特許第5738168号(P5738168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738168
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】電子線殺菌装置
(51)【国際特許分類】
   B65B 55/08 20060101AFI20150528BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B65B55/08 B
   G21K5/04 E
   G21K5/04 S
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-280962(P2011-280962)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-129453(P2013-129453A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】505193313
【氏名又は名称】三菱重工食品包装機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 征司
(72)【発明者】
【氏名】半田 隆信
【審査官】 藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−297067(JP,A)
【文献】 特開2002−308229(JP,A)
【文献】 特開2002−255125(JP,A)
【文献】 特開平09−150813(JP,A)
【文献】 特開2007−113935(JP,A)
【文献】 特開2006−314671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 55/08
A61L 2/08
B65B 55/04
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物が注入される口部に連なる狭隘通路を有する容器に電子線を照射して殺菌する装置であって、
前記電子線を発生させる電子線発生手段と、
前記容器の軸線方向に沿う磁場を、前記狭隘通路の内部に生じさせる第1電子線偏向手段と、
を備え
電磁ソレノイドからなる前記第1電子線偏向手段が、前記容器の前記狭隘通路の内周側に配置される、
ことを特徴とする電子線殺菌装置。
【請求項2】
前記容器の内部の気圧を変動させる気圧変動手段を備え、
菌処理の過程で、前記容器の内部の気圧を昇降させる、
請求項1に記載の電子線殺菌装置。
【請求項3】
殺菌対象である一つの前記容器を収容するキャビティを有し、
前記容器の挿入及び排出に開放状態をなし、殺菌処理を行う際には閉塞状態をなす、容器収容チャンバを備える、
請求項1又は2に記載の電子線殺菌装置。
【請求項4】
前記キャビティに収容される前記容器の側方に配置され、前記電子線発生手段の出射口から出射される前記電子線を放射状に偏向して前記容器の側面に向かわせる磁界を発生させる、第2電子線偏向手段を備える、
請求項に記載の電子線殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料などの容器を殺菌する装置に係り、特に、電子線を照射することにより容器を殺菌する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート製のボトル(以下、ペットボトル)の内部を殺菌する殺菌装置として、ペットボトルに対して電子線を照射するようにしたものが知られている。この装置は、通常、ペットボトルの口部から電子線を照射するが、開口面積が狭い口部及びそれに連なる首部にかけて占める狭隘通路は、電子線源が近いこともあり、電子線の照射線量が過剰となり、口部及び首部(狭隘通路)の色が変化し、あるいは、材質が劣化することが懸念される。また、電子線源に近い狭隘通路の線量が多いということは、逆に遠い部分、例えばペットボトルの底部及びその近傍の線量が少ないことになる。したがって、底部の殺菌に必要な量の電子線量を確保すると、その他の部分の線量が多くなるというように、ペットボトルの全体を考えると線量が不均一になり、照射効率が劣ることになる。
【0003】
部分的な電子線の過剰な照射を防ぐために、照射対象である容器の線量分布に基づいて、その線量の割合が大きい部分を遮蔽体で覆い、その遮蔽体の上から電子線を照射することを特許文献1は提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−151021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、遮蔽体を配置して口部への過剰な電子線の照射を防ぐことはできたとしても、当該部分に照射された電子線がペットボトルの底部に到達する見込みはないので、特許文献1の提案によっても容器全体に亘って線量を均一にすることはできない。
そこで本発明は、容器の口部への電子線の過剰な照射を防ぎつつ、容器に照射される電子線の均一性を向上できる電子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内容物が注入される口部に連なる狭隘通路を有する容器に電子線を照射して殺菌する装置であって、電子線を発生する電子線発生手段と、容器の軸線方向に沿う磁場を狭隘通路の内部に発生させる第1電子線偏向手段と、を備える。そして、電磁ソレノイドからなる第1電子線偏向手段が、容器の狭隘通路の内周側に配置されることを特徴とする。
本発明の電子線殺菌装置によると、狭隘通路の内部に生じる磁場によって、そこの内部に存在する電子を狭隘通路の外部に向けて収束させるので、狭隘通路に照射される線量を減らすことができるし、しかもその電子線は狭隘通路以外の領域に照射されることになるので、狭隘通路とその他の部分の線量の均一性向上に寄与する。さらに、狭隘通路に照射される電子線を容器の奥側まで導くことができるので、電子線の利用効率が向上し、容器全体として必要な線量まで照射する時間を短縮できる。
なお、本発明における狭隘通路とは、名称の如何にかかわらず、口部に連なり、かつその開口面積が、それよりも奥側(容器の底側)よりも狭い部分をいう。例えば、首部などと称される部分も、通常は口部とともに狭隘通路を構成する。
電磁ソレノイド(electric solenoid)は印加する電流により磁場の発生を制御できるので、本発明では第1電子線偏向手段として電磁ソレノイドを用いる。
【0008】
本発明の電子線殺菌装置は、容器の内部の気圧を変動させる気圧変動手段を備え、容器の殺菌処理の過程で、容器の内部の気圧を昇降させることができる。
電子線は、気圧が高いほど、散乱が増える一方、気体による遮へい効果のため遠くに到達する電子が減る傾向がある。この傾向を利用することで、容器内面に照射される線量の均一性をより向上させるとともに、電子線を効率的に利用することで電子線の照射時間を短縮できる。
【0009】
本発明の電子線殺菌装置において、殺菌対象である一つの容器を収容するキャビティを有し、容器の挿入及び排出に開放状態をなし、殺菌処理を行う際には閉塞状態をなす、容器収容チャンバを備え、電子線発生手段が容器収容チャンバに対応して設けることが好ましい。
この電子線殺菌装置において、電子線照射手段は一つの容器に対して殺菌に必要な電子線を与えるものであるから、低エネルギの電子線を生成するもので足りる。したがって、この電子線殺菌装置は、小型の電子線照射手段を用いることができる。また、容器収容チャンバはキャビティ(容器)内に導入される電子線により二次的に生じるX線を外部に漏洩するのを防ぐ遮蔽構造を必要とするが、低エネルギの電子線で足りるので、従来の電子線殺菌装置に比べると軽微な遮蔽構造にすることができる。加えてこの電子線殺菌装置は、容器収容チャンバのキャビティが、実質的には容器を収容できる容積を備えれば足りるので、容器収容チャンバを最小限の大きさに抑えることができる。以上より、本形態の電子線殺菌装置は小型かつ軽量にできる。
【0010】
また、上記の本発明において、キャビティに収容される容器の側方に配置され、電子線を放射状に偏向して容器の側面に向かわせる磁界を発生させる第2電子線偏向手段を備えることができる。そうすることで、容器の所望する領域へ電子線を誘導できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容器の軸線方向に沿う磁場を狭隘通路の内部に発生させる第1電子線偏向手段を備えることにより、容器の狭隘通路に照射される線量を減らすことができるとともに、その分の電子線は口部以外の領域に照射されることになるので、狭隘通路とその他の部分の線量の均一性向上に寄与する。さらに、狭隘通路に照射される電子線を狭隘通路よりも容器の奥まで導くことができるので、電子線の利用効率が向上し、容器全体として必要な線量まで照射する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における電子線殺菌装置を示す図である。
図2】第1実施形態における電子線殺菌装置の磁場形成による作用を説明する図である。
図3】第1実施形態における電子線殺菌装置の気圧を変動させたときの作用を説明する図である。
図4】第2実施形態における電子線殺菌装置のシステムの構成を示す図である。
図5】第2実施形態における容器収容チャンバの部分断面図である。
図6】電子線照射銃の概略構成を示す断面図である。
図7】ペットボトルを中心に第2電子線偏向手段を回転させながら電子線を照射する様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
本発明による電子線殺菌装置1の基本的な構成、作用を第1実施形態として説明する。
電子線殺菌装置1は、図1に示すように、電子線照射銃2と、第1電子線偏向手段としての電磁ソレノイド3と、を備える。
電子線照射銃40は、その電子線を出射する先端がペットボトルPBの口部Mの上側に位置するように設けられる。なお、本発明において電子線照射銃2の構成は任意であるが、第2実施形態において具体的な構成例を説明する。
電磁ソレノイド3は、ペットボトルPBの口部Mから首部Nにかけて形成される狭隘通路Oの周囲に配置される。電磁ソレノイド3は、電線をリング状に巻き回した中空円筒状の形態をなしている。電磁ソレノイド3に通電すると、電磁ソレノイド3の内部(空芯部分)には、ペットボトルPBの軸線方向(電磁ソレノイド3の軸方向)に沿って磁場MFが形成される。
【0014】
ここで、電磁ソレノイド3により形成される磁場は、図2に模式的に示すように、電子線EB(または電子)に対して凸レンズのように作用する。つまり、磁場MFが及ぶ範囲に存在する電子線は焦点Pに向けて収束する。焦点Pの位置は、磁場MFの強さと,電子線EBが磁場MFを通る長さにより制御される。例えば、磁場強度を弱くすることにより、電子線を平行に保ったままですることもできる。つまり電磁ソレノイド3に通電することにより、電子線照射銃40から出射され、口部M及び首部Nの内部及びその近傍に存在する電子線が狭隘通路O(口部M,首部N)の内面へ照射される線量を減らすことができるとともに、ペットボトルPBの底部Bに向けて電子線EBが誘導されるとみることもできる。なお、磁場MFが形成されている限り、狭隘通路Oの長さと電磁ソレノイド3の軸線方向の長さの関係は不問であり、両者が相違していても何ら問題はない。
これに対して、電磁ソレノイド3による磁場MFが存在しなければ、電子線照射銃40から出射された電子線の多くが狭隘通路Oの内面に照射されるので、狭隘通路Oを変色又は変質させるおそれがある。
【0015】
図1の例では、狭隘通路Oの外側に電磁ソレノイド3に配置した例を示したが、第2実施形態に示すように狭隘通路Oの内部に電磁ソレノイド3を配置しても同様の効果を得ることができるとともに、電磁ソレノイド3自体が狭隘通路Oの内面に対して遮蔽体として機能するので、当該内面への電子線の照射を極限まで下げたい場合に有効である。また、狭隘通路Oの外側に電磁ソレノイド3に配置するのに比べて、電子線に対してより近い位置に電磁ソレノイド3があるので、相対的に弱い印加電流であっても、ペットボトルPBの必要な箇所に電子線を誘導することができる。さらに、電磁ソレノイド3が小さくても済むので、電磁ソレノイド3のコスト、ひいては電子線照射装置1のコストを抑えることができる。
一方で、狭隘通路OとはいえペットボトルPBの内部に電磁ソレノイド3を挿入するのを避けたい場合もある。例えば、万が一ソレノイドに破損などが生じた場合でも、異物として容器内部に落下させたくない場合、あるいは、容器の中心位置がずれた場合でも、容器の内側と接触する事を避けたい場合などがある。そのような場合には、図1に示すように狭隘通路Oの外側に電磁ソレノイド3を配置すればよい。外側に設置する場合は、キャビティと一体構造に出来るため、構造も簡易にできる。
【0016】
電磁ソレノイド3に印加する電流の向きによって、形成される磁場MFの向きが変わることはよく知られている。図1図2は、狭隘通路Oの内部で下向きの磁場MFを形成した例を示しているが、電磁ソレノイド3に印加する電流の向きを逆にすれば上向きの磁場MFを形成する。この場合でも、狭隘通路Oの内面に照射される電子線の線量を減らすことができる。そして、電子線照射銃40から連続して出射される電子線に押されることにより、狭隘通路Oの内面に照射されずにいる電子線はペットボトルPBの底部Bに向けて誘導される。
【0017】
電磁ソレノイド3に通電することにより、ペットボトルPBの各部位に照射される線量の均一性を向上できるが、この均一性をより向上させるために、ペットボトルPBの内部の気圧を変動させることが好ましい。
ペットボトルPBの内部の気圧が低くなるほど、気体による散乱が小さく電子線は直進しやすくなる。したがって、図3(a)に示すように、ペットボトルPBの底部Bへの線量が高く、側面Sへの線量は低くなる。
一方、ペットボトルPBの内部の気圧が高くなるほど、気体による散乱が大きくなり、電子線は直進しにくくなる。したがって、図3(b)に示すように、ペットボトルPBの側面Sへの線量が高く、底部Bへの線量は低くなる。
この性質を利用して、ペットボトルPBの内部の気圧を昇降することにより、ペットボトルPBに照射される線量の均一性を効率よく向上させることができる。
【0018】
この場合、以下のように磁場強度を制御することが効果的である。
磁場MFは電子線ビームを収束させる効果があるので、気圧が低い場合には、電子線が電磁ソレノイド3の出口で焦点を結んでその後電子線ビームが広がるよう磁場MFの強さを制御する。そうすると、側面Sの線量が増加し底部Bの線量が減少する。逆に、気圧が高い場合には、磁場MFなしでは狭隘通路O(首部N)付近の側面Sに到達するような拡散方向の電子線について、側面Sに到達せずペットボトルPBの奥に向かって入るように,磁場MFの強さを制御する。そうすると、底部Bの線量が増加し側面Sの線量が減少する。これを組み合わせることで、ペットボトルPB全体としての線量の均一性が向上する。そうすれば、ペットボトルPBの全体として必要な線量に達するまでの電子線照射量が低減し、照射時間も短縮される。
【0019】
[第2実施形態]
第1実施形態による電子線殺菌装置1は、本発明の最小限の構成からなるものであるが、以下に第2実施形態として説明するように、本発明の電子線殺菌装置は付加的な要素を伴うことができる。
第2実施形態における電子線殺菌システム10は、図4に示されるように、複数の容器収容チャンバ20と、容器収容チャンバ20の内部であってペットボトルPBの狭隘通路Oの内側に設けられる第1電子線偏向手段30(図5参照)と、容器収容チャンバ20の周囲に設けられる第2電子線偏向手段37,38と、容器収容チャンバ20に対応して設けられる電子線照射銃40と、を備えており、図示を省略した手段で搬送されるペットボトルPBを殺菌処理するものである。
電子線殺菌システム10は、電子線照射による殺菌処理時にオゾンが発生するのを防止する酸素排除部60を備えている。酸素排除部60は、酸素排除配管L1を介して各容器収容チャンバ20の排気経路28(図6)と連通されている。また、電子線殺菌システム10は、各電子線照射銃40で電子線を生成するための電力を供給する電源80を備えている。電源80は、電力線L2を介して各電子線照射銃40と電気的に接続されている。
なお、図4は複数の容器収容チャンバ20(電子線照射銃40)が直線上に並んで固定されている例を示しているが、本発明はこの配置に限ることはなく、円周上に容器収容チャンバ20(電子線照射銃40)を配置し、かつ相対的に回転可能にする、などの種々の配置を採用することができる。
【0020】
<容器収容チャンバ20>
容器収容チャンバ20は、図4図5に示すように、下部21と、本体22という複数の要素から構成される。下部21と本体22の間には、電子線照射により二次的に発生するX線、電子線及びオゾン(以下、X線等と総称することがある)の漏洩を防止するためのOリングなどの封止体ORを介在させている。容器収容チャンバ20の外観は円筒状をなしている。容器収容チャンバ20は、X線、電子線が外部に漏洩するのを阻止するために、主要部分は鉛や鉄などの金属から構成されている。
下部21と本体22は、殺菌処理をこれから行うペットボトルPBを容器収容チャンバ20に挿入し、又は、殺菌処理が終了したペットボトルPBを容器収容チャンバ20からペットボトルPBを排出する際には、容器収容チャンバ20が開放状態となるように、下部21を降下させることで本体22から分離する。このとき、電子線照射銃40はキャビティ24から退避した上方に位置する。ペットボトルPBを殺菌処理する際には、下部21と本体22とを密着させることで、容器収容チャンバ20を閉塞状態とする。
【0021】
容器収容チャンバ20は、ペットボトルPBを収容するキャビティ24を備えている。
キャビティ24は、容器収容チャンバ20が閉塞状態において、ペットボトルPBを十分に収容できるサイズの円筒状の空隙である。サイズの異なるペットボトルPBを処理するには、キャビティ24は、電子線殺菌システム10で処理される最大のサイズのペットボトルPBを収容できるサイズを有していることが好ましい。
キャビティ24は下部21及び本体22に亘って形成されるものであり、そのために、下部21には第1空隙25が、また、本体22には第2空隙26が形成される。キャビティ24にペットボトルPBが収容されたときに、ペットボトルPBの底面を除いて、ペットボトルPBの外面と容器収容チャンバ20の内面の間にクリアランスが設けられる。真空引きの際にペットボトルPBが潰れないようにするため、およびペットボトルPBに傷が着くのを防ぐためである。第1空隙25及び第2空隙26は、このクリアランスを考慮して形成される。
【0022】
本体22の上部には、キャビティ24の上部開口と繋がるノズル挿入路27が形成されている。電子線照射銃40のノズル42は、このノズル挿入路27を介してキャビティ24内に配置される。
また、本体22の上部には、ノズル挿入路27を介してキャビティ24と繋がる排気経路28が形成されている。排気経路28は、酸素排除配管L1を介して酸素排除部60に繋がっている。電子線による殺菌処理中にキャビティ24(ペットボトルPB)で発生したオゾンが発生するのを防止することを目的として、酸素排除部60は真空ポンプを備えている。殺菌処理する前にキャビティ24を真空引きすることで、オゾン発生の要因である酸素をキャビティ24から排除する。真空引きは、殺菌処理中も継続して行うことが好ましい。
酸素排除部60として真空引きするものを示したが、オゾンの発生防止のためには、キャビティ24内の大気を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスで置換することで、殺菌処理前にキャビティ24内の酸素を排除することもできる。もちろん、真空引きした後に不活性ガスをキャビティ24に充填することもできる。
【0023】
<電子線照射銃40>
電子線照射銃40は、図6に示すように、電子線を生成する銃本体41と、銃本体41に連なるノズル42と、から構成される。銃本体41及びノズル42はともに中空円筒状の形態をなし、銃本体41の下端とノズル42の上端が繋がっている。
銃本体41は、外筒43内の上部に電子生成器44が設けられている。電子生成器44は、ケース45を有している。ケース45は、その外面が外筒43の内面から所定の距離を離して設けられているので、外筒43とケース45の間に高電圧ギャップを作り出すことができる。
ケース45の内部には、電子発生用のフィラメント46が配置されている。このフィラメント46には、絶縁体47及び電力線L2を介して電源80から電力が供給される。フィラメント46は、供給される電力によって加熱され、自由電子(e)を生成させる。生成された電子は、静電レンズ48に形成された開口部49及びケース45先端に形成された開口部50を通過してノズル42に向けて出射される。
【0024】
電子生成器44のケース45とノズル42の先端にある出射口51との間に、電源80から高電圧が印加される。なお、出射口51は、接地されている。電子生成器44と出射口51との間の電位差によって、フィラメント46で生成した電子が、ノズル42内の電子線通路52を出射口51に向けて通過しながら加速され、さらに出射口51を通過して外部に出射される。このように、キャビティ24に収容されているペットボトルPBの内面に電子線が照射されることで、当該面を殺菌処理することができる。
【0025】
<第1電子線偏向手段30>
第1実施形態で説明した電磁ソレノイド3と同様の構成を備えるものであるから、ここでの説明は省略する。ただし、第2実施形態は、電磁ソレノイド3がペットボトルPBの狭隘通路O(口部M,首部N)の内側に設けられている点で第1実施形態と異なる。
【0026】
<第2電子線偏向手段37,38>
第2電子線偏向手段37,38は、出射口51から出射される電子線をキャビティ24に収容されるペットボトルPBの側面に向かわせる磁界を発生させる。
第2電子線偏向手段37,38は、図5に示すように、第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bとから構成され、容器収容チャンバ20の周囲に対象の位置に配置される。第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bは、ペットボトルPBを中心にして、N極とS極が対向するように配置されている。第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bは、相対的な位置関係を保ちながら、ペットボトルPBを中心にして回転可能に支持されている。
なお、第2電子線偏向手段37,38を構成する第1永久磁石37a,38a、第2永久磁石37b,38bは最も基本的な構成の一例にすぎず、本発明の目的に沿って電子線を偏向できる永久磁石の構成、配置を広く採用することができることは言うまでもない。
【0027】
<殺菌処理手順>
電子線殺菌システム10は、以下のように動作してペットボトルPBを殺菌することができる。
図7(a)に示すように、ペットボトルPBが容器収容チャンバ20に収容されるまでは、キャビティ24から上方に退避した初期位置にある。ペットボトルPBが容器収容チャンバ20に収容されると、下部21と本体22とを密着させることで、容器収容チャンバ20を閉塞状態とする。
そうすると、電子線照射銃40は初期位置から降下してペットボトルPBの口部Mの上方の所定位置で停止する。
次いで、電子線照射銃40は、電子線を出射する。出射口51から出射される電子線EBは狭隘通路Oの内部で散乱する成分もあれば、直進する成分もある。しかし、電子線殺菌システム10は第1電子線偏向手段30を備えているので、出射口51から出射される電子線EBの一部は狭隘通路O(首部N)よりも下方に収束されるので、狭隘通路Oの内面に照射される線量を抑えることができるとともに、狭隘通路Oよりも下方に電子線EBが誘導される。この作用は第1実施形態で説明した通りである。
【0028】
第2実施形態は、第2電子線偏向手段37,38が電子線EBを効率よくペットボトルPBの全域に誘導する。
図7に示すように、第1永久磁石37,38aと第2永久磁石37,38bがペットボトルPBを中心にしてN極とS極が対向するように配置されていると、電子線照射銃40から出射される(図5の上方から出射される)電子線EBは、ペットボトルPBの中心から円周方向に向けて偏向される。例えば、図7(a)のように第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bが図中の上下方向に沿っていると、電子線EBは図中の右に向けて曲げられる。したがって、第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bが固定されていると、電子線EBをペットボトルPBの周方向の一部にしか照射することができない。そこで、図7(a)〜(d)に示すように、第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bを一回転させると、電子線EBはペットボトルPBの周方向の全域に照射される。電子線EBは、第1永久磁石37a,38aと第2永久磁石37b,38bが一回転する間に、ペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向される。
2つの第2電子線偏向手段37,38が高さ方向に配列されており、両者を適宜作動させることにより、電子線EBをペットボトルPBの高さ方向の全域にわたってより均一に照射することができる。この場合、第2電子線偏向手段37,38ごとに異なる磁界強度を発生させることで、ペットボトルPB容器の部位ごとに適切な線量の電子線を照射させることができる。
【0029】
この間に、第1実施形態で説明したように、容器収容チャンバ20内の気圧を調整することで、電子線EBの照射の均一性をより向上させることができる。気圧の調整は、真空引きの度合いを制御することで実現できる。
なお、本実施の形態では第1永久磁石37,38aと第2永久磁石37,38bが一回転する間に、電子線EBがペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向されるが、本発明は同時刻に電子線が放射状に偏向される形態をも包含する。
電子線照射銃40による所定時間の電子線EBの出射が終了すると、容器収容チャンバ20を開放状態としてペットボトルPBを取り出す。
【0030】
電子線殺菌システム10は、以上説明したようにペットボトルPB等の容器で殺菌が必要な箇所に電子線を漏れなく照射できる高い殺菌能力を有するのに加えて、以下の効果を奏する。
電子線殺菌システム10において、電子線照射銃40は一つの容器収容チャンバ20に対して殺菌に必要な電子線を与えるものであるから、低エネルギの電子線を生成するもので足りる。したがって、電子線殺菌システム10は、小型の電子線照射銃40を用いることができる。また、容器収容チャンバ20はX線等を外部に漏洩するのを防ぐ遮蔽構造を必要とするが、導入されるのが低エネルギの電子線であるために、従来の電子線殺菌装置に比べると軽微な遮蔽構造にすることができる。加えて電子線殺菌システム10は、容器収容チャンバ20のキャビティ24が、実質的にはペットボトルPBを収容できる容積を備えれば足りるので、容器収容チャンバを最小限の大きさに抑えることができる。
【0031】
また、電子線殺菌システム10は、容器収容チャンバ20に排気経路28を設け、酸素排除部60から真空引きをするので、容器収容チャンバ20にオゾンが残留するのを避けることができる。したがって、人体あるいは飲料の安全性が確保される。また、残留したオゾンは、容器収容チャンバ20内に大気があるとその中の水素、窒素と反応して硝酸を生成させ、容器収容チャンバ20を構成する金属部材を腐食させるおそれがある。したがって、オゾンの発生を防止することで、金属部材の腐食低減にも効果を発揮する。さらに、酸素排除部60から真空引きをすることで、他の異物の除去にも有効である。また、この真空引きの程度を制御することで、前述したペットボトルPB内の気圧の変動を制御することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは公知の他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、第1電子線偏向手段30を電磁石(電磁ソレノイド3)、第2電子線偏向手段37,38を永久磁石(第1永久磁石37,38a、第2永久磁石37,38b)から構成するものとしたが、これとは逆に、第1電子線偏向手段30を永久磁石、第2電子線偏向手段37,38を電磁石で構成することを本発明は許容する。
また、第2電子線偏向手段37,38は、容器収容チャンバ20の外側に設けたが、容器収容チャンバ20内に設けてもよい。
また、容器収容チャンバ20は、開放状態の一形態として下部21を降下させることで本体22から分離する構造としたが、観音開きする構造を採用することで、開放状態と閉塞状態をなすこともできる。
さらに、殺菌の対象となる容器もペットボトルPBに限らない。つまり、狭隘通路が存在していれば、ペットボトルPBよりも首部が長い例えばビール瓶のような容器、逆に首部が短く口部しかないものとみなせる容器など、種々の容器を対象にできる。狭隘通路が長い場合には、それに応じた軸線方向の長さを有する第1電子線偏向手段を用いる。この場合、一体の第1電子線偏向手段としてもよいし、軸線方向に分割された複数の第1電子線偏向手段としてもよい。
また、狭隘通路は開口面積が一定であるものに限らず、開口面積が拡がるものなど、種々の形態の容器を対象にできる。
【符号の説明】
【0033】
10…電子線殺菌システム
20…容器収容チャンバ
21…下部、22…本体
24…キャビティ、28…排気経路
30…第1電子線偏向手段
37,38…第2電子線偏向手段
37a,38a…第1永久磁石、37b,38b…第2永久磁石
40…電子線照射銃
41…銃本体、42…ノズル、44…電子生成器、51…出射口、52…電子線通路
60…酸素排除部、80…電源
PB…ペットボトル,M…口部,N…首部,O…狭隘通路
L1…酸素排除配管、L2…電力線
図1
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