特許第5737846号(P5737846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オーディオテクニカの特許一覧

<>
  • 特許5737846-ダイナミックマイクロホン 図000002
  • 特許5737846-ダイナミックマイクロホン 図000003
  • 特許5737846-ダイナミックマイクロホン 図000004
  • 特許5737846-ダイナミックマイクロホン 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737846
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】ダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20150528BHJP
   H04R 1/04 20060101ALI20150528BHJP
   H04R 9/08 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H04R1/02 106
   H04R1/04 Z
   H04R9/08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-29825(P2010-29825)
(22)【出願日】2010年2月15日
(65)【公開番号】特開2011-166645(P2011-166645A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2013年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−006387(JP,U)
【文献】 特開平10−160607(JP,A)
【文献】 特開平04−114892(JP,A)
【文献】 特開2005−277652(JP,A)
【文献】 特開2008−053807(JP,A)
【文献】 特開2009−055169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B47B 1/00− 6/00
F04B 39/00−39/16
F15B 15/00−15/28
H04R 1/00− 1/08
H04R 1/12− 1/14
H04R 1/20− 1/40
H04R 1/42− 1/46
H04R 9/00− 9/10
H04R 9/18
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のグリップ筐体と、
上記グリップ筐体の一端側で支持されているマイクロホンユニットと、
上記グリップ筐体の上記マイクロホンユニットの逆端側に装着されて上記マイクロホンユニットと接続されているコネクタと、を備え、
上記コネクタには、リング状の弾性体が取り付けられ、
上記グリップ筐体の内側にあるコネクタ取り付け部には、傾斜面である肩が設けられ、
上記コネクタの上記リング状の弾性体は、上記傾斜面である肩の形状に沿って斜めに変形することにより上記肩の傾斜面に接合して、上記グリップ筐体内が密封されてい
上記傾斜面である肩は、上記グリップ筐体の内径を小さくすることによって形成されていて、
上記傾斜面である肩は、上記マイクロホンユニットと反対の方向に傾斜していて、
上記リング状の弾性体の外径は、上記コネクタ取り付け部の内径よりも大きい、
ことを特徴とするダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
上記傾斜面である肩は、上記円筒状のグリップ筐体の内周に沿って円錐面を形成している請求項に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項3】
上記コネクタ取り付け部の内径は、上記リング状の弾性体の外径より小さく、コネクタ基台の外径よりも大きい請求項に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項4】
上記コネクタの上記リング状の弾性体は、コネクタ基台の上面に接着されている請求項1乃至のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項5】
コネクタ基台の側面には雄ねじがねじ込まれ、上記コネクタ取り付け部には、上記雄ねじの頭の一部が入り込む孔が設けられ、上記雄ねじを上記コネクタ基台から戻すことにより、上記コネクタが上記雄ねじの肩に押されて上記コネクタ取り付け部に固定されている請求項1乃至のいずれかに記載のダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイナミックマイクロホンに関し、詳しくは、ダイナミックマイクロホンユニットの音響回路の一部に含まれるグリップ筐体内の空気室の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンは、無指向性の成分を得る場合、一般的に振動板の後部に音響抵抗を取り付けている。特許文献1に記載されているように、ダイナミック(動電型)マイクロホンの周波数特性を決める要因のひとつに空気室がある。音響抵抗を広い周波数帯で動作させるため、音響抵抗の後部に空気室が設けられている。また、低音まで音響抵抗が動作するためには空気室の容量を大きくしてその音響容量によるリアクタンスを低くする必要がある。ボーカル用などの手持ちマイクロホンにおいては、通常、空気室は円筒状に形成されたグリップ筐体内に設けられる。その一例を図4により説明する。
【0003】
手持ち式のダイナミックマイクロホン17は、ダイカストで円筒状に形成されたグリップ筐体2を備えている。グリップ筐体2の一端側でマイクロホンユニット3が支持されている。図示しないが、マイクロホンユニット3内にはボイスコイルが取り付けられた振動板と磁気ギャップを有する磁気発生回路とが含まれており、その磁気ギャップ内にボイスコイルが振動板を介して振動可能に配置されている。マイクロホンユニット3はその後端側が連結部12内に気密的に差し込まれた状態で連結部12を介してグリップ筐体2の一端側に取り付けられる。
【0004】
グリップ筐体2の他端側にはコネクタ取り付け部2bが一体に形成されており、コネクタ取り付け部2b内にコネクタ4が装着されている。マイクロホンユニット3とコネクタ4はリード線8によって接続されている。グリップ筐体2内は空洞でマイクロホンユニット3の空気室10として作用する。
【0005】
低域の音質を改善するには空気室10の容積は大きい方が好ましい。また、良好な指向性を得るには外部から空気室10内に空気が入り込まないようにする必要がある。そのため、従来ではマイクロホンユニット3とコネクタ4とをリード線8によって接続したのち、ダイナミックマイクロホン17ではマイクロホン筐体2とコネクタ4をグリップ筐体2内に例えばシリコンシーラントなどの封止材11にてコネクタ4側を封止し、空気室10を気密構造にしている。
【0006】
しかしながら、図4で示すように、ダイナミックマイクロホン17は、グリップ筐体2内の奥まった位置に封止材11を塗布する必要があることから、組み立て作業や修理作業が困難である。特に修理作業の際は、コネクタ4を取り外すことが困難である。そこで特許文献1に記載のダイナミックマイクロホンでは、マイクロホンユニットが備えられるキャビティスリーブが用いられている。キャビティスリーブとグリップ筐体の間に、ショックマウントを兼ねる弾性部品を設けてキャビティスリーブの気密を確保して空気室を設けている。しかしながら、キャビティスリーブの容積は、グリップ筐体全体を空気室に使用するときと比べると容積が小さくなることから、低音まで無指向成分を安定して得るためには課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−277652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グリップ筐体内の奥まった位置に封止材を塗布する必要がなく、ダイナミックマイクロホンの組み立て作業や修理作業を簡易にし、グリップ筐体全体を空気室にしてより低音まで無指向成分を安定して得られるダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るダイナミックマイクロホンは、円筒状のグリップ筐体と、グリップ筐体の一端側で支持されているマイクロホンユニットと、グリップ筐体のマイクロホンユニットの逆端側に装着されてマイクロホンユニットと接続されているコネクタと、を備え、コネクタには、円盤状の弾性体が取り付けられ、グリップ筐体の内側にあるコネクタ取り付け部には、傾斜面である肩が設けられ、コネクタのリング状の弾性体は、傾斜面である肩の形状に沿って斜めに変形することにより肩の傾斜面に接合して、グリップ筐体内が密封されてい傾斜面である肩は、グリップ筐体の内径を小さくすることによって形成されていて、傾斜面である肩は、マイクロホンユニットと反対の方向に傾斜していて、リング状の弾性体の外径は、コネクタ取り付け部の内径よりも大きいことを最も主要な特徴とする。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コネクタのリング状の弾性体が、グリップ筐体の肩の傾斜面に接合してグリップ筐体内を密封し、グリップ筐体全体を空気室にすることで、低音まで無指向性成分を安定して得られるダイナミックマイクロホンを得ることができる。
また、グリップ筐体内の奥まった位置に封止材を塗布する必要ないため、ダイナミックマイクロホンの組み立て作業や修理作業を簡易なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るダイナミックマイクロホンの実施例を示す縦断面図である。
図2】上記実施例の一組立工程の例を示す分解縦断面図である。
図3】上記実施例の別の組立工程の例を示す縦断面図である。
図4】従来のダイナミックマイクロホンの例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るダイナミックマイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に説明する実施例の構成に限定されるものではない。また、図4に示した従来のダイナミックマイクロホンと同様の構成である部材については同様の符号を付した。
【0013】
図1において、ダイナミックマイクロホン1は、円筒状のグリップ筐体2と、グリップ筐体2の一端側(図1において上端側)で後端部が支持されているマイクロホンユニット3と、グリップ筐体2のマイクロホンユニット3の支持部とは逆端側に装着され、マイクロホンユニット3と電気的に接続されているコネクタ4を主要な構成要素としている。コネクタ4には、リング状の弾性体5が取り付けられている。グリップ筐体2の内側にあるコネクタ4の取り付け部の上端部には、傾斜面である肩2aが設けられている。肩2aはグリップ筐体2の内周面に沿って全周に形成されることにより下から上に向かって順次径が大きくなる円錐面をなしている。コネクタ4に取り付けられているリング状の弾性体5は、肩2aの円錐形の傾斜面に接合している。そのためグリップ筐体2内がリング状の弾性体5によって密閉されている。この密閉された空洞の内部がマイクロホンユニット3の音響回路の一部として含まれる空気室10として利用される。
【0014】
マイクロホンユニット3は、円筒状かつその前端部が王冠状をしていて、その後端部が連結部12内に気密的に差し込まれた状態で、円筒状の連結部12を介してグリップ筐体2の一端側に、圧入、ねじ込み、あるいは接着など適宜の方法で取り付けられている。グリップ筐体2のマイクロホンユニット3側の先端には、マイクロホンユニット3を保護するために、内部が空洞かつ下部が開放した球状のヘッドケース9が被せられ、適宜の方法でグリップ筐体2に固着されている。グリップ筐体2は、コネクタ4側に向かって径が順次小さくなっている。
【0015】
このようにして、グリップ筐体2の内周側のコネクタ取り付け部2bにおいて、グリップ筐体2の内周面とコネクタ基台6がリング状の弾性体5によって密閉され、マイクロホンユニット3の背部に密閉された空間10が形成されている。よって、グリップ筐体2内の奥まった位置に、図4に示した従来例のように、封止材11を塗布する必要ないため、ダイナミックマイクロホン1の組み立て作業や修理作業を簡易なものにすることができる。また、コネクタ4のリング状の弾性体5が、グリップ筐体2の円錐形の肩2aの傾斜面に接合してグリップ筐体2内を気密にし、グリップ筐体内2全体を密閉された空気室10にすることで、低音まで無指向性成分を安定して得られるダイナミックマイクロホン1を得ることができる。
【0016】
グリップ筐体2の円錐面からなる肩2aは、グリップ筐体2の内径を小さくすることで縦断面において段状に形成され、円筒状のグリップ筐体2の内部で上方に向かって順次径を大きくする向きに傾斜している。マイクロホンユニット3の逆端側は、コネクタ取り付け部2bとなっている。リング状の弾性体5の外径は、コネクタ取り付け部2bの内径よりも大きく、コネクタ取り付け部2bの内径は、リング状の弾性体5の外径より小さく、コネクタ基台6の外径よりも大きく設計されている。このように設計することにより、組み立て時にコネクタ取り付け部2bにコネクタ4が嵌り易くなり、コネクタ4のリング状の弾性体5は、肩2aの傾斜面に接合してグリップ筐体2内を容易に密封することができる。なお、肩2aの傾斜面の形成方法は任意である。また、コネクタ取り付け部2bの内径の大きさやリング状の弾性体5の外径は、上述のものに限らず、リング状の弾性体5が肩2aの傾斜面に接合してグリップ筐体2内が気密にされている限り適宜のものを選択できる。弾性体5のコネクタ4への取り付け部分もグリップ筐体2内を気密にできれば、適宜の位置に接着することができ、例えばコネクタ基台6の外周部に備えていてもよい。

【0017】
コネクタ4としては、EIAJ RC−5236「音響機器用ラッチロック式丸型コネクタ」で規定されるコネクタ、すなわち電気絶縁体からなる円柱状のコネクタ基台6に接地用の図示しない1番ピン、信号のホット側として用いられる2番ピン14,信号のコールド側として用いられる3番ピン15の3本のピンが貫設されている3ピンタイプのコネクタ4を用いることができる。このコネクタ4には3本のピンのほかに基台6の半径方向に出没可能な雄ねじ7と図示しないその雌めじ孔を有する接地用端子板とが設けられており、接地用端子板16は接続金具などにより接地用の1番ピンと電気的に導通している。
【0018】
上記弾性体5は、コネクタ基台6の上面にあるプリント基板13の外周部に接着されている。コネクタ基台6の側面には雄ねじ7が備えられ、コネクタ取り付け部2bには、雄ねじ7が入り込んでいる孔2cが設けられている。このようにすることにより、雄ねじ7を巻き戻すことにより、雄ねじ7の肩がグリップ筐体2の内周面を押圧し、この雄ねじ7の肩とグリップ筐体2の内周面との押圧部の反対側において、コネクタ基台6がグリップ筐体2の内周面に押圧され、コネクタ4がコネクタ取り付け部2bに固定される。孔2cより図示ないドライバーを差し込んで雄ねじ7を巻き戻してコネクタ基台6からコネクタ接続部2bの内面に当接させることにより、グリップ筐体2と接地用端子板16とを電気的に接続する。なお、コネクタ4の固定方法としては、上述のものに限らず適宜の構造を選択できる。マイクロホンユニット3は図4で説明した従来例で用いられているものと同じであってよい。すなわち、マイクロホンユニット3は、ダイナミック型(動電型)であることから、その内部にはボイスコイルが取り付けられた振動板と磁気ギャップを有する磁気発生回路とが含まれており、その磁気ギャップ内にボイスコイルが振動板を介して振動可能に配置されている。
【0019】
コネクタ4をグリップ筐体2に取り付ける際には、図2に示すように、コネクタ4をグリップ筐体2のマイクロホンユニット3取り付け側の開口からコネクタ取り付け部2bに挿入する。さらに、図3に示すように、コネクタ4に取り付けられたリング状の弾性体5を、コネクタ取り付け部2に設けられた円錐面からなる肩2aにリング状の弾性体5に接合させ、コネクタ2の外周とグリップ筐体2の内周面が密封されるまで押しこむ。このようにしてグリップ筐体2内に空気室10が形成される。リング状の弾性体5の外径は、コネクタ取り付け部2bの内径よりも大きく、コネクタ取り付け部2bの内径は、リング状の弾性体5の外径より小さく、かつ、コネクタ基台6の外径よりも大きく設計されている。そのため、コネクタ4は、コネクタ取り付け部2bに容易に嵌めることができる。また、コネクタ4のリング状の弾性体5が肩2aの傾斜面に接合させることにより、グリップ筐体2内を容易に密封することができる。さらに雄ねじ7を巻き戻すことにより、雄ねじ7の肩がコネクタ取り付け部2bを押圧することになり、コネクタ4がコネクタ取り付け部2bに固定される。以上説明したコネクタ4の外周とグリップ筐体2の内周面の密封構造によれば、シリコンシーラントなどの封止材が不要となるが、場合によっては封止材を併用してもよい。
【0020】
なお、実際の組立作業では、あらかじめマイクロホンユニット3とコネクタ4とをリード線8にて接続したのち、上記のようにしてマイクロホンユニット3とコネクタ4とがグリップ筐体2に取り付けられる。マイクロホンの最終組み立て工程で、マイクロホンユニット20を保護するための例えばメッシュメタルからなるヘッドケース9が被せられる。
【0021】
このようにして、最終的に図1に示すダイナミックマイクロホン1が組み立てられる。そして、例えば、落下衝撃などによりコネクタ4が破損したとしても、図4に示す従来例のように空気室10を封止するためのシリコンシーラントなどによる封止材11がないため、容易にダイナミックマイクロホン1を分解して修理することができ、修理後の組み立ても容易である。修理後の組み立てにおいても、コネクタ4のリング状の弾性体5が、グリップ筐体2の肩2aの傾斜面に接合してグリップ筐体2内を密閉し、グリップ筐体2全体を空気室10にすることで、低音まで無指向性成分を安定して得ることができるダイナミックマイクロホン1を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はこの実施例の構成に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術思想を逸脱しない範囲で設計変更することができる。例えば、本発明の上記実施例にかかるダイナミックマイクロホン1のコネクタ4の構成とグリップ筐体2の形状は、無指向性成分を必要とするダイナミックマイクロホンに限らず、他のダイナミックマイクロホンに利用してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 ダイナミックマイクロホン
2 グリップ筐体
2a 肩
2b コネクタ取り付け部
2c 孔
3 マイクロホンユニット
4 コネクタ
5 弾性体
6 コネクタ基台
7 雄ねじ
8 リード線
9 ヘッドケース
10 空気室
11 封止材
12 接続部
13 プリント基板
14 2番ピン
15 3番ピン
16 接地用端子板
図1
図2
図3
図4