(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
外部磁界によって抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気センサは、広く用いられている。工作機械等では、可動部分に磁気信号が記録されたスケールを固定し、磁気センサで磁気信号を読み取ることにより移動量を検出している。
【0003】
このような磁気センサとして用いられる磁気抵抗素子の抵抗変化率は、数%程度であり、検出信号の信号レベルが非常に小さい。このため、放電加工機等の電磁波が大きく発生する環境下において、磁気センサは、正確な動作ができない。よって、例えば、特許文献1、2、3には、磁気センサの磁気抵抗素子から電磁波をシールドする技術について記載されている。
【0004】
また、磁気センサを用いた位置検出装置は、位置検出の分解能を高めるため、磁気記録信号のピッチを細かくする必要がある。よって、位置検出装置は、磁気記録媒体と磁気抵抗素子とを接近させる必要があるが、振動により磁気記録媒体と磁気センサとが接触してしまう虞がある。
【0005】
また、このような位置検出装置では、磁気記録媒体と磁気センサとの間にスペーサを挟んで組み立てを行い、組み立て後にスペーサを引き抜く際に磁気センサに損傷を与えてしまうことがある。
【0006】
また、このような位置検出装置は、工作機械の稼働中に切削粉が混入して磁気センサに損傷を与える場合もある。例えば特許文献4には、このような外的衝撃から磁気抵抗素子を保護するため、磁気検出器の最外表面に硬質皮膜が形成された位置検出装置が記載されている。
【0007】
さらに、このような位置検出装置は、切削機械の内部などの研削液が付着する過酷な環境下で用いられる場合には、高い信頼性を確保する観点から、防水性や防食性などを確保することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、工作機械などに組み込まれる位置検出装置の磁気センサは、電磁波ノイズの侵入を防止する対策、外的衝撃から磁気抵抗素子を保護する対策、研削液などが付着する環境でも信頼性を確保する対策を全て満たすことが望まれる。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、電磁波ノイズの侵入を防止し、外的衝撃から磁気抵抗素子を保護し、防水性、防食性を確保することが可能な磁気センサ、磁気センサモジュール、及び、磁気センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための手段として、本発明に係る磁気センサは、基板と、基板の表面に形成され、外部磁界に応じて感磁領域の抵抗値が変化する感磁素子を有する磁気回路部と、基板の表面に形成された磁気回路部を被覆する第1の無機膜と、第1の無機膜を被覆する第1の有機樹脂層と、感磁領域に対して外部電磁波を遮断するように、第1の有機樹脂層
を被覆する非磁性導電膜と、非磁性導電膜を被覆する第2の有機樹脂膜と、第2の有機樹脂膜の
上面に形成された第2の無機膜と
、基板の表面に、磁気回路部と電気的に接続されるように形成された端子部とを備え
、非磁性導電膜は、端子部の接地端と電気的に接続され、端子部は、その上面に、非磁性導電膜と同じ厚みの導電膜を有する。
【0012】
また、本発明に係る磁気センサモジュールは、外部磁界を検出する磁気センサと、磁気センサの検出信号を外部に出力する外部接続用基板とを備え、磁気センサは、基板と、基板の表面に形成され、外部磁界に応じて感磁領域の抵抗値が変化する感磁素子を有する磁気回路部と、基板の表面に形成された磁気回路部を被覆する第1の無機膜と、第1の無機膜を被覆する第1の有機樹脂層と、感磁領域に対して外部電磁波を遮断するように、第1の有機樹脂層
を被覆する非磁性導電膜と、非磁性導電膜を被覆する第2の有機樹脂膜と、第2の有機樹脂膜の
上面に形成された第2の無機膜と
、基板の表面に、磁気回路部と電気的に接続されるように形成された端子部とを有し、
非磁性導電膜は、端子部の接地端と電気的に接続され、端子部は、その上面に、非磁性導電膜と同じ厚みの導電膜を有し、外部接続用基板は、端子部と電気的に接続されるとともに、磁気センサとの接合部の周囲が絶縁性樹脂で封止されている。
【0013】
また、本発明に係る磁気センサの製造方法は、基板の表面に、外部磁界に応じて感磁領域の抵抗値が変化する感磁素子を有する磁気回路部
と、磁気回路部と電気的に接続される端子部とを形成する磁気回路部形成工程と、基板の表面に形成された磁気回路部を、第1の無機膜で被覆する第1の無機膜被覆工程と、第1の無機膜を第1の有機樹脂層で被覆する第1の有機膜被覆工程と、第1の有機樹脂層の表面の上記感磁領域
を、外部電磁波を遮断する非磁性導電膜で被覆する非磁性導電膜被覆工程と、非磁性導電膜を、第2の有機樹脂膜で被覆する第2の有機樹脂膜被覆工程と、第2の有機樹脂膜の
上面に、第2の無機膜を形成する第2の無機膜形成工程とを有
し、非磁性導電膜は、端子部の接地端と電気的に接続され、端子部は、その上面に、非磁性導電膜と同じ厚みの導電膜を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、感磁素子が非磁性導電膜に覆われていることによって、電磁波ノイズの侵入を防止し、外表面に形成されている第2の無機膜によって、外的衝撃から磁気抵抗素子を保護する。また、本発明は、非磁性導電膜が第1の有機樹脂膜と第2の有機樹脂膜とに覆われていることによって、非磁性導電膜の防食性を確保しつつ、第1、第2の有機樹脂膜の間に挟まれた非磁性導電膜によって、感磁素子を確実に防水することができる。したがって、本発明は、信頼性を確保しつつ、工作機械などに組み込まれる位置検出装置の磁気センサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明が適用された磁気センサが組み込まれた分離型の位置検出装置の構成について説明するための図である。
【
図2】本発明が適用された磁気センサが組み込まれた一体型の位置検出装置の構成について説明するための図である。
【
図3】本発明が適用された磁気センサモジュールの構成について説明するための図である。
【
図4】本発明が適用された磁気センサの断面構造について説明するための図である。
【
図5】磁気回路部形成工程について説明するための図である。
【
図6】磁気回路部形成工程について説明するための図である。
【
図7】第1の無機膜被覆工程について説明するための図である。
【
図8】第1の有機膜被覆工程について説明するための図である。
【
図9】非磁性導電膜被覆工程について説明するための図である。
【
図10】第2の有機樹脂膜被覆工程について説明するための図である。
【
図11】第2の無機膜形成工程について説明するための図である。
【
図12】封止工程について説明するための図である。
【
図13】比較例1に係る磁気センサモジュールの構成について説明するための図である。
【
図14】比較例2に係る磁気センサモジュールの構成について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0017】
本発明が適用された磁気センサは、工作機械、産業機械及び一般計測機械等の可動部の移動距離及び位置を検出する位置検出装置に使用されるものであって、特に、切削機械の内部などの研削液が付着する過酷な環境下で用いられるのに好適なものである。このような、磁気センサは、例えば、
図1に示すような、スケール10と読取ヘッドケース13とが分離可能な位置検出装置1に組み込まれて使用される。
【0018】
位置検出装置1は、
図1(A)に示すように、磁気目盛り10aが長手方向に記録されたスケール10と、磁気目盛り10aを検出する磁気センサを内蔵する磁気センサモジュール11が読取ヘッド12に取り付けられた読取ヘッドケース13とを備える。
【0019】
スケール10は、例えば、平板の形状をしたスケール母材(ガラス基板)表面にメタル磁性粉及び有機バインダ(ウレタン等)その他添加剤を有機溶剤で混合撹拌したものを塗布し、所定時間放置して乾燥し硬化させて磁気目盛り10aを形成し、形成した磁気目盛り10a上に長手方向に沿って所定のピッチでS極とN極が交互に並んだ磁気目盛りを記録して作成されるものである。
【0020】
このような構成からなる位置検出装置1は、磁気目盛り10a上を読取ヘッドケース13が移動することで、
図1(B)に示すように、磁気センサモジュール11内に内臓された磁気センサ21が、この相対位置の変化に応じて変化する磁気目盛り10aからの磁界の変化を検出することで、移動量の検出を行う。
【0021】
また、本発明が適用された磁気センサは、例えば、
図2に示すような、スケール110と読取ヘッドケース13とが一体となった位置検出装置1aに組み込まれて使用される。
【0022】
位置検出装置1aは、
図2(A)に示すように、読取ヘッドケース13を直線方向にガイドするガイド部110aに磁気目盛り10aが形成されたスケール110と、磁気目盛り10aを検出する磁気センサを内蔵する磁気センサモジュール11が取り付けられた読取ヘッドケース13とを備える。ここで、便宜上、位置検出装置1aについて、位置検出装置1と同様の構成については同じ符号を付して説明するものとする。
【0023】
このような構成からなる位置検出装置1aは、磁気目盛り10a上を読取ヘッドケース13が移動することで、磁気センサモジュール11内に内臓された磁気センサ21が、
図2(B)に示すように、この相対位置の変化に応じて変化する磁気目盛り10aからの磁界の変化を、
図1(B)の場合に比べて高密度に検出することで、移動量の検出を行う。
【0024】
このような位置検出装置1aは、例えば、相対的に直線移動する工作機械等の基準部と可動部とに取り付けられる。位置検出装置1aは、スケール110或いは磁気センサモジュール11のいずれか一方が、移動をしない基準部に固定され、他方が、可動部に固定される。スケール110は、可動部の移動方向に平行となるように取り付けられる。
【0025】
磁気センサモジュール11は、
図3に示すように、外部磁気を検出することによって、スケール10に記録されている磁気目盛り10aを検出する磁気センサ21と、磁気センサ21の検出信号を外部に出力する外部接続用基板22とを備える。
【0026】
磁気センサ21は、
図3に示すように、略矩形状に形成されており、外部磁界に応じて感磁領域の抵抗値が変化する感磁素子を有する磁気回路部21aが内蔵されている。磁気回路部21aは、その一端に形成されている端子部により外部接続用基板22と接続され、この外部接続用基板22を介して、スケール10から検出した信号を当該位置検出装置1の外部に出力する。
【0027】
以上のような構成からなる位置検出装置1に組み込まれる磁気センサ21には、電磁波ノイズの侵入を防止する対策、外的衝撃から磁気抵抗素子を保護する対策、研削液などが付着する環境でも信頼性を確保する対策を全て満たすことが望まれ、これらの要求を満たすため、
図4に示すような断面構造を有している。
【0028】
すなわち、磁気センサ21は、基板31と、基板31の表面に形成された磁気回路部21aと、磁気回路部21aを被覆する第1の無機膜32と、第1の無機膜32を被覆する第1の有機樹脂層33と、第1の有機樹脂層33を被覆し、外部電磁波を遮断する非磁性導電膜34と、非磁性導電膜34を被覆する第2の有機樹脂膜35と、第2の有機樹脂膜35の表面に形成された第2の無機膜36と、TiN膜37とを備えた積層構造となっている。ここで、被覆するということは、防食性、防水性を実現する観点から、外部に露出されないような状態で覆うことである。
【0029】
このような構造からなる磁気センサ21は、磁気回路部21aの感磁素子が非磁性導電膜34に覆われていることによって、電磁波ノイズの侵入を防止し、外表面に形成されている第2の無機膜36によって、外的衝撃から磁気回路部21aを保護する。また、磁気センサ21は、非磁性導電膜34が第1の有機樹脂膜33と第2の有機樹脂膜35とに覆われていることによって、非磁性導電膜34の防食性を確保しつつ、第1の有機樹脂膜33と第2の有機樹脂膜35との間に挟まれた非磁性導電膜34によって、感磁素子を確実に防水することができる。
【0030】
このため、磁気センサ21は、信頼性を確保しつつ、工作機械などに組み込まれる位置検出装置の磁気センサとして用いることができる。特に、磁気センサ21は、上述したように、切削機械の内部などの研削液が付着する過酷な環境下で用いられるのに好適である。
【0031】
このような構造からなる磁気センサ21を有する磁気センサモジュールは、具体的に次のような製造工程により製造される。
【0032】
まず、磁気回路部形成工程について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5(A)に示すように、ガラス、シリコン、セラミックス等の絶縁性を有する基板31上に、電極膜41として、例えばAlを厚さが1μmとなるようにスパッタリング処理で成膜して、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成を行う。この処理により、
図5(B)に示すように、磁気回路部21aのうち感磁素子を含まない導線パターンと、磁気回路部21aと電気的に接続される端子部21bとが、同一基板31上に形成される。
【0033】
続いて、
図6(A)に示すように、磁性膜42として、例えばNi−Feを厚さが40nmとなるようにスパッタリング処理で成膜して、フォトリソグラフィ技術によりパターン成形を行う。この処理により、磁性膜42が電極膜41の表面に積層されるとともに、
図6(B)に示すように、基板31上の感磁領域31aに感磁素子21cが形成される。
【0034】
なお、磁気回路部形成工程では、Alなどの電極膜41を用いなくても、磁性膜42のみを基板31上に直接パターン成形することにより、磁気回路部21aと端子部21bとを形成することが可能であるが、基板31との接着性をより高い状態で維持する観点から、特に電極膜41を用いることが好ましい。
【0035】
次に、第1の無機膜被覆工程について、
図7を参照して説明する。
図7(A)に示すように、基板31上に形成された磁気回路部21aを、第1の無機膜32で被覆する。具体的に、第1の無機膜32として、SiO
2を厚さが200nmとなるようにスパッタリング処理で成膜して、フォトリソグラフィ技術によりパターン成形を行う。この処理により、
図7(B)に示すように、基板31上のうち、端子部21b以外の領域を第1の無機膜32で被覆する。なお、第1の無機膜32として、Al
2O
3、Si
3N
4を用いるようにしてもよい。
【0036】
次に、第1の有機膜被覆工程について
図8を参照して説明する。
図8(A)及び
図8(B)に示すように、基板31上のうち、端子部21b以外の領域を、第1の有機樹脂層33で被覆する。具体的に、第1の有機樹脂層33として、感光性ポリイミド樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成を行い、熱処理によって硬化させる。例えば、感光性ポリイミド樹脂は、熱処理後に、1μmのAlの電極膜の凹凸が露出することなく確実に被覆可能で、かつ、被覆面が平坦化になる膜厚として、この膜厚が3μmとなるように塗布を行う。この第1の有機樹脂層33は、磁気回路部21aと非磁性導電膜34とを絶縁するとともに、磁気回路部21aを防水し、かつ、外部から加えられる衝撃から保護する。
【0037】
次に、非磁性導電膜被覆工程について
図9を参照して説明する。
図9(A)に示すように、第1の有機樹脂層33を、非磁性導電膜34で被覆する。具体的に、下地341としてCrを厚さが40nmとなるようにスパッタリング処理で成膜し、続いて非磁性導電膜34としてCuを厚さが3.6μmとなるようにスパッタリング処理で成膜して、フォトリソグラフィ技術によりパターン成形を行う。この処理により、
図9(B)に示すように、磁気回路部21aを覆って外部電磁波を遮断するため第1の有機樹脂層33に積層されたシールド部34aと、シールド部34aと同一の厚さで端子部21bに積層されるCu端子34bとがそれぞれ形成される。ここで、
図9(B)に示すように、シールド部34aは、端子部21bのうち、接地端として機能する端子に積層されたCu端子34bと電気的に接続された構造となっている。これによって、シールド部34aは、外部からの電磁波ノイズを受けても帯電することなく、磁気回路部21aの導電層に対して電位を0とすることができるので、外部からの電磁波ノイズの影響を低減させることができる。また、シールド部34aは、Cuであるため、磁気回路部21aが浸水するのを防止することができる。
【0038】
なお、非磁性導電膜34の膜厚の一例として3.6μmを挙げたが、膜厚を厚くすれば、防水性を高め、電磁波ノイズの遮断性も高めることができる。これに対して、膜厚を厚くすると、感磁素子21cとスケール10との距離が相対的に離れるため、検出感度が低下する。よって、電磁波ノイズ遮断性、防水性、高い検出感度を全て実現する観点から、許容される厚みの範囲内、具体的には2μm〜8μmで、非磁性導電膜34を適宜調整することが好ましい。
【0039】
次に、第2の有機樹脂膜被覆工程について
図10を参照して説明する。
図10(A)及び
図10(B)に示すように、非磁性導電膜34の上面342及び側面343が露出しないようにして、第2の有機樹脂膜35で被覆する。具体的に、第2の有機樹脂膜35として、基板31上のうち、端子部21b以外の領域に、感光性ポリイミド樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成を行い、熱処理によって硬化させる。例えば、感光性ポリイミド樹脂は、熱処理後に膜厚が5μmとなるように塗布を行う。この第2の有機樹脂層35は、シールド部34aを外的衝撃から保護し、第2の有機樹脂層35に積層される第2の無機膜36に加わる応力を緩和させる。また、第2の有機樹脂層35は、シールド部34aを含む非磁性導電膜34全体が腐食するのを防ぎ、さらに、磁気回路部21aが浸水することを確実に防ぐことができる。たとえば、感光性ポリイミド樹脂は、その吸水率が0.6%程度であり、上記の通り防食性、防水性の機能を十分に発揮することができる。
【0040】
なお、第2の有機樹脂層33は、上記の通り感光性ポリイミド樹脂であって、第1の有機樹脂層33と同一の部材を用いたが、これに限定されず、互いに異なる有機樹脂を用いるようにしてもよい。
【0041】
次に、第2の無機膜形成工程について
図11を参照して説明する。
図11(A)及び
図11(B)に示すように、第2の有機樹脂膜35の表面に、第2の無機膜36を形成する。具体的に、第2の無機膜36として、SiO
2を厚さが2μmとなるようにスパッタリング処理で成膜し、続いて厚さが40nmのCrの下地371を介して、TiN膜37を厚さが400nmとなるようにスパッタリング処理で成膜し、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成を行う。ここで、TiN膜37は、硬質膜であり、膜厚が厚くなると、応力が非常に大きくなる傾向にある。また、TiN膜37のような硬質膜は、膜厚が厚くなると、クラックが入り、ひび割れ易くなる傾向にある。このため、TiN膜37の膜厚を500nm以上とすることが難しいので、本工程では、比較的に硬度が高く、なおかつ応力が相対的に小さいSiO
2、Al
2O
3、Si
3N
4等からなる第2の無機膜36を上述のように厚さが2μmとなるように成膜し、密着性を向上させるCrの下地371を介して、TiN膜37を厚さが400nm程度となるように成膜することで、必要な硬度を確保しつつ、応力を減少させて、ひび割れを防止することができる。なお、第2の無機膜36として、Al
2O
3、Si
3N
4を用いるようにしてもよい。
【0042】
次に、封止工程について
図12を参照して説明する。
図12(A)及び
図12(B)に示すように、外部接続用基板22を、Cu端子34bを介して端子部21bと電気的に接続させて、磁気センサ21との接合部22aの周囲をエポキシ樹脂などの絶縁性樹脂22bで封止する。
【0043】
以上の工程によって、本発明が適用された磁気センサ21と、外部接続用基板22とが接合された磁気センサモジュール11が製造される。
【0044】
次に、上記の製造工程により製造された磁気センサモジュール11の性能について、評価する。
【0045】
まず、本発明が適用された磁気センサ21は、最外表面において、SiO
2からなる第2の無機膜36と、Crの下地371と、TiN膜37とからなる硬質の膜が積層されているので、組み立て次のスペーサーの引き抜きや、スケール10上の磁気記録媒体と間で接触が起きても、キズが付かなく、外部衝撃から十分に保護できていることが確認できた。
【0046】
また、研削液などが付着する環境でも信頼性を確保する点について、
図13に示すような比較例1に係る磁気センサモジュール111と比較して評価した。
【0047】
比較例1に係る磁気センサモジュール111は、磁気センサモジュール11に対して、シールド部34aとして機能する非磁性導電膜34がない磁気センサ121を備えるものであり、その他の構造が同様であるため、便宜上、磁気センサモジュール11と同様の符号を付している。
【0048】
磁気センサ21、121を、東邦化学工業(株)製の切削液MF−2000を10倍に希釈した溶液に浸漬させ、端子部21bから5Vの直流電圧を磁気回路部21aに印加し、60℃の環境下で経時変化を評価した。
【0049】
この結果、シールド部34aとして機能する非磁性導電膜34がない磁気センサ121は、500時間相当で、切削液によりAlからなる電極膜41が浸食して、磁気回路部21aに断線が発生したが、本発明が適用された磁気センサ21は、1000時間相当においても磁気回路部21aに断線が発生せず異常がないことが確認できた。
【0050】
また、本発明が適用された磁気センサ21は、磁気回路部21aがシールド部34aで覆われているので、上記の比較例1に係る磁気センサ121と比べて、必要十分な電磁波シールド特性を得られることが確認できた。
【0051】
次に、本発明が適用された磁気センサ21の検出感度について、
図14に示すような比較例2に係る磁気センサモジュール211と比較して評価した。
【0052】
比較例2に係る磁気センサモジュール211は、磁気センサモジュール11に対して、第2の有機樹脂膜35がない磁気センサ221を備えるものであり、その他の構造が同様であるため、便宜上、磁気センサモジュール11と同様の符号を付している。
【0053】
第2の有機樹脂膜35がない磁気センサ221については、温度が120℃、湿度が85%RH、圧力が1.7atm、試験時間を100時間とした試験を行い、信頼性を評価した。
【0054】
この試験の結果、第2の有機樹脂膜35がない磁気センサ221では、非磁性導電膜34が腐食してしまい、電磁波ノイズの防止性能が低下する。
【0055】
第2の有機樹脂膜35がない磁気センサ221では、本発明が適用された磁気センサ21と比べて、感磁素子21cとスケール10との距離が近いため、高い検出感度が期待されるが、シールド部34aが腐食してしまうという問題がある。
【0056】
これに対して、本発明が適用された磁気センサ21は、第2の有機樹脂膜35がない磁気センサ221に比べて、感磁素子21cとスケール10との距離が相対的に離れているが、十分な検出感度を実現できることが確認できた。
【0057】
上記の比較例2との比較結果から、本発明が適用された磁気センサ21において、第2の有機樹脂膜35の膜厚は、非磁性導電膜34の腐食を確実に防止する観点では厚い方が好ましい一方、高い検出感度を実現する観点では薄い方が好ましい。
【0058】
これら2つの観点から、本発明が適用された磁気センサ21は、第2の有機樹脂膜35の膜厚を、3μm〜8μmの範囲とすることで腐食を確実に防止しつつ、高い検出感度を実現することができる点で特に好ましい。