【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、平成19年12月7日〜平成19年12月9日に日本大学理工学部駿河台校舎にて開催された日本MRS主催の第18回日本MRS学術シンポジウムにおいて発表
【文献】
吉冨徹,両末端に反応性官能基を有するacetal-PEG/PCMS の合成とその応用・展開,平成19年度物質科学セミナー要旨,2007年 9月27日,検索日 2009.03.03,インターネット<URL:http://130.158.147.239/sep/yoshitomi.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項2に記載の化合物および製薬学的に許容される希釈剤または賦形剤を含んでなる、生体内で活性酸素またはフリーラジカルが関与する疾患または症状の予防または治療用の製薬学的組成物。
活性酸素またはフリーラジカルが関与する疾患または症状が脳梗塞、心筋梗塞、脳浮腫、神経脱落症状、炎症、高血圧、高脂血症、肥満、脳血管損傷および神経細胞損傷よりなる群から選ばれる請求項5または6に記載の製薬学的組成物。
活性酸素またはフリーラジカルが関与する疾患または症状が脳梗塞、脳浮腫、神経脱落症状、脳血管攣縮、ウィルス輪動脈閉塞症、脳主幹動脈閉塞症・狭窄症および腸間膜血管閉塞症よりなる群から選ばれる請求項5または6に記載の製薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、製造例1で得られた生成物アセタール−PEG−b−PCMSのサイズ排除クロマトクラフィーの結果を示すグラフ(a)及び
1H NMRスペクトラムである。
図2は、製造例2で得られた生成物アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOの
1H NMRスペクトラムである。
図3は、ESRシグナル測定により追跡した製造例2の反応生成物の精製による未反応低分子TEMPOの除去される挙動を示すグラフ表示である。
図4は、製造例3で得られたアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOによるナノ粒子(N−TEMPO−RNP)の動的光散乱(DLS)測定結果を示す図である。
図5は、製造例3で得られたN−TEMPO−RNPによるナノ粒子のESRスペクトラム(a)と低分子TEMPOの希薄溶液中でのESRスペクトラム(b)である。
図6は、N−TEMPO−RNPとO−TEMPO−RNPのミセル水溶液のpHの変化に伴うESRスペクトラムの変動を示す。
図7は、N−TEMPO−RNPのTEMPOLと低分子TEMPOのグルタチオンよる還元耐性試験の結果を示すグラフ表示である。
図8は、N−TEMPO−RNPのTEMPOLと低分子TEMPOLのアスコルビン酸による還元耐性試験の結果を示すグラフ表示である。
図9は、N−TEMPO−RNPのTEMPOLと低分子TEMPOの体内動態の結果を示す血中濃度変化を示すグラフ表示である。
図10は、O−TEMPO−RNPの体内動態の結果を示す血中濃度変化を示すグラフ表示である。
図11は、試験5における大脳切片のTTC染色写真である。それぞれ、上段は無投与オ対照群、中段は、Tempol投与群であり、下段はN−TEMPO−RNPミセル投与群であり、中段及び後段の左側の写真は、静脈投与群であり、右側の写真は動脈投与群である。
図12は、試験5における、TTC染色の結果において梗塞部分面積(infract volume)を数値化した結果のグラフ表示である。Tempo micelle(C)iv及びiaは、ナノ粒子の溶液をそれぞれ静脈内及び動脈内投与した群でありTempo iv及びiaはTempolの溶液をそれぞれ静脈内投与した群及び例である。
図13は、試験5における、脳梗塞の症状を数値化した神経症状スコア(Neurological symptom score)のグラフ表示である。
図14は、試験5(2)における、生理食塩水(Saline)、Blank−NP、N−TEMPO−RNPの薬剤投与時の平均血圧の変動の結果をグラフ表示である。
図15は、試験5(2)における、TTC染色の結果において梗塞部分面積(infract volume)を数値化した結果の表示である。
図16は、試験5(2)における、脳梗塞の症状を数値化した神経症状スコア(neurological symptom score)のグラフ表示である。
図17は、N−TEMPO−RNPとヒドラジン還元にされたRNP(N−TEMPO−RNP−H)のESRスペクトルである。
図18は、ヒドラジン還元されたRNP(N−TEMPO−RNP−H)のpH5.6およびpH7.4の酸化環境で観測されたESRシグナル強度の経時変化のグラフ表示である。
図19は、本発明のアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOによるナノ粒子(N−TEMPO−RNP)のpH応答性のついての説明する概略図である。
発明の詳細な記述
第一の態様の本発明である環状ニトロキシドラジカル化合物の安定化方法では、ブロック共重合体の疎水性セグメントに共有結合可能な環状ニトロキシドラジカル化合物は、例えば、スピン標識法で有利に使用されるような、所謂、安定なニトロキシドラジカル化合物に限定されることなく、広範な化合物を安定化できる。
このような安定化方法に用いることのできるブロック共重合体は、上記に規定するように、ポリ(エチレングリコール)鎖セグメント(A)と反応性基を担持する疎水性鎖セグメント(B)を含んでなり、好ましくは、AB型のジブロック共重合体であるが、ABA型のトリブロック共重合体、ABBA型のテトラブロック共重合体であってもよい。しかしかような共重合体のうち、好ましいものとしては、一般式(I)
式中、Aは、非置換または置換C
1−C
12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
1R
2CH−(ここで、R
1及びR
2は独立して、C
1−C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって−OCH
2CH
2O−、−O(CH
2)
3O−もしくは−O(CH
2)
4O−を表す。)の基を表し、
L
1は、原子化結合、−(CH
2)
cS−、−CO(CH
2)
cS−、−(CH
2)
cNH−、−(CH
2)
cCO−(ここで、各cは1〜5、好ましくは1または2の整数である。)、−CO−、−COO−及び−CONH−からなる群より選ばれる連結基を表し、
(h−phobic)は、それ自体当該技術分野で生体適合性または医療用ポリマーとして公知のポリマー由来のものから選ぶことができる。限定されるものでないが、下記式で表わされるものを具体例として挙げることができる:
ここで、pは1または2を表し、R
1は非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキル基を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリアミノ酸エステル鎖セグメント;
ここで、R
1は非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキル基を表し、R
2は水素原子またはC1−5アルキル基、好ましくはメチル基を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ((メタ)アクリル酸エステル)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のスチレン−無水マレイン酸共重合体鎖セグメント;
ここで、R
1は非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキル基を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリリンゴ酸エステル鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリアミック酸鎖セグメント;
ここで、R
1は非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキル基を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリマレイミド鎖セグメント;
ここで、L
1は塩素、臭素またはヨウ素原子を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、の
ポリ(ハロメチルスチレン)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(塩化ビニル)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(クロロプレン)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、のポリ(グリシジル メタクリレート)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(2−ヒドロキシエチル メタクリレート)鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリエピクロロヒドリン鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ−3,3−ビスクロロメチルオキセタン鎖セグメント;
ここで、R
1は非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキル基を表し、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(オキサゾリン)鎖セグメント;
ここで、a及びbは独立して3〜500の整数を表す、
のポリシロキサン鎖セグメント;
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(ビニルフェニルボロン酸)鎖セグメント;
ここで、nはそれぞれ3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
の1−ナイロン鎖セグメント;及び
ここで、nは3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300の整数を表す、
のポリ(ビニルベンズアルデヒド)鎖セグメント。
さらに、上記式(I)において、
Zは水素原子、ヒドロキシ、非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキルコキシまたは非結合末端において1個のフェニル基もしくはベンズヒドリル基により置換されていてもよいC
1−C
12アルキルカルボニルを表す、ジブロック共重合体を挙がることができる。
しかし、特に、ブロック共重合体の反応性基を担持する疎水性鎖セグメントが、式
ここで、L
1は塩素、臭素またはヨウ素原子を表し、nは3〜1,000の整数を表す、のポリ(ハロメチルスチレン)鎖セグメントである、ブロック共重合体を好ましく使用できる。
このようなブロック共重合体の一部は公知であり、例えば、疎水性セグメントがポリアミノ酸エステル鎖セグメントを表すものは特許第2690276号公報(または米国特許第5,449,513号明細書)等により、また、ポリ((メタ)アクリル酸エステル鎖セグメントを表すものは特許文献3により公知である。その他のブロック共重合体は上記ブロック共重合体の製造方法または本明細書に後述する製造例1を参照すれば当業者にとって容易に取得できる。なお、本発明で使用するブロック共重合体を規定する一般式中の連結基または反復単位を式で表す場合には、記載されている方向性でそれが一般式中組込まれることが意図されている。
環状ニトロキシドラジカルは、本発明の方法により安定化できるものであれば、限定されることなく使用できるが、しかし、本発明で安定化することを強く企図している環状ニトロキシドラジカル化合物は、4−置換2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、3−置換2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−置換2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル、2−置換2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル、2−置換2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル及び2−置換−2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシルからなる群より選ばれ、4−置換、3−置換または2−置換の置換基が、アミノ基、アミノメチル基及びヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基及びカルボキシメチル基からなる群より選ばれる。
該環状ニトロキシドラジカル化合物のラジカル以外の官能基(例えば、アミノ基、アミノメチル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、カルボキシル基またはカルボメチル基)と該ブロック共重合体の反応性基(ハロゲン原子、特に、塩素、臭素もしくはヨウ素原子、カルボキシル基、イソシアナート残基、イソチオシアナート残基、エステル残基、酸無水物残基、ボロン酸残基、マレイミド残基またはエポキシ基)を介して共有結合を形成する方法は、それ自体公知の縮合反応、付加反応または、例えばエステル残基にあっては環状ニトロキシドラジカル化合物の官能基(アミノ基)を介するアミノリシス等により実施できる。このような反応は、必要により、水性溶媒(水及び水に混和しうる有機溶媒、例えば、低級アルコール、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、シメチルスルホキシド、等を含んでいてもよい)中、有機塩基(トリメチルアミン、トリエタノールアミン等)または無機塩基(炭酸カリウム、炭酸ナトリウウム、水酸化ナトリウム等)、その他の当該技術分野で公知の縮合剤の存在下で実施してもよい。前記ブロック共重合体はそれ自体としても水性溶媒中で自己組織化により高分子ミセルを形成できるものが都合よく使用できるが、該環状ニトロキシドラジカル化合物が共有結合された形態において水性溶媒中で高分子ミセルを形成し得るものであれば、本発明で使用できる。
本発明の別の態様では、上記のようなブロック共重合体を使用する環状ニトロキシドラジカル化合物の安定化方法により製造される環状ニトロキシドラジカル化合物の高分子化化合物が提供される。限定されるものでないが、好ましい態様としては、エチレングリコールの反復単位が15〜10,000のポリ(エチレングリコール)鎖セグメントとスチレンの反復単位が3〜3,000のポリ(スチレン)鎖セグメントを含んでなり、かつ、該ポリ(スチレン)鎖セグメントにおけるスチレンの反復単位の少なくとも10%、好ましくは30%、より好ましくは50%、さらにより好ましくは80%、特に好ましくは100%がフェニル基の4位において−CH
2NH−、−CH
2NHCH
2−、−CH
2O−、−CH
2OCH
2−、−CH
2OCO−及び−CH
2OCOCH
2−からなる群より選ばれる連結基を介して環状ニトロキシドラジカル化合物の残基が共有結合しており、該4位の残りがハロゲン原子、水素原子またはヒドロキシル基であり、そして該環状ニトロキシドラジカル化合物が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる、ことを特徴とする高分子化ニトロキシドラジカル化合物が提供される。さらに具体的であり、かつ、より好ましいものとしては、一般式(II)
式中、Aは、非置換または置換C
1−C
12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
1R
2CH−(ここで、R
1及びR
2は独立して、C
1−C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって−OCH
2CH
2O−、−O(CH
2)
3O−もしくは−O(CH
2)
4O−を表す。)の基を表し、
L
1は、原子化結合、−(CH
2)
cS−、−CO(CH
2)
cS−、からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
L
2は、メチルイミノ(−CH
2NH−)、メチルイミノメチル(−CH
2NHCH
2−)、メチルオキシ(−CH
2O−)、メチルオキシメチル(−CH
2OCH
2−)、メチルエステル(−CH
2OCO−)及びメチルエステルメチル(−CH
2OCOCH
2−)からなる群より選ばれる連結基を表し、
Rは、Rの総数nの少なくとも50%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,5,5−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシル基であり、
mは、20〜5,000,好ましくは30〜3,000、より好ましくは、40〜1,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜500の整数を表す、
の高分子化ニトロキシドラジカル化合物が提供される。さらに、一般式(II)において、L
1が原子化結合または−CH
2CH
2S−であり、L
2がメチルイミノまたはメチルイミノメチルであり、そして
Rの全てが、次式
式中、R’はメチル基である、
のいずれかで表される環状ニトロキシドラジカル化合物の残基である、高分子化ニトロキシドラジカル化合物は、これらの化合物から形成できる高分子ミセルの安定化にpH応答性を付与する点でも特に好ましいものとして提供される。
上記の各基または部分の定義において、C
1−C
12アルコキシのアルキル部分は、直鎖または分岐のアルキルであることができ、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、ブチル、iso−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、ドデカニル等を挙がることができる。また、Aが、式R
1R
2CH−で置換されたアルコキシ基を表し、かつ、R
1及びR
2は独立して、C
1−C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって−OCH
2CH
2O−、−O(CH
2)
3O−もしくは−O(CH
2)
4O−を表す場合には、このような置換基は酸性条件下で容易に開裂してホルミル基に転化できるので、タンパク質(例えば、抗体その他のリガンド)等をそのアミノ基を介して容易に共有結合できる。かような置換基は、存在する場合には、アルコキシ基の未結合末端に存在するのが好ましい。これらの置換基は、例えば、上記特許文献2及び3に記載のポリ(エチレングリコール)鎖セグメントの生成方法を参照して導入できる。
また、上記ブロック共重合体における、連結基L
1は、ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントとポリ(スチレン)をどのように結合させるかにより代わり得るので限定されるものでない。例えば、ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントをアニオンリビング重合で生成し、次いで、ハロメチルスチレンのリビング重合を継続する場合には、L
1は原子価結合となる。ポリ(エチレングリコール)鎖セグメントのω−末端に硫黄原子を持つポリ(エチレングリコール)誘導体を用意した場合は、該誘導体の存在下にハロメチルスチレンのラジカル重合を行うことで連結基が、−CH
2CH
2S−または−COCH
2CH
2S−となり得る。
L
2は、典型的には、メチルイミノ、メチルイミノメチル、メチルオキシ、メチルオキシメチル、からなる群より選ばれる連結基を挙げることができる。このような連結基は、都合よくは、ブロック共重合体、例えば 一般式(III)
式中、Aは、非置換または置換C
1−C
12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R
1R
2CH−(ここで、R
1及びR
2は独立して、C
1−C
4アルコキシまたはR
1とR
2は一緒になって−OCH
2CH
2O−、−O(CH
2)
3O−もしくは−O(CH
2)
4O−を表す。)の基を表し、
L
1は、原子化結合、−(CH
2)
cS−、−CO(CH
2)
cS−、からなる群より選ばれる連結基を表し、ここでcは1ないし5、好ましくは2の整数であり、
Xは、塩素、臭素またはヨウ素原子を表し、
mは、20〜5,000の整数を表し、そして
nは、3〜1,000の整数を表す、
で表されるブロック共重合体のハロゲン原子と環状ニトロキシドラジカル化合物のラジカル以外の官能基の種類により、変動しうるものであるが、通常、ハロゲン化水素の脱離を伴う共有結合形成反応により形成できる。
なお、一般式(III)で表される共重合体は、本発明者等の知る限りでは、文献未記載であり、本発明の別の一態様として提供される。
一般式(II)における、Rは、Rの総数nの少なくとも50%、好ましくは、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは100%が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−イル、2,2,4,4−テトラメチルピロリジン−1−オキシル−3−イル、2,2,4,4−テトラメチルピロリン−1−オキシル−3−イル及び2,4,4−トリメチル−1,3−オキサゾリジン−3−オキシル−2−イル、2,4,4−トリメチル−1,3−チアゾリジン−3−オキシル−2−イル及び2,4,4−トリメチル−イミダゾリンジン−3−オキシル−2−イルからなる群より選ばれる環状ニトロキシドラジカル化合物の残基を表し、存在する場合には、残りのRが水素原子、ハロゲン原子またはヒドロキシル基を表す。Rの総数nにおける環状ニトロキシドラジカル化合物の残基の占める割合は、例えば、上記一般式(III)の共重合体と環状ニトロキシドラジカル化合物の反応を制御、例えば、反応時間を制御することにより、変動せしめることができる。
mは、上述したが、また、20〜5,000、好ましくは35〜3,000、より好ましくは60〜500の整数であることができ、そしてnは、3〜5000、好ましくは10〜300、より好ましくは15〜100の整数であることもできる。
本発明の高分子化ニトロキシドラジカル化合物は、具体的には、後述する試験例で示されるとおり、還元性条件下でも、環状ニトロキシドラジカル化合物本来の作用(例えば、非特許文献1も参照)を示すので、生体の内外で抗酸化剤として使用できる。
本明細書では、上記の方法により安定化された化合物、より具体的に記載された化合物のさらなる具体的な使用例として、生体内で活性酸素またはフリーラジカル(もしくヒドロキシラジカル)が関与する疾患または症状の予防または治療に使用できる。
本発明にいう、生体内とは、ヒトをはじめとする動物一般、哺乳類、魚類等の生体内を意味し、器官、臓器、体液を挙げることができる。
活性酸素またはヒドロキシラジカルが関与する疾患または症状は、限定されるものでないが、脳梗塞、心筋梗塞、脳浮腫、神経脱落症状、炎症、高血圧、高脂血症、肥満、脳血管損傷および神経細胞損傷、より具体的には脳梗塞、脳浮腫、および神経脱落症状、脳梗塞(特に、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、脳塞栓症)、脳血管攣縮(特に、くも膜下出血後に起こる一過性の脳動脈の狭窄)、もやもや病(特に、ウィルス輪動脈閉塞症)、脳主幹動脈閉塞症・狭窄症、腸間膜血管閉塞症を挙げることができる。
かような疾患または症状に効能を発揮する化合物であれば、上記の化合物のいずれを有効成分とすることもできるが、好ましいものとしては、上記一般式(II)で表される化合物を、そしてより好ましいものとしては該一般式(II)で表わされる化合物であって、式中のL
1が原子化結合または−CH
2CH
2S−であり、L
2がメチルイミノまたはメチルイミノメチルであり、そして
Rの全てが、次式
式中、R’はメチル基である、
のいずれかで表される環状ニトロキシドラジカル化合物の残基である、高分子化ニトロキシドラジカル化合物挙げることができる。L
2がメチルイミノまたはメチルイミノメチルである場合には、酸性pH条件下で環状ニトロキシドラジカルを内包する高分子ミセルの崩壊が促進され、ラジカルが周囲環境下に放出されるので環状ニトロキシドラジカル本来の作用(上記非特許文献1参照)を発揮するようになる。そのため、通常、酸性状態にあることが知られている炎症部位等で、選択的に環状ニトロキシドラジカルの作用を発揮せしめ得ることが期待できる。
製薬学的組成物に含めることができる製薬学的に許容できる希釈剤または賦形剤としては、当該技術分野の注射剤(静脈内、動脈内注入剤)、局所投与剤(脳内埋包剤を含む)などの調製に常用されている添加剤であって、高分子化環状ニトロラジカルの特性または機能に悪影響を及ぼさない化合物または物質であればいかなるものも挙げることができる。限定されるものでないが、注射剤にあっては、希釈剤としては、典型的には純水、脱イオン水、または生理食塩水が挙げられ、これらの液には、緩衝剤を含めることもできる。また、これらの液には、一般式(I)で表される化合物が形成する高分子ミセルの安定性に悪影響を及ぼさない限り、エタノール、ジメチルスルホキシドなどの水混和性の有機溶媒を含めてもよい。賦形剤としては、医薬製剤に使用できる各種分子量のポリエチレングリコール(マクロゴール)、グルコース、ラクトース、マンニトール、等の糖または糖アルコールを挙げることができる。脳内埋包剤としては、例えば、脳内に設置するステントの被覆マトリックス層中に該化合物を含めた形態のものを挙げることができる。本明細書にいう、食品に許容できる希釈剤または賦形剤(またはキャリアー)は、上記製薬学的に許容できるものに準ずることができる。
静脈内投与剤を例にすると、最適な用量は、患者の年齢、症状、年齢、性別等により変動するので限定されないが、本発明に従う組成物の用量は、環状ニトロキシドラジカル化合物基準で、通常、成人に対して、1日当たり0.1〜900mg/kg、好ましくは1〜250mg/kgであり、一度ないし3度に分けて投与できる。
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明をこれらの態様に限定することを意図するものではない。
製造例1:α―末端にアセタール基を有するポリエチレングリコール−b−ポリクロロメチルスチレン(アセタール−PEG−b−PCMS)の合成
アセタール−PEG−b−PCMSは、次の合成スキーム1に従い合成した:
α―末端にアセタール基、ω―末端にチオール基を有しているヘテロ二官能性ポリエチレングリコール(アセタール−PEG−SH)(Mn:4,600;0.02mmol,92mg)を反応容器に加えた。次に、反応容器中を真空にした後、窒素ガスを吹き込む操作を3回繰り返すことにより、反応容器内を窒素雰囲気にした。反応容器に1mLのアゾビスイソブチロニトリル/ベンゼン(0.01mmol/mL)溶液とクロロメチルスチレン(1mmol,0.138mL)を加え、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。反応混合物をヘキサン中に流し込んだところ、白い沈殿が生じた。ポリクロロメチルスチレンホモポリマーを除去するために、得られた沈殿物をポリクロロエチルスチレンホモポリマーに対しての良溶媒であるジエチルエーテルを用いて3回洗浄操作を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、白い粉体を得た。収量は、134mgであり、収率は55.1%であった。得られたアセタール−PEG−b−PCMSブロック共重合体のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定の結果から、二峰性の分布が確認された(
図1a)。生成物の情報を得るために、SECを用いてこの2つの分布を分別し、それぞれのフラクションの
1H NMRスペクトルを測定した。
その結果、二つのフラクションのPEGとPCMSの成分比率がほぼ同じであることが明らかとなった。また、得られたブロック共重合体中のPCMSセグメントの分子量を算出するために、SECより決定したアセタール−PEG−SHの分子量に基づき
1H NMRスペクトルを解析ところ、PCMSセグメントの分子量は、それぞれ3,300、6,600であることが明らかとなった(
図1b)。これらの結果により、二峰性の分布は、一方がジブロック共重合体の生成物であり、他方がトリブロック共重合体の生成物であることが明らかとなった。これは、テロメリゼーション中のジブロック共重合体同士の再結合により、トリブロック共重合体が生成したということが示唆される。また、ピークフィッティングにより、ジブロック共重合体とトリブロック共重合体の成分比は、23%と77%であることが確認された。
製造例2:イミノ結合を介して結合したTEMPOを有するブロックポリマー(アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPO)の合成
反応容器に、アセタール−PEG−b−PCMS(Mn:7,900;40mg,5.2μmol)を加えた。次に、4−アミノ−TEMPO(88mg,520mmol)を2mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、反応容器に加え、室温で5時間攪拌を行った。反応終了後、−15℃に冷却した2−プロパノール中に反応混合物を注ぎ、次に2−プロパノールを用いて3回、再沈殿を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行った。収率は、76.3%であった。
1H NMR測定の結果より、クロロメチル基が100%反応し、TEMPOが導入されていることが認められた(
図2)。またサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分取し、各フラクションにおけるESRシグナルを測定した。その結果、再沈殿の回数が増すごとに20分〜27分に見られる未反応アミノ−TEMPOのESRシグナルが消失したことから、未反応のアミノ−TEMPOが精製によって完全除去されていることが確認された(
図3)。
製造例3:エーテル結合を介して結合したTEMPOを有するブロックポリマー(メトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPO)の合成
反応容器に、メトキシ−PEG−b−PCMS(Mn:7,900;200mg,30.6μmol)を加え、ジメチルホルムアミド(DMF)1mLに溶解した。次に、4−ヒドロキシ−TEMPO(260mg,1.53mmol)とNaH(70.3mg,3mmol)を2mLのDMFに溶解し、反応容器に加え、室温で5時間攪拌を行った。反応終了後、−15℃に冷却した2−プロパノール中に反応混合物を注ぎ、次に2−プロパノールを用いて3回、再沈殿を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、目的のメトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOを得た。収率は、70.0%であった。
製造例4:アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOによるナノ粒子(N−TEMPO−RNP)の調製
20mgのアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOを2mLのDMFに溶解し、ポリマー溶液を透析膜(Spectra/Por molecular weight cut−off size 3,500 Spectrum Medical Industries Inc.,Houston,TX)中に加え、2Lの蒸留水に対して透析を行った。蒸留水は、2、4、8時間後に3回交換した。透析後、得られたRNPの平均粒子径をDLS測定により行ったところ、平均粒径40nmの単峰性の粒子であることが確認された(
図4)。次に、得られたN−TEMPO−RNPのESRスペクトルの測定を行った。通常、低分子TEMPOは希薄溶液中において、窒素核と不対電子の相互作用により3本線のスペクトルを示すものの(
図5b)、アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOを用いて調製したN−TEMPO−RNPはブロードな1本線のスペクトルを示すことが明らかとなった(
図5a)。これは、疎水性のPCMS−TEMPOセグメントが粒子コアとして凝集した固体相を形成することでTEMPOの運動性が低下し、さらにTEMPO間が隣接したことによりスペクトルの線幅が増大した結果、スペクトルが3本線から1本線に変化したものと考えられる。
製造例5:メトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOによるナノ粒子(O−TEMPO−RNP)の調製
製造例4における、アセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOをメトキシ−PEG−b−PCMS−O−TEMPOに代えたこと以外、反応体、溶媒、等の量は同様な割合で使用して、製造例4の処理手順を繰り返した。こうして得られたO−TEMPO−RNPの平均粒子径を確認するためにDLS測定を行ったところ、製造例4のN−TEMPO−RNPと同様に平均粒子径40nmの単峰性であることが確認された。次に、得られたO−TEMPO−RNPのESRスペクトルの測定を行った。通常、低分子TEMPOは希薄溶液中において、窒素核と不対電子の相互作用により3本線のスペクトルを示すものの(上記
図5b参照)、O−TEMPO−RNPは
図5aに示されるN−TEMPO−RNPと同様にブロードな1本線のスペクトルを示すことが確認された。この原因は、N−TEMPO−RNPについて記述したのと同様であると考えられる。
試験1:N−TEMPO−RNPとO−TEMPO−RNPのpH応答性
製造例4で得られたN−TEMPO−RNPのpH変化に対する平均粒径とESRスペクトルを動的光散乱(DLS)とESRにより測定した。中性pHから塩基性pH領域においては、平均粒径40nmの単峰性の粒子であり散乱強度に変化がなかったものの、酸性領域においては、散乱強度が減少し、粒子径が増大することが明らかとなった。またESR測定により、中性pHと塩基性pHにおけるRNPのESRスペクトルは、ブロードな1本線であったものの、酸性条件下においては、スペクトルの形状が1本線から3本線に変化することが明らかとなった(
図6の上段)。この原因は、ブロックポリマーの疎水セグメント側鎖に存在するアミノ基のプロトン化によって粒子が崩壊し、さらに側鎖間での静電反発が生じることにより、TEMPOの運動性が増加し、またTEMPO間距離が増大したものと考えられる。
これに対し、O−TEMPO−RNPはどのpH領域においても同様のESRシグナルを示している(
図6の下段)。
試験2:グルタチオンに対するN−TEMPO−RNPラジカルの還元耐性
通常、細胞内は還元環境であり、高濃度(0.5mM〜10mM)のグルタチオンが存在しているものの、血中では細胞中の100〜1000分の1程度しか存在しないことが知られている。よって、安定ラジカルを有している低分子TEMPOは、細胞内に入ると容易に還元され、急速にESRシグナル強度を消失する。そこで、高分子化環状ニトロキシドラジカルのグルタチオン還元耐性を評価するために、900mMのBritton−Robinson緩衝溶液を用いて64μMのアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOから成るミセル(N−TEMPO−RNP)の溶液を調製し(pH7.2)、10mMのグルタチオン存在下でのESRスペクトルの変化を観測した。GSH共存下1時間後、低分子TEMPOのESRシグナル(灰色バー)強度は、50%の減少が認められたのに対し、調製したRNPのESRシグナル強度の変化は認められなかった(
図7)。この結果から、ナノ粒子のコア内に存在するTEMPOは、外部に存在するGSHに対して安定であるため、強いESRシグナル強度を保持することができたと考えられる。
試験3:アスコルビン酸(AsA)に対するN−TEMPO−RNPラジカルの還元耐性
ビタミンCとも称されるAsAは、通常、血中で高濃度に存在する。安定ラジカルを有している低分子TEMPOは生体内投与後血液中で容易に還元され、急速にESRシグナル強度を低下することが知られている。そこで、AsAに対するN−TEMPO−RNPの還元耐性を評価するために、3.6mM AsAの存在下、PBS緩衝液(10mM,150mM NaCl,pH7.4)において、90μMのアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPO調製されたN−TEMPO−RNPのESRスペクトルの変化を観察した。その結果を
図8に示す。図より、低分子TEMPOの半減期は20秒以内であるのに対し、N−TEMPO−RNPの半減期は約15分であることが明らかである(半減期が約45倍に増加している)。
試験4:N−TEMPO−RNPとO−TEMPO−RNPの血中滞留性
上記のように調製したN−TEMPO−RNPおよびO−TEMPO−RNPをそれぞれ独立して、別々のマウスの静脈に注射し、一定時間後、開腹手術を行い、心臓より採血を行った。採血後、6,200rpm(2000×g)で10分間遠心分離し、血漿を得た。得られた血漿のESRスペクトルを測定したところ、血中からそれぞれのRNPのESRシグナルが観測された。また、その体内動態を検討したところ、半減期は前者が約20分であり(
図9)、後者が約1時間であった(
図10)。pH応答性を示すN−TEMPO−RNPはコントロールとして用いた低分子TEMPOLの血中半減期(<1分)よりもきわめて高い血中安定性を有するが、pH応答姓を示さないO−TEMPO−RNPはさらに血中安定性が高まることが明らかとなった。
試験5:脳虚血モデルラットの処置
(1)製造例2のアセタール‐PEG−b−PCMSの製造において使用したアセタール‐PEG−SHに代え、メトキシ−PEG−SHを用いて同様製造したメトキシ−PEG−b−PCMSを原料に、製造例3及び4に従って処理することにより得られたメトキシ−PEG−b−PCMS−N−TEMPOのジメチルホルムアミドのポリマー溶液を透析後、得られたRNP(N−TEMPO−RNP)の平均粒子径をDLS測定により行ったところ、平均粒径60nmの単峰性の粒子であることが確認された。こうして得られたN−TEMPO−RNP水溶液に生理食塩水を添加して100%生理食塩水の濃度となるように遠心エバポレーターにより濃縮して20mg/mLに調整した。
脳虚血モデルラットは次のように作成した:
SD系の雄のラット(3週齢)を1週間馴化飼育後、イソフルランによる吸入麻酔を行なった。総頚動脈を塞栓糸により閉塞し、2時間後に再還流した。再還流後、直ちにN−TEMPO−RNP(20mg/mL)を120mg/mLの濃度で1mL/minの速度で大腿静脈(もしくは総頚動脈)から注射した。24時間後、ネンブタール注射麻酔により屠殺した。大脳を摘出し、液体酸素もしくはドライアイスで表面を固めた後、厚さ2mmにスライスし、2,3,5−トリフェニルテトラゾリュームクロライド(TTC)溶液で両面を37度で30分間ずつ染色した。コントロールとして再還流後に何も投与しない群と高分子化TEMPOミセル(N−TEMPO−RNPともいう)中のTEMPOと同モル濃度のTempolを投与した群の試験も平行して行なった。それぞれ試行数N=3であった。
図11にTTC染色した脳写真の例を示した。赤く染色された部分(図では、黒色の濃淡として表せれている)が生細胞、白い部分が死細胞である。投与しない群と比べてN−TEMPO−RNPの静脈投与群では明らかに赤い部分が増え、有意に細胞死が防がれており、特に脳虚血の際の薬物治療領域といわれるペナンブラ領域にその傾向が顕著であることがわかった。またTempolでは静脈投与群においてN−TEMPO−RNPよりも効果が見られなかった。これは静脈投与をすることによりTempolが血中の還元成分により還元されたためであると考えられる。TEMPOは高分子化し、ミセル形成を可能にしたことにより、生体の外的環境から一定の保護がなされたものと推測される。
一方、動脈投与ではTempolにおいても静脈内投与より一定以上の細胞死防護効果が得られた。動脈投与ではTempolが血液還流成分により還元される前に疾患部分に到達するためと考えられる。また、静脈投与の場合、血流に乗って体中に分散され、総頚動脈からの投与よりも患部に到達する量が少なくなるためと考えられる。
また、TTC染色の結果において梗塞部分面積(infract volume)を数値化して
図12(N=3)に示す。図から、静脈投与Tempol群に対して静脈N−TEMPO−RNPでは梗塞面積が減少する傾向があることがわかった。また、脳梗塞の症状を数値化した神経症状スコア(Neurological symptomscore:0:両前肢が伸びている、欠陥なし。1:左前肢が胸に置かれており、右前肢が伸びている。2:スコア1に加え側方の押しへの抵抗が低下する。3:スコア2に加え身体の上半身をよじる。これらの値が大きいほど症状が重くなる。
図13)でも同様の傾向が得られ、脳梗塞面積が多いほど症状が重いという相関がみられた。
(2)上記のような脳虚血モデルラットに対し、試行数およびコントロールまたは比較例を追加した試験を行った。
試験を行った薬剤またはコントロールは次のとおりである。上記N−TEMPO−RNP、コントロールとして再還流後に何も投与しない群、N−TEMPO−RNP中のTEMPOと同じモル濃度のTempolを投与した群、100%生理食塩水を投与した群、TEMPOを付加していないメトキシ−PEG−b−PCMSのミセル(以下、Blank−NPともいう。製造例4に従って作製)の群も平行して行った。それぞれの試験数Nは、N−TEMPO−RNP、TempolでN=20、生理食塩水、Blank−NPはN=8であった。術中のラットの体温、血圧、血中ガス分析を行った。また。モデル作成前と屠殺前での体重変化も調べた。
試験前後での各群の体重変化に大きな違いは見られなかった。また、体重、血中ガス分析の結果にも違いは見られず、各郡でのモデル作成が一定の条件で行われたことが確認された。薬剤投与時の平均血圧はTempolで有意に下がった(
図14参照)。Tempolが血圧降下作用を有することは知られており、脳虚血時には一般に血圧が下がることは治療上逆効果である。しかし、N−TEMPO−RNPでは血圧降下が有意に抑制された(p<0.01)。これはTempol中のニトロキシドラジカルは投与時に血管拡張に働くために血圧が下がるが、高分子ミセル化することにより投与時にはニトロキシドラジカルが保護されているものと考えられる。その分、ニトロキシドラジカルが効果的に脳内フリーラジカルの消去に使用されうると考えられる。
脳梗塞面積(infract volume)については、生理食塩水、Blank−NP、Tempolと比較してN−TEMPO−RNPは有意に脳梗塞面積を減少させた(
図15,それぞれ、p<0.01,0.05,0.05)。Tempolに比べてN−TEMPO−RNPの高い脳保護効果は、高分子ミセル化により安定ラジカルが患部まで保持移行されるためと考えられる。
神経症状スコア(0:尾を持ち、持ち上げた時、両前肢が伸びている。欠陥なし。1:尾を持ち、持ち上げた時、左前肢が胸に置かれており、右前肢が伸びている。2:スコア1に加え側方の押しへの対抗が低下する。3:スコア2に加え身体の上半身をよじる。これらの値が大きいほど症状が重くなる。)でも、N−TEMPO−RNPはTempolよりも有意に神経症状を減少させた(
図16参照)。また、生理食塩水、Blank−NP、Tempolの間では有意差はなかった。
試験6:癌・炎症組織において活性酸素(ROS)の可視化を目指したESRプローブの創製
活性酸素(ROS)によって誘発される酸化ストレスは、さまざまな障害や疾患の病因として関与していることが明らかになってきている。例えば、癌組織や炎症組織においては、ROSが産出していることが知られている。生体内でのROSの可視化はROSと疾患の関連を明らかにするためにも非常に重要である。ESRイメージングは、生体内の酸化還元反応を可視化するツールとして近年注目を集めている。さまざまなESRイメージング用プローブがこれまでに開発されているが、低分子のESRプローブは血中半減期が短く、また目的部位に特異的に集積させる機能を有していないため特定の組織での観察は困難である。また、酸化ストレスが関与していると考えられる炎症部位や癌組織においては、pHが低下していることが知られている。そこで、酸性条件下においてN−TEMPO−RNPが崩壊することを利用して、ROSの可視化できる新規ESRプローブの開発の可能性を検討した。
(1)ROSの可視化できるESRプローブ(N−TEMPO−RNP−H)の開発
5mg/mLのメトキシ−PEG−b−PCMS−N−TEMPOのDMF溶液に1500倍量の無水ヒドラジンを添加し、ポリマー溶液を透析膜(Spectra/Por molecular weight cut−off size 3,500 Spectrum Medical Industries Inc.,Houston,TX)中に加え、2Lの蒸留水に対して透析を行った。蒸留水は、2、4、8時間後に3回交換した。透析後、得られたRNPの平均粒子径をDLS測定したところ、平均粒子径約40nmの単峰性であることが確認された(製造例4のアセタール−PEG−b−PCMS−N−TEMPOによるナノ粒子(N−TEMPO−RNP)の調製と同様)。次いで、こうして得られたRNPのESRスペクトルの測定を行った。無水ヒドラジンを添加していない場合、RNPはブロードな1本線のスペクトルを示すものの(
図17a)、ヒドラジンを添加した場合では非常に小さな強度のスペクトルに変化することが明らかになった(
図17b)。これは、ヒドラジンによってTEMPOラジカルが還元されたため、ESRシグナル強度が減少したものと考えられる。
(2)生体内酸化反応の可視化のモデル実験
N−TEMPO−RNP−H(46mM,60μL)に、H
2O
2水溶液(500mM,60μL)と西洋ワサビペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase(HRP))/100mM Britton Robinson(375 U/mL,480μL)を添加し、酸性pH(pH5.6)と中性pH(pH7.4)においてN−TEMPO−RNP−Hの酸化反応を行いESRスペクトルの変化を観測した。通常、低分子TEMPOLはpHが酸性になるに従い酸化反応速度が低下することが知られているものの、高分子化ミセル化N−TEMPO−RNP−Hを用いた場合は、pH5.6のみの条件において、著しくESRシグナル強度が増大することが明らかとなった。この結果より、癌や炎症組織周辺での酸性条件下においてROSを可視化することができるプローブとしてN−TEMPO−RNP−Hを用いることが可能であると推測される(
図18)。