特許第5738222号(P5738222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738222希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738222
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20150528BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150528BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150528BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 A
   H01M4/62 Z
   C01B31/02 101F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-53317(P2012-53317)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-137981(P2013-137981A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2012年3月9日
(31)【優先権主張番号】201110443766.3
(32)【優先日】2011年12月27日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512061984
【氏名又は名称】チュン ウィンストン
【氏名又は名称原語表記】CHUNG, Winston
(74)【代理人】
【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】チュン ウィンストン
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−234338(JP,A)
【文献】 特表2012−533862(JP,A)
【文献】 特開2006−252999(JP,A)
【文献】 W. Zheng et al.,Novel nanosized adsorbing sulfer composite cathode materials for the advanced secondary lithium batteries,Electrochimica Acta,2006年 1月 5日,Vol.51,P.1330-1335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/00−10/0587
C01B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の重量組成比が、
カーボンナノチューブ: 1〜2
昇華した硫黄: 5
酸化イットリウム: 0.67〜0.78となるように構成され、硫黄がカーボンナノチューブ内に吸入されていることを特徴とする希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材。
【請求項3】
(1)重量比がカーボンナノチューブ=1〜2、昇華した硫黄=5となるように秤量するステップと、
(2)ステップ(1)のカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物に濃度65%以上のアルコールを重量比が2:1となるように追加し、少なくとも10時間のボールミルによる混合を行うステップと、
(3)ステップ(2)でボールミルにより混合したカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を、90〜100℃で、流れているN気体による保護状態において8〜24時間乾燥させるステップと、
(4)ステップ(3)で乾燥されたカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を−0.1〜−0.5atmosのマイナス圧力条件下において、200℃〜300℃で一回目の5時間以上のか焼処理を行うことにより、溶融硫黄で覆われたカーボンナノチューブ複合材料を得るステップと、
(5)ステップ(4)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を重量比が2:1となるように濃度が65%以上のアルコール媒介に入れて、カーボンナノチューブ複合材料の粒度が1ミクロン以下となるように、高速研磨機で研磨するステップと、
(6)ステップ(5)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を、90〜100℃で、流れているN気体による保護状態において8〜24時間乾燥させるステップと、
(7)ステップ(6)で乾燥されたカーボンナノチューブ複合材料を流れているアルゴンガス雰囲気において、300℃〜400℃で2回目の5時間以上のか焼処理を行うことにより、カーボンナノチューブ−硫黄複合材料を得るステップと、
(8)ステップ(7)のカーボンナノチューブ−硫黄複合材料に9:1の比率で酸化イットリウムをドーピングしてから、気流粉砕及び分級を行うことにより、粒のサイズが1ミクロン以下の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を得るステップと、を含むことを特徴とする希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極材に関し、特に希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材及びその製造方法に関するものであり、希土類リチウムイオン電池材料の製造という技術分野に所属する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、特性に優れる新世代のグリーン・高エネルギー電池であり、ハイテク発展の重要なコンテンツの一つとなっている。リチウムイオン電池は高電圧、高容量、低消費、メモリー効果無し、公害を引き起こさず、体積が小さく、内部抵抗が小さく、自己放電が少なく、サイクル回数が多いなどの特徴を有する。現在、リチウムイオン電池の応用分野は、携帯電話、ノートパソコン、ビデオ、デジタルカメラなどの汎用製品から、電気自動車及び軍事領域へ延ばしていくようになっている。リチウムイオン電池の主要な構成材料には、電解液、隔離材料、正負極材などが含まれている。正極材が比較的大きな比率(正負極材の質量比は3:1〜4:1)を占めるため、正極材の特性がリチウムイオン電池の特性に直接に影響を与え、そのコストも電池原価の決定的な要素となっている。
【0003】
従来のリチウムイオン電池の正極材は、一般的に、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウムまたは三元系材料であるニッケル−マンガン酸リチウムより構成されている。これらの材料のすべてには比エネルギーの不足という欠点が存在するため、益々発展していく自動車等の応用における動力電池の要求を満たされなくなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術的課題は、前記従来の技術における欠陥を補うため、比エネルギー密度が高く、サイクル特性が良く、原価が安く、環境保護に有利であるなどの利点を有する希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を提供することである。
【0005】
本発明が解決しようとするもう一つの技術的課題は、希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製造方法を提供することである。
【0006】
本発明の第一の技術的課題は次の技術的手段により解決される。
【0007】
当該希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、以下の重量組成材料により構成され、硫黄がカーボンナノチューブ内に吸入されている
カーボンナノチューブ 1〜2
昇華した硫黄 5
酸化イットリウム 0.67〜0.78
【0008】
本発明の第一の技術的課題は、さらに次の技術的手段により解決される。
【0009】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0010】
本発明の第二の技術的課題は次の技術的手段により解決される。
【0011】
当該希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製作方法は、
(1)重量比がカーボンナノチューブ=1〜2、昇華した硫黄=5となるように秤量するステップと、
(2)ステップ(1)のカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物に濃度が65%以上のアルコールを重量比が2:1となるように追加し、少なくとも10時間のボールミルによる混合を行うステップと、
(3)ステップ(2)でボールミルにより混合したカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を、90〜100℃で、流れているN気体による保護状態において8〜24時間乾燥させるステップと、
(4)ステップ(3)で乾燥されたカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を−0.1〜−0.5atmosのマイナス圧力条件下において、200℃〜300℃で一回目の5時間以上のか焼処理を行うことにより、溶融硫黄で覆われたカーボンナノチューブ複合材料を得るステップと、
(5)ステップ(4)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を重量比が2:1となるように濃度が65%以上のアルコール媒介に入れて、カーボンナノチューブ複合材料の粒度が1ミクロン以下となるように、高速研磨機で研磨するステップと、
(6)ステップ(5)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を、90〜100℃で、流れているN気体による保護状態において8〜24時間乾燥させるステップと、
(7)ステップ(6)で乾燥されたカーボンナノチューブ複合材料を流れているアルゴンガス雰囲気において、300℃〜400℃で2回目の5時間以上のか焼処理を行うことにより、カーボンナノチューブ−硫黄複合材料を得るステップと、
(8)ステップ(7)のカーボンナノチューブ−硫黄複合材料に9:1の比率で酸化イットリウムをドーピングしてから、気流粉砕及び分級を行うことにより、粒のサイズが1ミクロン以下の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を得るステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来技術と比べ、下記の有益な効果が得られる。
本発明の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、カーボンナノチューブと昇華した硫黄に対する高温か焼により、高温かつ真空の状態下で、溶融硫黄を毛細管の作用でカーボンナノチューブ内に吸入して、さらに高温処理を通じて、必要以上の硫黄を昇華して除却することにより製造された、カーボンナノチューブ-ナノメートル硫黄複合正極材である。製造された複合正極材は、高い電子、イオン電導性及び高い比容量を有し、単体硫黄や硫黄化リチウムが液体の電気媒介におけるサイクル特性が改善された。当該製造方法によるプロセスは容易、大規模な生産ができ、リチウム硫黄電池用正極材に適用できる。単体硫黄は電導性が悪く、生成された硫黄化リチウムは電解液中の不安定な要因になるため、液体の電解液電池においてうまく作用することができない。本発明の調製レシピと製造方法により製造された希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、粒度<1ミクロン、容量>1000mAh/gで、サイクル寿命が長い(>1000回)。本製造方法によるプロセスは、容易、かつコストが低く、特性が良く、工業的生産に適用できる。比エネルギー密度が高く、サイクル特性が良く、原価が安く、環境保護に有利であるなどの利点を有する希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に具体的な実施形態に基づき、本発明を詳しく説明する。
【0014】
実施例1
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、材料の重量組成比が、
多層カーボンナノチューブ 1
昇華した硫黄 5
酸化イットリウム 0.67
となるように構成される。
【0015】
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製作方法は、
(1)重量比がカーボンナノチューブ=1、昇華した硫黄=5となるように秤量するステップと、
(2)ステップ(1)のカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物に濃度65%以上のアルコールを重量比が2:1となるように追加し、少なくとも10時間のボールミルによる混合を行うステップと、
(3)ステップ(2)でボールミルにより混合したカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を、100℃で、流れているN気体による保護状態において24時間乾燥させるステップと、
(4)ステップ(3)で乾燥されたカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を−0.1atmosのマイナス圧力条件下において、200℃で一回目のか焼処理を5時間行うことにより、溶融硫黄で覆われたカーボンナノチューブ複合材料を得るステップと、
(5)ステップ(4)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を重量比が2:1となるように濃度65%のアルコール媒介に入れて、カーボンナノチューブ複合材料の粒度が1ミクロン以下となるように、高速研磨機で研磨するステップと、
(6)ステップ(5)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を、100℃で、流れているN気体による保護状態において24時間乾燥させるステップと、
(7)ステップ(6)で乾燥されたカーボンナノチューブ複合材料を、流れているアルゴンガス雰囲気において、300℃で2回目のか焼処理を5時間行うことにより、カーボンナノチューブ−硫黄複合材料を得るステップと、
(8)ステップ(7)のカーボンナノチューブ−硫黄複合材料に9:1の比率で酸化イットリウム(10%)をドーピングしてから、気流粉砕及び分級を行うことにより、粒のサイズが1ミクロン以下の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を得るステップと、を含む。
【0016】
実施例2
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、材料の重量組成比が、
多層カーボンナノチューブ 1.5
昇華した硫黄 5
酸化イットリウム 0.72
となるように構成される。
【0017】
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製作方法は、
(1)重量比がカーボンナノチューブ=1、昇華した硫黄=5となるように秤量するステップと、
(2)ステップ(1)のカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物に濃度が65%以上のアルコールを重量比が2:1となるように追加し、少なくとも10時間のボールミルによる混合を行うステップと、
(3)ステップ(2)でボールミルにより混合したカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を、95℃で、流れているN気体による保護状態において20時間乾燥させるステップと、
(4)ステップ(3)で乾燥されたカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を−0.2atmosのマイナス圧力条件下において、250℃で一回目のか焼処理を6時間行うことにより、溶融硫黄で覆われたカーボンナノチューブ複合材料を得るステップと、
(5)ステップ(4)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を重量比が2:1となるように濃度65%のアルコール媒介に入れて、カーボンナノチューブ複合材料の粒度が1ミクロン以下となるように、高速研磨機で研磨するステップと、
(6)ステップ(5)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を、95℃で、流れているN気体による保護状態において20時間乾燥させるステップと、
(7)ステップ(6)で乾燥されたカーボンナノチューブ複合材料を流れているアルゴンガス雰囲気において、300℃で2回目のか焼処理を6時間行うことにより、カーボンナノチューブ−硫黄複合材料を得るステップと、
(8)ステップ(7)のカーボンナノチューブ−硫黄複合材料に9:1の比率で酸化イットリウム(10%)をドーピングしてから、気流粉砕及び分級を行うことにより、粒のサイズが1ミクロン以下の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を得るステップと、を含む。
【0018】
実施例3
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材は、材料の重量組成比が、
多層カーボンナノチューブ 2
昇華した硫黄 5
酸化イットリウム 0.78
となるように構成される。
【0019】
希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材の製作方法は、
(1)重量比がカーボンナノチューブ=2、昇華した硫黄=5となるように秤量するステップと、
(2)ステップ(1)のカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物に濃度65%以上のアルコールを重量比が2:1となるように追加し、少なくとも10時間のボールミルによる混合を行うステップと、
(3)ステップ(2)でボールミルにより混合したカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を、90℃で、流れているN気体による保護状態において16時間乾燥させるステップと、
(4)ステップ(3)で乾燥されたカーボンナノチューブと昇華した硫黄との混合物を−0.5atmosのマイナス圧力条件下において、300℃で一回目のか焼処理を7時間行うことにより、溶融硫黄で覆われたカーボンナノチューブ複合材料を得るステップと、
(5)ステップ(4)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を重量比が2:1となるように濃度65%のアルコール媒介に入れて、カーボンナノチューブ複合材料の粒度が1ミクロン以下となるように、高速研磨機で研磨するステップと、
(6)ステップ(5)で獲得したカーボンナノチューブ複合材料を、90℃で、流れているN気体による保護状態において16時間乾燥させるステップと、
(7)ステップ(6)で乾燥されたカーボンナノチューブ複合材料を流れているアルゴンガス雰囲気において、400℃で2回目のか焼処理を7時間行うことにより、カーボンナノチューブ−硫黄複合材料を得るステップと、
(8)ステップ(7)のカーボンナノチューブ−硫黄複合材料に9:1の比率で酸化イットリウム(10%)をドーピングしてから、気流粉砕及び分級を行うことにより、粒のサイズが1ミクロン以下の希土類リチウム硫黄電池用のナノメートル硫黄複合正極材を得るステップと、を含む。
【0020】
以上の内容は具体的な好適実施形態に基づき、本発明をさらに詳しく説明するための例示に過ぎない、本発明の具体的な実施形態はこれらの説明に限られると認定できない。本発明が所属する技術分野における普通の技術者は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で代用または変更などを行うことができる。特性または用途が相当する場合、本発明の特許請求書より特定された特許請求の範囲に所属するものであると見なすべきであろう。