【実施例】
【0052】
以下の実施例において、合金皮膜の形成に用いる工程は以下の通りである。
工程(1)Reめっき:Reめっきは特許文献3〜6に記載の方法に準拠し、Re層の厚さは2〜10μm、望ましくは2〜5μmである。
【0053】
工程(2)スラリ塗布: 金属基材100の表面に、各種金属の微粉末(Mo、W、Re、Fe、Cr、Ti等)を有機バインダに混合したスラリを塗布した後、1300℃〜1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。MoとWの微粉末の粒径は小さいほど良いが、取扱いの容易さと価格、スラリ膜の空隙率等の観点から、粒径としては0.1〜5μmが適当であり、望ましくは0.5〜3μmである。スラリを塗布する厚さは10〜100μm、望ましくは15〜50μmである。1300℃〜1500℃で加熱処理するのは、塗布したスラリ粉末の緻密化を促進し、金属基材とReを含む層との密着性を確保するためである。
【0054】
工程(3)低Si活量拡散処理: Nb粉末、Si粉末および焼結防止剤としてのSiC粒子を重量比でNb:Si:SiC=7:3:10に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1600℃〜1650℃の高温、Arガス雰囲気で加熱処理を行う。この際、混合粉末中のNbとSiとは互いに反応してNb
5 Si
3 相の粉末とNbSi
2 相の粉末との混合粉末となる。この混合粉末をNb−Si−SiC混合粉末と呼び、このNb−Si−SiC混合粉末を使用して低Si活量拡散処理を行う。
【0055】
工程(4)高Si活量拡散処理:Si粉末とSiC粉末とを重量比でSi:SiC=1:1に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1300℃〜1350℃、真空中、2〜13時間の条件下で加熱処理を行うことにより、高Si活量拡散処理を行う。
【0056】
工程(5)高Al活量拡散処理:Al粉末、Si粉末およびSiC粉末を重量比でAl:Si:SiC=1:1:8に混合し、この混合粉末を炭素坩堝に装填し、1300℃〜1350℃、真空中、2〜6時間の条件下で加熱処理を行うことにより、高Al活量拡散処理を行う。
【0057】
金属基材100として純Nbからなる金属基材およびNb−Hf基合金(C−103)からなる金属基材を用いた。Nb−Hf基合金(C−103)の公称組成は、10重量%Hf、1.0重量%Ti、0.7重量%Zr、0.5重量%Ta、0.5重量%Wであり、不可避的に含まれる酸素(O)、炭素(C)および窒素(N)の濃度の総和が0.01重量%以上3重量%未満である。
【0058】
また、以下において説明する高温酸化試験においては、1200℃〜1400℃に保持された電気炉中に、合金皮膜500を形成したNbまたはNb−Hf基合金からなる金属基材100を挿入し、1時間保持した後、電気炉から大気中に取り出して急冷し、この操作を繰り返す、いわゆる加熱・冷却サイクル酸化を実施した。エネルギー分散型分析器が付属した走査型電子顕微鏡を用いて、試料の断面の組織観察および各元素の濃度の測定を行った。
【0059】
〈実施例1〉
純度99原子%以上のNb金属板からなる金属基材100の表面に、Reめっき(工程(1))を行い、続いて1500℃、真空中で1時間の加熱処理を行う。この工程を二回繰り返して行った。この加熱処理は、Nb金属板とReめっき層との密着性を確保するためである。続いて、低Si活量拡散処理(工程(3))を1600℃、4時間、Arガス雰囲気で行った。
【0060】
こうして作製された試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。
図3に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図4に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図3に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表1は
図4に示した各元素の濃度、表2は表1に示した各層の濃度の最小値および最大値をまとめたものである。
【表1】
【表2】
【0061】
これらの結果から、合金皮膜500は、Nb金属板からなる金属基材100側から、Nb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、Q相を含む中間層300、ReSi
1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と中間層300との間に境界領域299が、中間層300と外層400との間に境界領域399が形成されていることがわかる。しかしながら、低Si活量拡散処理を行ったこの試験片では、NbSi
2 相を含む内層200は形成されていない。
【0062】
この事実により、
図1に示したように、低Si活量拡散処理では、ReはReSi
1.8 を形成するのに対してNbSi
2 は形成せず、Nb
5 Si
3 相とQ相とを形成すること、さらに、外層400のReSi
1.8 相中にNb
5 Si
3 相410が存在することも同様に理解される。このQ相の組成は、表2に示すように、(29.8〜40.3)原子%Si、(38.2〜54.5)原子%Nb、(15.4〜21.6)原子%Reである。
【0063】
低Si活量拡散処理に続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、1分、Arガス雰囲気で行った。
図5に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図6に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図5に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表3は
図6に示した各元素の濃度、表4は表3に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表3】
【表4】
この結果から、高Si活量拡散処理の時間が短時間の場合(ここでは1分) 、内層200は形成されないことがわかる。
【0064】
1分の高Si活量拡散処理に続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、1時間、Arガス雰囲気で行った。
図7に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図8に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図7に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表5は
図8に示した各元素の濃度、表6は表5に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表5】
【表6】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、NbSi
2 相を含む内層200、NbSi
2 相とReSi
1.8 相との混合相を含む中間層300、ReSi
1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と内層200との間の境界領域199はNb
5 Si
3 相とNbSi
2 相との混合相である。なお、外層400にはNbSi
2 相410が混在している。
【0065】
〈実施例2〉
実施例1において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を1350℃、1時間、Arガス雰囲気で行った。
図9に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図10に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図9に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表7は
図10に示した各元素の濃度、表8は表7に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表7】
【表8】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、NbSi
2 相を含む内層200、NbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相を含む中間層300、Re(Al,Si)
1.8 相を含む外層400の層構造を有し、遷移領域110と内層200との間の境界領域199はNb
5 Si
3 相とNbSi
2 相との混合相である。さらに、Alの濃度分布はReのそれと類似しており、AlがReSi
1.8 相のSiの一部を置換して、Re(Al,Si)
1.8 相を形成していることが特徴的である。
【0066】
〈実施例3〉
実施例1において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を真空中において900℃、1時間行い、続いて1300℃、1時間行った。
図11に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図12に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図11に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表9は
図12に示した各元素の濃度、表10は表9に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表9】
【表10】
これらの結果は、前述の
図9、
図10、表7および表8の結果と類似しているが、特に、中間層300はNbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相であることが明瞭に認められる。
【0067】
〈実施例4〉
金属基材100の材料としてNb−Hf基合金(C−103)を用いた。この金属基材100を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)に続き、工程(4)の高Si活量拡散処理を1350℃、真空、1時間の条件下で行った。
図13に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図14に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図13に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表11は
図14に示した各元素の濃度、表12は表11に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表11】
【表12】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、遷移領域110はHfを含有するNb
5 Si
3 相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi
2 相とReSi
1.8 相との混合相であり、組織の違いから層320と層340とに分けられ、外層400はWとMoとを含有するReSi
1.8 相である。遷移領域110と中間層300との間には境界領域299が存在する。境界領域299は内層200のNbSi
2 相を含み、Nb
5 Si
3 相が混在する組織となっている。言い換えると、内層200は単一の連続層としては観察されず、境界領域299と混ざって入り組んだ不連続構造となっている。
【0068】
〈実施例5〉
実施例4において最後に行った高Si活量拡散処理に続いて、高Al活量拡散処理(工程(5))を1350℃、4時間、真空の条件で行った。
図15に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図16に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図15に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表13は
図16に示した各元素の濃度、表14は表13に示した各層の濃度の最小値と最大値とをまとめたものである。
【表13】
【表14】
これらの結果から、金属基材100側から順に、遷移領域110はHfを含有するNb
5 Si
3 相、内層200はReを含有するNbSi
2 相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するRe(Al,Si)
1.8 相となっていることがわかる。これより、Reの濃度分布はAlのそれと一致し、AlはRe(Al,Si)
1.8 相に固溶していることがわかる。また、遷移領域110と内層200との間に境界領域199が、中間層300と外層400との間に境界領域399が存在している。
【0069】
〈実施例6〉
金属基材100としてNb−17at%Si合金(公称組成)からなる板を用いた。Nb−17at%Si合金を構成する相は、Nb(Si)固溶体、Nb
3 Si相およびNb
5 Si
3 相である。金属基材100の表面に、Reめっき(工程(1))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。この加熱処理は、Nb−17at%Si合金板とReめっき層との密着性を確保するためである。続いて、Reめっき層の表面に、WとMoとの微粉末を含むスラリの塗布(工程(2))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。続いて、こうして形成されるWとMoとを含む層の表面に、Reの微粉末を含むスラリの塗布(工程(2))を行い、続いて1500℃、真空中で2時間の加熱処理を行う。続いて、低Si活量拡散処理(工程(3))を1650℃、9時間、Arガス雰囲気で行った。続いて、高Si活量拡散処理(工程(4))を1350℃、13時間、真空中で行った。最後に、高Al活量拡散処理(工程(5))を1300℃、6時間、真空中で行った。
【0070】
上述のReめっきとその後の加熱処理、WとMoとの微粉末を含むスラリの塗布とその後の加熱処理およびReの微粉末を含むスラリの塗布とその後の加熱処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。
図17に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図18に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図17に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表15は
図18に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表15】
【0071】
これらの結果から、Nb−17at%Si合金板からなる金属基材100側から、Nb(Si)相の富化層、Reを主成分とするめっき層、WとMoとを主成分とする層およびReを主成分とする層が形成されていることがわかる。
【0072】
次に、上述の低Si活量拡散処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。
図19に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図20に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図19に示す写真の線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表16は
図20に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表16】
【0073】
これらの結果から、合金皮膜500は、Nb−17at%Si合金板からなる金属基材100側から、Nb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、Q相を含む中間層300、ReSi
1.8 相を含む外層400の層構造を有することがわかる。しかしながら、低Si活量拡散処理を行ったこの試験片では、NbSi
2 相を含む内層200は形成されていない。
【0074】
次に、上述の高Al活量拡散処理まで行った試験片を切断、研磨し、断面組織を観察するとともに、EPMAを用いて試験片に含まれる各元素の厚さ方向の濃度分布を測定した。
図21に試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図22に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図21に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表17は
図22に示した各元素の濃度をまとめたものである。
【表17】
【0075】
これらの結果から、合金皮膜500は、金属基材100側から順に、Nb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、NbSi
2 相を含む内層200、NbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相を含む中間層300、Re(Al,Si)
1.8 相を含む外層400の層構造を有し、内層200と中間層300との間の境界領域299はNbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相、中間層300と外層400との間の境界領域399はNbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相である。さらに、Alの濃度分布はReのそれと類似しており、AlがReSi
1.8 相のSiの一部を置換して、Re(Al,Si)
1.8 相を形成していることが特徴的である。
【0076】
次に、耐熱性金属部材の試験片の高温酸化実験を行った結果について説明する。
〈高温酸化実験1〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)に続いて、工程(4)の高Si活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1400℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を四回実施した。
図23に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図24に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図23に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表18は
図24に示した各元素の濃度、表19は表18に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表18】
【表19】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb
5 Si
3 相、境界領域199は多孔質なNb
5 Si
3 相とReSi
1.8 相との混合相、境界領域299はReSi
1.8 相とQ相との混合相、中間層300はReとMoとを含有するWSi
2 相とReSi
1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するReSi
1.8 相となっていることがわかる。酸化物600はSiO
2 である。これより、外層400のReSi
1.8 相中のSi濃度はSiO
2 を形成することによって低下するが、内層200のNbSi
2 相からSiが外層400に供給されてReSi
1.8 相が維持されている。その結果、内層200は消失し、境界領域199、299を形成している。特に、境界領域199は多孔質なNb
5 Si
3 相になることがわかる。
【0077】
〈高温酸化実験2〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1300℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を四回実施した。
図25に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図26に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図25に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表20は
図26に示した各元素の濃度、表21は表20に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表20】
【表21】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb
5 Si
3 相、内層200はReとAlとを含有するNbSi
2 相、境界領域199はNb
5 Si
3 相とNbSi
2 相との混合相、中間層300はNbSi
2 相とAlを含有するRe(Al,Si)
1.8 相との混合相、外層400はAlを含有するRe(Al,Si)
1.8 相となっていることがわかる。境界領域399は中間層300と同じ結晶相を含むが、異なる組織を有している。酸化物600はAl
2 O
3 である。高Al活量拡散処理では、実施例2に一例を示したように、外層はRe(Al,Si)
1.8 相であり、高温酸化によってAl濃度は低下・消失して、ReSi
1.8 相に変化していることがわかる。
【0078】
〈高温酸化実験3〉
金属基材100としてNb金属板を用い、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb金属板上に合金皮膜500を形成した。続いて、1400℃に大気中、1時間保持した後、室温に急冷するサイクル酸化を一回実施した。
図27に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図28に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図27に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表22は
図28に示した各元素の濃度、表23は表22に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表22】
【表23】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はNb
5 Si
3 相、内層200はReとAlとを含有するNbSi
2 相、境界領域199はNb
5 Si
3 相とNbSi
2 相との混合相、中間層300はNbSi
2 相とAlを含有するRe(Al,Si)
1.8 相との混合相であり、多孔質になっていることがわかる。外層400はAlを含有するRe(Al,Si)
1.8 相である。外層400にはNbSi
2 相が含まれている。酸化物600はAl
2 O
3 である。高Al活量拡散処理では、実施例2に一例を示したように、外層はRe(Al,Si)
1.8 相であり、高温酸化によってAl濃度は低下・消失して、ReSi
1.8 相に変化していることがわかる。
【0079】
〈高温酸化実験4〉
金属基材100としてNb−Hf基合金(C−130)を用い、工程(1)、工程(2)、工程(1)、工程(3)、工程(4)に続いて、工程(5)の高Al活量拡散処理を行うことによりこのNb−Hf基合金(C−130)上に合金皮膜500を形成し、続いて、1200℃、大気中、4サイクル酸化を実施した。
図29に酸化後の試験片の断面組織の光学顕微鏡写真を示す。
図30に、EPMAを用いて測定した各元素の濃度分布(
図29に示す写真の線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。表24は
図30に示した各元素の濃度、表25は表24に示した各層の濃度の最小値と最大値をまとめたものである。
【表24】
【表25】
これらの結果から、金属基材100側から、遷移領域110はHfを含有するNb
5 Si
3 相、内層200はReを含有するNbSi
2 相、境界領域199はNb
5 Si
3 相とNbSi
2 相との混合相、中間層300はWとMoとを含有するNbSi
2 相とRe(Al,Si)
1.8 相との混合相、外層400はWとMoとを含有するRe(Al,Si)
1.8 相となっていることがわかる。酸化物600はAl
2 O
3 である。1200℃、4サイクルの酸化条件では、合金皮膜500にはAlが残存しており、AlとSiとの総和はRe(Al,Si)
1.8 相に対応する。これより、Reの濃度分布はAlのそれと一致し、AlはRe(Al,Si)
1.8 相に固溶していることがわかる。
【0080】
以上の高温酸化実験1〜4から、少なくとも遷移領域110、内層200、中間層300および外層400を有する合金皮膜500を金属基材100上に形成することによって、合金皮膜500の表面に保護的SiO
2 皮膜を形成し、あるいは、特に、内層200をNbSi
2 相、外層400をRe(Al,Si)
1.8 相とすることによって合金皮膜500の表面に保護的Al
2 O
3 皮膜を形成することができ、さらに、内層200のNbSi
2 相がNb
5 Si
3 相に変化することによってSiがRe(Al,Si)
1.8 相に供給され、Re(Al,Si)
1.8 相、さらにはReSi
1.8 相を維持することができることが実証された。
【0081】
以上のように、この一実施の形態による耐熱性金属部材によれば、Nb、Nb−Hf基合金またはNb−Si基合金からなる金属基材100の表面に形成された合金皮膜500は、結晶相としてNb
5 Si
3 相を含む遷移領域110、結晶相としてNbSi
2 相を含む内層200、中間層300および結晶相としてReSi
1.8 相およびRe(Al,Si)
1.8 相のうちの少なくとも一種を含む外層400を含むことにより、高温の燃焼ガスの腐食性雰囲気に晒されても、優れた耐高温酸化性を発揮することができ、優れた耐熱性および耐久性を得ることもでき、長寿命の耐熱性金属部材を実現することができる。この耐熱性金属部材は、例えば、ロケットエンジンの燃焼室は勿論、ガスタービン用部材、例えば発電用ガスタービンの動翼などに用いても好適なものである。
図31にこの耐熱性金属部材を2液式ロケットエンジンの燃焼器に適用した一例を示す。
図31に示すように、金属基材100の表面に合金皮膜500が形成されたものにより筒状の燃焼器が構成されている。この燃焼器の一端にはフランジ700が取り付けられている。このフランジ700には、その中心に酸化剤導入用の導入孔701が設けられ、この導入孔701の周りに燃料導入用の導入孔702、703が設けられている。そして、この燃焼器では、導入孔701から導入された液体の酸化剤704と、導入孔702、703から導入された液体の燃料705とが燃焼室内に噴霧されて燃焼が起き、その燃焼ガスのガス流がスロートを通ってノズルから外部に噴射されることで推力が得られる。導入孔702、703からは燃焼室の内周面にも液体の燃料705が噴射されて液膜800が形成され、この液膜800により金属基材100が冷却されるようになっている。燃料としては例えばヒドラジン(N
2 H
4 )、酸化剤としては例えば四酸化二窒素(N
2 O
4 )が用いられる。燃焼器の内部は高温酸化性雰囲気に晒されるが、既に述べたように、表面に合金皮膜500が形成された金属基材100は耐熱性および耐久性に優れているため、燃焼器の長寿命化を図ることができる。
【0082】
以上、この発明の一実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0083】
また、Nb−Re−Si三元系合金相である上述のQ相(組成は(29.8〜40.3)原子%Si、(38.2〜54.5)原子%Nb、(15.4〜21.6)原子%Re)は、機械的強度が高いため、金属基材の表面にこのQ相からなる合金皮膜を形成することにより、機械的強度の向上を図ることができる。Q相の形成方法としては、例えば、Nb板のような金属基材の表面に既に述べたようにReをめっきしたり、Reの微粉末を含むスラリを塗布したりした後、低Si活量拡散処理を行う方法、あるいは、Nb板のような金属基材に、Nb粉末とRe粉末との混合粉末を蒸気源として低Si活量拡散処理を行う方法を用いることができる。