特許第5738206号(P5738206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738206
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】炭酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/04 20060101AFI20150528BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20150528BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150528BHJP
【FI】
   C07C68/04 A
   C07C69/96 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-8981(P2012-8981)
(22)【出願日】2012年1月19日
(65)【公開番号】特開2012-162523(P2012-162523A)
(43)【公開日】2012年8月30日
【審査請求日】2014年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2011-10159(P2011-10159)
(32)【優先日】2011年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100089901
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 一男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公仁
(72)【発明者】
【氏名】中尾 憲治
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨重 圭一
(72)【発明者】
【氏名】中川 善直
【審査官】 吉田 直裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077113(JP,A)
【文献】 特開2009−132673(JP,A)
【文献】 特開2007−099717(JP,A)
【文献】 冨重圭一,二酸化炭素利用技術の現状と新展開 二酸化炭素とアルコールからの有機カーボネート直接合成,化学工学 ,2011年 7月 5日,Vol.75 No.7,Page.422-425
【文献】 田村正純, 本田正義, 中川善直, 冨重圭一,ニトリル水和反応を組み合わせたCeO2触媒によるCO2とメタノールからの炭酸ジメチル直接合成,日本化学会講演予稿集,2013年 3月 8日,Vol.93rd No.2,Page.474
【文献】 曽根原悟, 本田正義, 中川善直, 冨重圭一,ベンゾニトリル水和反応を組み合わせたアルコールとCO2からの有機カーボネート直接合成,石油・石油化学討論会講演要旨 ,2010年11月25日,Vol.40th,Page.41-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 68/04
C07C 69/96
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒と以下の式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造することを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
【化1】
(式中、X、Yは、各々C、Nから選ばれ、Cを少なくとも1原子含む。)
【化2】
(式中、ZはO、Sから選ばれる。)
【化3】
【化4】
(式中、RはCHCH、CH(CH、CH=CHから選ばれる。)
【請求項2】
固体触媒と以下の式(1)で表される化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する炭酸エステルの製造方法であって、
【化5】
(式中、X、Yは、各々C、Nから選ばれ、Cを少なくとも1原子含む。)
前記式(1)で表される化合物が、2−シアノピリジン、シアノピラジン、2−シアノピリミジンからなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
【請求項3】
固体触媒と以下の式(2)で表される化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する炭酸エステルの製造方法であって、
【化6】
(式中、ZはO、Sから選ばれる。)
前記式(2)で表される化合物が、チオフェン−2−カルボニトリル、2−フルオニトリルからなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記固体触媒と前記化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて、炭酸エステルと水を生成すると共に、前記化合物と前記生成した水との水和反応によりアミド化合物を生成させて、前記生成した水を反応系から除去又は低減することにより、前記炭酸エステルの生成を促進させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記固体触媒が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記一価アルコールがメタノールであり、炭酸エステルとして炭酸ジメチルを製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記反応時の圧力が5MPa以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記反応時の圧力が3MPa以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項9】
前記反応時の圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一価アルコールと二酸化炭素を、固体触媒の存在下で反応させて炭酸エステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルとは、炭酸CO(OH)の2原子の水素のうち1原子、あるいは2原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称であり、RO−C(=O)−OR’(R、R’は飽和炭化水素基や不飽和炭化水素基を表す)の構造を持つものである。
【0003】
炭酸エステルは、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料添加剤等の添加剤として使われるほか、ポリカーボネートやウレタン、医薬・農薬等の樹脂・有機化合物を合成する際のアルキル化剤、カルボニル化剤、溶剤等、あるいはリチウム電池の電解液、潤滑油原料、ボイラー配管の防錆用の脱酸素剤の原料として使われるなど、非常に有用な化合物である。
【0004】
従来の炭酸エステルの製造方法としては、ホスゲンをカルボニルソースとしてアルコールと直接反応させる方法が主流である。この方法は、極めて有害で腐食性の高いホスゲンを用いるため、その輸送や貯蔵等の取扱に細心の注意が必要であり、製造設備の維持管理及び安全性の確保のために多大なコストがかかっていた。また、本方法で製造する場合、原料や触媒中に塩素などのハロゲンが含まれており、得られる炭酸エステル中には、簡単な精製工程では取り除くことのできない微量のハロゲンが含まれる。ガソリン添加剤、軽油添加剤、電子材料向け用途にあっては、腐食の原因となる懸念も存在するため、微量に存在するハロゲンを極微量にするための徹底的な精製工程が必須となる。さらに、最近では、人体に極めて有害なホスゲンを利用することから、本製造方法での製造設備の新設が許可されないなど行政指導が厳しくなされてきており、ホスゲンを用いない新たな製造方法が強く望まれている。
【0005】
こうした中、非特許文献1に記載されているように、ホスゲンを用いない炭酸エステルの製造法として、二酸化炭素をエチレンオキシドなどと反応させて環状炭酸エステルを合成し、更にメタノールと反応させて炭酸ジメチルを得る方法が実用化されてきている。この方法は、塩酸などの腐食性物質を使用したり、発生することがほとんど無く、地球温暖化ガスとして削減を求められている二酸化炭素を骨格に入れることにより削減効果が期待できる環境にやさしい優れた方法である。しかしながら、特許文献1に記載されているように、副生するエチレングリコールなどの有効利用が大きな課題である。またエチレンオキシドの原料であるエチレンや、エチレンオキシドの安全な輸送は困難であるため、これらエチレンとエチレンオキシドの製造工程用プラントに隣接して炭酸エステル製造工程用プラントを立地しなければならないといった制約もある。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、メタノールと一酸化炭素を塩化第一銅触媒の存在下、液相で酸素酸化することで炭酸ジメチルを製造する方法も開示されている。しかし、本方法では人体に有害な一酸化炭素を取り扱うことや、ホスゲンを用いる製造法と同様、触媒中にハロゲンを含むことにより、得られる炭酸エステルからのハロゲンの精製工程が必須であること、COが少なからず副生するなどの問題が指摘されている。
【0007】
さらに、非特許文献2に記載されているように、メチルナイトライトと一酸化炭素からPd−Cu系触媒存在下、炭酸ジメチルを製造する方法も実用化されている。本方法では、原料となるメチルナイトライトを炭酸ジメチル製造時に副生する一酸化窒素にメタノールと酸素を反応させて生成するという方法で供給するものであり、プロセスが複雑であることや、人体に有害な一酸化炭素を取り扱うことなどの課題がある。
【0008】
それに対し、メタノールと二酸化炭素を固体触媒存在下で反応させて炭酸エステルを直接合成しようとする試みがなされている(非特許文献3)。しかし、本反応は平衡反応であるが、平衡が原料系に大きく偏っているため、メタノール転化率が高々1%程度に留まり、反応率、生産性が低いという克服すべき大きな課題があった。
【0009】
上記の課題を解決すべく、炭酸エステル(炭酸ジメチル)と共に副生する水を系外へ除いて反応制約を解除しようとする試みがなされ、例えば触媒と共に水和剤としてアセタール(非特許文献4)、2,2−ジメトキシプロパン(非特許文献5)を用いた研究が報告されている。しかしながら、この方法では、反応圧力が高くなるに従って反応が進行する特性を有し、低圧では反応収率が非常に低く、極めて高圧でないと高い生産性が得られない。これは、アセタール、2,2−ジメトキシプロパンの水和反応は液相で触媒作用を受けずに進行すると予想されることからCO圧力には依存せず、炭酸ジメチル直接合成反応の反応速度が全体の反応速度を決定するためと推察されるが、反応圧力が各々300気圧(30MPa)、60気圧(6MPa)という高圧でメタノール転化率が高くなるため、昇圧に必要な動力エネルギーが非常に大きくなりエネルギー効率が悪くなるなどの問題があった。
【0010】
また、モレキュラーシーブ(固体脱水剤)を用いた研究(非特許文献6)が報告されているが、反応部(高圧)と脱水部(常圧)を分離して循環させるプロセスになることからエネルギー消費が大きく、また大量の固体脱水剤を必要とする問題点があった。
【0011】
尚、炭酸エステルの直接合成反応に用いられる固体触媒は、これまでにジメトキシジブチルスズ等のスズ化合物、タリウムメトキシド等のタリウム化合物、酢酸ニッケル等のニッケル化合物、五酸化バナジウム、炭酸カリウム等のアルカリ炭酸塩、及び、Cu/SiO等種々の化合物が検討されている。
【0012】
一方、水和剤としてアセトニトリルを用いた反応として、固体触媒存在下、二価アルコールであるプロピレングリコールと二酸化炭素から環状炭酸エステル(プロピレンカーボネート)を直接合成する反応系に関する研究が報告されている(非特許文献7)。しかし、本反応系でも反応圧力の影響が顕著で、反応圧力が高くなるにしたがって反応が進行する特性を有し、低圧では反応収率が極端に低いが、環状炭酸エステルの直接合成反応が平衡的に有利な高圧で収率が上昇し、反応圧力は100気圧以上が望ましいことが確認され、上記と同様エネルギー効率が悪くなるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2004/014840号公報
【特許文献2】EP365,083号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】化学工学 第68巻 第1号 41頁(2004)
【非特許文献2】触媒,vol.36,p.127(1994)
【非特許文献3】Catal. Lett., vol.58(1999)など
【非特許文献4】Polyhedron, vol.19,p.573(2000)
【非特許文献5】Appl. Catal. A Gen,vol.237,p.103(2002)
【非特許文献6】ECO INDUSTRY, vol.6,p.11(2001)
【非特許文献7】Catalysts Letters, vol.112,p.187(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、アルコールと二酸化炭素を固体触媒存在下で反応させて炭酸エステルを直接合成する際に、圧力が比較的低い温和な反応条件下でも、高い反応率を可能にする炭酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、炭酸エステルの製造に際し、一価アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを直接合成する方法に着目し、炭酸エステルと共に副生する水を系外へ除く水和剤として、アセトニトリル、ベンゾニトリルを用いることにより、非特許文献4、5に記載されているような30MPa(300気圧)や6MPa(60気圧)といった高圧は不要で、常圧に近い圧力下で反応が促進されるという効果を初めて見出し、特許出願した(特開2009−132673号公報、特開2010−77113号公報)。
【0017】
本発明者は、上記知見に基づき更に研究を進めた結果、水和剤としてアセトニトリルを用いた場合には、アセトアミド等の副生物が生成し、それらの用途も限定される場合があることが判明した。そこで、アセトニトリルの代わりにベンゾニトリルを用いたところ、アセトニトリルの場合と同様に、反応系の圧力が常圧に近い圧力下で反応がより進行する現象が見られるのみならず、副生物の種類も少ないことを見出した。また、主な副生物であるベンズアミド自体も多くの用途があることが判明したが、工業化の観点からは反応速度をより高くする必要があった。
【0018】
上記知見を元に、本発明者らは、更に水和剤の種類について鋭意検討を進めたところ、六員環又は五員環の炭素原子の一部が窒素又は酸素、硫黄元素で置換された化合物(例えば、2−シアノピリジン、シアノピラジン、2−シアノピリミジンなどの六員環含窒素化合物や、チオフェン−2−カルボニトリル、2−フルオニトリルなどの五員環含硫黄、含酸素化合物)のいずれかを用いることで、常圧に近い比較的低い圧力下で反応が進行しやすく、且つ、反応速度が非常に速いことを見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
また、固体触媒として触媒を構成する元素、組成に着目して鋭意検討したところ、酸性度が比較的低く塩基性度が比較的高い酸塩基複合機能を有する固体触媒が、水和剤にベンゾニトリルを用いた場合、固体触媒存在下で水和反応によりベンズアミドを生成する反応が促進されて反応系からの脱水が効率よく進み、比較的低圧の温和な条件下でも反応平衡制約を受けることなく炭酸エステルを高い収率で得られることを見出した。さらに、このような触媒の中でも、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物の一種または二種以上からなる酸化物が非常に有効であることを見出し、本発明に至った。
【0020】
本発明について、以下に、その特徴(ないし、本発明が含むことができる態様)を示す。
【0021】
(1)固体触媒と以下の式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造することを特徴とする炭酸エステルの製造方法である。
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、X、Yは、各々C、Nから選ばれ、Cを少なくとも1原子含む。)
【0024】
【化2】
【0025】
(式中、ZはO、Sから選ばれる。)
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
(式中、RはCHCH、CH(CH、CH=CHからなる群から選ばれる。)
【0029】
(2)固体触媒と以下の式(1)で表される化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する炭酸エステルの製造方法であって、
【0030】
【化5】
【0031】
(式中、X、Yは、各々C、Nから選ばれ、Cを少なくとも1原子含む。)
前記式(1)で表される化合物が、2−シアノピリジン、シアノピラジン、2−シアノピリミジンからなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする炭酸エステルの製造方法である。
【0032】
(3)固体触媒と以下の式(2)で表される化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する炭酸エステルの製造方法であって、
【0033】
【化6】
【0034】
(式中、ZはO、Sから選ばれる。)
【0035】
前記式(2)で表される化合物が、チオフェン−2−カルボニトリル、2−フルオニトリルからなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0036】
(4)前記固体触媒と前記化合物の存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて、炭酸エステルと水を生成すると共に、前記化合物と前記生成した水との水和反応によりアミド化合物を生成させて、前記生成した水を反応系から除去又は低減することにより、前記炭酸エステルの生成を促進させることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0037】
(5)前記固体触媒が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0038】
(6)前記一価アルコールがメタノールであり、炭酸エステルとして炭酸ジメチルを製造することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0039】
(7)前記反応時の圧力が5MPa以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0040】
(8)前記反応時の圧力が3MPa以下であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【0041】
(9)前記反応時の圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とする(1)〜(6) のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、一価アルコールと二酸化炭素を比較的圧力の低い温和な条件下で反応させて、高い反応速度且つ高い反応率で炭酸エステルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、具体例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の炭酸エステルの製造方法は、固体触媒と前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の存在下、一価アルコールと二酸化炭素を直接反応させて炭酸エステルを生成するものである。一価アルコールと二酸化炭素を反応させると炭酸エステルの他に水も生成するが、前記化合物が存在することで、生成した水との水和反応によりアミド化合物を生成し、生成した水を反応系から除去又は低減することで、炭酸エステルの生成を促進させることが可能となる。
【0044】
【化7】
【0045】
ここで、一価アルコールとしては、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのうち一種又は二種以上から選ばれたいずれのアルコールも用いることができる。
【0046】
また、固体触媒としては、従来検討されているスズ化合物、タリウム化合物、ニッケル化合物、バナジウム化合物、Cu/SiO、アルカリ炭酸塩などの触媒でも良いが、特に酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物の一種または二種以上からなるものが好適である。
【0047】
本発明者らが鋭意検討した結果、炭酸エステル直接合成に用いる触媒は、酸塩基複合機能を有することが必要であり、特に酸性度が比較的低く且つ塩基性度が比較的高い性質を有することが好ましい。酸性度が高すぎると、炭酸エステルよりもむしろエーテルを多量に合成することになり好ましくない。適度な酸塩基複合機能触媒においては、塩基性点上でR−O−M(Mは触媒)の形でアルコールが解離吸着し、COとの間でRO−C(=O)−O…Mを形成し、他方、酸性点上ではHO−R…Mの形でアルコールが吸着し、両吸着種の間でRO−C(=O)−ORが生成される機構が考えられる。
【0048】
次に、本反応系の触媒として望ましい比較的低い酸性度且つ比較的高い塩基性度の酸性度及び塩基性度に関する測定方法を以下に示す。
【0049】
酸性度は、一般に、対象とする化合物に室温又は前処理後の降温過程でNH雰囲気下に曝してNHを吸着させた後、TPD(温度制御脱着)法と呼ばれる温度を一定速度で昇温させた際に脱着したNH量を定量することで測定できる。
【0050】
一方、塩基性度は、一般に、上記酸性度測定法で用いたNHの代わりにCOを用い、TPDにより脱着したCO量を定量することにより測定できる。このようにして測定可能な比較的低い酸性度且つ比較的高い塩基性度を有する化合物として、酸化スズや酸化チタン、酸化ニッケルなどの各種金属塩の固体触媒が好適であるが、上記の酸性度と塩基性度のバランスが最も取れていると考えられる酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物の一種または二種以上からなることが、より一層好適である。
【0051】
また、この固体触媒は、メカニズムは明らかではないが、炭酸エステル合成時に副生する水と前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の水和反応に対しても触媒活性を示すものと思われる。従って、本触媒表面上では炭酸エステル合成反応と水和反応の両者が進行する状態になるが、炭酸エステルの合成反応には平衡的に不利な低圧の条件下でも、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の水和反応は触媒作用を受けて進行し、炭酸エステルの合成反応で副生した水を触媒表面から速やかに脱離することにより炭酸エステルの合成反応の平衡が生成系にシフトして、反応圧力の低い温和な条件下でも炭酸エステル合成反応が平衡制約を受けることなく炭酸エステルの高い反応率を可能にするものと推察する。逆に高圧下では、触媒表面に多量のCO分子が吸着するために、炭酸エステル合成時に生成する水分子との接触が困難になるため、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物との水和反応が進行しにくくなり、平衡制約に近い状態でしか炭酸エステルを生産することができず、結果的に高圧下では生産性が高くならなくなるものと考えられる。
【0052】
上記推察に関し、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の反応の観点から説明すれば、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物は、液相で本発明における固体触媒の触媒作用を受けて、その表面で水和反応が促進される。従って、高圧になると固体触媒の表面がCOで覆われてしまい、主反応で生成した水分子との水和反応に対して触媒作用を受けにくい状態になるため、水和反応速度が低下するものと推察される。一方、非特許文献4、非特許文献5に記載されたアセタールや2,2−ジメトキシプロパンは、液相で触媒作用を何ら受けず、主反応で生成した水分子と水和反応を起こす。従って、主反応が高圧で優位に進行するため、高圧下で水和反応が起こりはじめるものと推察される。
【0053】
また、本発明の触媒の製造法について、下記に例を挙げると、先ず、酸化セリウム(CeO)の場合は、セリウムアセチルアセトナート水和物や水酸化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、炭酸セリウム、蓚酸セリウム、過塩素酸セリウム、燐酸セリウム、ステアリン酸セリウムなどの各種セリウム化合物を空気雰囲気下で焼成することにより調製できる。また試薬の酸化セリウムを用いる場合は、そのまま若しくは空気雰囲気下で乾燥または焼成することでも使用できる。さらに、セリウムを溶解させた溶液から沈殿させ、濾過、乾燥、焼成することでも使用できる。
【0054】
一方、酸化ジルコニウム(ZrO)の場合は、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムブトキシド、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、酸化二硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなどの各種ジルコニウム化合物を空気雰囲気下で焼成することにより調製できる。また試薬の酸化ジルコニウムを用いる場合は、そのまま若しくは空気雰囲気下で乾燥または焼成することでも使用できる。さらに、ジルコニウムを溶解させた溶液から沈殿させ、濾過、乾燥、焼成することでも使用できる。
【0055】
また、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物の場合は、セリウムとジルコニウムを含んだ溶液に塩基を添加して共沈により水酸化物を形成後、濾過、水洗したものを空気雰囲気下で乾燥、焼成することにより調製できる。また、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの粉末同士を物理混合して焼成することでも調製できるが、最終調製品の比表面積が高くならないため、反応がより進み易い共沈法が好ましい。
【0056】
これらの方法により、具体的にはCeO−ZrOのような酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる固体触媒を得ることができる。尚、酸化セリウムからなる触媒や酸化ジルコニウムからなる触媒を調製する場合を含めて、これら各触媒の調製時の焼成温度は、最終調製品の比表面積が高くなる温度を選択することが好ましく、出発原料にもよるが、例えば300℃から1100℃が好ましい。また、本発明による固体触媒については、上記の元素以外に触媒製造工程等で混入する不可避的不純物を含んでも構わないが、できるだけ不純物が混入しないようにするのが望ましい。
【0057】
ここで本発明の触媒は、粉体、または成型体のいずれの形態であってもよく、成型体の場合には球状、ペレット状、シリンダー状、リング状、ホイール状、顆粒状などいずれでもよい。
【0058】
また、本発明で用いる二酸化炭素は、工業ガスとして調製されたものだけでなく、各製品を製造する工場や製鉄所、発電所等からの排出ガスから分離回収したものも用いることができる。
【0059】
次に、本発明の固体触媒を用いた炭酸エステルの直接合成反応は、回分反応器、半回分反応器や連続槽型反応器、管型反応器のような流通反応器のいずれを用いてもよい。
【0060】
反応温度としては、50〜300℃とすることが好ましい。反応温度が50℃未満の場合は、反応速度が低く、炭酸エステル合成反応、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物による水和反応共にほとんど進行せず、炭酸エステルの生産性が低い傾向がある。また反応温度が300℃を超える場合は、各反応の反応速度は高くなるが、炭酸エステルや水和反応により得られるアミドのモノマーが他のモノマーに変性したり、高分子化を起こしやすくなるため、炭酸エステルの収率が低くなる傾向がある。さらに好ましくは100〜300℃である。但し、この温度は固体触媒の種類や量、原料(一価アルコール、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物)の量や比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。
【0061】
反応圧力としては、0.1〜5MPa(絶対圧)とすることが好ましい。反応圧力が0.1MPa(絶対圧)未満の場合は、減圧装置が必要となり、設備が複雑且つコスト高になるだけでなく、減圧にするための動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また反応圧力が5MPaを超える場合は、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物による水和反応が進行しにくくなって炭酸エステルの収率が悪くなるばかりでなく、昇圧に必要な動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また、炭酸エステルの収率を高くする観点から、反応圧力は0.1〜3MPa(絶対圧)がより好ましく、0.1〜1MPa(絶対圧)がさらに好ましい。
【0062】
さらに、前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物による水和反応では、アミド化合物が副生する場合がある。さらにアミド化合物が原料の一価アルコールと反応してエステル化合物を副生する場合がある。アミド化合物は、エンジニアリングプラスチック用途、神経系用剤等の医薬用途、除草剤等の農薬用途などでよく用いられることが一般に知られている。この中から目的とする炭酸エステルを単離する場合には、各化合物の沸点差を利用した蒸留操作が好適に用いられるが、他の手法でも構わない。また、反応時間については、最適条件を適宜設定することが望ましい。
【0063】
また水和反応に用いる前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物は、原料のアルコールの体積の0.1倍以上1倍以下で反応前に予め反応器中に導入するのが望ましい。0.1倍未満で導入した場合には、水和反応に寄与する前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物量が少ないために炭酸エステルの収率が悪くなる恐れがある。一方1倍を超えて導入した場合には、反応終了後、生成物である炭酸エステルと反応に関与しなかった多量の前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物との分離が困難になることや、必要以上に多量に加えることは経済的でない。さらに、固体触媒に対する一価アルコール及び前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の量は、固体触媒の種類や量、一価アルコールの種類や前記式(1)〜式(4)からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物との比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0065】
(実施例1)
酸化セリウム(第一稀元素製:不純物濃度0.02%以下)を873Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。そこで、190mlのオートクレーブ(反応器)に磁気攪拌子、上記固体触媒(1mmol)、メタノール(100mmol)及び2−シアノピリジン(20mmol)を導入し、約5gのCOでオートクレーブ内の空気を3回パージした後、所定の量のCOを導入・昇圧した。そのオートクレーブをバンドヒーター、ホットスターラーにより363Kまで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。363Kで2時間反応させた後、オートクレーブを水冷し、室温まで冷えたら減圧して内部標準物質の2−プロパノールを加え、生成物を採取し、GC(ガスクロマトグラフィー)で分析した。このようにして、COの導入量及び反応圧力を変えて表1に示す試験No.1〜9の実験を行った。
【0066】
【表1】
【0067】
以上の結果より、比較的低い圧力下の1〜2MPaで炭酸ジメチル(DMC)生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.1〜9の実験では全く検出されなかった。また、No.9に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0068】
(実施例2)
2−シアノピリジン(CP)を下記表2に示すような量にする他は実施例1と同様にして、反応圧力が1MPaになるようにCO量を80mmol導入した後、383Kで2h反応を行った。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
以上の結果より、炭酸ジメチルの生成量は2−シアノピリジンの添加量と共に増加し、非常に速い反応速度で反応が進行することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.13、14で0.3〜0.4mmol程度の僅かの量だけメチルピコリネートが生成された。
【0071】
(実施例3)
2−シアノピリジン(CP)を用い、下記表3に示すような反応温度にする他は実施例1と同様にして、反応圧力が1MPaになるようにCO量を80mmol導入した後、各温度で2h反応を行った。その結果を表2に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
以上の結果より、393Kで炭酸ジメチルの生成量が最も多く、非常に速い反応速度で反応が進行することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は403K以上の温度のNo.20、21、22、23で温度が高くなるほどメチルピコリネートが0.6mmolから4mmolまで徐々に増加した。
【0074】
(実施例4)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、反応温度を393K、反応圧力が5MPaになるようにCO量を400mmol、脱水剤として2−シアノピリジンを50mmol反応器へ導入し、反応時間を表3に示すように他は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、12h経過後はほぼ一定となり、12hでほぼ反応が終了することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.27〜29で0.2〜1mmol程度の僅かの量だけメチルピコリネート及びメチルカーバメートが生成された。
【0077】
(実施例5)
反応圧力が1MPaになるようにCO量を80mmol導入し、反応時間を下記表5に示すようにする他は実施例4と同様にして、393Kで反応を行った。その結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜4hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜4hでほぼ反応が終了することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であったが、それ以外の副生物は反応時間と共に増加し、0.7〜11mmol程度まで生成された。
【0080】
(実施例6)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、脱水剤として2−シアノピラジンを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
以上の結果より、本条件下では、実施例5の2−シアノピリジンを用いた場合と同様、炭酸ジメチルは反応時間2h〜8hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜8hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0083】
(実施例7)
脱水剤として2−シアノピリミジンを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
以上の結果より、本条件下では、実施例4の2−シアノピリジンを用いた場合と同様、炭酸ジメチルは反応時間2h〜4hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜4hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0086】
(実施例8)
脱水剤としてチオフェン−2−カルボニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜16hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、12〜16hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0089】
(実施例9)
脱水剤として2−フルオロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表9に示す。
【0090】
【表9】
【0091】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0092】
(実施例10)
脱水剤としてプロピオニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表10に示す。
【0093】
【表10】
【0094】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0095】
(実施例11)
脱水剤としてブチロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表11に示す。
【0096】
【表11】
【0097】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、4〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0098】
(実施例12)
脱水剤としてアクリロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表12に示す。
【0099】
【表12】
【0100】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜8hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、2〜8hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0101】
(実施例13)
脱水剤としてフェニルアセトニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表13に示す。
【0102】
【表13】
【0103】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0104】
(実施例14)
酸化ジルコニウム(ナカライテスク製:不純物濃度0.08%以下)を673Kで空気雰囲気下、3時間焼成したほかは、実施例1と同様にして実験した。尚、この場合は反応温度を443Kにて行った。その結果を表14に示す。
【0105】
【表14】
【0106】
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.88に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0107】
(実施例15)
硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムをセリウムが20原子量%となるように溶解させた溶液に水酸化ナトリウムを導入して沈殿物を生成させた後、この沈殿物を濾過、水洗した後、1273Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。それ以外は実施例1と同様にして実験した。尚、この場合、反応温度は443Kにて行った。その結果を表15に示す。
【0108】
【表15】
【0109】
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.93に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0110】
(実施例16)
メタノールの代わりにエタノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表16に示す。
【0111】
【表16】
【0112】
以上の結果より、炭酸ジメチルほどではないが、炭酸ジエチル(DEC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDECとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.98に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0113】
(実施例17)
メタノールの代わりにプロパノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表17に示す。
【0114】
【表17】
【0115】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルほどではないが、炭酸ジプロピル(DPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDPCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.103に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0116】
(実施例18)
メタノールの代わりにイソプロパノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表18に示す。
【0117】
【表18】
【0118】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルほどではないが、炭酸ジイソプロピル(DIPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDIPCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.108に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0119】
(実施例19)
メタノールの代わりにt−ブチルアルコールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表19に示す。
【0120】
【表19】
【0121】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピルほどではないが、炭酸ジターシャリーブチル(DTBC)の生成量は低圧ほど多く、比較的高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDTBCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.113に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0122】
(比較例1)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、且つ2−シアノピリジンを用いないほかは実施例1と同様にして実験した。その結果を表20に示す。
【0123】
【表20】
【0124】
以上の結果より、2−シアノピリジンを用いない場合には、炭酸ジメチル直接合成反応の平衡制約により、反応圧力が高くなるほど反応は進行したが、DMC生成量は実施例1に比べてごくわずかにとどまった。
【0125】
(比較例2)
2−シアノピリジンの代わりに2,2−ジメトキシプロパンを20mmol用いたほかは実施例1と同様にして実験した。その結果を表21に示す。
【0126】
【表21】
【0127】
以上の結果より、低圧ではDMC生成量が実施例1に比べて極めて少なかったが、10MPaという高圧で僅かの生産量を示した。
【0128】
尚、上記実施例では、炭酸エステルと、副生物として炭酸エステルとほぼ同量のアミド化合物、及び若干のメチルカーバメート等が生じたが、蒸留により、目的生成物である炭酸エステル、及び、副生物であり医薬、農薬の原料として利用できる2−ピコリンアミド等を各々単独で回収することができた。
【0129】
上記実施例では、固体触媒として酸化セリウム(CeO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物(CeO−ZrO)に限定して記述したが、2−シアノピリジン、2−シアノピラジン、2−シアノピリミジン、チオフェン−2−カルボニトリル、2−フルオロニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、フェニルアセトニトリルを水和剤として添加する本発明においては、他の固体触媒、特に、酸性度が比較的低く塩基性度が比較的高い酸塩基複合機能を有する固体触媒でも同様に、比較的低圧下においても炭酸エステルの製造を効率よく行うことが可能である。