特許第5737787号(P5737787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737787
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】銀めっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/12 20060101AFI20150528BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20150528BHJP
   H01H 1/04 20060101ALI20150528BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C25D5/12
   C25D5/26 J
   H01H1/04 B
   H01H1/04 E
   H01H11/04 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-234676(P2011-234676)
(22)【出願日】2011年10月26日
(65)【公開番号】特開2012-119308(P2012-119308A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2012年8月7日
【審判番号】不服2014-8928(P2014-8928/J1)
【審判請求日】2014年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-253045(P2010-253045)
(32)【優先日】2010年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】尾形 雅史
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 寛
(72)【発明者】
【氏名】篠原 圭介
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−146926(JP,A)
【文献】 特開2007−138237(JP,A)
【文献】 特開2005−133169(JP,A)
【文献】 特開2005−2400(JP,A)
【文献】 特開平5−2940(JP,A)
【文献】 特開2008−169408(JP,A)
【文献】 特開2010−180425(JP,A)
【文献】 特開2007−92141(JP,A)
【文献】 特開2007−16250(JP,A)
【文献】 特開2007−254876(JP,A)
【文献】 特開2004−263274(JP,A)
【文献】 特開昭60−187695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00
C25D 5/00
H01H 1/04
H01H11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる厚さ0.01〜1.0μmの下地層が形成され、その上にCuからなる厚さ0.01〜0.2μmの中間層が形成され、その上にAgからなる厚さ0.1〜2.0μmの表層が形成された銀めっき材において、表層のX線回折パターンの(111)ピークの半価幅からシェラーの式を用いて算出した結晶子径が300オングストローム以上であることを特徴とする、銀めっき材。
【請求項2】
ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる厚さ0.01〜1.0μmの下地層を形成し、その上にCuからなる厚さ0.01〜0.2μmの中間層を形成した後、電気めっきにより、表層のX線回折パターンの(111)ピークの半価幅からシェラーの式を用いて算出した結晶子径が300オングストローム以上になるように、中間層の上にAgからなる厚さ0.1〜2.0μmの表層を形成することを特徴とする、銀めっき材の製造方法。
【請求項3】
前記表層が、80〜150g/Lのシアン化銀カリウムと60〜150g/Lのシアン化カリウムと5〜30mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、液温15〜30℃として電流密度2〜10A/dmで電気めっきを行うことによって形成されることを特徴とする、請求項2に記載の銀めっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀めっき材およびその製造方法に関し、特に、車載用や民生用の電気配線に使用されるコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品の材料として使用される銀めっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コネクタやスイッチなどの接点や端子部品などの材料として、ステンレス鋼や銅または銅合金などの比較的安価で耐食性や機械的特性などに優れた素材に、電気特性や半田付け性などの必要な特性に応じて、錫、銀、金などのめっきを施しためっき材が使用されている。
【0003】
ステンレス鋼などの素材に錫めっきを施した錫めっき材は、安価であるが、高温環境下における耐食性に劣っている。また、ステンレス鋼などの素材に金めっきを施した金めっき材は、耐食性に優れ、信頼性が高いが、コストが高くなる。一方、ステンレス鋼などの素材に銀めっきを施した銀めっき材は、金めっき材と比べて安価であり、錫めっき材と比べて耐食性に優れている。
【0004】
ステンレス鋼などの素材に銀めっきを施した銀めっき材として、ステンレス鋼からなる薄板状基板の表面に厚さ0.1〜0.3μmのニッケルメッキ層が形成され、その上に厚さ0.1〜0.5μmの銅メッキ層が形成され、その上に厚さ1μmの銀メッキ層が形成された電気接点用金属板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ステンレス鋼基材の表面に活性化処理された厚さ0.01〜0.1μmのニッケル下地層が形成され、その上にニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金のうちの少なくとも一種からなる厚さ0.05〜0.2μmの中間層が形成され、その上に銀または銀合金の厚さ0.5〜2.0μmの表層が形成された可動接点用銀被覆ステンレス条も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、銅、銅合金、鉄または鉄合金からなる金属基体上に、ニッケル、ニッケル合金、コバルトまたはコバルト合金のいずれかからなる厚さ0.005〜0.1μmの下地層が形成され、その上に銅または銅合金からなる厚さ0.01〜0.2μmの中間層が形成され、その上に銀または銀合金からなる厚さ0.2〜1.5μmの表層が形成され、金属基体の算術平均粗さRaが0.001〜0.2μmであり、中間層形成後の算術平均粗さRaが0.001〜0.1μmである、可動接点部品用銀被覆材も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3889718号公報(段落番号0022)
【特許文献2】特許第4279285号公報(段落番号0008)
【特許文献3】特開2010−146926号公報(段落番号0009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の銀めっき材では、高温環境下で使用した場合にめっきの密着性が悪化したり、めっきの接触抵抗が非常に高くなる場合がある。また、特許文献1〜2の銀めっき材でも、高温環境下で使用した場合にめっきの密着性が悪化したり、めっきの接触抵抗の上昇を十分に抑制することができない場合がある。一方、特許文献3の銀めっき材では、高温環境下で使用した場合に、めっきの密着性が良好であり、めっきの接触抵抗の上昇を抑制することができるが、圧延ロールの算術平均粗さRaを0.001〜0.2μmに調整して、圧延ロールによって転写される金属基体の算術平均粗さRaを0.001〜0.2μmに調整する必要があり、また、中間層を形成する際のめっき電流密度やめっき液中の添加剤の種類を適切に選択して、中間層形成後の算術平均粗さRaを0.001〜0.1μmに調整する必要があるので、工程が複雑になり、コストがかかる。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高温環境下で使用してもめっきの密着性が良好であり且つめっきの接触抵抗の上昇を抑制することができる、安価な銀めっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる下地層が形成され、その上にCuからなる中間層が形成され、その上にAgからなる表層が形成された銀めっき材において、表層の(111)面に垂直方向の結晶子径を300オングストローム以上にすることにより、高温環境下で使用してもめっきの密着性が良好であり且つめっきの接触抵抗の上昇を抑制することができる、安価な銀めっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による銀めっき材は、ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる下地層が形成され、その上にCuからなる中間層が形成され、その上にAgからなる表層が形成された銀めっき材において、表層の(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上であることを特徴とする。この銀めっき材において、下地層の厚さが0.01〜1.0μmであり、中間層の厚さが0.01〜0.2μmであり、表層の厚さが0.1〜2.0μmであるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による銀めっき材の製造方法は、ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる下地層を形成し、その上にCuからなる中間層を形成し、その上にAgからなる表層を形成する銀めっき材の製造方法において、表層の(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上になるように表層を形成することを特徴とする。この銀めっき材の製造方法において、80〜150g/Lのシアン化銀カリウムと60〜150g/Lのシアン化カリウムと5〜30mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、液温15〜30℃として電流密度2〜10A/dmで電気めっきを行うことによって、表層が形成されるのが好ましい。また、下地層の厚さが0.01〜1.0μmであり、中間層の厚さが0.01〜0.2μmであり、表層の厚さが0.1〜2.0μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下で使用してもめっきの密着性が良好であり且つめっきの接触抵抗の上昇を抑制することができる、安価な銀めっき材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例および比較例で得られた銀めっき材について加熱時間に対する接触抵抗を示す図である。
図2】実施例および比較例で得られた銀めっき材の(111)面に垂直方向の結晶子径に対する150分間加熱したときの接触抵抗を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による銀めっき材の実施の形態は、ステンレス鋼からなる素材の表面上に、Niからなる厚さ0.01〜1.0μmの下地層が形成され、その上にCuからなる厚さ0.01〜0.2μmの中間層が形成され、その上にAgからなる厚さ0.1〜2.0μmの表層が形成された銀めっき材であり、表層の(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム(30nm)以上である。
【0016】
また、本発明による銀めっき材の製造方法の実施の形態では、ステンレス鋼からなる素材の表面に、Niからなる厚さ0.01〜1.0μmの下地層を形成し、その上にCuからなる厚さ0.01〜0.2μmの中間層を形成した後、表層の(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上になるように、中間層の上にAgからなる厚さ0.1〜2.0μmの表層を形成する。
【0017】
本発明による銀めっき材のCuからなる中間層の厚さを0.01〜0.2μmにするのは、0.01μm未満ではCuからなる中間層を加える効果が小さく、0.2μmを超えると高温環境下においてCuの拡散が進んで接触抵抗が上昇するためである。また、Agからなる表層の厚さを0.1〜2.0μmにするのは、0.1μm未満ではAgからなる表層としての効果が小さく、2.0μmを超えると、結晶子径を制御しなくても、リフロー処理の際の熱による接触抵抗の上昇や、高温環境下の使用による接触抵抗の上昇が少ないためである。なお、Agからなる表層中の銀の品位は99.9質量%以上であるのが好ましい。
【0018】
素材(被めっき材)の表面に下地層を形成する前に、被めっき材の表面の電解脱脂と酸洗を行うのが好ましい。例えば、被めっき材としてSUS301などのステンレス鋼基板を用意し、この被めっき材と他のSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陽極とし、他のSUS板を陰極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行った後、被めっき材を陰極とし、他のSUS板を陽極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行い、その後、水洗し、15%塩酸溶液中で15秒間酸洗を行うことによって、被めっき材の表面の電解脱脂と酸洗を行うことができる。
【0019】
Niからなる下地層の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。例えば、150g/Lの塩化ニッケルと3質量%の塩酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、Ni電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dmで10秒間電気めっき(Niストライクめっき)を行った後、350g/Lのスルファミン酸Niと20g/Lの塩化Niと35g/Lのホウ酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、SKニッケル電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dmでNi膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Niめっき)を行うことによって、Niからなる下地層を形成することができる。
【0020】
Cuからなる中間層の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。例えば、60g/Lのシアン化銅カリウムと20g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において被めっき材を陰極とし、銅電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度1A/dmでCu膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Cuめっき)を行うことによって、Cuからなる中間層を形成することができる。
【0021】
Agからなる表層の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。特に、(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上のAgからなる表層を形成するためには、80〜150g/Lのシアン化銀カリウムと60〜150g/Lのシアン化カリウムと5〜30mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、液温15〜30℃として、電流密度2〜10A/dmで電気めっき(Agめっき)を行うのが好ましい。例えば、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2.5A/dmで10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った後、111g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウム13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dmで電気めっき(Agめっき)を行うことによって、(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上のAgからなる(光沢度1.0以上の)表層を形成することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明による銀めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0023】
[実施例1]
まず、素材(被めっき材)として70mm×50mm×0.054mmのSUS301金属基板を用意し、この被めっき材と他のSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陽極とし、他のSUS板を陰極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行った後、被めっき材を陰極とし、他のSUS板を陽極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行い、その後、水洗し、15%塩酸溶液中で15秒間酸洗を行った。
【0024】
次に、150g/Lの塩化ニッケルと3質量%の塩酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、Ni電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dmで10秒間電気めっき(Niストライクめっき)を行った。
【0025】
次に、350g/Lのスルファミン酸Niと20g/Lの塩化Niと35g/Lのホウ酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、SKニッケル電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dmでNi膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Niめっき)を行った。
【0026】
次に、60g/Lのシアン化銅カリウムと20g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において被めっき材を陰極とし、銅電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度1A/dmでCu膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Cuめっき)を行った。
【0027】
次に、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2.5A/dmで10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0028】
次に、111g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウム13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dmで電気めっき(Agめっき)を行った。
【0029】
このようにして作製した銀めっき材について、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0030】
めっきの耐熱密着性は、銀めっき材をホットプレート(アズワン社製のHTH−500N)により260℃で5分間加熱することを3回行った後に、恒温恒湿試験機(ISUZU社製のλ−201R)により85℃で湿度85%に6時間保持した後、JIS H8504に準じてクロスカットテープピーリング試験を行って、めっきの剥離の有無を目視によって評価した。その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。
【0031】
めっきの耐熱接触抵抗は、銀めっき材を乾燥機(アズワン社製のOF450)により260℃で150分間加熱する前後に、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製のCRS−1)により荷重50gfで接触抵抗を測定することによって評価した。その結果、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.0mΩ、90分間加熱した後では11.2mΩ、150分間加熱した後では13.6mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇が抑制されていた。
【0032】
めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は、XRD分析装置(理学電気株式会社製のRINT−3C)によって得られたX線回折パターン(XRDパターン)の(111)ピークの半価幅からシェラー(Scherrer)の式を用いて算出した。その結果、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は395オングストローム(39.5nm)であった。
【0033】
めっきの光沢度は、光沢度計(日本電色工業株式会社製のデンシトメーターND−1)を使用して被めっき材の圧延方向に対して平行に測定した。その結果、めっきの光沢度は1.4であった。
【0034】
[実施例2]
111g/Lのシアン化銀カリウムと60g/Lのシアン化カリウムと13mg/Lセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温25℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dmで電気めっき(Agめっき)を行った以外は、実施例1と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0035】
その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。また、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.4mΩ、90分間加熱した後では13.5mΩ、150分間加熱した後では54.4mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇が抑制されていた。さらに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は306オングストローム(30.6nm)であった。また、めっきの光沢度は1.1であった。
【0036】
[比較例1]
185g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウムと13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dmで電気めっき(Agめっき)を行った以外は、実施例1と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0037】
その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。しかし、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.2mΩ、90分間加熱した後では16.8mΩ、150分間加熱した後では107.6mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇を抑制することができなかった。また、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は258オングストローム(25.8nm)であった。また、めっきの光沢度は1.2であった。
【0038】
[比較例2]
Niめっきの後、Agストライクめっきの前に、Cuめっきを行わなかった以外は、実施例2と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0039】
その結果、めっきの剥離があり、めっきの耐熱密着性は良好でなかった。一方、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.5mΩ、90分間加熱した後では5.1mΩ、150分間加熱した後では8.1mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇がほとんどなかった。また、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は306オングストローム(30.6nm)であった。また、めっきの光沢度は1.4であった。
【0040】
これらの実施例および比較例で得られた銀めっき材について、加熱時間に対する接触抵抗を図1に示し、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径に対する150分間加熱したときの接触抵抗を図2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による銀めっき材は、車載用や民生用の電気配線に使用されるコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品の材料として使用することができる。特に、スイッチ用のバネ接点部材の材料の他、携帯電話や電気機器のリモコンなどのスイッチの材料として使用することができる。
図1
図2