【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の一実施例である研磨布10が用いられた研磨ベルト12について概略的に示す斜視図である。この
図1に示すように、斯かる研磨ベルト12は、ワーク14の表面研磨加工に用いられるものであり、図示しない駆動モータによって回転駆動される駆動ホイール16と、従動ホイール18との間に、無端ベルト状(帯状且つ無端環状)に形成された本実施例の研磨布10が、研磨材の固着された研磨面20を外側としてかけ渡されて構成されたものである。
【0018】
前記研磨ベルト12による研磨加工においては、ベルト状に形成された前記研磨布10の内周側(研磨面20の裏側)に台22が設けられ、前記ワーク14が前記研磨布10の外周側(研磨面20側)からその研磨布10を間に挟んで前記台10に押し付けられた状態で、前記駆動ホイール16の回転駆動により前記研磨布10が駆動されることで前記ワーク14の研磨加工が行われる。すなわち、前記駆動ホイール16が
図1に矢印に示す方向に回転駆動されると、その駆動ホイール16との間の摩擦力により前記研磨布10は同じく
図1に矢印で示す方向に駆動(循環)される。これにより、前記ワーク14(研磨面20との接触面)に対して前記研磨布10の研磨面20が摺接させられることで、そのワーク20における表面(研磨面20と摺接させられる面)の研磨が行われる。
【0019】
図2は、前記研磨ベルト12を構成する研磨布10に備えられた基材24の構成を例示する図であり、その一部を拡大して示す図である。この
図2に示すように、前記研磨布10は、図示しない研磨材を保持する布状の基材24を備えたものであり、その基材24は、好適には、平織、綾織、又は繻子織等の織物(
図2では綾織の基材24を例示)である。すなわち、前記基材24は、経糸26と緯糸28とが組み合わされて所定の幅寸法及び長さ寸法の布面を構成するものであり、例えば、
図1に示すようなベルト状の研磨布10においては、環方向(研磨ベルト12における循環方向)が経糸方向、幅方向が緯糸方向にそれぞれ対応する。実際の研磨布10においては、
図2に示すような基材24の表面に図示しない研磨材が接着剤等により固定される。この研磨材としては、アルミナや炭化ケイ素等の一般砥粒、或いはダイヤモンドやCBN(立方晶窒化硼素)等の超砥粒が好適に用いられる。
【0020】
前記経糸26は、好適には、その構成要素であるフィラメント糸乃至紡績糸等の繊維が1インチあたり30〜200本すなわち1cmあたり11〜80本の組織とされたものである。前記緯糸28は、好適には、その構成要素であるフィラメント糸乃至紡績糸等の繊維が1インチあたり20〜150本すなわち1cmあたり7〜60本の組織とされたものである。前記経糸26及び緯糸30それぞれの太さ寸法は、例えば恒重式番手(標準重量1ポンド、測長単位840ヤードの英国式番手)で前記経糸26に20番手、緯糸28に30番手のものが好適に用いられるが、前記研磨布10の仕様に応じて任意の番手のものが適宜用いられ得る。好適には、前記経糸26には、前記緯糸28よりも太い糸が用いられる。
【0021】
本実施例の研磨布10に備えられる基材24は、前記経糸26の少なくとも一部に熱融着糸30を用いた織物である。
図3は、この熱融着糸30の構成を説明するために前記経糸26の断面を概略的に示す図である。この
図3では、前記経糸26を構成する複数(
図3では7本)の繊維が何れも前記熱融着糸30である構成を例示している。
図3に示すように、前記熱融着糸30は、芯部32の周囲にその芯部32よりも融点の低い鞘部34が設けられたものである。換言すれば、糸状の芯部32の周囲がその芯部32よりも融点の低い鞘部34により被覆されて構成されたものである。好適には、前記芯部32の融点は260℃程度、前記鞘部34の融点は180〜200℃程度である。好適には、前記芯部32は、ポリエステル繊維によるフィラメント糸又は紡績糸(スパン)であり、前記鞘部34は、その芯部32よりも融点の低いポリエステル又はポリエチレンである。
【0022】
前記基材24は、好適には、前記熱融着糸30を前記経糸26の組織に例えば本数の比率で10%以上含む織物であり、余の組織は従来一般的であったポリエステル、綿の紡績糸や混紡糸、ポリエステルフィラメント等とされる。前記緯糸28は必ずしも前記熱融着糸30を含むものでなくともよいが、前記研磨布10の仕様によっては前記緯糸28の組織に前記熱融着糸30を含むものであってもよい。すなわち、前記基材24は、好適には、前記熱融着糸30を前記経糸26の組織に例えば本数の比率で10〜100%、前記緯糸28の組織に例えば本数の比率で0〜100%(0%は使用しないことを意味する)使用した布基材である。
【0023】
前記基材24は、好適には、
図2に示すように織物として織り上げられた状態において、前記熱融着糸30における前記鞘部34の少なくとも一部が加熱融着されたものである。更に好適には、前記熱融着糸30における前記芯部32は溶融させられないまま(鞘部34との境界部分において不可避的に溶融した部分を除く)、その周囲の鞘部34のみが溶融後固化されたものである。換言すれば、前記基材24においては、前記熱融着糸30における前記鞘部34の少なくとも一部が加熱融着されることで、例えば前記経糸26を構成するマルチフィラメント乃至紡績糸が融着(溶融後固化)された鞘部34によって相互に結合され、モノフィラメント(単一繊維)に近い状態となって繊維のほつれが抑制される。
【0024】
図4は、本実施例の研磨布10における基材24の製造方法の一例の要部を説明する工程図である。先ず、織布工程P1において、少なくとも一部に前記熱融着糸30を用いた前記経糸26と、前記緯糸28とが、例えば経糸30〜200本/インチ(11〜80本/cm)、緯糸20〜150本/インチ(7〜60本/cm)の組織で平織、綾織、又は繻子織等の織物として織り上げられる。次に、ヒートセット工程P2において、前記織布工程P1にて織り上げられた織物が、例えばヒートセッタ等により180〜200℃の温度で熱処理される。このヒートセット工程P2における熱処理温度は、前記鞘部34の融点付近であり、且つ前記芯部32の融点未満であることが望ましい。この熱処理において前記経糸26における熱融着糸30の鞘部34の少なくとも一部が溶融させられ、更に熱処理後冷却されることで凝固(固化)される。すなわち、前記ヒートセット工程P2後の織物(基材24)においては、前記経糸26の熱融着糸30における前記鞘部34の少なくとも一部が融着されることで、その経糸26の組織同士が相互に固着させられると共に、前記緯糸28との接触部分において前記経糸26と緯糸28とが相互に固着させられる。このようにして得られた基材24の表面に図示しない所定の研磨材が接着剤等により固着されることで前記研磨布10が製造される。
【0025】
図5は、従来の研磨布において通常用いられる、経糸及び緯糸に従来の一般的なポリエステル、綿の混紡糸を使用した織布(紡績糸)の裏面写真である。
図6は、本実施例の研磨布10に用いられる基材24の裏面写真であり、前記経糸26に前記熱融着糸30を100%使用すると共に、前記緯糸28には一般的なポリエステル紡績糸を使用した織布である。また、
図6に示す基材24の糸組織としては、前記経糸26が約100本/インチ(約40本/cm)、前記緯糸28が約60本/インチ(約24本/cm)とされている。
図7及び
図8は、
図6に示す本実施例の基材24に熱処理を施すことで前記熱融着糸30における鞘部34が融着してゆく様子を示す裏面写真であり、
図7は約190℃での加熱時、
図8は約200℃での加熱時の様子をそれぞれ示している。
図6に示す状態から
図7に示す状態、更には
図8に示す状態への推移から明らかなように、熱処理(ヒートセット)における加熱温度の上昇に伴い前記基材24における前記経糸26の融着状態(融着の度合い)が強くなっていくことがわかる。熱処理において約200℃での加熱を施した場合、
図8に示すように前記経糸26における低融点樹脂すなわち前記鞘部34は略全て融着し、所謂モノフィラメントに近い状態となる。斯かる状態においては、前記経糸26の繊維相互間が固着されていることに加え、前記緯糸28との接触部分において前記経糸26と緯糸28とが強固に固着されている。
【0026】
図9及び
図10は、ベルト状に加工された研磨布を実際の使用条件で使用した後のスリットエッヂ(スリット断面)を示す写真であり、
図9は従来の一般的な布基材を用いた研磨布(
図5に相当するもの)、
図10は本実施例の基材24を用いた研磨布10(
図7に相当するもの)にそれぞれ対応する。
図9に示すように、従来の一般的な布基材を用いた研磨布のスリット断面では、明らかに繊維がほつれており毛羽だったようになっていることがわかる。このように繊維がほつれた状態では、研磨材を含む研磨層の脱落が発生したり、用途によってはほつれた繊維に起因してワークに傷をつける等の不具合が生じるおそれがある。これに対し、
図10に示すように、本実施例の基材24を用いた研磨布10のスリット断面では、繊維のほつれはほとんど発生しておらず、良好な状態が保てていることがわかる。すなわち、本実施例の基材24を用いた研磨布10のスリット断面を従来技術のものと比較した場合、エッヂの状態に明らかな差異があり、本実施例の基材24を用いた研磨布10では繊維のほつれが好適に抑制されていることがわかる。
【0027】
続いて、本発明の効果を検証するために本発明者が行った試験について説明する。
図11は、この試験について概略的に示す斜視図である。この
図11において、前述した
図1の構成と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。本発明者は、従来一般的であった布基材を用いた研磨布及び本実施例の基材24を用いた研磨布10それぞれを用いて、
図11に示すような研磨ベルト12を作成した。すなわち、一般的なポリエステル、綿の混紡糸を経糸及び緯糸に用いると共に樹脂加工を施した織布である従来基材による研磨ベルトと、前記経糸26に前記熱融着糸30を100%使用すると共に、前記緯糸28には一般的なポリエステル紡績糸を使用した織布であり、織り上げられた状態で約190℃の熱処理が施された本実施例の基材24である本発明基材による研磨ベルトとを用意した。本発明者は、斯かる従来基材及び本発明基材に関して、以下に示す試験条件で、前記研磨ベルト12を駆動(循環)させた状態でスリットエッヂにガラス片36の端面を接触させ、
図11に矢印で示す方向(研磨ベルト12の幅方向)に押し込む試験を行った。
【0028】
[試験条件]
・ベルト周速:100m/min
・ベルト寸法:幅50mm×周長2000mm
・ガラス端面のベルトへの押し込み量:約5mm
・試験回数:n=3
・状態観察:ベルト周長2000mmを1回転として
図12の最左欄に示す頻度で状態を観察
【0029】
図12は、前記試験の結果を示す表である。この
図12に示すように、従来一般的であった布基材である従来基材を使用した研磨ベルト(研磨布)では、5回転時点で微量の繊維のほつれが発生し、10回転時点で前述した
図9に示すような大量の繊維のほつれが発生した。この10回転時点での繊維のほつれは継続使用が不可能なレベルのものと判断されたため、従来基材を使用した研磨ベルトに関しては斯かる時点で試験を中止した。一方、本実施例の基材24である本発明基材を使用した研磨ベルト12(研磨布10)では、100回転時点まで繊維のほつれが発生しなかった。200回転時点で微量の繊維のほつれが発生したが、更に試験を継続したところ、400回転時点でも繊維のほつれの程度は微量なものに留まり、継続使用が不可能なレベルにまで達することはなかった。以上の試験結果から、本実施例の基材24である本発明基材を使用した研磨ベルト12(研磨布10)では、従来一般的であった布基材である従来基材を使用した研磨ベルトに比べて少なくとも10倍の回転に耐えられる繊維ほつれ抑制効果が得られ、更に微量のほつれを許容すれば、従来技術に比べて40倍以上の耐久性を示すことが確認できた。
【0030】
このように、本実施例によれば、前記基材24は、芯部32の周囲にその芯部32よりも融点の低い鞘部34が設けられた熱融着糸30を、経糸26の少なくとも一部に用いた織物であることから、経糸26と緯糸28とが強固に固着されることにより、繊維のずれ及び織布の伸びが抑えられるため、基材表面と研磨層との接着力の低下を好適に抑制できる。すなわち、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れた研磨布10を提供することができる。
【0031】
前記基材24は、前記織物として織り上げられた状態において、前記熱融着糸30における前記鞘部34の少なくとも一部が加熱融着されたものであるため、経糸26と緯糸28とが強固に固着されることに加え、熱加工時の温度条件によって経糸26と緯糸28との密着力の変化及び布の硬度(風合い)の調整が可能となり、薄い織布においても硬さ(こし)を与えることができる。更に、熱加工温度の上昇に伴い前記鞘部34における低融点樹脂は略100%溶融するため、前記基板24の表面の平滑性が向上するという利点がある。
【0032】
前記基材24は、前記熱融着糸30を経糸に10%以上含む織物であるため、経糸26と緯糸28とを必要十分な密着力で固着することができる。
【0033】
前記芯部32は、ポリエステル繊維であり、前記鞘部34は、その芯部32よりも融点の低いポリエステル又はポリエチレンであるため、実用的な材料から構成される熱融着糸30を用いて、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れた研磨布10を提供することができる。
【0034】
前記熱融着糸30の芯部32は、ポリエステル繊維によるフィラメント糸又は紡績糸であるため、実用的な材料から構成される熱融着糸30を用いて、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れた研磨布10を提供することができる。
【0035】
前記基材24は、経糸26が1cmあたり11〜80本、緯糸28が1cmあたり7〜60本の組織で平織、綾織、又は繻子織とされた織物であるため、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れた実用的な態様の研磨布10を提供することができる。
【0036】
前記研磨布10は、研磨ベルト12に用いられるものであるため、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れた研磨ベルト12を提供することができる。
【0037】
以下、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【実施例2】
【0038】
図13は、本発明の一実施例である前記研磨布10が用いられたフラップホイール40について概略的に示す斜視図である。この
図13に示すように、本実施例のフラップホイール40は、複数枚の翼片(フラップ)42と、軸部(回転軸)44とを、備え、前記複数枚の翼片42が放射状に配設されると共にその中心部において前記軸部44に固着されて構成されたものである。前記翼片42は、前述した本実施例の研磨布10である。以上のように構成されたフラップホイール40は、前記軸部44が軸心まわりに回転(自転)駆動させられた状態で、その軸部44に追従して回転させられる前記複数枚の翼片42が図示しないワークに接触(摺動)させられることで、そのワークの表面を研磨加工するものである。斯かるフラップホイール40による研磨加工は、前記翼片42の可撓性が大きいためワークの表面形状が比較的複雑な場合でも研磨加工が可能であり、また、研磨加工時に減耗した前記翼片42(研磨布10)の外周部は、その先端から順次飛散してゆくため、定常的に新しい研磨材が研磨加工に関与することとなり研磨性能が維持される。すなわち、研磨加工に係る研磨層の再生性(自生作用)を有する。
【0039】
図14は、前記フラップホイール40の翼片42(研磨布10)に好適に用いられる基材24の裏面写真であり、前記経糸26に前記熱融着糸30を100%使用すると共に、前記緯糸28に前記熱融着糸30を50%、一般的なポリエステル紡績糸を50%の割合で使用した織布である。また、
図14に示す基材24の糸組織としては、前記経糸26が約100本/インチ(約40本/cm)、前記緯糸28が約70本/インチ(約28本/cm)とされ、200℃程度の熱処理が施された状態を示している。この
図14に示すように、前記フラップホイール40の翼片42に適用される研磨布10に用いられる基材24としては、前記熱融着糸30を、前記経糸26及び緯糸28それぞれの少なくとも一部に用いた織物であることが望ましく、そのようにすれば、前記経糸26及び緯糸28それぞれにおける前記熱融着糸30の配合比率の調整、及び熱処理における温度の調整等により、従来の技術に比べて、前記フラップホイール40の研磨加工に係る研磨層の再生性のコントロールが容易になる。
【0040】
このように、本実施例によれば、前記研磨布10は、フラップホイール40における翼片42に用いられるものであるため、研磨性能を保証しつつ耐久性に優れたフラップホイール40を提供することができることに加え、熱融着糸30の配合比率の調整により再生性(自生作用)のコントロールが容易になるという利点がある。
【0041】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0042】
例えば、前述の実施例においては、本実施例の研磨布10が長手帯状の研磨ベルト12及びフラップホイール40における翼片42に適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、円盤状の研磨ディスク、フラップディスク、円筒状の研磨ロール、或いはセグメントとして可撓性を有する研磨布を使用しセンタープレート等によりユニットバフ状に構成された研磨布ホイール等、各種態様の研磨装置に用いられ得る。
【0043】
また、前述の実施例においては、前記基材24の表面に予め研磨材が固定(接着)された態様の研磨布10について説明したが、半固定乃至遊離研磨材を用いて、研磨加工に際してその半固定乃至遊離研磨材を基材の表面に供給しつつ研磨加工を行う態様の研磨布においても、本発明は一応の効果を奏する。
【0044】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。