特許第5737938号(P5737938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5737938
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】超合金部品及び合金部品の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/10 20060101AFI20150528BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20150528BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
   C22F1/10 H
   C22C19/05 C
   !C22F1/00 A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 690
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】23
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2010-519502(P2010-519502)
(86)(22)【出願日】2008年7月4日
(65)【公表番号】特表2010-535940(P2010-535940A)
(43)【公表日】2010年11月25日
(86)【国際出願番号】GB2008002308
(87)【国際公開番号】WO2009019418
(87)【国際公開日】20090212
【審査請求日】2011年6月29日
(31)【優先権主張番号】60/935,285
(32)【優先日】2007年8月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591005785
【氏名又は名称】ロールス・ロイス・ピーエルシー
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100080137
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル,ロバート・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フラー,デヴィッド・ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】レムスキー,ジョゼフ・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ハーディー,マーク・クリストファー
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06660110(US,B1)
【文献】 米国特許第05527020(US,A)
【文献】 米国特許第05312497(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/00 − 3/02
C22C 1/00 − 49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超合金部品(24)の熱処理方法であって、
a)前記部品(24)を炉に入れ、前記部品(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記部品(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記部品(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材(52、54)を前記部品(24)の少なくとも一つの第1の所定の領域(36、40)に被せ、前記部品(24)の少なくとも一つの第2の所定の領域(38)を断熱材なしの状態に残して、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程と、
d)前記部品(24)及び断熱材(52、54)を含む前記被断熱アッセンブリ(50)を前記γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50)を所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記部品(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度をγ’ソルバス温度超過の温度まで所定の傾き率で上昇し、微細粒構造(42)を前記部品(24)の第1領域(A)に維持し、粗粒構造(44)を前記部品(24)の第2領域(B)に形成し、転移粒構造(46)を前記部品(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間の第3領域(C)に形成する工程と、
g)前記部品(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘って前記γ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記部品(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記部品(24)を周囲温度まで冷却して、前記微細粒構造が維持された前記第1領域(A)と、前記粗粒構造を有する第2領域(B)と、前記移行構造を有する第3領域(C)と、を有する前記部品(24)を得る工程とを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時110°C乃至毎時280°Cである、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時110°Cであり、幅が30mm乃至80mmの第3領域を形成する、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時220°Cであり、幅が15mm乃至40mmの第3領域を形成する、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記工程(h)は、前記部品(24)を毎秒0.1°C乃至毎秒5°Cの速度で冷却する工程を含む、方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記超合金は、ニッケルベース超合金である、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記ニッケルベース超合金は、18.5重量%のコバルト、15.0重量%のクロム、5.0重量%のモリブデン、3.0重量%のアルミニウム、3.6重量%のチタニウム、2.0重量%のタンタル、0.5重量%のハフニウム、0.06重量%のジルコニウム、0.027重量%の炭素、0.015重量%のホウ素、残部のニッケル及び不可避不純物からなる、方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記部品(24)は、タービンディスク(24)、タービンロータ、コンプレッサディスク、タービンカバープレート、コンプレッサコーン(60)、及びコンプレッサロータの何れかである、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクは、直径が60cm乃至70cmであり、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクのハブ(36)のところでの軸線方向幅が20cm乃至25cmであり、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクのリム(38)のところでの軸線方向幅が3cm乃至7cmである、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクは、直径が66cmであり、前記ハブ(36)のところでの軸線方向幅が23cmであり、前記リム(38)のところでの軸線方向幅が5cmである、方法。
【請求項11】
請求項8、9、又は10に記載の方法において、
前記工程(c)は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる面(24C、24D)に前記断熱材(52、54)を配置する工程を含み、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記第2の所定の領域(38)は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記リム部分(38)である、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、
前記工程(c)は、前記ディスク状第1断熱体(52)を、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる第1面(24D)の所定の領域に配置する工程と、
前記ディスク状第2断熱体(54)を、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる第2面(24C)の所定の領域に配置する工程とを含み、
前記ディスク状第1断熱体(52)の直径は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの直径よりも小さく、前記ディスク状第2断熱体(54)の直径は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの直径よりも小さく、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記ハブ部分(36)は、前記断熱材(52、54)によって覆われ、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記リム部分(38)は前記断熱材によって覆われていない、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記ディスク状第1断熱体(52)は、直径が前記ディスク状第2断熱体(54)よりも大きく、前記ディスク(24)のX−X軸線に対して所定角度で配置された第3領域(C)を提供する、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、
前記角度は、5°乃至80°である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記角度は、10°乃至60°である、方法。
【請求項16】
請求項8に記載の方法において、
環状第1断熱体(68)を前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第1端(62)の所定の領域に配置する工程と、環状第2断熱体(70)を前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第2端(64)の所定の領域に配置する工程とを含み、前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第1端部分は前記断熱材(68)によって覆われ、前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第2端部分は前記断熱材(70)によって覆われ、前記第1端部分と前記第2端部分との間の前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の一部は断熱材によって覆われていない、方法。
【請求項17】
請求項1乃至16のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記断熱材(52、54)は、セラミック材料で形成されている、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、
前記セラミック材料は、アルミナ及び/又は酸化鉄を含む、方法。
【請求項19】
請求項8乃至15のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記ハブ部分(36)内の空間に容器(80)を設ける工程を含み、前記容器(80)には、低融点金属(82)又は低融点合金が入っており、前記低融点金属(82)又は低融点合金の融点は、前記部品(24)の前記γ’ソルバス温度よりも20°C乃至150°C低い、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
前記容器(80)には、前記低融点金属(82)が入っており、
前記低融点金属(82)は銅である、方法。
【請求項21】
請求項1乃至20のうちのいずれか一項に記載の熱処理方法を使用して超合金部品(24)を製造する方法
【請求項22】
超合金のディスク(24)の熱処理方法であって、
a)前記ディスク(24)を炉に入れ、前記ディスク(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記ディスク(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材(52、54)を前記ディスク(24)の少なくとも一つの第1の所定の領域(36、40)に被せ、前記ディスク(24)の少なくとも一つの第2の所定の領域(38)を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程であって、
断熱材(52B、54B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる面(24C、24D)に配置し、
これは、前記ディスク(24)の前記第2の所定の領域(38)は前記ディスク(24)のリム(38)であり、ディスク状第1断熱体(52B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる第1面(24D)の所定の領域に置く工程と、ディスク状第2断熱体(54B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる第2面(24C)の所定の領域に置く工程とを含み、前記ディスク状第1断熱体(52B)の直径は、前記ディスク(24)の直径よりも小さく、前記ディスク状第2断熱体(54B)の直径は、前記ディスク(24)の直径よりも小さく、前記ディスク(24)のハブ部分(36)が前記断熱材(52B、54B)によって覆われ、前記ディスク(24)のリム部分(38)が前記断熱材(52B、54B)によって覆われていないように行われ、
前記ディスク状第1断熱体(52B)は、直径が前記ディスク状第2断熱体(54B)の直径よりも大きい、工程と、
d)前記ディスク(24)及び前記断熱材(52B、54B)を含む被断熱アッセンブリ(50B)を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50B)を所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記ディスク(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造(22)を前記ディスク(24)の第1領域(A)内に維持し、粗粒構造(44)を前記ディスク(24)の第2領域(B)内に形成し、転移粒構造(46)を前記ディスク(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)に形成する工程であって、前記第3領域(C)は前記ディスク(24)の軸線(X−X)に対して所定角度で配置されている、工程と、
g)前記ディスク(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記ディスク(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却して、前記微細粒構造が維持された前記第1領域(A)と、前記粗粒構造を有する第2領域(B)と、前記移行構造を有する第3領域(C)と、を有する前記ディスク(24)を得る工程とを含む、方法。
【請求項23】
超合金のディスク(24)の熱処理方法であって、
a)前記ディスク(24)を炉に入れ、前記ディスク(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記ディスク(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)低融点金属(82)又は低融点合金が入った容器(80)を前記ディスク(24)の前記ハブ(36)内の空間に配置する工程であって、
前記低融点金属(82)又は低融点合金の融点は、前記容器(80)の前記γ’ソルバス温度よりも20°C乃至150°C低く、
断熱材(52、54)を前記ディスク(24)の少なくとも一つの所定の第1領域に被せ、前記ディスク(24)の少なくとも一つの所定の第2領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程と、
d)前記ディスク(24)、前記容器(80)、及び断熱材(52、54)を含む前記被断熱アッセンブリ(50)を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50)を所定時間に亘って前記γ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記ディスク(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造(42)を前記ディスク(24)の第1領域(A)内に維持し、粗粒構造(44)を前記ディスク(24)の第2領域(B)内に形成し、転移粒構造(46)を前記ディスク(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)に形成する工程と、
g)前記ディスク(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記ディスク(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却して、前記微細粒構造が維持された前記第1領域(A)と、前記粗粒構造を有する第2領域(B)と、前記移行構造を有する第3領域(C)と、を有する前記ディスク(24)を得る工程とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の熱処理方法に関し、詳細には、タービンディスク、コンプレッサディスク、タービンカバープレート、コンプレッサドラム、又はコンプレッサコーンの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル超合金部品又は製品、例えばガスタービンエンジン用のディスクには、部品又は製品(例えば、ディスク状賦形体)に熱−機械的形成を加えた後、簡単な熱処理が施される。通常は、これは、γ’ソルバス温度(gamma prime solvus temperature)超過の温度(スーパーソルバス温度)又はγ’ソルバス温度(gamma prime solvus temperature)未満の温度(サブソルバス温度)のいずれかで行われる一回の恒温溶体化熱処理であり、これに続き、例えば空気やオイル等の何らかの媒体内で急冷を行う。γ’ソルバス温度は、この性質を持つ合金の変態点である。溶体化熱処理をγ’ソルバス温度未満で行うと、金属間化合物強化相がトリモーダル分布した微細粒構造が得られる。これは、第一γ’相、第二γ’相、及び第三γ’相と呼ばれる。γ’ソルバス温度超過での溶体化熱処理により、粒界の第一γ’相が溶解し、結晶粒を粗くし、粗粒構造を形成し、第二γ’相及び第三γ’相のバイモーダルγ’分布が得られる。
【0003】
溶体化熱処理に続き、低温エージングが行われ、急冷により生じた残留応力を解放し、主強化沈殿(main strengthening precipitates)を改善し、最適の機械的特性を提供する。
単一の溶体化熱処理温度により、部品、例えばディスクは、結晶粒構造が均等になる。結晶粒構造は、サブソルバス溶体化熱処理が行われた場合には微細であり、スーパーソルバス溶体化熱処理が行われた場合には粗く、従って、高温クリープ及び疲労亀裂成長抵抗についての粗粒構造の機械的特性及び性能と、低温サイクル疲労抵抗及び引張強度についての微細粒構造の機械的特性及び性能のいずれかをとる。
【0004】
ニッケル超合金部品、例えばディスクに比較的複雑な熱処理を加えることが既知である。これは、デュアル微小構造熱処理であり、部品即ちディスクに二つの微小構造を形成する。デュアル微小構造熱処理は、部品例えばディスクの様々な領域の微小構造を、部品のその領域についての使用中の最も重要な特性に基づいて、例えば、ディスクのハブ又はボアでの微細粒構造及びディスクのリムでの粗粒構造のように最適化する。この方法では、構成要素には、溶体化熱処理中に温度勾配が加わる。ディスクのリムは、γ’ソルバス温度超過の温度に露呈され、この際、ディスクのハブ又はボアは、γ’ソルバス温度未満の温度に維持される。
【0005】
米国特許第6、610、110号には、ニッケル超合金ディスクの熱処理方法において、サーマルブロック即ちヒートシンクをディスクのハブに配置する工程と、サーマルブロック及びディスクを、ディスクのリムを除いてシェル内に包囲する工程と、シェル内に断熱材を提供する工程と、ディスク、サーマルブロック、シェル、及び断熱材のアッセンブリをγ’ソルバス温度超過の温度の炉に入れる工程を含む方法が開示されている。ディスクのリムは、ディスクの被断熱ハブよりも速い速度で加熱される。ディスクのリムはγ’ソルバス温度超過の温度に達し、ディスクのリムの微小構造を粗くする。サーマルブロックのうちの一つに熱電対が埋め込んであり、熱電対が所定温度に達したとき、アッセンブリを取り出す。ディスクは直径が32cmであり、ハブのところでの軸線方向幅が5cmであり、リムのところでの軸線方向幅が2.5cmである。
【0006】
この方法の問題は、比較的大型のガスタービンエンジンで使用されるディスクは直径が非常に大きく、軸線方向幅が、特にディスクのハブのところで非常に大きいということである。これらのディスクのハブの大きさが大きければ大きい程、また、熱質量が大きければ大きい程、ハブの表面近くの領域が均衡温度に達しても、ハブの中心領域が遥かに低い、例えば数百°C低い温度にしか達しない。ハブの中心領域は、エージング熱処理レジームにおいて、所要のサブソルバス溶体化熱処理温度よりも低い。ディスクのハブの温度がγ’ソルバス温度よりもかなり低い温度にしか達しないことによる効果は、温度が低すぎる場合、γ’沈殿(gamma prime precipitates)が急速に粗くなるということであり、又は、温度がエージングを行うには高すぎる場合及び溶体化熱処理を行うには低すぎる場合、γ’ソルバス沈殿を溶解するということである。これによりディスクのボアに過剰のエージングが加わり、機械的特性が大幅に低下し、かくしてデュアル微小構造熱処理の利点を無効にしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6、610、110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、上述の問題を低減する、好ましくは、解決する、超合金部品を熱処理するための新規な方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、超合金部品の熱処理方法において、
a)部品を炉に入れ、部品をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、部品に微細粒構造を形成する工程と、
b)部品を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材を部品の少なくとも一つの第1の所定の領域に被せ、部品の少なくとも一つの第2の所定の領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリを形成する工程と、
d)部品及び断熱材を含む被断熱アッセンブリをγ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)被断熱アッセンブリを所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、部品を均等な温度にする工程と、
f)炉の温度をγ’ソルバス温度超過の温度まで所定速度で上昇し、微細粒構造を実質的に部品の第1領域に維持し、粗粒構造を実質的に部品の第2領域に形成し、転移粒構造を部品の第1領域と第2領域との間の第3領域に形成する工程と、
g)部品の第2領域が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又は部品の第1領域が所定温度に達したとき、被断熱アッセンブリを炉から取り出す工程と、
h)部品を周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法が提供される。
【0010】
好ましくは、工程(f)において、所定の傾き率は毎時110°C乃至毎時280°Cである。
工程(f)における所定の傾き率は毎時110°Cであってもよく、幅が30mm乃至80mmの第3領域を形成する。
【0011】
工程(f)における所定の傾き率は毎時220°Cであってもよく、幅が15mm乃至40mmの第3領域を形成する。
好ましくは、工程(h)は、部品を毎秒0.1°C乃至毎秒5°Cの速度で冷却する工程を含む。
【0012】
好ましくは、ニッケルベース超合金は、18.5重量%のコバルト、15.0重量%のクロム、5.0重量%のモリブデン、3.0重量%のアルミニウム、3.6重量%のチタニウム、2.0重量%のタンタル、0.5重量%のハフニウム、0.06重量%のジルコニウム、0.027重量%の炭素、0.015重量%のホウ素、残部のニッケル及び不可避不純物からなる
【0013】
好ましくは、部品は、タービンディスク、タービンロータ、コンプレッサディスク、タービンカバープレート、コンプレッサコーン、又はコンプレッサロータを含む。
好ましくは、タービンディスク又はコンプレッサディスクは、直径が60cm乃至70cmであり、ハブのところでの軸線方向幅が20cm乃至25cmであり、リムのところでの軸線方向幅が3cm乃至7cmである。
【0014】
好ましくは、タービンディスク又はコンプレッサディスクは、直径が66cmであり、ハブのところでの軸線方向幅が23cmであり、リムのところでの軸線方向幅が5cmである。
【0015】
好ましくは、工程(c)は、タービンディスク又はコンプレッサディスクの半径方向に延びる面に断熱材を配置する工程を含み、タービンディスク又はコンプレッサディスクの第2の所定の領域は、タービンディスク又はコンプレッサディスクのリム部分である。
【0016】
好ましくは、工程(c)は、ディスク状第1断熱体を、タービンディスク又はコンプレッサディスクの半径方向に延びる第1面の所定の領域に配置する工程と、ディスク状第2断熱体を、タービンディスク又はコンプレッサディスクの半径方向に延びる第2面の所定の領域に配置する工程とを含み、ディスク状第1断熱体の直径は、タービンディスク又はコンプレッサディスクの直径よりも小さく、ディスク状第2断熱体の直径は、タービンディスク又はコンプレッサディスクの直径よりも小さく、タービンディスク又はコンプレッサディスクのハブ部分は、断熱材によって覆われ、タービンディスク又はコンプレッサディスクのリム部分は断熱材によって覆われていない。
【0017】
好ましくは、ディスク状第1断熱体は、直径がディスク状断熱体よりも大きく、ディスクのX−X軸線に対して所定角度で配置された第3領域を提供する。
好ましくは、角度は5°乃至80°である。好ましくは、角度は10°乃至60°である。
【0018】
別の態様では、工程(c)は、環状第1断熱体をコンプレッサロータ又はコンプレッサコーンの第1端の所定の領域に配置する工程と、環状第2断熱体をコンプレッサロータ又はコンプレッサコーンの第2端の所定の領域に配置する工程とを含み、コンプレッサロータ又はコンプレッサコーンの第1端部分は断熱材によって覆われ、コンプレッサロータ又はコンプレッサコーンの第2端部分は断熱材によって覆われ、第1端部分と第2端部分との間のコンプレッサロータ又はコンプレッサコーンの一部は断熱材によって覆われていない。
【0019】
好ましくは、断熱材はセラミック材料で形成されている。好ましくは、セラミック材料は、アルミナ及び/又は酸化鉄を含む。
好ましくは、タービンディスク又はコンプレッサディスクのハブ内の空間に容器が設けられており、容器には、低融点金属又は低融点合金が入っている。好ましくは、低融点金属又は低融点合金の融点は、部品のγ’ソルバス温度よりも20°C乃至150°C低い。好ましくは、低融点金属は銅である。
【0020】
本発明は、更に、微細粒構造を実質的に部品の第1領域に含み、粗粒構造を実質的に部品の第2領域に含み、転移粒構造を部品の第1領域と第2領域との間に位置決めされた第3領域に含む合金部品を提供する。
【0021】
好ましくは、部品はタービンディスク又はコンプレッサディスクであり、ディスクは、ハブ部分と、リム部分と、ハブ部分とリム部分とを相互連結するウェブ部分とを含み、微細粒構造は、ディスクのハブ部分にあり、粗粒構造は、ディスクのリム部分にあり、転移粒構造は、ディスクのウェブ部分にある。
【0022】
好ましくは、転移粒構造は、ディスクの軸線に対して所定角度で配置されている。
好ましくは、ディスクは、軸線方向上流端及び軸線方向下流端を有し、転移粒構造の位置は、ディスクの軸線方向下流端でのディスクの軸線からの半径方向距離が、ディスクの軸線方向上流端での半径方向距離よりも大きく、転移粒構造のディスクの軸線からの距離は、ディスクの軸線方向上流端からディスクの軸線方向下流端まで徐々に大きくなる。
【0023】
好ましくは、角度は5°乃至80°の範囲内にあり、更に好ましくは、角度は10°乃至60°の範囲内にある。
本発明は、更に、合金ディスクを提供する。このディスクは、ハブ部分と、リム部分と、ハブ部分とリム部分とを相互連結するウェブ部分とを含み、ディスクは軸線方向上流端及び軸線方向下流端を有し、ディスクは、微細粒構造を実質的にディスクの第1領域に含み、粗粒構造を実質的にディスクの第2領域に含み、微細粒構造は、ディスクのハブ部分にあり、粗粒構造は、ディスクのリム部分にあり、粗粒構造は、ディスクの軸線方向第1端で、リム部分からウェブ部分内に、ディスクの軸線方向第2端におけるよりも大きく半径方向内方に延びており、微細粒構造は、ディスクの軸線方向第2端で、ハブ部分からウェブ部分内に、ディスクの軸線方向第1端におけるよりも大きく半径方向外方に延びている。
【0024】
好ましくは、微細粒構造は、ディスクの軸線方向第1端からディスクの軸線方向第2端まで、ディスクの軸線から半径方向外方に徐々に大きく延びている。
好ましくは、転移粒構造は、ディスクの第1領域と第2領域との間に位置決めされた第3領域にあり、転移粒構造は、ディスクのウェブ部分内にある。
【0025】
好ましくは、転移粒構造の位置は、ディスクの軸線方向第2端でのディスクの軸線からの半径方向距離が、ディスクの軸線方向第1端での半径方向距離よりも大きく、転移粒構造は、ディスクの軸線方向第1端からディスクの軸線方向第2端まで、ディスクの軸線から徐々に大きく延びている。
【0026】
好ましくは、ディスクは、タービンディスク又はコンプレッサディスクである。
好ましくは、ディスクは、超合金ディスク又はチタニウム合金ディスクであり、更に好ましくは、ニッケル超合金ディスクである。
【0027】
本発明は、更に、超合金ディスクの熱処理方法において、
a)ディスクを炉に入れ、ディスクをγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、ディスクに微細粒構造を形成する工程と、
b)ディスクを周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材をディスクの少なくとも一つの第1の所定の領域に被せ、ディスクの少なくとも一つの第2の所定の領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリを形成する工程であって、断熱材をディスクの半径方向に延びる面に配置し、これによって、ディスクの第2の所定の領域はディスクのリムであり、ディスク状第1断熱体をディスクの半径方向に延びる第1面の所定の領域に置く工程と、ディスク状第2断熱体をディスクの半径方向に延びる第2面の所定の領域に置く工程とを含み、ディスク状第1断熱体の直径はディスクの直径よりも小さく、ディスク状第2断熱体の直径がディスクの直径よりも小さく、ディスクのハブ部分が断熱材によって覆われ、ディスクのリム部分が断熱材によって覆われていないように行われ、ディスク状第1断熱体は、直径がディスク状第2断熱体の直径よりも大きい、工程と、
d)ディスク及び断熱材を含む被断熱アッセンブリを、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)被断熱アッセンブリを所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、ディスクを均等な温度にする工程と、
f)炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造を実質的にディスクの第1領域内に維持し、粗粒構造を実質的にディスクの第2領域内に形成し、転移粒構造をディスクの第1領域と第2領域との間に位置決めされた第3領域に形成する工程であって、第3領域はディスクの軸線に対して所定角度で配置されている、工程と、
g)ディスクの第2領域が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又はディスクの第1領域が所定温度に達したとき、被断熱アッセンブリを炉から取り出す工程と、
h)ディスクを周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法を提供する。
【0028】
本発明は、更に、超合金ディスクの熱処理方法において、
a)ディスクを炉に入れ、ディスクをγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、ディスクに微細粒構造を形成する工程と、
b)ディスクを周囲温度まで冷却する工程と、
c)低融点金属又は低融点合金が入った容器をディスクのハブ内の空間に配置する工程であって、断熱材をディスクの少なくとも一つの所定の第1領域に被せ、ディスクの少なくとも一つの所定の第2領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリを形成する工程と、
d)ディスク、容器、及び断熱材を含む被断熱アッセンブリをγ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)被断熱アッセンブリを所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、ディスクを均等な温度にする工程と、
f)炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造を実質的にディスクの第1領域内に維持し、粗粒構造を実質的にディスクの第2領域内に形成し、転移粒構造をディスクの第1領域と第2領域との間に位置決めされた第3領域に形成する工程と、
g)ディスクの第2領域が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又はディスクの第1領域が所定温度に達したとき、被断熱アッセンブリを炉から取り出す工程と、
h)ディスクを周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法を提供する。
【0029】
本発明は、更に、チタニウム合金部品の熱処理方法において、
a)部品を炉に入れ、部品をβソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、部品に微細粒構造を形成する工程と、
b)部品を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材を部品の少なくとも一つの所定の第1領域に被せ、部品の少なくとも一つの所定の第2領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリを形成する工程と、
d)部品及び断熱材を含む被断熱アッセンブリをβソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)被断熱アッセンブリを所定時間に亘ってβソルバス温度未満の温度に維持し、部品を均等な温度にする工程と、
f)炉の温度を所定の傾き率でβソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造を実質的に部品の第1領域内に維持し、粗粒構造を実質的に部品の第2領域内に形成し、転移粒構造を部品の第1領域と第2領域との間に位置決めされた第3領域に形成する工程と、
g)部品の第2領域が所定時間に亘ってβソルバス温度超過にあり及び/又は部品の第1領域が所定温度に達したとき、被断熱アッセンブリを炉から取り出す工程と、
h)部品を周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法を提供する。
【0030】
本発明を、添付図面を参照して、例として更に詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
[形態1]
超合金部品(24)の熱処理方法であって、
a)前記部品(24)を炉に入れ、前記部品(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記部品(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記部品(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材(52、54)を前記部品(24)の少なくとも一つの第1の所定の領域(36、40)に被せ、前記部品(24)の少なくとも一つの第2の所定の領域(38)を断熱材なしの状態に残して、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程と、
d)前記部品(24)及び断熱材(52、54)を含む前記被断熱アッセンブリ(50)を前記γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50)を所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記部品(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度をγ’ソルバス温度超過の温度まで所定の率で上昇し、微細粒構造(42)を実質的に前記部品(24)の第1領域(A)に維持し、粗粒構造(44)を実質的に前記部品(24)の第2領域(B)に形成し、転移粒構造(46)を前記部品(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間の第3領域(C)に形成する工程と、
g)前記部品(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘って前記γ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記部品(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記部品(24)を周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法。
[形態2]
形態1に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時110°C乃至毎時280°Cである、方法。
[形態3]
形態2に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時110°Cであり、幅が30mm乃至80mmの第3領域を形成する、方法。
[形態4]
形態2に記載の方法において、
前記工程(f)において、前記所定の傾き率は毎時220°Cであり、幅が15mm乃至40mmの第3領域を形成する、方法。
[形態5]
形態1乃至4のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記工程(h)は、前記部品(24)を毎秒0.1°C乃至毎秒5°Cの速度で冷却する工程を含む、方法。
[形態6]
形態1乃至5のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記超合金は、ニッケルベース超合金である、方法。
[形態7]
形態6に記載の方法において、
前記ニッケルベース超合金は、コバルトを18.5重量%、クロムを15.0重量%、モリブデンを5.0重量%、アルミニウムを3.0重量%、チタニウムを3.6重量%、タンタルを2.0重量%、ハフニウムを0.5重量%、ジルコニウムを0.06重量%、炭素を0.027重量%、ホウ素を0.015重量%、残りをニッケル及び偶然に入り込んだ不純物を含む、方法。
[形態8]
形態1乃至7のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記部品(24)は、タービンディスク(24)、タービンロータ、コンプレッサディスク、タービンカバープレート、コンプレッサコーン(60)、又はコンプレッサロータを含む、方法。
[形態9]
形態8に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクは、直径が60cm乃至70cmであり、前記ハブ(36)のところでの軸線方向幅が20cm乃至25cmであり、前記リム(38)のところでの軸線方向幅が3cm乃至7cmである、方法。
[形態10]
形態9に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクは、直径が66cmであり、前記ハブ(36)のところでの軸線方向幅が23cmであり、前記リム(38)のところでの軸線方向幅が5cmである、方法。
[形態11]
形態8、9、又は10に記載の方法において、
前記工程(c)は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる面(24C、24D)に前記断熱材(52、54)を配置する工程を含み、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記第2の所定の領域(38)は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記リム部分(38)である、方法。
[形態12]
形態11に記載の方法において、
前記工程(c)は、前記ディスク状第1断熱体(52)を、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる第1面(24D)の所定の領域に配置する工程と、
前記ディスク状第2断熱体(54)を、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの半径方向に延びる第2面(24C)の所定の領域に配置する工程とを含み、
前記ディスク状第1断熱体(52)の直径は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの直径よりも小さく、前記ディスク状第2断熱体(54)の直径は、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの直径よりも小さく、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記ハブ部分(36)は、前記断熱材(52、54)によって覆われ、前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記リム部分(38)は前記断熱材によって覆われていない、方法。
[形態13]
形態12に記載の方法において、
前記ディスク状第1断熱体(52B)は、直径が前記ディスク状第2断熱体(52B)よりも大きく、前記ディスク(24)のX−X軸線に対して所定角度で配置された第3領域(C)を提供する、方法。
[形態14]
形態13に記載の方法において、
前記角度は、5°乃至80°である、方法。
[形態15]
形態14に記載の方法において、
前記角度は、10°乃至60°である、方法。
[形態16]
形態8に記載の方法において、
環状第1断熱体(68)を前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第1端(62)の所定の領域に配置する工程と、環状第2断熱体(70)を前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第2端(64)の所定の領域に配置する工程とを含み、前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第1端部分は前記断熱材(68)によって覆われ、前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の第2端部分は前記断熱材(70)によって覆われ、前記第1端部分と前記第2端部分との間の前記コンプレッサロータ又は前記コンプレッサコーン(60)の一部は断熱材によって覆われていない、方法。
[形態17]
形態1乃至16のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記断熱材(52、54)は、セラミック材料で形成されている、方法。
[形態18]
形態17に記載の方法において、
前記セラミック材料は、アルミナ及び/又は酸化鉄を含む、方法。
[形態19]
形態8乃至15のうちのいずれか一項に記載の方法において、
前記タービンディスク(24)又は前記コンプレッサディスクの前記ハブ部分(36)内の空間に容器(80)を設ける工程を含み、前記容器(80)には、低融点金属(82)又は低融点合金が入っている、方法。
[形態20]
形態19に記載の方法において、
前記低融点金属(82)又は低融点合金の融点は、前記部品(24)の前記γ’ソルバス温度よりも20°C乃至150°C低い、方法。
[形態21]
形態20に記載の方法において、
前記低融点金属(82)は銅である、方法。
[形態22]
形態1乃至21のうちのいずれか一項に記載の方法に従って熱処理した超合金部品。
[形態23]
合金部品(24)であって、
微細粒構造(42)を実質的に前記部品(24)の第1領域(A)に含み、
粗粒構造(44)を実質的に前記部品(24)の第2領域(B)に含み、
転移粒構造(46)を、前記部品(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)に含む、合金部品。
[形態24]
形態23に記載の合金部品において、
前記部品(24)はタービンディスク又はコンプレッサディスクであり、
前記ディスク(24)は、ハブ部分(36)と、リム部分(38)と、前記ハブ部分(36)と前記リム部分(38)とを相互連結するウェブ部分(40)とを含み、
前記微細粒構造(42)は、前記ディスク(24)の前記ハブ部分(36)にあり、
前記粗粒構造(44)は、前記ディスク(24)の前記リム部分(38)にあり、
前記転移粒構造(46)は、前記ディスク(24)の前記ウェブ部分(40)にある、合金部品。
[形態25]
形態24に記載の合金部品において、
前記転移粒構造(46)は、前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)に対して所定角度で配置されている、合金部品。
[形態26]
形態25に記載の合金部品において、
前記ディスク(24)は、軸線方向上流端(24A)及び軸線方向下流端(24B)を有し、
前記転移粒構造(40)の位置は、前記ディスク(24)の前記軸線方向下流端(24B)での前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)からの半径方向距離が、前記ディスク(24)の前記軸線方向上流端(24A)での半径方向距離よりも大きく、
前記転移粒構造(40)の前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)からの距離は、前記ディスク(24)の前記軸線方向上流端(24A)から前記ディスク(24)の前記軸線方向下流端(24B)まで徐々に大きくなる、合金部品。
[形態27]
形態25に記載の合金部品において、
前記角度は、5°乃至80°の範囲内にある、合金部品。
[形態28]
形態27に記載の合金部品において、
前記角度は、10°乃至60°の範囲内にある、合金部品。
[形態29]
形態23乃至28のうちのいずれか一項に記載の合金部品において、
前記合金部品は、超合金部品又はチタニウム合金部品である、合金部品。
[形態30]
合金ディスク(24)であって、
前記ディスクは、ハブ部分(36)と、リム部分(38)と、前記ハブ部分(36)と前記リム部分(38)とを相互連結するウェブ部分(40)とを含み、
前記ディスク(24)は、軸線方向第1端(24A)及び軸線方向第2端(24B)を有し、
前記ディスク(24)は、微細粒構造(42)を実質的に前記ディスク(24)の第1領域(A)に含み、粗粒構造(44)を実質的に前記ディスク(24)の第2領域(B)に含み、
前記微細粒構造(42)は、前記ディスク(24)の前記ハブ部分(36)にあり、
前記粗粒構造(44)は、前記ディスク(24)の前記リム部分(38)にあり、
前記粗粒構造(44)は、前記ディスク(24)の前記軸線方向第1端(24A)で、前記リム部分(38)から前記ウェブ部分(40)内に、前記ディスク(24)の前記軸線方向第2端(24B)におけるよりも大きく半径方向内方に延びており、
前記微細粒構造(36)は、前記ディスク(24)の前記軸線方向第2端(24B)で、前記ハブ部分(36)から前記ウェブ部分(40)内に、前記ディスク(24)の前記軸線方向第1端(24A)におけるよりも大きく半径方向外方に延びている、合金ディスク。
[形態31]
形態30に記載の合金ディスクにおいて、
前記微細粒構造(36)は、前記ディスク(24)の前記軸線方向第1端(24A)から前記ディスク(24)の前記軸線方向第2端(24B)まで、前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)から半径方向外方に徐々に大きく延びている、合金ディスク。
[形態32]
形態30又は31に記載の合金ディスクにおいて、
転移粒構造(46)は、前記ディスク(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)にあり、
前記転移粒構造(46)は、前記ディスク(24)の前記ウェブ部分(40)内にある、合金ディスク。
[形態33]
形態32に記載の合金ディスクにおいて、
前記転移粒構造(46)の位置は、前記ディスク(24)の前記軸線方向第2端(24B)での前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)からの半径方向距離が、前記ディスク(24)の前記軸線方向第1端(24A)での半径方向距離よりも大きく、
前記転移粒構造(46)は、前記ディスク(24)の前記軸線方向第1端(24A)から前記ディスク(24)の前記軸線方向第2端(24B)まで、前記ディスク(24)の前記軸線(X−X)から徐々に大きく延びている、合金ディスク。
[形態34]
形態30乃至33のうちのいずれか一項に記載の合金ディスクにおいて、
前記ディスク(24)は、タービンディスク又はコンプレッサディスクである、合金ディスク。
[形態35]
形態30乃至34のうちのいずれか一項に記載の合金ディスクにおいて、
前記ディスク(24)は、超合金ディスク又はチタニウム合金ディスクである、合金ディスク。
[形態36]
超合金ディスク(24)の熱処理方法であって、
a)前記ディスク(24)を炉に入れ、前記ディスク(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記ディスク(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)断熱材(52、54)を前記ディスク(24)の少なくとも一つの第1の所定の領域(36、40)に被せ、前記ディスク(24)の少なくとも一つの第2の所定の領域(38)を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程であって、
断熱材(52B、54B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる面(24C、24D)に配置し、
これは、前記ディスク(24)の前記第2の所定の領域(38)は前記ディスク(24)のリム(38)であり、ディスク状第1断熱体(52B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる第1面(24D)の所定の領域に置く工程と、ディスク状第2断熱体(54B)を前記ディスク(24)の半径方向に延びる第2面(24C)の所定の領域に置く工程とを含み、前記ディスク状第1断熱体(52B)の直径は、前記ディスク(24)の直径よりも小さく、前記ディスク状第2断熱体(54B)の直径は、前記ディスク(24)の直径よりも小さく、前記ディスク(24)のハブ部分(36)が前記断熱材(52B、54B)によって覆われ、前記ディスク(24)のリム部分(38)が前記断熱材(52B、54B)によって覆われていないように行われ、
前記ディスク状第1断熱体(52B)は、直径が前記ディスク状第2断熱体(54B)の直径よりも大きい、工程と、
d)前記ディスク(24)及び前記断熱材(52B、54B)を含む被断熱アッセンブリ(50B)を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50B)を所定時間に亘ってγ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記ディスク(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造(22)を実質的に前記ディスク(24)の第1領域(A)内に維持し、粗粒構造(44)を実質的に前記ディスク(24)の第2領域(B)内に形成し、転移粒構造(46)を前記ディスク(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)に形成する工程であって、前記第3領域(C)は前記ディスク(24)の軸線(X−X)に対して所定角度で配置されている、工程と、
g)前記ディスク(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記ディスク(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法。
[形態37]
超合金ディスク(24)の熱処理方法であって、
a)前記ディスク(24)を炉に入れ、前記ディスク(24)をγ’ソルバス温度未満の温度で溶体化熱処理し、前記ディスク(24)に微細粒構造(42)を形成する工程と、
b)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程と、
c)低融点金属(82)又は低融点合金が入った容器(80)を前記ディスク(24)の前記ハブ(36)内の空間に配置する工程であって、断熱材(52、54)を前記ディスク(24)の少なくとも一つの所定の第1領域に被せ、前記ディスク(24)の少なくとも一つの所定の第2領域を断熱材なしの状態に残し、被断熱アッセンブリ(50)を形成する工程と、
d)前記ディスク(24)、前記容器(80)、及び断熱材(52、54)を含む前記被断熱アッセンブリ(50)を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる工程と、
e)前記被断熱アッセンブリ(50)を所定時間に亘って前記γ’ソルバス温度未満の温度に維持し、前記ディスク(24)を均等な温度にする工程と、
f)前記炉の温度を所定の傾き率でγ’ソルバス温度超過の温度まで上昇し、微細粒構造(42)を実質的に前記ディスク(24)の第1領域(A)内に維持し、粗粒構造(44)を実質的に前記ディスク(24)の第2領域(B)内に形成し、転移粒構造(46)を前記ディスク(24)の前記第1領域(A)と前記第2領域(B)との間に位置決めされた第3領域(C)に形成する工程と、
g)前記ディスク(24)の前記第2領域(B)が所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又は前記ディスク(24)の前記第1領域(A)が所定温度に達したとき、前記被断熱アッセンブリ(50)を前記炉から取り出す工程と、
h)前記ディスク(24)を周囲温度まで冷却する工程とを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明に従って熱処理したタービンディスクを持つターボファンガスタービンエンジンの一部を破断した概略図である。
図2図2は、本発明に従って熱処理したタービンディスクの拡大断面図である。
図3図3は、本発明による熱処理で使用するための被断熱アッセンブリのタービンディスクの拡大図である。
図4図4は、本発明による熱処理で使用するための変形例の被断熱アッセンブリのタービンディスクの拡大図である。
図5図5は、本発明に従って熱処理したコンプレッサコーンの拡大断面図である。
図6図6は、本発明による熱処理で使用するための被断熱アッセンブリのコンプレッサコーンの拡大図である。
図7図7は、本発明による熱処理で使用するための変形例の被断熱アッセンブリのタービンディスクの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ターボファンガスタービンエンジン10は、軸線方向流れ方向で、インテーク12、ファン区分14、コンプレッサ区分16、燃焼区分18、タービン区分20、及び排気区分22を含む。タービン区分20は、コンプレッサ区分16内の高圧コンプレッサ(図示せず)をシャフト(図示せず)を介して駆動するように構成された高圧タービン24、26と、コンプレッサ区分16内の中圧コンプレッサ(図示せず)をシャフト(図示せず)を介して駆動するように構成された中圧タービン(図示せず)と、ファン区分14内のファン(図示せず)をシャフト(図示せず)を介して駆動するように構成された低圧タービン(図示せず)とを含む。ターボファンガスタービンエンジン10は、全く従来通りに作動する。
【0033】
タービン区分20の一部を図1に示す。タービン区分20は、周方向に間隔が隔てられた半径方向外方に延びる複数の高圧タービンブレード26を支持する高圧タービンディスク24を含む。高圧タービンブレード26にはモミの木状の根部(firtree roots) が設けられており、これらの根部は、高圧タービンディスク24のリムの対応する形状のスロットに配置される。燃焼区分18からの高温のガスを高圧タービンブレード26に差し向けるため、周方向に間隔が隔てられた複数のノズルガイドベーン28が、高圧タービンブレード26の軸線方向上流に配置されている。これらのノズルガイドベーン28は、半径方向外端が内ケーシング30によって支持されており、この内ケーシング30は外ケーシング32によって取り囲まれている。
【0034】
図2に更に明瞭に示す高圧タービンディスク24は、高圧タービンディスク24の半径方向内端に設けられたハブ部分36と、高圧タービンディスク24の半径方向外端に設けられたリム部分38と、ハブ部分36とリム部分38と間で半径方向に延び且つハブ部分36とリム部分38とを相互連結するウェブ部分40とを含む。高圧タービンディスク24は、ニッケルベース超合金で形成されている。この例では、ニッケルベース超合金は、
18.5重量%のコバルト、15.0重量%のクロム、5.0重量%のモリブデン、3.0重量%のアルミニウム、3.6重量%のチタニウム、2.0重量%のタンタル、0.5重量%のハフニウム、0.06重量%のジルコニウム、0.027重量%の炭素、0.015重量%のホウ素、残部のニッケル及び不可避不純物からなる。しかしながらこの他の適当なニッケルベース超合金を使用してもよい。高圧タービンディスク24は、直径が60cm乃至70cmであり、ハブ部分36での軸線方向幅が20cm乃至25cmであり、リム部分38での軸線方向幅が3cm乃至7cmであり、詳細には、高圧タービンディスク24は、直径が66cmであり、ハブ部分36での軸線方向幅が23cmであり、リム部分38での軸線方向幅が5cmである。
【0035】
図2は、熱処理を施した状態の高圧タービンディスク24を示す。高圧タービンディスク24のハブ部分36には、サブソルバス溶体化熱処理、例えばγ’ソルバス温度未満で溶体化熱処理が施されており、微細粒構造42を有する。高圧タービンディスク24のリム部分38には、スーパーソルバス溶体化熱処理、例えばγ’ソルバス温度超過で溶体化熱処理が施されており、粗粒構造44を有する。ウェブ部分40は、ハブ部分36と隣接して微細粒構造42を持ち、リム部分38と隣接して粗粒構造44を持つが、更に、微細粒構造42と粗粒構造44との間の所定の位置に転移粒構造46を有する。
【0036】
この例では、転移粒構造46即ち微細粒構造42から粗粒構造44までの転移部は、高圧タービンディスク24のX−X軸線に対して所定角度で配置されている、即ち、X−X軸線からの転移粒構造46の位置は、高圧タービンディスク24の軸線方向下流端24Bでの半径方向距離が、高圧タービンディスク24の軸線方向上流端24Aでの半径方向距離よりも大きく、転移粒構造46は、X−X軸線からの距離が、軸線方向上流端24Aから軸線方向下流端24Bまで徐々に大きくなるということに着目されたい。この角度は、5°乃至80°の範囲内にあり、更に好ましくは、この角度は、10°乃至60°の範囲内にある。
【0037】
このように転移粒構造46が角度をなしていることは、高圧タービンディスク24に対して有利である。これは、使用中、高圧タービンディスク24に、半径方向温度勾配に加えて軸線方向温度勾配が加わるためである。例えば、高圧タービンディスク24の軸線方向上流端24A上でX−X軸線から所定の半径方向距離のところにある点は、高圧タービンディスク24の軸線方向下流端24B上でX−X軸線から同じ半径方向距離のところにある点よりも高温である。転移粒構造46が角度をなしていることは、高圧タービンディスク24の機械的特性及び微小構造における要件に対して良好に適合する。高圧タービンディスク24の軸線方向上流端24Aには比較的高い作動温度が加わり、従って、高温クリープ及び保圧疲労亀裂成長に対する抵抗が大きい微小構造が形成され、従って粗粒構造44を有する。高圧タービンディスク24の軸線方向下流端24Bには比較的低い作動温度が加わり、従って、低サイクル疲労に対する抵抗が大きく、引張強さが良好な微小構造が形成される。その結果、角度をなした転移粒構造46では、粗粒構造44が、軸線方向上流端24Aで、リム部分38からウェブ部分40内に半径方向内方に、軸線方向下流端24Bにおけるよりも大きい距離だけ延びており、逆に、微細粒構造42は、軸線方向下流端24Bで、ハブ部分36からウェブ部分40内に半径方向外方に、軸線方向上流端24Aにおけるよりも大きい距離だけ延びている。
【0038】
転移粒構造46は、微細粒構造42の粒径と粗粒構造44の粒径との間の粒径を持つ結晶粒構造(結晶粒組織)を含む。転移粒構造46は、トリモーダルγ’分布を含み、γ’の三つの集団の各々の相対的な体積分率は、微細粒構造42で見られるのとは異なる。詳細には、転移粒構造46では、第一γ’の体積分率は、X−X軸線からの半径方向距離の増大に従って減少し、これと関連して、第二γ’及び第三γ’の両方の体積分率が増大する。
【0039】
ニッケル超合金タービンディスク24の本発明による熱処理方法を図3を参照して例示する。この熱処理方法は、タービンディスク24を炉に入れ、γ’ソルバス温度未満の温度でタービンディスク24に溶体化熱処理を行い、微細粒構造42をタービンディスク24内に発生する。次いで、当業者に周知の任意の適当な方法を使用してタービンディスク24を周囲温度まで冷却する。
【0040】
次に、断熱材52、54を、タービンディスク24の少なくとも一つの第1の所定の領域即ちハブ部分36及びウェブ部分40に被せるが、タービンディスク24の少なくとも一つの第2の所定の領域即ちリム部分38を断熱材が被せられていない状態にし、被断熱アッセンブリ50を形成する。断熱材52、54は、タービンディスク24の軸線方向上流端24A及び軸線方向上流端24Bの夫々の半径方向に延びる面24C及び24Dに配置される。タービンディスク24の第2の所定の領域は、タービンディスク24のリム部分38である。詳細には、ディスク状第1断熱体52は、タービンディスク24の半径方向に延びる第1面24Dの所定の領域に配置され、ディスク状第2断熱体54は、タービンディスク24の半径方向に延びる第2面24Cの所定の領域に配置される。ディスク状第1断熱体52の直径は、タービンディスク24の直径よりも小さく、ディスク状第2断熱体54の直径は、タービンディスク24の直径よりも小さく、タービンディスク24のハブ部分36及びウェブ部分40は、断熱材によって覆われ、タービンディスク24のリム部分38は断熱材によって覆われていない。
【0041】
任意の適当な断熱材を使用してもよいが、好ましくは、断熱材は、セラミック材料、例えばアルミナ及び/又は酸化鉄を含む。断熱材は、断熱性に優れており且つ耐熱衝撃性に優れたセラミックを含む。セラミック断熱材は容易に所望の形状に形成され、例えば、セラミックは所要形状に合わせて容易に鋳造できる。セラミック断熱材は再使用可能である。別の態様では、断熱材は金属フォーム(金属発泡体)又は複合材料で形成されていてもよい。断熱材とタービンディスク24との間に隙間が設けられていてもよく、この隙間は、追加の断熱性を提供するため、空気、緩いファイバ耐火物又はファイバ耐火物ブランケットを含んでいてもよい。
【0042】
タービンディスク24の被断熱アッセンブリ50及び断熱材52、54を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる。炉内の温度及び従って被断熱アッセンブリ50の温度を、所定時間に亘って、γ’ソルバス温度未満の温度に維持し、タービンディスク24を均等な温度にする。
【0043】
次いで、炉の温度を所定速度でγ’ソルバス温度超過の所定温度まで上昇し、実質的にタービンディスク24の第1領域Aに微細粒構造42を維持し、粗粒構造44を実質的にタービンディスク24の第2領域Bに形成し、タービンディスク24の第1領域Aと第2領域Bとの間に位置決めされた第3領域Cに転移粒構造46を形成する。
【0044】
タービンディスク24の第2領域Bが所定時間に亘ってγ’ソルバス温度超過にあり及び/又はタービンディスク24の第1領域Aが所定温度に達したとき、断熱アッセンブリ50を炉から取り出す。本発明の別の利点は、断熱材52、54、即ちディスク状断熱体を、急冷前に手早く取り外すことができ、タービンディスク24又はコンプレッサディスク等で所望の特性を得るために急冷を遅滞させることがないということである。
【0045】
最後に、当業者に周知の任意の適当な方法を使用してタービンディスク24を周囲温度まで冷却する。
所定の傾き率(ramp rate)が転移粒構造46の位置及び幅を制御する。傾き率が大きければ大きい程、ハブ部分36からリム部分38までのタービンディスク24の半径方向温度勾配が大きくなり、従って、転移粒構造46の幅が狭くなる。逆に、傾き率が小さければ小さい程、ハブ部分36からリム部分38までのタービンディスク24の半径方向温度勾配が小さくなり、従って、転移粒構造46の幅が広くなる。粒度と、第一γ’粒度と、体積分率は、第3領域Cで大幅に変化し、これらが第2領域Bの粗粒構造44の特性に近いように、又は、第1領域Aの微細粒構造42の特性に近いように、機械的特性を最適化するように微細構造/ナノ構造を最適化できる。
【0046】
所定の傾き率は、毎時110°C(200°F)乃至毎時280°C(500°F)である。所定の傾き率が毎時110°Cである場合には、超合金の化学的性質に応じて、幅が30mm乃至80mmの第3領域Cが形成される。所定の傾き率が毎時220°C(400°F)である場合には、幅が15mm乃至40mmの第3領域Cが形成される。
【0047】
冷却、急冷、媒体、及び流量を選択することによって、第3領域Cでの転移粒構造46についての冷却速度を注意深く制御する。圧縮空気による冷却は、タービンディスク24での位置に従って容易に変化する。冷却速度は、機械的特性に影響を直接的に及ぼす。引張強度特性を改善するには比較的高い冷却速度を使用するのに対し、疲労亀裂伝播抵抗を改善するには比較的低い冷却速度を使用する。タービンディスク24の冷却は、毎秒0.1°C乃至毎秒5°Cの速度で行われる。
【0048】
第1及び第2のディスク状断熱体52及び54は直径が同じであり、従って、第3領域Cはエンジンの軸線X−Xとほぼ平行である。
ニッケル超合金タービンディスク24を熱処理するための本発明による別の方法を図4を参照して例示する。この方法は、図3を参照して説明したのと実質的に同じであるが、ディスク状第1断熱体52Bの直径が、ディスク状第2断熱体54Bよりも大きく、第3領域Cは、タービンディスク24の軸線X−Xに対し、図2に示すように、所定の角度をなして配置される。ディスク状第1断熱体52Bの直径は、タービンディスク24の直径よりも小さく、ディスク状第2断熱体54Bの直径は、タービンディスク24の直径よりも小さく、そのため、タービンディスク24のハブ部分36及びウェブ部分40は断熱材によって覆われ、タービンディスク24のリム部分38は断熱材によって覆われない。
【0049】
本発明は、更に、ガスタービンエンジンの中圧タービンディスク及び低圧タービンディスクにも適用できる。
ニッケル超合金コンプレッサコーン60を熱処理するための本発明による別の方法を図5及び図6を参照して例示する。コンプレッサコーン60を炉に入れ、γ’ソルバス温度未満で溶体化熱処理を行い、コンプレッサコーン60に微細粒構造72を形成する。次いで、コンプレッサコーン60を任意の適当な方法で周囲温度まで冷却する。
【0050】
この方法は、環状第1断熱体68をコンプレッサコーン60の第1端62の所定の領域に配置する工程と、環状第2断熱体70をコンプレッサコーン60の第2端64の所定の領域に配置する工程とを含み、これらの工程は、コンプレッサコーン60の第1端部分を断熱材で覆い、コンプレッサコーン60の第2端部分を断熱材で覆い、第1端部分と第2端部分との間のコンプレッサコーン60の一部を断熱材によって覆わないことによって行われる。環状第1断熱体68及び環状第2断熱体70は、第1端62と第2端64の夫々を受け入れる環状溝を有する。
【0051】
コンプレッサコーン60及び第1及び第2の断熱体68及び70のアッセンブリ全体を、γ’ソルバス温度未満の温度の炉に入れる。
炉の温度を所定速度でγ’ソルバス温度超過に上昇し、微細粒構造72を、実質的にコンプレッサコーン60の第1領域Dに維持し、粗粒構造74を、実質的にコンプレッサコーン60の第2領域Eに形成し、転移粒構造76を、コンプレッサコーン60の第1領域Dと第2領域Eとの間の第3領域Fに形成する。
【0052】
これにより、低サイクル疲労寿命を最適化し、接合、溶接、例えばイナーシャ溶接(慣性溶接)を可能にするため、クリープ特性を必要とする比較的高温の領域に粗粒構造74が形成され、端領域に微細粒構造が形成された高圧コンプレッサコーン60を製造できる。端領域で微細粒構造を使用することは、微細粒構造材料の溶接が粗粒構造材料の溶接と比較して容易であり、特に、結果的に形成された微小構造が、接合後の微細粒イナーシャ溶接部と余り異ならないため、望ましい。
【0053】
ニッケル超合金タービンディスクを熱処理するための本発明による別の方法を図7に示す。この熱処理方法は、図3又は図4を参照して説明した熱処理方法と実質的に同じであるが、タービンディスク24のハブ部分36内の空間に容器80が設けられているという点が異なっている。容器80には低融点金属又は低融点合金82が入っている。容器80は、収容した金属と同じ又は同様の金属又は合金で形成されているか或いは、合金、例えばタービンディスク24のニッケルベース超合金で形成されている。低融点金属又は低融点合金82の融点は、γ’ソルバス温度よりも20°C乃至150°C低い。低融点金属は、例えば銅であり、その融点は1084°Cである。容器80は、熱流に対して最適の経路を提供するため、タービンディスク24と熱的に接触した状態に配置される。従って、熱膨張率を適合することが重要である。低融点金属又は低融点合金が入った容器80は、再使用可能である。
【0054】
熱処理中、低融点金属又は低融点合金は溶融し、固体から液体に変化し、低融点金属又は低融点合金が状態を変化するために低融点金属又は低融点合金に、余分の熱即ち融合エンタルピーを提供しなければならない。
【0055】
熱処理は、タービンディスク24のハブ部分36をγ’ソルバス温度未満の温度に維持するように、理想的には、サブソルバス溶体化温度未満の狭い範囲内で行われる。従って、低融点金属又は低融点合金は、熱処理を受けるタービンディスク24のγ’ソルバス温度より低い所定温度で固体から液体への相変化により更に多くの熱エネルギを吸収することによって、タービンディスク24のハブ部分36を冷却するように作用するのが有利である。低融点金属又は低融点合金の存在により、タービンディスク24は更に長い期間に亘って炉中にとどまることができ、例えば、プロセスウィンドウ(processing window)を大きくできる。容器80及び低融点金属又は低融点合金は、ハブ部分36とリム部分38との間のタービンディスク24の温度勾配を増大し、従って、転移粒構造46の幅を減少する。
【0056】
断熱材で覆われていない部品(例えば、ディスクのリム)の第2の所定領域に流入する熱の量を制御するため、熱処理前に、その部品の第2の所定領域に高放射率コーティング又は他の適当なコーティングを付着してもよい。コーティングは、部品に流入する熱の量を増大し、又は減少することができる。
【0057】
本発明をタービンディスク及びコンプレッサコーンを参照して説明したが、コンプレッサディスク、コンプレッサロータ、タービンロータ、タービンカバープレート、又はロータインターシールにも同様に適用可能である。コンプレッサディスクの場合には、転移粒構造、即ち微細粒構造から粗粒構造への転移部を、コンプレッサディスクの軸線に対して所定角度で配置してもよく、又は転移粒構造の位置を、軸線からの半径方向距離が、コンプレッサディスクの軸線方向上流端で、コンプレッサディスクの軸線方向下流端におけるよりも大きくし、転移粒構造は、軸線方向上流端から軸線方向下流端にいくにつれて軸線からの距離が徐々に大きくなる。この角度は、5°乃至80°であり、更に好ましくは、10°乃至60°である。これは、コンプレッサディスクの下流端の温度が、コンプレッサディスクの上流端よりも高いためである。
【0058】
本発明による熱処理は、二つ又はそれ以上の合金を含むタービンディスクにも適用できる。これらの合金は、タービンディスクの様々な位置に、例えば様々な半径方向位置に最適の特性を与えるように選択される。これらの二つ又はそれ以上の合金は、一般的には、リング状に形成された後、好ましくは、互いに接合即ち結合される。二つ又はそれ以上の合金は、γ’ソルバス温度が異なる。その場合、タービンディスクのリム部分を断熱材で包囲し、タービンディスクのハブ部分を露呈してもよい。
【0059】
ニッケルベース超合金の代表的なγ’ソルバス温度は、1120°C乃至1190°Cである。炉を、溶体化熱処理温度、即ちニッケルベース超合金のγ’ソルバス温度未満の第1の所定温度、例えばγ’ソルバス温度よりも15°C乃至35°C低い温度まで加熱し、部品、例えばタービンディスク全体に亘って微細粒構造を形成する。被断熱アッセンブリを溶体化熱処理温度未満の第2の所定温度まで加熱し、部品全体に亘って温度を均等にする。被断熱アッセンブリをγ’ソルバス温度超過の第3の所定温度まで加熱する。この温度は、ニッケルベース超合金のカーバイド相及び/又はボライド相の溶解を阻止するのに十分に低い。転移粒領域は、ほんの限られた時間に亘ってγ’ソルバス温度超過の所定温度にある。
【0060】
ニッケル超合金を参照して本発明を説明したが、本発明は、他の合金、例えばコバルト超合金及びチタニウム合金の熱処理にも適用できる。近αチタニウム合金の場合、γ’ソルバス温度に関して熱処理する代わりに、βソルバス温度に関して熱処理を行う。
【0061】
熱処理を最適化するため、熱処理プロセスのコンピュータモデル又は計算モデルを提供できる。コンピュータモデルは、所望の過渡的加熱曲線又は熱勾配を得るため、断熱部材、熱質量、変態の潜熱を最適化することによって、熱束又は熱処理を最適化するのに使用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 ターボファンガスタービンエンジン
12 インテーク
14 ファン区分
16 コンプレッサ区分
18 燃焼区分
20 タービン
22 排気区分
24 高圧タービンディスク
26 高圧タービンブレード
28 ノズルガイドベーン
30 内ケーシング
32 外ケーシング
36 ハブ部分
38 リム部分
40 ウェブ部分
42 微細粒構造
44 粗粒構造
46 転移粒構造
50 被断熱アッセンブリ
52 ディスク状第1断熱体
54 ディスク状第2断熱体
60 コンプレッサコーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7