(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の取付部材と筒状部を有する第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んだ両側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室の各一方が形成されて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通する第1のオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、
前記第1の取付部材が前記第2の取付部材の前記筒状部に対して軸方向一方の開口側に配設されていると共に、前記本体ゴム弾性体には軸方向他方の端面に開口する複数のポケット部が形成されており、それらポケット部の開口部が前記仕切部材によって覆蓋されて複数の前記受圧室が形成されていると共に、それら複数の受圧室を隔てる該本体ゴム弾性体の弾性隔壁部には軸方向他方の端面に開口する分割凹所が形成されており、該分割凹所の開口部が該仕切部材で覆蓋されることによって非圧縮性流体が封入された分割液室が形成されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
前記受圧室に対する過大な負圧の作用時に前記弾性隔壁部の軸方向他方の端面が前記仕切部材から離隔して前記複数の受圧室と前記分割液室を短絡させるリリーフ手段が設けられている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、複数の受圧室を隔てる本体ゴム弾性体の弾性隔壁部の耐久性が確保されると共に、流体流動量の増加による防振性能の向上が図られ得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と筒状部を有する第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第2の取付部材によって支持された仕切部材を挟んだ両側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室の各一方が形成されて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通する第1のオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、前記第1の取付部材が前記第2の取付部材の前記筒状部に対して軸方向一方の開口側に配設されていると共に、前記本体ゴム弾性体には軸方向他方の端面に開口する複数のポケット部が形成されており、それらポケット部の開口部が前記仕切部材によって覆蓋されて複数の前記受圧室が形成されていると共に、それら複数の受圧室を隔てる該本体ゴム弾性体の弾性隔壁部には軸方向他方の端面に開口する分割凹所が形成されており、該分割凹所の開口部が該仕切部材で覆蓋されることによって非圧縮性流体が封入された分割液室が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このような第1の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、弾性隔壁部に設けられた分割凹所によって分割液室が形成されていることによって、弾性隔壁部の軸方向他方の端部が薄肉化されており、振動入力時に容易に弾性変形するようになっている。これにより、受圧室の圧力変動が効率的に確保されて、流体の流動作用に基づいた防振効果が、有利に発揮されるようになっている。
【0009】
さらに、弾性隔壁部が分割液室によって分割されることで、断面二次モーメントが小さくなることから、軸直角方向の振動入力時に弾性隔壁部の弾性変形(撓み)が生じ易くなって、受圧室の圧力変動が効率的に確保される。それ故、軸直角方向の振動入力に対して、流体の流動作用に基づいた防振効果を有利に得ることができる。
【0010】
また、弾性隔壁部に設けられた分割液室に非圧縮性流体が封入されていることから、振動入力によって第1の取付部材と第2の取付部材が軸方向で接近変位すると、弾性隔壁部が受圧室側に膨らむように弾性変形する。それ故、受圧室の流体排出効率が高められて、オリフィス通路を通じての流体流動量が増加する結果、流体の流動作用に基づいた防振効果が有利に発揮される。しかも、分割液室を挟んだ両側の弾性隔壁部がそれぞれ受圧室側に膨らむように撓み変形することから、弾性隔壁部の損傷が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0011】
また、受圧室が軸方向他方の端面に開口するポケット部の開口部を仕切部材で覆蓋することによって形成されていることから、第1の取付部材と第2の取付部材の間に軸方向の静荷重が作用する場合であっても、本体ゴム弾性体において圧縮変形が支配的となって、耐久性が確保される。しかも、ポケット部が軸方向で開口していることから、簡単な構造の成型用金型によってポケット部を備えた本体ゴム弾性体を得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第2の取付部材には前記筒状部に対して軸直角方向に延びる支持部材が
配設されて、該支持部材において該筒状部の軸直角方向に延びる両端が該筒状部に固定されており、該支持部材が前記弾性隔壁部の軸方向他方の端部に固着されているものである。
【0013】
第2の態様によれば、弾性隔壁部の軸方向他方の端部が支持部材によって変形を制限されて、仕切部材への当接状態に保持される。それ故、振動入力時に弾性隔壁部と仕切部材の間を通じた受圧室と分割液室の短絡が防止されて、初期の防振性能が安定して保持される。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記受圧室に対する過大な負圧の作用時に前記弾性隔壁部の軸方向他方の端面が前記仕切部材から離隔して前記複数の受圧室と前記分割液室を短絡させるリリーフ手段が設けられているものである。
【0015】
第3の態様によれば、衝撃的な大荷重の入力によって受圧室に過大な負圧が作用した場合に、弾性隔壁部と仕切部材の間を通じて受圧室と分割液室が短絡されることで、分割液室から受圧室に流体が流入して、受圧室の負圧が低減される。これにより、受圧室の負圧に起因するキャビテーションが防止されて、それに伴う異音が低減乃至は解消される。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記受圧室が軸直角方向で対向配置された一対とされているものである。
【0017】
第4の態様によれば、一対の受圧室が対向する特定の軸直角方向において、特に優れた防振性能を実現することが可能となる。従って、一対の受圧室の対向方向を軸直角方向における主たる振動入力方向と一致させることで、防振効果を有利に得ることができる
【0018】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第2の取付部材の前記筒状部が楕円筒形状とされており、前記一対の受圧室が該筒状部の長軸方向で対向配置されているものである。
【0019】
第5の態様によれば、第2の取付部材の筒状部が楕円筒形状とされることで、一対の受圧室が大きな容積で形成可能とされて、防振性能の向上が図られる。しかも、筒状部が円筒形状とされている場合に比して、短軸方向では大径化が回避されることから、配設スペースを小さくすることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第1の取付部材が前記受圧室に対して軸方向の投影において重なり合っているものである。
【0021】
第6の態様によれば、軸方向の振動入力時に、受圧室に圧力変動が効率的に惹起されて、オリフィス通路を通じての流体流動量が大きく確保される。それ故、軸方向の振動に対して流体の流動作用に基づいた防振効果が有利に発揮されて、防振性能の向上が図られる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第1の取付部材が前記受圧室に対して軸直角方向の投影において重なり合っているものである。
【0023】
第7の態様によれば、軸直角方向の振動入力時に、受圧室に圧力変動が効率的に惹起されて、オリフィス通路を通じての流体流動量が大きく確保される。それ故、軸直角方向の振動に対して流体の流動作用に基づいた防振効果が有利に発揮されて、防振性能の向上が図られる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1〜第7の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記平衡室と前記分割液室を相互に連通する第2のオリフィス通路が形成されているものである。
【0025】
第8の態様によれば、振動入力時に分割液室に及ぼされる圧力変動によって、第2のオリフィス通路を通じての流体流動が惹起されるようになっている。これにより、第2のオリフィス通路を通じて流動する流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果が発揮される。
【0026】
本発明の第9の態様は、第1〜第8の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記複数の受圧室を相互に連通する第3のオリフィス通路が形成されているものである。
【0027】
第9の態様によれば、軸直角方向の振動入力時に、複数の受圧室間の相対的な圧力差に基づいて、第3のオリフィス通路を通じての流体流動が生じるようになっている。これにより、第3のオリフィス通路を通じて流動する流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果が発揮される。
【0028】
しかも、第3のオリフィス通路のチューニング周波数を第1のオリフィス通路と異ならせることで、広い周波数域で軸直角方向の振動に対する有効な防振効果を得ることもできる。
【0029】
本発明の第10の態様は、第1〜第9の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記受圧室と前記分割液室を相互に連通する第4のオリフィス通路が形成されているものである。
【0030】
第10の態様に記載された流体封入式防振装置によれば、受圧室と分割液室を連通する第4のオリフィス通路が設けられることによって、分割液室が受圧室を補助するように作用して、実質的な受圧室の容積増加が実現される。その結果、受圧室と平衡室の間で第1のオリフィス通路を通じての流体流動量が増加して、流体の流動作用に基づいた防振効果の向上が図られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、弾性隔壁部の下端部が分割凹所によって二股に分割されて、弾性隔壁部の厚さが小さくされると共に、弾性隔壁部の断面二次モーメントが小さくされることで、振動入力時に弾性隔壁部が弾性変形し易くされている。これにより、振動入力時に受圧室の圧力変動が効率的に惹起されて、オリフィス通路による防振効果が有利に発揮される。しかも、分割凹所を利用して非圧縮性流体を封入した分割液室が形成されていることによって、第1の取付部材と第2の取付部材の接近変位時に、分割された弾性隔壁部の下端部がそれぞれ受圧室側に膨らむように変形することから、応力の分散による耐久性の向上が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは、車両装着状態での鉛直上下方向となる
図1中の上下方向を、前後方向とは、車両装着状態での車両前後方向となる
図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0035】
より詳細には、第1の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされており、全体として略円形ブロック形状を有している。また、第1の取付部材12には、逆向きの略円錐台形状を有する突起部18が下方に向かって突出するように一体形成されている。更に、第1の取付部材12には、中心軸上を上下に延びるねじ孔20が上面に開口して形成されていると共に、ねじ孔20の内周面にねじ山が刻設されている。
【0036】
第2の取付部材14は、
図2〜
図4に示されているように、薄肉大径の略楕円筒形状を有しており、第1の取付部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材とされている。また、第2の取付部材14は、軸方向中間部分に楕円筒形状の筒状部22を有しており、筒状部22の上端部には内フランジ状に湾曲した段差部24が設けられて、段差部24の内周端部から上方に向かって次第に拡径するテーパ部26が突出している。更に、第2の取付部材14の下端部には、フランジ部28が一体形成されていると共に、フランジ部28の外周端部から下方に向かって筒状のかしめ片30が突出している。
【0037】
そして、第1の取付部材12は、第2の取付部材14と同一中心軸上で、第2の取付部材14の筒状部22に対して軸方向一方の開口側(上方)に配置されている。更に、第1の取付部材12の突起部18は、第2の取付部材14の上側開口部から下方に入り込んでおり、軸直角方向の投影において突起部18と第2の取付部材14の上端部が重なり合っている。
【0038】
このように配置された第1の取付部材12と第2の取付部材14は、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、軸方向一方の側(軸方向上側)に向かって次第に小径となる厚肉大径の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に第1の取付部材12が加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面に第2の取付部材14の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が第1の取付部材12と第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0039】
また、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部32a,32bが設けられている。ポケット部32は、
図5〜
図7に示されているように、軸方向視で略半円状を呈して本体ゴム弾性体16の下面に開口する凹所であって、底面が略テーパ形状とされて内周部分の深さが外周部分の深さよりも大きくなっている。また、ポケット部32の深さが最大となる部分は、軸方向の投影において第1の取付部材12と重ね合わされている。更に、本実施形態では、一対のポケット部32a,32bが、楕円筒形状とされた筒状部22の長軸方向となる軸直角方向一方向で対向するように形成されていると共に、それら一対のポケット部32a,32bが互いに略同一形状とされている。
【0040】
かかる一対のポケット部32a,32bが形成されることによって、それら一対のポケット部32a,32bの径方向間には、弾性隔壁部34が設けられている。弾性隔壁部34は、本体ゴム弾性体16の一部で構成されており、一対のポケット部32a,32bの対向方向と直交する径方向に延びる略板状とされている。また、弾性隔壁部34は、上部が下方に向かって次第に薄肉となっていると共に、下部が略一定の厚さ寸法を有している。なお、弾性隔壁部34は、
図5に示されているように、第1の取付部材12の前後方向中央部分に設けられており、軸方向の投影において弾性隔壁部34の左右方向中央部分が第1の取付部材12と重なり合っている(
図6参照)。
【0041】
また、本体ゴム弾性体16の外周端部からシールゴム層36が延び出している。シールゴム層36は、薄肉大径の略楕円筒形状を有するゴム弾性体であって、本体ゴム弾性体16と一体形成されて下方に延び出している。そして、シールゴム層36は、第2の取付部材14の内周面に重ね合わされて、筒状部22の内周面を被覆している。
【0042】
また、第2の取付部材14の下端部には、可撓性膜38が取り付けられている。可撓性膜38は、略円板形状を呈する薄肉のゴム膜であって、上下に充分な緩みを有している。更に、可撓性膜38の外周端部には、固定部材40が固着されている。固定部材40は、筒状の固着部42と、固着部42の上端から外周側に突出するかしめ部44とを一体的に備えた環状体とされている。そして、固定部材40のかしめ部44が第2の取付部材14のかしめ片30でかしめ固定されることにより、可撓性膜38が第2の取付部材14の下側開口部を覆うように取り付けられている。
【0043】
このように可撓性膜38が第2の取付部材14に取り付けられることによって、、第2の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16で閉塞されていると共に、第2の取付部材14の下側開口部が可撓性膜38で閉塞されている。これにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜38の軸方向対向面間には、外部から密閉された流体封入領域46が形成されており、非圧縮性流体が封入されている。なお、封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。更に、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に発揮させるためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0044】
また、流体封入領域46には、第2の取付部材14によって支持された仕切部材48が配設されている。仕切部材48は、厚肉大径の略楕円板形状を有しており、本実施形態では、仕切部材本体50と蓋部材52で構成されている。
【0045】
仕切部材本体50は、厚肉大径の略楕円板形状を有する高剛性の部材とされている。また、仕切部材本体50には、上下に貫通する連通孔54a,54bが形成されている。連通孔54a,54bは、何れも仕切部材本体50の前後方向中間部分に形成されており、中心軸を挟んで前後両側に各一方が設けられている。
【0046】
蓋部材52は、薄肉大径の略楕円板形状を有する高剛性の部材であって、軸方向視で仕切部材本体50と略同一形状を有している。また、蓋部材52には、一対の透孔56a,56bが仕切部材本体50の連通孔54a,54bと対応する位置で上下に貫通して設けられている。
【0047】
そして、仕切部材本体50と蓋部材52が上下に重ね合わされて仕切部材48が構成されており、その仕切部材48が第2の取付部材14によって支持されて、流体封入領域46内に配設されている。即ち、仕切部材48は、第2の取付部材14の筒状部22に下方から挿入されて、シールゴム層36の内周側に嵌め込まれており、固定部材40の第2の取付部材14へのかしめ固定によって、本体ゴム弾性体16の下面と固定部材40との軸方向対向面間で挟持されている。
【0048】
また、仕切部材48が流体封入領域46内で軸直角方向に広がるように配設されることにより、本体ゴム弾性体16および弾性隔壁部34の下面が仕切部材48の上面に当接しており、ポケット部32a,32bの開口部が仕切部材48によって閉塞されている。これにより、仕切部材48を挟んで上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される一対の受圧室58a,58bが、一対のポケット部32a,32bを利用して形成されている。
【0049】
なお、一対のポケット部32a,32bの配置からも明らかなように、一対の受圧室58a,58bは、第2の取付部材14の筒状部22の長軸方向となる軸直角方向一方向で対向して配置されている。更に、受圧室58a,58bの内周部分が第1の取付部材12に対して軸方向の投影において重なり合っていると共に、受圧室58a,58bの上端部分が第1の取付部材12の突起部18に対して軸直角方向の投影において重なり合っている。
【0050】
また、仕切部材48を挟んで下側には、壁部の一部が可撓性膜38で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室62が形成されている。要するに、仕切部材48によって流体封入領域46が上下に二分されており、上側が受圧室58a,58bとされていると共に、下側が平衡室62とされている。なお、受圧室58a,58bと平衡室62には、流体封入領域46の非圧縮性流体がそれぞれ封入されている。
【0051】
また、仕切部材本体50の連通孔54a,54bと、蓋部材52の透孔56a,56bが上下に重ね合わされて連続しており、透孔56a,56bが受圧室58a,58bの各一方に開口していると共に、連通孔54a,54bが何れも平衡室62に開口している。これにより、受圧室58a,58bと平衡室62を相互に連通する第1のオリフィス通路64a,64bが形成されている。この第1のオリフィス通路64a,64bは、受圧室58a,58bおよび平衡室62の壁ばね剛性を考慮しながら、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することで、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。なお、本実施形態では、受圧室58aと平衡室62を相互に連通する第1のオリフィス通路64aと、受圧室58bと平衡室62を相互に連通する第1のオリフィス通路64bが、互いに同じ周波数にチューニングされている。尤も、それら複数の第1のオリフィス通路64a,64bは、互いに異なる周波数にチューニングされていても良く、それによって、防振性能のブロード化(より広い周波数域における防振効果の発揮)が実現され得る。
【0052】
また、本体ゴム弾性体16の弾性隔壁部34には、第2の取付部材14に設けられた支持部材66が固着されており、弾性隔壁部34の下面が仕切部材48の上面への当接状態に保持されている。支持部材66は、
図2〜
図4に示されているように、筒状部22の短軸方向(左右方向)が長手となるように延びるプレート状の部材であって、中央部分に軸方向視で略長円形を呈する窓部68が貫通形成されている。この支持部材66は、筒状部22の軸方向中間部分に配置されており、長手方向の両端が筒状部22に対して溶接等の手段で固定されて、筒状部22に対して径方向で延びるように橋設されている。そして、支持部材66は、
図5〜
図7に示されているように、本体ゴム弾性体16の弾性隔壁部34の下端部分に埋設されて加硫接着されており、弾性隔壁部34の下端部分が支持部材66によって位置決めされて仕切部材48の上面に押し当てられている。
【0053】
また、受圧室58aと受圧室58bを隔てる弾性隔壁部34には、分割凹所70が形成されている。分割凹所70は、軸方向視において本体ゴム弾性体16の短軸方向(左右方向)を長軸とする略楕円形を呈する凹所であって、上部(底部)が開口側となる下方に向かって次第に拡開していると共に、下部(開口部)が略一定の横断面形状を有している。この分割凹所70は、支持部材66の窓部68内に形成されており、弾性隔壁部34の下面に開口するように形成されている。なお、分割凹所70の最大深さ寸法が一対のポケット部32a,32bの最大深さ寸法よりも小さくされており、軸直角方向の投影において一対のポケット部32a,32bと重なり合う第1の取付部材12の突起部18の下方に分割凹所70が形成されている。また、分割凹所70は、左右方向(
図7中、上下)において、最大寸法がポケット部32a,32bの最大寸法と略同じとされている。更に、分割凹所70の前後方向での最大寸法は、ポケット部32a,32bの前後方向での最大寸法よりも小さくされており、分割凹所70の容積がポケット部32a,32bの容積よりも小さくされている。
【0054】
さらに、分割凹所70の形成によって弾性隔壁部34の下部が幅方向(前後方向)で二股に分岐しており、この分岐した弾性隔壁部34の下部が一対の分割壁部72a,72bとされている。分割壁部72a,72bは、互いにほぼ同一形状を有しており、上部が下方に向かって次第に薄肉となるテーパ板形状とされていると共に、下部が略一定の厚さを有する平板形状とされている。更に、分割壁部72a,72bは、左右方向の中央部分が最も薄肉となっており、左右方向で外側に行くに従って次第に厚肉となっている。この分割壁部72a,72bの各下部は、支持部材66の窓部68を挟んだ前後各一方に加硫接着されており、支持部材66によって変位が制限されている。
【0055】
そして、一対の分割壁部72a,72bの下面がそれぞれ仕切部材48の上面に重ね合わされて、分割凹所70の開口部が仕切部材48で覆蓋されることによって、非圧縮性流体を封入された分割液室74が形成されている。この分割液室74は、受圧室58aと受圧室58bの径方向対向間に設けられており、受圧室58a,58bに対して分割壁部72a,72bで隔てられていると共に平衡室62に対して仕切部材48で隔てられて密閉されている。なお、分割液室74は、第1の取付部材12の突起部18に対して軸方向投影において重なり合う位置で、下方に配置されている。
【0056】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が同じく図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、車両に装着されるようになっている。かかる車両への装着状態では、パワーユニットの分担支持荷重が第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に入力されて、第1の取付部材12が第2の取付部材14に対して軸方向で接近変位する。エンジンマウント10では、本体ゴム弾性体16が略円錐台形状とされていることによって、パワーユニットの分担支持荷重が本体ゴム弾性体16に対して主に圧縮方向で作用するようになっており、耐久性が確保されている。また、一対の分割壁部72a,72bも圧縮されるが、それら一対の分割壁部72a,72bの間に略密閉された分割液室74が設けられていることから、分割壁部72aが受圧室58a側に膨らむように弾性変形するようになっていると共に、分割壁部72bが受圧室58b側に膨らむように弾性変形するようになっている。
【0057】
そして、車両への装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が軸方向に入力されると、受圧室58a,58bの平衡室62に対する相対的な圧力変動に基づいて、それら受圧室58a,58bと平衡室62の間で第1のオリフィス通路64a,64bを通じて流体が流動する。これにより、流体の共振作用等の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0058】
同様に、低周波大振幅振動が軸直角方向に入力された場合にも、受圧室58a,58bと平衡室62の間で第1のオリフィス通路64a,64bを通じての流体流動が生じて、流体の流動作用に基づいた防振効果が発揮される。特に、エンジンマウント10では、一対の受圧室58a,58bが軸直角方向の主たる振動入力方向で対向するように配置されており、振動の減衰効果が求められる軸直角方向一方向で一対の第1のオリフィス通路64a,64bによる優れた防振効果が得られるようになっている。
【0059】
エンジンマウント10では、本体ゴム弾性体16の弾性隔壁部34に分割液室74が設けられて、弾性隔壁部34が一対の分割壁部72a,72bに分岐していることによって、第1のオリフィス通路64a,64bによる防振効果が効率的に発揮される。即ち、分割液室74の形成によって、弾性隔壁部34の実質的な厚さ寸法が小さくされると共に、弾性隔壁部34の断面二次モーメントが小さくされて、弾性隔壁部34が弾性変形し易くされており、第1の取付部材12の第2の取付部材14に対する相対変位が生じ易くなっている。これによって、受圧室58a,58bの圧力変動が効果的に生じて、第1のオリフィス通路64a,64bを通じての流体流動量が効率的に確保される結果、目的とする防振効果が有利に発揮される。
【0060】
また、密閉された分割液室74に非圧縮性流体が封入されていることによって、第1の取付部材12と第2の取付部材14が相対的に接近変位した場合に、分割壁部72aが受圧室58a側に膨らむように撓み変形すると共に、分割壁部72bが受圧室58b側に膨らむように撓み変形する。これにより、受圧室58a,58bに圧力変動が効率的に及ぼされて、第1のオリフィス通路64a,64bによる防振効果を有利に得ることができる。
【0061】
しかも、上述のように、分割壁部72aと分割壁部72bの変形態様が各受圧室58a,58b側への膨らみ方向に特定されることで座屈等の不安定な変形が防止されて、変形時に応力の局所的な集中も回避される。また、分割壁部72aと分割壁部72bが互いに独立して変形することによって、変形による応力が分割壁部72aと分割壁部72bに分散作用して、弾性隔壁部34の耐久性の向上も実現される。
【0062】
また、分割壁部72a,72bの下端部に支持部材66が固着されており、分割壁部72a,72bの仕切部材48に対する相対変位が制限されている。それ故、受圧室58a,58bと分割液室74が短絡することなく相互に独立した状態に保持されて、防振性能の安定化が図られる。
【0063】
また、受圧室58a,58bが軸方向の投影において第1の取付部材12と重なり合っていることから、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に軸方向の振動が入力された際に、受圧室58a,58bの内圧変動が有効に惹起される、これにより、軸方向の振動入力に対して目的とする防振効果を得ることができる。
【0064】
さらに、受圧室58a,58bが軸直角方向の投影において第1の取付部材12の突起部18と重なり合っていることから、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に軸直角方向の振動が入力された際に、受圧室58a,58bの内圧変動が有効に惹起される。それ故、軸直角方向の振動入力に対して目的とする防振効果を得ることができる。
【0065】
また、第2の取付部材14の筒状部22が楕円筒形状とされており、一対の受圧室58a,58bが筒状部22の長軸方向で対向するように配置されていることによって、受圧室58a,58bの容積を大きく確保することができる。しかも、受圧室58a,58bの対向方向と直交する短軸方向では、筒状部22の外径寸法が小さくされることから、配設スペースを必要以上に大きく確保することなく、受圧室58a,58bの容積を効率的に確保することができる。
【0066】
また、一対のポケット部32a,32bおよび分割凹所70が何れも本体ゴム弾性体16の軸方向下面に開口していることによって、本体ゴム弾性体16は、上下に組み合わされる成型用金型によって加硫成形され得る。このように、本実施形態の構造によれば、複雑な金型構造を要することなく、複数の液室を備えるエンジンマウント10を得ることができる。
【0067】
図8には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第2の実施形態として、自動車用のエンジンマウント80が示されている。エンジンマウント80では、仕切部材本体50に対して中央部分を軸方向に貫通する中央連通孔82が形成されていると共に、蓋部材52に対して中央部分を軸方向に貫通する中央透孔84が形成されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0068】
そして、仕切部材本体50と蓋部材52が上下に重ね合わされることによって、中央連通孔82と中央透孔84が相互に連通されている。更に、中央連通孔82が平衡室62に開口されていると共に、中央透孔84が分割液室74に開口されており、平衡室62と分割液室74を相互に連通する第2のオリフィス通路86が、中央連通孔82と中央透孔84の協働によって形成されている。なお、第2のオリフィス通路86は、第1のオリフィス通路64a,64bと同じ周波数にチューニングされていても良いし、異なる周波数にチューニングされていても良い。
【0069】
このようなエンジンマウント80によれば、軸方向の振動入力時に分割液室74に平衡室62に対する相対的な圧力変動が及ぼされて、分割液室74と平衡室62の間で第2のオリフィス通路86を通じての流体流動が惹起される。これにより、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮されて、防振性能の向上が実現される。
【0070】
なお、第2のオリフィス通路86のチューニング周波数を第1のオリフィス通路64a,64bと同じに設定することで、それら第1, 第2のオリフィス通路64,86がチューニングされた周波数の振動に対する防振性能の向上を図ることができる。一方、第2のオリフィス通路86のチューニング周波数を第1のオリフィス通路64a,64bとは異ならせることによって、より広い周波数域の振動入力に対して有効な防振効果が発揮される。
【0071】
図9には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第3の実施形態として、自動車用のエンジンマウント90が示されている。エンジンマウント90では、仕切部材本体50に対して上面に開口して径方向に所定の長さで延びる中央凹溝92が形成されていると共に、蓋部材52に対して軸方向に貫通する第1透孔94および第2透孔96が径方向で相互に離隔した位置に形成されている。
【0072】
そして、仕切部材本体50と蓋部材52が上下に重ね合わされることによって、中央凹溝92の開口部が蓋部材52によって覆蓋されてトンネル状の通路が形成される。更に、トンネル状通路の両端部が、第1透孔94を通じて受圧室58aに連通されると共に、第2透孔96を通じて受圧室58bに連通されることによって、受圧室58aと受圧室58bを相互に連通する第3のオリフィス通路98が形成されている。なお、第3のオリフィス通路98は、第1のオリフィス通路64a,64bと同じ周波数にチューニングされていても良いが、軸直角方向に入力される振動の周波数に応じてチューニングされることが望ましい。
【0073】
このようなエンジンマウント90によれば、軸直角方向の振動入力時に、一対の受圧室58a,58bの相対的な圧力変動に基づいて第3のオリフィス通路98を通じた流体流動が生じるようになっている。それ故、流体の流動作用に基づいた防振効果が、第1のオリフィス通路64a,64bだけでなく第3のオリフィス通路98によっても発揮されて、より優れた防振性能が実現され得る。
【0074】
図10には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第4の実施形態として、自動車用のエンジンマウント100が示されている。このエンジンマウント100は、第3の実施形態に示されたエンジンマウント90において蓋部材52の中央に中央透孔102が形成された構造を有している。
【0075】
そして、中央透孔102は、中央凹溝92の長さ方向中央部分に重ね合わされており、中央凹溝92が中央透孔102を通じて分割液室74に連通されており、もって、受圧室58a,58bと分割液室74を相互に連通する一対の第4のオリフィス通路104a,104bが形成されている。なお、第4のオリフィス通路104a,104bは、第3のオリフィス通路98の流路を共用して形成されているが、第3のオリフィス通路98とは別に形成されていても良いし、それら一対の第4のオリフィス通路104a,104bが互いに独立して形成されていても良い。
【0076】
このようなエンジンマウント100によれば、軸方向の振動入力時に、分割液室74が受圧室58a,58bの容積を補う補助液室として機能することから、受圧室58a,58bの実質的な容積が増大して、第1のオリフィス通路64a,64bを通じての流体流動量が大きく確保される。それ故、流体の流動作用に基づいた防振効果が有利に発揮される。
【0077】
図11には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第5の実施形態として、自動車用のエンジンマウント110が示されている。エンジンマウント110は、第1の実施形態に示されたエンジンマウント10において支持部材66が省略された構造を有しており、弾性隔壁部34の下端部が仕切部材48に対する相対変位を許容されている。
【0078】
このような構造とされたエンジンマウント110の車両への装着状態において、車両の段差乗り越え等による衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室58a,58bに過大な負圧が及ぼされた(受圧室58a,58bの液圧が著しく低下した)場合には、第1の取付部材12が第2の取付部材14に対して上方に大きく変位する。これに伴って、第1の取付部材12に固着された弾性隔壁部34が上方に変位して、弾性隔壁部34が仕切部材48から離隔することから、受圧室58a,58bと分割液室74とを連通する短絡通路が、分割壁部72a,72bと仕切部材48の軸方向対向面間に形成される。このように、本実施形態のエンジンマウント110では、大荷重の入力による受圧室58a,58bへの過大な負圧の作用時に受圧室58a,58bと分割液室74を短絡させるリリーフ手段が設けられている。これにより、受圧室58a,58bの容積が実質的に大きくなって、受圧室58a,58bの負圧が緩和されることから、受圧室58a,58bの負圧によるキャビテーションが防止されて、異音の発生が回避される。
【0079】
なお、第2〜第5の実施形態に示された各構造(第2の実施形態に示された第2のオリフィス通路86、第3の実施形態に示された第3のオリフィス通路98、第4の実施形態に示された第4のオリフィス通路104、第5の実施形態に示された支持部材66を省略した構造)は、任意に組み合わせて採用することも可能である。
【0080】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、受圧室58aと受圧室58bの一対(2つ)の受圧室を備えた構造が示されていたが、3つ以上の受圧室が形成されていても良い。具体的には、例えば、4つの受圧室が形成されており、2つの受圧室が径方向で対向配置されていると共に、他の2つの受圧室が異なる径方向で対向配置されて、互いに異なる径方向2方向で有効な防振効果が発揮されるようになっていても良い。なお、このように3つ以上の受圧室が形成されている場合には、隣り合う受圧室を隔てる弾性隔壁部にそれぞれ分割凹所が形成されて、各弾性隔壁部が分割凹所を挟んで一対の分割壁部とされると共に、複数の分割液室が形成される。
【0081】
前記実施形態では、第1のオリフィス通路64a,64bが仕切部材48を軸方向に貫通する孔状とされていたが、第1のオリフィス通路の具体的な構造は、受圧室58a,58bと平衡室62を連通するように設けられていれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、仕切部材本体50の上面に開口する凹溝が形成されて、凹溝の開口部が蓋部材52で覆蓋されてトンネル状の通路が形成されており、トンネル状通路の一方の端部が何れかの受圧室58a(58b)に連通されると共に、他方の端部が平衡室62に連通されることで、第1のオリフィス通路が形成されていても良い。なお、上記構造における凹溝は、第1のオリフィス通路に要求されるチューニング周波数等に応じて適当な形状で形成されていれば良いが、通路長を効率的に確保してチューニング自由度を大きくするためには、例えば、周方向に延びるものや蛇行しながら径方向に延びるもの、螺旋状に延びるもの等が、好適に採用される。
【0082】
さらに、第2〜第4のオリフィス通路86,98,104についても、具体的な構造が限定されるものではなく、目的とする液室間を相互に連通するように形成されていれば良い。
【0083】
また、本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、サブフレームマウントやボデーマウント、デフマウント等にも適用され得る。更に、本発明に係る流体封入式防振装置は、自動車だけでなく、自動二輪車や産業用車両、鉄道用車両等にも好適に用いられ得る。