【0021】
Agからなる表層の形成は、電気めっきによって行うのが好ましい。特に、(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上のAgからなる表層を形成するためには、80〜150g/Lのシアン化銀カリウムと60〜150g/Lのシアン化カリウムと5〜30mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、液温15〜30℃として、電流密度2〜10A/dm
2で電気めっき(Agめっき)を行うのが好ましい。例えば、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2.5A/dm
2で10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った後、111g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウム13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dm
2で電気めっき(Agめっき)を行うことによって、(111)面に垂直方向の結晶子径が300オングストローム以上のAgからなる(光沢度1.0以上の)表層を形成することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明による銀めっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0023】
[実施例1]
まず、素材(被めっき材)として70mm×50mm×0.054mmのSUS301金属基板を用意し、この被めっき材と他のSUS板をアルカリ脱脂液に入れ、被めっき材を陽極とし、他のSUS板を陰極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行った後、被めっき材を陰極とし、他のSUS板を陽極として、電圧5Vで15秒間電解脱脂を行い、その後、水洗し、15%塩酸溶液中で15秒間酸洗を行った。
【0024】
次に、150g/Lの塩化ニッケルと3質量%の塩酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、Ni電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dm
2で10秒間電気めっき(Niストライクめっき)を行った。
【0025】
次に、350g/Lのスルファミン酸Niと20g/Lの塩化Niと35g/Lのホウ酸からなるめっき液中において、被めっき材を陰極とし、SKニッケル電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2A/dm
2でNi膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Niめっき)を行った。
【0026】
次に、60g/Lのシアン化銅カリウムと20g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において被めっき材を陰極とし、銅電極板を陽極として、液温50℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度1A/dm
2でCu膜厚が0.1μmになるまで電気めっき(Cuめっき)を行った。
【0027】
次に、3g/Lのシアン化銀カリウムと90g/Lのシアン化カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、白金で被覆したチタン電極板を陽極として、スターラにより400rpmで撹拌しながら電流密度2.5A/dm
2で10秒間電気めっき(Agストライクめっき)を行った。
【0028】
次に、111g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウム13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dm
2で電気めっき(Agめっき)を行った。
【0029】
このようにして作製した銀めっき材について、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0030】
めっきの耐熱密着性は、銀めっき材をホットプレート(アズワン社製のHTH−500N)により260℃で5分間加熱することを3回行った後に、恒温恒湿試験機(ISUZU社製のλ−201R)により85℃で湿度85%に6時間保持した後、JIS H8504に準じてクロスカットテープピーリング試験を行って、めっきの剥離の有無を目視によって評価した。その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。
【0031】
めっきの耐熱接触抵抗は、銀めっき材を乾燥機(アズワン社製のOF450)により260℃で150分間加熱する前後に、電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製のCRS−1)により荷重50gfで接触抵抗を測定することによって評価した。その結果、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.0mΩ、90分間加熱した後では11.2mΩ、150分間加熱した後では13.6mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇が抑制されていた。
【0032】
めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は、XRD分析装置(理学電気株式会社製のRINT−3C)によって得られたX線回折パターン(XRDパターン)の(111)ピークの半価幅からシェラー(Scherrer)の式を用いて算出した。その結果、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は395オングストローム(39.5nm)であった。
【0033】
めっきの光沢度は、光沢度計(日本電色工業株式会社製のデンシトメーターND−1)を使用して被めっき材の圧延方向に対して平行に測定した。その結果、めっきの光沢度は1.4であった。
【0034】
[実施例2]
111g/Lのシアン化銀カリウムと60g/Lのシアン化カリウムと13mg/Lセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温25℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dm
2で電気めっき(Agめっき)を行った以外は、実施例1と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0035】
その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。また、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.4mΩ、90分間加熱した後では13.5mΩ、150分間加熱した後では54.4mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇が抑制されていた。さらに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は306オングストローム(30.6nm)であった。また、めっきの光沢度は1.1であった。
【0036】
[比較例1]
185g/Lのシアン化銀カリウムと120g/Lのシアン化カリウムと13mg/Lのセレノシアン酸カリウムからなるめっき浴中において、被めっき材を陰極とし、Ag電極板を陽極として、液温18℃においてスターラにより400rpmで撹拌しながら膜厚が0.5μmになるまで電流密度5A/dm
2で電気めっき(Agめっき)を行った以外は、実施例1と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0037】
その結果、めっきの剥離はなく、めっきの耐熱密着性は良好であった。しかし、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.2mΩ、90分間加熱した後では16.8mΩ、150分間加熱した後では107.6mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇を抑制することができなかった。また、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は258オングストローム(25.8nm)であった。また、めっきの光沢度は1.2であった。
【0038】
[比較例2]
Niめっきの後、Agストライクめっきの前に、Cuめっきを行わなかった以外は、実施例2と同様の方法により作製した銀めっき材について、実施例1と同様の方法により、めっきの耐熱密着性および耐熱接触抵抗を評価するとともに、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径を算出し、めっきの光沢度を測定した。
【0039】
その結果、めっきの剥離があり、めっきの耐熱密着性は良好でなかった。一方、めっきの接触抵抗は、加熱前(初期)では5.5mΩ、90分間加熱した後では5.1mΩ、150分間加熱した後では8.1mΩであり、加熱後の接触抵抗の上昇がほとんどなかった。また、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径は306オングストローム(30.6nm)であった。また、めっきの光沢度は1.4であった。
【0040】
これらの実施例および比較例で得られた銀めっき材について、加熱時間に対する接触抵抗を
図1に示し、めっきの(111)面に垂直方向の結晶子径に対する150分間加熱したときの接触抵抗を
図2に示す。