(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737811
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】防曇性道路反射鏡
(51)【国際特許分類】
E01F 9/015 20060101AFI20150528BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
E01F9/015
G02B5/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-548894(P2011-548894)
(86)(22)【出願日】2010年1月8日
(86)【国際出願番号】JP2010050139
(87)【国際公開番号】WO2011083580
(87)【国際公開日】20110714
【審査請求日】2012年12月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】高室 和俊
(72)【発明者】
【氏名】木坂 聖
(72)【発明者】
【氏名】横澤 正美
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー ジョン デン
【審査官】
▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−096723(JP,A)
【文献】
特開2001−152418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/00 − 9/03
G02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面体と裏板とを備え、前記鏡面体の鏡面上に光触媒含有層が形成され、該鏡面体と前記裏板との間に蓄熱材を備えており、
前記裏板が金属でなり、該裏板に取付金具を取り付けるための取付部を備え、該取付部は、該裏板の所定箇所に該裏板の厚み方向外方側に突出して形成され、該突出形成された取付部の内側に形成される空間内に断熱材を入り込ませ、
前記断熱材が入り込んだ前記取付部を蓄熱材側から覆うためのカバー部材を備え、該カバー部材の蓄熱材側の面と前記取付部を除く裏板の蓄熱材側の面とが面一又はほぼ面一になっていることを特徴とする防曇性道路反射鏡。
【請求項2】
前記取付金具を前記裏板に螺子部材を介して取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の防曇性道路反射鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば屋外において交差点などの見通しの悪い場所に設置される防曇性道路反射鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇性道路反射鏡としては、鏡面体の鏡面上に光触媒含有層が形成されたものが既に提案されている。このように光触媒含有層を備えさせることによって、例えば、鏡面体の表面温度が気温よりも下がってしまい、鏡面上に結露水が発生した場合でも、鏡面上の光触媒含有層の働きによって、鏡面上の結露水が繋がって膜状になることで、鏡面上に映し出される像が見え難くなることがないようにしている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許第3634630号公報(
図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の防曇性道路反射鏡であっても、次のような状況では不都合が発生してしまうことがあった。つまり、鏡面体の表面温度が0℃以下(氷点下)になった場合には、前記のように膜状になった結露水が凍ってしまうため、鏡面上に映し出される像が見え難くなる、又は見えなくなってしまう不都合が発生する。
【0005】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、結露水の生成や凍結によって鏡面上に映し出される像が見え難くなることや見えなくなってしまうことを回避することができる防曇性道路反射鏡を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防曇性道路反射鏡は、前述の課題解決のために、鏡面体と裏板とを備え、前記鏡面体の鏡面上に光触媒含有層が形成され、該鏡面体と前記裏板との間に蓄熱材を備え
ており、前記裏板が金属でなり、該裏板に取付金具を取り付けるための取付部を備え、該取付部は、該裏板の所定箇所に該裏板の厚み方向外方側に突出して形成され、該突出形成された取付部の内側に形成される空間内に断熱材を入り込ませ、前記断熱材が入り込んだ前記取付部を蓄熱材側から覆うためのカバー部材を備え、該カバー部材の蓄熱材側の面と前記取付部を除く裏板の蓄熱材側の面とが面一又はほぼ面一になっていることを特徴としている。
【0007】
上記のように鏡面体の鏡面上に光触媒含有層が形成されているから、鏡面上に結露水が発生しても、光触媒含有層の働きにより鏡面が親水化され、鏡面に生じた結露水が微細な水粒とならず、互いに繋がって膜状にされるので、鏡面上に映し出される像が見え難くなることがない。また、蓄熱材が放熱することで、鏡面温度が0℃以下(氷点下)となりにくくなり、鏡面に雨水などが付着している場合でも鏡面の凍結が抑制され、鏡面上に映し出される像が見え難くなる、又は見えなくなる状況を抑制することができる。また、雪が降った場合なども、蓄熱材からの放熱により鏡面上に付着した雪を溶かして視認性を保つという効果も期待できる。
前記のように蓄熱材を備えることで、鏡面上の結露水の生成が抑制されるが、気温や湿度、日照状況などの変化によって、蓄熱材を備えていても鏡面に結露水が生じる場合がある。また、前記のような蓄熱材は、放熱した後の蓄熱の段階で、鏡面から吸熱して熱を蓄えるのであるが、鏡面を冷却するように作用して鏡面に結露水生成を促す場合がある。これは夜明け直後などに起こりやすい現象である。上記のような要因により結露水が生じても、鏡面の光触媒含有層が前記の親水化作用を奏することにより、鏡面の視認性を良好に保つことができる。
また、突出形成された取付部を備えさせることにより、特に取付部での強度が必要となる部分の強度アップを図ることで、裏板の全域に渡って同一の板厚にしながらも、裏板の全域に渡って裏板の強度を均一にすることができる。しかも、裏板から金属製の取付部を通して蓄熱材からの熱が外部に放出されることを、取付部の内側に形成される空間内に配置された断熱材により確実に阻止することができる。
また、カバー部材を該カバー部材の蓄熱材側の面と前記取付部を除く裏板の蓄熱材側の面とが面一又はほぼ面一になるように備えているので、蓄熱材を押圧する裏板の蓄熱材側の面のうちのどの箇所においても、蓄熱材を押圧する押圧力を均一に保ち易い利点がある。
【0008】
また、本発明の防曇性道路反射鏡は、
前記取付金具を前記裏板に螺子部材を介して取り付けてもよい。
【0009】
上記のように金具を裏板に螺子部材を介して取り付けている場合には、特に螺子部材を介して蓄熱材からの放熱が促進されることを前記断熱材により有効に阻止することができる。
【発明の効果】
【0014】
鏡面体の鏡面上に光触媒含有層が形成され、鏡面体と裏板との間に蓄熱材を備えることにより、結露水の生成や凍結によって鏡面上に映し出される像が見え難くなることや見えなくなってしまうことを回避することができる防曇性道路反射鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】防曇性道路反射鏡の別の形態を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜
図3に、本発明の防曇性道路反射鏡(以下において反射鏡という)1を示している。この反射鏡1は、例えば道路の交差点や曲がり角付近に支柱Pの上端部に取り付けて使用する。
【0017】
前記反射鏡1は、
図1の正面視において円形で、かつ、
図2において中心Cほど前方に突出するように湾曲した円弧形状に構成された鏡面体2と、この鏡面体2がリベットを介して固定される円形の裏板3とを備えている。
【0018】
前記鏡面体2は、表面に鏡面加工を施して鏡面が形成された本体2Aと、該本体2Aの外周部分に後方側に90度(角度は限定されない)折り曲げた折曲部2Bとを備えている。尚、鏡面体2の形状は、円形に限らず、角形であってもよい。また、その円形の鏡面体2の大きさは、円形の場合には、直径が600mm、800mm、1000mmなどがあるが、これら寸法以外であってもよい。また、角形の場合には、450mm×600mm、600mm×800mmなどがあるが、これら寸法以外であってもよい。また、鏡面体2の鏡面の曲率半径は、1500mm、2200mm、3000mm、3600mmなどの凸面鏡の他、他の曲率半径の凸面鏡であってもよい。
【0019】
前記本体2Aを構成する材料としては、ステンレスなどの金属又はアクリルやポリカーボネイトなどの合成樹脂あるいはガラスなど、どのような材料であってもよいが、熱伝導が良好でかつ防錆効果に優れた材料が好ましく、ステンレスを好適に使用できる。前記本体2Aがステンレスの場合には、表面研磨を行うことによって、表面に鏡面を形成することができ、また本体2Aが合成樹脂やガラスなどの場合には、本体2Aの表面に鏡面体を積層することにより形成してもよく、鏡面体の形成は特に限定されない。
【0020】
図2に示すように、前記鏡面体2に形成された鏡面上には光触媒含有層2Gが所定の厚みで形成されており、気温よりも鏡面体2の表面温度が下がり、鏡面上に結露水が発生しても、光触媒含有層2Gの働きにより結露水が繋がって膜状となることで、鏡面上に映し出される像が見え難くなることがないようにしている。
【0021】
前記光触媒含有層2Gは、その層厚が30〜2000nmの範囲とされ、好ましくは50〜1000nmの範囲である。また、光触媒含有層2Gは、一般に二酸化チタンを含有したチタニア層である。このチタニア層を形成するには、チタニア膜形成用塗料組成物を鏡面にスプレーコート、ディップコート、スピンコート、フローコート、ロールコート等の適宜方法で塗布し、チタニア層に転化すればよいが、その他の形成方法であってもよい。このようなチタニア層は、波長領域が300nmから400nm付近の紫外線を二酸化チタンに照射することによって、二酸化チタンが活性化される。尚、光触媒含有層2Gと鏡面との間にシリコーン系の被膜を形成することによって、光触媒含有層2Gによる触媒活性の耐久性の向上を図るようにしてもよい。
【0022】
また、鏡面体2と裏板3との間に蓄熱材4を備えて、鏡面温度が0℃以下(氷点下)になっても、太陽の光を受けて熱を蓄熱した蓄熱材4がその熱を放熱することによって、気温よりも鏡面温度が低くなることがなく、鏡面に結露水が発生することを防止している。また、鏡面に雨水などが付着している場合でも、太陽の光を受けて熱を蓄熱した蓄熱材4がその熱を放熱することによって、鏡面の凍結を抑制することができる。従って、鏡面上で凍る結露水の生成を抑制する、又は鏡面の凍結を抑制することができるから、鏡面上に映し出される像が見え難くなることや見えないことを確実に回避することができる。
【0023】
前記蓄熱材4は、合成樹脂でなる横長状のプラスチック袋内に水が封入された多数(図では12個)の蓄熱体4Aを上下方向に配置して構成される。各蓄熱体4Aは、鏡面体2の横幅にほぼ合致する寸法に構成され、鏡面体2のほぼ全域に配置されている。尚、前記プラスチック袋内の水の腐敗を防止するため、水を一度に煮沸して冷まし、その冷ました水に適量のヨードチンキを加えて使用してもよい。また、水にプロピレングリコールを所定の割合で加えた水溶液に、粉寒天を所定量加えてゲル化したものを使用することもできるが、蓄熱材4としてはどのような構成のものであってもよく、蓄熱性の高い金属などを蓄熱材4として用いてもよい。本実施形態における前記蓄熱材4は、一個ずつの蓄熱体4Aを配置したものであるが、複数個の蓄熱体4Aを上下方向で連結した一体型を配置してもよい。また、前記蓄熱材4を鏡面体2の横幅にほぼ合致する寸法に構成された横長状の袋から構成したが、正方形状の袋を上下方向及び左右方向に配置したものであってもよいし、場合によっては縦長状の袋から構成してもよい。
【0024】
前記蓄熱材4と鏡面体2との間に、蓄熱材4から鏡面体2側への熱の放出を抑えることで蓄熱材4からの放熱時間を長くするための熱伝達緩和材(保温材)5を配置している。この熱伝達緩和材5は、エアマットや発泡材など、蓄熱材4からの放熱時間を長くできるものであれば、どのような構成のものであってもよい。尚、
図2では熱伝達緩和材5と鏡面体2との間に隙間(空気層)がなく、両者が接触している状態になっているが、隙間のある状態、つまり熱伝達緩和材5と鏡面体2との間に空気層が存在している状態であってもよい。
【0025】
前記裏板3は、ステンレス板又は溶融亜鉛メッキ鋼板などでなり、裏板3の所定箇所、具体的には裏板3の中心部に取付金具6を取り付けるための取付部7を備えている。前記取付部7は、裏板3の厚み方向外方側に円錐状に突出してあり、特に取付部での強度が必要となる部分の強度アップを図ることで、裏板3の全域に渡って同一の板厚にしながらも、裏板3の全域に渡って裏板3の強度を均一にすることができる。前記取付金具6は、取付部7の外面(背面)に接触するとともに後述するボルト10,10により取付部7に固定される円板部6Aと、この円板部6Aの背面に溶接されるとともに後方に延びて支柱Pの取付片P1に連結される左右一対の連結部6B,6Bとを備えている。ここでいう取付金具6は、支柱Pを取り付けるための取付金具としているが、支柱P以外のものであってもよい。尚、前記裏板3の外周部分にも、前記鏡面体2と同様に後方側に90度(角度は限定されない)折り曲げた折曲部を備えている。従って、裏板3の折曲部に鏡面体2の折曲部2Bを重ね合わせて前述したリベットを介して固定されるようになっている。
【0026】
前記突出形成した取付部7の内部に形成された空間7H内に断熱材8を入り込ませている。前記断熱材8は、軟質ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ゴムスポンジなどからなる発泡クッションから構成される。前記取付金具6は、取付部7に貫通する金属製の螺子部材である複数のボルト10,10により取付部7に固定されている。具体的には、取付部7の内面にリベットを介して固定されている金具13に螺子孔を形成し、取付金具6、取付部7の順に貫通させたボルト10,10の先端を金具13の螺子孔に螺合することにより、取付金具6を取付部7に固定している。この固定構造の場合、反射鏡1内の熱がボルト10,10に連結されている外部の取付金具6を通して排出し易い構成になるが、前記のように空間7H内に入り込んだ断熱材8によりボルト10,10を介して反射鏡1内の熱が外部の取付金具6に伝達されて外部に放出されることを抑えることができるようになっている。
【0027】
また、前記断熱材8が入り込んだ前記取付部7の内側開口部7Kを断熱材側から覆うための木製で円板状の仕切部材としてのカバー部材11を備えている。このカバー部材11を備えることにより、
図3に示すように、該カバー部材11の
蓄熱材側の面11Aと前記取付部7を除く裏板3の
蓄熱材側の面3Aとが面一(又はほぼ面一でもよい)になるようにしている。従って、蓄熱材8を押圧する裏板3の
蓄熱材側の面のうちのどの箇所においても、蓄熱材8を押圧する押圧力を均一に保ち易い。
【0028】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
例えば、
図4に示すように、前記蓄熱材4と前記裏板3との間に、発泡シートなどからなる断熱材12を更に備えてもよい。このように構成することによって、裏板3側から外部に熱が放出されることをより良好に防止することができる。
図4の他の部分は、
図2と同一であるため、同一の符号を付すとともに説明を省略する。
【0030】
前記実施形態では、取付部7を裏板3の中心に位置させたが、中心以外の箇所に位置させてもよい。また、取付部7の形状及び大きさは自由に変更できる。
【0031】
また、前記実施形態では、支柱Pに反射鏡1を取り付ける場合を示したが、支柱以外の構造物に取り付けてもよい。
【0032】
また、前記実施形態では、裏板3がそれの中心に外部に突出した取付部7を備えさせた構成としたが、外部に突出した取付部7の無い裏板3であってもよい。尚、取付部7の無い裏板3の場合には、カバー部材11も省略できる。
【符号の説明】
【0033】
1…反射鏡、2…鏡面体、2A…本体、2B…折曲部、2G…光触媒含有層、3…裏板、3A…面、4…蓄熱材、4A…蓄熱体、5…熱伝達緩和材、6…取付金具、6A…円板部、6B…連結部、7…取付部、7H…空間、7K…内側開口部、8…断熱材、10…ボルト、11…カバー部材、11A…面、12…断熱材、P…支柱、P1…取付片