特許第5738240号(P5738240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738240
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】減速機の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20150528BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20150528BHJP
【FI】
   F16H57/04 E
   F16H57/037
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-163864(P2012-163864)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-25491(P2014-25491A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】梶川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】道下 雅也
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−223376(JP,A)
【文献】 特開2007−32797(JP,A)
【文献】 特開平6−72168(JP,A)
【文献】 特開2009−127772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の出力軸と連動して回転する第1減速ギヤ対と、該第1減速ギヤ対とはその第1減速ギヤ対の回転軸方向に変位して配置された第2減速ギヤ対をケース内に備え、前記第1減速ギヤ対は第1ドリブンギヤを有し、第2減速ギヤ対は前記第1ドリブンギヤに比較して回転速度が遅い第2ドリブンギヤを有し、
前記第1減速ギヤ対及び前記第2減速ギヤ対とは上下方向にオーバーラップを避ける位置で前記ケース内に配され、前記ケースの底部に貯溜され掻き上げられて各潤滑部位に供給される潤滑油の一部を貯溜するキャッチタンクと、
前記ケース内に備えられ、前記第1ドリブンギヤにより掻き上げられた潤滑油を前記キャッチタンクへ導く第1油路と、
前記第1油路とは前記第1減速ギヤ対の回転軸方向に変位して前記ケース内に備えられ、前記第2ドリブンギヤにより掻き上げられた潤滑油を前記キャッチタンクへ導く第2油路とを備え、
前記第1油路は、前記第1減速ギヤ対と前記第2減速ギヤ対間に配置された軸受を支持する壁部の外表面に形成され、前記軸受は前記第2ドリブンギヤの軸受とした減速機の潤滑構造。
【請求項2】
前記第1油路には前記壁部に設けられて前記軸受に潤滑油を供給する供給路に連通した連通孔を設けた請求項に記載の減速機の潤滑構造。
【請求項3】
前記供給路は、前記壁部に設けられて前記軸受を支持する軸受支持部を補強する補強リブ部にて区画された請求項に記載の減速機の潤滑構造。
【請求項4】
前記ケースは、前記壁部を備え前記第1減速ギヤ対を収容する第1分割ケース部と、前記第1分割ケース部に固定され前記第2減速ギヤ対を収容する第2分割ケース部とを備え、
前記第1油路は、前記壁部の外周面と前記第1分割ケース部の外周壁にて径方向の区画をして形成され、
前記第2油路は、前記第2分割ケース部の外周壁から内周方向に延在する中間壁と前記第2分割ケース部の外周壁にて径方向の区画をして形成されるとともに、前記第1油路とは対向する方向に延びて前記第2ドリブンギヤにて掻き上げられた潤滑油を受止部に案内する第1案内通路と、前記受止部に案内された前記潤滑油を前記受止部から前記第1油路へと案内する第2案内通路と、を備える請求項のいずれか1項に記載の減速機の潤滑構造。
【請求項5】
前記駆動源は電動機であり、前記第1減速ギヤ対は前記出力軸と平行なカウンタ軸との間に設けられ、前記第2減速ギヤ対は前記カウンタ軸とそのカウンタ軸と平行でその内部に1対の車軸を回転駆動する差動機構を有したデファレンシャルケースとの間に設けられ、前記第1ドリブンギヤは前記第1減速ギヤ対の大径側であり前記カウンタ軸に固定されたカウンタドリブンギヤとし、前記第2ドリブンギヤは前記デファレンシャルケースに固定されたファイナルドリブンギヤとし、前記軸受は前記ファイナルドリブンギヤの軸受とした請求項のいずれか1項に記載の減速機の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機の潤滑構造に係り、特に駆動源の出力軸と連動して回転する第1減速ギヤ対と、該第1減速ギヤ対とはその第1減速ギヤ対の回転軸方向に配置されるとともに前記第1減速ギヤ対に比較して回転速度が遅い第2減速ギヤ対をケース内に備え、該ケース内の底部に貯留される潤滑油を前記第1減速ギヤ対及び前記第2減速ギヤ対にて掻き上げてキャッチタックへ導き、そのキャッチタンクから被潤滑部へ潤滑油を供給する減速機の潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑油を掻き上げる能力(掻き上げる量)は、前記第2減速ギヤ対の方が、前記第1減速ギヤ対の方よりも劣る事に起因して、前記第2減速ギヤ対にて掻き上げた潤滑油を前記キャッチタンクへ導く第1油路が、前記第1減速ギヤ対にて掻き上げた潤滑油をキャッチタンクへ導く第2油路よりも低い位置に2段に重ねて設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−223376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如く、ケース内で前記第1減速ギヤ対及び第2減速ギヤ対の上方には、前記第2減速ギヤ対にて掻き上げた潤滑油をキャッチタンクへ導く第1油路が、前記第1減速ギヤ対にて掻き上げた潤滑油をキャッチタンクへ導く第2油路よりも低い位置に2段に重ねて設けられているため、前記ケースの上下方向のサイズが大きくならざるを得ず、スペアタイヤあるいは車載蓄電池の搭載スペースの確保には不利であった。
【0005】
又、前記キャッチタンク自体の前記ケース内における配置位置を、前記第1減速ギヤ対及び第2減速ギヤ対の上方とすることも、前記ケースの上下方向のサイズが大きくならざるを得ず、スペアタイヤあるいは車載蓄電池の搭載スペースの確保には不利であることは明らかである。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、駆動源の出力軸と連動して回転する第1減速ギヤ対と、該第1減速ギヤ対とはその第1減速ギヤ対の回転軸方向に配置されるとともに前記第1減速ギヤ対に比較して回転速度が遅い第2減速ギヤ対をケース内に備え、該ケース内の底部に貯留される潤滑油を前記第1減速ギヤ対及び前記第2減速ギヤ対にて掻き上げてキャッチタンクへ導き、そのキャッチタンクから被潤滑部へ潤滑油を供給し、ケースの上下方向のサイズダウンを可能とする減速機の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る減速機の潤滑構造は、駆動源の出力軸と連動して回転する第1減速ギヤ対と、該第1減速ギヤ対とはその第1減速ギヤ対の回転軸方向に変位して配置された第2減速ギヤ対をケース内に備え、前記第1減速ギヤ対は第1ドリブンギヤを有し、第2減速ギヤ対は前記第1ドリブンギヤに比較して回転速度が遅い第2ドリブンギヤを有し、前記第1減速ギヤ対及び前記第2減速ギヤ対とは上下方向にオーバーラップを避ける位置で前記ケース内に配され、前記ケースの底部に貯溜され掻き上げられて各潤滑部位に供給される潤滑油の一部を貯溜するキャッチタンクと、前記ケース内に備えられ、前記第1ドリブンギヤにより掻き上げられた潤滑油を前記キャッチタンクへ導く第1油路と、前記第1油路とは前記第1減速ギヤ対の回転軸方向に変位して前記ケース内に備えられ、前記第2ドリブンギヤにより掻き上げられた潤滑油を前記キャッチタンクへ導く第2油路とを備え、前記第1油路は、前記第1減速ギヤ対と前記第2減速ギヤ対間に配置された軸受を支持する壁部の外表面に形成され、前記軸受は前記第2ドリブンギヤの軸受としたことを要旨とする。
【0009】
求項に係る減速機の潤滑構造は、請求項1において、前記第1油路には前記壁部に設けられて前記軸受に潤滑油を供給する供給路に連通した連通孔を設けたことを要旨とする。
【0010】
求項に係る減速機の潤滑構造は、請求項において、前記供給路は、前記壁部に設けられて前記軸受を支持する軸受支持部を補強する補強リブ部にて区画されたことを要旨とする。
【0011】
請求項に係る減速機の潤滑構造は、請求項のいずれか1項において、前記ケースは、前記壁部を備え前記第1減速ギヤ対を収容する第1分割ケース部と、前記第1分割ケース部に固定され前記第2減速ギヤ対を収容する第2分割ケース部とを備え、
前記第1油路は、前記壁部の外周面と前記第1分割ケース部の外周壁にて径方向の区画をして形成され、
前記第2油路は、前記第2分割ケース部の外周壁から延在する中間壁と前記第2分割ケース部の外周壁にて径方向の区画をして形成されるとともに、前記第1油路とは対向する方向に延びて前記第2ドリブンギヤにて掻き上げられた潤滑油を受止部に案内する第1案内通路と、前記受止部に案内された前記潤滑油を前記受止部から前記第1油路へと案内する第2案内通路と、を備えたことを要旨とする。
【0012】
求項に係る減速機の潤滑構造は、請求項のいずれか1項において、前記駆動源は電動機であり、前記第1減速ギヤ対は前記出力軸と平行なカウンタ軸との間に設けられ、前記第2減速ギヤ対は前記カウンタ軸とそのカウンタ軸と平行でその内部に1対の車軸を回転駆動する差動機構を有したデファレンシャルケースとの間に設けられ、前記第1ドリブンギヤは前記第1減速ギヤ対の大径側であり前記カウンタ軸に固定されたカウンタドリブンギヤとし、前記第2ドリブンギヤは前記デファレンシャルケースに固定されたファイナルドリブンギヤとし、前記軸受は前記ファイナルドリブンギヤの軸受としたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る減速機の潤滑構造の発明によれば、第1油路は、第1減速ギヤ対と第2減速ギヤ対間に配置された軸受を支持する壁部に形成されていることから、壁部自体を利用して潤滑部位なる第1減速ギヤ対と第2減速ギヤ対間に配置された軸受への潤滑が可能となる。ケース内に備えられ第1ドリブンギヤにより掻き上げられる潤滑油をキャッチタンクへ導く第1油路と、ケース内に備えられるとともに第2ドリブンギヤにより掻き上げられる潤滑油をキャッチタンクへ導く第2油路とは、第1減速ギヤ対の回転軸方向に変位しているため、ケースの上下方向のサイズダウンが可能となる。第1油路は、第2ドリブンギヤの軸受を支持する壁部の外表面に形成されていることから、壁部自体を利用して潤滑部位なる第2ドリブンギヤの軸受の潤滑が可能となる。
【0015】
請求項に係る減速機の潤滑構造の発明によれば、第1油路には壁部に設けられて軸受に潤滑油を供給する供給路に連通した連通孔を設けたことにより、潤滑油を第1油路から軸受に案内する構造を簡素化できる。
【0016】
請求項に係る減速機の潤滑構造の発明によれば、供給路は、壁部に設けられて軸受を支持する軸受支持部を補強する補強リブ部にて区画されることにより、壁部が備えた補強リブ部にて軸受の潤滑に供する供給路の形成と軸受支持部の補強とが両立できる。
【0017】
請求項に係る減速機の潤滑構造の発明によれば、第2油路は第2案内通路にて第1油路に案内されることから、その第1油路及び第2油路とも掻き上げられた潤滑油を同一のキャッチタンクに導くことができ、キャッチタンクを第1油路及び第2油路各々に別の位置にて配置する必要がなくなり、省スペース化ができる。
【0018】
請求項に係る減速機の潤滑構造の発明によれば、電動駆動される少なくとも1対の車軸を有する車両に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明が適用された車両のリアトランスアクスルの概略構成を説明するスケルトン図である。
図2】本発明の実施の形態に係るトランスアクスルケースの第1分割ケース部の開口部側を示す正面図である。
図3図2の部分斜視図である。
図4】本発明の実施の形態に係るトランスアクスルケースの第2分割ケース部において第1分割ケース部の開口部側との合わせ面となる側の開口部側を示す正面図である。
図5図4の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施の形態について一実施形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。又、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0021】
図1は、本発明が適用された電気式4輪駆動車両におけるリアトランスアクスル10の構成を示すスケルトン図である。リアトランスアクスル10は、駆動源としての電動機11と、その電動機11の出力軸12とそれに平行なカウンタ軸13との間に設けられた第1減速ギヤ対14と、カウンタ軸13とそのカウンタ軸13に平行且つ電動機11と同心のデファレンシャルケース15との間に設けられた第2減速ギヤ対16と、デファレンシャルケース15内に設けられた差動機構17を有し、電動機11から第1減速ギヤ対14および第2減速ギヤ対16を介して伝達されたトルクにより一対の後方車軸18を回転駆動する差動歯車装置19とをトランスアクスルケース20(ケースに相当する)内に備えて構成される2軸型の車両用電動式駆動装置である。
【0022】
出力軸12の中央部には電動機11のロータ11aが連結され、両端側には一対の軸受(出力軸用軸受)21が装着されて、出力軸12は、それら一対の軸受21を介してトランスアクスルケース20により回転可能に支持されている。
【0023】
第1減速ギヤ対14は、小径側のカウンタドライブギヤ22と、大径側のカウンタドリブンギヤ23(第1ドリブンギヤに相当する)とから成る。カウンタドライブギヤ22は、出力軸12の一端部の先端側に一体的に固定されている。また、カウンタドリブンギヤ23は、カウンタドライブギヤ22と噛み合う状態でカウンタ軸13の一端側に一体的に固定されている。第1減速ギヤ対14の回転軸には、出力軸12および出力軸とは平行なるカウンタ軸13が相当するもので、従って、第1減速ギヤ対14の回転軸方向とは、出力軸12又はカウンタ軸13の軸方向を指し、図1では、左右方向が該当する。
【0024】
カウンタ軸13は、それぞれ同心に設けられた出力軸12やデファレンシャルケース15、およびそれらに固定されたカウンタドライブギヤ22や後述のファイナルドリブンギヤ26よりも車両前方側に設けられている。これにより、カウンタドリブンギヤ23は、トランスアクスルケース20内の最前方側に配置される。このカウンタ軸13の両端部には、一対の軸受(カウンタ軸用軸受)24が嵌め着けられている。このカウンタ軸13は、これら一対の軸受24を介してトランスアクスルケース20により回転可能に支持されている。
【0025】
第2減速ギヤ対16は、図1に示すように第1減速ギヤ対14の回転軸方向に変位して配置されるもので、小径側のファイナルドライブギヤ25と、大径側のファイナルドリブンギヤ26(第2ドリブンギヤに相当する)とから成る。ファイナルドライブギヤ25は、カウンタ軸13の他端部に一体的に固定されている。また、ファイナルドリブンギヤ26は、カウンタドライブギヤ22とは出力軸12の軸方向に変位して配置され、ファイナルドライブギヤ25と噛み合う状態でデファレンシャルケース15の外周部に嵌め着けられて一体的に固定されている。
【0026】
デファレンシャルケース15の軸方向両端側の外周面には、一対の軸受27が嵌め着けられている。従って、デファレンシャルケース15及びデファレンシャルケース15に一体的に固定されたファイナルドリブンギヤ26は、これら一対の軸受27を介してトランスアクスルケース20により回転可能に支持されている。
【0027】
差動機構17は、一般周知の所謂傘歯車式のものであり、デファレンシャルケース15内においてその回転軸心上で相対向する一対のサイドギヤ28と、それら一対のサイドギヤ28間においてデファレンシャルケース15の回転軸心に直交する状態でそのデファレンシャルケース15に固設されたピニオンシャフト29により回転可能に支持されるとともに、上記一対のサイドギヤ28とそれぞれ噛み合う一対のピニオンギヤ30とを備えている。
【0028】
一対の後方車軸18は、一対のサイドギヤ28に一体的に連結されている。デファレンシャルケース15と差動機構17とを備えて構成される差動歯車装置19は、電動機11から第1減速ギヤ対14および第2減速ギヤ対16を介して伝達されたトルクにより、一対の後方車軸18の回転速度差を許容しつつそれら一対の後方車軸18を回転駆動するものである。なお、一対の後方車軸18の一方は、中空円筒状に形成された出力軸12を挿通して一対の後輪31の車両左側の一方に連結されている。
【0029】
トランスアクスルケース20は、後方車軸18の軸心方向において3分割された複数の分割ケース部、すなわち主として第1減速ギヤ対14を収容する筒状の第1分割ケース部20aと主として第2減速ギヤ対16を収容する蓋状の第2分割ケース部20bと主として電動機21を収容する蓋状の第3分割ケース部20cとが図示しないボルトによって相互に締着されることにより油密に構成されている。本実施形態のトランスアクスルケース20は、第1分割ケース部20aが車両の幅方向の中央付近に位置され、第2分割ケース部20bが第1分割ケース部20aの車両右側に連結され、第3分割ケース部20cが第1分割ケース部20aの車両左側すなわち第1分割ケース部20aの第2分割ケース部20bとは反対側に連結された3分割式のものである。これらの分割ケース部は、鋳造軽合金例えばアルミダイカスト等により形成されている。
【0030】
そして、カウンタドリブンギヤ23とファイナルドリブンギヤ26は、その回転によりトランスアクスルケース20の底部に貯溜された潤滑油を掻き上げて各潤滑部位に供給するようになっている。すなわち、本実施形態のリアトランスアクスル10には、トランスアクスルケース20内の底部に貯溜される潤滑油を掻き上げて各潤滑部位に供給する掻き上げ潤滑方式が採用されている。上記潤滑部位には、例えば第1減速ギヤ対14および第2減速ギヤ対16の噛合部、差動機構17のギヤ噛合部や回転摺動部、および各軸受21,24,27などが相当する。
【0031】
ここで、トランスアクスルケース20には、車速Vが上がるにつれて上昇するカウンタドリブンギヤ23による潤滑油の攪拌抵抗を低減することを目的として、トランスアクスルケース20内の底部に貯溜される潤滑油の油面位置を下げるために、前記掻き上げられる潤滑油の一部を貯溜するためのキャッチタンク32が設けられている。このキャッチタンク32は、図2乃至図5に示すように、トランスアクスルケース20の底部の油面位置よりも高い位置で潤滑油が貯溜できるように、各分割ケース部20a、20b及び20cに亘って設けられている。
【0032】
トランスアクスルケース20の上方をスペアタイヤあるいは車載蓄電池の搭載スペースとして確保するために、本実施形態では、キャッチタンク32は、第1減速ギヤ対14及び前記第2減速ギヤ対16とは上下方向にオーバーラップを避ける位置一例としてトランスアクスルケース20の最後方側(カウンタ軸13を含む第1減速ギヤ対14および第2減速ギヤ対16よりも車両後方側、即ち、図1では下方、図2及び図3では左方、図4及び図5では右方)に配置されている。即ち、キャッチタンク32を配置する位置として、第1減速ギヤ対14及び前記第2減速ギヤ対16とは上下方向にオーバーラップを避ける位置とは、たとえ第1減速ギヤ対14及び前記第2減速ギヤ対16の上方に架かるとしても、少なくとも、第1減速ギヤ対14及び前記第2減速ギヤ対16の高さ方向の最上方位置よりも上方に位置する部分には架らない区域を指す。第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23により掻き上げられる潤滑油の多くが図3中の矢印Aのように上方且つ後方へ飛ばされるようになっているため、キャッチタンク32は、掻き上げられる潤滑油を効率的に収容可能な位置すなわちトランスアクスルケース20の最後方側に配設されている。
【0033】
これにより、第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26に比較して回転速度が速くて潤滑油の掻き上げ能力に優れる(掻き上げ量が多い)カウンタドリブンギヤ13の潤滑油の掻き上げ作動が円滑に行われるようになっている。なお、キャッチタンク32に貯溜された潤滑油は、そのキャッチタンク32に設けられた図示しない潤滑油供給口から他の潤滑部位へ供給されるか、所定量以上溜まることでキャッチタンク32からオーバーフローされるか、あるいはトランスアクスルケース20の底部の油面位置が低下することで潤滑油に浸漬されなくなった軸受やオイルシール等の潤滑必要箇所にキャッチタンク32の底部に設けられた図示しない排出口からの自然流出油が供給されることによって、トランスアクスルケース20内の底部に戻されるようになっている。
【0034】
トランスアクスルケース20の第1分割ケース部20aの内部には、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23により掻き上げられる潤滑油を図3中の矢印Aで示すようにキャッチタンク32へ導く第1油路33が設けられている。一方、トランスアクスルケース20の第2分割ケース部20bの内部には、第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26に掻き上げられる潤滑油を図5中の矢印Bで示すようにキャッチタンク32へ導く第2油路34が設けられている。第2油路34は、図1に示すように、第1油路33とは、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23の回転軸なるカウンタ軸13の軸方向に変位(即ち、図1において右方)して配置されている。なお、第2油路34の配置位置は、第1油路33とは、第1減速ギヤ対14のカウンタドライブギヤ22の回転軸なる出力軸12の軸方向に変位した位置(即ち、図1において右方)でもある。つまり、第2油路34は第1油路33とは第1減速ギヤ対14の回転軸方向に変位して配置されている。
【0035】
トランスアクスルケース20の第1分割ケース部20aの内部には、図3に示す如くファイナルドリブンギヤ26の軸受27を支持した壁部35を備える。その壁部35の外周面35a上に第1油路33を形成即ち第1油路33は壁部35の外周面35aと第1分割ケース部20aの外周壁20a1にて径方向の区画をして形成され、その第1油路33はカウンタドリブンギヤ23により掻き上げられる潤滑油をキャッチタンク32へ導く。
【0036】
壁部35には、図2及び図3に示す如く、第1油路33と軸受27の潤滑部位とを連通させて、第1油路33を流れる潤滑油の一部を軸受27へ案内する供給路36が形成されている。具体的には、この供給路36は、壁部35の外周面35aを貫通した連通孔36aを介して第1油路33と連通し、そして壁部35内は壁部35に設けられて軸受27の軸受支持部27aを補強する補強リブ部35b、35cにて区画されて、第1油路33と軸受27の潤滑部位とを連通させて潤滑を行う構成である。
【0037】
トランスアクスルケース20の第2分割ケース部20bの内部には、図4及び図5に示すように、第2油路34は、第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26にて掻き上げられた潤滑油を受け止める受止部37へと案内する第1案内通路34aを備える。この第1案内通路34aは、第1油路33とは対向する方向に延びる構成である。又、第2油路34は、ファイナルドリブンギヤ26にて掻き上げられた潤滑油を受止部37から第1油路33へ案内する第2案内通路34bを備える。
【0038】
第1案内通路34aは、図4及び図5に示すように、第2分割ケース部20bの外周壁20b1からその内周方向に延在した中間壁38の先端側で中間壁38と第2分割ケース部20bの外周壁20b1にて径方向の区画をして形成され、ファイナルドリブンギヤ26により掻き上げられる潤滑油を第1案内通路34aの下流側に位置した受止部37へ導く。
【0039】
第2案内通路34bは、受止部37側なる上流側は中間壁38上に形成されそして下流側は第1油路33と合流する構成である。なお、第1油路33と軸受27の潤滑部位とを連通する供給路36を構成する連通孔36aの配置位置は適宜選択できるものであり、図2及び図3で示すように、第1油路33に配置した構成を説明したが、連通孔36aの位置は、第1油路33において第2案内通路34bとの合流位置もしくはその合流位置よりも下流側に配置する構成とすることもできる。この構成では、カウンタドリブンギヤ23により掻き上げられる潤滑油のみならずファイナルドリブンギヤ26により掻き上げられる潤滑油も、第2油路34即ち第1案内通路34a、受止部37、第2案内通路34b、第1油路33、連通孔36a、供給路36を介して軸受27の潤滑部位に導くことができる。
【0040】
図2及び図4に示すように、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23と第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26とは、車両が停車した状態では、その略下半部が少なくともトランスアクスルケース20の底部に貯溜される潤滑油に浸漬される高さ位置に配設される。なお、図2及び図4中の2点鎖線にて示すレベルH1は、停車時におけるトランスアクスルケース20の底部に貯溜される潤滑油の高さを示す。又、電動機11のロータ11aも、停車時にはその略下半部が少なくともトランスアクスルケース20の底部に貯溜される潤滑油に浸漬される高さ位置に配設される。
【0041】
車両の走行が始まり、車両速度の上昇に伴い、トランスアクスルケース20の底部に貯溜される潤滑油は掻き上げられ量が増加して潤滑油の高さはレベルH1から徐々に下がり始め、車両速度が略時速50キロメートルの状態では、トランスアクスルケース20の底部に貯溜される潤滑油の高さは、図2及び図4中の2点鎖線にて示すレベルH2となり、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23はその最下部も殆ど潤滑油に浸漬されない状態であるが、一方、第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26の下端は潤滑油に浸漬された状態が保持される。
【0042】
従って、車両速度が略時速50キロメートルの状態に至り、潤滑油の掻き上げ能力がファイナルドリブンギヤ26よりも優れたカウンタドリブンギヤ23によるトランスアクスルケース20の底部からの潤滑油の掻き上げが難しくなっても、ファイナルドリブンギヤ26による潤滑油を掻き上げ可能な状態は維持できる。構造上、ファイナルドリブンギヤ26の回転はカウンタドリブンギヤ23よりも遅いが、車両速度が略時速50キロメートルでは、ファイナルドリブンギヤ26の回転も上昇しているため、トランスアクスルケース20の底部からの潤滑油の掻き上げはファイナルドリブンギヤ26のみにても行うことが可能である。
【0043】
ファイナルドリブンギヤ26は、カウンタドリブンギヤ23と比べて、回転は低速であるため、掻き上げ能力が劣る。ファイナルドリブンギヤ26の掻き上げ能力の向上には、図2及び図4に示すように、ファイナルドリブンギヤ26の大径部と第2分割ケース部20bの外周壁20b1との径方向隙間の長さL1をカウンタドリブンギヤ23の大径部と第1分割ケース部20aの外周壁20a1との径方向隙間の長さL2に対し、L1<L2の関係を有する構成とすることも可能である。
【0044】
潤滑部位なる軸受を支持する壁部として、第2減速ギヤ対16のファイナルドリブンギヤ26の軸受27を支持する壁部35を示し、その壁部35の外表面35aに第1油路33を形成した例を示したが、壁部はこの例に限定されることなく、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23の軸受24又は他の軸受を支持する壁も該当し、そして、この壁に第2油路34を形成することも可能である。
【0045】
又、壁部35は、出力軸12の軸受21を支持する構成として、第1油路33から、連通孔36a,供給路36を介して軸受21の潤滑部位に導くように構成することも可能であり、又、連通孔36a,供給路36とは独立して、第1油路33から出力軸12の軸受21の潤滑部位に掻き上げられた潤滑油を供給することも可能である。
【0046】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、リアトランスアクスルケース20内に備えられ第1ドリブンギヤなるカウンタドリブンギヤ23により掻き上げられる潤滑油をキャッチタンク32へ導く第1油路33と、ケース20内に備えられるとともに第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26により掻き上げられる潤滑油をキャッチタンク32へ導く第2油路34とは、第1減速ギヤ対14のカウンタドリブンギヤ23の回転軸なるカウンタ軸13の軸方向に変位しているため、上下方向には重ならないことから、ケース20の上下方向のサイズダウンが可能となる。
【0047】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、少なくとも第1油路33は、第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26の軸受27を支持する壁部35に形成されていることから、壁部35自体を利用して潤滑部位なる軸受27への潤滑が可能となる。
【0048】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、第2油路34は、第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26にて掻き上げられた潤滑油を受け止める受止部37へと案内する第1案内通路34aと、受止部37から第1油路33へと潤滑油を案内し第1案内通路34aとは異なる方向に延びた第2案内通路34bとを有する構成である。この構成にて、掻き上げられた潤滑油が導かれる方向が第1油路33と第2油路34の第1案内通路34aとでは、異なっていても、その第1油路33及び第2油路34とも掻き上げられた潤滑油を同一のキャッチタンク32に導くことができ、キャッチタンク32を第1油路33及び第2油路34各々に別の位置にて配置する必要がなくなり、省スペース化ができる。
【0049】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、第1油路33には壁部35に設けられて第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26の軸受27に潤滑油を供給する供給路36に連通した連通孔36aを設けたことにより、潤滑油を第1油路33から軸受27に案内する構造を簡素化できる。
【0050】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、供給路36は、壁部35に設けられて軸受27を支持する軸受支持部27aを補強する補強リブ部35b、35cにて区画されることにより、壁部35が備えた補強リブ部35b、35cにて軸受27の潤滑に供する供給路36の形成と軸受支持部27aの補強とが両立できる。
【0051】
上述のように、本実施形態のリアトランスアクスル(減速機の潤滑構造)10によれば、駆動源は電動機11であり、第1減速ギヤ対14は電動機11の出力軸12と平行なカウンタ軸13との間に設けられ、第2減速ギヤ対16はカウンタ軸13とそのカウンタ軸13と平行でその内部に1対の車軸18を回転駆動する差動機構17を有したデファレンシャルケース15との間に設けられ、ケース20内の底部から第1油路33への潤滑油の掻き上げは第1減速ギヤ対14の大径側でありカウンタ軸13に固定された第1ドリブンギヤなるカウンタドリブンギヤ23にて行われ、ケース20内の底部から第2油路34への潤滑油の掻き上げはデファレンシャルケース15に固定された第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26にて行われ、第1油路は第2ドリブンギヤなるファイナルドリブンギヤ26の軸受27を支持する壁部35に形成された構成であるため、電動駆動される少なくとも1対の車軸18を有する車両に適用できる。
【0052】
また、複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合せることが可能であることは、明らかである。
【符号の説明】
【0053】
11・・・電動機(駆動源)、12・・・出力軸、14・・・第1減速ギヤ対、16・・・第2減速ギヤ対、20・・・トランスアクスルケース(ケース)、32・・・キャッチタンク、33・・・第1油路、34・・・第2油路、35・・・壁部、34a・・・第1案内通路、34b・・・第2案内通路、36・・・供給路、36a・・・連通孔、37・・・受止部、27・・・軸受、27a・・・軸受支持部、35b,35c・・・補強リブ部、13・・・カウンタ軸、18・・・車軸、17・・・差動機構、15・・・デファレンシャルケース、23・・・カウンタドリブンギヤ(第1ドリブンギヤ)、26・・・ファイナルドリブンギヤ(第2ドリブンギヤ)
図1
図2
図3
図4
図5