特許第5738256号(P5738256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738256
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】負圧ブースタ
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/569 20060101AFI20150528BHJP
   F16J 15/32 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   B60T13/569
   F16J15/32 311A
   F16J15/32 301Z
   F16J15/32 301C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-226908(P2012-226908)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-76784(P2014-76784A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2013年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 清明
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 修一
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−255022(JP,A)
【文献】 実開平02−136858(JP,U)
【文献】 実開平05−008159(JP,U)
【文献】 特開2000−302024(JP,A)
【文献】 特表平03−502565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブースタシェル(1)に,その内部を負圧源(V)に連なる前側の負圧室(2)と後側の作動室(3)とに区画するブースタピストン(4)を収容し,このブースタピストン(4)に,入力杆(20)と,この入力杆(20)の前後動に応じて作動室(3)を負圧室(2)と大気とに連通切換えする制御弁(38)とを内部に配設する弁筒(10)を連接し,ブースタシェル(1)の後壁に設けられる軸受筒(12)には,前記弁筒(10)の外周面を摺動自在に支承する弾性材製の軸受ブッシュ(9)を装着し,この軸受ブッシュ(9)の内周面には潤滑グリース(g)を保持するグリース溜まり(35)を設け,またこの軸受ブッシュ(9)の後端には,それよりも肉厚を薄くして前記弁筒(10)の外周面に弾性的に密接するシールリップ(13)を一体に連設してなる負圧ブースタにおいて,
シールリップ(13)を先端に向かって減少する形状に形成し,このシールリップ(13)の内周面に,前記グリース溜まり(35)に連通して前記グリース溜まり(35)と共通の潤滑グリース(g)を保持する延長グリース溜まり(35′)を設けて,これらグリース溜まり(35)及び延長グリース溜まり(35′)を,軸受ブッシュ(9)の前端手前から始まってシールリップ(13)の後端手前で終るよう軸受ブッシュ(9)及びシールリップ(13)の軸方向に連続して延びるグリース溝(35a)として構成し,該グリース溝(35a)を,軸受ブッシュ(9)及びシールリップ(13)の周方向に複数条配列したことを特徴とする負圧ブースタ。
【請求項2】
求項1記載の負圧ブースタにおいて,
前記延長グリース溜まり(35′)を,その底部が前記シールリップ(13)の先端に向かっ浅くなるように形成したことを特徴とする負圧ブースタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車のブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し,特に,ブースタシェルに,その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し,このブースタピストンに,入力杆と,この入力杆の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを内部に配設する弁筒を連接し,ブースタシェルの後壁に設けられる軸受筒には,前記弁筒の外周面を摺動自在に支承する弾性材製の軸受ブッシュを装着し,この軸受ブッシュの内周面には潤滑グリースを保持するグリース溜まりを設け,またこの軸受ブッシュの後端には,それよりも肉厚を薄くして前記弁筒の外周面に弾性的に密接するシールリップを一体に連設してなる負圧ブースタの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる負圧ブースタは,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−57527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる負圧ブースタでは,弁筒の外周面を摺動自在に支承する弾性材製の軸受ブッシュの内周面に,グリースを保持するグリース溜まりを形成して,軸受ブッシュ及び弁筒間の摺動部の潤滑を図るようにしている。しかしながら,シールリップの内周にはグリース溜まりが存在しないため,弁筒が前後に摺動するとき,特に前方へ摺動するとき,肉薄のシールリップの先端部が弁筒との摩擦により半径方向内方へ引き込まれようとしてスティックスリップ現象を起こし,これにより弁筒の円滑な摺動が妨げられるのみならず,異音が発生することがある。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,シールリップのスティックスリップ現象を防止するようにして,弁筒の円滑な摺動を確保すると共に,異音の発生を防ぐことを可能にした前記負圧ブースタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,ブースタシェルに,その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し,このブースタピストンに,入力杆と,この入力杆の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを内部に配設する弁筒を連接し,ブースタシェルの後壁に設けられる軸受筒には,前記弁筒の外周面を摺動自在に支承する弾性材製の軸受ブッシュを装着し,この軸受ブッシュの内周面には潤滑グリースを保持するグリース溜まりを設け,またこの軸受ブッシュの後端には,それよりも肉厚を薄くして前記弁筒の外周面に弾性的に密接するシールリップを一体に連設してなる負圧ブースタにおいて,シールリップを先端に向かって減少する形状に形成し,このシールリップの内周面に,前記グリース溜まりに連通して前記グリース溜まりと共通の潤滑グリースを保持する延長グリース溜まりを設けて,これらグリース溜まり及び延長グリース溜まりを,軸受ブッシュの前端手前から始まってシールリップの後端手前で終るよう軸受ブッシュ及びシールリップの軸方向に連続して延びるグリース溝として構成し,該グリース溝を,軸受ブッシュ及びシールリップの周方向に複数条配列したことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記延長グリース溜まりを,その底部が前記シールリップの先端に向かっ浅くなるように形成したことを第の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,シールリップの内周面に,軸受ブッシュ内周面のグリース溜まりに連通して前記グリース溜まりと共通のグリースを保持する延長グリース溜まりを設けて,これらグリース溜まり及び延長グリース溜まりを,軸受ブッシュの前端手前から始まってシールリップの後端手前で終るよう軸受ブッシュ及びシールリップの軸方向に連続して延びるグリース溝として構成したことで,弁筒は,共通の潤滑グリースによって,軸受ブッシュに対しては勿論,シールリップに対してもスムーズに摺動することができ,特に,弁筒の前進時におけるシールリップのスティックスリップ現象を防ぎ,異音の発生を抑えることができる。またグリース溜まり及び延長グリース溜まりに共通の潤滑グリースを保持させることで,メンテナンス性を良好にすることができる。しかも弁筒の前後摺動により,各グリース溝内で潤滑グリースが循環することになり,潤滑グリースの滞留が生じ難く,したがって潤滑グリースの劣化を防ぎ,軸受ブッシュ,シールリップ及び弁筒の三者の摺動部を長期間効果的に潤滑することができる。
【0009】
また,グリース溝を軸受ブッシュ及びシールリップの周方向に複数条配列したことで,複数条のグリース溝の各間の軸方向に延びる複数条のランド部がリブ効果を発揮して,シールリップの軸方向の剛性を確保し,シールリップのシール機能を充分に発揮することができる
【0010】
本発明の第の特徴によれば,延長グリース溜まりを,その底部が前記シールリップの先端に向かっ浅くなるように形成したことで,延長グリース溜まりの形成によるシールリップの剛性低下を最小限に抑え,シールリップのスティックスリップ現象の防止効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る負圧ブースタの縦断面図(図3の1−1線断面図)。
図2図1の2部拡大図。
図3図2の3−3線断面図。
図4】シールリップ付き軸受ブッシュ単体の内周面を自由状態で見せた拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0013】
先ず,図1及び図2において,負圧ブースタBのブースタシェル1は,それぞれ椀状に形成されて対向端を相互に結合される前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bより構成される。これら前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bは鋼板製であり,これらは,鋼材製の一対のタイロッド6(図1には,そのうちの一本のみを示す。)を介して結合される。一対のタイロッド6は,ブースタシェル1の中心軸線を挟んで並ぶように配置され,これらタイロッド6を利用して,前部シェル半体1aの前端面にマスタシリンダMのシリンダボディMaの取り付けフランジMa1が締結され,またこれらタイロッド6を利用して,後部シェル半体1bが車体Fの前面に締結される。
【0014】
ブースタシェル1の内部は,それに前後往復動可能に収容されるブースタピストン4と,その後面に重ねてられると共に両シェル半体1a,1b間に挟止されるダイヤフラム5とにより,前側の負圧室2と後側の作動室3とに区画される。ダイヤフラム5には,ブースタピストン4の中間部を気密に貫通して前記タイロッド6上を摺動し得る筒状のスライドシール5aが一体に形成されている。負圧室2は,負圧導入管14及び逆止弁19を介して負圧源V(例えば内燃機関の吸気マニホールド内部)と接続される。
【0015】
ブースタピストン4及びダイヤフラム5の中心部には,樹脂製の弁筒10が一体的に結合される。この弁筒10は,後部シェル半体1bの中心部に後方へ突設された軸受筒12に軸受ブッシュ9を介して摺動自在に支承される。
【0016】
図2図4に明示するように,軸受ブッシュ9は,ゴムやエラストマ等の弾性材よりなるもので断面方形に成形され,その後端には,同材よりなるシールリップ13が一体に付設される。このシールリップ13は,軸受ブッシュ9と同様に弁筒10の外周面に摺動自在に密接するもので,肉厚が軸受ブッシュ9より薄く且つ先端に向かって減少する形状をなしており,断面が三角形状をなしている。このようなシールリップ13付きの軸受ブッシュ9には,鋼板製の補強環26がモールド結合される。この補強環26は,軸受ブッシュ9及びシールリップ13間を経て軸受ブッシュ9の内周面付近に埋め込まれる環状のアンカ部26aと,このアンカ部26aの外周端から後方へ屈曲する取り付け筒部26bと,この取り付け筒部26bの後端から半径方向に突出するストッパフランジ26cとよりなっている。而して,取り付け筒部26bを前記軸受筒12の内周に圧入すると共に,ストッパフランジ26cを軸受筒12の後端に当接させることにより,補強環26は軸受筒12に取り付けられ,これに伴ない軸受ブッシュ9は,軸受筒12の内周面に密接した状態に保持され,この軸受ブッシュ9及びシールリップ13の内周面に,弁筒10の外周面が摺動自在に密接する。
【0017】
軸受ブッシュ9の内周面には,潤滑グリースgを保持するグリース溜まり35が,またシールリップ13の内周面には,上記グリース溜まり35に連通して上記グリース溜まり35と共通の潤滑グリースgを保持する延長グリース溜まり35′がそれぞれ設けられる。
【0018】
図4に明示するように,グリース溜まり35及び延長グリース溜まり35′は,具体的には,軸受ブッシュ9の前端手前から始まってシールリップ13の後端手前で終るよう軸受ブッシュ9及びシールリップ13の軸方向に連続して延びるグリース溝35aを軸受ブッシュ9及びシールリップ13の周方向に複数条配列して構成され,その際,延長グリース溜まり35′に対応するグリース溝35aは,その底部がシールリップ13の先端,即ち後端に向かった浅くなるように形成される。
【0019】
弁筒10内には,弁ピストン18,この弁ピストン18に連結する入力杆20,及びこの入力杆20の前後動に応じて作動室3を負圧室2と大気とに連通切換えする制御弁38とが配設される。入力杆20の後端には,これを操作するブレーキペダルPが連結される。
【0020】
弁ピストン18は,弁筒10に設けられたガイド孔11に摺動自在に嵌合されるもので,その前端には頸部18bを介して反力ピストン17が,また後端にはフランジ状の大気導入弁座31がそれぞれ形成される。その大気導入弁座31を囲繞するように同心配置される環状の負圧導入弁座30が弁筒10に形成される。
【0021】
弁ピストン18には,大気導入弁座31の後端面に開口する連結孔18aが設けられ,この連結孔18aに入力杆20の前端に形成されるボールジョイント20aが嵌合されると共に,その抜け止めのために弁ピストン18の一部がかしめられる。こうして入力杆20は弁ピストン18に首振り可能に連結される。
【0022】
また弁筒10には,前記負圧導入弁座30及び大気導入弁座31と協働する環状の弁部34aを前端に有する伸縮可能な筒状の弁体34が弁ホルダ33により取り付けられる。即ち,弁体34は全体がゴム等の弾性材で成形されたもので,後端に取り付けビード34と,この取り付けビード34に囲繞される内側ビード34cを有し,その取り付けビード34が,環状の弁ホルダ33と弁筒10の内周面との間に挟持される。内側ビード34cの後端には,弁ホルダ33の内周面に嵌合するばね座部材43が当接するように配設され,このばね座部材43と入力杆20との間には入力戻しばね41が縮設され,これによって入力杆20は後退方向へ付勢される。一方,弁ホルダ33は,入力戻しばね41により前方へ付勢され,弁筒10内周の環状肩部10bへ押圧されて固定される。
【0023】
弁体34の弁部34aには,その内周側から環状の補強板44が埋設される。弁部34aの外周には,後方へ屈曲した環状のシールリップ37が一体に形成される。弁部34aは大気導入弁座31及び負圧導入弁座30に着座可能に対向して配置される。この弁部34aの補強板44と入力杆20との間には,弁部34aを両弁座30,31との着座方向へ付勢する弁ばね36が縮設される。而して,上記負圧導入弁座30,大気導入弁座31,弁体34及び弁ばね36によって制御弁38が構成される。
【0024】
弁筒10内周の環状隆起部10aの内周面に弁部34a外周のシールリップ37が摺動可能に密接し,このシールリップ37により,環状隆起部10aの内周側に,負圧導入弁座30の外周面及び弁部34aの前面が臨む前部環状室45Aと,弁部34aの背面が臨む後部環状室45Bとが区画形成される。而して,前部環状室45Aは,弁部34aが負圧導入弁座30に着座することで閉じられる。
【0025】
弁筒10には第1及び第2ポート28,29が設けられる。第1ポート28は,一端が負圧室2に,他端が前部環状室45Aにそれぞれ開口するように形成され,第2ポート29は,一端が作動室3に連通し,他端が負圧導入弁座30及び大気導入弁座31間に開口するように形成される。また弁筒10には,作動室3を後部環状室45Bとも連通させる連通孔47が設けられる。
【0026】
前記軸受筒12の後端部と入力杆20とに,弁筒10を被覆する伸縮可能のブーツ40の両端が取り付けられ,このブーツ40の後端部に,前記弁体34の内側に連通する大気導入口39が設けられる。この大気導入口39に流入する空気を濾過するフィルタ42が入力杆20の外周面と弁筒10の内周面との間に介裝される。このフィルタ42は,入力杆20及び弁筒10の相対移動を阻害しないよう,柔軟性を有する。
【0027】
弁筒10には,前記軸受筒12の前端部に当接して弁筒10及び入力杆20の後退限を規定するキー部材32が取り付けられる。
【0028】
また弁筒10には,前方に突出する作動ピストン15と,この作動ピストン15の中心部を貫通する小径シリンダ孔16とが設けられ,この小径シリンダ孔16に前記反力ピストン17が摺動自在に嵌合される。作動ピストン15の外周にはカップ体21が摺動自在に嵌合され,このカップ体21には作動ピストン15及び反力ピストン17に対向する偏平な弾性ピストン22が充填される。その際,反力ピストン17及び弾性ピストン22間には,負圧ブースタBの非作動時に一定の間隙ができるようになっている。
【0029】
カップ体21の前面には出力杆25が連設される。したがって,出力杆25は,カップ体21を介して弁筒10に摺動可能に支持されることになる。この出力杆25は,前記ブレーキマスタシリンダMの,前部シェル半体1aの中心部を貫通するマスタピストンMbの後端部に連接される。
【0030】
以上において,作動ピストン15,反力ピストン17,弾性ピストン22及びカップ体21は,出力杆25の出力の一部を入力杆20にフィードバックする反力機構24を構成する。
【0031】
再び図1において,ブースタシェル1の前壁と弁筒10の前端面との間には,弁筒10を後退方向へ付勢するコイル状のブースタ戻しばね27が縮設される。このブースタ戻しばね27を構成する線材の後端部は,半径方向内向きに屈曲して前記カップ体21の前端面に当接する抜け止め片27aに形成され,これにより前記カップ体21の弁筒10から抜け出しが阻止される。
【0032】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0033】
負圧ブースタBの休止状態では,弁筒10に取り付けられたキー部材32が軸受筒12の前端に当接し,このキー部材32に反力ピストン17の後端面が当接することにより,ブースタピストン4及び入力杆20が後退限に保持される。このとき,大気導入弁座31は弁体34の弁部34aに密着しながら,この弁部34aを押圧して負圧導入弁座30から僅かに離座させている。これによって大気導入口39及び第2ポート29間の連通が遮断される一方,第1及び第2ポート28,29間が連通され,したがって負圧室2の負圧が両ポート28,29を通して作動室3に伝達し,両室2,3は同圧となっているため,ブースタピストン4及び弁筒10はブースタ戻しばね27の付勢力により後退位置に保持される。
【0034】
いま,車両を制動すべくブレーキペダルPを踏み込むことにより,入力戻しばね41のセット荷重に抗して入力杆20を弁ピストン18と共に前進させると,弁ばね36の付勢力が弁部34aを負圧導入弁座30に着座させると同時に,大気導入弁座31が弁体34から離れ,これにより第1及び第2ポート28,29間の連通が遮断されると共に,第2ポート29が弁体34の内側を通して大気導入口39と連通される。
【0035】
その結果,大気導入口39から弁筒10内に流入した大気が大気導入弁座31を通過し,第2ポート29を経て作動室3に導入され,作動室3を負圧室2より高圧にするので,それらの気圧差に基づく前方推力を得てブースタピストン4は,弁筒10,作動ピストン15,弾性ピストン22,カップ体21及び出力杆25を伴いながらブースタ戻しばね27の力に抗して前進し,出力杆25がマスタピストンMbを前進駆動するようになる。この駆動に伴い生ずる反力により弾性ピストン22が圧縮されて,その一部を小径シリンダ孔16に膨出させるが,その膨出部が反力ピストン17の前面に当接するまでは,上記反力は入力杆20に伝わらないので,出力杆25の出力は,急速に立ち上がるジャンピング特性を示す。
【0036】
このような入力杆20の前進操作時には,弁筒10の前部環状室45Aに臨む弁部34aの前面には,第1ポート28から前部環状室45Aに伝達する負圧が作用するのに対して,弁筒10の後部環状室45Bに臨む弁部34aの背面には,第2ポート29から連通孔47を介して後部環状室45Bに伝達する大気圧が作用するので,弁部34aは,弁ばね36のセット荷重による他,前部及び後部環状室45A,45B間の気圧差によっても負圧導入弁座30との着座方向へ付勢されることになる。したがって,上記気圧差による付勢力分,弁ばね36のセット荷重を低減することが可能となり,それに伴い入力杆20を後退方向へ付勢する入力戻しばね41のセット荷重の低減も可能となり,その結果,比較的小さい初期操作入力によりジャンピング特性が得られので,ブレーキマスタシリンダM及び各車輪ブレーキの無効ストロークを素早く排除して,各車輪ブレーキの応答性を高めることができる。
【0037】
またこの状態において,弁部34a外周のシールリップ37は,後方に屈曲して,弁筒10の内周面に密接しているので,前部及び後部環状室45A,45B間の気圧差により,上記内周面への密接力が高められ,両環状室45A,45B間の気密を確保することができる。
【0038】
弾性ピストン22が反力ピストン17に当接してからは,出力杆25の作動反力の一部が弾性ピストン22を介して入力杆20にフィードバックされることになるので,操縦者は出力杆25の出力の大きさを感受することができる。そして出力杆25の出力は,弾性ピストン22に当接する作動ピストン15及び反力ピストン17の受圧面積の比によって定まる倍力比をもって増加する。
【0039】
負圧室2及び作動室3間の気圧差が最大となる倍力限界点に達してからは,出力杆25の出力は,ブースタピストン4の上記気圧差による最大推力と,入力杆20への操作入力との和となる。
【0040】
車両の制動状態を解除すべく,ブレーキペダルPから踏力を解放すると,先ず入力杆20及び弁ピストン18が入力戻しばね41の力をもって後退する。これに伴い,弁ピストン18は,大気導入弁座31を弁体34に着座させながら,その弁体34を負圧導入弁座30から大きく離間させるので,作動室3が第2ポート29及び第1ポート28を介して負圧室2と連通する。その結果,作動室3への大気の導入が阻止される一方,作動室3の空気が負圧室2を経て負圧限Vに吸入され,それらの気圧差が無くなるため,ブースタピストン4も,ブースタ戻しばね27の弾発力をもって後退し,マスタシリンダMの作動を解除していく。そして,弁筒10に取り付けられたキー部材32の両端部が,前述のように,軸受筒12の前端に当接することにより,ブースタピストン4及び入力杆20は,再び休止状態に戻ることになる。
【0041】
ところで,上記のように前後に移動する弁筒10は,ブースタシェル1の軸受筒12に取り付けられる弾性材製の軸受ブッシュ9により摺動自在に支承されるので,多少の傾動が許容される。しかも軸受ブッシュ9の内周面には,潤滑グリースgを保持するグリース溜まり35が,またシールリップ13の内周面には,上記グリース溜まり35に連通して上記グリース溜まり35と共通の潤滑グリースgを保持する延長グリース溜まり35′がそれぞれ設けられて,これらグリース溜まり35及び延長グリース溜まり35′が,軸受ブッシュ9の前端手前から始まってシールリップ13の後端手前で終るよう軸受ブッシュ9及びシールリップ13の軸方向に連続して延びるグリース溝35aとして構成されるので,弁筒10は,グリース溜まり35及び延長グリース溜まり35′に保持される共通の潤滑グリースgによって,軸受ブッシュ9に対しては勿論,シールリップ13に対してもスムーズに摺動することができ,特に,弁筒10の前進時におけるシールリップ13のスティックスリップ現象を防ぎ,異音の発生を抑えることができる。またグリース溜まり35及び延長グリース溜まり35′に共通の潤滑グリースgを保持させることで,メンテナンス性を良好にすることができる。しかも弁筒10の前後摺動により,各グリース溝35a内で潤滑グリースgが循環することになり,潤滑グリースgの滞留が生じ難く,したがって潤滑グリースgの劣化を防ぎ,軸受ブッシュ9,シールリップ13及び弁筒10の三者の摺動部を長期間効果的に潤滑することができる。
【0042】
またグリース溝35aが軸受ブッシュ9及びシールリップ13の周方向に複数条配列されるので,複数条のグリース溝35a,35a…の各間の軸方向に延びる複数条のランド部がリブ効果を発揮して,シールリップ13の軸方向の剛性を確保することになり,シールリップ13のシール機能を充分に発揮することができる
【0043】
さらに延長グリース溜まり35′に対応するグリース溝35aは,その底部がシールリップ13の先端,即ち後端に向かっ浅くなるように形成されるので,延長グリース溜まり35′の形成によるシールリップ13の剛性の低下を最小限に抑えることができ,これもシールリップ13のスティックスリップ現象を防ぐことに貢献することになる。
【0044】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
B・・・・負圧ブースタ
V・・・・負圧源
1・・・・ブースタシェル
2・・・・負圧室
3・・・・作動室
4・・・・ブースタピストン
9・・・・軸受ブッシュ
10・・・弁筒
13・・・シールリップ
20・・・入力杆
35・・・グリース溜まり
35′・・延長グリース溜まり
35a・・グリース溝
38・・・制御弁
図1
図2
図3
図4