特許第5738261号(P5738261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738261エポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物、その硬化物、製造方法及び硬化物を用いた絶縁材料、電子・電気機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738261
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月17日
(54)【発明の名称】エポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物、その硬化物、製造方法及び硬化物を用いた絶縁材料、電子・電気機器
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20150528BHJP
   C08G 59/42 20060101ALI20150528BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150528BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20150528BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20150528BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20150528BHJP
【FI】
   C08F290/06
   C08G59/42
   C08L63/00 Z
   C08K3/36
   C08K7/04
   H01B3/00 A
   H01B3/40 C
【請求項の数】11
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-254899(P2012-254899)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2013-256637(P2013-256637A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2012年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-112461(P2012-112461)
(32)【優先日】2012年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】天羽 悟
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−203955(JP,A)
【文献】 特開平09−249740(JP,A)
【文献】 特開平11−255864(JP,A)
【文献】 特開2003−277471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
C08G 59/00− 59/72
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
H01B 3/00
H01B 3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は硬化により、前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体である硬化物を形成し得るものであり、
さらに、前記樹脂組成物が、平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項2】
前記複合微粒子は、複合微粒子全量に対して前記破砕状結晶質シリカが83〜94重量%、前記針状無機フィラーが1〜5重量%、前記架橋ゴム粒子が2〜9重量%、前記コアシェルゴム粒子が1〜5重量%であり、該複合微粒子を前記樹脂組成物全量に対して50〜76重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂又は/及びビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項4】
前記不飽和二重結合を有する酸無水物としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸又は/及びメチルナジック酸無水物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物が、更に前記酸無水物の総量に対して1〜33mol%の無水マレイン酸又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の総量に対して1〜33molの無水マレイン酸を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の当量数と前記エポキシ樹脂の当量数の比が下記式1において0.9以上、1.0未満であり、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の総量100重量部に対して、前記多官能ビニルモノマーを10重量部以上、100重量部以下の範囲で含有し、前記エポキシ樹脂硬化触媒を前記エポキシ樹脂100重量部に対して0.08重量部以上、1.0重量部以下の範囲で含有し、前記ラジカル重合触媒を前記多官能ビニルモノマー100重量部に対して0.5重量部以上、2重量部以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
当量比=樹脂組成物中の全酸無水物の当量数÷樹脂組成物中の全エポキシ樹脂の当量数…式1
(但し、全酸無水物の当量数は樹脂組成物中の全酸無水物量を酸無水物の当量で除算し、和した値であり、全エポキシ樹脂の当量数は、樹脂組成物中の全エポキシ樹脂量をエポキシ樹脂の当量で除算し、和した値である。)
【請求項7】
100℃におけるゲル化時間が1時間以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物の硬化により形成された硬化物であって、
該硬化物は前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体であり、
さらに、前記樹脂組成物が、平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【請求項9】
前記硬化物中の全有機成分に対する5wt%重量減少温度に基づく活性化エネルギーが30kcal/mol以上であることを特徴とする請求項8に記載のエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のエポキシ‐ビニル共重合型硬化物を絶縁体又は/及び構造材料とすることを特徴とする電子又は電機機器。
【請求項11】
エポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物を調整し、
さらに、前記樹脂組成物に、平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を添加し、
前記樹脂組成物を加熱して、前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体を形成することを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(以下、ワニスと称す)、その硬化物および該硬化物の製造方法ならびに該硬化物を用いた絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電機機器においては小型化、軽量化が進行している。これに伴い機器の電流密度、発熱量が増しており、それに用いる絶縁材料には高耐熱化が求められている。一方、電子・電機機器の絶縁材料としては、低コスト性、高接着性、耐熱性、加工性等のバランスが良いエポキシ樹脂が広く用いられてきた。エポキシ樹脂の高耐熱化手法としては、例えば特許文献1に記載のナフタレン骨格等の剛直構造の導入、特許文献2や特許文献3に記載のような3個以上のエポキシ基を構造中有する多官能エポキシ樹脂の適用が挙げられる。
【0003】
同様にエポキシ樹脂の硬化剤である酸無水物に対しても剛直化、多官能化の手法が検討されてきた。そのような例としては、特許文献2に記載のメチルナジック酸無水物(酸無水物当量178、日立化成工業(株)製、MHAC−P)、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量168、日立化成工業(株)製、HN−5500)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量166、日立化成工業(株)製、HN−2200)の例があり、その実施例52〜54において耐熱温度指数が酸無水物当量の増大、即ち分子量の増大にともない増すことが示されている。また、特許文献4には、四官能であるメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物を硬化剤とする例があり、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を硬化剤とした場合よりもガラス転移温度が高温化することが記載されている。
【0004】
また、特許文献5には無水マレイン酸とスチレンの共重合体であるSMAを硬化剤とするエポキシ樹脂組成物に2〜10重量%のトリアリルシアネートを配合すると硬化物のガラス転移温度が高くなることが開示されている。しかし、多官能化、剛直化したエポキシ樹脂、多官能化した酸無水物、分子量が大きな酸無水物を用いて絶縁材料の高耐熱化をなした場合、ワニスの溶融温度や粘度が高くなり、成形性の低下を招く。
【0005】
また、絶縁材料には高熱伝導性、強靭性、高耐電圧性も求められており、例えば特許文献6に記載のように、有機、無機フィラーを配合して改質する手法が求められる。有機、無機フィラーをワニスに添加すると溶融粘度を増加させる。成形性の低下は、微細で複雑な絶縁構造の形成を妨げるため、配線間への空隙の発生を助長するほか、樹脂組成物からの脱泡操作を困難にするため、絶縁層内への気泡の残存を助長する。配線間の空隙や絶縁層内の気泡は、電子、電機機器の絶縁信頼性を損なうのでこれを避ける必要がある。特に含浸、注型操作によって絶縁層、固着層、ハウジング等を製造する注型用ワニスにおいては、高耐熱化とともに低粘度化が求められる。
【0006】
特許文献7においては、(a)平均分子量1000以下のエポキシ樹脂と、一分子中に2個以上のマレイミド基を有するポリマレイミド化合物を反応させて得たイミド環含有エポキシ樹脂化合物、(b)一分子中に2個以上のビニル基を含有する多官能ビニル化合物、(c)液状の酸無水物からなる液状樹脂組成物及び必要に応じラジカル重合開始剤、エポキシ樹脂と酸無水物との反応用触媒を含む組成物が開示されている。
【0007】
特許文献8には、(a)一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を含有し、平均分子量が1000以下のエポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂と、一分子中に少なくとも2個以上のマレイミド基を含有するポリマレイミド化合物とをあらかじめ反応させて得たイミド環含有エポキシ化合物、(b)一分子中に2個以上のアクリル基、メタクリル基またはアリル基を含有する多官能ビニルモノマー、および(c)液状の酸無水物からなる液状熱硬化性樹脂組成物が開示されているが、エポキシ樹脂組成物の低粘度化や耐クラック性の改善に関する検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−233486号公報
【特許文献2】特開平9−316167号公報
【特許文献3】特開平8−109316号公報
【特許文献4】特開2010−193673号公報
【特許文献5】特表平10−505376号公報
【特許文献6】特開2011−01424号公報
【特許文献7】特開2011−57734号公報
【特許文献8】特開2004−203955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ワニスの粘度を低減しつつ、耐熱性の優れた硬化物を得ること、その硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、熱伝導性、熱膨張性、靭性、強度性を改善し、かつ耐熱性及び耐クラック性に優れた硬化物を得ること、その硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、ワニスの粘度を低減しつつ、熱伝導性、熱膨張性、靭性を改善し、かつ耐熱性の優れた硬化物を得ること、その硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、ワニスの粘度を低減しつつ、熱伝導性、熱膨張性、強度を改善し、かつ耐熱性の優れた硬化物を得ること、その硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、ワニスの粘度を低減しつつ、熱伝導性、熱膨張性を改善し、かつ耐熱性の優れた硬化物を得ること、その硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(I)本発明は、ワニスに多官能ビニルモノマーを配合してワニス粘度を低減するとともに、該多官能ビニルモノマーとエポキシ樹脂と酸無水物とからなる共重合体である硬化物を形成し得る樹脂組成物に係り、この樹脂組成物を硬化することにより、その硬化物の耐熱性を向上する。
【0015】
(II)また本発明は、上記(I)の樹脂組成物にさらに破砕状結晶質シリカ、針状無機フィラー、架橋ゴム粒子及びコアシェルゴム粒子を所定量添加することによって、硬化物の熱伝導性、熱膨張性、靭性及び強度を改善し、かつ耐クラック性を向上する。
【0016】
(III)また本発明は、上記(I)の樹脂組成物にさらに破砕状結晶質シリカ、架橋ゴム粒子及びコアシェルゴム粒子を所定量添加することによって、硬化物の熱伝導性、熱膨張性、靭性を改善する。
【0017】
(IV)また本発明は、上記(I)の樹脂組成物にさらに破砕状結晶質シリカ、針状無機フィラーを所定量添加することによって、硬化物の熱伝導性、熱膨張性及び強度を改善する。
【0018】
(V)また本発明は、上記(I)の樹脂組成物にさらに破砕状結晶質シリカを所定量添加することによって、硬化物の熱伝導性、熱膨張性を改善する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来のワニスに比べてワニス粘度が低減でき、その硬化物の耐熱性を向上することができる。更に該熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することができる。
【0020】
また、本発明によれば、従来のワニスに比べてワニス粘度が低減でき、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性、靭性及び強度を改善し、かつ耐熱性及び耐クラック性を向上することができる。更に該熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、従来のワニスに比べてワニス粘度が低減でき、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性及び靭性を改善し、かつ耐熱性を向上することができる。更に該熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、従来のワニスに比べてワニス粘度が低減でき、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性及び強度を改善し、かつ耐熱性を向上することができる。更に該熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することができる。
【0023】
また、本発明によれば、従来のワニスに比べてワニス粘度が低減でき、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性を改善し、かつ耐熱性を向上することができる。更に該熱硬化性樹脂組成物を硬化した硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るエポキシ‐ビニル共重合型樹脂組成物の硬化物の熱重量測定における5%重量減少温度の逆数と昇温速度の対数値との関係を示すグラフである。
図2図2は本発明に係るエポキシ‐ビニル共重合型樹脂組成物の有機成分の熱重量測定における5%重量減少時間と劣化温度の逆数との関係を示すグラフである。
図3】モデル変圧器用注型コイルの一例を示す断面模式図である。
図4A】耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーの斜視模式図である。
図4B図4Aの平面図である。
図4C図4Aの側面図である。
図4D図4BのZ‐Z線断面図である。
図5A】耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーの斜視模式図である。
図5B図5Aのビス6の断面図である
図6A図5Aに示したSUS309S製C型ワッシャーに離型処理を施し、カップ7に設置した様子を示す模式図である。
図6B図6Aのカップ7の断面図である。
図7A】耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーを設置したカップ7に、所定のワニスを注ぎ、硬化処理を施す時の様子を示す模式図である。
図7B図7Aで作製したサンプル(硬化物中にC型ワッシャーが埋め込まれたもの)の模式図である。
図8】耐クラック試験における冷熱衝撃(温度と時間)の条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
従来、ワニスの低粘度化は特許文献1や特許文献2に記載されているように希釈剤を適用する方法が一般的である。先行技術においては希釈剤の添加は、硬化物の耐熱性を低下させることからその使用量は抑えるべきであるとしていた。
【0026】
(I)しかし、本発明者は希釈剤として相当量の多官能ビニルモノマーを採用した場合においても、酸無水物とエポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーとからなる共重合体を形成することによって、硬化物の耐熱性を向上することができることを見出した。
【0027】
(II)更に本発明者は、エポキシ樹脂と酸無水物と多官能ビニルモノマーとを共重合した場合には、架橋密度の増加に伴う高弾性化、硬化収縮等の影響で耐クラック性が低下する傾向にあるものの、樹脂組成物に特定の範囲のサイズを有する破砕状結晶質シリカ、針状無機フィラー及びゴム粒子からなる複合微粒子を所定量配合することによって、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性、靭性及び強度を改善し、かつ優れた耐熱性及び耐クラック性を付与することができることを見出した。
【0028】
(III)更に本発明者は、樹脂組成物に特定の範囲のサイズを有する破砕状結晶質シリカ及びゴム粒子からなる複合微粒子を所定量配合することによって、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性、靭性を改善し、かつ優れた耐熱性を付与することができることを見出した。
【0029】
(IV)更に本発明者は、樹脂組成物に特定の範囲のサイズを有する破砕状結晶質シリカ及び針状無機フィラーからなる複合微粒子を所定量配合することによって、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性、強度を改善し、かつ優れた耐熱性を付与することができることを見出した。
【0030】
(V)更に本発明者は、樹脂組成物に特定の範囲のサイズを有する破砕状結晶質シリカからなる複合微粒子を所定量配合することによって、その硬化物の熱伝導性、熱膨張性を改善し、かつ優れた耐熱性を付与することができることを見出した。
【0031】
以下、本発明の熱硬化性液状樹脂組成物をエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物、その硬化物をエポキシ‐ビニル共重合型絶縁材料と称する。
【0032】
現在、耐熱性の改善機構は、共重合化による架橋密度の増加とそれにともなう熱分解反応速度の低下であり、耐クラック性の改善機構はゴム粒子による応力緩和、応力分散であると推定している。
【0033】
本発明の実施態様を例示すれば、以下のとおりである。
【0034】
(1)常温(25℃、以下同じ)で液状のエポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、(A)常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は(B)常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物(A)又は前記酸無水物及び無水マレイン酸(B)の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は硬化により、前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物(A)又は前記酸無水物及び無水マレイン酸(B)と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体である硬化物を形成し得るものであることを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(I)。
【0035】
本組成物は、エポキシ樹脂と酸無水物(上記(A)又は(B))と多官能ビニルモノマーとからなる共重合体を形成することによって従来の酸無水物硬化型エポキシ樹脂組成物よりも高い耐熱性を実現できる。
【0036】
不飽和二重結合を有する酸無水物がエポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーそれぞれと化学結合し、エポキシ樹脂と酸無水物と多官能ビニルモノマーとからなる共重合体が形成される。エポキシ樹脂や多官能ビニルモノマーは、分子量の増大(組成物の粘度の上昇)を避けるため、他の化合物と化合した変性物ではないもの(未変性エポキシ樹脂、未変性ビニルモノマー)であることが好ましい。
【0037】
なお、無水マレイン酸は常温で固体であるが、他の成分に溶解して液状になるので本発明に用いられる。本発明においては、少なくとも前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物(A)又は前記酸無水物及び無水マレイン酸(B)と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体である硬化物を形成し得る樹脂組成物は17℃で液状になるように調整することが重要で、この特性により樹脂組成物の取り扱い性が優れている。
【0038】
(2)前記樹脂組成物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子の(a)〜(d)の1つ以上からなる複合微粒子を含むエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(II)。
【0039】
破砕状結晶質シリカは高熱伝導性及び低熱膨張性を付与し、針状無機フィラーは高強度性を付与し、ゴム粒子は高靭性を付与することができる。該複合微粒子の効果によって、硬化収縮の抑制、残留応力の低減、微細クラック先端の応力分散によるクラックの成長抑制、熱膨張係数の調整、熱伝導性の向上及び低価格化が効果的になされ、かつ耐クラック性の優れたエポキシ‐ビニル共重型絶縁材料を得ることができる。
(3)前記樹脂組成物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(III)。これにより熱伝導性、熱膨張性及び靭性を改善し、かつ耐熱性の優れたエポキシ‐ビニル共重型絶縁材料を得ることができる。
(4)前記樹脂組成物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラーからなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(IV)。これにより熱伝導性、熱膨張性及び強度を改善し、かつ耐熱性の優れたエポキシ‐ビニル共重型絶縁材料を得ることができる。
(5)前記樹脂組成物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカからなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物(V)。これにより熱伝導性、熱膨張性を改善し、かつ耐熱性の優れたエポキシ‐ビニル共重型絶縁材料を得ることができる。
(6)前記複合微粒子は、複合微粒子全体に対して(a)破砕状結晶質シリカを83〜94重量%、(b)針状無機フィラーを1〜5重量%、(c)架橋ゴム粒子を2〜9重量%、(d)コアシェルゴム粒子を1〜5重量%含み、本複合微粒子を樹脂組成物全量に対して50〜76重量%含有することを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。従来のエポキシ樹脂組成物に比べて、本発明のエポキシ樹脂と、酸無水物又は無水マレイン酸と、多官能ビニルモノマーからなる母剤のワニスの粘度は低いので、本範囲の複合微粒子を含有するワニスにおいても粘度の上昇が抑制され、脱泡作業、注型作業を効率的に実施できる。
【0040】
(7)更にエポキシ樹脂と常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物(A)又は常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸(B)の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒および多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒を含有することを特徴とする上記のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。これにより両硬化反応が促進され、実用上問題のない温度、時間範囲で硬化物を得ることができる。また、硬化時間、硬化温度を調整することもできる。
【0041】
(8)前記エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂又は/及びビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有することを特徴とする上記のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【0042】
(9)前記不飽和二重結合を有する酸無水物としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸又は/及びメチルナジック酸無水物を含有することを特徴とする上記のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【0043】
(10)前記樹脂組成物が更に(A)前記酸無水物又は(B)前記酸無水物及び無水マレイン酸の総量に対して1〜33mol%以下の無水マレイン酸を含有することを特徴とする上記のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。無水マレイン酸のラジカル重合性は高く、エポキシ樹脂と酸無水物と多官能ビニルモノマーの共重合体の形成が容易になる。なお、本明細書において「1〜33mol%」とは、1mol%以上、33mol%以下を意味するものとする。
【0044】
(11)(A)前記酸無水物又は(B)前記酸無水物及び無水マレイン酸の当量数と前記エポキシ樹脂の当量数の比が下記式1において0.9以上、1.0未満であり、前記エポキシ樹脂と(A)前記酸無水物又は(B)前記酸無水物及び無水マレイン酸の総量100重量部に対して、前記多官能ビニルモノマーを10重量部以上、100重量部以下の範囲で含有し、前記エポキシ硬化触媒を前記エポキシ樹脂100重量部に対して0.08重量部以上、1.0重量部以下の範囲で含有し、前記ラジカル重合触媒を前記多官能ビニルモノマー100重量部に対して0.5重量部以上、2重量部以下の範囲で含有することを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。
【0045】
当量比=樹脂組成物中の全酸無水物の当量数÷樹脂組成物中の全エポキシ樹脂の当量数…式1
(但し、全不飽和二重結合を有する酸無水物の当量数は樹脂組成物中の不飽和二重結合を有する全酸無水物量を不飽和二重結合を有する酸無水物の当量で除算し、和した値であり、全エポキシ樹脂の当量数は、樹脂組成物中の全エポキシ樹脂量をエポキシ樹脂の当量で除算、和した値である。)
本構成によって、未反応のエポキシ樹脂、酸無水物の残存を抑制可能な絶縁ワニスを得ることができる。
【0046】
(12)更に前記樹脂組成物が、前記(a)破砕状結晶質シリカ、(b)針状無機フィラー、(c)架橋ゴム粒子及び(d)コアシェルゴム粒子以外の無機又は/及び有機フィラーを含有することを特徴とする上記のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物。上記無機フィラー又は/及び有機フィラーを添加することによって硬化物の熱膨張係数、強度、耐クラック性を調整することができる。
【0047】
(13)100℃におけるゲル化時間が1時間以上であることを特徴とする上記のエポキシ−ビニル共重合型液状樹脂組成物。本組成物の構成を採用することによって、成型、注型加工時の作業性を確保することができる。
【0048】
(14)エポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物の硬化により形成された硬化物であって、
該硬化物は前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体であることを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【0049】
(15)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【0050】
(16)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【0051】
(17)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラーからなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【0052】
(18)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカからなる複合微粒子を含むことを特徴とするのエポキシ‐ビニル共重合型硬化物。
【0053】
(19)上記の硬化物中の全有機成分に対する5wt%重量減少温度に基づく活性化エネルギーが30kcal/mol以上であることを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型絶縁材料。これにより耐熱性の優れた絶縁材料を提供することができる。
【0054】
(20)上記のエポキシ‐ビニル共重合型硬化物を絶縁体又は/及び構造材料とすることを特徴とする電子又は電機機器。
【0055】
(21)エポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂と、(A)常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物又は(B)常温で液状の不飽和二重結合を有する酸無水物及び無水マレイン酸と、常温で液状の多官能ビニルモノマーと、前記エポキシ樹脂と前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸の硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒と、前記多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒とを含有する樹脂組成物を調整し、
前記樹脂組成物を加熱して、前記エポキシ樹脂と、前記酸無水物又は前記酸無水物及び無水マレイン酸と、前記多官能ビニルモノマーとからなる共重合体を形成することを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【0056】
上記製造方法を用いることで、合成や精製が煩雑な、特殊な構造を有する多官能エポキシ樹脂や酸無水物を用いることなく、酸無水物硬化型エポキシ樹脂を高耐熱化することができる。また、汎用の液状エポキシ樹脂、不飽和二重結合を有する酸無水物、多官能ビニルモノマーを主剤とする樹脂系においては、絶縁ワニスの粘度の増加を招くことなく、その硬化物の高耐熱化を実現できることから、作業性の改善にも寄与できる。
【0057】
(22)前記樹脂硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【0058】
(23)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【0059】
(24)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ及び(b)平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラーからなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【0060】
(25)前記硬化物が更に(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカからなる複合微粒子を含むことを特徴とするエポキシ‐ビニル共重合型硬化物の製造方法。
【0061】
前記特許文献8(以下、文献8と称す)の記載の発明内容と本発明を比較すると以下のとおりである。
【0062】
(1)文献8においては、エポキシ樹脂とポリマレイミドを反応させたイミド環含有エポキシ樹脂を高耐熱化の必須成分としている。イミド環含有エポキシ樹脂は、原料であるエポキシ樹脂やポリマレイミドに比べて分子量が増大する点に課題を有す。これを液状の多官能ビニルモノマー及び酸無水物に溶解して液状ワニスとするが、分子量が増している分、ワニス粘度が増加することが問題である。また、イミド環含有エポキシ樹脂を合成する工程では、ポリマレイミドによる変性が進みすぎると、エポキシ樹脂が架橋して、ワニス化できなくなるので、適切なプロセス管理が必要であり、ワニス製造プロセスが煩雑となる点も問題となる。
【0063】
これに対して本発明は、未変性のエポキシ樹脂、多官能ビニルモノマー、不飽和二重結合を有する酸無水物を用い、その硬化過程で共重合化し、硬化物の架橋密度を増して高耐熱化する設計思想である。本発明は、ワニスの段階において、汎用のエポキシ樹脂、多官能ビニルモノマー、酸無水物に対して分子量が増すような変性を加えないことから、ワニス粘度の低減、ワニス製造プロセス管理の容易さの点で有利である。
【0064】
更に本発明は、架橋密度の増大に伴う硬化収縮、残留応力の増大に起因する耐クラック性の低下に対して、平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子、粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子を含むことを特徴とする複合微粒子の配合組成を見出し、耐熱性に加えて硬化物の高熱伝導性、低熱膨張性、高靭性、高強度及び低価格化を改善し、かつ耐クラック性を著しく向上した。
(2)反応機構を比較した場合、文献8の場合は、イミド含有エポキシ樹脂が、(イ)マレイミド基を含有している場合、(ロ)マレイミド基が消失してエポキシ基のみを有する場合の2パターンが考えられる。但し、(ロ)の場合は、架橋により不溶化してしまうので、(イ)の場合のみを考えると、マレイミド基を介してエポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーの共重合が生じる。このとき、酸無水物が二重結合を有していた場合においても、マレイミド基のラジカル重合性が高いので、マレイミド基との反応が優先して進み、酸無水物の不飽和二重結合と多官能ビニルモノマー間の反応は、十分に進行しないまま硬化するものと思われる。文献8の場合は、エポキシ樹脂を変性して、多官能化することによって架橋密度を増すという思想である。
【0065】
これに対して、本発明は、エポキシ樹脂と不飽和二重結合を有する酸無水物の硬化反応過程において、同時に不飽和二重結合を有する酸無水物と多官能ビニルモノマーとの架橋反応を進めることによって、硬化系の架橋密度を増して、耐熱性を向上するものである。即ち、本発明は、エポキシ樹脂の硬化反応と不飽和二重結合を有する酸無水物の変性を同時に実施する設計思想により、ワニス状態での低粘度化と硬化物の高耐熱化を実現する発明である。
【0066】
以下、本発明のエポキシ−ビニル共重合型樹脂組成物の構成成分について説明する。
(i)エポキシ樹脂:好ましくは、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。3官能以上の多官能エポキシ樹脂や剛直構造を有するエポキシ樹脂を用いても良いが、その場合は耐熱性の改善効果が低下するほか、ワニスの粘度も増加する。より好ましいエポキシ樹脂としては、エポキシ当量が200g/eq以下のものが、ワニス粘度の低減の観点から好ましい。
【0067】
具体的には、DIC(株)製EPICLON840(エポキシ当量180〜190g/eq、粘度9000〜11000mPa・s/25℃)、EPICLON850(エポキシ当量183〜193g/eq、粘度11000〜15000mPa・s/25℃)、EPICLON830(エポキシ当量165〜177g/eq、粘度3000〜4000mP・s/25℃)、三菱化学(株)製jER827(エポキシ当量180〜190g/eq、粘度9000〜11000mPa・s/25℃)、jER828(エポキシ当量184〜194g/eq、粘度12000〜15000mPa・s/25℃)、jER806(エポキシ当量160〜170g/eq、粘度1500〜2500mPa・s/25℃)、jER807(エポキシ当量160〜175g/eq、粘度3000〜4500mPa・s/25℃)、EPICLON830(エポキシ当量165〜177g/eq、粘度3000〜4000mPa・s/25℃)等が挙げられる。
【0068】
耐熱性の観点からは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、低粘度化の観点からはビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、特性のバランスをとるために両者をブレンドして用いても良い。
【0069】
(ii)酸無水物:構造中に不飽和二重結合を有する汎用液状酸無水物を用いることが好ましい。不飽和二重結合を有する酸無水物を用いることによって、硬化過程において多官能ビニルモノマーとの共重合を生じる。酸無水物を介して多官能ビニルモノマーとエポキシ樹脂とが共重合し、硬化物の耐熱性が向上するものと考えられる。そのような酸無水物としては、日立化成(株)製HN−2000(酸無水物当量166g/eq、粘度30〜50mPa・s/25℃)HN−2200(酸無水物当量166g/eq、粘度50〜80mPa・s/25℃)、MHAC−P(酸無水物当量178g/eq、粘度150〜300mPa・s/25℃)、DIC(株)製EPICLON B−570H(酸無水物当量166g/eq、粘度40mPa・s/25℃)等が挙げられる。
【0070】
酸無水物は、単独で用いても良いし、混合物を用いても良く、更に系中の全酸無水物の1〜33mol%を無水マレイン酸としても良い。無水マレイン酸は常温で固体であるが、本範囲においては液状の酸無水物および多官能ビニルモノマーに溶解させることができ、液状酸無水物と同様にして取り扱うことができる。無水マレイン酸は、多官能ビニルモノマーとの共重合性が高いのでエポキシ−ビニル共重合型絶縁材料の構成成分として好ましい。
【0071】
(iii)多官能ビニルモノマー:分子内に複数のアクリレート基、メタクリレート基、スチレン基、アリル基等の不飽和二重結合を有する化合物を用いることができる。中でも常温で液状である化合物の適用が好ましい。その例としては、東洋ケミカルズ(株)製ヘキサンジオールジアクリレート(Miramer M200、粘度15mPa・s/25℃)、ヘキサンジオールEO変性ジアクリレート(Miramer M202、粘度30mPa・s/25℃)、トリプロピレングリコールジアクリレート(Miramer M220、粘度20mPa・s/25℃)、トリメチロールプロパントリアクリレート(Miramer M300、粘度120mPa・s/25℃)、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート(Miramer M3130、粘度65mPa・s/25℃)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(Miramer M410、粘度750mPa・s/25℃)、ジエチレングリコールジメタクリレート(Miramer M231、粘度20mPa・s/25℃)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(Miramer M301、粘度60mPa・s/25℃)、和光純薬(株)製トリアリルイソシアネート(粘度80〜110mPa・s/30℃)、1,2−ビス(m−ビニルフェニル)エタン、1−(p−ビニルフェニル)−2−(m−ビニルフェニル)エタン等が挙げられる。これら多官能ビニルモノマーは、エポキシ樹脂と酸無水物の総量を100重量部として、10重量部以上、100重量部以下の範囲で用いることが好ましい。
【0072】
多官能ビニルモノマーの配合量が10重量部以下では、耐熱性の改善効果が低下し、100重量部を超えると絶縁材料に硬化収縮にともなうクラックが発生しやすくなるためである。エポキシ樹脂100重量部に対して無水マレイン酸と多官能ビニルモノマーの総量が30重量部以上、100重量部以下の範囲で用いることが耐クラック性改善の観点から更に好ましい。
【0073】
(iv)エポキシ樹脂硬化触媒:本発明のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物は、エポキシ樹脂と酸無水物との硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒および多官能ビニルモノマーの硬化反応を促進するラジカル重合触媒を含有する。
【0074】
エポキシ樹脂硬化触媒の例としては、トリメチルアミン,トリエチルアミン,テトラメチルブタンジアミン,トリエチレンジアミン等の3級アミン類,ジメチルアミノエタノール,ジメチルアミノペンタノール,トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N−メチルモルフォリン等のアミン類、又、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド,セチルトリメチルアンモニウムクロライド,セチルトリメチルアンモニウムアイオダイド,ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド,ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド,ドデシルトリメチルアンモニウムアイオダイド,ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド,ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムブロマイド,アリルドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド,ベンジルジメチルステアリルアンモニウムブロマイド,ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド,ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムアセチレート等の第4級アンモニウム塩、2‐メチルイミダゾール、2‐エチルイミダゾール、2‐ウンデシルイミダゾール、2‐ヘプタデシルイミダゾール、2‐メチル‐4‐エチルイミダゾール、1‐ブチルイミダゾール、1‐プロピル‐2‐メチルイミダゾール、1‐ベンジル‐2‐メチルイミダゾール、1‐シアノエチル‐2‐フェニルイミダゾール、1‐シアノエチル‐2‐メチルイミダゾール、1‐シアノエチル‐2‐ウンデシルイミダゾール、1‐アジン‐2‐メチルイミダゾール、1‐アジン‐2‐ウンデシル等のイミダゾール類、アミンとオクタン酸亜鉛やコバルト等との金属塩、1,8‐ジアザ‐ビシクロ(5,4,0)‐ウンデセン‐7、N‐メチル‐ピペラジン,テトラメチルブチルグアニジン,トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、2‐エチル‐4‐メチルテトラフェニルボレート、1,8‐ジアザ‐ビシクロ(5,4,0)‐ウンデセン‐7‐テトラフェニルボレート等のアミンテトラフェニルボレート,トリフェニルホスフィン,トリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート,アルミニウムトリアルキルアセトアセテート,アルミニウムトリスアセチルアセトアセテート,アルミニウムアルコラート,アルミニウムアシレート,ソジウムアルコラートなどが挙げられる。その添加量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.08重量部以上、1.0重量部以下の範囲とすることが好ましく、本範囲において100℃におけるゲル化時間及び硬化物であるエポキシ‐ビニル共重合型絶縁材料のガラス転移温度を調整することができる。
(v)ラジカル重合触媒:ラジカル重合触媒の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルのようなベンゾイン系化合物、アセトフェノン、2、2‐ジメトキシ‐2‐フェニルアセトフェノンのようなアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2、4‐ジエチルチオキサントンのようなチオキサンソン系化合物、4、4’‐ジアジドカルコン、2、6‐ビス(4’ ‐アジドベンザル)シクロヘキサノン、4、4’ ‐ジアジドベンゾフェノンのようなビスアジド化合物、アゾビスイソブチロニトリル、2、2‐アゾビスプロパン、m、m’‐アゾキシスチレン、ヒドラゾン、のようなアゾ化合物、2、5‐ジメチル‐2、5‐ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2、5‐ジメチル‐2、5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3、ジクミルパーオキシドのような有機過酸化物等が挙げられる。
【0075】
特に100℃におけるゲル化を調整するためには、1時間半減期温度が少なくとも100℃を超えるラジカル重合触媒を用いることが好ましい。その例としては、t‐ブチルパーオキシマレイン酸(1持間半減期温度119℃、日油(株)製パーブチルMA)、n‐ブチル‐4,4‐ビス(t−ブチルパーオキシ)バレラート(1持間半減期温度126.5℃、日油(株)製パーヘキサV)、2、5‐ジメチル‐2、5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキシン‐3(1持間半減期温度149.9℃、日油(株)製パーヘキシン25B)、ジクミルパーオキシサイド(1持間半減期温度175.2℃、日油(株)製パークミルD)等を挙げることができる。その添加量は、多官能ビニルモノマー100重量部に対して0.5重量部以上、2重量部以下の範囲とすることが、ゲル化時間の調整の観点から好ましい。
【0076】
(vi)複合微粒子成分:更に本発明のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物には(a)平均粒径が5μm以上、50μm以下の破砕状結晶質シリカ、(b)直径が0.1μm以上、3μm以下であり、長さが10μm以上、50μm以下である針状無機フィラー、(c)平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子及び(d)平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子の1種以上を含む。
【0077】
(a)破砕状結晶質シリカ:高熱伝導性、低熱膨張性を有し、価格も安価であることから複合微粒子の主成分として好ましい。その好ましい平均粒径は5μm以上、50μm以下であり、更に好ましくは0.1μm〜100μm程度の広い粒度分布を持つことが好ましい。その結果、破砕状結晶質シリカを高充填した場合においてもワニス粘度の上昇を抑制できる。そのようなシリカの例としては、林化成(株)製SQ−H22、SQ−H18、(株)龍森製CRYSTALITEシリーズ等がある。なお、上記平均粒径はメーカーが開示している値である、後述する針状無機フィラーの平均直径、平均長さ、架橋ゴム粒子及びコアシェルゴム粒子の平均粒径に関しても同様である。
【0078】
(b)針状無機フィラー:硬化収縮の抑制、硬化物の高強度化のほか、後述するゴム粒子成分との複合作用により、耐クラック性の改善に寄与する。そのサイズは、ワニス粘度の上昇を抑制する観点から、平均直径が0.1μm以上、3μm以下であり、平均長さが10μm以上、50μm以下であることが好ましい。そのような針状無機フィラー例としては、四国化成工業(株)製アルボレックスY(ホウ酸アルミニウムウイスカ、径0.10μm以上、1μm以下、長さ10μm以上、30μm以下)、大塚化学(株)製ティモスN(チタン酸カリウムウイスカ、径0.3μm以上、0.6μm以下、長さ10μm以上、20μm以下、宇部興産(株)製モスハイジ(硫酸マグネシウムウイスカ、径0.10μm、長さ10μm以上、30μm以下)、丸尾カルシウム(株)製ウィスカルA(炭酸カルシウムウイスカ、径0.10μm以上、1μm以下、長さ20μm以上、30μm以下)等がある。これら針状無機フィラーは、ワニス調整時の攪拌の際に、粉砕され短くなった針状無機フィラーを含んでも良い。
【0079】
架橋ゴム粒子又はコアシェルゴム粒子:樹脂硬化物に対して可とう性、応力緩和性を付与し、耐クラック性の改善に寄与する。本発明では、平均粒径が10nm以上、100nm以下である架橋ゴム粒子と、平均粒径が100nm以上、2000nm以下であるコアシェルゴム粒子を併用する。このようなゴム粒子成分は、小粒径のゴム粒子において微細なクラックの成長を抑制し、更に小粒径のゴム粒子では緩和しきれない応力を大粒径のゴム粒子において緩和し、クラックの進展を最小限に抑制するものである。また、小粒径の架橋ゴム粒子のみを用いて、その添加量を増し、硬化物の弾性率を低減してクラックの発生を抑制することもできるが、その場合、ワニスの粘度の著しい上昇を招く。
【0080】
本発明では、粒径の異なるゴム粒子と併用することによってワニス粘度の著しい上昇を抑制しつつ、耐クラック性を改善するものである。大粒径のゴム粒子としてはエポキシ樹脂に対して分散性が改善されているコアシェルゴム粒子を用いることが好ましい。
【0081】
上記ゴム粒子の構成成分としては、アクリルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの一般合成ゴム、そのカルボン酸変性、アクリル酸変性ゴムなどが挙げられ、その表面または内部がカルボキシル基、酸無水物類、アミン類、イミダゾール類で変性されているもの等が一般に市販されている。
【0082】
(c)架橋ゴム粒子:コストと耐熱性の観点から架橋アクリルニトリルブタジエンゴム粒子が特に好ましい。また、その架橋方法としては、ガンマ線などの放射線で架橋したものを用いることが好ましい。放射線架橋は、加硫剤を用いた化学架橋に比べて耐熱性の高いゴム粒子を得ることができる。更に加硫剤に起因するマイグレーションの発生が抑制され、絶縁信頼性の向上に寄与する。
【0083】
(d)コアシェルゴム粒子:上記の架橋ゴム粒子をコアとし、その表面に異種ポリマーをグラフト重合したシェル層を有する。これにより樹脂中への分散性を増すことができる。具体的には、Rohm&Haas社製、商品名パラロイドEXL2655(平均粒径200nm)、ガンツ化成(株)製、商品名スタフィロイドAC3355(平均粒径100〜500nm)、ゼフィアックF351(平均粒径300nm)等が市販されている。
【0084】
複合微粒子の好ましい組成範囲としては、ワニス粘度の低減、耐クラック性の改善の観点から、複合微粒子全量に対して破砕状結晶質シリカ83〜94重量%、針状無機フィラー1〜5重量%、架橋ゴム粒子2〜9重量%、コアシェルゴム粒子1〜5重量%の範囲であり、本複合微粒子を樹脂組成物全量に対して50〜76重量%含有することが好ましい。エポキシ樹脂と、液状酸無水物と、多官能ビニルモノマーからなる母剤のワニス粘度は低いので、本範囲の複合微粒子を含有するワニスにおいてワニス粘度の上昇が抑制され、注型作業の効率化を図ることができる。
【0085】
エポキシ−ビニル共重合型液状樹脂組成物は、加熱により硬化して絶縁体、構造体として用いることができる。その硬化物であるエポキシ−ビニル共重合型絶縁材料は、耐熱性、耐クラック性に優れており各種電子、電機機器の耐熱信頼性の向上に寄与することができる。
【0086】
エポキシ‐ビニル共重合型絶縁材料の中でも好ましくは、硬化物中の有機成分の5wt%重量減少に基づく活性化エネルギーが30kcal/mol以上、より好ましくは40kcal/mol以上の絶縁材料を用いることが、各種機器の耐熱性改善効果が高いので好ましい。本発明のワニスの硬化条件としては、硬化温度が100℃以上、180℃以下の範囲であり、硬化時間は1時間以上、24時間以下の範囲で選定される。特に多段階加熱によって硬化することが、硬化収縮にともなうクラック防止の観点から好ましい。
【0087】
本発明における5%重量減少に基づく活性化エネルギーとは、絶縁材料の耐熱性を支配する因子の一つであり、以下の方法で求めた値を指す。大気中において、樹脂硬化物の熱重量測定(TGA)を昇温速度5℃、10℃、20℃/minの各条件で実施する。各昇温条件において樹脂硬化物中の有機成分が5wt%減量する温度(絶対温度T5、T10、T20)を観測する。
【0088】
図1は本発明に係るエポキシ−ビニル共重合型樹脂組成物の硬化物の熱重量測定における5%重量減少温度の逆数と昇温速度の対数値との関係を示すグラフである。図1に示したように、昇温速度の対数(log(5)、log(10)、log(20))を横軸に、観測した5%重量減少温度の逆数(1/T5、1/T10、1/T20)を縦軸にとり、直線で近似する。直線の傾きの絶対値aを下記の式2に代入して、5wt%重量減少に基づく活性化エネルギーを求めた。
【0089】
活性化エネルギー(kcal/mol)=1/a×R÷0.4567÷1000…式2
(Rは気体定数、1.987cal/K・mol)

以下に本明細書におけるその他の用語の定義及び説明を示す。
【0090】
[1]耐熱温度指数
本発明では、ある温度環境下において、絶縁材料中の有機成分の重量減少率が5wt%に達した時間を寿命時間と定義した。また、本発明では、目標の寿命時間を30年と定義した。30年後に5wt%の重量減少が生じる温度を耐熱指数温度と定義した。実験的に求めた230℃における5%重量減少温度と活性化エネルギーから耐熱温度指数を求めた。その内容を実施例の「(6)耐熱温度指数の算定」に記載した。
【0091】
[2]酸無水物の範囲
本発明が対象とする不飽和二重結合を有し、常温で液体である酸無水物は、構造中に不飽和二重結合を有し、常温で液体である酸無水物当量166g/eq〜178g/eqの酸無水物が好ましい。
【0092】
[3]多官能ビニルモノマーの定義
本発明が対象とする多官能ビニルモノマーは、分子内に複数のアクリレート基、メタクリレート基、スチレン基、アリル基等の不飽和二重結合を有する化合物であり、且つ、常温で液状であり、エポキシ樹脂よりも低粘度である化合物が好ましい。
【0093】
[4]ワニスの定義(一般に、透明塗料)
本発明が対象とするワニスは、無溶剤ワニスである。含有物質は、先に記載のエポキシ樹脂、酸無水物、多官能ビニルモノマーと、エポキシ硬化触媒、ラジカル重合触媒を必須成分とする。更に添加物としては有機、無機フィラーを含有しても良い。
【0094】
[5]高耐熱化法の技術的な意味
本発明の高耐熱化法とは、エポキシ樹脂と酸無水物と多官能ビニルモノマーの共重合化によって、従来のエポキシ樹脂と酸無水物との硬化物よりも架橋密度を増して、熱分解反応速度を遅延させることによって長期の耐熱信頼性を向上する技術を指す。特に本発明では、高温下における熱重量減少速度の低減について述べている。
【0095】
[6]予めエポキシ樹脂と酸無水物、又はビニルモノマーとエポキシ樹脂を反応させる技術
上記方法は、本発明の範囲外である。これは、予備反応によって高分子量化した生成物がワニス粘度の増加を招くことを避けるためである。本発明における酸無水物−エポキシ−ビニル共重合体は、注型又は含浸後の熱硬化過程において形成される。
【0096】
[7]活性化エネルギー
後述の比較例1、4に示したように従来材であっても活性化エネルギーが30kcal/mol以上の樹脂が存在する。よって本発明は活性化エネルギーが30kcal/mol以上であることに加えて、従来の酸無水物硬化型エポキシ樹脂の粘度、コストを増加させること無く、その耐熱性及び/又は耐クラック性を向上するための技術を付加したことに特徴を有する。30kcal/mol以上であるとの規定は、現製品群の主流であるF種相当の耐熱性を有する絶縁材料の値を示したものであり、製品適用時の最低条件である。
【0097】
本発明の課題の1つは、従来の酸無水物硬化型エポキシ樹脂ワニスの粘度を低減しつつ、その硬化物を高耐熱化する手法、これを用いた熱硬化性樹脂組成物とその硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器の提供である。また、本発明の他の課題は、従来の酸無水物硬化型エポキシ樹脂ワニスの粘度を低減しつつ、その硬化物を高耐熱化及び高耐クラック性を付与する手法、これを用いた熱硬化性樹脂組成物とその硬化物および該硬化物を絶縁材料又は/及び構造材料とする電子・電機機器の提供である。先に述べたように活性化エネルギー30kcal/molは、製品適用時の指標として記載したものである。従って多官能ビニルモノマーと共重合していない後述の比較例3に比べて活性化エネルギーが増している実施例1,2は、活性化エネルギーが30kcal/molに達していなくても本発明の範囲内である。また、同様に活性化エネルギーが30kcal/molを超えている比較例1,4,5は本発明に含まれない。
【0098】
[8]式1中の0.4567とは
小澤法による活性化エネルギー導出の近似式の係数(出典:小澤丈夫「非等温的速度論(1)単一素過程の場合」,Netsu Sokutei Vol.31,(3), pp125−132)である。
【0099】
[9]耐熱温度指数
本発明は、不飽和二重結合を有する酸無水物とエポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーを共重合することによって耐熱性を向上する手法、およびその技術を用いたワニス、硬化物、機器を提供するものである。従って、先の活性化エネルギーの場合と同様に、耐熱温度指数の大きさによって限定される物ではなく、これも活性化エネルギーの場合と同様に、現行製品を基準として155℃が最低ラインと考えられる。その場合、後述の比較例5の樹脂組成物も耐熱指数的には合格となるが、低粘度な多官能ビニルモノマーを含有する本発明の方がワニス粘度の低減効果は高いといえる。
【0100】
[10]硬化物の耐熱性の活性化エネルギーによる評価
本発明では、材料系が同系統なので、硬化物の耐熱性の活性化エネルギーによる評価をしている。活性化エネルギーは図2のアレニウスプロットの傾きに相当しており、活性化エネルギーが大きいと傾きが大きくなり、高い耐熱性が見込まれる。しかし、材料系がまったく異なり、例えば230℃での寿命時間が極端に短い場合は、傾きが大きくても耐熱温度指数は低くなる。本発明の実施例では、230℃での寿命時間を求めているので耐熱温度指数序列に間違いは無いものと考えられる。また、求める耐熱性が、強度なのか、熱減量なのかによって、得られる活性化エネルギー、耐熱温度指数の値は大きく異なる。本発明では、熱減量に基づく耐熱性についてのみ、議論している。
【0101】
(実施例)
以下に、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の具体的な説明のためのものであって、本発明の範囲がこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の発明思想の範囲内において自由に変更可能である。
【0102】
なお、表1〜6における材料組成比は重量比である。
【0103】
供試料および評価方法を以下に示す。
【0104】
(1)供試料
(i)エポキシ樹脂
AER−260[旭化成エポキシ(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ等量約190g/eq]
(ii)酸無水物
HN−2200[日立化成(株)製、3又は4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量166g/eq、構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物]
MHAC−P[日立化成(株)製、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量178g/eq、構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物]
HN−5500[日立化成(株)製、3又は4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量168g/eq、構造中に不飽和二重結合がない酸無水物]
無水マレイン酸[和光純薬(株)製、酸無水物当量98g/eq]
(iii)多官能ビニルモノマー
M3130[東洋ケミカルズ(株)製、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート]
(iv)エポキシ樹脂硬化触媒
2E4MZ−CN[四国化成工業(株)製、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール]
(v)ラジカル重合触媒
パーヘキシン25B[日油(株)製、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3]
(vi)破砕状結晶質シリカ
XJ−7[(株)龍森製、破砕状結晶質シリカ、平均粒径約6.3μm]
(vii)針状無機フィラー
アルボレックスY[四国化成工業(株)製、ホウ酸アルミニウムウイスカ、平均直径0.1〜1.0μm、平均長さ10〜30μm]
ティモスN[大塚化学(株)製、チタン酸カリウムウイスカ、平均直径0.3〜0.6μm、平均長さ10〜20μm]
ウィスカルA[丸尾カルシウム(株)製炭酸カルシウムウイスカ、平均直径0.1〜1μm、平均長さ20〜30μm]
(viii)架橋ゴム粒子
架橋アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、平均粒径50〜100nm。
【0105】
(viv)コアシェルゴム粒子
コアシェルゴム粒子、平均粒径100〜500nm。
【0106】
(x)カップリング剤
S−180[日本曹達(株)製、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン]
KBM−503[信越化学工業(株)製、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン]
KBM−403[信越化学工業(株)製、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン]
(2)ワニスの調整
所定の配合比で各成分を配合し、(株)シンキー製AR−100型自転・公転式ミキサーで3分間攪拌してワニスを作製した。
【0107】
(3)硬化物の作製
ワニスをφ45mm、深さ5mmのアルミカップに注ぎ、大気中で100℃/1時間、110℃/1時間、140℃/1時間、170℃/15時間の多段階加熱により硬化物を作製した。
【0108】
(4)熱重量測定(TGA)
硬化物から約20mgの樹脂を切り出してサンプルとした。大気中で昇温速度5℃、10℃、20℃の各条件で熱重量測定を実施し、各昇温条件において硬化物中の有機成分が5wt%減量する温度(絶対温度T5、T10、T20)を観測した。
【0109】
(5)活性化エネルギーの算定
図1のように昇温速度の対数(log(5)、log(10)、log(20))を横軸に、観測した5wt%重量減少温度の逆数(1/T5、1/T10、1/T20)を縦軸にとり、直線で近似した。直線の傾きの絶対値aを式2に代入して5%重量減少に基づく活性化エネルギー(E)を求めた。
【0110】
(6)耐熱温度指数の算定
図2は本発明に係るエポキシ−ビニル共重合型樹脂組成物の硬化物の熱重量測定における5%重量減少時間と劣化温度の逆数との関係を示すグラフである。先に作製した硬化物の初期重量を観測した。次いで大気下、230℃の恒温槽内にサンプルを入れ、加熱時間と重量減少率の関係を調べ、硬化物中の有機成分の5wt%重量減少時間(t)を求めた。先に求めた活性化エネルギー(E)と5wt%重量減少時間(t)を下記式3に代入して切片(b)を求め、アレニウスプロットを作製した。これを図2に示した。本プロットから、硬化物中の有機成分が30年後に5wt%減量する温度を耐熱温度指数として求めた。
Log(t)=E/(RT)+b…式3
t:硬化物中の有機成分の重量減少が5wt%に達する時間(日)
E:活性化エネルギー(J/mol)
R:気体定数、8.3122621(J/k・mol)
b:アレニウスプロットの切片
なお、活性化エネルギーE(kcal/mol)は下記の式4により単位換算が可能である。
1kcal/mol=4184J/mol…式4
(7)耐クラック試験
図4A図4D図5A及び図5Bを用いて、本実施例及び比較例における耐クラック試験の方法について説明する。図4Aは耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーの斜視模式図である。また、図4B図4Aの平面図であり、図4C図4Aの側面図であり、図4D図4BのZ‐Z線断面図である。なお、図中Rは曲率を、φは直径を示す。また、図中の寸法の単位は全てmmである。後述する図5B及び図6Bにおいても同様である。
【0111】
図5Aは耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーの斜視模式図である。また、図5B図5Aのビス6の断面図である。
【0112】
図6A図5Aに示したSUS309S製C型ワッシャーに離型処理を施し、カップ7に設置した様子を示す模式図である。図6B図6Aのカップ7の断面図である。
【0113】
図7Aは耐クラック試験に用いるSUS309S製C型ワッシャーを設置したカップ7に、所定のワニスを注ぎ、硬化処理を施す時の様子を示す模式図である。また図7Bは、図7Aで作製したサンプル(硬化物中にC型ワッシャーが埋め込まれたもの)模式図である。
【0114】
図8は耐熱クラック試験における冷熱衝撃(温度と時間)の条件を示す図である。
【0115】
図4Aに示したSUS309S製C型ワッシャー5の両面に、図5Aに示したようにSUS309S製ビス6を接着剤にて接着した。図6Aに示したように本C型ワッシャーに離型処理を施し、カップ7の中心に設置した。本カップに所定のワニスを注ぎ、大気中で100℃/1時間、110℃/1時間、140℃/1時間、180℃/15時間の多段階加熱により硬化した。図7A及び図7Bに示したように、SUS309S製カップから、C型ワッシャーが埋め込まれたサンプルを取り出し、硬化時のクラック発生状況を確認した。次いでC型ワッシャーが埋め込まれたサンプルに対して図8に示した冷熱衝撃を加えて、クラックが発生しなかった最低温度を冷熱クラック耐性として観測した。以下、本耐クラック試験をC型ワッシャー試験と称す。
【0116】
(8)粘度の測定
(株)トキメック製、E型粘度計を用いて、本発明に係るエポキシ−ビニル共重合型樹脂組成物の硬化物の粘度を測定した。測定条件は、ローター回転数2.5〜100rpm、観測温度17℃とした。
【0117】
(比較例1)
比較例1のワニスの組成と評価結果を表1に示した。比較例1は構造中に不飽和二重結合を持っていない酸無水物HN−5500を硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂の例である。その硬化物の活性化エネルギーは、32kcal/molであった。ワニスの粘度は1946mPa・sであった。
【0118】
(比較例2)
比較例2のワニスの組成と評価結果を表1に示した。比較例2は、比較例1の組成物に多官能ビニルモノマーとしてM3130を配合した例である。その硬化物の活性化エネルギーは、25kcal/molであった。不飽和二重結合を持っていない酸無水物を硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂においては、多官能ビニルモノマーとの共重合体が生成しない。そのため活性化エネルギーの向上は認められず、逆に活性化エネルギーの低下が観測された。このことからM3130単独硬化物の耐熱性は、比較例1の酸無水物硬化型エポキシ樹脂の硬化物よりも低いものと推定された。ワニスの粘度は227mPa・sであった。
【0119】
【表1】
【0120】
(比較例3)
比較例3のワニスの組成と評価結果を表2に示した。比較例3は構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物HN−2200を硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂の例である。その硬化物の活性化エネルギーは、25kcal/molであった。また、ワニスの粘度は781mPa・sであった(17℃、以下同じ)。
【0121】
(実施例1〜3)
実施例1〜3のワニスの組成と評価結果を表2に示した。実施例1〜3は、比較例3の組成物に多官能ビニルモノマーとしてM3130を配合した例である。M3130の増量にともない活性化エネルギーが増大する傾向が明らかとなった。構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物を硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂においては、系内に多官能ビニルモノマーを配合することにより、両者の共重合体が形成され、耐熱性が向上すると思われる結果を得た。実施例1のワニスの粘度は576mPa・s、実施例2のワニスの粘度は282mPa・s、実施例3のワニスの粘度は205mPa・sであった。
【0122】
【表2】
【0123】
(比較例4)
比較例4のワニスの組成と評価結果を表3に示した。比較例4は構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物MHAC−Pを硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂の例である。その硬化物の活性化エネルギーは、39kcal/molであった。また、ワニスの粘度は2560mPa・sであった。
【0124】
(実施例4)
実施例4のワニスの組成と評価結果を表2に示した。実施例4は、比較例4の組成物に多官能ビニルモノマーとしてM3130を配合し、更にMHAC‐Pの32mol%を無水マレイン酸に置き換えた例である。実施例4の活性化エネルギーは、55kcal/molであり、比較例4や実施例1〜3に比べて非常に高い値を示した。多官能ビニルモノマーであるM3130とともに、ラジカル重合性の高い無水マレイン酸を配合したことにより、酸無水物を介してエポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーとの共重合構造が多く生成したものと思われた。構造中に不飽和二重結合を有する酸無水物を硬化剤とする酸無水物硬化型エポキシ樹脂においては、系内に多官能ビニルモノマー、無水マレイン酸を配合することにより、エポキシ樹脂と多官能ビニルモノマーとの共重合体が効率よく形成され、耐熱性が飛躍的に向上すると思われる結果を得た。ワニスの粘度は17℃において538mPa・s、60℃において20mPa・sであった。
【0125】
【表3】
【0126】
(比較例5)
比較例5のワニスの組成と評価結果を表4に示した。比較例5は、比較例1の組成物にシリカであるXJ−7を75wt%配合した例である。その硬化物の活性化エネルギーは、32kcal/molであった。図2に耐熱性評価結果を示した。230℃における全有機成分に対する5wt%減量時間は5日であり、耐熱温度指数は182℃と算出された。
【0127】
(実施例5)
実施例5のワニスの組成と評価結果を表4に示した。実施例5は、実施例4の組成物にシリカであるXJ−7を75wt%配合した例である。その硬化物の活性化エネルギーは、55kcal/molであった。230℃における全有機成分に対する5wt%減量時間は7日であり、耐熱温度指数は202℃と算出された。比較例5に比べて活性化エネルギー、5wt%減量時間、耐熱温度指数のいずれもが大きな値を示し、エポキシ−ビニル共重合型液状樹脂組成物の硬化物は、耐熱性が優れていることが確認された。
【0128】
【表4】
【0129】
(実施例6〜8)
実施例6〜8のワニスの組成とC型ワッシャー試験の結果を表5に示した。実施例6は微粒子成分として破砕状結晶質シリカのみを配合した例であり、実施例7は、実施例6の組成に架橋ゴム粒子とコアシェルゴム粒子を配合した例であり、実施例8は、微粒子成分として破砕状結晶質シリカと針状無機フィラーとを配合した例である。本発明のワニスの母材の粘度が低いことに起因して、各微粒子成分を配合した液状ワニスは良好な注型性を示した。このことから、低粘度性、高耐熱性に加えて実施例6では高熱伝導性及び低熱膨張性を、実施例7では高熱伝導性、低熱膨張性及び高靭性を、実施例8では高熱伝導性、低熱膨張性及び高い強度を付与可能であることが示された。
(実施例9〜12)
実施例9〜12のワニスの組成とC型ワッシャー試験の結果を表5に示した。実施例9〜12は、複合微粒子として破砕状結晶質シリカと針状無機フィラーと架橋ゴム粒子とコアシェルゴム粒子からなる複合微粒子を配合した例である。複合微粒子を配合することによって硬化時のクラックが見られなくなり、冷熱衝撃クラック耐性は0℃であった。従来の液状エポキシ樹脂組成物である比較例5に記載の樹脂組成物の冷熱衝撃クラック耐性も0℃であり、エポキシ−ビニル共重合型絶縁材料の耐クラック性は、複合微粒子を配合したことにより実用上問題のないレベルに改善された。
【0130】
【表5】
【0131】
(実施例13〜17)
実施例13〜17のワニスの組成とC型ワッシャー試験の結果を表6に示した。実施例13〜17は、エポキシ樹脂100重量部に対して、ラジカル重合成分である無水マレイン酸とM3130の総量を36.84重量部に低減した例である。本検討の組成範囲においては、C型ワッシャー試験において、−30℃以下の極めて優れた冷熱クラック耐性が認められた。耐熱性と冷熱衝撃クラック耐性が優れた硬化物を与える本発明の耐クラック性エポキシ−ビニル共重合型液状樹脂組成物は、電子、電機機器の絶縁材料として好適であると思われる結果を得た。
【0132】
【表6】
【0133】
(実施例18)
図3はモデル変圧器用注型コイルの一例を示す断面模式図である。実施例17に記載のエポキシ−ビニル共重合型液状樹脂組成物を25kg準備した。本液状樹脂組成物、モデル変圧器用注型コイルの型を90℃に加熱した。次いで型に液状樹脂組成物25kgを流し込み、真空脱気した。脱気条件は、90℃、20Pa、1時間とした。その後、大気中で100℃/5時間、110℃/2時間、140℃/2時間/、180℃/15時間の条件で硬化した。次いで、8時間かけて50℃に冷却し、型を外して図3に示すモデル変圧器用注型コイルを作製した。
【0134】
図3において、1は注型樹脂、2はシールドコイル、3は二次コイル、4は一次コイルである。変圧器コイルは周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0135】
モデル変圧器用注型コイルの断面観察の結果、クラックやボイドは認められず、本発明に係るエポキシ‐ビニル共重合体を用いた電子、電機機器の耐熱性、耐クラック性は優れていると思われる結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、各種電子、電機機器の絶縁材料、構造材料に用いられている酸無水物硬化型エポキシ樹脂の高耐熱化手法として有効である。本発明のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物は、ワニスの低粘度性を維持し、その硬化物の高耐熱化を図ることができる。また、本発明のエポキシ‐ビニル共重合型液状樹脂組成物は、ワニスの低粘度性を維持し、その硬化物の高耐熱化及び高耐クラック性を有する。このため、高耐熱化の要求が高い、電子機器の封止材料、モーターや発電機用コイルの含浸固着ワニス、モールド変圧器の注型ワニスとして好適である。
【符号の説明】
【0137】
1…注型樹脂、2…シールドコイル、3…二次コイル、4…一次コイル
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8