA/SAE/ASME/ASEE 21st Joint Propulsion Conference, July 8-10,1985, Monterey California)
【非特許文献2】Md. Zafir Alam A. Sambasiva Rao Dipak K. Das; Microstructure and High Temperature Oxidation Performance of Silicide Coating on Nb-BasedAlloy C-103, Oxidation of Metals, 73 (2010), pp. 513-530
【非特許文献3】ア ヴエ ビヤロブジェスキー、エム エス チルリン、ベ イ クラシーロフ共著、超高融点金属の高温腐食と防食 アトム出版社 1977年 p.126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1では、NbSi2 相は、高温酸化によってSiO2 スケールを形成する際に、Nb5 Si3 相に変化し、このNb5 Si3 相は耐酸化性に劣ることから急速・激烈な酸化を招来する。さらに、シリサイドコーティング層に存在する亀裂が基材に到達すると基材が直接高温酸化され、急速酸化の端緒となることから、亀裂の存在は望ましくない。
【0010】
また、特許文献1では、Irは高比重・高コストであり、さらに、高温ではNbとIrとの相互拡散が進行し、Nbが表面に到達した段階で非保護性Nb酸化物が形成され、耐酸化性を喪失することが予想される。
【0011】
また、特許文献2のコーティングにおいても、高温酸化によってSiO2 スケールを形成する際に、(Nb,Ti,Fe)Si2 は低級シリサイド、例えば(Nb,Ti,Fe)5 Si3 相または(Ti,Fe)Si相に変化し、この(Nb,Ti,Fe)5 Si3 相または(Ti,Fe)Si相は耐酸化性に劣ることから急速・激烈な酸化を招来する。
【0012】
さらに、非特許文献2では、高温酸化によってSiO2 が形成される際、NbSi2 相はNb5 Si3 相に変化する。その結果、非保護性のNb酸化物が形成されて急速に酸化が進行し、特に、加熱・冷却条件下での耐酸化性に劣ることが報告されている。
【0013】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、Nb−Hf基合金からなる金属基材、より一般的にはNb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材の耐高温酸化性の大幅な向上を図ることができ、耐熱性および耐久性にも優れた長寿命の耐熱性金属部材および合金皮膜ならびにそれらの製造方法ならびにこの耐熱性金属部材あるいは合金皮膜を用いたロケットエンジン、人工衛星および発電用ガスタービンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層および結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む耐熱性金属部材である。
【0015】
ここで、金属基材を構成するNb−Hf基合金またはNb−Si基合金は、Nbを主体(主成分)とし、Nbに次いでHfまたはSiを多く含む合金の総称である。Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金には、酸素(O)、炭素(C)および窒素(N)のうちの一種以上が不可避的に含まれる。
【0016】
遷移領域には、典型的には、使用される金属基材の種類や耐熱性金属部材の製造に使用される原料などによってNbおよびSi以外の一種または二種以上の元素が含まれる。
【0017】
内層は、典型的には、Siを46.3原子%以上67.5原子%未満、Nbを26.2原子%以上35.2原子%以下、レニウム(Re)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、酸素(O)、炭素(C)および窒素(N)からなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を10.8原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である。内層に含まれる元素は、使用される金属基材の種類や耐熱性金属部材の製造に使用される原料などによって異なる。
【0018】
中間層は、典型的には、結晶相としてMSi2 相(MはFe、Cr、Al、Mo、W、ReおよびHfからなる群から選択される少なくとも二種以上の元素)を含む。また、中間層は、結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種も含むことがある。中間層に含まれる元素は、使用される金属基材の種類や耐熱性金属部材の製造に使用される原料などによって異なる。
【0019】
外層に含まれるReSi1.8 相は、大気中では耐酸化性に優れていることが報告されている(非特許文献3参照。)。外層は、典型的には、Siを33.1原子%以上68.1原子%未満、Alを37.0原子%以下、Reを6.7原子%以上41.1原子%以下、Nb、Mo、W、Ti、Cr、Hf、O、CおよびNからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を16.3原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である。外層に含まれる元素は、使用される金属基材の種類や耐熱性金属部材の製造に使用される原料などによって異なる。外層に含まれるNbは、非保護的Nb酸化物の形成を抑制する観点より少ない方が望ましく、好適には16.3原子%以下、より好適には5.0原子%以下、最も好適には1.0原子%以下である。
【0020】
遷移領域と内層との間、内層と中間層との間および中間層と外層との間の少なくとも一つに境界領域を有することもある。遷移領域と内層との間の境界領域は、遷移領域と内層とが複合した領域であり、典型的には、Nb5 Si3 相とNbSi2 相とを含む。内層と中間層との間の境界領域は、内層と中間層とが複合した領域であり、典型的には、NbSi2 相とMSi2 相とを含む。中間層と外層との間の境界領域は、中間層と外層とが複合した領域であり、典型的には、MSi2 相とReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種とを含む。
【0021】
遷移領域、中間層および外層は、一般的には連続層であるが、内層は連続層であることもあるし、不連続層からなることもある。内層が不連続層である場合は、中間層あるいは内層と中間層との間に境界領域がある場合はその境界領域が部分的に内層に貫入することにより内層が分断された状態で存在している。この状態は、内層と中間層あるいは境界領域とが混合した領域が存在すると言うこともできる。中間層は少なくともその一部が内層の外側に存在するが、部分的に中間層が内層より内側に存在することもある。
【0022】
また、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材上にReを含む層を形成する工程と、
上記Reを含む層を形成した上記金属基材に、Nb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末を蒸気源として1600℃以上1650℃以下の温度で第一Si拡散浸透処理を行う工程と、
上記第一Si拡散浸透処理を行った後、Si粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度で第二Si拡散浸透処理を10分以上行う工程とを有する耐熱性金属部材の製造方法である。
【0023】
Reを含む層は、例えば、電気めっき、および/または、少なくともReを含む微粉末を有機バインダに混合したスラリの塗布により形成するが、Reを含む層の形成方法はこれらに限定されるものではなく、必要に応じて従来公知の他の方法、例えば、化学的蒸着(Reを含む原料ガスを用いたCVD)や物理的蒸着(真空蒸着、スパッタリングなど)を用いてもよい。Reを含む層を電気めっきにより形成する場合、Reを含む層はRe層であってもRe含有合金層であってもよい。Reを含む微粉末は、必要に応じて、Mo、W、CrおよびTiからなる群から選択される一種または二種以上の元素を含む。Reを含む層は、これらの方法により複数回繰り返して形成してもよい。例えば、金属基材上にReを含む層を電気めっきまたはスラリの塗布により形成した後、その上に再び、Reを含む層を電気めっきまたはスラリの塗布により形成してもよい。第一Si拡散浸透処理(以下においては、必要に応じて「低Si活量拡散処理」とも言う)および第二Si拡散浸透処理(以下においては、必要に応じて「高Si活量拡散処理」とも言う)は、好適には10分以上13時間以下行い、より好適にはこの範囲内で30分以上、さらに好適には1時間以上行う。第一Si拡散浸透処理および第二Si拡散浸透処理は、例えば、アルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気や真空中で行う。第一Si拡散浸透処理により、金属基材上に結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、中間層およびReSi1.8 相を含む外層が形成される。この際、合金皮膜の緻密化を図ることができるとともに、合金皮膜の亀裂等の発生を防止することができる。また、この際、外層を構成するReSi1.8 相へのNbの固溶を無視できる程度に抑えることができ、ひいては非保護性のNb酸化物の形成を阻止することができる。また、第二Si拡散浸透処理により、遷移領域と中間層との間に結晶相としてNbSi2 相を含む内層が形成される。こうして、金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層および結晶相としてReSi1.8 相を含む外層を含む合金皮膜が形成される。耐熱性金属部材の製造方法は、必要に応じて、第二Si拡散浸透処理を行った後、Al粉末とSi粉末と焼結防止剤としてのSiC粉末との混合粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度でAl拡散浸透処理(以下においては、必要に応じて「高Al活量拡散処理」とも言う)を行う工程をさらに有する。Al拡散浸透処理は、例えば、アルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気や真空中で行う。Al拡散浸透処理により、外層に含まれる一部のReSi1.8 相においてReが優先的にAlと結合する結果、ReSi1.8 相のSiがAlにより置換されてRe(Al,Si)1.8 相に変化する。このAl拡散浸透処理では、NbSi2 相へのAlの固溶量は僅少であり、Alは選択的にReと結合する。
【0024】
耐熱性金属部材は、特に限定されないが、具体的には、例えば、ロケットエンジン用部材、ガスタービン用部材などである。
【0025】
また、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材の表面に形成され、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む合金皮膜である。
【0026】
また、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材上にReを含む層を形成する工程と、
上記Reを含む層を形成した上記金属基材に、Nb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末を蒸気源として1600℃以上1650℃以下の温度で第一Si拡散浸透処理を行う工程と、
上記第一Si拡散浸透処理を行った後、Si粉末を蒸気源として1300℃以上1350℃以下の温度で第二Si拡散浸透処理を10分以上行う工程とを有する合金皮膜の製造方法である。
【0027】
また、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含むロケットエンジンである。
【0028】
また、この発明は、
少なくとも一つのロケットエンジンを有し、
上記ロケットエンジンは、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む人工衛星である。
【0029】
また、この発明は、
Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材と、
上記金属基材の表面に形成された合金皮膜とを有し、
上記合金皮膜は、上記金属基材側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域、結晶相としてNbSi2 相を含む内層、中間層ならびに結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層を含む動翼を有する発電用ガスタービンである。
上記の合金皮膜、合金皮膜の製造方法、ロケットエンジン、人口衛星および発電用ガスタービンの各発明においては、その性質に反しない限り、上記の耐熱性金属部材およびその製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0030】
上記の耐熱性金属部材、合金皮膜、ロケットエンジン、人口衛星および発電用ガスタービンにおいて、合金皮膜が高温の燃焼ガスの腐食性雰囲気に晒された場合には、次のような現象が起きる。すなわち、外層がReSi1.8 相を含む場合には、ReSi1.8 相により、合金皮膜の表面に燃焼ガスの腐食性雰囲気において優れた保護性を発揮するSiO2 皮膜が形成される。SiO2 皮膜が形成されることによってReSi1.8 相のSi濃度は低下するが、内層に含まれるNbSi2 相がSiの供給源となってSiを中間層を通して外層に供給するため、ReSi1.8 相が保持される。この場合、内層に含まれるNbSi2 相はSiを外層に供給した結果、Nb5 Si3 相に変化する。一方、外層がRe(Al,Si)1.8 相を含む場合には、このRe(Al,Si)1.8 相により、合金皮膜の表面に燃焼ガスの腐食性雰囲気において優れた保護性を発揮するAl2 3 皮膜が形成される。Al2 3 皮膜が形成されることによってRe(Al,Si)1.8 相のAl濃度は低下し、Re(Al,Si)1.8 相のAlが枯渇するとReSi1.8 相に変化するが、このReSi1.8 相によりSiO2 皮膜が形成される。結果として、合金皮膜が高温の燃焼ガスの腐食性雰囲気に晒された場合、このSiO2 皮膜またはAl2 3 皮膜により合金皮膜、ひいては金属基材が保護されるため、金属基材の耐高温酸化性の大幅な向上を図ることができる。また、優れた耐熱性および耐久性を得ることもできる。
【0031】
本発明者らは、この発明の合金皮膜により得られる上記の巧妙な機能が発揮されるメカニズムを解明するため、鋭意研究を行った。その結果、Nb−Re−Si系三元状態図をもとにメカニズムを明らかにした。その概要を説明すると以下の通りである。
【0032】
Nb−Re−Si系三元状態図は、本発明者らの知る限りこれまで公表されていないため、以下のようにして独自に作成した。すなわち、まず、純度が99.9%以上のRe粉末、Nb粉末およびSi粉末を出発原料とし、これらの粉末を種々の組成に配合した混合粉末を調製した。この混合粉末をアルゴンアーク溶解炉で溶解し、10〜20グラムの塊状合金を作製した。この塊状合金を1500℃、24時間、真空中で加熱処理を行い、組成および組織の均質化を行った。次に、こうして得られた塊状合金を切断し、中心部付近の組織観察を行うとともに、微小部元素分析装置(EPMA;Electron-Probe Micro Analyzer)を用いてNb、ReおよびSiの各元素の濃度を測定した。これらの分析結果から、状態図において互いに隣り合う相の組成(共役組成という)が決定される。これらの共役組成をまとめて、図1に示すようにNb−Re−Si系三元状態図を決定した。この決定の過程で、Nb−Re−Si三元系合金相を新たに見出し、Q相と命名した。図1に示すNb−Re−Si系三元状態図から、ReSi1.8 相とNb5 Si3 相とQ相との三相領域(図1のT3領域)、ReSi1.8 相とNb5 Si3 相とNbSi2 相との三相領域(図1のT2領域)、さらに、ReSi1.8 相とNbSi2 相とSi相との三相領域(図1のT1領域)が存在することがわかる。
【0033】
上述のように第一Si拡散浸透処理の蒸気源としてNb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末を使用することによって、NbはNb5 Si3 相、ReはReSi1.8 相となり、これらのNb5 Si3 相およびReSi1.8 相との平衡相としてQ相が存在する、図1のT3の領域が得られることが理解される。一方、上述のように第二Si拡散浸透処理の蒸気源としてSi粉末を使用すると、NbはNbSi2 相、ReはReSi1.8 相となり、これらのNbSi2 相およびReSi1.8 相との平衡相としてNb5 Si3 相が存在する、図2のT2の領域が得られる。
【0034】
すなわち、第一Si拡散浸透処理では、ReSi1.8 相およびNb5 Si3 相は形成されるが、NbSi2 相は形成されない。一方、第二Si拡散浸透処理では、ReSi1.8 相およびNbSi2 相を形成することができる。ここで特筆すべき点は、第一Si拡散浸透処理および第二Si拡散浸透処理のいずれの処理でも、ReSi1.8 相が形成され、ReSi1.8 相へのNbの固溶を無視できる程度に抑えることができ、非保護性Nb酸化物の形成を効果的に抑制することができることである。
【0035】
上記のNb−Re−Si系三元状態図を作成するための実験に加えて、ReSi1.8 相へのAlおよびNbの固溶量の測定も行った。その結果、Al:Si=1:1までRe(Si,Al)1.8 相を保持し、Nb濃度は1原子%以下であることが明らかとなった。
【発明の効果】
【0036】
この発明による耐熱性金属部材、合金皮膜、ロケットエンジン、人口衛星および発電用ガスタービンによれば、合金皮膜が高温の燃焼ガスの腐食性雰囲気に晒されたとき、外層にReSi1.8 相が含まれる場合は合金皮膜の表面に保護的SiO2 皮膜が形成され、外層にRe(Al,Si)1.8 相が含まれる場合はAlが枯渇するまでは合金皮膜の表面に保護的Al2 3 皮膜が形成され、Alが枯渇した後は保護的SiO2 皮膜が形成されるため、金属基材の耐高温酸化性の大幅な向上を図ることができ、優れた耐熱性および耐久性も得ることができる。このため、長寿命の耐熱性金属部材、ロケットエンジン、人口衛星および発電用ガスタービンを実現することができる。また、この発明による耐熱性金属部材の製造方法および合金皮膜の製造方法によれば、このような優れた耐熱性金属部材および合金皮膜を、特殊な方法を用いることなく、従来公知の方法により容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明者らが独自に作成したNb−Re−Si系三元状態図である。
図2】この発明の一実施の形態による耐熱性金属部材を示す断面図である。
図3】実施例1の試験片の低Si活量拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真である。
図4図3に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図5】実施例1の試験片の1分間の高Si活量拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真である。
図6図5に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図7】実施例1の試験片の1時間の高Si活量拡散処理追加後の断面構造を示す図面代用写真である。
図8図7に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図9】実施例2の試験片の完成状態の断面構造を示す図面代用写真である。
図10図9に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図11】実施例3の試験片の完成状態の断面構造を示す図面代用写真である。
図12図11に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図13】実施例4の試験片の完成状態の断面構造を示す図面代用写真である。
図14図13に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図15】実施例5の試験片の完成状態の断面構造を示す図面代用写真である。
図16図15に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図17】実施例6においてReの微粉末を含むスラリの塗布とその後の加熱処理まで行った試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図18図17に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図19】実施例6において低Si活量拡散処理まで行った試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図20図19に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図21】実施例6において高Al活量拡散処理まで行った試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図22図21に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図23】高温酸化実験1を行った後の試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図24図23に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図25】高温酸化実験2を行った後の試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図26図25に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図27】高温酸化実験3を行った後の試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図28図27に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図29】高温酸化実験4を行った後の試験片の断面構造を示す図面代用写真である。
図30図29に示す試験片の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
図31】この発明の一実施の形態による耐熱性金属部材をロケットエンジンの燃焼器に適用した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」と言う。)について説明する。
【0039】
[耐熱性金属部材]
図2はこの発明の一実施の形態による耐熱性金属部材を示す。図2に示すように、この耐熱性金属部材は、Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材100と、この金属基材100の表面に形成された合金皮膜500とを有する。合金皮膜500は、金属基材100側から順に、遷移領域110、内層200、中間層300および外層400を含む。
【0040】
遷移領域110は、結晶相としてNb5 Si3 相を含み、一般的にはこのNb5 Si3 相を主体として構成されている。遷移領域110の厚さは一般的には10〜100μmであるが、これに限定されるものではない。
【0041】
内層200は、結晶相としてNbSi2 相を含み、一般的にはこのNbSi2 相を主体として構成されている。内層200は、典型的には、Siを46.3原子%以上67.5原子%未満、Nbを26.2原子%以上35.2原子%以下、Re、Al、Mo、W、Ti、Cr、Hf、O、CおよびNからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を10.8原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である。内層200の厚さは一般的には5〜30μmであるが、これに限定されるものではない。
【0042】
中間層300は、結晶相としてMSi2 相(MはFe、Cr、Al、Mo、W、ReおよびHfからなる群から選択される少なくとも二種以上の元素)を含み、さらにReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含むこともあり、一般的にはこのMSi2 相あるいはこれに加えてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を主体として構成されている。中間層300の厚さは一般的には10〜50μmであるが、これに限定されるものではない。
【0043】
外層400は、結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含み、一般的にはこのReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を主体として構成されている。外層400は、典型的には、Siを33.1原子%以上68.1原子%未満、Alを37.0原子%以下、Reを6.7原子%以上41.1原子%以下、Nb、Mo、W、Ti、Cr、Hf、O、CおよびNからなる群から選択される少なくとも一種以上の元素を16.3原子%以下含み、これらの元素の総量が100原子%以下である。外層400の厚さは一般的には10〜30μmであるが、これに限定されるものではない。
【0044】
遷移領域110と内層200との間にはこれらの遷移領域110および内層200が互いに複合した境界領域199が存在することもあり、内層200と中間層300との間にはこれらの内層200および中間層300が互いに複合した境界領域299が存在することもあり、中間層300と外層400との間にはこれらの中間層300および外層400が互いに複合した境界領域399が存在することもある。境界領域199には、典型的には、結晶相としてNb5 Si3 相およびNbSi2 相が含まれる。境界領域299には、典型的には、結晶相としてNb5 Si3 相およびNbSi2 相が含まれる。境界領域399には、典型的には、結晶相としてMSi2 相とReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種とが含まれる。
【0045】
図2においては、耐熱性金属部材を構成する各層の間の界面は平面として描かれているが、各界面は一般的には平面や曲面などにより形成された複雑な形態を有する。
【0046】
[耐熱性金属部材の製造方法]
この耐熱性金属部材の製造方法について説明する。
まず、金属基材100を用意し、その上にReを含む層を形成する。Reを含む層は、ReまたはRe含有合金を電気めっきしたり、少なくともReを含む微粉末を有機バインダに混合したスラリを塗布したり、これらを併用したり、これらを複数回繰り返し行ったりすることにより形成する。
【0047】
次に、Reを含む層を形成した金属基材100の低Si活量拡散処理を行う。具体的には、Reを含む層を形成した金属基材100を坩堝に入れられたNb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末中に埋め込み、Arなどの不活性ガス雰囲気や真空中において1600℃以上1650℃以下の温度で加熱することにより、この混合粉末を蒸気源としてSiの拡散浸透処理を行う。この低Si活量拡散処理は、好適には10分以上9時間以下行う。この低Si活量拡散処理により金属基材100上に結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域110、中間層300およびReSi1.8 相を含む外層400が形成される。
【0048】
次に、上述のようにして低Si活量拡散処理を行った金属基材100の高Si活量拡散処理を行う。具体的には、低Si活量拡散処理を行った金属基材100を坩堝に入れられたSi粉末中に埋め込み、Arなどの不活性ガス雰囲気や真空中において1300℃以上1350℃以下の温度で加熱することにより、このSi粉末を蒸気源としてSiの拡散浸透処理を行う。この高Si活量拡散処理は、好適には10分以上13時間以下行う。この高Si活量拡散処理により、遷移領域110と中間層300との間に結晶相としてNbSi2 相を含む内層200が形成される。
【0049】
外層400にRe(Al,Si)1.8 相を含ませる場合には、高Si活量拡散処理を行った後、さらに高Al活量拡散処理を行う。具体的には、高Si活量拡散処理を行った金属基材100を坩堝に入れられたAl粉末とSi粉末と焼結防止剤としてのSiC粉末との混合粉末中に埋め込み、真空中において1300℃以上1350℃以下の温度で加熱することにより、この混合粉末を蒸気源としてAl拡散浸透処理を行う。この高Al活量拡散処理により、外層に含まれる一部のReSi1.8 相のSiがAlにより置換されてRe(Al,Si)1.8 相に変化する。
【0050】
以上により、金属基材100上に遷移領域110、内層200、中間層300および外層400からなる少なくとも四層構造の合金皮膜500が形成され、目的とする耐熱性金属部材が製造される。
【0051】
[耐熱性金属部材を高温の燃焼ガス雰囲気に晒したときの合金皮膜の変化]
この耐熱性金属部材を高温の燃焼ガス雰囲気中で使用したときには、燃焼ガス雰囲気に晒された合金皮膜500の外層400にReSi1.8 相が含まれる場合には保護的SiO2 皮膜が表面に形成され、外層400にRe(Al,Si)1.8 相が含まれる場合には保護的Al2 3 皮膜が形成され、この保護的SiO2 皮膜あるいは保護的Al2 3 皮膜により合金皮膜500、ひいては金属基材100が燃焼ガス雰囲気から保護される。
【実施例】
【0052】
以下の実施例において、合金皮膜の形成に用いる工程は以下の通りである。
工程(1)Reめっき:Reめっきは特許文献3〜6に記載の方法に準拠し、Re層の厚さは2〜10μm、望ましくは2〜5μmである。
【0053】
工程(2)スラリ塗布: 金属基材100の表面に、各種金属の微粉末(Mo、W、Re、Fe、Cr、Ti等)を有機バインダに混合したスラリを塗布した後、1300℃〜1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。MoとWの微粉末の粒径は小さいほど良いが、取扱いの容易さと価格、スラリ膜の空隙率等の観点から、粒径としては0.1〜5μmが適当であり、望ましくは0.5〜3μmである。スラリを塗布する厚さは10〜100μm、望ましくは15〜50μmである。1300℃〜1500℃で加熱処理するのは、塗布したスラリ粉末の緻密化を促進し、金属基材とReを含む層との密着性を確保するためである。
【0054】
工程(3)低Si活量拡散処理: Nb粉末、Si粉末および焼結防止剤としてのSiC粒子を重量比でNb:Si:SiC=7:3:10に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1600℃〜1650℃の高温、Arガス雰囲気で加熱処理を行う。この際、混合粉末中のNbとSiとは互いに反応してNb5 Si3 相の粉末とNbSi2 相の粉末との混合粉末となる。この混合粉末をNb−Si−SiC混合粉末と呼び、このNb−Si−SiC混合粉末を使用して低Si活量拡散処理を行う。
【0055】
工程(4)高Si活量拡散処理:Si粉末とSiC粉末とを重量比でSi:SiC=1:1に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1300℃〜1350℃、真空中、2〜13時間の条件下で加熱処理を行うことにより、高Si活量拡散処理を行う。
【0056】
工程(5)高Al活量拡散処理:Al粉末、Si粉末およびSiC粉末を重量比でAl:Si:SiC=1:1:8に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1300℃〜1350℃、真空中、2〜6時間の条件下で加熱処理を行うことにより、高Al活量拡散処理を行う。
【0057】
金属基材100として純Nbからなる金属基材およびNb−Hf基合金(C−103)からなる金属基材を用いた。Nb−Hf基合金(C−103)の公称組成は、10重量%Hf、1.0重量%Ti、0.7重量%Zr、0.5重量%Ta、0.5重量%Wであり、不可避的に含まれる酸素(O)、炭素(C)および窒素(N)の濃度の総和が0.01重量%以上3重量%未満である。
【0058】
また、以下において説明する高温酸化試験においては、1200℃〜1400℃に保持された電気炉中に、合金皮膜500を形成したNbまたはNb−Hf基合金からなる金属基材100を挿入し、1時間保持した後、電気炉から大気中に取り出して急冷し、この操作を繰り返す、いわゆる加熱・冷却サイクル酸化を実施した。エネルギー分散型分析器が付属した走査型電子顕微鏡を用いて、試料の断面の組織観察および各元素の濃度の測定を行った。
【0059】
〈実施例1〉
純度99原子%以上のNb金属板からなる金属基材100の表面に、Reめっき(工程(1))を行い、続いて1500℃、真空中で1時間の加熱処理を行う。この工程を二回繰り返して行った。この加熱処理は、Nb金属板とReめっき層との密着性を確保するためである。続いて、低Si活量拡散処理(工程(3))を1600℃、4時間、Arガス雰囲気で行った。
【0060】
こうして作製された試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。図3に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図4に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図3に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表1は図4に示した各元素の濃度、表2は表1に示した各層の濃度の最小値および最大値をまとめたものである。
【表1】
【表2】
【0061】
これらの結果から、合金皮膜500は、Nb金属板からなる金属基材100側から、Nb5 Si3 相を含む遷移領域110、Q相を含む中間層300、ReSi1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と中間層300との間に境界領域299が、中間層300と外層400との間に境界領域399が形成されていることがわかる。しかしながら、低Si活量拡散処理を行ったこの試験片では、NbSi2 相を含む内層200は形成されていない。
【0062】
この事実により、図1に示したように、低Si活量拡散処理では、ReはReSi1.8 を形成するのに対してNbSi2 は形成せず、Nb5 Si3 相とQ相とを形成すること、さらに、外層400のReSi1.8 相中にNb5 Si3 相410が存在することも同様に理解される。このQ相の組成は、表2に示すように、(29.8〜40.3)原子%Si、(38.2〜54.5)原子%Nb、(15.4〜21.6)原子%Reである。
【0063】
低Si活量拡散処理に続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、1分、Arガス雰囲気で行った。図5に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図6に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図5に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表3は図6に示した各元素の濃度、表4は表3に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表3】
【表4】
この結果から、高Si活量拡散処理の時間が短時間の場合(ここでは1分) 、内層200は形成されないことがわかる。
【0064】
1分の高Si活量拡散処理に続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、1時間、Arガス雰囲気で行った。図7に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図8に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図7に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表5は図8に示した各元素の濃度、表6は表5に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表5】
【表6】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb5 Si3 相を含む遷移領域110、NbSi2 相を含む内層200、NbSi2 相とReSi1.8 相との混合相を含む中間層300、ReSi1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と内層200との間の境界領域199はNb5 Si3 相とNbSi2 相との混合相である。なお、外層400にはNbSi2 相410が混在している。
【0065】
〈実施例2〉
実施例1において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を1350℃、1時間、Arガス雰囲気で行った。図9に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図10に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図9に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表7は図10に示した各元素の濃度、表8は表7に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表7】
【表8】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb5 Si3 相を含む遷移領域110、NbSi2 相を含む内層200、NbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相を含む中間層300、Re(Al,Si)1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と内層200との間の境界領域199はNb5 Si3 相とNbSi2 相との混合相である。さらに、Alの濃度分布はReのそれと類似しており、AlがReSi1.8 相のSiの一部を置換して、Re(Al,Si)1.8 相を形成していることが特徴的である。
【0066】
〈実施例3〉
実施例1において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を真空中において900℃、1時間行い、続いて1300℃、1時間行った。図11に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図12に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図11に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表9は図12に示した各元素の濃度、表10は表9に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表9】
【表10】
これらの結果は、前述の図9図10、表7および表8の結果と類似しているが、特に、中間層300はNbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相であることが明瞭に認められる。
【0067】
〈実施例4〉
金属基材100の材料としてNb−Hf基合金(C−103)を用いた。この金属基材100を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)に続き、工程(4)の高Si活量拡散処理を1350℃、真空、1時間の条件下で行った。図13に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図14に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図13に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表11は図14に示した各元素の濃度、表12は表11に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表11】
【表12】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、遷移領域110はHfを含有するNb5 Si3 相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi2 相とReSi1.8 相との混合相であり、組織の違いから層320と層340とに分けられ、外層400はWとMoとを含有するReSi1.8 相である。遷移領域110と中間層300との間には境界領域299が存在する。境界領域299は内層200のNbSi2 相を含み、Nb5 Si3 相が混在する組織となっている。言い換えると、内層200は単一の連続層としては観察されず、境界領域299と混ざって入り組んだ不連続構造となっている。
【0068】
〈実施例5〉
実施例4において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を1350℃、4時間、真空の条件で行った。図15に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図16に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図15に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表13は図16に示した各元素の濃度、表14は表13に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表13】
【表14】
これらの結果から、金属基材100側から順に、遷移領域110はHfを含有するNb5 Si3 相、内層200はReを含有するNbSi2 相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するRe(Al,Si)1.8 相となっていることがわかる。これより、Reの濃度分布はAlのそれと一致し、AlはRe(Al,Si)1.8 相に固溶していることがわかる。また、遷移領域110と内層200との間に境界領域199が、中間層300と外層400との間に境界領域399が存在している。
【0069】
〈実施例6〉
金属基材100としてNb−17at%Si合金(公称組成)からなる板を用いた。Nb−17at%Si合金を構成する相は、Nb(Si)固溶体、Nb3 Si相およびNb5 Si3 相である。金属基材100の表面に、Reめっき(工程(1))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。この加熱処理は、Nb−17at%Si合金板とReめっき層との密着性を確保するためである。続いて、Reめっき層の表面に、WとMoとの微粉末を含むスラリの塗布(工程(2))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。続いて、こうして形成されるWとMoとを含む層の表面に、Reの微粉末を含むスラリの塗布(工程(2))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。続いて、低Si活量拡散処理(工程(3))を1650℃、9時間、Arガス雰囲気で行った。続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、13時間、真空中で行った。最後に、高Al活量拡散処理(工程(5))を1300℃、6時間、真空中で行った。
【0070】
上述のReめっきとその後の加熱処理、WとMoとの微粉末を含むスラリの塗布とその後の加熱処理およびReの微粉末を含むスラリの塗布とその後の加熱処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。図17に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図18に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図17に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表15は図18に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表15】
【0071】
これらの結果から、Nb−17at%Si合金板からなる金属基材100側から、Nb(Si)相の富化層、Reを主成分とするめっき層、WとMoとを主成分とする層およびReを主成分とする層が形成されていることがわかる。
【0072】
次に、上述の低Si活量拡散処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。図19に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図20に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図19に示す写真の線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表16は図20に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表16】
【0073】
これらの結果から、合金皮膜500は、Nb−17at%Si合金板からなる金属基材100側から、Nb5 Si3 相を含む遷移領域110、Q相を含む中間層300、ReSi1.8 相を含む外層400の層構造を有することがわかる。しかしながら、低Si活量拡散処理を行ったこの試験片では、NbSi2 相を含む内層200は形成されていない。
【0074】
次に、上述の高Al活量拡散処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。図21に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図22に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図21に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表17は図22に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表17】
【0075】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb5 Si3 相を含む遷移領域110、NbSi2 相を含む内層200、NbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相を含む中間層300、Re(Al,Si)1.8 相を含む外層400の層構造を有し、内層200と中間層300との間の境界領域299はNbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相、中間層300と外層400との間の境界領域399はNbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相である。さらに、Alの濃度分布はReのそれと類似しており、AlがReSi1.8 相のSiの一部を置換して、Re(Al,Si)1.8 相を形成していることが特徴的である。
【0076】
次に、耐熱性金属部材の試験片の高温酸化実験を行った結果について説明する。
〈高温酸化実験1〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)に続いて、工程(4)の高Si活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1400℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を四回実施した。図23に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図24に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図23に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表18は図24に示した各元素の濃度、表19は表18に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表18】
【表19】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb5 Si3 相、境界領域199は多孔質なNb5 Si3 相とReSi1.8 相との混合相、境界領域299はReSi1.8 相とQ相との混合相、中間層300はReとMoとを含有するWSi2 相とReSi1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するReSi1.8 相となっていることがわかる。酸化物600はSiO2 である。これより、外層400のReSi1.8 相中のSi濃度はSiO2 を形成することによって低下するが、内層200のNbSi2 相からSiが外層400に供給されてReSi1.8 相が維持されている。その結果、内層200は消失し、境界領域199、299を形成している。特に、境界領域199は多孔質なNb5 Si3 相になることがわかる。
【0077】
〈高温酸化実験2〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1300℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を四回実施した。図25に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図26に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図25に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表20は図26に示した各元素の濃度、表21は表20に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表20】
【表21】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb5 Si3 相、内層200はReとAlとを含有するNbSi2 相、境界領域199はNb5 Si3 相とNbSi2 相との混合相、中間層300はNbSi2 相とAlを含有するRe(Al,Si)1.8 相との混合相、外層400はAlを含有するRe(Al,Si)1.8 相となっていることがわかる。境界領域399は中間層300と同じ結晶相を含むが、異なる組織を有している。酸化物600はAl2 3 である。高Al活量拡散処理では、実施例2に一例を示したように、外層はRe(Al,Si)1.8 相であり、高温酸化によってAl濃度は低下・消失して、ReSi1.8 相に変化していることがわかる。
【0078】
〈高温酸化実験3〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1400℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を一回実施した。図27に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図28に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図27に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表22は図28に示した各元素の濃度、表23は表22に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表22】
【表23】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb5 Si3 相、内層200はReとAlとを含有するNbSi2 相、境界領域199はNb5 Si3 相とNbSi2 相との混合相、中間層300はNbSi2 相とAlを含有するRe(Al,Si)1.8 相との混合相であり、多孔質になっていることがわかる。外層400はAlを含有するRe(Al,Si)1.8 相である。外層400にはNbSi2 相が含まれている。酸化物600はAl2 3 である。高Al活量拡散処理では、実施例2に一例を示したように、外層はRe(Al,Si)1.8 相であり、高温酸化によってAl濃度は低下・消失して、ReSi1.8 相に変化していることがわかる。
【0079】
〈高温酸化実験4〉
金属基材100としてNb−Hf基合金(C−130)を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb−Hf基合金(C−130)上に合金皮膜500を形成し、続いて、1200℃、大気中、4サイクル酸化を実施した。図29に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。図30に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(図29に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表24は図30に示した各元素の濃度、表25は表24に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表24】
【表25】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はHfを含有するNb5 Si3 相、内層200はReを含有するNbSi2 相、境界領域199はNb5 Si3 相とNbSi2 相との混合相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi2 相とRe(Al,Si)1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するRe(Al,Si)1.8 相となっていることがわかる。酸化物600はAl2 3 である。1200℃、4サイクルの酸化条件では、合金皮膜500にはAlが残存しており、AlとSiとの総和はRe(Al,Si)1.8 相に対応する。これより、Reの濃度分布はAlのそれと一致し、AlはRe(Al,Si)1.8 相に固溶していることがわかる。
【0080】
以上の高温酸化実験1〜4から、少なくとも遷移領域110、内層200、中間層300および外層400を有する合金皮膜500を金属基材100上に形成することによって、合金皮膜500の表面に保護的SiO2 皮膜を形成し、あるいは、特に、内層200をNbSi2 相、外層400をRe(Al,Si)1.8 相とすることによって合金皮膜500の表面に保護的Al2 3 皮膜を形成することができ、さらに、内層200のNbSi2 相がNb5 Si3 相に変化することによってSiがRe(Al,Si)1.8 相に供給され、Re(Al,Si)1.8 相、さらにはReSi1.8 相を維持することができることが実証された。
【0081】
以上のように、この一実施の形態による耐熱性金属部材によれば、Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材100の表面に形成された合金皮膜500は、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域110、結晶相としてNbSi2 相を含む内層200、中間層300および結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層400を含むことにより、高温の燃焼ガスの腐食性雰囲気に晒されても、優れた耐高温酸化性を発揮することができ、優れた耐熱性および耐久性を得ることもでき、長寿命の耐熱性金属部材を実現することができる。この耐熱性金属部材は、例えば、ロケットエンジンの燃焼室は勿論、ガスタービン用部材、例えば発電用ガスタービンの動翼などに用いても好適なものである。図31にこの耐熱性金属部材を2液式ロケットエンジンの燃焼器に適用した一例を示す。図31に示すように、金属基材100の表面に合金皮膜500が形成されたものにより筒状の燃焼器が構成されている。この燃焼器の一端にはフランジ700が取り付けられている。このフランジ700には、その中心に酸化剤導入用の導入孔701が設けられ、この導入孔701の周りに燃料導入用の導入孔702、703が設けられている。そして、この燃焼器では、導入孔701から導入された液体の酸化剤704と、導入孔702、703から導入された液体の燃料705とが燃焼室内に噴霧されて燃焼が起き、その燃焼ガスのガス流がスロートを通ってノズルから外部に噴射されることで推力が得られる。導入孔702、703からは燃焼室の内周面にも液体の燃料705が噴射されて液膜800が形成され、この液膜800により金属基材100が冷却されるようになっている。燃料としては例えばヒドラジン(N2 4 )、酸化剤としては例えば四酸化二窒素(N2 4 )が用いられる。燃焼器の内部は高温酸化性雰囲気に晒されるが、既に述べたように、表面に合金皮膜500が形成された金属基材100は耐熱性および耐久性に優れているため、燃焼器の長寿命化を図ることができる。
【0082】
以上、この発明の一実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0083】
また、Nb−Re−Si三元系合金相である上述のQ相(組成は(29.8〜40.3)原子%Si、(38.2〜54.5)原子%Nb、(15.4〜21.6)原子%Re)は、機械的強度が高いため、金属基材の表面にこのQ相からなる合金皮膜を形成することにより、機械的強度の向上を図ることができる。Q相の形成方法としては、例えば、Nb板のような金属基材の表面に既に述べたようにReをめっきしたり、Reの微粉末を含むスラリを塗布したりした後、低Si活量拡散処理を行う方法、あるいは、Nb板のような金属基材に、Nb粉末とRe粉末との混合粉末を蒸気源として低Si活量拡散処理を行う方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
100…金属基材、110…遷移領域、199…境界領域、200…内層、299…境界領域、300…中間層、399…境界領域、400…外層、500…合金皮膜
【要約】
【課題】Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材の耐高温腐食性の大幅な向上を図ることができ、耐熱性および耐久性に優れた耐熱性金属部材ならびにこの耐熱性金属部材を用いたロケットエンジンを提供する。
【解決手段】耐熱性金属部材は、Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材100と、その表面に形成された合金皮膜500とを有する。合金皮膜500は、金属基材100側から順に、結晶相としてNb5 Si3 相を含む遷移領域110、結晶相としてNbSi2 相を含む内層200、結晶相としてMSi2 相(MはFe、Cr、Al、Mo、W、ReおよびHfからなる群から選択される少なくとも二種以上の元素)を含む中間層300および結晶相としてReSi1.8 相およびRe(Al,Si)1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層400を含む。
【選択図】図2
図1
図2
図4
図6
図8
図10
図12
図14
図16
図18
図20
図22
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図26
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図31
図3
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図9
図11
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図19
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図29