【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成22年7月22日〜23日 社団法人日本セラミックス協会関東支部主催の「第26回日本セラミックス協会関東支部研究発表会 講演要旨集」において文書をもって発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の処理工程により得られたバナデート系複合酸化物の未結晶化物あるいは結晶化物を、熱処理する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のバナデート系複合酸化物の製造方法。
前記Rサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、YbまたはLuのうちの少なくとも1種の元素である、請求項1〜5のいずれかに記載のバナデート系複合酸化物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載されたような方法(各成分酸化物を混合して高温で熱処理する固相反応法)により得られる単斜晶の複合酸化物には、不純物相や未反応物が残存しやすいという問題がある。非特許文献2または3に記載されたような方法(各成分元素の塩の水溶液にpH調整用の沈殿剤を添加して成分金属の共沈物を得る共沈法)は、熱処理なしにLaVO
4の結晶化物を得ているが、硝酸アンモニウム等の副生物や塩化物原料等の未反応物などを除去する工程が必要である。さらに、非特許文献3に記載されたような方法は、硝酸アンモニウム等の共沈副生成と共に水熱処理を行うため、耐食性のある高価な反応容器を具備したオートクレーブなどの装置が必要である。
【0008】
本発明は、上記のような課題が解決された、未反応物や不純物を除去するための工程を必要とせず、さらに腐食性副生成物の発生や特殊な溶媒の使用がなく、撹拌も必要としない安価なオートクレーブの使用が可能であり、熱処理なしあるいは高温での熱処理工程なしに結晶化物を得ることができる、一般式RVO
4またはRVO
3で表されるバナデート系複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる問題点を解決すべく鋭意検討を進めた結果、一般式RVO
4で表されるバナデート系複合酸化物について、Rサイトを占める元素の酸化物、水酸化物または酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、バナジウムの酸化物、水酸化物または酸化水酸化物のうちの少なくとも1種とを含む原料を用い、これらの原料を、水と相溶性のある有機溶媒と、その有機溶媒の種類に応じて粉砕処理過程で反応などにより発生する水の量を含めた制御された量の水とを含有する水系溶媒中で湿式混合粉砕処理することにより、RVO
4の複合酸化物の前駆体である複合水酸化物または複合酸化水酸化物を調製し、上記水系溶媒中で湿式混合粉砕処理したスラリーをそのままソルボサーマル処理することにより、熱処理なしに結晶化物を得ること、あるいは高温での熱処理なしに結晶化物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
また所望に応じ、上記のようなソルボサーマル処理の代わりに、水系溶媒中で湿式混合粉砕処理したスラリーを常圧で加熱(還流)処理することにより、ソルボサーマル処理と同様な効果が得られることを見出し、本発明のさらなる態様を完成させるに至った。
【0011】
一方、RVO
3で表されるバナデート系複合酸化物については、Rサイトを占める元素の酸化物とバナジウムの酸化物とを含む原料を、実質的に水を含まない水と相溶性のある有機溶媒中で湿式混合粉砕処理することにより、上記バナデート系複合酸化物の前駆体を調製し、その後この湿式混合粉砕処理スラリーをソルボサーマル処理することにより、高温での熱処理なしに結晶化物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の製造方法は、Rサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、YbまたはLuのうちの少なくとも1種の元素である希土類バナデート系複合酸化物、特にLaVO
4もしくはLaVO
3で表される希土類バナデート系複合酸化物など、工業的に有用な複合酸化物を対象とする場合に好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法(湿式混合粉砕処理工程、ソルボサーマル処理工程あるいは加熱(還流)処理工程、および任意で行われる熱処理工程)は、特殊な機材や高価な原料を用いることなく行うことができ、また副生成物としては水しか生成しないため特別な除去工程も不要である。したがって、各種用途における性能の劣化を招く不純物が混在しない高品質のバナデート系複合酸化物の結晶化物を、処理なしあるいは高温での熱処理工程なしに、安価で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
バナデート系複合酸化物
本発明の製造方法の対象となるバナデート系複合酸化物は、一般式RVO
4もしくはRVO
3(式中、Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Vはバナジウム元素である。)で表される化合物である。
【0016】
本発明の製造方法は、Rサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、YbまたはLuのうちの少なくとも1種の元素である希土類バナデート系複合酸化物、特にLaVO
4もしくはLaVO
3(RサイトがLa)で表されるバナデート系複合酸化物などを対象とする場合に好適である。
【0017】
原料
Rサイトを占める希土類元素[Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu]の原料成分としては、これら希土類元素の酸化物[R
2O
3、RO
2]、水酸化物[R(OH)
3、R(OH)
4]、酸化水酸化物[RO(OH)、ROOH]が挙げられる。なお、上記化合物には、結晶水を含有するもの[R
2O
3・nH
2O、RO
2・nH
2O、R(OH)
3・nH
2O、R(OH)
4・nH
2O、nは正の数]も含まれ、また、希土類水酸化物および希土類酸化水酸化物については、不定比な希土類酸化物の水和物[R
2O
3・XH
2O、RO
2・XH
2O、Xは任意の正の数]も含まれる。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のRサイトを占める希土類元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0018】
V(バナジウム元素)の原料成分としては、バナジウムの酸化物[VO、V
2O
3、VO
2、V
2O
5、V
3O
4、V
3O
7、V
4O
9]、水酸化物[V(OH)
5、V(OH)
4、V(OH)
3、V(OH)
2]、酸化水酸化物[VO(OH)、VO(OH)
2、VO(OH)
3、VO
2(OH)]が挙げられる。なお、上記化合物には結晶水を含有したもの[V
2O
5・nH
2O、VO
2・nH
2O、V
2O
3・nH
2O、VO・nH
2O、V
3O
4・nH
2O、V(OH)
5・nH
2O、V(OH)
4・nH
2O、V(OH)
3・nH
2O、V(OH)
2・nH
2O、nは正の数]も含まれ、また、水酸化物、酸化水酸化物については不定比な酸化物の水和物[V
2O
5・XH
2O、VO
2・XH
2O、V
2O
3・XH
2O、V
3O
4・XH
2O、Xは任意の正の数]も含まれる。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のVサイトを占める元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0019】
上記のような原料となる物質の粒径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。酸化物を原料として使用する場合は、湿式混合粉砕の過程で水和ないし水酸化物化が起こり粒径が小さくなるので、最初の粒径が大きくても問題はない。
また、原料の各成分の配合量は、Rサイトおよびバナジウム(V)の原料中の量比が、目的とする複合酸化物における量比と同じとなるようにすればよい。
【0020】
湿式混合粉砕処理
本発明における湿式混合粉砕処理は、水系溶媒中で、一般的には混合粉砕機を用いて行われる。
【0021】
水系溶媒は、混合粉砕処理により水和前駆体(複合水酸化物ないし複合酸化水酸化物)を調製する際に、原料と共に粉砕容器内に入れられる溶媒(粉砕媒体)であり、水と相溶性のある有機溶媒に水を混合した溶媒をいう。
【0022】
水と相溶性のある有機溶媒は、特に限定されるものではないが、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0023】
上記水と相溶性のある有機溶媒は、原料および湿式混合粉砕の処理条件に応じて、適切な比誘電率を有するものを採用することが望ましい。有機溶媒の比誘電率が適度な範囲であれば、水系溶媒中の粉砕処理物の分散性が高まりすぎず、バナデート系複合酸化物の均一な水和前駆体が得られる。
【0024】
なお、水と相溶性のない有機溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)と水の混合液を粉砕媒液として使用すると、混合粉砕機の内部に原料粉末が付着してしまい、混合・粉砕の処理効率が大幅に低下するおそれがあるが、そのような水と相溶性のない有機溶媒も、水と相溶性のある有機溶媒と併用するのであれば、水系溶媒に配合することは可能である。
【0025】
RVO
4の製造方法において、湿式混合粉砕工程とソルボサーマル処理工程あるいは加熱工程により、熱処理なしにRVO
4複合酸化物単一相を得るためには、上記有機溶媒の内、アルコール類以外の有機溶媒のみを混合した水系溶媒を使用し、かつ当該水系溶媒中の水の量を、RV(OH)
8複合水酸化物を生成させるために必要な化学量論モル量の0.25倍モル量以上、1.0倍モル量以下に制限する必要がある。0.25倍モル量以下ではR(OH)
3相のみが生成し、RVO
4の生成は起こらない。また1.0倍モル量より多いと、RVO
4以外にRVO
4の水和物と思われる不純物相が混在してくる。
【0026】
ソルボサーマル処理工程あるいは加熱処理工程は、RV(OH)
8複合水酸化物からRVO
4への脱水を促進する効果があると考えられる。なお、上記加熱処理工程は代表的には還流により行われるが、これに限定されるものではない。例えばLa
2O
3の以下の水酸化反応は、自由エネルギー変化が−60kJ/mol以上のため、水酸化物が非常に安定であり、RVO
4の水和物の生成を抑制するためには、水添加の量を制限(1.0倍モル量以下)する必要がある。しかしながら、湿式混合粉砕工程で未反応La
2O
3が残存しない程度以上(0.25倍モル量以上)には水を添加する必要がある。
La
2O
3 + 3H
2O → 2La(OH)
3
【0027】
また、アルコール類を混合した水系溶媒(アルコール系水系溶媒)を使用する場合には、当該水系溶媒中の水の量を、RV(OH)
8複合水酸化物を生成させるために必要な化学量論モル量(1.0倍モル量)
より多くすることにより、RVO
4を湿式混合粉砕工程とソルボサーマル処理工程により熱処理なしにLaVO
4複合酸化物単一相を得ることができる。1.0倍モル量以下では、R(OH)
3相のみが生成し、RVO
4の生成は起こらない。
【0028】
アルコール系水系溶媒を使用する場合には、湿式混合粉砕工程でV
2O
5とアルコール系溶媒との間で以下のような反応が進行し、バナジウムオキシアルコキシドが生成すると考えられる(J. Phys. Chem., 64, 1756 (1960))。
【0029】
【化1】
このバナジウムオキシアルコキシドを、湿式混合粉砕工程で生成するR(OH)
3と共に加水分解して、熱処理なしにRVO
4複合酸化物単一相を得るためには、ソルボサーマル処理工程での加水分解を促進のために上記1.0倍モル量
より多い水が必要であると考えている。
【0030】
一方、湿式混合粉砕工程とソルボサーマル処理工程および低温の加熱処理工程により、RVO
3複合酸化物の結晶化物を得るためには、実質的に水を含まない(水の量を0にした)水と相溶性のある有機溶媒中で湿式混合粉砕処理を行う必要がある。実質的に水を含まない(水の量を0にする)とは、原料として酸化物を使用し、水酸化物あるいは酸化水酸化物あるいは結晶水含有物あるいは水和物などを使用しないこと、および有機溶媒にあえて水を加えないことを言い、使用する酸化物原料が僅かに吸湿した水分、有機溶媒中に僅かに吸湿した水分は含まれていてもよいことを言う。また、水と相溶性のある有機溶媒に、次に述べるような湿式混合粉砕処理の過程で副生する水が事後的に加わることも排除されない。
【0031】
原料として用いる物質に結晶水などの水が含まれている場合には、その水の量も勘案して、最初に水系溶媒に添加しておく水の量を調整する(所定の量から上記結晶水などの量を差し引いた量の水を最初に添加しておく)ことが必要である。一方、湿式混合粉砕処理の過程で原料と有機溶媒の反応[たとえば、原料として五酸化バナジウム(V
2O
5)を、有機溶媒としてアセトンあるいは2−プロパノールなどを用いた場合]によって副生する水の量については、上記のような勘案はしないものとする。
【0032】
また、混合粉砕機は、原料に機械的に粉砕、摩砕の力が働くものであればよく、たとえば、粉砕容器内に原料と粉砕媒体(ロッド、シリンダー、ボール、ビーズ等)とを入れて撹拌することにより原料を粉砕する、転動ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル、遊星ボールミル等のボールミルが好適である。このようなボールミルを連続型にした粉砕機(たとえば、三井鉱山(株)製「SCミル」、(株)シンマルエンタープライゼス製「ダイノーミル」)や、直径1mm以下の非常に小さいボール(ビーズ)を使用できるボールミルなども推奨される。
【0033】
代表的な粉砕媒体であるボール(ビーズ)としては、直径0.1〜10mm程度の、ZrO
2(ジルコニア)、Si
3N
4(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、WC(タングステンカーバイド)、ステンレスなどの素材からなるものを用いることができ、たとえば、東ソー(株)製のジルコニアボール「YTZ」(登録商標)が好適である。
【0034】
湿式混合粉砕の処理条件は混合粉砕機の種類に応じて適切に調整すればよい。たとえば、遊星ボールミルを使用する場合には、容器容積100mL当たり、粉砕媒体であるボール(ビーズ)の充填量を15〜60mL、水系溶媒および原料の合計の充填量を10〜30mLとし、かつ水系溶媒と原料の混合物中の原料の濃度を2〜30体積%とすることが好ましい。また、遊星ボールミルの公転回転数は通常1〜10Hz、好ましくは4〜6Hzであり、混合粉砕の処理時間は1〜10時間が好ましい。
【0035】
ソルボサーマル処理あるいは加熱(還流)処理工程
本発明の複合酸化物の製造方法は、前述のような複合酸化物の前駆体である複合水酸化物または複合酸化水酸化物を調製する工程により得られた水系溶媒スラリー(RVO
4の場合)あるいは実質的に水を含まない水と相溶性のある有機溶媒中での湿式混合粉砕処理により得られたスラリー(RVO
3の場合)を、ソルボサーマル処理する工程あるいは加熱(還流)処理工程を含むものである。
【0036】
ソルボサーマル処理の溶媒としては、前記混合粉砕処理に使用される水系溶媒の条件をそのまま適用することができる。処理温度は、水系溶媒の大気圧での沸点以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下に保持し、反応させることが好適である。反応温度が低すぎると結晶性生成物を得ることができなくなることがある。一方反応温度が高すぎることは、ソルボサーマル処理容器が高価になり工業的でない。通常処理圧力は、処理温度における水系溶媒の蒸気圧である。適宜目的とする化合物の組成に適した温度条件と圧力条件を選択することが望ましい。処理時間は通常4時間から48時間であり、好ましくは8時間から24時間である。
【0037】
ソルボサーマル処理に供する反応容器であるが、バッチ式の混合粉砕機を使用した場合には、粉砕容器を密閉してそのまま使用し、加熱することも可能である。連続式の混合粉砕機を使用した場合には、スラリーをオートクレーブに移し、ソルボサーマル処理を行なうことができる。前記処理温度、処理圧力が得られれば特に限定されるものではない。
【0038】
ソルボサーマル処理工程の代わりに常圧での加熱(還流)処理工程を行なう場合には、加熱(還流)温度を60℃以上、200℃以下、好ましくは150℃以下にすることが望ましい。加熱(還流)温度が低すぎると結晶性生成物を得ることができなくなることや、結晶性生成物を得るのに長時間の加熱(還流)が必要となり、工業的でない。例えば混合粉砕処理し、吸引ろ過後、120℃で通風乾燥した場合には、結晶化のために4日以上の通風乾燥を行なっても、結晶性は低い。また、例えばアセトン(沸点;56℃)溶媒中、常圧での加熱(還流)処理工程を行なう場合には、16時間の加熱(還流)後に結晶化は開始するが、その結晶性は低い。このような場合には、混合粉砕処理後の水系スラリーに高沸点の有機溶媒[例えばトルエン(沸点;110℃)]を添加して、常圧での加熱(還流)処理工程を行ない、処理温度を高くすることが好ましい。一方加熱(還流)温度が高すぎることは、加熱媒体などが高価になり工業的でない。
【0039】
以上のような湿式混合粉砕処理の後、ソルボサーマル処理あるいは加熱(還流)処理した後の生成物を濾別して乾燥することにより、結晶化したRVO
4複合酸化物の単一相、あるいは、低温の加熱処理でRVO
3複合酸化物に結晶化する前駆体を回収することができる。
【0040】
濾別の方法は、一般的な加圧ろ過、吸引ろ過、遠心分離等の方法から適宜選択すればよい。また乾燥の方法も通常の通風乾燥、真空乾燥等のいずれの方法であってもよい。本発明の湿式混合粉砕処理では水系溶媒中で水以外の副生物(塩類等)が生成しないため、湿式混合粉砕処理後、ソルボサーマル処理あるいは加熱(還流)処理をした後のスラリーを蒸発乾固、スプレードライ等により乾燥することも可能である。乾燥温度は特に限定されないが50〜200℃が好ましい。
【0041】
熱処理
湿式混合粉砕処理後にソルボサーマル処理あるいは加熱(還流)処理することにより調製された結晶化したRVO
4複合酸化物は熱処理しなくても結晶性が高く、熱処理を省略することができるが、大気中で熱処理することにより、結晶性の更なる向上あるいは結晶相の転移をさせることが可能である。熱処理を必要とするかどうかは、適宜所望により決めればよい。
【0042】
低温の加熱処理でRVO
3複合酸化物に結晶化する前駆体については、H
2あるいはCOなどの還元性雰囲気での熱処理を必要とする。大気中あるいはアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気の熱処理では、RVO
3ではなく、RVO
4への結晶化が起こるためである。
【0043】
上記のように熱処理の条件(温度、雰囲気、時間等)は、目的とするバナデート系複合酸化物の態様(複合酸化物の組成、結晶化率、比表面積等)に応じて適宜調整する必要がある。熱処理の温度は、好ましくは200〜1000℃である。なお、バナデート系複合酸化物の結晶性はX線回折図形(所定のピークの有無)により確認することができる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]LaVO
4ソルボサーマル処理
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット,容積420mL)に、原料粉末La
2O
310.3gとV
2O
55.7g,2mmφYTZ
(R)ボール(東ソー(株))168mL,アセトン67mL,水2.3mL(化学量論モル量の0.5倍モル量に相当)あるいは4.5mL(化学量論モル量の1.0倍モル量に相当)(比較例1;水0mLあるいは6.8mL(化学量論モル量の1.5倍モル量に相当))を充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。混合粉砕容器を密閉して、120℃で16時間のソルボサーマル処理を行なった。(この時の密閉容器内の圧力は、水系溶媒の加熱による自己発生圧力である。)ソルボサーマル処理物を吸引ろ過後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、単斜晶系に結晶化したLaVO
4単一相を得た。(比較例1;少量のLaVO
4水和物が混在した、単斜晶系に結晶化したLaVO
4を得た。)比表面積は、水2.3mL添加の時27m
2/g、水4.5mL添加の時54m
2/gであった。(比較例1;水0mLの時18m
2/g、6.8mLの時52m
2/gであった。)真空乾燥後のX線回折図形を比較例1と比較して
図1に示す。[水0mL添加時のX線回折図形にLa(OH)
3相が見られるのは、酸化物原料や有機溶媒中にわずかに含まれた水分およびV
2O
5とアセトンが一部反応(CH
3COCH
3+4V
2O
5→3CO
2+3H
2O+4V
2O
3)して生成した水がLa
2O
3を水酸化するためと考えている。]また水4.5mL添加の時の大気中各温度で1時間の熱処理をしたときのX線回折図形の加熱変化を
図2に示す。いずれの加熱温度においても、単斜晶系のLaVO
4単一相であった。
【0045】
[実施例2]LaVO
4加熱(還流)処理
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット,容積420mL)に、原料粉末La
2O
310.3gとV
2O
55.7g,2mmφYTZ
(R)ボール(東ソー(株))168mL,アセトン70mL,水4.5mL(化学量論モル量の1.0倍モル量に相当)を充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。混合粉砕処理スラリーを4径丸底フラスコに移し、トルエンを225mL加えて、110℃で加熱(還流)処理を16時間行ない、吸引ろ過後、85℃で12時間の真空乾燥を行なった。単斜晶系に結晶化した単一相のLaVO
4が得られていた。真空乾燥後の比表面積は、48m
2/gであった。大気中各温度で1時間の熱処理をしたときのX線回折図形を
図3に示す。いずれの加熱温度においても、単斜晶系のLaVO
4単一相であった。
【0046】
[実施例3]LaVO
4ソルボサーマル処理
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット,容積420mL)に、原料粉末La
2O
310.3gとV
2O
55.7g,2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株))168mL,2−プロパノール67mL,水6.8mL(化学量論モル量の1.5倍モル量に相当)(比較例2;0mL、2.3mL(化学量論モル量の0.5倍モル量に相当)あるいは4.5mL(化学量論モル量の1.0倍モル量に相当))を充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。混合粉砕容器を密閉して、120℃で16時間のソルボサーマル処理を行なった。(この時の密閉容器内の圧力は、水系溶媒の加熱による自己発生圧力である。)ソルボサーマル処理物を吸引ろ過後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、単斜晶系に結晶化したLaVO
4の単一相を得た(
図4)。比表面積は71m
2/gであった。(比較例2;いずれも非晶質に近い水酸化ランタン[La(OH)
3]結晶相。水0mL添加時のX線回折図形にLa(OH)
3相が見られるのは、酸化物原料や有機溶媒中にわずかに含まれた水分およびV
2O
5と
2−プロパノールが一部反応
〔V2O5+6(CH3)2CHOH→2((CH3)2CH)3VO4+3H2O)〕して生成した水がLa
2O
3を水酸化するためと考えている。)
また大気中各温度で1時間熱処理したときのX線回折図形の加熱変化を
図5に示す。いずれも単斜晶系に結晶化したLaVO
4の単一相であり、600℃で1時間加熱したときの比表面積は47m
2/gであった。
【0047】
[実施例4]LaVO
3ソルボサーマル処理
(株)栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット,容積420mL)に原料粉末La
2O
310.3gとV
2O
55.7g,2mmφYTZ
(R)ボール(東ソー(株))168mL,アセトン74mLを充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。混合粉砕容器を密閉して、120℃で16時間のソルボサーマル処理を行なった。処理物を吸引ろ過後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、LaVO
3の複合酸化物の前駆体を得た。
【0048】
LaVO
3の複合酸化物の前駆体を1%H
2/N
2雰囲気中、800℃で1時間加熱した時のX線回折図形を
図6(比較例3として空気中とアルゴン中で800℃で1時間加熱した時のX線回折図形を示す。)に示す。LaVO
3複合酸化物の正方晶系の単一相であった。また比表面積は7.0m
2/gであった。