(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738026
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】熱感知器
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20150528BHJP
【FI】
G08B17/06 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-62316(P2011-62316)
(22)【出願日】2011年3月22日
(65)【公開番号】特開2012-198757(P2012-198757A)
(43)【公開日】2012年10月18日
【審査請求日】2013年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】冨田 寿幸
【審査官】
伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−238184(JP,A)
【文献】
特開2002−016369(JP,A)
【文献】
特開2004−046384(JP,A)
【文献】
実開昭64−046892(JP,U)
【文献】
特開2006−296581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度検出素子が立設された回路基板と、該回路基板を収容する開口部を有し枠部と底部に穴がない有底枠体状の回路基板収容ケースと、前記回路基板に立設された温度検出素子が挿通可能な貫通孔と前記回路基板収容ケースを固定するためのケース固定手段を有する感知器本体とを備え、前記開口部から前記温度検出素子が突出するように前記回路基板を前記底部に収容してフックで固定し、充填当初は粘性が低い充填物を充填した前記回路基板収容ケースを、充填物の粘度が高くなった後に前記貫通孔に前記温度検出素子を挿通させて、前記感知器本体に前記ケース固定手段で固定してなることを特徴とする熱感知器。
【請求項2】
前記回路基板は表示灯を有し、前記感知器本体は前記表示灯を突出させるか又は前記表示灯の光を感知器本体の外部から視認可能にするための表示孔を備えたことを特徴とする請求項1記載の熱感知器。
【請求項3】
前記回路基板は該回路基板に接続されたリード線が前記開口部側から引き出されるように前記回路基板収容ケースに設置されてなり、前記回路基板収容ケースは前記開口部が下向き又は横向きになるように前記感知器本体に固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の熱感知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ等の温度検出素子により火災を検出する熱感知器に関し、特に防水型の熱感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱感知器は、円形の有底枠体からなる本体の内部に回路基板を設置し、検知部として例えば温度を検知するサーミスタを本体の底部から外方に突出させている。そして、サーミスタを保護するためのプロテクタなどがサーミスタを囲うように設置されている。
熱感知器は湿度の高い場所に設置される場合がある。このような場合、回路基板が湿度の影響を受けないようにする必要があり、そのための防水構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「外部に引き出されるリード線が接続された回路基板を配設した回路収納部に充填物としてウレタン樹脂を充填し、更にウレタン樹脂の上面全面に防水性または耐酸・耐アルカリ性の樹脂をコーティングしたことを特徴とする火災感知器。」(特許文献1の請求項1参照)が提案されている。
特許文献1に記載された火災感知器における防水構造を以下詳細に説明する。
感知器本体は、その底部が区画されて回路収納部が形成され、この回路収納部に回路基板が配設され、回路基板にはサーミスタが下向きに接続されている。サーミスタは感知器本体の底部に設けられた貫通孔に挿通されて、感知器本体から突出している。突出したサーミスタを保護するために、感知器本体の底部の外面にはサーミスタを囲うようにプロテクタ(外カバー)が設置されている。
回路基板にはサーミスタによる検出温度が所定温度を超えたときに火災検出信号を送出する感知器回路が実装されている。この信号を送出するために、回路収納部に配置した回路基板から天井面側となる外部にリード線が引き出されている。
上記のように、外部に引き出されるリード線およびサーミスタを接続した回路基板が配設された回路収納部には、防水のために充填物としてウレタン樹脂を充填している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−325674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された防水型の熱感知器(火災感知器)においては、上述のように、本体部の底部の内面側に回路基板を設置する区画を形成し、その区画に回路基板を設置して、その後でその区画内に充填物を充填して回路基板を充填物で覆うことで防水構造を実現している。
このような防水構造を実現するための工程は、回路基板を設置した後で充填物を区画に充填することになる。この場合、充填物は充填時においては、粘性が小さいために、サーミスタが挿通された貫通孔とサーミスタとの隙間から充填物が漏れる。そのため、サーミスタを挿通した後で、例えば、接着材を隙間に充填して乾燥させて前記隙間を埋めるといった処置が必要となる。
しかしながら、そのような処置をするには手間と時間を要し、製造工程の流れを阻害することになる。
【0006】
また、熱感知器が多湿な環境に設置されると、感知器本体内に水が溜まることがあるため、溜まった水を抜くために水抜き穴を設けるのが一般的である。
この点、従来の構造では、回路基板を設置する区画の外側(周囲)に水抜き穴を設けなければならないが、その場合、本体部の底部の中央には回路基板が設置される区画が存在するため、水抜き穴は当該区画を挟むように当該区画の両側に設けなければならない。
【0007】
また、サーミスタを保護するためのプロテクタは通常は着脱可能に設置されるため、本体部の底部の外面にプロテクタを設置するための係合部を設ける必要がある。その場合、係合部が貫通孔となると充填物の充填時に充填物が漏れるので、係合部を充填物が漏れないような特殊な形状にする必要がある。そのため、本体部を成型するための金型が複雑になり、本体部成型も手間がかかりコストアップとなる。
【0008】
また、リード線が感知器本体の開口側、すなわち通常は天井面側に向かって充填物の表面から引き出されるため、このリード線を伝わって水滴が充填物の内部に侵入する可能性がある。特に、リード線は感知器の取り付け時において、捩じったり、引っ張ったりされるので、充填物との間に隙間や亀裂が生じやすくなり、水滴が充填物の中まで浸入する危険がある。
また、充填物を充填した後の表面には、型名や製造日等が表示された銘板シールを貼り付けるのが一般である。これは、充填物の表面には加工ができないので、シールを貼りつけるしか方法がないためである。しかし、シールを貼りつける工数が必要となり、作業工数が増えるという問題がある。
【0009】
以上のように、従来の火災感知器には種々の問題が残されていた。本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る熱感知器は、温度検出素子が立設された回路基板と、該回路基板を収容する開口部を有し枠部と底部に穴のない有底枠体状の回路基板収容ケースと、前記回路基板に立設された温度検出素子が挿通可能な貫通孔と前記回路基板収容ケースを固定するためのケース固定手段を有する感知器本体とを備え、前記開口部から前記温度検出素子が突出するように前記回路基板を
前記底部に収容して
フックで固定し、充填当初は粘性が低い充填物を充填した前記回路基板収容ケースを、充填物の粘度が高くなった後に前記貫通孔に前記温度検出素子を挿通させて、前記感知器本体に前記ケース固定手段で固定してなることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記回路基板は表示灯を有し、前記感知器本体は前記表示灯を突出させるか又は前記表示灯の光を感知器本体の外部から視認可能
にするための表示孔を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記回路基板は該回路基板に接続されたリード線が前記開口部側から引き出されるように前記回路基板収容ケースに設置されてなり、前記回路基板収容ケースは前記開口部が下向き又は横向きになるように前記感知器本体に固定されていることを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記回路基板収容ケースにおける底部の外面側に、少なくとも機器名が刻印されていることを特徴とするものである。なお、機器名の他にロット番号、製造番号等を刻印してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、回路基板を収容する回路基板収容ケースを感知器本体とは別体にして、回路基板の防水のための充填物を予め回路基板収容ケースに充填できるようにしたので、熱感知器の組み立て工程において、感知器本体の例えば温度検出素子を挿入する貫通孔などを接着材などで塞ぐ必要がなく、接着材が硬化するための時間を待つ必要がなく、熱感知器の組み立てを円滑にすることができ生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る熱感知器の分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る回路基板収容ケースと回路基板を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る回路基板収容ケースに回路基板を収容した状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る回路基板収容ケースに回路基板を収容して充填物を充填した状態を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る回路基板収容ケースを感知器本体に設置するときの配置関係を説明する説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る感知器本体の内部を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る熱感知器1は、温度検出素子9が立設された回路基板3と、回路基板3を収容する開口部5を有する有底枠体状の回路基板収容ケース7と、回路基板3に立設された温度検出素子9が挿通可能な貫通孔11と回路基板収容ケース7を固定するためのケース固定手段としての係止片27(
図5、
図6参照)を有する感知器本体13とを備え、開口部5から温度検出素子9が突出するように回路基板3を収容した状態において充填物15で充填された前記回路基板収容ケース7を、貫通孔11に温度検出素子9を挿通させて、感知器本体13にケース固定手段(係止片27)で固定してなるものである。
以下、各部をより詳細に説明する。
【0017】
<回路基板>
回路基板3は、略矩形状に形成された基板本体17と、基板本体17に立設された温度検出素子9と、基板本体17における温度検出素子9が立設された面と同じ面に設置された表示灯19と、基板本体17に接続されたリード線21とを備えている(
図1〜
図3参照)。
ここで表示灯19は砲弾型レンズのLEDであっても良いし、基板3の表面に実装された表面実装のLEDとその光を誘導するライトガイドとの組合せでも良いし、その他のものとすることもできる。
【0018】
<回路基板収容ケース>
回路基板収容ケース7は、略矩形の有底枠体状をしており、一つの面が開口部5となっている(
図1〜
図3参照)。回路基板収容ケース7の内側側面の底部近くにはフック23が設けられており、基板本体17を収容した際に基板本体17の周縁部に係止して回路基板3を固定する。
また、回路基板収容ケース7の開口側の周壁部には係止部25が設けられており、この係止部25が感知器本体13に設けられた係止片27に係止することによって、回路基板収容ケース7が感知器本体13に固定される。
また、回路基板収容ケース7における開口側の周端部における一辺には回路基板3に接続されたリード線21が挿入される溝部29が複数設けられている。
また、回路基板収容ケース7における底部の外面側(
図5参照)、機器名、ロット番号、製造番号等が刻印されている。但し、刻印は図示していない。
【0019】
<感知器本体>
感知器本体13は、円形の有底枠体状をしており、中央部には回路基板3に立設された温度検出素子9が挿通可能な貫通孔11が設けられている。貫通孔11は感知器本体13の内部に溜まる水を抜くための水抜き穴としても機能する。
また、感知器本体13の内面側には、回路基板収容ケース7に設けられた係止部25が係止する係止片27が立設されている。この係止片27が本発明の固定手段に相当する。
【0020】
また、感知器本体13の外面側には、温度検出素子9を外的衝撃から保護するためのプロテクタ33が取り付けられている。プロテクタ33は、その周縁部に設けられた係止爪35が感知器本体13に形成された係止穴37に係止することで、感知器本体13に取り付けられる。このように本実施の形態では、プロテクタ33を取り付けるための取付構造として、感知器本体13側には単なる開口からなる係止穴37を設けることで対応できる。これは、回路基板3を収容する回路基板収容ケース7を感知器本体13とは別体にしたので、回路基板3の防水のための充填物15を感知器本体13側に充填する必要がないことによる。従来例のように感知器本体13側に充填物15を充填する場合には、充填時において充填物15が漏れないようなプロテクタ33の係止爪35が係合する袋状の凹部を設ける等の複雑な構造にしなければならないことに比較して、単純な構造にできるので感知器本体13を成型するための金型が複雑にならず、また感知器本体13の成型が容易であるためコストの低減につながる。
また、係止穴37は感知器本体13内に溜まる水を抜くための水抜き穴としても機能するので、別途水抜き穴を設ける必要がなくなる。
【0021】
また、感知器本体13の下面側には、表示灯を外部から視認するための表示孔39が設けられている。このような表示孔39を設けた場合、従来例であれば、充填物の充填時に充填物が漏れないようにするため、表示孔39を塞ぐための透光性カバーである窓部材が必要になるが、本実施の形態ではそのようなものが不要である。
また、感知器本体13には、熱感知器1を天井や壁に取り付けるためのネジが挿通可能な取付穴40が設けられている。
【0022】
上記のように構成された本実施の形態の熱感知器1の組み立て方法を説明する。
図2に示すように、回路基板3を温度検出素子9が回路基板収容ケース7の開口部5から突出するように配置して、
図3に示すように、回路基板3を回路基板収容ケース7の底部にフック23で固定する。そして、回路基板3に接続されたリード線21を回路基板収容ケース7の開口部5から引き出し、回路基板収容ケース7に形成された溝部29に挿入する(
図3参照)。
この状態で、回路基板収容ケース7内に回路基板3の防水のための充填物15を充填する(
図4参照)。充填物15を充填した状態では、
図4に示すように、温度検出素子9の端部と表示灯19の端部が充填物15から突出している。
充填物15は、充填当初は粘度が低く時間とともに粘度が高くなるポリウレタン等である。
【0023】
次に、充填物15の粘度が高くなった後に、回路基板3が設置されると共に充填物15が充填された回路基板収容ケース7を、その開口側が感知器本体13の底面に対向するように配置し、温度検出素子9を感知器本体13の貫通孔11に挿通し、回路基板収容ケース7の係止部25を感知器本体13に設けられた係止片27に係止させることで回路基板収容ケース7を感知器本体13に固定する(
図5参照)。なお、
図5においては、係止部25が係止片27に係止する前の状態、つまり回路基板収容ケース7が感知器本体13に対して固定状態よりも少し浮いた状態を示している。
【0024】
上記のように組み立てられた熱感知器1は、温度検出素子9が下向きまたは横向きになるように天井面又は壁面に設置される。この設置状態では、回路基板収容ケース7の開口部5が下向き又は横向きになり、それ故にリード線21が開口部5に充填された充填物15の開口部5側である上面に対して反対方向又は横方向に向かって引き出されることになる。そのため、リード線21を伝わる水滴が充填物15の上面に到達し難くなっている。これにより、熱感知器1の設置時においてリード線21を引っ張ったり、折り曲げたりして仮に充填物15とリード線21との間に亀裂や隙間が生じてもリード線21を伝わる水滴が充填物15の内部に浸入することはなく、防水状態が維持される。
【0025】
上記のように構成された本実施の形態の熱感知器1は、上述の構成の説明において示した効果に加えて以下のような種々の効果を奏する。
本実施の形態においては、回路基板3を収容する回路基板収容ケース7を感知器本体13とは別体にして、回路基板3の防水のための充填物15を予め回路基板収容ケース7に充填するようにしたので、熱感知器の組み立て工程において、感知器本体13の例えば温度検出素子9を挿入する貫通孔11などを接着材などで塞ぐ必要がなく、接着材が硬化するための時間を待つ必要がない。そのため、熱感知器1の組み立てを円滑にすることができる。
【0026】
また、本実施の形態においては、充填物15を感知器本体13側に充填しないので、温度検出素子9を貫通孔11に挿通した際に温度検出素子9と貫通孔11との間に隙間が生じてもよく、逆にこの隙間が水抜き穴として機能するので、別途水抜き穴を設ける必要もなくなる。
また、本実施の形態においては、回路基板収容ケース7の底部の外面側に機器名、ロット番号、製造番号等を刻印することができるので、従来のように充填物15の表面に機器名、ロット番号、製造番号等を記載したシールを貼るような作業が不要となる。
【符号の説明】
【0027】
1 熱感知器
3 回路基板
5 開口部
7 回路基板収容ケース
9 温度検出素子
11 貫通孔
13 感知器本体
15 充填物
17 基板本体
19 表示灯
21 リード線
23 フック
25 係止部
27 係止片
29 溝部
33 プロテクタ
35 係止爪
37 係止穴