【実施例】
【0028】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
1.ラセミACAの調製
ラセミACAを以下に示す方法に従って調製した。なお、同様の方法で出発原料に2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド又3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドを用いることにより、2,4-ACA又は3,4-ACAを合成することが可能である。
【0030】
4-Hydroxybenzaldehyde (Wako,
12.5 g, 102.4 mmol), triethylamine
(Wako, 15.5 g, 1.5 eq)及び4-dimethylaminopyridine (Wako, 500 mg, 0.04
eq) を乾燥ジクロロメタン300mLに溶解し、0℃で撹拌しながら、tert-butyldimethylsilyl chloride (TCI, 18.5 g, 1.2 eq) を少しずつ加えた。室温で3時間撹拌後、飽和NaHCO
3水溶液を加え、ジクロロメタンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane:EtOAc =
20:1)にて精製を行い、化合物1を得た (21.5g, 87%)。
【0031】
化合物1 (20 g, 84.6 mmol) を乾燥THF300mLに溶解し、窒素気流下、0℃でvinylmagnesium bromide (TCI, 1 mol/L in THF, 102 mL, 1.2 eq) を滴下した。室温で3時間撹拌後、0.5
M HCl水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 8 : 1)にて精製を行い、化合物2を得た (17.1 g, 76.4%)。
【0032】
化合物2(12g, 45.4mmol)を乾燥THF(200mL) に溶解し、tetra-n-butylammonium Fluoride (TCI, 1 mol/L
in THF, 54.5 mL, 1.2 eq) を0℃で滴下した。0℃で1時間撹拌後、飽和食塩水を加え、エーテル及びジクロロメタンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した後、ピリジン
300 mLに溶解し、無水酢酸(18.5 g, 4 eq)を加えて室温で一晩撹拌した。ピリジンを減圧留去したあとクロロホルムに溶解し、1
M HCl水溶液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane
: EtOAc = 4 : 1)にて精製を行った。ヘキサンを加えて結晶化させた後、ヘキサンより再結晶を行い、ラセミACAを得た (7.01 g, 65.9%, mp. 68℃)。ラセミACAのスペクトル解析の結果を下記に示す。
【0033】
HRMS (FAB, direct) calcd for C
13H
14O
4,
[M]
+ 234.0892; found, 234.0916.
1H NMR (400 MHz, CDCl
3); d 2.10 (s, 3 H), 2.29 (s, 3 H), 5.25 (d, 1
H, J = 10.5 Hz), 5.30 (d, 1 H, J = 17.1 Hz), 5.98 (ddd, 1 H, J = 5.9, 10.5, 17.1 Hz), 6.26 (d, 1 H, J
= 5.9 Hz), 7.08 (d, 2 H, J = 8.5 Hz), 7.37 (d, 2 H, J = 8.5 Hz).
【0034】
(実施例2)
2.(S)-ACA及び(R)-ACAの調製
(S)-ACA及び(R)-ACAを以下に示す方法に従って調製した。
【0035】
化合物2 (1 g, 3.78 mmol)、重合阻害剤として2,6-di-tert-butyl
p-cresol (25 mg, 0.11 mmol) を乾燥THF 15 mL及び酢酸ビニル
15 mLの混合溶媒に溶解し、lipase PS (Amano, 1.8 g) を加え、遮光下、65℃で24時間撹拌した。冷却後、リパーゼをろ別し、ろ液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 10 : 1 → 5 : 1)にて精製を行い、わずかに不純物を含むアセチル化物 (R)-3 (580 mg) 及び未反応物 (S)-2 (500 mg, 50%) を得た。
【0036】
不純物を含む (R)-3 (580 mg) 及びlipase
PS (Amano, 140 mg) を0.1 Mリン酸緩衝液 (pH 7.0) 50 mLに分散し、室温で20時間撹拌した。反応終了後、飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane : EtOAc = 5: 1)にて精製を行い、(R)-2を得た (420
mg)。
【0037】
化合物2 (500mg, 1.89mmol) を乾燥THF(20mL) に溶解し、tetra-n-butylammonium Fluoride (TCI, 1 mol/L
in THF, 2.8 mL, 1.5 eq) を0℃で滴下した。0℃で1時間撹拌後、飽和食塩水を加え、エーテル及びジクロロメタンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した後、ピリジン
20 mLに溶解し、無水酢酸(770 mg, 4 eq)を加えて室温で一晩撹拌した。ピリジンを減圧留去したあとクロロホルムに溶解し、1
M HCl水溶液で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:Hexane
: EtOAc = 4 : 1)にて精製を行い、(S)-ACAを得た (270 mg, 61%)。また、(R)-2より同様の操作を行い、(R)-ACAを合成した。(S)-ACA及び(R)-ACAのスペクトル解析の結果を下記に示す。
【0038】
(S)-ACA: [a]
25D
= -60.1 (c 1.442, EtOH), -57.4
(c 1.67, CHCl
3).
HRMS (FAB, direct) calcd for C
13H
14O
4, [M]
+
234.0892; found, 234.0900.
Anal. Calcd:
C, 66.66; H, 6.02. Found: C, 66.54; H, 6.03.
(R)-ACA: [a]
25D
= -60.0 (c 1.282, EtOH), +57.4 (c 1.67, CHCl
3).
HRMS (FAB, direct) calcd for C
13H
14O
4, [M]
+
234.0892; found, 234.0901.
Anal. Calcd:
C, 66.66; H, 6.02. Found: C, 66.37; H, 6.03.
【0039】
(実施例3)
<細胞を用いた抗肥満効果の検証>
以下のようにして、細胞培養および分化誘導を行った。
【0040】
ヒューマンサイエンス振興財団研究資源バンクより入手した3T3-L1前駆脂肪細胞を10% FBS含有MEMダルベッコ培地(DMEM, 100 U/mL ペニシリン−ストレプトマイシン含有)で細胞数1.0´10
5
cells になるよう調整し、細胞がコンフルエント状態になるまで培養した。次に、脂肪細胞形態への分化は、FBSを10% 、IBMX を0.5 mM、DEXを0.2 μM含有するDMEM 中で10
5個の細胞を2日間培養することにより誘導した。その後、FBS
を10%およびINS を0.2 μM含有するDMEM中で細胞をもう2日間培養した。その後、培地を通常の培地に変更し、2日毎に新しい培地に取り替えた。分化開始から8日後に細胞を回収した。細胞は、加湿された5% CO
2存在下の培養器中、37℃で培養した。
【0041】
次に、オイルレッドOによるトリアシルグリセロール(TG)蓄積量の評価、および、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)活性の測定によるTG合成能の評価を行い、また、ニュートラルレッド法により細胞生存率を測定し、これらにより抗肥満効果を評価した。
以下、それぞれについて詳述する。
【0042】
<オイルレッドO によるTG蓄積量の評価>
TGのマーカーであるオイルレッドOを用い、細胞内TG蓄積量を評価した。3T3-L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAを2.5もしくは5 μMの濃度となるよう添加した。細胞をリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で2 回洗浄した後、30秒間、70% エタノールで固定した。その後、オイルレッドO を99% イソプロピルアルコール中に飽和させた溶液で2時間培養した後、50% エタノールで3秒間洗浄後、脱イオン水で2回洗浄した。その後、赤色の染色強度より、細胞内TG蓄積量を評価した。
【0043】
<GPDH活性の測定によるTG合成能の評価>
GPDHはTG合成の律速酵素であり、その活性が抑えられるほど、TGの合成が抑えられるため、GPDH活性を指標にTG合成能を評価した。
3T3-L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAを2.5もしくは5 μMの濃度となるよう添加した。氷冷PBSで2回、細胞を丹念に洗浄した後、2 mM EDTAを含む 100mM
トリエタノールアミン/塩酸緩衝液(pH
7.5)を加えてセルスクレーパーで剥がして回収し、全量を300μLとした。回収した細胞懸濁液を、最大出力250Wのバイオラプター(トウショウ電機社製、DU-250)を用い、氷冷しながら10秒問、25超音波バーストで超音波洗浄した。4℃で5分間、13,000gで遠心分離した後、上清のGPDH活性をWise
and Green法(1979)により分析した。測定は分光光度計(ベックマン・コールター社製、DU530)を用いて行い、ゼロオーダーの運動力学および最適な基質および共ファクタ一条件下、25℃で180 秒間測定した。標準反応混合物として、12mM
EDTAを含む100mMトリエタノールアミン/塩酸緩衝液(pH 7.5)にNADHが0.12mM、2-メルカプトエタノールが0.1mMとなるように調製したものを使用した。 反応開始剤であるジヒドロキシアセトンホスフェートを終濃度0.2mMとなるように添加し、NADH酸化反応の指標である340nmでの吸光度変化について添加後60
秒間の経時変化を測定した。
【0044】
<ニュートラルレッド法による細胞生存率の測定>
細胞生存率を、ニュートラルレッドのリソソーム取込に基づくニュートラルレッド取込評価により測定した。3T3-L1前駆脂肪細胞を、上記のように脂肪細胞に分化するよう誘導する際、各段階でのDMEM培地に(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAを1、5、10、20μMの濃度となるよう添加した。その後、細胞培地にニュートラルレッド溶液(0.25 mg/mL)を最終濃度が50 μg/mLになるように添却した。細胞を37℃で2時間培養した後、1%(重量比)塩化カルシウムを含む1%(体積比)ホルムアルデヒド水溶液で2回洗浄した。その後、脱色緩衝液として1%(体積比)酢酸を含む50%(体積比)エタノール水溶液1mLを細胞に添加し、30分間放置した。溶出されたニュートラルレッド量を、分光光度計で540nm
における吸光度を測定することによって定量し、細胞生存率(%)を下式に基づき評価した。
【0045】
【0046】
<結果と考察>
図1にオイルレッドO による細胞内TG の染色像、
図2にオイルレッドO
染色結果より定量した細胞内TG蓄積量、
図3にGPDH活性、
図4に細胞生存率の結果を示す。各グラフにおいて、数値は、サンプル無添加の場合(コントロール)を100とし、これに対する割合で規定したものである。
図1及び
図2より、(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAのいずれにおいても添加濃度に依存して細胞内TG
蓄積量の有意な低下が確認された。またACAのキラリティーによる活性差はほとんど見られなかった。
【0047】
さらに
図3より、TG合成の指標であるGPDH活性についても、(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAのいずれにおいても添加濃度に依存して細胞内TG
蓄積量の有意な低下が確認された。またACAのキラリティーによる活性差はほとんど見られなかった。
【0048】
また
図4より、(S)-ACA、(R)-ACA及びラセミACAはいずれも細胞生存率に影響を及ぼさず、安全性が高いことも確認された。
【0049】
(実施例4)
<動物実験による抗肥満効果の検証>
4週齢のSD系雄性ラットを1週間予備飼育したのち、ラットを4匹ずつ、表1に示す群に分けて、各実験食を30日間摂取させた。このとき、各群における摂食量の差は認められなかった。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1において、高脂肪食+ラセミACA添加群では、ラセミACAの結晶を乳鉢ですり潰して粉末状にし、飼料全量に対して0.1%あるいは0.5%濃度の配合割合で用いた。また、表中の数値はg数を表す。
各実験食を30日間摂取させた各ラットについて、脂肪組織重量及び腹腔内脂肪重量を測定して各群ごとにその平均値を算出し、これを各群の測定結果とした。
【0052】
それぞれの結果を
図5及び
図6に示す。
【0053】
図5及び
図6より、脂肪組織重量、腹腔内脂肪重量はいずれも、高脂肪食群、高脂肪食+ラセミACA添加群ともに、コントロール食群に比べて有意に増加したが、高脂肪食群と高脂肪食+ラセミACA添加群を比較したとき、高脂肪食群に比べて高脂肪食+ラセミACA添加群の方がACA含有量に応じて減少傾向を示すことが確認された。