【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0065】
(実施例1)
酸化セリウム(第一稀元素製:不純物濃度0.02%以下)を873Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。そこで、190mlのオートクレーブ(反応器)に磁気攪拌子、上記固体触媒(1mmol)、メタノール(100mmol)及び2−シアノピリジン(20mmol)を導入し、約5gのCO
2でオートクレーブ内の空気を3回パージした後、所定の量のCO
2を導入・昇圧した。そのオートクレーブをバンドヒーター、ホットスターラーにより363Kまで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。363Kで2時間反応させた後、オートクレーブを水冷し、室温まで冷えたら減圧して内部標準物質の2−プロパノールを加え、生成物を採取し、GC(ガスクロマトグラフィー)で分析した。このようにして、CO
2の導入量及び反応圧力を変えて表1に示す試験No.1〜9の実験を行った。
【0066】
【表1】
【0067】
以上の結果より、比較的低い圧力下の1〜2MPaで炭酸ジメチル(DMC)生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.1〜9の実験では全く検出されなかった。また、No.9に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0068】
(実施例2)
2−シアノピリジン(CP)を下記表2に示すような量にする他は実施例1と同様にして、反応圧力が1MPaになるようにCO
2量を80mmol導入した後、383Kで2h反応を行った。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
以上の結果より、炭酸ジメチルの生成量は2−シアノピリジンの添加量と共に増加し、非常に速い反応速度で反応が進行することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.13、14で0.3〜0.4mmol程度の僅かの量だけメチルピコリネートが生成された。
【0071】
(実施例3)
2−シアノピリジン(CP)を用い、下記表3に示すような反応温度にする他は実施例1と同様にして、反応圧力が1MPaになるようにCO
2量を80mmol導入した後、各温度で2h反応を行った。その結果を表2に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
以上の結果より、393Kで炭酸ジメチルの生成量が最も多く、非常に速い反応速度で反応が進行することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は403K以上の温度のNo.20、21、22、23で温度が高くなるほどメチルピコリネートが0.6mmolから4mmolまで徐々に増加した。
【0074】
(実施例4)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、反応温度を393K、反応圧力が5MPaになるようにCO
2量を400mmol、脱水剤として2−シアノピリジンを50mmol反応器へ導入し、反応時間を表3に示すように他は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、12h経過後はほぼ一定となり、12hでほぼ反応が終了することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物はNo.27〜29で0.2〜1mmol程度の僅かの量だけメチルピコリネート及びメチルカーバメートが生成された。
【0077】
(実施例5)
反応圧力が1MPaになるようにCO
2量を80mmol導入し、反応時間を下記表5に示すようにする他は実施例4と同様にして、393Kで反応を行った。その結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜4hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜4hでほぼ反応が終了することが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDMCとほぼ同量であったが、それ以外の副生物は反応時間と共に増加し、0.7〜11mmol程度まで生成された。
【0080】
(実施例6)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、脱水剤として2−シアノピラジンを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
以上の結果より、本条件下では、実施例5の2−シアノピリジンを用いた場合と同様、炭酸ジメチルは反応時間2h〜8hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜8hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0083】
(実施例7)
脱水剤として2−シアノピリミジンを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
以上の結果より、本条件下では、実施例4の2−シアノピリジンを用いた場合と同様、炭酸ジメチルは反応時間2h〜4hで生成量が頭打ちになり、それ以降逆に低下する傾向が見られ、2〜4hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0086】
(実施例8)
脱水剤としてチオフェン−2−カルボニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜16hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、12〜16hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0089】
(実施例9)
脱水剤として2−フルオロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表9に示す。
【0090】
【表9】
【0091】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0092】
(実施例10)
脱水剤としてプロピオニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表10に示す。
【0093】
【表10】
【0094】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0095】
(実施例11)
脱水剤としてブチロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表11に示す。
【0096】
【表11】
【0097】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、4〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0098】
(実施例12)
脱水剤としてアクリロニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表12に示す。
【0099】
【表12】
【0100】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜8hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、2〜8hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0101】
(実施例13)
脱水剤としてフェニルアセトニトリルを50mmol用いる他は全て実施例5と同様にして反応を行った。その結果を表13に示す。
【0102】
【表13】
【0103】
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間2h〜12hで生成量が増加したが、それ以降はほぼ一定となり、8〜12hでほぼ反応が終了することが確認された。
【0104】
(実施例14)
酸化ジルコニウム(ナカライテスク製:不純物濃度0.08%以下)を673Kで空気雰囲気下、3時間焼成したほかは、実施例1と同様にして実験した。尚、この場合は反応温度を443Kにて行った。その結果を表14に示す。
【0105】
【表14】
【0106】
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.88に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0107】
(実施例15)
硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムをセリウムが20原子量%となるように溶解させた溶液に水酸化ナトリウムを導入して沈殿物を生成させた後、この沈殿物を濾過、水洗した後、1273Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。それ以外は実施例1と同様にして実験した。尚、この場合、反応温度は443Kにて行った。その結果を表15に示す。
【0108】
【表15】
【0109】
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の生成量はDMCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.93に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0110】
(実施例16)
メタノールの代わりにエタノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表16に示す。
【0111】
【表16】
【0112】
以上の結果より、炭酸ジメチルほどではないが、炭酸ジエチル(DEC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDECとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.98に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0113】
(実施例17)
メタノールの代わりにプロパノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表17に示す。
【0114】
【表17】
【0115】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルほどではないが、炭酸ジプロピル(DPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDPCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.103に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0116】
(実施例18)
メタノールの代わりにイソプロパノールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表18に示す。
【0117】
【表18】
【0118】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルほどではないが、炭酸ジイソプロピル(DIPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDIPCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.108に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0119】
(実施例19)
メタノールの代わりにt−ブチルアルコールを用いたほかは、実施例1と同様にして実験した。その結果を表19に示す。
【0120】
【表19】
【0121】
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピルほどではないが、炭酸ジターシャリーブチル(DTBC)の生成量は低圧ほど多く、比較的高収率で得られることが確認された。また副生物の2−ピコリンアミドの生成量はDTBCとほぼ同量であり、それ以外の副生物は全く検出されなかった。さらに、No.113に示したように、反応圧力が高くなりすぎると、DMC生成量が大きく低下してしまった。
【0122】
(比較例1)
固体触媒の酸化セリウムを0.17g(1mmol)用い、且つ2−シアノピリジンを用いないほかは実施例1と同様にして実験した。その結果を表20に示す。
【0123】
【表20】
【0124】
以上の結果より、2−シアノピリジンを用いない場合には、炭酸ジメチル直接合成反応の平衡制約により、反応圧力が高くなるほど反応は進行したが、DMC生成量は実施例1に比べてごくわずかにとどまった。
【0125】
(比較例2)
2−シアノピリジンの代わりに2,2−ジメトキシプロパンを20mmol用いたほかは実施例1と同様にして実験した。その結果を表21に示す。
【0126】
【表21】
【0127】
以上の結果より、低圧ではDMC生成量が実施例1に比べて極めて少なかったが、10MPaという高圧で僅かの生産量を示した。
【0128】
尚、上記実施例では、炭酸エステルと、副生物として炭酸エステルとほぼ同量のアミド化合物、及び若干のメチルカーバメート等が生じたが、蒸留により、目的生成物である炭酸エステル、及び、副生物であり医薬、農薬の原料として利用できる2−ピコリンアミド等を各々単独で回収することができた。
【0129】
上記実施例では、固体触媒として酸化セリウム(CeO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物(CeO
2−ZrO
2)に限定して記述したが、2−シアノピリジン、2−シアノピラジン、2−シアノピリミジン、チオフェン−2−カルボニトリル、2−フルオロニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、フェニルアセトニトリルを水和剤として添加する本発明においては、他の固体触媒、特に、酸性度が比較的低く塩基性度が比較的高い酸塩基複合機能を有する固体触媒でも同様に、比較的低圧下においても炭酸エステルの製造を効率よく行うことが可能である。