特許第5738291号(P5738291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5738291インスリンリンカー複合体を含むプロドラッグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5738291
(24)【登録日】2015年5月1日
(45)【発行日】2015年6月24日
(54)【発明の名称】インスリンリンカー複合体を含むプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/28 20060101AFI20150604BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20150604BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20150604BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20150604BHJP
   C07K 14/62 20060101ALN20150604BHJP
【FI】
   A61K37/26
   A61K9/10
   A61K9/08
   A61K47/48
   !C07K14/62
【請求項の数】58
【全頁数】78
(21)【出願番号】特願2012-522188(P2012-522188)
(86)(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公表番号】特表2013-500951(P2013-500951A)
(43)【公表日】2013年1月10日
(86)【国際出願番号】EP2010061159
(87)【国際公開番号】WO2011012718
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年7月16日
(31)【優先権主張番号】09167027.3
(32)【優先日】2009年7月31日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】09174525.7
(32)【優先日】2009年10月29日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】09179336.4
(32)【優先日】2009年12月15日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】09179818.1
(32)【優先日】2009年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト・ラオ
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス・クレーマン
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ・ヘルゼル
(72)【発明者】
【氏名】ジルフィア・カーデン−ファグト
(72)【発明者】
【氏名】トルベン・レースマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヴェッゲ
【審査官】 渡邊 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/010428(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/015099(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/095479(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/148839(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/012715(WO,A1)
【文献】 Adv Drug Deliv Rev., (2002) Vol.54 No.4, p.505-30.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/00
A61K 47/00
C07K 14/62
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリンリンカー複合体D−L[式中、
Dは、インスリン部分を表し;そして
−Lは、式(I)
【化1】
(式中、点線は、アミド結合を形成することによるインスリンのアミノ基の1つへの結合を示し;
Xは、C(R33a);又はN(R3)であり;
1aH及びC1-4アルキルからなる群より選ばれ;
1、R22a、H及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれ
2bは、C1-4アルキルであり;
3は、Hであり;
3aは、N(R2b)C(O)R4であり;
4は、Hである)
によって表される生物活性のないリンカー部分−L1であり、
ここにおいて、2及びR4のいずれか一方が、2−Zで置換され、そしてここにおいて、
2は、−C1-20アルキレン−Yであり、ここで
Yは、以下の構造
【化2】
(式中、点線は、それぞれ、L2中のアルキレン部分及びZへの結合を示し、上記において硫黄原子がL2中のアルキレン部分へ結合し、窒素原子がZに結合する)であり;そして
Zは、ヒドロゲルである]
で表わされるプロドラッグ又はその薬学的に許容しうる塩。
【請求項2】
式(I)において、R2がL2−Zによって置き換えられる、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項3】
式(I)において、XがN(R3)である、請求項1又は2に記載のプロドラッグ。
【請求項4】
式(I)において、XがC(R33a)である、請求項1又は2に記載のプロドラッグ。
【請求項5】
インスリン部分が窒素NαA1を通してL1に結合された、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
インスリンが組換え型のヒトインスリンである、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項7】
組換え型のヒトインスリンがインスリン部分のリシン側鎖の窒素を通してL1に結合された、請求項に記載のプロドラッグ。
【請求項8】
ヒドロゲルZが生分解性ポリ(エチレングリコール)(PEG)ベースの水不溶性ヒドロゲルである、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項9】
ヒドロゲルが、加水分解により分解可能な結合によって相互連結された骨格鎖部分で構成される、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項10】
骨格鎖部分が1kDaから20kDaまでの範囲の分子量を有する、請求項に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
骨格鎖部分がクロスリンカー部分を通して一緒に連結され、各クロスリンカー部分が加水分解により分解可能な結合の少なくとも2つによって終了する、請求項又は10に記載のプロドラッグ。
【請求項12】
クロスリンカー部分が0.5kDaから5kDaまでの範囲の分子量を有する、請求項11に記載のプロドラッグ。
【請求項13】
2が骨格鎖部分に連結される、請求項12のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項14】
式(IIa)
【化3】
(式中、Nε−インスリンは、1つのリシン側鎖を介して連結されたインスリンのことである)の請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項15】
式(IIb)
【化4】
の請求項1又は2に記載のプロドラッグ。
【請求項16】
ヒドロゲルが生分解性ポリエチレングリコール(PEG)ベースの水不溶性ヒドロゲルである、請求項14又は15に記載のプロドラッグ。
【請求項17】
ヒドロゲルが加水分解により分解可能な結合によって相互連結された骨格鎖部分で構成される、請求項1416のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項18】
骨格鎖部分は、以下の式:
【化5】
(式中、点線は骨格鎖部分の残りへの結合を示す)
の分枝コアを含む、請求項1317のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項19】
骨格鎖部分が以下の式:
【化6】
(式中、nは5〜50の整数であり、そして点線は残りの分子への結合を示す)
の構造を含む、請求項131718のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項20】
骨格鎖部分が超分枝部分Hypを含む、請求項19のいずれか1項に記載のプロド
ラッグ。
【請求項21】
骨格鎖部分が、以下の式:
【化7】
(式中、点線は分子の残りへの結合を示し、そしてアスタリスクでマークされた炭素原子はS配置を示す)
の超分枝部分Hypを含む、請求項20に記載のプロドラッグ。
【請求項22】
骨格鎖部分が、以下の式:
【化8】
(式中、点線の1つは、超分枝部分Hypへの結合を示し、そして第2の点線は、分子の残りへの結合を示し;そして
mは2〜4の整数である)
の少なくとも1つのスペーサーに結合されている、請求項1721のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項23】
骨格鎖部分が、以下の式:
【化9】
(式中、アスタリスクでマークされた点線は、ヒドロゲルと請求項1〜13のいずれか1項に記載のチオスクシンイミド基のNとの間の結合を示し、
他の点線はHypへの結合を示し、そして
pは、0〜10の整数である)
の少なくとも1つのスペーサーに結合している、請求項17又は22に記載のプロドラッグ。
【請求項24】
骨格鎖部分が、以下の構造
【化10】
(式中、qは3〜100の整数である)
を有するクロスリンカー部分を通して一緒に連結されている、請求項1123のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項25】
マイクロ粒子の形態の請求項1〜24のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項26】
マイクロ粒子が20〜100マイクロメートルの直径を有する、請求項25に記載のプロドラッグ。
【請求項27】
マイクロ粒子が内径0.6mmより小さな注射針による注射によって投与することができる請求項25に記載のプロドラッグ。
【請求項28】
マイクロ粒子が内径0.3mmより小さな注射針による注射によって投与することができる請求項25に記載のプロドラッグ。
【請求項29】
マイクロ粒子が内径0.2mmより小さな注射針による注射によって投与することができる請求項25に記載のプロドラッグ。
【請求項30】
式(IIIa)
【化11】
(式中、Nε−インスリンは、1つのリシン側鎖を介して連結されたインスリンのことである)
のインスリン−リンカー複合体。
【請求項31】
式(IIIb)
【化12】
のインスリン−リンカー複合体。
【請求項32】
請求項1〜29のいずれか1項に記載のプロドラッグ又はその薬学的に許容しうる塩を薬学的に許容しうる賦形剤と共に含む薬学的組成物。
【請求項33】
薬学的組成物が乾燥している、請求項32に記載の薬学的組成物。
【請求項34】
薬学的組成物が凍結乾燥によって乾燥される、請求項33に記載の薬学的組成物。
【請求項35】
インスリンヒドロゲルプロドラッグが、1回の適用で少なくとも3日間、治療有効量のインスリンを提供するように組成物で十分に投与される、請求項3234のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
単回投与組成物である、請求項3235のいずれ1項に記載の組成物。
【請求項37】
反復投与組成物である、請求項3235のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項38】
1つ又はそれ以上のさらなる生物活性物質を、その遊離形態で;プロドラッグとして、特にヒドロゲルプロドラッグとしてのいずれかで含み;そして1つ又はそれ以上のさらなる生物活性物質が、クロルプロパミド、トラザミド、トルブタミド、グリブリド、グリピジド、グリメピリドなどのようなスルホニル尿素;レパグリニドなどのようなメグリチニド;グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、グルコース−インスリン分泌性ペプチド(GIP)、エキセンジン、及びジペプチルプロテアーゼ阻害剤(DPPIV);メトホルミンなどのようなビグアニド;ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、イサグリタゾン(MCC−555として知られる)、2−[2−[(2R)−4−ヘキシル−3,4−ジヒドロ−3−オキソ−2H−1,4−ベンゾオキサジン−2−イル]エトキシ]−ベンゼン酢酸などのようなチアゾリジンジオン;GW2570など;ターグレチン、9−cis−レチノイン酸などのようなレチノイド−X受容体(RXR)モジュレーター;INS−1、PTP−1B阻害剤、GSK3阻害剤、グリコーゲンホスホリラーゼa阻害剤、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ阻害剤などのような他のインスリン抵抗性改善剤;通常のインスリン、又は速効型、中間型及び持続型インスリン、及び吸入用インスリン;L−783281、TE−17411など;T−1095、T−1095A、フロリゼンなどのようなNa−グルコース共輸送体阻害剤;プラムリンチドなどを含むがそれらに限定されないアミリン作動剤;AY−279955などのようなグルカゴン拮抗剤;オルリスタットのような抗肥満剤;膵リパーゼ阻害剤;シブトラミン;ノルエピネフリン及びドーパミン;成長ホルモン、IGF−1、成長ホルモン放出因子;オキシントモジュリン及びグレリンモジュレーター;ベンズフェタミン、フェンメトラジン、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、マジンドール、シブトラミン、フェニルプロパノールアミン又はエフェドリンのような食欲抑制剤;キパジン、フルオキセチン、セルトラリン、フェンフルラミン、又はデクスフェンフルラミンのような食欲抑制剤;アポモルヒネのような食欲抑制剤;H3受容体モジュレーターのような食欲抑制剤;ベータ−3アドレナリン作動剤及び脱共役タンパク質機能の刺激剤のようなエネルギー消費の促進剤;レプチン及びメトレレプチン;ニューロペプチドY拮抗剤;メラノコルチン−1、3及び4受容体モジュレーター;コレシストキニン作動剤;デヒドロエピアンドロステロンのようなアンドロゲン及びエチオコランジオンのような誘導体;テストステロン;オキサンドロロンのようなアナボリックステロイド、及びステロイドホルモン;ガラニン受容体拮抗剤;毛様体神経栄養因子のようなサイトカイン剤;アミラーゼ阻害剤;からなる群より選ばれる、請求項3237のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
請求項3238に記載の薬学的組成物を含む容器。
【請求項40】
容器がデュアルチャンバー型注射器である、請求項39に記載の容器。
【請求項41】
請求項32及び3538のいずれか1項に記載の薬学的組成物を含む懸濁剤。
【請求項42】
請求項33又は34に記載の乾燥薬学的組成物を、再構成溶液を加えることによって再構成する工程を含む、請求項41に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項43】
注射針、並びに注射針と共に使用するための再構成溶液及び請求項33又は34に記載の乾燥組成物を含む容器を含むパーツのキット。
【請求項44】
容器がデュアルチャンバー型注射器であり、そしてデュアルチャンバー型注射器の二チャンバーの一方が乾燥薬学的組成物を含み、そして該デュアルチャンバー型注射器の第2のチャンバーが再構成溶液を含む、請求項43に記載のパーツのキット。
【請求項45】
薬剤として使用するための請求項1〜29のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項46】
薬剤として使用するための請求項32〜38のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項47】
インスリンによって治療することができる疾患又は障害の治療又は予防方法に使用するための請求項1〜29のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項48】
インスリンによって治療することができる疾患又は障害の治療又は予防方法に使用するための請求項32〜38のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項49】
インスリン−リンカー試薬D−L*[式中、
Dは、インスリン部分を表し;そして
*は、式(IV)
【化13】
(式中、点線は、アミド結合の形成によるインスリンのアミノ基の1つへの結合を示し;
Xは、C(R33a);又はN(R3)であり;
1aH及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれ;
1、R2、R2a、H及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれ
2bは、C1-4アルキルであり;
3は、Hであり;
3aは、N(R2b)C(O)R4であり;
4は、Hである
によって表される生物活性のないリンカー試薬であり、
ここにおいて、2及びR4のいずれか一方が、2*で置換され
2*は、−C1-20アルキレン−SHである]。
【請求項50】
式(IV)において、R2がL2*によって置き換えられる、請求項49に記載のインスリン−リンカー試薬。
【請求項51】
式(IV)において、XがN(R3)である、請求項49又は50に記載のインスリン−リンカー試薬。
【請求項52】
式(IV)において、XがC(R33a)である、請求項49又は50に記載のインスリン−リンカー試薬。
【請求項53】
(a)マレイミド官能化ヒドロゲルマイクロ粒子を含む水性懸濁液をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で請求項49〜52のいずれか1項に記載のインスリン−リンカー試薬を含む溶液と接触させてインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体を生じさせる工程;
(b)場合により、工程(a)からのインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で34Da〜500Daのチオール含有化合物で処理する工程;
を含む、請求項1〜29及び4547のいずれか1項に記載のプロドラッグの製造方法。
【請求項54】
(a)請求項25に記載のプロドラッグをマイクロ粒子の形態に調製する工程;
(b)マイクロ粒子を篩別する工程;
(c)プロドラッグビーズ径25〜80μmの画分を選別する工程;
(d)工程(c)のビーズ画分を注射に適した緩衝水溶液中に懸濁する工程;
を含む、注射針で注射可能なプロドラッグの調製方法。
【請求項55】
請求項54に記載の方法から入手可能な注射針で注射可能なプロドラッグ。
【請求項56】
内径300μm未満の注射針を通して注射可能な請求項55に記載のプロドラッグ。
【請求項57】
内径225μm未満の注射針を通して注射可能な請求項55に記載のプロドラッグ。
【請求項58】
内径175μm未満の注射針を通して注射可能な請求項55に記載のプロドラッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロドラッグ、前記プロドラッグを含む薬学的組成物及びインスリンによって治療することができる疾患又は障害を治療若しくは予防する薬剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン療法は、治療域が狭いので、非常に厳密なレベル内にインスリン薬物放出を保つ必要性が高いことを特徴としており、そして高インスリン血症の副作用は命にかかわる可能性がありうる。糖尿病の人々の具体的な要求を満たすため、さまざまな作用プロファイルを有する多くのインスリン製剤が商業化されている。速効型インスリン類似体は、食物摂取後の血漿グルコースのピークを制御するために食事の直前に投与されるのに対して、持効型インスリン類似体は、安定した基礎インスリンレベルを得るために典型的に1日1〜2回投与される。
【0003】
従って、投与間の期間全体を通してインスリンを連続的に放出する、インスリンの新規な持効型製剤が必要であることは明らかである。
【0004】
特許文献1は、標準的な毎日の基礎インスリン注射と比較して投薬頻度が減る可能性を有するインスリン放出可能なヒドロゲルを記載している。しかし、2日にわたる期間の間、厳密なインスリン分泌制御を確保するには速過ぎる速度でインスリンが放出される。実際、インスリンは約30時間の半減期で放出され、それは、定常状態でピーク対トラフ比(peak to trough ratio)を2より下にするためには少なくとも30時間毎にプロドラッグを投与しなければならないことを意味している。
【0005】
インスリンの可逆的ポリマープロドラッグ複合体(conjugate)を製造する概念は、Shechter等によって探究されており、そして科学論文及び特許出願に記載されている(例えば非特許文献1及び特許文献2)。インスリンは、フルオレニル−リンカーを通して40kDaのPEGポリマーに結合される。前記リンカー分子の加水分解により約30時間の半減期でインスリンが放出され、それは、定常状態でピーク対トラフ比が2より下であるためにはプロドラッグを少なくとも30時間毎に投与しなければならないことを意味している。
【0006】
インスリン投薬頻度を減らす別の試みが行われている。非特許文献2は、最初にインスリン分子を永続的にPEG化し、次いで、その後にPLGAマイクロ粒子中のPEG化インスリンをマイクロカプセル化することによって週に1回インスリンを産生する方法を記載している。この場合、インスリンは、高分子量ポリマー単位による永続的修飾を通して実質的に構造変化を受ける。このような高分子量改変インスリンは、受容体結合の減少により有効性の低下を示すことがあり、そして皮下組織に高濃度の高分子量インスリンが長く存在するため、脂肪組織萎縮のような注射部位反応を示すことがある。さらに、このようなPEG化インスリンは、より低い分布体積を示し、それは糖尿病の治療に特有の欠点である。
【0007】
それにもかかわらず、インスリンのPEG化は、PLGAポリマー処方物中でペプチドを劣化から保護するのに役立つことが明らかである。分解しているPLGA処方物中でペプチドをアシル化から保護するPEG化の効果は、オクトレオチドについて非特許文献3によって示された。
【0008】
タンパク質のPLGAカプセル化により、ポリマーエステルとペプチド又はタンパク質アミノ基との副反応が生じることわかっている。中性pHの緩衝液に処方物を曝露した後、乳酸アシル化生成物が観察された(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。
【0009】
インスリンについては具体的に、非特許文献7(また、非特許文献8参照)によってポリマー処方物の有害効果が示されている。
【0010】
さらにまた、インスリンは、分子中の3つのジスルフィド架橋の存在に関して容易に副反応を受けることが知られている。例えば、インスリンは、ジスルフィド結合切断によってA及びB鎖に分解することがあり、又はジスルフィド相互変換反応のため二量体若しくはオリゴマーが形成されることがある。このようなジスルフィド再構成(reshuffling)は、インスリン分子がランダム的なやり方で密接に接触するよう強制された場合に特に起こりやすい。インスリン分子のこの固有の不安定性により、持効型デポ剤(long-acting depot)の開発における進展は有意に妨げられ、そして広範なジスルフィド交換に起因する種々の分解生成物を生じることがよく知られている非晶質沈殿と同様のやり方でインスリンをカプセル化する場合、他のポリマー処方物の使用は回避されてきた。
【0011】
従って、高分子量単位の永続的結合によって又はデポ剤中に存在している間に分子に構造的損傷を生じることによってインスリン薬力学を損なうことなく持効型インスリンを開発する挑戦が、残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO−A 2006/003014
【特許文献2】WO−A 2004/089280
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 2008(70), 19-28
【非特許文献2】Hinds et al., Journal of Controlled Release, 2005 (104), 447-460
【非特許文献3】D. H. Na et al., AAPS PharmSciTech 2003, 4 (4) Article 72
【非特許文献4】G. Zhu et al., Nature Biotechnology 18 (2000) 52-57
【非特許文献5】A. J. Domb et al., Pharm. Res. 11 (1994) 865-868
【非特許文献6】A. Lucke et al., Pharm. Res. 19 (2002) 175-181
【非特許文献7】P. G. Shao et al., Pharm. Dev. Technol. 4 (1999) 633-642
【非特許文献8】P. G. Shao et al., Pharm. Dev. Technol. 5 (2000) 1-9参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、上記の必要を少なくとも部分的に満たすインスリン含有プロドラッグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
目的は、インスリンリンカー複合体D−L[式中、
Dは、インスリン部分を表し;そして
−Lは、式(I)
【化1】
(式中、点線は、アミド結合を形成することによるインスリンのアミノ基の1つへの結合を示し;
Xは、C(R33a);又はN(R3)であり;
1a、R3aは、H、NH(R2b)、N(R2b)C(O)R4及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれ;
1、R2、R2a、R2b、R3、R4は、H及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれる)
によって表される生物活性のない(non-biologically active)リンカー部分−L1であり、
ここにおいて、L1は、1つのL2−Zで置換され、そして場合によりさらに置換されるが、但し、式(I)中のアスタリスクでマークされた水素は、置換基によって置き換えられず、そしてここにおいて、
2は、単化学結合又はスペーサーであり;そして
Zは、ヒドロゲルである]
を含むプロドラッグ又はその薬学的に許容しうる塩によって達成される。
【0016】
ここで、驚くべきことに、本発明のプロドラッグは、投与間に少なくとも2日の期間にわたって構造的に無損傷の形態で皮下デポ剤からインスリンを放出しうることが発見された。さらなる利点として放出されたインスリンの構造完全性は、インスリン分子の分子間接触を最小限にする十分に水和されたポリマーマトリックスによって提供することができ、そしてインスリンとポリマーマトリックスの間の自己切断型プロドラッグリンカーによって持続的放出が可能となりうる。
【0017】
従って、現在の持効型インスリンより少ない頻度で本発明のプロドラッグ形態のインスリンを投与することが可能であるはずである。さらなる利点は、ピーク対トラフ比が小さくなるはずであり、これにより低血糖エピソードのリスクが非常に低下する。これは、インスリンの血漿レベル、そして結果的に血糖の最適制御を維持すること可能にしながら患者の注射頻度を減らすのに役立ちうる。
【0018】
本発明による「インスリン」は、組換え型ヒトインスリン、ランタス、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリシン、インスリンアスパルト、インスリンリスプロ、低分子量PEGに結合されたインスリンを意味する。低分子量PEGは、10kDaより小さな分子量を有する。生物活性のないリンカー(non-biologically active linker)に結合したインスリンは、「インスリン部分」と称する。
【0019】
本明細書に用いられる「インスリン類似体(insulin analogue)」とは、天然に存在するインスリン(naturally occurring insulin)の構造、例えばヒトインスリンのものから、天然に存在するインスリン中に存在する少なくとも1つのアミノ酸残基を除去及び/又は交換する及び/又は少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって構造的に誘導することができる分子構造を有するポリペプチドを意味する。付加及び/又は交換されたアミノ酸残基は、コード化可能なアミノ酸残基又は他の天然に存在する残基又は純粋に合成アミノ酸残基のいずれかであることができる。
【0020】
インスリン類似体は、B鎖の28位が本来のPro残基からAsp、Lys、又はlieの1つに改変されうるようなものであってもよい。別の態様において、B29位のLysがProに改変される。また、A21位のAsnは、Ala、Gln、Glu、Gly、His、lie、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、Tyr又はVal、特にGly、Ala、Ser、又はThr、そして好ましくはGlyに改変されてもよい。さらにまた、B3位のAsnは、Lys又はAspに改変されてもよい。さらに、インスリン類似体の例は、des(B30)ヒトインスリン;des(B30)ヒトインスリン類似体;PheB1が除去されたインスリン類似体;A鎖及び/又はB鎖がN末端延長を有するインスリン類似体及びA鎖及び/又はB鎖がC末端延長を有するインスリン類似体である。従って、1つ又は2つのArgがB1位に付加されてもよい。
【0021】
desB30インスリンに関して、「desB30ヒトインスリン」は、B30アミノ酸残基が欠如した天然インスリン又はその類似体を意味する。同様に、「desB29desB30インスリン」又は「desB29desB30ヒトインスリン」は、B29及びB30アミノ酸残基が欠如した天然インスリン又はその類似体を意味する。「B1」「A1」などに関して、それぞれ、インスリンのB鎖における1位のアミノ酸残基(N末端から数えて)及びインスリンのA鎖における1位のアミノ酸残基(N末端から数えて)を意味する。また、特定の位置のアミノ酸残基を、例えばPheB1と表してもよく、これはB1位のアミノ酸残基がフェニルアラニン残基であることを意味する。
【0022】
「生物活性のないリンカー」は、生物活性物質(biologically active agent)から誘導された薬物の薬理学的効果を示さないリンカーを意味する。
【0023】
「保護基」は、その後の化学反応において化学選択性を得るために合成中に分子の化学官能基を一時的に保護する部分のことである。アルコールの保護基は、例えば、ベンジル及びトリチルであり、アミンの保護基は、例えば、tert−ブチルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル及びベンジルであり、そしてチオールについて、保護基の例は、2,4,6−トリメトキシベンジル、フェニルチオメチル、アセトアミドメチル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、tert−ブチルチオ、トリフェニルメチル、3−ニトロ−2−ピリジルチオ、4−メチルトリチルである。
【0024】
「保護された官能基」は、保護基によって保護された化学官能基を意味する。
【0025】
「アシル化剤」は、場合により、酸塩化物、N−ヒドロキシスクシンイミド、ペンタフルオロフェノール及びパラ−ニトロフェノールのような脱離基に結合された、アシル化反応においてアシル基を供給する構造R−(C=O)−の部分を意味する。
【0026】
「アルキル」は、直鎖又は分枝炭素鎖を意味する。アルキル炭素の各水素は、置換基によって置き換えられてもよい。
【0027】
「アリール」は、複素環式環、例えばフェニル、チオフェン、インドリル、ナフチル、ピリジルを含む、単環式又は多環式又は縮合芳香環から誘導されたあらゆる置換基のことであり、それらは場合によりさらに置換されてもよい。
【0028】
「アシル」は、構造R−(C=O)−の化学官能基を意味し、ここにおいて、Rはアルキル又はアリールである。
【0029】
「C1-4アルキル」は、1〜4個の炭素原子を有するアルキル鎖、例えば分子の末端に存在する場合:メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル tert−ブチル、又は例えば分子の2つの部分がアルキル基によって結合されている場合、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−CH2−CH2−CH2−、−CH(C25)−、−C(CH32−を意味する。C1-4アルキル炭素の各水素は、置換基によって置き換えられてもよい。
【0030】
「C1-6アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル鎖、例えば分子の末端に存在する場合:C1-4アルキル、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル;tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、又は例えば分子の2つの部分がアルキル基によって結合されている場合、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−CH2−CH2−CH2−、−CH(C25)−、−C(CH32−を意味する。C1-6アルキル炭素の各水素は、置換基によって置き換えられてもよい。
【0031】
従って、「C1-18アルキル」は、1〜18個の炭素原子を有するアルキル鎖を意味し、そして「C8-18アルキル」は、8〜18個の炭素原子を有するアルキル鎖を意味する。従って、「C1-50アルキル」は、1〜50個の炭素原子を有するアルキル鎖を意味する。
【0032】
「C2-50アルケニル」は、2〜50個の炭素原子を有する分枝又は非分枝アルケニル鎖、例えば分子の末端に存在する場合:−CH=CH2、−CH=CH−CH3、−CH2−CH=CH2、−CH=CH−CH2−CH3、−CH=CHCH=CH2、又は例えば分子の2つの部分がアルケニル基によって結合されている場合、−CH=CH−を意味する。C2-50アルケニル炭素の各水素は、さらに明記された置換基によって置き換えられてもよい。従って、「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素炭素二重結合を有する炭素鎖のことである。場合により、1つ又はそれ以上の三重の結合が存在してもよい。
【0033】
「C2-50アルキニル」は、2〜50個の炭素原子を有する分枝又は非分枝アルキニル鎖、例えば分子の末端に存在する場合:−C≡CH、−CH2−C≡CH、CH2−CH2−C≡CH、CH2−C≡C−CH3、又は例えば分子の2つの部分がアルキニル基によって結合されている場合、−C≡C−を意味する。C2-50アルキニル炭素の各水素は、さらに明記された置換基によって置き換えられてもよい。従って、「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素炭素三重結合を有する炭素鎖のことである。場合により、1つ又はそれ以上の二重結合が存在してもよい。
【0034】
「C3-7シクロアルキル」又は「C3-7シクロアルキル環」は、少なくとも部分的に飽和された炭素−炭素二重結合を有しうる3〜7個の炭素原子を有する環式アルキル鎖、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプチルを意味する。シクロアルキル炭素の各水素は、置換基によって置き換えられてもよい。また、「C3-7シクロアルキル」又は「C3-7シクロアルキル環」という用語は、ノルボナン又はノルボネンの様な架橋されたビシクルを含む。従って、「C3-5シクロアルキル」は、3〜5個の炭素原子を有するシクロアルキルを意味する。
【0035】
従って、「C3-10シクロアルキル」は、3〜10個の炭素原子を有する環式アルキル、例えばC3-7シクロアルキル;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルを意味する。また、「C3-10シクロアルキル」という用語は、少なくとも部分的に飽和したカルボモノ−及び−ビシクルを含む。
【0036】
「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードを意味する。一般に、ハロゲンは、フルオロ又はクロロであることが好ましい。
【0037】
「4〜7員ヘテロシクリル」又は「4〜7員複素環」は、4個までの環原子のうちの少なくとも1個の環原子が硫黄(−S(O)−、−S(O)2−を含む)、酸素及び窒素(=N(O)−を含む)からなる群より選ばれるヘテロ原子によって置き換えられており、そして環は炭素又は窒素原子を介して残りの分子に結合されている、最大数までの二重結合を含みうる4、5、6又は7個の環原子を有する環(完全飽和、部分飽和又は不飽和の芳香環又は非芳香環)を意味する。4〜7員複素環の例は、アゼチジン、オキセタン、チエタン、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソオキサゾール、イソオキサゾリン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、イソチアゾリン、チアジアゾール、チアジアゾリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソオキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、チアジアゾリジン、スルホラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、イミダゾリジン、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、ピリミジン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、テトラゾール、トリアゾール、トリアゾリジン、テトラゾールイジン、ジアゼパン、アゼピン又はホモピペラジンである。
【0038】
「9〜11員ヘテロビシクリル」又は「9〜11員ヘテロビシクル」は、6個までの環原子のうちの少なくとも1個の環原子が硫黄(−S(O)−、−S(O)2−を含む)、酸素及び窒素(=N(O)−を含む)からなる群より選ばれるヘテロ原子によって置き換えられており、そして環は炭素又は窒素原子を介して残りの分子に結合されている、少なくとも1つの環原子が両方の環によって共有されており、そして最大数までの二重結合を含んでもよい9〜11個の環原子を有する2環の複素環式系(完全飽和、部分飽和又は不飽和の芳香環又は非芳香環)を意味する。9〜11員ヘテロビシクルの例は、インドール、インドリン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾリン、キノリン、キナゾリン、ジヒドロキナゾリン、キノリン、ジヒドロキノリン、テトラヒドロキノリン、デカヒドロキノリン、イソキノリン、デカヒドロイソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、ジヒドロイソキノリン、ベンゾアゼピン、プリン又はプテリジンである。また、9〜11員ヘテロビシクルという用語には、1,4−ジオキサ−8−アザスピロ[4.5]デカンのような2環のスピロ構造又は8−アザ−ビシクロ[3.2.1]オクタンのような架橋された複素環も含まれる。
【0039】
また、式(I)による化合物を含むインスリンプロドラッグが1つ又はそれ以上の酸性又は塩基性基を含む場合、本発明は、それらの対応する薬学的に又は毒物学的に許容しうる塩、特にそれらの薬学的に使用できる塩を含む。従って、酸性基を含む式(I)の化合物を含むインスリンプロドラッグは、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩として又はアンモニウム塩として本発明により用いることができる。このような塩のより詳しい例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩又はアンモニアとの塩又は例えばエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン若しくはアミノ酸のような有機アミンが含まれる。1つ又はそれ以上の塩基性基、すなわち、プロトン化することができる基を含む式(I)の化合物を含むインスリンプロドラッグは、無機又は有機酸とのそれらの付加塩の形態において本発明により存在することができ、そして用いることができる。適切な酸の例には、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、シュウ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、ギ酸、プロピオン酸、ピバル酸、ジエチル酢酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、フェニルプロピオン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、イソニコチン酸、クエン酸、アジピン酸、及び当業者に知られている他の酸が含まれる。また、式(I)の化合物を含むインスリンプロドラッグが分子中に酸性及び塩基性基を同時に含む場合、本発明は、記載された塩形態に加えて、分子内塩又はベタイン(両性イオン)も含む。式(I)を含むインスリンプロドラッグによるそれぞれの塩は、当業者に知られている慣用の方法によって、例えば、溶媒若しくは分散媒中でこれらを有機若しくは無機の酸若しくは塩基と接触させることによって、又は他の塩とのアニオン交換若しくは陽イオン交換によって得ることができる。また、本発明は、低い生理学的適合性のため、薬剤に使用するには直接適していないが、例えば、化学反応の中間体として又は薬学的に許容しうる塩を製造するために用いることができる、式(I)の化合物を含むインスリンプロドラッグのすべての塩を含む。
【0040】
生体内でインスリンのような薬物の物理化学的又は薬物動態学的性質を強化するため、このような薬物を担体と結合させることができる。薬物が担体及び/又はリンカーに一時的に結合される場合、このような系は、一般に担体結合プロドラッグ(carrier-linked prodrugs)と称する。IUPACによって提供された定義(2009年7月22日にアクセスされたhttp://www.chem.qmul.ac.uk/iupac.medchem下に記載された)によれば、担体結合プロドラッグは、所定の活性物質と、改善された物理化学的又は薬物動態学的性質をもたらし、そして、通常、加水分解によって生体内で容易に除去することができる一過性担体基(transient carrier group)との一時的な結合を含むプロドラッグである。
【0041】
このような担体結合プロドラッグに用いられるリンカーは、一過性(transient)であり、それは、例えば1時間から3ヵ月までの範囲の半減期を有し、生理学的条件(pH7.4、37℃の水性バッファ)下で非酵素的加水分解により分解可能(切断可能)であることを意味している。
【0042】
適切な担体はポリマーであり、リンカーに直接結合するか又は切断されないスペーサーを介して結合することができる。「インスリンヒドロゲルプロドラッグ」という用語は、インスリンの担体結合プロドラッグのことであり、ここにおいて、担体はヒドロゲルである。「ヒドロゲルプロドラッグ」及び「ヒドロゲル結合プロドラッグ(hydrogel-linked prodrug)」という用語は、ヒドロゲルに一時的に結合された生物活性物質(biologically active agents)のプロドラッグのことであり、そして同義的に用いられる。「ヒドロゲル」は、大量の水を取り込むことができる三次元的な親水性又は両親媒性ポリマーネットワークと定義してもよい。ネットワークは、ホモポリマー又はコポリマーで構成されており、共有結合性の化学的又は物理的(イオン性、疎水性相互作用、エンタングルメント(entanglements))架橋の存在のため不溶性である。架橋は、ネットワーク構造及び物理的完全性をもたらす。ヒドロゲルは、水性媒体中でそれを膨潤させる水との熱力学的適合性を示す。ネットワークの鎖は、孔が存在し、これらの孔の実質部分が1nm〜1000nmの寸法であるような形態で結合されている。
【0043】
薬物の「遊離形態」とは、ポリマー複合体から放出された後のような、その改変されてない薬理活性形態の薬物のことである。
【0044】
「薬物」、「生物活性分子(biologically active molecule)」、「生物活性部分(biologically active moiety)」、「生物活性物質(biologically active agent)」、「活性物質(active agent)」などの用語は、ウイルス、細菌、真菌、植物、動物及びヒトを含むが、それらに限定されない生物学的有機体あらゆる物理的又は生化学的性質に影響を及ぼすことができるあらゆる物質を意味する。特に、本明細書に用いられるように、生物活性分子には、ヒト若しくは他の動物における疾患の診断、治癒、緩和、治療若しくは予防を目的とする、又は別途、ヒト若しくは動物の身体的若しくは精神的な健全性を強化するためのあらゆる物質が含まれる。具体的には、「薬物」、「生物活性分子」、「生物活性部分」、「生物活性物質」、「活性物質」などの用語は、インスリンのことである。
【0045】
本明細書に用いられるインスリンの「治療有効量」は、所定の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒、緩和又は部分的に抑制するのに十分な量を意味する。これを達成するために適切な量は、「治療有効量」として定義される。それぞれの目的についての有効量は、疾患又は損傷の重症度並びに被験者の体重及び全身状態に左右される。適切な用量の決定は、数値の行列(matrix)を構成し、そして行列中のさまざまなポイントを試験することによって常用実験を用いて達成してもよく、それはすべて熟練医師の通常のスキル内にあることが理解される。
【0046】
「安定な」及び「安定性」は、指示された保存時間内において、ヒドロゲル複合体が結合したままであり、実質的な程度まで加水分解しておらず、そしてインスリンに関して許容しうる不純物プロファイルを示すことを意味する。安定とみなすには、組成物は、その遊離形態の薬物を5%より少なく含む。
【0047】
「薬学的に許容しうる」という用語は、動物、好ましくはヒトに使用するため、例えばEMEA(欧州)及び/又はFDA(米国)のような監督機関及び/又は任意の他国の監督機関によって承認されたことを意味する。
【0048】
「薬学的組成物」又は「組成物」は、1つ又はそれ以上の活性成分、及び1つ又はそれ以上の不活性成分、並びにいずれか2つ若しくはそれ以上の成分の組み合わせ、複合体形成、若しくは凝集から、又は1つ若しくはそれ以上の成分の解離から、又は1つ若しくはそれ以上の成分の他のタイプの反応若しくは相互作用から直接的又は間接的に生じるあらゆる生成物を意味する。従って、本発明の薬学的組成物は、本発明の化合物及び薬学的に許容しうる賦形剤(薬学的に許容しうる担体)を混合することによって製造されるあらゆる組成物を包含する。
【0049】
「乾燥組成物」は、インスリンヒドロゲルプロドラッグ組成物が容器中に乾燥形態で提供されることを意味する。適切な乾燥方法は、噴霧乾燥及び凍結乾燥(フリーズドライ)である。インスリンヒドロゲルプロドラッグのこのような乾燥組成物は、最大10%、好ましくは5%未満、そしてより好ましくは2%未満の残留水分含量を有する(カールフィッシャー(Karl Fischer)に従って決定)。好ましい乾燥方法は、凍結乾燥である。「凍結乾燥された組成物」は、インスリンヒドロゲルポリマープロドラッグ組成物が最初に凍結され、そして、その後、減圧による水還元にかけられることを意味する。この用語は、組成物を最終容器に充填する前に製造過程で生じるさらなる乾燥工程を排除するわけではない。
【0050】
「凍結乾燥」(フリーズドライ)は、組成物を凍結し、次いで周囲圧力を下げ、そして場合により加熱して組成物中の凍結した水を固相から気体に直接昇華させることを特徴とする脱水過程である。典型的に、昇華された水は、凝結によって集められる。
【0051】
「再構成」は、組成物の最初の形態に戻すための液体の添加を意味する。
【0052】
「再構成溶液」は、それを必要とする患者に投与する前にインスリンヒドロゲルプロドラッグの乾燥組成物を再構成するために用いられる液体のことである。
【0053】
「容器」は、インスリンヒドロゲルプロドラッグ組成物を含み、そして再構成まで保存することができるあらゆる容器を意味する。
【0054】
「バッファ」又は「緩衝剤」は、所望の範囲にpHを維持する化学化合物のことである。生理学的に許容しうるバッファは、例えば、ナトリウムのリン酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、炭酸水素塩、クエン酸塩及び酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、ピルビン酸塩である。Mg(OH)2又はZnCO3のような酸中和剤を用いてもよい。緩衝能力は、pH安定性に最も感受性な条件に適合するよう調整してもよい。
【0055】
「賦形剤」は、治療剤と共に投与される化合物、例えば、緩衝剤、等張性調整剤(isotonicity modifiers)、防腐剤、安定剤、抗吸着剤、酸化防止剤、又は他の補助剤のことである。しかしながら、いくつかの場合、1つの賦形剤は、2つ又は3つの機能を有することがある。
【0056】
「リオプロテクタント(lyoprotectant)」は、興味のタンパク質と合わせたときに、一般に乾燥したときの、そして特に凍結乾燥及びその後の保存中のタンパク質の化学的及び/又は物理的不安定性を有意に防止する又は低下させる分子である。例となるリオプロテクタントとしては、糖、例えばスクロース又はトレハロース;アミノ酸、例えばアルギニン、グリシン、グルタメート又はヒスチジン;メチルアミン、例えばベタイン;離液性塩(lyotropic salts)、例えば硫酸マグネシウム;ポリオール、例えば3価の又はより高級な糖アルコール、例えばグリセリン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトール;エチレングリコール;プロピレングリコール;ポリエチレングリコール;プルロニック;ヒドロキシアルキルデンプン、例えばヒドロキシエチルデンプン(HES)、並びにそれらの組み合わせが含まれる。
【0057】
「界面活性剤」は、液体の表面張力を低下させる湿潤剤のことである。
【0058】
「等張性調整剤」は、注射デポ剤の浸透圧の違いのため細胞損傷から生じることがありうる疼痛を最小限にする化合物のことである。
【0059】
「安定剤」という用語は、ポリマープロドラッグの安定化に用いられる化合物のことである。安定化は、タンパク質安定化力の強化、変性状態の不安定化、又はタンパク質に賦形剤を直接結合することによって達成される。
【0060】
「抗吸着剤」は、組成物の容器の内面にコートする又は競合的に吸着するのに用いられる主にイオン性若しくは非イオン性界面活性剤又は他のタンパク質又は可溶性ポリマーのことである。選択される賦形剤の濃度及びタイプは、回避すべき効果に左右されるが、典型的には、CMC値よりすぐ上の界面で界面活性剤の単層が形成される。
【0061】
「酸化防止剤」は、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、エクトイン、グルタチオン、メチオニン、モノチオグリセロール、モリン、ポリエチレンイミン(PEI)、没食子酸プロピル、ビタミンE、キレート剤、例えばクエン酸、EDTA、六リン酸、チオグリコール酸のことである。
【0062】
「抗菌剤」は、細菌、真菌、酵母、原生動物のような微生物の殺す又は成長を阻害する及び/又はウイルスを撲滅する化学物質のことである。
【0063】
「容器を密閉する」とは、容器が気密性であり、外部と内部の間でガス交換することなく、そして内容物を無菌に保つように容器が閉じられていることを意味する。
【0064】
「試薬」又は「前駆体」という用語は、本発明のプロドラッグに至る製造過程に用いられる中間体又は出発物質のことである。
【0065】
「化学官能基」という用語は、カルボン酸及び活性化誘導体、アミノ、マレイミド、チオール及び誘導体、スルホン酸及び誘導体、カルボネート及び誘導体、カルバメート及び誘導体、ヒドロキシル、アルデヒド、ケトン、ヒドラジン、イソシアネート、イソチオシアネート、リン酸及び誘導体、ホスホン酸及び誘導体、ハロアセチル、アルキルハライド、アクリロイル及び他のアルファ−ベータ不飽和マイケル受容体、フッ化アリールのようなアリール化剤、ヒドロキシルアミン、ピリジルジスルフィドのようなジスルフィド、ビニルスルホン、ビニルケトン、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル化合物、オキシラン、並びにアジリジンのことである。
【0066】
化学官能基が別の化学官能基に結合される場合、生成した化学構造を、「結合(linkage)」と称する。例えば、アミン基とカルボキシル基の反応は、アミド結合において起こる。
【0067】
「反応性官能基」は、超分枝部分(hyperbranched moiety)に結合された骨格鎖部分(backbone moiety)の化学官能基である。
【0068】
「官能基」は、「反応性官能基」、「分解性相互結合官能基(degradable interconnected functional group)」、又は「複合体官能基(conjugate functional group)」に用いられる集合名である。
【0069】
「分解性相互結合官能基」は、一方の側で骨格鎖部分に結合したスペーサー部分に結合しており、そしてもう一方の側で架橋部分に結合した生分解性結合(biodegradable bond)を含む結合である。「分解性相互結合官能基」、「生分解性相互結合官能基(biodegradable interconnected functional group)」、「相互結合生分解性官能基(interconnected biodegradable functional group)」及び「相互結合官能基(interconnected functional group)」という用語は、同義的に用いられる。
【0070】
「ブロック基(blocking group)」又は「キャッピング基(capping group)」という用語は、同義的に用いられ、そして反応性官能基に不可逆的に結合してそれを、例えば化学官能基と反応できなくする部分のことである。
【0071】
「保護基(protecting group)」又は「保護基(protective group)」という用語は、反応性官能基に可逆的に結合してそれを、例えば他の化学官能基と反応できないようにする部分のことである。
【0072】
「相互結合性官能基(interconnectable functional group)」という用語は、ラジカル重合反応に参入し、そしてクロスリンカー試薬又は骨格鎖試薬の部分である化学官能基のことである。
【0073】
「重合性官能基(polymerizable functional group)」という用語は、ライゲーション型重合反応(ligation-type polymerization reaction)に参入し、そしてクロスリンカー試薬及び骨格鎖試薬の部分である化学官能基のことである。
【0074】
骨格鎖部分は、一端で骨格鎖部分に、そしてもう一方の側で架橋部分に結合されたスペーサー部分を含んでもよい。
【0075】
「誘導体」という用語は、保護基及び/又は活性化基で適切に置換された化学官能基又は当業者に知られている対応する化学官能基の活性化形態のことである。例えば、カルボキシル基の活性化形態には、スクシンイミジルエステル、ベンゾトリアジルエステル、ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、アザベンゾトリアジルエステル、アシルハロゲン化物、混合又は対称性無水物、アシルイミダゾールのような活性エステルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0076】
「非酵素的に切断可能なリンカー」という用語は、酵素活性のない生理学的条件下で加水分解により分解可能であるリンカーのことである。
【0077】
「生物活性のないリンカー(non-biologically active linker)」は、生物活性部分から誘導された薬物(D−H)の薬理学的効果を示さないリンカーを意味する。
【0078】
「スペーサー」、「スペーサー基」、「スペーサー分子」及び「スペーサー部分」という用語は、同じ意味で用いられ、そして本発明のヒドロゲル担体中に存在する部分を記載するために用いられる場合、その断片が、−NH−、−N(C1−4アルキル)−、−O−、−S−、−C(O)−、−C(O)NH−、−C(O)N(C1-4アルキル)−、−O−C(O)−、−S(O)−、−S(O)2−、4〜7員ヘテロシクリル、フェニル又はナフチルから選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されたC1-50アルキル、C2-50アルケニル又はC2-50アルキニルのような2つの部分を結合するのに適したあらゆる部分のことである。
【0079】
「末端の」、「末端」又は「遠位端(distal end)」という用語は、分子又は部分内の官能基又は結合の位置のことであり、それによってこのような官能基は、化学官能基であってもよく、そして結合は分解可能な又は永続的結合であってもよく、2つの部分間の結合に隣接して若しくはその中に又はオリゴマー若しくはポリマー鎖の終端に位置することを特徴とする。
【0080】
「結合形態における」又は「部分」という表現は、より大きな分子の部分である下部構造のことである。「結合形態における」という表現は、試薬、出発物質又は当分野でよく知られている仮定的な出発物質の命名又は列記によって部分への表示を簡略化するために用いられ、そして、それによって「結合形態における」は、例えば1つ若しくはそれ以上の水素基(−H)、又は試薬若しくは出発物質中に存在する1つ若しくはそれ以上の活性化若しくは保護基が部分中に存在しないことを意味する。
【0081】
ポリマー部分を含むすべての試薬及び部分は、分子量、鎖長若しくは重合度、又は官能基の数に関して多様性を示すことが知られている高分子単位のことであると理解される。従って、骨格鎖試薬、骨格鎖部分、クロスリンカー試薬及びクロスリンカー部分について示した構造は、ほんの代表例である。
【0082】
試薬又は部分は、線状又は分枝であってもよい。試薬又は部分が2つの末端基を有する場合、それは、線状試薬又は部分と称する。試薬又は部分が2つを超える末端基を有する場合、分枝又は多官能性の試薬又は部分とみなす。
【0083】
「ポリ(エチレングリコール)ベースのポリマー鎖」又は「PEGベースの鎖」という用語は、オリゴ−又はポリマー分子鎖のことである。
【0084】
好ましくは、このようなポリ(エチレングリコール)ベースのポリマー鎖は、分枝コア(branching core)に結合されており、それは、そのうちの一方の末端は分枝コアに、そしてもう一方は超分枝樹枝状部分に結合された線状ポリ(エチレングリコール)鎖である。PEGベースの鎖は、ヘテロ原子及び化学官能基で場合により置換されたアルキル又はアリール基によって終結又は中断されてもよい事が理解される。
【0085】
「ポリ(エチレングリコール)ベースのポリマー鎖」という用語がクロスリンカー試薬に関して用いられる場合、それは、少なくとも20質量%エチレングリコール部分を含むクロスリンカー部分又は鎖のことである。
【0086】
好ましくは、式(I)中、R2はL2−Zによって置き換えられる。
【0087】
好ましくは、式(I)中、R1はL2−Zによって置き換えられる。
【0088】
好ましくは、式(I)中、XはN(R3)である。
【0089】
好ましくは、式(I)中、XはC(R33a)であり、そしてR3aはN(R2b)C(O)R4である。
【0090】
好ましくは、式(I)中、XはC(R33a)であり、そしてR3aはL2−Zによって置き換えられる。
【0091】
好ましくは、XはC(R33a)であり、R3aはN(R2b)−L2−Zである。
【0092】
本発明の好ましいプロドラッグは、インスリンリンカー複合体D−Lを含み、ここにおいて、式(I)のL1は、式(Ia)、(Ib)、(Ic)又は(Id):
【化2】
(式中、
1、R1a、R2、R2a、R2b、R3、R4、L2、Zは、本明細書に記載された意味を有し、そしてL1は場合によりさらに置換されるが、但し、式(Ia)〜(Id)中のアスタリスクでマークされた水素は、置換基によって置き換えられない)によって表される。
【0093】
好ましくは、L1はさらに置換されない(必須置換基L2−Zは別として)。
【0094】
好ましくは、インスリン部分は、窒素NαA1を通して又はインスリン部分のリシン側鎖の窒素を通してL1に結合されている。
【0095】
好ましくは、インスリン部分は、組換え型のヒトインスリンである。
【0096】
例えば、式(Ia)〜(Id)中に示されるように、1つの水素は、基L2−Zによって置き換えられる。
【0097】
式(I)中のアスタリスクでマークされた水素の置き換えは別として、L2はあらゆる位置でL1に結合することができる。好ましくは、R1、R1a、R2、R2a、R2b、R3、R3a、R4によって表わされる水素の1つは、直接又はC1-4アルキル若しくはさらなる基の水素としてL2−Zによって置き換えられる。
【0098】
さらにまた、L1は場合によりさらに置換されてもよい。一般に、切断原則が影響を受けない限り、あらゆる置換基を用いてもよい。しかしながら、L1はさらに置換されないことが好ましい。
【0099】
好ましくは、1つ又はそれ以上のさらなる場合による置換基は、ハロゲン;CN;COOR9;OR9;C(O)R9;C(O)N(R99a);S(O)2N(R99a);S(O)N(R99a);S(O)29;S(O)R9;N(R9)S(O)2N(R9a9b);SR9;N(R99a);NO2;OC(O)R9;N(R9)C(O)R9a;N(R9)S(O)29a;N(R9)S(O)R9a;N(R9)C(O)OR9a;N(R9)C(O)N(R9a9b);OC(O)N(R99a);T;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;又はC2-50アルキニルからなる群より独立して選ばれ、ここにおいてT;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており、そしてC1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、T、−C(O)O−;−O−;−C(O)−;−C(O)N(R11)−;−S(O)2N(R11)−;−S(O)N(R11)−;−S(O)2−;−S(O)−;−N(R11)S(O)2N(R11a)−;−S−;−N(R11)−;−OC(O)R11−;−N(R11)C(O)−;−N(R11)S(O)2−;−N(R11)S(O)−;−N(R11)C(O)O−;−N(R11)C(O)N(R11a)−;及び−OC(O)N(R1111a)−からなる群より選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されており;
【0100】
9、R9a、R9bは、H;T;及びC1-50アルキル;C2-50アルケニル;又はC2-50アルキニルからなる群より独立して選ばれ、ここにおいてT;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており、そしてC1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、T、−C(O)O−;−O−;−C(O)−;−C(O)N(R11)−;−S(O)2N(R11)−;−S(O)N(R11)−;−S(O)2−;−S(O)−;−N(R11)S(O)2N(R11a)−;−S−;−N(R11)−;−OC(O)R11−;−N(R11)C(O)−;−N(R11)S(O)2−;−N(R11)S(O)−;−N(R11)C(O)O−;−N(R11)C(O)N(R11a)−;及び−OC(O)N(R1111a)−からなる群より選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されており;
【0101】
Tは、フェニル;ナフチル;インデニル;インダニル;テトラリニル;C3-10シクロアルキル;4〜7員ヘテロシクリル;又は9〜11員ヘテロビシクリルからなる群より選ばれ、ここにおいて、Tは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており;
10は、ハロゲン;CN;オキソ(=O);COOR12;OR12;C(O)R12;C(O)N(R1212a);S(O)2N(R1212a);S(O)N(R1212a);S(O)212;S(O)R12;N(R12)S(O)2N(R12a12b);SR12;N(R1212a);NO2;OC(O)R12;N(R12)C(O)R12a;N(R12)S(O)212a;N(R12)S(O)R12a;N(R12)C(O)OR12a;N(R12)C(O)N(R12a12b);OC(O)N(R1212a);又はC1-6アルキルであり、ここにおいて、C1-6アルキルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のハロゲンで場合により置換されており;
11、R11a、R12、R12a、R12bは、H;又はC1-6アルキルからなる群より独立して選ばれ、ここにおいて、C1-6アルキルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のハロゲンで場合により置換されている。
【0102】
「中断された」という用語は、2個の炭素間に又は炭素と水素の間の炭素鎖の末端に基が挿入されることを意味する。
【0103】
2は、単化学結合又はスペーサーである。L2がスペーサーである場合、上記定義された1つ又はそれ以上の場合による置換基として定義されることが好ましいが、但し、L2はZで置換される。
【0104】
従って、L2が単化学結合とは異なるとき、L2−Zは、COOR9;OR9;C(O)R9;C(O)N(R99a);S(O)2N(R99a);S(O)N(R99a);S(O)29;S(O)R9;N(R9)S(O)2N(R9a9b);SR9;N(R99a);OC(O)R9;N(R9)C(O)R9a;N(R9)S(O)29a;N(R9)S(O)R9a;N(R9)C(O)OR9a;N(R9)C(O)N(R9a9b);OC(O)N(R99a);T;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;又はC2-50アルキニルであり、ここにおいてT;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており、そしてC1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、−T−、−C(O)O−;−O−;−C(O)−;−C(O)N(R11)−;−S(O)2N(R11)−;−S(O)N(R11)−;−S(O)2−;−S(O)−;−N(R11)S(O)2N(R11a)−;−S−;−N(R11)−;−OC(O)R11−;−N(R11)C(O)−;−N(R11)S(O)2−;−N(R11)S(O)−;−N(R11)C(O)O−;−N(R11)C(O)N(R11a)−;及び−OC(O)N(R1111a)からなる群より選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されており;
【0105】
9、R9a、R9bは、H;Z;T;及びC1-50アルキル;C2-50アルケニル;又はC2-50アルキニルからなる群より独立して選ばれ、ここにおいてT;C1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており、そしてC1-50アルキル;C2-50アルケニル;及びC2-50アルキニルは、T、−C(O)O−;−O−;−C(O)−;−C(O)N(R11)−;−S(O)2N(R11)−;−S(O)N(R11)−;−S(O)2−;−S(O)−;−N(R11)S(O)2N(R11a)−;−S−;−N(R11)−;−OC(O)R11−;−N(R11)C(O)−;−N(R11)S(O)2−;−N(R11)S(O)−;−N(R11)C(O)O−;−N(R11)C(O)N(R11a)−;及び−OC(O)N(R1111a)からなる群より選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されており;
Tは、フェニル;ナフチル;インデニル;インダニル;テトラリニル;C3-10シクロアルキル;4〜7員ヘテロシクリル;又は9〜11員ヘテロビシクリルからなる群より選ばれ、ここにおいてtは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のR10で場合により置換されており;
10は、Z;ハロゲン;CN;オキソ(=O);COOR12;OR12;C(O)R12;C(O)N(R1212a);S(O)2N(R1212a);S(O)N(R1212a);S(O)212;S(O)R12;N(R12)S(O)2N(R12a12b);SR12;N(R1212a);NO2;OC(O)R12;N(R12)C(O)R12a;N(R12)S(O)212a;N(R12)S(O)R12a;N(R12)C(O)OR12a;N(R12)C(O)N(R12
a12b);OC(O)N(R1212a);又はC1-6アルキルであり、ここにおいてC1-6アルキルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のハロゲンで場合により置換されており;
11、R11a、R12、R12a、R12bは、H;Z;又はC1-6アルキルからなる群より独立して選ばれ、ここにおいてC1-6アルキルは、同一又は異なる1つ又はそれ以上のハロゲンで場合により置換されており;
但し、R9、R9a、R9b、R10、R11、R11a、R12、R12a、R12bの1つだけがZである。
【0106】
より好ましくは、L2は、C1-20アルキル鎖であり、これは、−O−;及びC(O)N(R3aa)から独立して選ばれる1つ又はそれ以上の基によって場合により中断されており;OH;及びC(O)N(R3aa3aaa)から独立して選ばれる1つ又はそれ以上の基で場合により置換されており;そしてR3aa、R3aaaは、H;及びC1−4アルキルからなる群より独立して選ばれる。
【0107】
好ましくは、L2は14g/molから750g/molまでの範囲の分子量を有する。
【0108】
好ましくは、L2は、
【化3】
から選ばれる末端基を介してZに結合される。
【0109】
さらにまた、L2がこのような末端基を有する場合、L2がこのような末端基なしで算出された14g/molから500g/molまでの範囲の分子量を有することが好ましい。
【0110】
好ましくは、リンカーとヒドロゲルZの間に形成された共有結合は、永続的結合である。
【0111】
好ましくは、ヒドロゲルZは、生分解性ポリエチレングリコール(PEG)ベースの水不溶性ヒドロゲルである。本明細書において理解される「PEGベースの」という用語は、ヒドロゲル中のPEG鎖の質量比がヒドロゲルの全質量に基づいて少なくとも10質量%、好ましくは少なくとも25%であることを意味する。残りは、他のスペーサー及び/又はオリゴマー又はポリマー、例えばオリゴ−又はポリリシンで構成することができる。
【0112】
さらに、「水不溶性」という用語は、ヒドロゲルを形成する膨潤可能な三次元的に架橋された分子ネットワークのことである。ヒドロゲルは、大過剰の水又は生理学的浸透圧の水性バッファ中に懸濁される場合、例えば質量基準当たり質量において10倍までの実質的な量の水を取り込んでもよく、従って膨潤可能であるが、過剰の水を除去した後でも、ゲルの物理的安定性及び形状を保持している。このような形状は、あらゆる幾何学的形状であってもよく、そしてこのような独特のヒドロゲル物体は、各成分が化学結合を通してそれぞれ他の成分に結合された成分からなる単一分子とみなすべきであることが理解される。
【0113】
本発明によれば、ヒドロゲルは、加水分解により分解可能な結合によって相互結合された骨格鎖部分で構成されてもよい。
【0114】
好ましくは、L2は骨格鎖部分に結合される。
【0115】
好ましくは、骨格鎖部分は、1kDaから20kDaまで、より好ましくは1kDaから15kDaまで、そしてさらにより好ましくは1kDaから10kDaまでの範囲の分子量を有する。また、骨格鎖部分は、1つ又はそれ以上のPEG鎖を含むPEGベースであることが好ましい。
【0116】
本発明による薬物−リンカー複合体を担持しているヒドロゲルにおいて、骨格鎖部分は、相互結合した生分解性官能基及びヒドロゲル結合薬物−リンカー複合体、並びに場合によりキャッピング基を含む多くの官能基を特徴とする。これは、骨格鎖部分が、多くのヒドロゲル結合薬物−リンカー複合体;生分解性相互結合官能基を含む官能基;及び場合によりキャッピング基を特徴とすることを意味する。好ましくは、相互結合生分解性官能基及び薬物−リンカー複合体及びキャッピング基の合計は、16〜128個、好ましく20〜100個、より好ましくは24〜80個、そして最も好ましくは30〜60個である。
【0117】
好ましくは、相互結合官能基及びヒドロゲル結合薬物−リンカー複合体及び骨格鎖部分のキャッピング基の合計は、分枝コアから延びたPEGベースのポリマー鎖の数によって等しく分割される。例えば、32個の相互結合官能基及びヒドロゲル結合薬物−リンカー複合体及びキャッピング基がある場合、8個の基は、コアから延びた4本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって、好ましくは各PEGベースのポリマー鎖の末端に結合された樹枝状部分によって提供されてもよい。代わりに、4個の基が、コアから延びた8本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって、又は2個の基が16本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって提供されてもよい。分枝コアから延びたPEGベースのポリマー鎖の数が等しく分配することができない場合、PEGベースのポリマー鎖当たりの相互結合官能基及びヒドロゲル結合薬物−リンカー複合体及びキャッピング基の合計の平均数からの偏差を最小に保つことが好ましい。
【0118】
本発明によるこのような担体結合プロドラッグでは、有意量の骨格鎖部分の放出(<10%)が行われる前に、ほとんどすべての薬物放出(>90%)が起こっていることが望ましい。これは、本発明によるヒドロゲルの分解速度に対する担体結合プロドラッグの半減期を調整することによって達成することができる。
【0119】
優先的に、骨格鎖部分は、少なくとも3本のPEGベースのポリマー鎖が延びた分枝コアを有することを特徴とする。従って、本発明の好ましい態様において、骨格鎖試薬は、少なくとも3本のPEGベースのポリマー鎖が延びた分枝コアを含む。このような分枝コアは、結合形態においてポリ−若しくはオリゴアルコール、好ましくはペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ヘキサグリセリン、スクロース、ソルビトール、フルクトース、マンニトール、グルコース、セルロース、アミロース、デンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、ポリビニルアルコール、デキストラン、ヒアルロナンを含んでもよく、又は分枝コアは、結合形態においてポリ−若しくはオリゴアミン、例えばオルニチン、ジアミノ酪酸、トリリシン、テトラリシン、ペンタリシン、ヘキサリシン、ヘプタリシン、オクタリシン、ノナリシン、デカリシン、ウンデカリシン、ドデカリシン、トリデカリシン、テトラデカリシン、ペンタデカリシン又はオリゴリシン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンを含んでもよい。
【0120】
好ましくは、分枝コアは、3〜16本、より好ましくは4〜8本のPEGベースのポリマー鎖を延ばしている。好ましい分枝コアは、結合形態においてペンタエリスリトール、オルニチン、ジアミノ酪酸、トリリシン、テトラリシン、ペンタリシン、ヘキサリシン、ヘプタリシン又はオリゴリシン、低分子量PEI、ヘキサグリセリン、トリペンタエリスリトールを含んでもよい。好ましくは、分枝コアは、3〜16本、より好ましくは4〜8本のPEGベースのポリマー鎖を延ばしている。好ましくは、PEGベースのポリマー鎖は、そのうちの一方の末端が分枝コア、そしてもう一方が超分枝樹枝状部分に結合している、線状ポリ(エチレングリコール)鎖である。ポリマーPEGベースの鎖は、ヘテロ原子及び化学官能基で場合により置換されたアルキル又はアリール基によって終結又は中断されてもよいことが理解される。
【0121】
好ましくは、PEGベースのポリマー鎖は、適切に置換されたポリエチレングリコール誘導体(PEGベースの)である。
【0122】
骨格鎖部分に含まれる分枝コアから延びた対応するPEGベースのポリマー鎖の好ましい構造は、例えば、JenKem Technology、米国(2009年7月28日にwww.jenkemusa.comからダウンロードによってアクセスされた)の製品リストに詳述されたようなマルチアーム(multi-arm)PEG誘導体、4ARM−PEG誘導体(ペンタエリスリトールコア)、8ARM−PEG誘導体(ヘキサグリセリンコア)及び8ARM−PEG誘導体(トリペンタエリスリトールコア)である。最も好ましいのは、4アームPEGアミン(ペンタエリスリトールコア)及び4アームPEGカルボキシル(ペンタエリスリトールコア)、8アームPEGアミン(ヘキサグリセリンコア)、8アームPEGカルボキシル(ヘキサグリセリンコア)、8アームPEGアミン(トリペンタエリスリトールコア)及び8アームPEGカルボキシル(トリペンタエリスリトールコア)である。骨格鎖部分中のこのようなマルチアームPEG誘導体の好ましい分子量は、1kDa〜20kDa、より好ましくは1kDa〜15kDa、そしてさらにより好ましくは1kDa〜10kDaである。
【0123】
上記のマルチアーム分子の末端アミン基は、骨格鎖部分に結合形態で存在し、骨格鎖部分のさらに相互結合された官能基及び反応性官能基を提供することが理解される。
【0124】
相互結合官能基及び骨格鎖部分の反応性官能基の合計は、分枝コアから延びたPEGベースのポリマー鎖の数によって等しく分割されることが好ましい。分枝コアから延びたPEGベースのポリマー鎖の数が等しく分配することができない場合、PEGベースのポリマー鎖当たりの相互結合官能基及び反応性官能基の合計の平均数からの偏差が最小に保たれることが好ましい。
【0125】
より好ましくは、骨格鎖部分の相互結合官能基及び反応性官能基の合計は、分枝コアから延びたPEGベースのポリマー鎖の数によって等しく分割される。例えば、32個の相互結合官能基及び反応性官能基がある場合、8個の基は、コアから延びた4本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって、好ましくは各PEGベースのポリマー鎖の末端に結合された樹枝状部分によって提供されてもよい。代わりに、4個の基が、コアから延びた8本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって、又は2個の基が16本のPEGベースのポリマー鎖のそれぞれによって提供されてもよい。
【0126】
このようなさらなる官能基は、樹枝状部分によって提供されてもよい。好ましくは、各樹枝状部分は、0.4kDaから4kDaまで、より好ましくは0.4kDa〜2kDaの範囲の分子量を有する。好ましくは、各樹枝状部分は、少なくとも3個の分枝及び少なくとも4個の反応性官能基、そして多くとも63個の分枝及び64個の反応性官能基、好ましくは、少なくとも7個の分枝及び少なくとも8個の反応性官能基、そして多くとも31個の分枝及び32個の反応性官能基を有する。
【0127】
このような樹枝状部分の例には、結合形態においてトリリシン、テトラリシン、ペンタリシン、ヘキサリシン、ヘプタリシン、オクタリシン、ノナリシン、デカリシン、ウンデカリシン、ドデカリシン、トリデカリシン、テトラデカリシン、ペンタデカリシン、ヘキサデカリシン、ヘプタデカリシン、オクタデカリシン、ノナデカリシンが含まれる。このような好ましい樹枝状部分の例には、結合形態においてトリリシン、テトラリシン、ペンタリシン、ヘキサリシン、ヘプタリシン、最も好ましくは、結合形態においてトリリシン、ペンタリシン又はヘプタリシン、オルニチン、ジアミノ酪酸が含まれる。
【0128】
最も好ましくは、本発明のヒドロゲル担体は、骨格鎖部分が式C(A−Hyp)4の第四級炭素を有し、ここにおいて各Aは、独立して永続的共有結合によって第四級炭素に末端結合されたポリ(エチレングリコール)ベースのポリマー鎖であり、そしてPEGベースのポリマー鎖の遠位末端は、樹枝状部分Hypに共有結合されており、各樹枝状部分Hypは、相互結合官能基及び反応性官能基を表す少なくとも4個の官能基を有することを特徴とする。
【0129】
好ましくは、各Aは、式−(CH2n1(OCH2CH2nX−から独立して選ばれ、ここにおいて、n1は1又は2であり;nは5から50までの範囲の整数であり;そしてXはA及びHypを共有結合している化学官能基である。
【0130】
好ましくは、A及びHypは、アミド結合によって共有結合される。
【0131】
好ましくは、樹枝状部分Hypは、超分枝ポリペプチドである。好ましくは、超分枝ポリペプチドは、結合形態においてリシンを含む。好ましくは、各樹枝状部分Hypは、0.4kDaから4kDaまでの範囲の分子量を有する。骨格鎖部分C(A−Hyp)4は、同一又は異なる樹枝状部分Hypからなることができ、そして各Hypは、独立して選ぶことができることが理解される。各部分Hypは、5〜32個のリシン、好ましくは少なくとも7個のリシンからなり、すなわち、各部分Hypは、結合形態において5〜32個のリシン、好ましくは結合形態において少なくとも7個のリシンを含む。最も好ましくは、Hypはヘプタリシニルを含む。
【0132】
重合性官能基と骨格鎖試薬との反応、より具体的にはHypとポリエチレングリオールベースのクロスリンカー試薬の重合性官能基との反応は、永続的アミド結合を生じる。
【0133】
好ましくは、C(A−Hyp)4は、1kDaから20kDaまで、より好ましくは1kDa〜15kDa、そしてさらにより好ましくは1kDa〜10kDaの反応の分子量を有する。
【0134】
1つの好ましい骨格鎖部分を以下:
【化4】
に示し、点線は、クロスリンカー部分への生分解性結合を相互結合していることを示し、そしてnは5〜50の整数である。
【0135】
本発明によるヒドロゲルの生分解性は、加水分解により分解可能な結合の導入によって達成される。
【0136】
「加水分解により分解可能な」、「生分解性の(biodegradable)」又は「加水分解により切断可能な」、「自動切断可能な(auto-cleavable)」、若しくは「自己切断(self-cleavage)」、「自己切断可能な」、「一過性」又は「一時的な」という用語は、本発明に関して、1時間から3ヵ月までの半減期を有し、生理学的条件(pH7.4、37℃の水性バッファ)下で非酵素的加水分解により分解可能又は切断可能である結合(bonds)及び結合(linkages)のことであり、アコニチル、アセタール、アミド、カルボン無水物、エステル、イミン、ヒドラゾン、マレアミド酸アミド、オルトエステル、ホスファミド、リン酸エステル、ホスホシリルエステル、シリルエステル、スルホンエステル、芳香族カルバメート、それらの組み合わせ、及び同様ものが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0137】
本発明によるヒドロゲル中に分解可能な相互結合官能基として存在する場合、好ましい生分解性結合は、カルボン酸エステル、炭酸エステル、リン酸エステル及びスルホン酸エステルであり、そして最も好ましいのは、カルボン酸エステル又は炭酸エステルである。
【0138】
永続的結合は、例えば、アミドのように6カ月又はそれより長い半減期を有し、生理学的条件(pH7.4、37℃の水性バッファ)下で非酵素的加水分解により分解可能である。
【0139】
本発明のヒドロゲル担体に加水分解により切断可能な結合を導入するために、骨格鎖部分は生分解性結合によって相互に直接結合することができる。
【0140】
一実施態様において、生分解性ヒドロゲル担体の骨格鎖部分は、直接、すなわちクロスリンカー部分なしで一緒に結合されてもよい。このような生分解性ヒドロゲルの2つの骨格鎖部分の超分枝樹枝状部分は、いずれも、2つの超分枝樹枝状部分を結合する相互結合官能基を通して直接結合されてもよい。代わりに、2つの異なる骨格鎖部分の2つの超分枝樹枝状部分は、骨格鎖部分に結合された2つのスペーサー部分を通して相互結合してもよく、そしてもう一方の側では、相互結合官能基によって分離された架橋部分に結合している。
【0141】
代わりに、骨格鎖部分がクロスリンカー部分を通して一緒に結合してもよく、各クロスリンカー部分は、少なくとも2つの加水分解により分解可能な結合によって終結される。終端の分解可能な結合に加えて、クロスリンカー部分は、さらに生分解性結合を含んでもよい。従って、骨格鎖部分に結合されたクロスリンカー部分の各末端は、加水分解により分解可能な結合を含み、そしてさらなる生分解性結合が場合によりクロスリンカー部分に存在してもよい。
【0142】
好ましくは、生分解性ヒドロゲル担体は、加水分解により分解可能な結合によって相互結合された骨格鎖部分で構成され、そして骨格鎖部分は、クロスリンカー部分を通して一緒に結合されている。
【0143】
生分解性ヒドロゲル担体は、1つ又はそれ以上の異なるタイプの、好ましくは1つのクロスリンカー部分を含んでもよい。クロスリンカー部分は、線状又は分枝分子であってもよく、そして好ましくは線状分子である。本発明の好ましい実施態様において、クロスリンカー部分は、少なくとも2つの生分解性結合によって骨格鎖部分に結合される。
【0144】
好ましくは、クロスリンカー部分は、60daから5kDaまで、より好ましくは0.5kDaから4kDaまで、さらにより好ましくは1kDaから4kDaまで、さらにより好ましくは1kDaから3kDaまでの範囲の分子量を有する。一実施態様において、クロスリンカー部分は、ポリマーからなる。
【0145】
オリゴマー又はポリマー架橋部分に加えて、特に本発明による生分解性ヒドロゲルの形成のため親水性高分子量骨格鎖部分を用いるときは、低分子量架橋部分を用いてもよい。
【0146】
好ましくは、ポリ(エチレングリコール)ベースのクロスリンカー部分は、エチレングリコール単位を含み、場合によりさらなる化学官能基を含む炭化水素鎖であり、ここにおいて、ポリ(エチレングリコール)ベースのクロスリンカー部分は、少なくともそれぞれm個のエチレングリコール単位を含み、ここにおいて、mは3から100まで、好ましくは10から70までの範囲の整数である。好ましくは、ポリベースの(エチレングリコール)クロスリンカー部分は、0.5kDaから5kDaまでの範囲の分子量を有する。
【0147】
クロスリンカー部分又は分枝コアに結合されたPEGベースのポリマー鎖の表示に用いる場合、「PEGベースの」という用語は、クロスリンカー部分又はPEGベースのポリマー鎖は、少なくとも20質量%のエチレングリコール部分を含む。
【0148】
一実施態様において、ポリマークロスリンカー部分を構成するモノマーは、生分解性結合によって結合されている。このようなポリマークロスリンカー部分は、クロスリンカー部分の分子量及びモノマー単位の分子量に応じて100個までの又はそれ以上の生分解性結合を含んでもよい。このようなクロスリンカー部分の例は、ポリ(乳酸)又はポリ(グリコール酸)ベースのポリマーである。このようなポリ(乳酸)又はポリ(グリコール酸)鎖は、アルキル又はアリール基によって終結又は中断されてもよく、そしてそれらはヘテロ原子及び化学官能基で場合により置換されてもよいことが理解される。
【0149】
好ましくは、クロスリンカー部分はPEGベースであり、好ましくは、1つのPEGベースの分子鎖によってのみ表される。好ましくは、ポリベースの(エチレングリコール)クロスリンカー部分は、エチレングリコール単位を含み、場合によりさらなる化学官能基を含む炭化水素鎖であり、ここにおいて、ポリ(エチレングリコール)ベースのクロスリンカー部分は、少なくともそれぞれm個のエチレングリコール単位を含み、ここにおいて、mは、3から100まで、好ましくは10から70までの範囲の整数である。好ましくは、ポリ(エチレングリコール)ベースのクロスリンカー部分は、0.5kDaから5kDaまでの範囲の分子量を有する。
【0150】
本発明の好ましい実施態様において、クロスリンカー部分はPEGからなり、これは、永続的なアミド結合を通して超分枝樹枝状部分に結合された骨格鎖部分によって提供される2つのアルファ、オメガ−脂肪族ジカルボン酸スペーサーにエステル結合を介して対称的に結合されている。
【0151】
骨格鎖部分に及びもう一方の側に結合されたスペーサー部分のジカルボン酸は、3〜12個の炭素原子、最も好ましくは5〜8個の炭素原子からなり、そして1つ又はそれ以上の炭素原子において置換されてもよい架橋部分に結合されている。好ましい置換基は、アルキル基、ヒドロキシル基又はアミド基又は置換されたアミノ基である。脂肪族ジカルボン酸のメチレン基の1つ又はそれ以上は、O又はNH又はアルキル置換されたNによって場合により置換されてもよい。好ましいアルキルは、1〜6個の炭素原子を有する線状又は分枝アルキルである。
【0152】
好ましくは、超分枝樹枝状部分と骨格鎖部分に結合されたスペーサー部分との間には永続的なアミド結合があり、そしてもう一方の側では架橋部分に結合されている。
【0153】
1つの好ましいクロスリンカー部分を以下:
【化5】
(式中、nは5〜50の整数である)
に示し;点線は、骨格鎖部分に相互結合された生分解性結合を示す。
【0154】
好ましくは、ヒドロゲル担体は、加水分解により分解可能な結合によって相互結合された骨格鎖部分で構成される。
【0155】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化6】
(式中、点線は骨格鎖部分の残りへの結合を示す)
の分枝コアを含む。
【0156】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化7】
(式中、nは5〜50の整数であり、そして点線は骨格鎖部分の残りへの結合を示す)
の構造を含む。
【0157】
好ましくは、骨格鎖部分は、超分枝部分Hypを含む。
【0158】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化8】
(式中、点線は分子の残りへの結合を示し、そしてアスタリスクでマークされた炭素原子はS−配置を示す)
の超分枝部分Hypを含む。
【0159】
好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化9】
(式中、点線の1つは超分枝部分Hypへの結合を示し、そして第2の点線は分子の残りへの結合を示し;そして
mは2〜4の整数である)
の少なくとも1つのスペーサーに結合している。
【0160】
好ましくは、骨格鎖部分は、以下の構造
【化10】
(式中、qは3〜100、好ましくは5〜50の整数である)
を有するクロスリンカー部分を通して一緒に結合されている。
【0161】
本発明のヒドロゲルプロドラッグでは、骨格鎖部分とクロスリンカー部分の間の生分解性結合の加水分解速度は、PEG−エステルカルボキシ基に隣接して結合された原子の数及びタイプによって影響を受けるか又は決定される。例えば、PEGエステル形成に関してコハク酸、脂肪酸又はグルタル酸を選択することによって本発明による生分解性ヒドロゲル担体の分解半減期を変えることは可能である。
【0162】
好ましくは、L2は、オリゴエチレングリコール鎖のようなスペーサーを通してヒドロゲルの骨格鎖部分にさらに結合されたチオスクシンイミド基を通してZに結合されている。好ましくは、骨格鎖部分へのこのスペーサー鎖の結合は、永続的な結合、好ましくはアミド結合である。
【0163】
本発明によるヒドロゲルの生分解性は、加水分解により分解可能な結合の導入によって達成される。
【0164】
相互結合官能基について、「加水分解により分解可能である」という用語は、本発明に関して、1時間から3ヵ月までの範囲の半減期を有し、生理学的条件(pH7.4、37℃の水性バッファ)下で非酵素的加水分解により分解可能である結合のことであり、アコニチル、アセタール、カルボン無水物、エステル、イミン、ヒドラゾン、マレアミド酸アミド、オルトエステル、ホスファミド、リン酸エステル、ホスホシリルエステル、シリルエステル、スルホンエステル、芳香族カルバメート、それらの組み合わせ及び同様のものが含まれるが、それらに限定されるわけではない。好ましい生分解性結合は、カルボンエステル、炭酸エステル、リン酸エステル及びスルホン酸エステルであり、そして最も好ましいのは、カルボンエステル又は炭酸エステルである。インビトロ研究では、例えば、pH9、37℃、水性バッファのような加速条件を実際的に用いてもよいことが理解される。
【0165】
永続的な結合は、例えば、アミドのように、6カ月又はそれより長い半減期を有し、生理学的条件(pH7.4、37℃の水性バッファ)下で非酵素的加水分解により分解可能である。
【0166】
本発明による生分解性ヒドロゲル担体の分解は、多数の分解可能な結合が切断されて水溶性又は水不溶性でありうる分解生成物を生じる多段階反応である。しかし、水不溶性分解生成物は、水溶性分解生成物は得られるという点で切断できるように分解可能な結合をさらに含んでもよい。これらの水溶性分解生成物は、1つ又はそれ以上の骨格鎖部分を含んでもよい。放出された骨格鎖部分は、例えば、スペーサー又はブロック若しくはリンカー基又は親和性基(affinity groups)及び/又はプロドラッグリンカー分解生成物に永続的に結合されてもよく、そしてまた、水溶性分解生成物は、分解可能な結合を含んでもよいことが理解される。
【0167】
分枝コア、PEGベースのポリマー鎖、超分枝樹枝状部分及び超分枝樹枝状部分に結合された部分の構造は、本発明のヒドロゲル担体を扱う段落に記載された対応する説明から推測することができる。分解物の構造は、分解を受ける本発明によるヒドロゲルのタイプに左右されることが理解される。
【0168】
骨格鎖部分の総量は、本発明によるヒドロゲルが完全に分解した後、そして分解中に溶液中で測定することができ、可溶性の骨格鎖分解生成物の画分は、本発明による不溶性ヒドロゲルから分離することができ、そして本発明によるヒドロゲルから放出された他の可溶性分解生成物からの干渉なしに定量化することができる。本発明によるヒドロゲル物体は、沈降又は遠心分離によって生理学的浸透圧のバッファの過剰の水から分離してもよい。遠心分離は、上澄みが本発明による膨潤したヒドロゲルの体積の少なくとも10%になるようなやり方で実施してもよい。可溶性のヒドロゲル分解生成物は、このような沈降又は遠心分離工程後に水性上澄み中に残り、そして1つ又はそれ以上の骨格鎖部分を含む水溶性分解生成物は、このような上澄みのアリコートを適切な分離及び/又は分析方法にかけることによって検出可能である。
【0169】
好ましくは、水溶性分解生成物は、0.45μmフィルターを通した濾過によって水不溶性分解生成物から分離してもよく、その後、水溶性分解生成物は、フロースルー(flow-through)中に見出すことができる。また、水溶性分解生成物は、遠心分離及び濾過工程の組み合わせによって水不溶性分解生成物から分離してもよい。
【0170】
例えば骨格鎖部分は、他の分解生成物がUV吸収を示さない波長でUV吸収を示す基を担持してもよい。このような選択的UV吸収基は、アミド結合のような骨格鎖部分の構成成分であってもよく又はインドイル基のような芳香環系によってその反応性官能基に結合することによって骨格鎖に導入してもよい。
【0171】
本発明によるこのようなヒドロゲル結合したインスリンプロドラッグにおいて、骨格鎖分解生成物(<10%)の有意量の放出が起こる前に、ほとんどすべてのインスリン放出(>90%)が起こることが望ましい。これは、ヒドロゲル分解速度に対してヒドロゲル結合インスリンプロドラッグの半減期を調整することによって達成することができる。
【0172】
好ましくは、式(IIa)又は(IIb)
【化11】
(式中、Nε−インスリンは、1つのリシン側鎖を介して結合されたインスリンのことである)又は
【化12】
の構造を有するインスリンプロドラッグである。
【0173】
好ましくは、(IIa)又は(IIb)のヒドロゲルは、生分解性ポリエチレングリコール(PEG)ベースの水不溶性ヒドロゲルである。
【0174】
好ましくは、(IIa)又は(IIb)のヒドロゲルは、加水分解により分解可能な結合によって相互結合された骨格鎖部分で構成される。
【0175】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化13】
(式中、点線は骨格鎖部分の残りへの結合を示す)
の分枝コアを含む。
【0176】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化14】
(式中、nは5〜50の整数であり、そして点線は分子の残りへの結合を示す)
の構造を含む。
【0177】
好ましくは、骨格鎖部分は、超分枝部分Hypを含む。
【0178】
より好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化15】
(式中、点線は分子の残りへの結合を示し、そしてアスタリスクでマークされた炭素原子はS配置を示す)
の超分枝部分Hypを含む。
【0179】
好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化16】
(式中、点線の1つは、超分枝部分Hypへの結合を示し、そして第2の点線は、分子の残りへの結合を示し;そして
mは2〜4の整数である)
の少なくとも1つのスペーサーに結合している。
【0180】
好ましくは、骨格鎖部分は、以下の式:
【化17】
(式中、アスタリスクでマークされた点線は、ヒドロゲルとチオスクシンイミド基のNとの間の結合を示し、
他の点線はHypへの結合を示し、そして
pは、0〜10の整数である)
の少なくとも1つのスペーサーに結合している。
【0181】
好ましくは、骨格鎖部分は、以下の構造
【化18】
(式中、qは3〜100の整数である)
を有するクロスリンカー部分を通して一緒に結合されている。
【0182】
骨格鎖とクロスリンカー部分の間の生分解性結合の加水分解速度は、PEG−エステルカルボキシ基に隣接して結合された原子の数及びタイプによって決定される。例えばPEGエステル形成のためコハク酸、脂肪酸又はグルタル酸から選択することによってクロスリンカーの分解半減期を変えることが可能である。
【0183】
本発明のヒドロゲル結合したインスリンプロドラッグは、当分野で知られている都合のよい方法によって本発明のヒドロゲルから出発して製造することができる。いくつかの経路が存在することは、当業者には明らかである。例えば生物活性部分が共有結合された上記プロドラッグリンカーを、部分的に又は全体として活性部分を有する又はすでに担持している本発明のヒドロゲルの反応性官能基と反応させることができる。
【0184】
好ましい製造方法において、ヒドロゲルは、化学ライゲーション反応を通して生成される。ヒドロゲルは、縮合又は付加のような反応を受ける相補的な官能基を有する2つの巨大分子遊離体から形成してもよい。これらの出発物質の一方は、少なくとも2つの同一官能基を有するクロスリンカー試薬(crosslinker reagent)であり、そしてもう一方の出発物質は、ホモ多官能性骨格鎖試薬(homomultifunctional backbone reagent)である。クロスリンカー試薬に存在する適切な官能基としては、末端アミノ、カルボン酸及び誘導体、マレイミド並びにビニルスルホンのような他のアルファ、ベータ不飽和マイケル受容体、チオール、ヒドロキシル基が含まれる。骨格鎖試薬中に存在する適切な官能基としては、アミノ、カルボン酸及び誘導体、マレイミド並びにビニルスルホンのような他のアルファ、ベータ不飽和マイケル受容体、チオール、ヒドロキシル基が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0185】
クロスリンカー試薬反応性官能基が骨格鎖反応性官能基に関して化学量論量未満で(substoichiometrically)用いられる場合、生成したヒドロゲルは、骨格鎖構造に結合された遊離反応性官能基と反応性のヒドロゲルである。
【0186】
場合により、プロドラッグリンカーをインスリンに最初に結合してもよく、次いで生成したインスリン−プロドラッグリンカー複合体をヒドロゲルの反応性官能基と反応させてもよい。別法として、プロドラッグリンカーの官能基の1つを活性化した後、リンカー−ヒドロゲル複合体を第2の反応工程でインスリンと接触させてもよく、そしてヒドロゲル結合プロドラッグリンカーにインスリンを結合した後、過剰のインスリンを濾過によって除去してもよい。
【0187】
本発明によるプロドラッグの好ましい製造方法は、以下の通りである:
骨格鎖試薬合成の好ましい出発物質は、4−アームPEGテトラアミン又は8−アームPEGオクタアミンであり、PEG試薬は、2000〜10000ダルトン、最も好ましくは2000〜5000Daの範囲の分子量を有する。このようなマルチアームPEG−誘導体に、リシン残基を逐次的にカップリングして超分枝骨格鎖試薬を形成する。リシンは、カップリング工程中に保護基によって部分的に又は完全に保護することができ、そしてまた、最終的な骨格鎖試薬は、保護基を含んでもよいことが理解される。好ましい構成ブロックは、ビス−bocリシンである。別法として、リシン残基の逐次付加の代わりに、樹枝状ポリリシン部分を最初に構成し、その後、4−アームPEGテトラアミン又は8−アームPEGオクタアミンにカップリングさせてもよい。32個のアミノ基を担持する骨格鎖試薬を得ることが望ましく、結果的に、7個のリシンを4−アームPEGの各アームに結合させるか、又は5個のリシンを8−アームPEGの各アームに結合させる。別の実施態様において、マルチアームPEG誘導体は、テトラ−又はオクタカルボキシPEGである。この場合、樹枝状部分は、グルタル又はアスパラギン酸から生成してもよく、そして生成した骨格鎖試薬は、32個のカルボキシ基を担持する。骨格鎖試薬の官能基のすべて又は一部は、塩として、遊離形態で存在するか、又は保護基に結合されてもよいことが理解される。実際的な理由のため、PEG−アーム当たりリシンの骨格鎖試薬の数は、6〜7個、より好ましくは約7個であることが理解される。
【0188】
好ましい骨格鎖試薬を以下に示す:
【化19】
【0189】
クロスリンカー試薬の合成は、0.2〜5kDa、より好ましくは0.6〜2kDaの範囲の分子量を有する線状PEG鎖から開始され、これはジカルボン酸、ほとんどアジピン酸又はグルタル酸の半エステルでエステル化されている。半エステル形成の好ましい保護基は、ベンジル基である。生成したビスジカルボン酸PEG半エステルをアシルクロリド又は活性エステルのようなより反応性のカルボキシ化合物、例えばペンタフルオロフェニル又はN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、最も好ましくはN−ヒドロキシスクシンイミドエステルに転換し、そのうちの好ましい選ばれた構造を以下に示す。
【0190】
【化20】
【0191】
別法として、ビスジカルボン酸PEG半エステルをDCC又はHOBt又はPyBOPのようなカップリング剤の存在下で活性化してもよい。
【0192】
別の実施態様において、骨格鎖試薬は、カルボキシ基を担持し、そして対応するクロスリンカー試薬は、エステル含有アミノ末端PEG鎖から選ばれる。
【0193】
逆相乳化重合を用いて骨格鎖試薬及びクロスリンカー試薬を重合して本発明によるヒドロゲルを形成してもよい。骨格鎖とクロスリンカー官能基の間で所望の化学量論を選択した後、骨格鎖及びクロスリンカーをDMSO中に溶解し、そして適当に選ばれたHLB値を有する適切なエマルゲーター(emulgator)、好ましくはArlacel P135を用い、機械的撹拌機を用いて撹拌速度を制御して逆エマルションを形成する。重合は、適切な塩基、好ましくはN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンの添加によって開始する。適当な時間撹拌した後、酢酸のような酸及び水の添加によって反応をクエンチする。ビーズを集め、洗浄し、そして機械的篩分けによって粒径に従って分別する。場合により、この段階で保護基を除去してもよい。
【0194】
さらに、ヒドロゲルによって得られるのとは異なる反応性官能基を担持するスペーサーを用いて本発明によるこのようなヒドロゲルを官能化してもよい。例えば、Mal−PEG6−NHSのような適切なヘテロ二官能性スペーサーをヒドロゲルにカップリングすることによってマレイミド反応性官能性基をヒドロゲルに導入してもよい。このような官能化ヒドロゲルは、リンカー部分に反応性チオール基を担持するインスリン−リンカー試薬にさらに結合して、本発明によるヒドロゲル結合インスリンプロドラッグを形成することができる。
【0195】
インスリン−リンカー複合体を官能化マレイミド基含有ヒドロゲルに装填した後、すべての残っている官能基をメルカプトエタノールのような適切なブロッキング試薬でキャップ形成して望ましくない副反応を予防する。
【0196】
本発明の好ましい実施態様では、リンカー部分に結合された遊離チオール基を担持するインスリン−リンカー複合体を、pH2〜5、好ましくはpH2.5〜4.5、より好ましくはpH3.0〜4.0の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で、より好ましくは室温でマレイミド官能化ヒドロゲルと反応させる。その後、対応する生成したインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体をpH2〜5、好ましくはpH2.5〜4.0、より好ましくはpH2.5〜3.5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で、より好ましくは室温でメルカプトエタノールにより処理する。
【0197】
本発明の別の好ましい実施態様では、リンカー部分に結合されたマレイミド基を担持するインスリン−リンカー複合体を、pH2〜5、好ましくはpH2.5〜4.5、より好ましくはpH3.0〜4.0の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で、より好ましくは室温で、チオール官能化ヒドロゲルと反応させる。その後、対応する生成したインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体をpH2〜5、好ましくはpH2.5〜4.0、より好ましくはpH2.5〜3.5の緩衝水性溶液中、室温から4℃の間の温度で、より好ましくは室温で、マレイミド基含有低分子量化合物、好ましくは100〜300Daのマレイミド含有化合物、例えばN−エチルマレイミドにより処理する。
【0198】
本発明の別の態様は、
(a)マレイミド官能化ヒドロゲルマイクロ粒子を含む水性懸濁液をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度でチオール基を担持するインスリン−リンカー試薬を含む溶液と接触させてインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体を生成し;
(b)場合により、工程(a)からのインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で34Da〜500Daのチオール含有化合物により処理する
工程を含む方法である。
【0199】
本発明の別の態様は、
(a)チオール官能化ヒドロゲルマイクロ粒子を含む水性懸濁液をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度でマレイミド基を担持するインスリン−リンカー試薬を含む溶液と接触させてインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体を生成し;
(b)場合により、工程(a)からのインスリン−リンカー−ヒドロゲル複合体をpH2〜5の緩衝水溶液中、室温から4℃の間の温度で100〜300Daのマレイミド含有化合物により処理する
工程を含む方法である。
【0200】
本発明のプロドラッグの特に好ましい製造方法は、
(a)式C(A'−X14(式中、A'−X1はHyp又はHypの前駆体に結合する前のAを表し、そしてX1は適切な官能基である)の化合物を、
式Hyp'−X2(式中、Hyp'−X2はAに結合する前のHyp又はHypの前駆体を表し、そしてX2はX1と反応する適切な官能基である)の化合物と反応させ;
(b)場合により工程(a)から生成した化合物を1つ又はそれ以上のさらなる工程で反応させて少なくとも4つの官能基を有する式C(A−Hyp)4の化合物を得;
(c)工程(b)から生成した化合物の少なくとも4つの官能基をポリエチレングリオールベースのクロスリンカー前駆体と反応させ、その際、C(A−Hyp)4の反応性官能基の総数と比較してクロスリンカー前駆体の活性なエステル基を化学量論量未満の量で用いてヒドロゲルを得;
(d)工程(c)のヒドロゲル骨格鎖中に残っている未反応の官能基(ヒドロゲル中に含まれる骨格鎖の反応性官能基を表す)を生物活性部分及び一過性プロドラッグリンカーの共有結合性複合体と反応させるか又は最初に未反応の官能基を一過性プロドラッグリンカー、続いて生物活性部分と反応させ;
(e)場合により残っている未反応の官能基にキャップ形成して本発明のプロドラッグを得る
工程を含む。
【0201】
具体的には、本発明のインスリンプロドラッグのヒドロゲルは、以下にように合成される:
バルク重合では、骨格鎖試薬及びクロスリンカー試薬をアミン/活性エステル2:1〜1.05:1の比率で混合する。
【0202】
骨格鎖試薬及びクロスリンカー試薬の両方をDMSO中に溶解して100mL当たり5〜50g、好ましくは100ml当たり7.5〜20g、そして最も好ましくは100ml当たり10〜20gの濃度の溶液を得る。
【0203】
重合を実施するには、2〜10%(体積)のN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を、クロスリンカー試薬及び骨格鎖試薬を含むDMSO溶液に加え、そして混合物を1〜20秒間振盪し、そして放置したままにする。混合物は1分未満のうちに凝固する。
【0204】
本発明によるこのようなヒドロゲルは、機械的方法、例えば撹拌、破砕、切断 加圧成形又はミル処理、及び場合により篩分けによって粉砕されるのが好ましい。
【0205】
乳化重合では、反応混合物は、分散相及び連続相を含む。
【0206】
分散相のため、骨格鎖試薬及びクロスリンカー試薬をアミン/活性エステル比2:1〜1.05:1で混合し、そしてDMSO中に溶解して100mL当たり5〜50g、好ましくは100ml当たり7.5〜20g、そして最も好ましくは100ml当たり10〜20gの濃度の溶液を得る。
【0207】
連続相は、DMSOで混和性でなく、塩基性でなく、非プロトン性であり、そして10Pa*sより低い粘度を示すあらゆる溶媒である。好ましくは、溶媒は、DMSOと混和性でなく、塩基性でなく、非プロトン性であり、2Pa*sより低い粘度を示し、そして非毒性である。より好ましくは、溶媒は5〜10個の炭素原子を有する飽和線状又は分枝炭化水素である。最も好ましくは、溶媒はn−ヘプタンである。
【0208】
連続相中の分散相のエマルションを形成するには、分散相を加える前に乳化剤を連続相に加える。乳化剤の量は、分散相1mL当たり2〜50mg、より好ましくは、分散相1mL当たり5〜20mg、最も好ましくは、分散相1mL当たり10mgである。
【0209】
乳化剤は、HLB値3〜8を有する。好ましくは、乳化剤は、ソルビトール及び脂肪酸のトリエステル又はポリ(ヒドロキシル脂肪酸)−ポリ(エチレングリコール)複合体である。より好ましくは、乳化剤は、0.5kDaから5kDaまでの範囲の分子量の線状ポリ(エチレングリコール)及び鎖の各末端において0.5kDaから3kDaの範囲の分子量のポリ(オキシ脂肪酸)単位を有するポリ(オキシ脂肪酸)−ポリエチレングリコール複合体である。最も好ましくは、乳化剤は、ポリ(エチレングリコール)ジポリヒドロキシステアレート、シトロールDPHS(Cithrol DPHS)(Cithrol DPHS, 以前のアラセルP135(Arlacel P135), Croda International Plc)である。
【0210】
分散相の液滴は、Isojet、Intermig、Propeller(EKATO Ruhr- und Mischtechnik GmbH, Germany))のような撹拌機に類似した、最も好ましくは反応器直径の50〜90%の直径を有するIsojetに類似した形状を有する軸流羽根車(axial flow impeller)を用いた撹拌によって生成される。好ましくは、分散相を添加する前に撹拌を開始する。撹拌機の速度は、0.6〜1.7m/秒に設定する。分散相を室温で加え、そして分散相の濃度は、全体反応体積の2%〜70%、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%、そして最も好ましくは20〜35%である。塩基を効果重合(effect polymerization)に加える前に、分散相、乳化剤及び連続相の混合物を5〜60分間撹拌する。
【0211】
塩基5〜10当量(形成される各アミド結合に関して)を分散及び連続相の混合物に加える。塩基は、分散相中で非プロトン性、非求核性及び可溶性である。好ましくは、塩基は、分散相及びDMSOの両方において非プロトン性、非求核性、十分に可溶性である。より好ましくは、塩基は、分散相及びDMSOの両方において非プロトン性、非求核性、十分に可溶性、アミン塩基、そして非毒性である。最も好ましくは、塩基は、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。塩基存在下での撹拌は、1〜16時間継続する。
【0212】
撹拌中に、分散相の液滴が硬化して本発明による架橋されたヒドロゲルビーズになり、これは集めることができ、そして75μm及び32μmデッキを有する振動連続篩分け装置においてサイズによる分別を実施して本発明によるヒドロゲルマイクロ粒子を得る。
【0213】
本発明の別の態様は、式(IIIa)及び(IIIb)
【化21】
(式中、Nε−インスリンは、1つのリシン側鎖を介して連結されたインスリンのことである)及び
【化22】
のインスリン−リンカー複合体である。
【0214】
本発明の別の態様は、インスリン−リンカー試薬D−L*
[式中、
Dは、インスリン部分を表し;そして
*は、式(IV)、
【化23】
(式中、点線は、アミド結合の形成によるインスリンのアミノ基の1つへの結合を示し;
Xは、C(R33a);又はN(R3)であり;
1a、R3aは、H、NH(R2b)、N(R2b)C(O)R4及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれ;
1、R2、R2a、R2b、R3、R4は、H及びC1-4アルキルからなる群より独立して選ばれる)
によって表される生物活性のないリンカー試薬であり、
ここにおいて、L*は1つのL2*で置換されており、そして場合によりさらに置換されるが、但し、式(IV)中のアスタリスクでマークされる水素は、置換基によって置き換えられることはなく、そしてここにおいて、
2*は、L*に連結したスペーサーであり、そして反応性の生分解性ヒドロゲルに結合するための化学官能基を含む]
である。
【0215】
好ましくは、式(IV)中のR2は、L2*によって置き換えられる。
【0216】
好ましくは、式(IV)中のR1は、L2*によって置き換えられる。
【0217】
好ましくは、式(IV)中のXは、N(R3)である。
【0218】
より好ましくは、式(IV)中のXはC(R33a)であり、そしてR3aはN(R2b)C(O)R4である。
【0219】
より好ましくは、式(IV)中のXはC(R33a)であり、そしてR3aはL2*によって置き換えられる。
【0220】
さらにより好ましくは、式(IV)中のXはC(R33a)であり、R3aはN(R2b)−L2*である。
【0221】
好ましくは、式(IV)中のL*は、さらに置換されない。
【0222】
好ましくは、式(IV)中のL2*は、チオール基を含む。
【0223】
好ましくは、式(IV)中のL2*は、マレイミド基を含む。
【0224】
本発明のプロドラッグのためのヒドロゲルは、マイクロ粒子の形態で製造方法から得ることができる。本発明の好ましい実施態様において、反応性ヒドロゲルは、メッシュ又はステントのような形状の物品である。最も好ましくは、ヒドロゲルは、標準注射器によって皮下又は筋肉内注射として投与することができるマイクロ粒子ビーズに形成される。このような軟質ビーズは、1〜500マイクロメートルの直径を有してもよい。
【0225】
好ましくは、マイクロ粒子は、等張性の水性処方物バッファ中に懸濁される場合、10〜100マイクロメートルの直径、最も好ましくは20〜100マイクロメートルの直径、最も好ましくは25〜80マイクロメートルの直径を有する。
【0226】
好ましくは、マイクロ粒子は、内径0.6mmより小さな針、好ましくは、内径0.3mmより小さな針、より好ましくは、内径0.225mmより小さな針、さらにより好ましくは、内径0.175mmより小さな針、そして最も好ましくは内径0.16mmより小さな針を通した注射によって投与することができる。
【0227】
「注射によって投与することができる」、「注射可能な」又は「注射可能性(injectability)」という用語は、一定濃度(w/v)及び一定温度の液体中で膨潤した本発明による生分解性ヒドロゲルを含む注射器のプランジャーにかかる一定の力、このような注射器の排出口につながれた所定の内径の針、並びに本発明による生分解性ヒドロゲルの一定体積を注射器から針まで押し出すのに必要な時間といったような要因の組み合わせのことであると理解される。
【0228】
注射可能性を得るためには、水中で少なくとも5%(w/v)濃度に膨潤し、そして直径4.7mmのプランジャーを保持する注射器中に含まれた本発明によるインスリンプロドラッグ1mLの体積を、50ニュートン未満の力を適用することによって室温で10秒以内に押し出さなければならない。
【0229】
注射可能性は、水中で約10%(w/v)の濃度に膨潤した本発明によるインスリンプロドラッグについて達成されることが好ましい。
【0230】
さらに、インスリンのB鎖に見出される単一の遊離ε−アミノ基及びそのアナロガ(analoga)を保護されたチオール又は他の官能基を含むアシル化剤で選択的にアシル化する一工程方法が提供される。組換え型のヒトインスリン、インスリングラルギン及びインスリンアスパルトについて、アシル化の部位はLysB29のε−アミノ基であり、インスリンリスプロの場合、アシル化の部位はLysB28のε−アミノ基であり、そしてインスリングルリシンの場合、アシル化の部位はLysB3のε−アミノ基である。この方法は、前記のインスリン及びインスリンアナロガに限定されるわけではないが、ε−アミノ基を含む限り、他のインスリンアナロガに適用することができ、そして当業者はアシル化に適した対応するリシン残基を特定することができることが理解される。
【0231】
本発明による別の態様は、極性溶媒中、pH8.0から9.0より下でインスリン又はインスリン類似体を1つ又はそれ以上の保護官能基を含む可溶性アシル化剤と反応させることを含む、1つ又はそれ以上の遊離α−アミノ基及び遊離ε−アミノ基を有するインスリン又はインスリン類似体のε−アミノ基を、1つ又はそれ以上の保護官能基を含むアシル化剤でアシル化する方法である。前記条件で安定であるような保護基のみを用いるべきであることは理解される。
【0232】
反応は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、DMSO、DMF、NMP、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルの水性混合溶媒のような極性溶媒中、pH約8.00から9.0より下、好ましくは、8.0から8.9まで、より好ましくは、8.3から8.7までの範囲の塩基性条件下で、1つ又はそれ以上の保護された官能基を含むリンカー試薬のようなアシル化剤をインスリン又はインスリン類似体のε−アミノ基と反応させることによって実施される。
【0233】
本発明の別の態様は、インスリン又はインスリン類似体のε−窒素に結合したアシル基を有し、その際、このようなアシル基は1つ又はそれ以上の保護官能基を有することを特徴とするインスリン化合物である。
【0234】
本発明の別の態様は、本発明のプロドラッグ又はその薬学的に許容しうる塩を薬学的に許容しうる賦形剤と共に含む薬学的組成物である。薬学的組成物を以下の段落でさらに説明する。
【0235】
インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの組成物は、懸濁液組成物として又は乾燥組成物として提供されうる。 好ましくは、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの薬学的組成物は、乾燥組成物である。適切な乾燥方法は、例えば、噴霧乾燥及び凍結乾燥(フリーズドライ)である。
【0236】
好ましくは、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの薬学的組成物は、凍結乾燥によって乾燥される。好ましくは、インスリンヒドロゲルプロドラッグは、1回の適用で少なくとも3日間、治療有効量のインスリンを供給する組成物において十分に投薬される。
【0237】
より好ましくは、1週間に1回のインスリンヒドロゲルプロドラッグの適用で十分である。
【0238】
本発明によるインスリン−ヒドロゲルプロドラッグの薬学的組成物は、1つ又はそれ以上の賦形剤を含む。
【0239】
非経口組成物に用いられる賦形剤は、緩衝剤、等張性調整剤、防腐剤、安定剤、抗吸着剤、酸化防止剤、増粘剤(viscosifiers)/粘度増強剤(viscosity enhancing agents)、又は他の補助剤として分類してもよい。いくつかの場合、これらの成分は、二つ又は三つの機能を有してもよい。本発明によるインスリン−ヒドロゲルプロドラッグの組成物は、以下の群から選ばれる1つ又はそれ以上の賦形剤を含む:
(i)緩衝剤:所望の範囲にpHを維持する生理学的に許容しうるバッファ、例えばナトリウムのリン酸塩、炭酸水素塩、コハク酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩及び酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、ピルビン酸。また、酸中和剤、例えばMg(OH)2又はZnCO3を用いてもよい。緩衝能力は、pH安定性に最も感受性の状態に合わせて調整してもよい。
(ii)等張性調整剤:注射デポ剤での浸透圧の違いによる細胞損傷から生じることがある疼痛を最小限にするため。例として、グリセリン及びナトリウムクロリドがある。有効濃度は、血清について285〜315mOsmol/kgの推定浸透圧を用いて浸透圧測定によって決定することができる。
(iii)防腐剤及び/又は抗菌剤:反復投与の非経口製剤では、患者が注射時に感染するリスクを最小限にするために十分な濃度で防腐剤を添加する必要があり、そして対応する規制上の要件は確立されている。典型的な防腐剤としては、m−メタクレゾール、フェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメロソール(thimerosol)、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸、クロロクレゾール、及び塩化ベンザルコニウムが含まれる。
(iv)安定剤:安定化は、タンパク質安定化力を強化することによって、変性したステーター(stater)の不安定化によって、又は賦形剤をタンパク質に直接結合することによって達成される。安定剤は、アミノ酸、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシン、ヒスチジン、リシン、プロリン、糖、例えばグルコース、スクロース、トレハロース、ポリオール、例えばグリセロール、マンニトール、ソルビトール、塩、例えばリン酸カリウム、硫酸ナトリウム、キレート剤、例えばEDTA、六リン酸エステル、リガンド、例えば二価金属イオン(亜鉛、カルシウム、など)、他の塩又は有機分子、例えばフェノール系誘導体であってもよい。さらに、オリゴマー又はポリマー、例えばシクロデキストリン、デキストラン、デンドリマー、PEG又はPVP又はプロタミン又はHSAを用いてもよい。
(v)抗吸着剤:主にイオン性若しくは非イオン性界面活性剤又は他のタンパク質又は可溶性のポリマーを用いて組成物又は組成物の容器の内面にコーティングする又は競合的に吸着させる。例えば、ポロキサマー(プルロニック(Pluronic)F−68)、PEGドデシルエーテル(ブリッジ(Brij)35)、ポリソルベート20及び80、デキストラン、ポリエチレングリコール、PEG−ポリヒスチジン、BSA及びHSA並びにゼラチン。賦形剤の濃度及びタイプの選択は、回避すべき効果により左右されるが、典型的にCMC値のすぐ上では界面に界面活性剤の単層が形成される。
【0240】
(vi)リオプロテクタント(lyoprotectants)及び/又は凍結防止剤:凍結乾燥又は噴霧乾燥中に、賦形剤は、水素結合切断及び水除去によって生じる不安定化効果を打ち消しうる。この目的のため、糖及びポリオールを用いてもよいが、対応する陽性効果は、界面活性剤、アミノ酸、非水性溶媒及び他のペプチドについても観察されている。トレハロースは、水分に誘発された凝集を低下させるのに特に有効であり、そしてまた、タンパク質の疎水基が水に曝露されることによって生じる可能性がある熱安定性を改善する。また、マンニトール及びスクロースは、単独のリオプロテクタント/凍結防止剤として又は相互の組み合わせのいずれかで用いてもよく、その際、より高い比率のマンニトール:スクロースは、凍結乾燥されたケークの物理的安定性を強化することが知られている。また、マンニトールをトレハロースと合わせてもよい。また、トレハロースをソルビトールと合わせてもよく、又はソルビトールは単独の保護剤として用いられる。また、デンプン又はデンプン誘導体を用いてもよい。
(vii)酸化防止剤:抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、エクトイン、メチオニン、グルタチオン、モノチオグリセロール、モリン、ポリエチレンイミン(PEI)、没食子酸プロピル、ビタミンE、キレート剤、例えばクエン酸、EDTA、六リン酸エステル、チオグリコール酸
(viii)増粘剤(viscosifiers)又は粘度増強剤(viscosity enhancers):バイアル及び注射器中で粒子の沈降を遅らせ、そして粒子の混合及び再懸濁を促進するため、そして注射がより容易な(すなわち、注射器のプランジャーにおける力が弱い)懸濁液を作るために用いられる。適切な増粘剤又は粘度増強剤は、例えば、カルボポール(Carbopol)940、カルボポールウルトレッツ(Ultrez)10のようなカルボマー増粘剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、HPMC)又はジエチルアミノエチルセルロース(DEAE又はDEAE−C)のようなセルロース誘導体、コロイド状ケイ酸マグネシウム(Veegum)又はケイ酸ナトリウム、ヒドロキシアパタイトゲル、リン酸三カルシウムゲル、キサンタン、サチアガム(Satia gum)UTC30のようなカラゲナン、脂肪族ポリ(ヒドロキシ酸)、例えばポリ(D,L −又はL−乳酸)(PLA)及びポリグリコール酸(PGA)並びにそれらのコポリマー(PLGA)、D,L−ラクチド、グリコリド及びカプロラクトンのターポリマー、ポロキサマー、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)−ポリ(オキシエチレン)(例えばプルロニック(登録商標))のトリブロックを構成するための親水性ポリ(オキシエチレン)ブロック及び疎水性ポリ(オキシプロピレン)ブロック、ポリエチルエステルコポリマー、例えばポリエチレングリコールテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートコポリマー、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、デキストラン又はその誘導体、デキストラン及びPEGの組み合わせ、ポリジメチルシロキサン、コラーゲン、キトサン、ポリビニルアルコール(PVA)及び誘導体、ポリアルキルイミド、ポリ(アクリルアミド−コ−ジアリルジメチルアンモニウム(DADMA))、ポリビニルピロリドン(PVP)、グリコサミノグリカン(GAG)、例えばデルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロナン、疎水性Aブロック、例えばポリ乳酸(PLA)又はポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)及び親水性Bブロック、例えばポリエチレングリコール(PEG)又はポリビニルピロリドンで構成されたABAトリブロック又はABブロックコポリマーである。前記のポロキサマーと同様にこのようなブロックコポリマーは、逆熱ゲル化(reverse thermal gelation)挙動(投与を容易にするため室温で流体状態、そして注射後に体温でゾル−ゲル転移温度より上のゲル状態)を示すことがある。
(ix)拡散(spreading)又は拡散剤(diffusing agent):限定されるわけではないが、結合組織の細胞間隙に見出されるヒアルロン酸、多糖類のような組織間隙(intrastitial space)中の細胞外マトリックス成分の加水分解を通して結合組織の透過性を改良する。ヒアルロニダーゼのような拡散剤は、一時的に、細胞外マトリックスの粘度を低下させ、そして注射された薬物の拡散を促進する。
(x)他の補助剤:例えば湿潤剤、粘度調整剤、抗生物質、ヒアルロニダーゼ。酸及び塩基、例えば塩酸及び水酸化ナトリウムは、製造中のpH調整に必要な補助剤である。
【0241】
好ましくは、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの組成物は、1つ又はそれ以上の増粘剤及び/又は粘度調整剤を含む。
【0242】
「賦形剤」という用語は、好ましくは、治療剤と共に投与される希釈剤、佐剤(adjuvant)又は媒体(vehicle)のことである。このような薬学的賦形剤は、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油及び同様のものを含むが、それらに限定されるわけではない、石油、動物、植物又は合成由来のものを含む水及び油のような滅菌液であることができる。薬学的組成物を経口投与するとき、水は好ましい賦形剤である。生理食塩水及び水性デキストロースは、薬学的組成物を静脈内に投与するとき、好ましい賦形剤である。生理食塩水溶液及び水性デキストロース及びグリセロール溶液は、注射剤用の液体賦形剤として用いることが好ましい。適切な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、イネ、穀粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール及び同様のものが含まれる。組成物は、所望により、少量の湿潤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、持続放出製剤などの形態をとることができる。組成物は、トリグリセリドのような、従来の結合剤及び賦形剤を用いて坐剤として処方することができる。経口製剤は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような標準賦形剤を含むことができる。適切な薬学的賦形剤の例は、E.W. Martinによって“Remington's Pharmaceutical Sciences”に記載されている。このような組成物は、患者に適当な投与形態を提供するために治療有効量の治療剤を、好ましくは精製された形態で適切な量の賦形剤と共に含む。製剤は投与方法に適していなければならない。
【0243】
一般的な実施態様において、本発明の薬学的組成物は、乾燥形態で又は懸濁液として又は別の形態であるかどうかにかかわらず、単回又は反復投与組成物として提供されうる。
【0244】
本発明の一実施態様において、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの乾燥組成物は、一回量として提供され、それは、供給される容器が1回の薬学的用量を含むことを意味する。
【0245】
従って、本発明の別の態様において、組成物は単回投与組成物として提供される。
【0246】
好ましくは、懸濁液組成物は反復投与組成物であり、それは1回を超える治療用量を含むことを意味する。
【0247】
好ましくは、反復投与組成物は、少なくとも2用量を含む。インスリン−ヒドロゲルのこのような反復投与組成物は、それを必要とする異なる患者に用いるか又は1人の患者に用いることを意図するかいずれかであることができ、その際、初回投与を適用した後、残りの用量は、必要になるまで保存される。
【0248】
本発明の別の態様において、組成物は容器中に含まれる。好ましくは、容器はデュアルチャンバー型注射器(dual-chamber)である。特に、本発明による乾燥組成物はデュアルチャンバー型注射器の第1のチャンバーに提供され、そして再構成溶液はデュアルチャンバー型注射器の第2のチャンバーに提供される。
【0249】
インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの乾燥組成物を、それを必要とする患者に適用する前に、乾燥組成物を再構成する。再構成は、バイアル、注射器、デュアルチャンバー型注射器、アンプル及びカートリッジ中のようなインスリン−ヒドロゲルプロドラッグの乾燥組成物が提供される容器中で行うことができる。再構成は、所定量の再構成溶液を乾燥組成物に加えることによって行われる。再構成溶液は、水又はバッファのような滅菌液であり、それは防腐剤及び/又は抗菌剤のようなさらなる添加剤を含んでもよい。インスリン−ヒドロゲルプロドラッグ組成物が一回量として提供される場合、再構成溶液は、1つ又はそれ以上の防腐剤及び/又は抗菌剤を含んでもよい。好ましくは、再構成溶液は滅菌水である。インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの組成物が反復投与組成物である場合、再構成溶液は、例えばベンジルアルコール及びクレゾールのような1つ又はそれ以上の防腐剤及び/又は抗菌剤を含むことが好ましい。
【0250】
本発明のさらなる態様は、再構成されたインスリンヒドロゲルプロドラッグ組成物の投与方法に関する。インスリンヒドロゲルプロドラッグ組成物は、皮内、皮下、筋肉内、静脈内、骨内、及び腹腔内を含む注射又は注入方法によって投与することができる。
【0251】
さらなる態様は、治療有効量のインスリンヒドロゲルプロドラッグ、及び場合により1つ又はそれ以上の薬学的に許容しうる賦形剤を含み、ここにおいて、インスリンはヒドロゲルに一時的に結合された、再構成された組成物の製造方法であって、
・本発明の組成物を再構成溶液と接触させる
工程を含む前記方法である。
【0252】
別の態様は、治療有効量のインスリンヒドロゲルプロドラッグ、及び場合により1つ又はそれ以上の薬学的に許容しうる賦形剤を含む再構成された組成物であって、ここにおいて、インスリンは上記の方法によって入手可能なヒドロゲルに一時的に結合された前記組成物である。
【0253】
本発明の別の態様は、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの乾燥組成物の製造方法である。
【0254】
一実施態様において、このような懸濁液組成物は、
(i)インスリン−ヒドロゲルプロドラッグを1つ又はそれ以上の賦形剤と混合し、
(ii)単回又は反復投与に相当する量を適切な容器に移し、
(iii)前記容器中の組成物を乾燥し、そして
(iv)容器を密閉すること
によって製造される。
【0255】
適切な容器は、バイアル、注射器、デュアルチャンバー型注射器、アンプル、及びカートリッジである。
【0256】
別の態様は、パーツのキットである。投与器具が単に皮下注射器であるとき、キットは、注射器、針並びに注射器に使用するための乾燥インスリン−ヒドロゲルプロドラッグ組成物を含む容器及び再構成溶液を含む第2の容器を含んでもよい。より好ましい実施態様において、注射器具は、単純な皮下注射器とは異なり、従って、再構成されたインスリン−ヒドロゲルプロドラッグを有する別々の容器は、使用する際に容器中の液体組成物が、注射器具の排出口とつながった液体中にあるように注射器具と係合するよう構成されている。投与器具の例としては、皮下注射器及びペン型注入器具が含まれるが、それらに限定されるわけではない。特に好ましい注射器具は、ペン型注入器具であり、その場合、容器はカートリッジ、好ましくは使い捨てのカートリッジである。
【0257】
好ましいパーツのキットは、注射針及び本発明による組成物を含み、そして場合によりさらに再構成溶液を含む容器を含み、容器は注射針用に合わせてある。好ましくは、容器はデュアルチャンバー型注射器である。
【0258】
別の態様において、本発明は、ペン型注入器具の使用について先に記載されたようにインスリン−ヒドロゲルプロドラッグの組成物を含むカートリッジを提供する。カートリッジは、一回量又は多回用量のインスリンを含んでもよい。
【0259】
本発明の一実施態様において、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグの懸濁液組成物は、インスリン−ヒドロゲルプロドラッグ及び1つ又は複数の賦形剤を含むだけでなく、また他の生物活性物質(biologically active agents)も、その遊離形態で又はプロドラッグとしてのいずれかで含む。好ましくは、このようなさらなる1つ又はそれ以上の生物活性物質は、プロドラッグ、より好ましくはヒドロゲルプロドラッグである。このような生物活性物質には、以下の種類の化合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない:(i)スルホニル尿素、例えば、クロルプロパミド、トラザミド、トルブタミド、グリブリド、グリピジド、グリメピリド、及び同様のものなど、
(ii)メグリチニド、例えば、レパグリニドなど、
(iii)グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)及びその模倣剤、グルコース−インスリン分泌性ペプチド(GIP)及びその模倣剤、エキセンジン及びその模倣剤、及びジペプチルプロテアーゼ阻害剤(Dipeptyl Protease Inhibitors)(DPPIV)、
(iv)ビグアニド、例えば、メトホルミンなど、
(v)チアゾリジンジオン、例えば、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、イサグリタゾン(isaglitazone)(MCC−555として知られる)、2−[2−[(2R)−4−ヘキシル−3,4−ジヒドロ−3−オキソ−2H−1,4−ベンゾオキサジン−2−イル]エトキシ]−ベンゼン酢酸、及び同様のものなど
(vi)GW2570、及び同様のもの、
(vii)レチノイド−X受容体(RXR)モジュレーター、例えば、ターグレチン、9−cis−レチノイン酸、及び同様のものなど、
(viii)他のインスリン抵抗性改善剤(insulin sensitizing agents)、例えば、INS−1、PTP−1B阻害剤、GSK3阻害剤、グリコーゲンホスホリラーゼa阻害剤、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ阻害剤、及び同様のものなど;
(ix)通常のインスリン、又は速効型、中間型及び持続型インスリン、を含むインスリン、吸入用インスリン並びにインスリン類似体、例えば天然アミノ酸配列においてマイナーな違いを有するインスリン分子
(x)L−783281、TE−17411、及び同様のものを含むが、それらに限定されるわけではないインスリンの小分子模倣剤、
(xi)Na−グルコース共輸送体阻害剤、例えばT−1095、T−1095A、フロリゼン(phlorizen)、及び同様のもの;
(xii)プラムリンチド、及び同様のものを含むがそれらに限定されるわけではないアミリン作動剤、
(xiii)グルカゴン拮抗剤、例えばAY−279955、及び同様のもの。
【0260】
抗糖尿病剤に加えて、生物活性化合物には、抗肥満剤、例えばオルリスタット、脂肪の分解及び吸収を予防する膵リパーゼ阻害剤;又はシブトラミン、食欲抑制剤並びに脳内のセロトニン、ノルエピネフリン及びドーパミンの再取り込み阻害剤、脂肪動員を増強する成長因子(例えば、成長ホルモン、IGF−1、成長ホルモン放出因子)、オキシントモジュリン及びグレリンモジュレーターであってもよい。他の潜在的生物活性抗肥満剤としては、アドレナリン作用機構を通して作用する食欲抑制剤、例えば、ベンズフェタミン、フェンメトラジン、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、マジンドール、シブトラミン、フェニルプロパノールアミン又はエフェドリン;セロトニン作動性機構を通して作用する食欲抑制剤、例えばキパジン、フルオキセチン、セルトラリン、フェンフルラミン、又はデクスフェンフルラミン;ドーパミン機構を通して作用する食欲抑制剤、例えば、アポモルヒネ;ヒスタミン作動性機構を通して作用する食欲抑制剤(例えば、ヒスタミン模倣剤、H3受容体モジュレーター);エネルギー消費の促進剤、例えばベータ−3アドレナリン作動剤及び脱共役タンパク質機能の刺激剤;レプチン及びレプチン模倣剤(例えば、メトレレプチン);ニューロペプチドY拮抗剤;メラノコルチン−1、3及び4受容体モジュレーター;コレシストキニン作動剤;グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)模倣剤及び類似体(例えば、エキセンジン);アンドロゲン(例えば、デヒドロエピアンドロステロン及び誘導体、例えばエチオコランジオン(etiocholandione))、テストステロン、アナボリックステロイド(例えば、オキサンドロロン)、及びステロイドホルモン;ガラニン受容体拮抗剤;サイトカイン剤(cytokine agent)、例えば毛様体神経栄養因子;アミラーゼ阻害剤;エンテロスタチン作動剤/模倣剤;オレキシン/ヒポクレチン拮抗剤;ウロコルチン拮抗剤;ボンベシン作動剤;プロテインキナーゼAのモジュレーター;副腎皮質刺激ホルモン放出因子模倣剤;コカイン及びアンフェタミンで調節された転写物模倣剤(cocaine- and amphetamine-regulated transcript mimetics);カルシトニン遺伝子関連ペプチド模倣剤;並びに脂肪酸合成酵素阻害剤が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0261】
別の実施態様において、最初にインスリン−ヒドロゲルプロドラッグを、それを必要とする患者に投与し、その後、第2の化合物を投与するようなやり方で本発明によるインスリン−ヒドロゲルプロドラッグ組成物を、第2の生物活性化合物と組み合わせる。別法として、別の化合物を同じ患者に投与した後、インスリン−ヒドロゲル組成物を、それを必要とする患者に投与する。
【0262】
本発明のさらに別の態様は、本発明のプロドラッグ又は薬剤として使用するための本発明の薬学的組成物である。
【0263】
本発明のさらに別の態様は、インスリンによって治療することができる疾患又は障害の治療又は予防方法に使用するための本発明のプロドラッグ又は本発明の薬学的組成物である。
【0264】
このような疾患又は障害は、例えば高血糖、糖尿病前症、耐糖能異常、I型糖尿病、II型糖尿病、X症候群、肥満、高血圧症である。
【0265】
本発明に記載された持効型インスリン組成物による治療を必要とする患者は、共存症を発症する危険性が高い。従って、本持効型インスリンと適切な生物活性化合物との組み合わせを、例えば、高血圧症(収縮期高血圧症及び家族性脂質異常性高血圧症を含むが、これらに限定されるものではない)、うっ血性心不全、左心室肥大、末梢動脈疾患、糖尿病性網膜症、黄斑変性、白内障、糖尿病性腎症、糸球体硬化症、慢性腎不全、糖尿病性神経障害、X症候群、月経前症候群、冠動脈性心疾患、狭心症、血栓症、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、一過性虚血発作、脳卒中、血管再狭窄、高血糖症、高インスリン血症、高脂質血症、高トリグリセリド血症、インスリン抵抗性、グルコース代謝障害(impaired
glucose metabolism)、耐糖能異常(impaired glucose tolerance)の状態、空腹時血漿グルコース異常(impaired fasting plasma glucose)の状態、肥満、勃起障害、皮膚及び結合組織障害、足潰瘍及び潰瘍性大腸炎、内皮機能不全及び血管コンプライアンス障害(impaired vascular compliance)からなる群より選ばれる疾患及び障害の予防、進行の遅延又は治療に用いてもよい。
【0266】
上記の群から選ばれる疾患及び障害の予防、進行の遅延又は治療は、本発明の持効型インスリン組成物とAT1−受容体拮抗剤;アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;レニン阻害剤;ベータアドレナリン受容体遮断剤;アルファアドレナリン受容体遮断剤;カルシウムチャネル遮断剤;アルドステロン合成酵素阻害剤;アルドステロン受容体拮抗剤;中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害剤;二重アンギオテンシン変換酵素/中性エンドペプチダーゼ(ACE/NEP)阻害剤;エンドセリン受容体拮抗剤;利尿剤;スタチン;ニトラート;抗凝固剤;ナトリウム利尿ペプチド;ジギタリス化合物;PPARモジュレーターを含む、前記状態の治療に用いられる薬物種から選ばれる少なくとも1つの生物活性化合物との組み合わせによって達成することができる。
【0267】
また、生物活性物質;プロドラッグ、特にヒドロゲルプロドラッグが1つ又はそれ以上の酸性又は塩基性基を含む場合、本発明は、それらの対応する薬学的に又は毒物学的に許容しうる塩、特にそれらの薬学的に利用できる塩も含む。従って、酸性基を含むプロドラッグは、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩として又はアンモニウム塩として本発明に従って用いることができる。このような塩のより具体的な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩又はアンモニア若しくは有機アミン、例えば、エチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミンなど若しくはアミノ酸との塩が含まれる。1つ又はそれ以上の塩基性基、すなわち、プロトン化されうる基を含むプロドラッグは、存在することができ、そして無機又は有機酸とのそれらの付加塩の形態で本発明により用いられることができる。適切な酸の例としては、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、シュウ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、ギ酸、プロピオン酸、ピバル酸、ジエチル酢酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、フェニルプロピオン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、イソニコチン酸、クエン酸、アジピン酸、及び当業者に知られている他の酸が含まれる。また、プロドラッグが分子中に酸性及び塩基性基を同時に含む場合、本発明は、記載された塩形態に加えて分子内塩又はベタイン(両性イオン)を含む。それぞれの塩は、当業者に知られている慣用の方法によって、例えば、これらを溶媒若しくは分散媒中で有機若しくは無機の酸若しくは塩基と接触させることによって、又は他の塩を用いて陰イオン交換若しくは陽イオン交換によって得ることができる。また、本発明は、低い生理学的適合性のため、薬剤に使用するには直接適してないが、例えば、化学反応の中間体として又は薬学的に許容しうる塩を製造するために用いることができるプロドラッグのすべての塩を含む。
【0268】
「薬学的に許容しうる」という用語は、動物、好ましくはヒトに使用するために監督機関、例えばEMEA(欧州)及び/又はFDA(米国)及び/又は任意の他国の監督機関によって認可されたことを意味する。
【0269】
本発明のさらに別の態様は、治療有効量の本発明のプロドラッグ又は本発明の薬学的組成物又はその薬学的に許容しうる塩を患者に投与することを含む、1つ又はそれ以上の状態の治療を必要とする哺乳動物患者、好ましくはヒトにおいて治療、抑制、遅延又は予防する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0270】
図1a】インスリン−リンカー複合体12aのUPLCクロマトグラム
図1b】インスリン−リンカー複合体の12bのUPLCクロマトグラム
図2】インスリン6mgを含む試験品目11aを健常なラットに単回皮下投与した後、2週間にわたる動物1〜10の平均血漿インスリン濃度を示す。(エラーバーは、全10匹の動物から導出された±標準偏差として示し、t0値は投薬3日前に得た。)
図3】インスリン3mgを含む試験品目11daを健常なラットに単回皮下投与した後、13日間にわたる動物1〜8の平均血漿インスリン濃度。(エラーバーは、誤差横棒は、全8匹の動物から導出された±標準偏差として示し、t0値は投薬1日前に得た。)
図4】インスリン6.4mgを含む試験品目11daを糖尿病ラット(n=7)に単回皮下投与した後の血漿インスリン濃度(灰色の四角)及び血糖値(黒丸)。(エラーバーは、全7匹の動物から導出された±標準偏差であり、t0値は投薬4日前に得た。)
図5】8mg/kgの試験品目11dbを健常なラットに単回皮下投与した後、投薬後の最初の24時間における平均血漿インスリン値(バースト分析)。8匹のラットを2群に分け、そして薬物動態用の血液サンプルを両群の間で交互に採取した。いずれの群でも、バースト効果は感知できなかった。(エラーバーは、群当たりすべての動物から導出された±標準偏差であり、t0値は投薬1日前に得た。)
図6】8mg/kgの試験品目11daを糖尿病ラット(n=8)に週1回で3回皮下投与した後、4週間の間の血漿インスリン濃度(灰色の四角)及び血糖レベル(黒丸)。(エラーバーは、全8匹の動物から導出された±標準偏差であり、t0値は投薬の3日前に得た。)
図7】試験品目11dc中に処方された12mg/kgのインスリンを健常なラットに単回皮下投与した後、13日間にわたる動物1〜8(0.3、1時間、2及び4時間値について、それぞれ動物1〜4及び動物5〜8)の平均血漿インスリン濃度。(エラーバーは、全8匹の動物から導出された+/−標準偏差として示し、t0値は投薬4日前に得た)
図8】インスリン放出及びインスリン−リンカー−ヒドロゲル11aのヒドロゲル分解のオーバレイ。pH7.4及び37℃でインスリン−リンカー−ヒドロゲルをインキュベーションした際のインスリン−リンカー−ヒドロゲル中のインスリン含量(三角)及び骨格鎖部分の放出(丸)の量をインキュベーション時間に対してプロットした。
図9】30Gの注射針を用いた力対流量をプロットしたグラフを示す。データポイント:黒四角=エチレングリコール;黒三角=水;黒点=ヒドロゲルインスリンプロドラッグ。
【0271】
実施例
物質及び方法
組換え型のヒトインスリンは、Biocon Ltd., Bangalore, Indiaから入手した。アミノ4−アームPEG 5kDaは、JenKem Technology, Beijing, P. R. Chinaから入手した。N−(3−マレイミドプロピル)−21−アミノ−4,7,10,13,16,19−ヘキサオキサ−ヘンエイコサン酸NHSエステル(Mal−PEG6−NHS)は、Celares GmbH, Berlin, Germanyから入手した。
【0272】
2−クロロトリチルクロリド樹脂、HATU、N−シクロヘキシル−カルボジイミド−N'−メチルポリスチレン及びアミノ酸は、特に明記しない限り、Merck Biosciences GmbH, Schwalbach/Ts, Germanyから入手した。Fmoc(NMe)−Asp(OtBu)−OHは、Bachem AG, Bubendorf, Switzerlandから入手した。S−トリチル−6−メルカプトヘキサン酸は、Polypeptide, Strasbourg, Franceから購入した。使用したアミノ酸は、特に明記しない限りL配置であった。
【0273】
他のすべての化学物質は、Sigma-ALDRICH Chemie GmbH, Taufkirchen, Germanyからであった。
【0274】
固相合成は、1.3mmol/gの装填量(loading)を有する2−クロロトリチルクロリド(TCP)樹脂上で実施した。ポリプロピレンフリットを備えた注射器を反応容器として用いた。
【0275】
樹脂への最初のアミノ酸の装填は、製造者の説明に従って実施した。
Fmoc脱保護:Fmoc保護基除去については、樹脂は、ピペリジン/DBU/DMF2/2/96(v/v/v)(2回、それぞれ10分)で撹拌し、そしてDMF(10回)で洗浄した。
【0276】
Fmoc−Aib装填樹脂のFmoc脱保護
固定化Fmoc−Aib−OHのFmoc脱保護は、樹脂をDMF/ピペリジン4/1(v/v)中、50℃で20分間(2回)撹拌することによって達成した。
【0277】
2−クロロトリチルクロリド樹脂の切断プロトコール:
合成が完了したら、樹脂をDCMで洗浄し、真空で乾燥し、そしてDCM/HFIP6/4(v/v)を用いて30分間で2回処理した。溶出液を合わせ、揮発性物質を窒素流れ下で除去し、そして生成した粗生成物をRP−HPLCによって精製した。生成物を含むHPLC画分を合わせ、そして凍結乾燥した。TFA塩として得たアミン含有生成物を、イオン交換樹脂(Discovery DSC-SAX, Supelco, USA)を用いて対応するHCl塩に転換した。この工程は、残留TFAが、例えばその後のカップリング反応を妨げることが
【0278】
予想される場合に実施した。RP−HPLC精製:
RP−HPLCは、Waters 600 HPLCシステム及びWaters 2487吸光度検出器に接続された100×20mm又は100×40mmC18 ReproSil-Pur 300 ODS-3 5μカラム(Dr.
Maisch, Ammerbuch, Germany)において実施した。
溶液A(H2O中の0.1%TFA)及び溶液B(アセトニトリル中の0.1%TFA)の線形勾配を用いた。生成物を含むHPLC画分を凍結乾燥した。
【0279】
フラッシュクロマトグラフィ
フラッシュクロマトグラフィ精製は、Biotage KP-Silシリカカートリッジ並びに溶離液としてn−ヘプタン及び酢酸エチルを用いてBiotage AB, SwedenからのIsolera Oneシステムにおいて実施した。生成物は254nmで検出した。
【0280】
ヒドロゲルビーズのため、ポリプロピレンフリットを備えた注射器を反応容器として又は洗浄工程に用いた。
【0281】
分析方法
分析用超高性能(analytical ultra-performance)LC(UPLC)は、Thermo ScientificからのLTQ Orbitrap Discovery質量分析器につながれた、Waters BEH300 C18カラム(2.1×50mm,粒径1.7μm)を備えたWaters Acquityシステムにおいて実施した。
【0282】
PEG生成物のMSは、PEG出発物質の多分散性のため一連の(CH2CH2O)n部分を示した。解釈をより簡単にするため、単一の代表的m/zシグナルを1つだけ実施例中に示した。インスリン複合体のMSは、代表的な同位体について報告し、そして4−プロトン付加物[M+4H]4+に相当する。
【0283】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、特に明記しない限り、0.45μm入口フィルター付きのSuperdex200 5/150 GLカラム(Amersham Bioscience/GE Healthcare)を備えたAmersham Bioscience AEKTAbasicシステムを用いて実施した。20mMリン酸ナトリウム、140mM NaCl、pH7.4を移動相として用いた。
【0284】
実施例1
骨格鎖試薬1gの合成
【化24】
【0285】
以下のスキームに従ってアミノ4−アームPEG5000 1aから骨格鎖試薬1gを合成した:
【化25】
【0286】
化合物1bを合成するため、アミノ4−アームPEG5000 1a(MW約5200g/mol,5.20g,1.00mmol,HCl塩)をDMSO(無水)20mL中に溶解した。DMSO(無水)5mL中のBoc−Lys(Boc)−OH(2.17g,6.25mmol)、EDC HCl(1.15g,6.00mmol)、HOBt・H2O(0.96g,6.25mmol)、及びコリジン(5.20mL,40mmol)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した。
【0287】
反応混合物をジクロロメタン1200mLで希釈し、そして0.1N H2SO4(2×)600mL、ブライン(1×)、0.1M NaOH(2×)及びブライン/水1/1(v/v)(4×)で洗浄した。水層をDCM500mLで再抽出した。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして蒸発させて粗生成物1b 6.3gを無色の油として得た。
化合物1bをRP−HPLCによって精製した。
収量3.85g(59%)無色のガラス状生成物1b
MS:m/z 1294.4=[M+5H]5+(計算値=1294.6)
【0288】
化合物1b 3.40g(0.521mmol)をメタノール5mL及びジオキサン中の4N HCl9mL中、室温で15分間撹拌することによって化合物1cを得た。揮発性物質を真空で除去した。生成物をさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 1151.9=[M+5H]5+(計算値=1152.0)
【0289】
化合物1dを合成するため、化合物1c 3.26g(0.54mmol)をDMSO(無水)15mL中に溶解した。DMSO(無水)15mL中のBoc−Lys(Boc)−OH 2.99g(8.64mmol)、EDC HCl 1.55g(8.1mmol)、HOBt・H2O 1.24g(8.1mmol)、及びコリジン5.62mL(43mmol)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した。
【0290】
反応混合物をDCM800mLで希釈し、そして0.1N H2SO4 400mL(2×)、ブライン(1×)、0.1M NaOH(2×)、及びブライン/水1/1(v/v)(4×)で洗浄した。水層をDCM 800mLで再抽出した。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして蒸発させてガラス状の粗生成物を得た。
【0291】
生成物をDCM中に溶解し、そして冷却した(−18℃)ジエチルエーテルを用いて沈殿させた。この手順を2回繰り返し、そして沈殿を真空で乾燥した。
収量:4.01g(89%)無色のガラス状生成物1d、これをさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 1405.4=[M+6H]6+(計算値=1405.4)
【0292】
メタノール7mL及びジオキサン中4N HCl 20mL中の化合物1d(3.96g,0.47mmol)の溶液を室温で15分間撹拌することによって化合物1eを得た。揮発性物質を真空で除去した。生成物をさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 969.6=[M+7H]7+(計算値=969.7)
【0293】
化合物1fを合成するため、化合物1e(3.55g,0.48mmol)をDMSO(無水)20mL中に溶解した。DMSO(無水)18.8mL中のBoc−Lys(Boc)−OH(5.32g,15.4mmol)、EDC HCl(2.76g,14.4mmol)、HOBt・H2O(2.20g,14.4mmol)、及びコリジン10.0mL(76.8mmol)を加えた。反応混合物を室温で60分間撹拌した。
【0294】
反応混合物をDCM 800mLで希釈し、そして0.1N H2SO4 400mL(2×)、ブライン(1×)、0.1M NaOH(2×)、及びブライン/水1/1(v/v)(4×)で洗浄した。水層をDCM 800mLで再抽出した。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして蒸発させて無色の油として粗生成物1fを得た。
生成物をDCM中に溶解し、そして冷却した(−18℃)ジエチルエーテルを用いて沈殿させた。この工程を2回繰り返し、そして沈殿を真空で乾燥した。
収量4.72g(82%)無色のガラス状生成物1f、これをさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 1505.3=[M+8H]8+(計算値=1505.4)
【0295】
メタノール20mL及びジオキサン中の4N HCl 40mL中の化合物1f(MW約12035g/mol,4.72g,0.39mmol)の溶液を室温で30分間撹拌することによって骨格鎖試薬1gを得た。揮発性物質を真空で除去した。
収量3.91g(100%)、ガラス状生成物骨格鎖試薬1g
MS:m/z 977.2=[M+9H]9+(計算値=977.4)
【0296】
1gの別の合成経路
化合物1bを合成するため、iPrOH(無水)250mL中の4−アーム−PEG5000テトラアミン(1a)(50.0g,10.0mmol)の懸濁液にboc−Lys(boc)−OSu(26.6g,60.0mmol)及びDIEA(20.9mL,120mmol)を45℃で加え、そして混合物を30分間撹拌した。
【0297】
続いて、n−プロピルアミン(2.48mL,30.0mmol)を加えた。5分後、溶液をMTBE1000mLで希釈し、そして撹拌することなく−20℃で一夜保存した。上澄み約500mLをデカントして捨てた。冷MTBE300mLを加え、そして1分振盪した後、ガラスフィルターを通して濾過することによって生成物を集め、そして冷MTBE500mLで洗浄した。生成物を真空で16時間乾燥した。
収量:65.6g(74%)塊の多い白色固形物として1b
MS:m/z 937.4=[M+7H]7+(計算値=937.6)
【0298】
前工程からの化合物1b(48.8g,7.44mmol)を2−プロパノール156mL中、40℃で撹拌することによって化合物1cを得た。2−プロパノール196mL及びアセチルクロリド78.3mLの混合物を、撹拌下で1〜2分以内に加えた。溶液を40℃で30分間撹拌し、そして撹拌することなく−30℃で一夜冷却した。冷MTBE100mLを加え、懸濁液を1分間振盪し、そして−30℃で1時間冷却した。ガラスフィルターを通して濾過することによって生成物を集め、そして冷MTBE200mLで洗浄した。生成物を真空で16時間乾燥した。
収量:38.9g(86%)白色粉末として1c
MS:m/z 960.1=[M+6H]6+(計算値=960.2)
【0299】
化合物1dを合成するため、2−プロパノール80ml中の前工程からの1c(19.0g,3.14mmol)の懸濁液にboc−Lys(boc)−OSu(16.7g,37.7mmol)及びDIEA(13.1mL,75.4mmol)を45℃で加えた。その後、n−プロピルアミン(1.56mL,18.9mmol)を加えた。5分後、冷MTBE 600mLを用いて溶液を沈殿させ、そして遠心分離した(3000分−1,1分)。沈殿を真空で1時間乾燥し、そしてTHF 400mL中に溶解した。ジエチルエーテル200mLを加え、そして撹拌することなく生成物を−30℃に16時間冷却した。ガラスフィルターを通して懸濁液を濾過し、そして冷MTBE 300mLで洗浄した。生成物を真空で16時間乾燥した。
収量:21.0g(80%)白色固形物として1d
MS:m/z 1405.4=[M+6H]6+(計算値=1405.4)
【0300】
前工程からの化合物1d(15.6g,1.86mmol)を溶解し、メタノール中の3N HCl(81mL,243mmol)中に溶解し、そして40℃で90分間撹拌することによって化合物1eを得た。MeOH200mL及びiPrOH700mLを加え、そして混合物を−30℃で2時間保存した。完全に結晶化させるため、MTBE100mLを加え、そして懸濁液を−30℃で一夜保存した。冷MTBE250mLを加え、懸濁液を1分間振盪し、そしてガラスフィルターを通して濾過し、そして冷MTBE100mLで洗浄した。生成物を真空で乾燥した。
収量:13.2g(96%)白色粉末として1e
MS:m/z 679.1=[M+10H]10+(計算値=679.1)
【0301】
化合物1fを合成するため、2−プロパノール165ml中の前工程からの1e(8.22g,1.12mmol)の懸濁液にboc−Lys(boc)−OSu(11.9g,26.8mmol)及びDIEA(9.34mL,53.6mmol)を45℃で加え、そして混合物を30分間撹拌した。続いて、n−プロピルアミン(1.47mL,17.9mmol)を加えた。5分後、溶液を−18℃に2時間冷却し、次いで冷MTBE165mLを加え、懸濁液を1分間振盪し、そしてガラスフィルターを通して濾過した。続いて、濾過ケークを冷MTBE/iPrOH4:1の4×200mL及び冷MTBE1×200mLで洗浄した。生成物を真空で16時間乾燥した。
収量:12.8g、MW(90%)淡黄色の塊の多い固形物として1f
MS:m/z 1505.3=[M+8H]8+(計算値=1505.4)
【0302】
4ArmPEG5kDa(−LysLys2Lys4(boc)8)4(1f)(15.5g,1.29mmol)をMeOH30mL中に溶解し、そして0℃に冷却することによって骨格鎖試薬1gを得た。ジオキサン中の4N HCl(120mL,480mmol,0℃に冷却)を3分以内に加え、そして氷浴をはずした。20分後、メタノール中の3N HCl(200mL,600mmol,0℃に冷却)を15分以内に加え、そして溶液を室温で10分間撹拌した。冷MTBE480mLを用いて生成物溶液を沈殿させ、そして3000rpmで1分間遠心分離した。沈殿を真空で1時間乾燥し、そしてMeOH90mL中に再溶解し、冷MTBE240mLを用いて沈殿させ、そして懸濁液を3000rpmで1分間遠心分離した。生成物1gを真空で乾燥した。
収量:11.5g(89%)淡黄色フレークとして
MS:m/z 1104.9=[M+8H]8+(計算値=1104.9)
【0303】
実施例2
クロスリンカー試薬2dの合成
クロスリンカー試薬2dは、アジピン酸モノベンジルエステル(English, Arthur R. et al., Journal of Medicinal Chemistry, 1990, 33(1), 344-347)及びPEG2000から以下のスキームに従って製造した:
【0304】
【化26】
【0305】
ジクロロメタン(90.0mL)中のPEG2000(2a)(11.0g,5.5mmol)及びアジピン酸ベンジル半エステル(4.8g,20.6mmol)の溶液を0℃に冷却した。ジシクロヘキシルカルボジイミド(4.47g,21.7mmol)、続いて触媒量のDMAP(5mg)を加え、そして溶液を撹拌し、そして一夜かけて室温に到達するにまかせた(12時間)。フラスコを+4℃で5時間保存した。固形物を濾過し、そして真空で蒸留することによって溶媒を完全に除去した。残留物をジエチルエーテル/酢酸エチル1/1(v/v)1000mL中に溶解し、そして室温で2時間保存し、その間に少量の薄片状固形物が形成された。セライト(登録商標)のパッドを通して濾過することによって固形物を除去し、結晶化が完了するまで、冷凍庫中、−30℃で12時間きつく密閉したフラスコ中に溶液を保存した。ガラスフリットを通して結晶質生成物を濾過し、そして冷却されたジエチルエーテル(−30℃)で洗浄した。濾過ケークを真空で乾燥した。収量:11.6g(86%)無色の固形物として2b。生成物をさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 813.1=[M+3H]3+(計算値=813.3)
【0306】
500mLのガラスオートクレーブ中、PEG2000−ビス−アジピン酸−ビス−ベンジルエステル2b(13.3g,5.5mmol)を酢酸エチル(180mL)中に溶解し、そして木炭上の10%パラジウム(0.4g)を加えた。水素消費が終わるまで(5〜12時間)、溶液を6bar(40℃)で水素化した。セライト(登録商標)のパッドを通して濾過することによって触媒を除去し、そして溶媒を真空で蒸発させた。
収量:12.3g(定量的)黄色がかった油として2c
生成物をさらに精製することなく次の工程に用いた。
MS:m/z 753.1=[M+3H]3+(計算値=753.2)
【0307】
DCM(無水)75mL中のPEG2000−ビス−アジピン酸半エステル2c(9.43g,4.18mmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド(1.92g,16.7mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(3.44g,16.7mmol)の溶液を室温で一夜撹拌した。反応混合物を0℃に冷却し、そして沈殿を濾過した。DCMを蒸発させ、そして残留物をTHFから再結晶させた。
収量: 8.73g(85%)無色の固形物としてクロスリンカー試薬2d
MS:m/z 817.8=[M+3H]3+(計算値=817.9g/mol)
【0308】
実施例3
遊離アミノ基を含むヒドロゲルビーズ(3)及び(3a)の製造
DMSO14mL中の1g 275mg及び2d 866mgの溶液をヘプタン60mL中の Arlacel P135(Croda International Plc)100mgの溶液に加えた。慣用の金属撹拌機を用いて700rpmで混合物を25℃で10分間撹拌して懸濁液を形成した。N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン1.0mLを加えて重合を実施した。2時間後、撹拌機の速度を400rpmに下げ、そして混合物をさらに16時間撹拌した。酢酸1.5mLを加え、それから10分後、水50mLを加えた。5分後、撹拌機を停止し、そして水相を排出した。
ビーズサイズ分別のため、水−ヒドロゲル懸濁液を75、50、40、32及び20μmメッシュのスチール篩上で湿式篩にかけた(wet-sieved)。32、40及び50μmの篩上に残ったビーズ画分を貯め、そして水で3回、エタノールで10回洗浄し、そして0.1mbarで16時間乾燥して白色粉末として3を得た。
3aは、1g 1200mg、2d 3840mg、DMSO28.6ml、Arlacel P135 425mg、ヘプタン100mL及びTMEDA4.3mlを使用することを除いて、3について記載されたように製造した。処理のため、酢酸6.6mlを加え、それから10分後、水50mL及び飽和塩化ナトリウム水溶液50mLを加えた。
ヒドロゲルのアミノ基含量は、Gude, M., J. Ryf, et al. (2002) Letters in Peptide
Science 9(4): 203-206によって記載されたように、ヒドロゲル上の遊離アミノ基へのfmocアミノ酸の結合、そしてその後のfmoc測定によって決定した。
3及び3aのアミノ基含量は0.11〜0.16mmol/gであると決定された。
【0309】
実施例4
マレイミド官能化ヒドロゲルビーズ(4)及び(4a)及び(4aa)の製造及びマレイミド置換の決定
【化27】
【0310】
アセトニトリル/水2/1(v/v)中のMal−PEG6−NHS600mg(1.0mmol)の溶液4.5mLを乾燥ヒドロゲルビーズ3の200mgに加えた。リン酸ナトリウムバッファ(pH7.4,0.5M)500μLを加え、そして懸濁液を室温で30分間撹拌した。アセトニトリル/水2/1(v/v)、メタノール及びアセトニトリル/水/TFA1/1/0.001(v/v/v/)を用いてそれぞれ5回、ビーズ4を洗浄した。4aは、3の代わりに3aを使用することを除いて前記のように合成した。
【0311】
別法として、ヒドロゲルビーズ3aをDMSO/DIEA99/1(v/v)で予め洗浄し、DMSOで洗浄し、そしてDMSO中のMal−PEG6−NHS(ヒドロゲル上のアミノ基の理論量に対して2.0当量)の溶液を用いて45分間定温放置した。ビーズ4aaをDMSOで2回、そしてコハク酸塩pH3.0(20mM,1mM EDTA,0.01%Tween−20)で3回洗浄した。サンプルを、リン酸ナトリウムpH6.0(50mM,50mMエタノールアミン,0.01%Tween−20)中、室温で1時間定温放置し、そしてコハク酸ナトリウムpH3.0(20mM,1mM EDTA,0.01%Tween−20)で5時間洗浄した。
【0312】
マレイミド含量を決定するため、ヒドロゲルビーズ4、4a又は4aaのアリコートを、それぞれ凍結乾燥し、そして計量した。ヒドロゲルビーズ4、4a又は4aaの別のアリコートを、それぞれ、過剰メルカプトエタノールと反応させ(50mMリン酸ナトリウムバッファ中、室温で30分)、そしてメルカプトエタノール消費は、エルマン(Ellman)試験(Ellman, G. L. et al., Biochem. Pharmacol., 1961, 7, 88-95)によって検出した。マレイミド含量は、0.11〜0.13mmol/gの乾燥ヒドロゲルであると決定された。
【0313】
実施例5
リンカー試薬5dの合成
リンカー試薬5dは、以下のスキームに従って合成した:
【化28】
【0314】
リンカー試薬中間体5aの合成:
4−メトキシトリチルクロリド(3g,9.71mmol)をDCM(20mL)中に溶解し、そしてDCM(20mL)中のエチレンジアミン(6.5mL,97.1mmol)の溶液を滴加した。2時間後、溶液をジエチルエーテル(300mL)中に注ぎ、そしてブライン/0.1 M NaOH溶液30/1(v/v)で3回(それぞれ50ml)、そしてブライン(50mL)で1回洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥し、そして揮発性物質を減圧下で除去してMmt−保護された中間体(3.18g,9.56mmol)を得た。
Mmt−保護された中間体(3.18g,9.56mmol)を無水DCM(30mL)中に溶解した。6−(トリチルメルカプト)−ヘキサン酸(4.48g,11.47mmol)、PyBOP(5.67g,11.47mmol)及びDIEA(5.0mL,28.68mmol)を加え、そして混合物を室温で30分間撹拌した。溶液をジエチルエーテル(250mL)で希釈し、そしてブライン/0.1M NaOH溶液30/1(v/v)で3回(それぞれ50mL)、そしてブライン(50mL)で1回洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥し、そして揮発性物質を減圧下で除去した。5aをフラッシュクロマトグラフィによって精製した。
収量:5.69g(8.09mmol)
MS:m/z 705.4=[M+H]+(計算値=705.0)
【0315】
リンカー試薬中間体5bの合成:
無水THF(50mL)中の5a(3.19g,4.53mmol)の溶液にBH3・THF(1m溶液,8.5mL,8.5mmol)を加え、そして溶液を室温で16時間撹拌した。さらにBH3・THF(1M溶液,14mL,14mmol)を加え、室温で16時間撹拌した。メタノール(8.5mL)を添加して反応をクエンチし、N,N−ジメチル−エチレンジアミン(3mL,27.2mmol)を加え、そして溶液を還流に加熱し、そして3時間撹拌した。混合物を室温で酢酸エチル(300mL)により希釈し、飽和Na2CO3水溶液(2×100mL)、そして飽和NaHCO3水溶液(2×100mL)で洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥し、そして揮発性物質を減圧で蒸発させて粗アミン中間体(3.22g)を得た。
【0316】
アミン中間体をDCM(5mL)中に溶解し、DCM(5mL)及びDIEA(3.95mL,22.65mmol)中に溶解したBoc2O(2.97g,13.69mmol)を加え、そして混合物を室温で30分間撹拌した。混合物をフラッシュクロマトグラフィによって精製してBoc−及びMmt−保護された粗中間体(3g)を得た。
MS:m/z 791.4=[M+H]+,519.3=[M−Mmt+H]+(計算値=791.1)
【0317】
0.4M水性HCl(48mL)をアセトニトリル(45mL)中のBoc−及びMmt−保護された中間体の溶液に加えた。混合物をアセトニトリル(10mL)で希釈し、そして室温で1時間撹拌した。続いて、5M NaOH溶液を添加することによって反応混合物のpH値を5.5に調整し、アセトニトリルを減圧下で除去し、そして水溶液をDCM(4×100mL)で抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、そして揮発性物質を減圧下で除去した。粗5bをさらに精製することなく用いた。
収量:2.52g(3.19mmol)
MS:m/z 519.3=[M+H]+(MW計算値=518.8g/mol)
【0318】
リンカー試薬中間体5cの合成:
5b(780mg,0.98mmol,純度約65%)及びNaCNBH3(128mg,1.97mmol)を無水メタノール(13mL)中に溶解した。DCM(2mL)中の2,4−ジメトキシベンズアルデヒド(195mg,1.17mmol)の溶液を加え、そして混合物を室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして粗生成物をDCM中に溶解し、そして飽和NaCO3溶液で洗浄した。水相をDCMで3回抽出し、そして合わせた有機相をブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥し、そして減圧下で濃縮した。溶離液としてDCM及びMeOHを用いて5cをフラッシュクロマトグラフィによって精製した。
収量:343mg(0.512mmol)
MS:m/z 669.37=[M+H]+,(計算値=669.95)
【0319】
リンカー試薬5dの合成:
Fmoc−Aib−装填されたTCP樹脂(980mg,約0.9mmol)をDMF/ピペリジンで脱保護し、DMF(5回)及びDCM(6回)で洗浄し、そして真空で乾燥した。樹脂を、無水THF(6mL)中のp−ニトロフェニルクロロホルメート(364mg,1.81mmol)及びコリジン(398μL,3.0mmol)の溶液で処理し、そして30分間振盪した。試薬溶液を濾過によって除去し、そして樹脂をTHF(5回)で洗浄した後、無水THF(6mL)中のアミン5c(490mg,0.7mmol)及びDIEA(1.23mL,7.1mmol)の溶液を加えた。室温で18時間振盪した後、試薬溶液を濾過によって除去し、そして樹脂をDCM(5回)で洗浄した。リンカー試薬を樹脂から切断し、そしてRP−HPLCによって精製した。飽和水性NaHCO3の添加によって生成物画分をpH6にし、そして減圧下で濃縮した。生成したスラリーは、飽和水性NaClとDCMの間で分配し、そして水層をDCMで抽出した。合わせた有機画分を濃縮して乾燥状態にしてリンカー試薬5dを得た。
収量:230mg(0.29mmol)
MSm/z 798.41=[M+H]+,(計算値=798.1)
【0320】
実施例6
リンカー試薬6cの合成
リンカー試薬6cは、以下のスキームに従って合成した:
【化29】
【0321】
アミン6aの合成:
トリフェニルメタンチオール(11.90g,43.08mmol)をDMSO(40mL)中に懸濁した。DBU(7.41mL,49.55mmol)及び6−ブロモヘキシルフタルイミド(13.32g,42.94mmol)を加え、そして混合物を約15分間反応するにまかせた。反応混合物を酢酸エチル(700mL)と0.1M HCl(200mL)との間で分配した。水相を酢酸エチル(3×50mL)で抽出し、そして合わせた有機画分を飽和NaHCO3(80mL)及びブライン(80mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、そして濃縮した。粗黄色油をn−ヘプタン/酢酸エチルから再結晶させた。中間体6−(S−トリチル−)メルカプトヘキシルフタルイミドを白色固形物(13.3g,26.4mmol,62%)として得た。
【0322】
6−(S−トリチル−)メルカプトヘキシルフタルイミド(14.27g,28.2mmol)をエタノール(250mL)中に懸濁した。ヒドラジン水和物(3.45mL,70.5mmol)を加え、そして混合物を還流に2時間加熱した。混合物を濾過し、そして濾液を真空で濃縮した。クロロホルム(180mL)を残留油に加え、そして生成した懸濁液を室温で1.5時間撹拌した。混合物を濾過し、そして濾液を水(60mL)及びブライン(60mL)で抽出し、MgSO4で乾燥し、そして濃縮して粗6−(トリチルメルカプト)−ヘキシルアミン(10.10g,26.87mmol,95%)を得た。
MS:m/z 376.22=[M+H]+,(計算値=376.20)
【0323】
DIEA(1.41mL,8.11mmol)及びn−クロロギ酸ブチル(908μL,7.14mmol,THF1mL中)をTHF(50mL)中の6−(トリチルメルカプト)−ヘキシルアミン(2.44g,6.49mmol)の冷却(0℃)溶液に加えた。30分後にLiAlH4(THF中1M,9.74mL,9.47mmol)を加え、そして混合物を還流に90分間加熱した。水、3.75M水性NaOH及び水の添加により沈殿が形成され、それを濾過によって混合物から除去した。濾液を真空で濃縮して6aを得た。
収量:2.41g(6.20mmol)
MS:m/z 390.22=[M+H]+,(計算値=390.22)
【0324】
リンカー試薬中間体6bの合成:
6a(2.1g,5.31mmol)の溶液に2−ブロモエチルフタルイミド(1.96g,7.7mmol)及びK2CO3(1.09g,7.9mmol)を加え、そして混合物を還流に6時間加熱した。濾過して濃縮した後、粗混合物を酢酸エチルと飽和水性NaHCO3との間で分配した。粗中間体(2−(N−メチル−N−(6−トリチルメルカプトヘキシル−)アミノ)エチル)フタルイミドをフラッシュクロマトグラフィによって精製した。
収量:1.23g(2.18mmol)
MS:m/z:563.27=[M+H]+,(計算値=563.27)
【0325】
エタノール(12mL)中の(2−(N−メチル−N−(6−トリチルメルカプトヘキシル−)アミノ−)エチル)フタルイミド(672mg,1.19mmol)の溶液にヒドラジン一水和物(208μL,4.17mmol)を加え、そして混合物を還流に1時間加熱した。反応混合物を濾過し、濃縮し、そしてN−(2−アミノエチル−)−N−メチル−N−(6−トリチルメルカプトヘキシル−)アミンをRP−HPLCによって精製した。
収量:624mg(0.944mmol)
MS:m/z 433.27=[M+H]+,(計算値=433.26)
【0326】
無水MeOH(6mL)中のN−(2−アミノエチル−)−N−メチル−N−(6−トリチルメルカプトヘキシル−)アミン(151mg,0.229mmol)及びNaCNBH3(30mg,0.463mmol)の溶液に無水CH2Cl2(0.6μL)中の2,4−ジメトキシベンズアルデヒドの溶液を加えた。室温で1時間撹拌した後、反応混合物を濃縮し、水/アセトニトリル1/9(v/v)2mL中に再溶解し、そして6bをRP−HPLCによって精製した。
収量:177mg(0.219mmol)
MS:m/z 583.33=[M+H]+,(計算値=583.33)
【0327】
リンカー試薬6cの合成
5cの代わりにアミン6b(TFA塩として,430mg,0.53mmol)を使用すること除いて、5dについて記載されたように、Fmoc−Aib−装填された樹脂(704mg,約0.6mmol)からリンカー試薬6cを製造した。
収量:285mg(0.330mmol)
MS:m/z712.37=[M+H]+,(計算値=712.37)
【0328】
実施例7
リンカー試薬7fの合成
リンカー試薬7fは、以下のスキームに従って合成した:
【0329】
【化30】
【0330】
MeOH(10mL)及び酢酸(0.5mL)中のN−メチル−N−boc−エチレンジアミン(0.5mL,2.79mmol)及びNaCNBH3(140mg,2.23mmol)冷却(0℃)溶液にEtOH(10mL)中の2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒド(0.547mg,2.79mmol)の溶液を加えた。混合物を室温で2時間撹拌し、2M HCl(1mL)で酸性化し、そして飽和水性Na2CO3(50mL)で中和した。すべての揮発性物質を蒸発させて、生成した水性スラリーをDCM抽出し、そして有機画分を濃縮してN−メチル−N−boc−N'−tmob−エチレンジアミン(7a)を粗油として得、それはRP−HPLCによって精製した。
収量:593mg(1.52mmol)
MS:m/z 377.35=[M+Na]+,(計算値=377.14)
【0331】
N−Fmoc−N−Me−Asp(OtBu)−OH(225mg,0.529mmol)をDMF(3mL)中に溶解し、そして7a(300mg,0.847mmol)、HATU(201mg,0.529mmol)及びコリジン(0.48mL,3.70mmol)を加えた。混合物を室温で2時間撹拌して7bを得た。fmoc脱保護のため、ピペリジン(0.22mL,2.16mmol)を加え、そして撹拌を1時間続けた。酢酸(1mL)を加え、そして7cをRP−HLPCによって精製した。
収量:285mg(TFA塩として0.436mmol)
MS:m/z 562.54=[M+Na]+,(計算値=562.67)
【0332】
6−トリチルメルカプトヘキサン酸(0.847g,2.17mmol)を無水DMF(7mL)中に溶解した。HATU(0.825g,2.17mmol)、並びにコリジン(0.8mL,6.1mmol)及び7c(0.78g,1.44mmol)を加えた。反応混合物を室温で60分間撹拌し、AcOH(1mL)で酸性化し、そしてRP−HPLCによって精製した。生成物画分を飽和水性NaHCO3で中和し、そして濃縮した。残っている水相をDCMで抽出し、そして溶媒を蒸発させて7dを単離した。
収量:1.4g(94%)
MS:m/z 934.7=[M+Na]+,(計算値=934.5)
【0333】
MeOH(12mL)及びH2O(2mL)中の7d(1.40mg,1.53mmol)の溶液にLiOH(250mg,10.4mmol)を加え、そして反応混合物を70℃で14時間撹拌した。混合物をAcOH(0.8mL)で酸性化し、そして7eをRP−HPLCによって精製した。生成物画分を飽和水性NaHCO3で中和し、そして濃縮した。水相をDCMで抽出し、そして溶媒を蒸発させて7eを単離した。
収量:780mg(60%)
MS:m/z 878.8=[M+Na]+,(計算値=878.40)
【0334】
無水DCM(4mL)中の7e(170mg,0.198mmol)の溶液にDCC(123mg,0.59mmol)及びN−ヒドロキシ−スクシンイミド(114mg,0.99mmol)を加え、そして反応混合物を室温で1時間撹拌した。混合物を濾過し、そして濾液をAcOH0.5mLで酸性化し、そして7fをRP−HPLCによって精製した。生成物画分を飽和水性NaHCO3で中和し、そして濃縮した。残っている水相をDCMで抽出し、そして溶媒を蒸発させて7fを単離した。
収量:154mg(0.161mmol)
MS:m/z 953.4=[M+H]+,(計算値=953.43)
【0335】
別法として、リンカー試薬7fを、以下の手順に従って合成した:
【0336】
別の反応スキーム:
【化31】
【0337】
MeOH(20mL)中のN−メチル−N−boc−エチレンジアミン(2g,11.48mmol)及びNaCNBH3(819mg,12.63mmol)の溶液に2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒド(2.08mg,10.61mmol)を少しずつ加えた。混合物を室温で90分間撹拌し、3M HCl(4mL)で酸性化し、そしてさらに15分撹拌した。反応混合物を飽和NaHCO3溶液(200mL)に加え、そしてCH2Cl2を用いて5回抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、そして溶媒を真空で蒸発させた。生成したNメチル−N−boc−N'−tmob−エチレンジアミン(7a)を高真空で完全に乾燥し、そしてさらに精製することなく次の反応工程に用いた。収量:3.76g(11.48mmol,純度89%,7a:二重Tmob保護された生成物=8:1)
MS:m/z 355.22=[M+H]+,(計算値=354.21)
【0338】
CH2Cl2(24ml)中の7a(2g,5.65mmol)の溶液にCOMU(4.84g,11.3mmol)、N−Fmoc−N−Me−Asp(OBn)−OH(2.08g,4.52mmol)及びコリジン(2.65mL,20.34mmol)を加えた。反応混合物を室温で3時間撹拌し、CH2Cl2(250mL)で希釈し、そして0.1M H2SO4(100ml)で3回、そしてブライン(100ml)で3回洗浄した。水相をCH2Cl2(100ml)で再抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして残留物を24mLの体積まで濃縮した。フラッシュクロマトグラフィを用いて7gを精製した。
収量:5.31g(148%,6.66mmol)
MS:m/z 796.38=[M+H]+,(計算値=795.37)
【0339】
THF(60mL)中の7g[5.31g,N−Fmoc−N−Me−Asp(OBn)−OHを基準にして最大4.51mmol]の溶液にDBU(1.8mL,3%v/v)を加えた。溶液を室温で12分間撹拌し、CH2Cl2(400ml)で希釈し、そして0.1M H2SO4(150ml)で3回、そしてブライン(150ml)で3回洗浄した。水相をCH2Cl2(100ml)で再抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、そして濾過した。溶媒を蒸発させて7hを単離し、そしてさらに精製することなく次の反応に用いた。
MS:m/z 574.31=[M+H]+,(計算値=573.30)
【0340】
7h(5.31g,4.51mmol,粗物質)をアセトニトリル(26mL)中に溶解し、そしてCOMU(3.87g,9.04mmol)、6−トリチルメルカプトヘキサン酸(2.12g,5.42mmol)及びコリジン(2.35mL,18.08mmol)を加えた。反応混合物を室温で4時間撹拌し、CH2Cl2(400ml)で希釈し、そして0.1M H2SO4(100ml)で3回、そしてブライン(100ml)で3回洗浄した。水相をCH2Cl2(100ml)で再抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして溶媒を蒸発させて7iを単離した。フラッシュクロマトグラフィを用いて生成物7iを精製した。
収量:2.63g(62%,純度94%)
MS:m/z 856.41=[M+H]+,(計算値=855.41)
【0341】
i−PrOH(33mL)及びH2O(11mL)中の7i(2.63g、2.78mmol)の溶液にLiOH(267mg,11.12mmol)を加え、そして反応混合物を室温で70分間撹拌した。混合物をCH2Cl2(200ml)で希釈し、そして0.1M H2SO4(50ml)で3回、そしてブライン(50ml)で3回洗浄した。水相をCH2Cl2(100ml)で再抽出した。合わせた有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、そして溶媒を蒸発させて7eを単離した。フラッシュクロマトグラフィを用いて7jを精製した。
収量:2.1g(88%)
MS:m/z 878.4=[M+Na]+,(計算値=878.40)
【0342】
無水DCM(4mL)中の7e(170mg,0.198mmol)の溶液にDCC(123mg,0.59mmol)及び触媒量のDMAPを加えた。5分後、N−ヒドロキシ−スクシンイミド(114mg,0.99mmol)を加え、そして反応混合物を室温で1時間撹拌した。反応混合物を濾過し、溶媒を真空で除去し、そして残留物を90%アセトニトリル+0.1%TFA(3.4ml)中に溶解した。粗混合物をRP−HPLCによって精製した。生成物画分をpH7.4の0.5Mリン酸バッファで中和し、そして濃縮した。残っている水相をDCMで抽出し、そして溶媒を蒸発させて7fを単離した。収量:154mg(81%)
MS:m/z 953.4=[M+H]+,(計算値=953.43)
【0343】
実施例8
αA1−インスリン−リンカー複合体8b及び8cの合成
【化32】
【0344】
保護されたインスリンリンカー複合体8aの合成
【化33】
リンカー試薬5dをDCM(20mg/ml)中に溶解し、そしてN−シクロヘキシル−カルボジイミド−N'−メチルポリスチレン−樹脂(1.9mmol/g,10当量)で1時間活性化した。活性化リンカー試薬の溶液を、DMSO中のインスリン(1.2当量)及びDIEA(3.5当量)の溶液(100mgインスリン/mL)に加え、そして混合物を室温で45分間振盪した。溶液を酢酸で酸性化し、DCMを減圧下で蒸発させ、そして、NαA1結合して保護されたインスリン−リンカー複合体8aをRP−HPLCによって精製した。
凍結乾燥した8aを、HFIP/TFA/水/トリエチルシラン90/10/2/2(v/v/v/v)(2mL/100mgの8a)の混合物を用いて室温で45分間処理した。反応混合物を水で希釈し、そしてすべての揮発性物質を窒素流れ下で除去した。NαA1結合インスリン−リンカー複合体8bをRP−HPLCによって精製した。
8b:
収量:リンカー5d 62mg(0.078mmol)から139mg(0.023mmol)
MS:m/z 1524.45=[M+4H]4+(計算値=1524.75)
αA1結合インスリン−リンカー複合体8cは、5dの代わりに6c(72mg,0.101mmol)を使用したことを除いて8bについて記載されたように合成した。
8c:
収量:237mg(0.039mmol)
MS:m/z 1528.23=[M+4H]4+(計算値=1528.28)
【0345】
実施例9
αB1−インスリン−リンカー複合体9の合成
【化34】
二重保護されたNα−boc−GlyA1−Nε−boc−LysB29−インスリンを以前に記載されたように製造した(J. Markussen, J. Halstrom, F. C. Wiberg, L. Schaffer, J. Biol. Chem. 1991, 266, 18814-18818)。リンカー試薬5d(0.04mmol)をDCM(0.5mL)中に溶解し、そしてN−シクロヘキシル−カルボジイミド−N'−メチルポリスチレン樹脂(0.205mmol)を用いて室温で2時間活性化した。生成した活性化リンカー試薬の溶液をビス−boc−保護されたインスリン(24mg,0.004mmol)及びDIEA(5μL,0.0229mmol)の溶液に加え、そして室温で1時間振盪した。反応混合物を酢酸100μLで酸性化し、そして保護されたインスリン−リンカー複合体をRP−HPLCによって精製した。
収量:5mg(0.00075mmol)
MS:m/z 1660.27=[M+4H]4+(計算値=1660.43)
凍結乾燥された保護されたインスリン−リンカー複合体を、HFIP/TFA/水/TES 90/10/2/2(v/v/v/v)1mLを用いて室温で45分間処理した。反応混合物を水0.5mLで希釈し、そしてすべての揮発性物質を窒素流れ下で除去した。NaB1−結合インスリン−リンカー複合体9をRP−HPLCによって精製した。
収量:4mg(0.0007mmol)
MS:m/z 1524.46=[M+4H]4+(計算値=1524.75)
【0346】
実施例10
εB29−インスリンリンカー複合体10の合成
【化35】
インスリン(644mg,0.111mmol)をDMSO6.5mL中に溶解した。冷却された(4℃)0.5Mホウ酸ナトリウムバッファ(pH8.5)3mL及びDMSO2.5mL中の7f(70mg,0.073mmol)を加え、そして混合物を室温で5分間撹拌した。AcOH400μLを加え、そして保護されたインスリン複合体をRP HPLCによって精製した。
収量:172mg(0.025mmol)
MS:m/z 1662.27=[M+4H]4+(計算値=1662.48)
保護基の除去は、HFIP/TFA/TES/水90/10/2/2(v/v/v/v)6mLを用いて、凍結乾燥された生成物画分を室温で1時間処理することによって実施した。NεB29−結合インスリン−リンカー複合体10をRP HPLCによって精製した。
収量:143mg(0.023mmol)
MS:m/z 1531.46=[M+4H]4+(計算値=1531.71)
【0347】
実施例11
インスリン−リンカー−ヒドロゲル11a、11b、11c、11d、11da、11db、及び11dcの製造
【化36】
【0348】
乾燥マレイミド官能化ヒドロゲル4(82mg,10.3μmolマレイミド基)を、フィルターフリットを備えた注射器に充填した。アセトニトリル/水/TFA 1/1/0.001(v/v/v)1.0mL中のインスリン−リンカー−チオール8b(27.8mg,4.6μmol)の溶液を加え、そして懸濁液を室温で5分間定温放置した。酢酸バッファ(0.4mL,pH4.8,1.0M)を加え、そしてサンプルを室温で1時間定温放置した。チオールの消費をエルマン(Ellman)試験によってモニターした。ヒドロゲルを、アセトニトリル/水/TFA 1/0.43/0.001(v/v/v)で10回、そして1.0MサルコシンpH7.4/アセトニトリル/0.5Mリン酸バッファpH7.4/水 1/1/0.2/0.25(v/v/v/v)で2回洗浄した。最後に、ヒドロゲルをサルコシン溶液中に懸濁し、そして室温で2時間定温放置した。
インスリン−リンカー−ヒドロゲル11aをアセトニトリル/水/TFA 1/1/0.001(v/v/v)で10回洗浄し、そして4℃で保存した。
インスリン含量は、pH12の還元条件下におけるインスリン−リンカー−ヒドロゲルのアリコートの全加水分解並びにその後のRP−HPLCによるインスリンA鎖及びインスリンB鎖の定量によって決定した。
【0349】
11aのインスリン装填:
インスリン175mg/インスリン−リンカー−ヒドロゲルのg
10mM酢酸ナトリウムバッファpH5,135mM塩化ナトリウム中の11a懸濁液中のインスリン量:11a懸濁液1ml当たりインスリン12mg
11b、11c、及び11dは、8bの代わりに、それぞれ8c、9及び10を使用したことを除いて上記のように製造した。
【0350】
11daは、8b及び4の代わりに10及び4aを使用したことを除いて上記のように製造した。
【0351】
11dbは、以下のように製造した:
pH2.5 HCl、0.01%Tween−20中のマレイミド官能化ヒドロゲル4aの懸濁液(5.0mL,119μmolマレイミド基)を、フィルターを備えた注射器に充填した。pH2.5のHCl 8.0mL、0.01%Tween−20中のインスリン−リンカー−チオール10(166mg,24.4μmol)の溶液を加え、そして懸濁を室温で5分間定温放置した。コハク酸ナトリウムバッファ(3.9mL,pH4.0,150mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)を加えてpH3.6を得、そしてサンプルを室温で90分間定温放置した。チオールの消費をエルマン試験によってモニターした。ヒドロゲルをコハク酸ナトリウムバッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で10回、そして200mMアセチルシステインを含むコハク酸ナトリウムバッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で3回洗浄した。最後に、ヒドロゲルを、アセチルシステイン含有バッファ中に懸濁し、そして室温で1時間定温放置した。
インスリン−リンカー−ヒドロゲル11dbをコハク酸バッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で10回、そして酢酸ナトリウムバッファ(pH5.0,10mM;130mM NaCl,0.01%Tween−20)で8回洗浄した。
11dbのインスリン装填量:インスリン−リンカー−ヒドロゲル懸濁液のmL当たりインスリン6.12mg
【0352】
11dcは、以下のように製造した。
pH2.5 HCl、0.01%Tween−20(58.3mL,958μmolマレイミド基)中のマレイミド官能化ヒドロゲル4aの懸濁液を固相合成反応器に加えた。2.5HCl、0.01%Tween−20中のインスリン−リンカー−チオール10(117mL,460μmol)の溶液を4aに加えた。懸濁液を室温で5分間定温放置した。コハク酸バッファ(4.8mL,pH4.0,150mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)を加えてpH3.6を得、そして懸濁液を室温で90分間定温放置した。
チオールの消費をエルマン試験によってモニターした。ヒドロゲルを、コハク酸バッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で10回、そして10mMメルカプトエタノールを含むコハク酸バッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で2回洗浄した。最後に、ヒドロゲルをメルカプトエタノール含有バッファ中に懸濁し、そして室温で3時間定温放置した。インスリン−リンカー−ヒドロゲル11dcをコハク酸塩バッファ(pH3.0,50mM;1mM EDTA,0.01%Tween−20)で10回、そしてコハク酸/トリスバッファ(pH5.0,10mM;85g/Lトレハロース,0.01%Tween−20)で6回洗浄した。
11dcのインスリン装填量:インスリン−リンカー−ヒドロゲル懸濁液のmL当たりインスリン18.7mg
別法として、4aの代わりにマレイミド誘導化ヒドロゲルマイクロ粒子4aaを用いることができる。
【0353】
実施例12
インビトロ放出速度論
インスリン−リンカー−ヒドロゲル11a、11b、11c及び11d(インスリン約1mgを含むインスリン−リンカー−ヒドロゲル)を、それぞれ、2mlの60mMリン酸ナトリウム、3mM EDTA、0.01%Tween−20、pH7.4中に懸濁し、そして37℃で定温放置した。時間間隔をとって懸濁液を遠心分離し、そして上澄みを215nmのRP−HPLC及びESI−MSによって分析した。遊離インスリンに関連するUV−シグナルを積分し、そして定温放置時間に対してプロットした。曲線適合ソフトウェアを適用して対応する放出の半減期を評価した。16d、10d、30d及び14dのインビトロ半減期を、それぞれ、11a、11b、11c及び11dについて決定した。
別法として、インスリン−リンカー−ヒドロゲル11dbを、フィルターを備えた注射器に移し、6mlの60mMリン酸ナトリウム、3mM EDTA、0.01%Tween−20、pH7.4中で懸濁し、そして37℃で定温放置した。所定の時点で、上澄みを交換し、そして遊離されたインスリンを215nmのRP−HPLCによって定量化した。放出されたインスリンの量を、定温放置時間に対してプロットした。曲線適合ソフトウェアを適用し、そして11dbについては、インビトロ半減期が15日と決定された。
別法として、インスリン−リンカー−ヒドロゲル11dbをクロマトグラフィカラムに充填し、そして温度制御された恒温器(37℃)中に置いた。リン酸ナトリウム(pH7.4,60mM;3mM EDTA,0.01%Tween−20)を、0.25mL/時(公称)の一定流量でカラムを通してポンピングし、そして恒温器の外側で集めた。所定の時点で、溶液を215nmでRP−HPLCによって分析した。放出されたインスリンの量を定温放置時間に対してプロットした。曲線適合ソフトウェアを適用し、そして11dbについては、インビトロ半減期が13日と決定された。
【0354】
実施例13
インスリンのLysB29−リンカー複合体(12a)及びインスリンリスプロのLysB28−リンカー複合体(12b)の合成:
インスリンのLysB29−リンカー複合体(12a)の合成
【化37】
インスリン1.2g(0.206mmol,0.85当量)を室温でDMSO中に溶解した。30分後、溶液を0℃に冷却しながら、ホウ酸バッファ(0.5M,pH8.5,21.6ml)を4.40分間にわたって加えた。溶液の温度を25〜28℃の間に保持した。7f228mg(0.239mmol,1当量)の溶液をDMSO40ml中に溶解し、3分間かけて時間で変化させずに(time-invariant)加えた。氷浴をはずし、そして反応混合物を室温で5分間撹拌した。MeCN/H2O(1:1,0.1%TFA)70ml及びAcOH400lを添加することによって反応をクエンチした。12aを、RP HPLC(溶媒A:0.1%TFA入りH2O,溶媒B:0.1%TFA入りMeCN,勾配:14分かけて30−80%B,流量:40ml/分)によって精製した。
UPLC分析(RP HPLC精製前)による位置選択性:0.70%の7fがインスリンのGlyA1に結合し、そして76.2%の7fがインスリンのLysB29に結合した(図1a参照)。
収量:862mg(TFA塩,60%)
MS[M+H]1/4+=1662.25g/mol((MW+H)1/4計算値=1662.35g/mol)
【0355】
インスリンリスプロのLysB28−リンカー複合体(12b)の合成
【化38】
インスリンリスプロ0.347g(0.059mmol,0.85当量)を室温でDMSO6ml中に溶解した。30分後、溶液を0℃に冷却しながら、ホウ酸バッファ(0.5M,pH8.5,5.64ml)を1.40分間かけて加えた。溶液の温度を25〜30℃の間に保持した。DMSO8ml中に溶解した7f67mg(0.070mmol,1当量)の溶液を2分間にわたって時間で変化させずに加えた。氷浴をはずし、そして反応混合物を室温で5分間撹拌した。MeCN/H2O(1:1,0.1%TFA)20ml及びAcOH1mlを添加することによって反応をクエンチした。12bを、RP HPLC(溶媒A:0.1%TFA入りH2O、溶媒B:0.1%TFA入りMeCN、勾配:14分かけて30−80%B、流量:40ml/分)によって精製した。
UPLC分析(RP HPLC精製前)による位置選択性:生成物の1.3%は、インスリンリスプロのGlyA1に結合した7fであり、生成物の76.7%は、インスリンリスプロのLysB28に結合した7fであった(図1b参照)。
収量:305mg(TFA塩,72%)
MS[M+H]1/4+=1662.25g/mol((MW+H)1/4計算値=1662.35g/mol)
【0356】
実施例14
ラットにおける薬物動態研究
ラットに一回量を皮下適用した後、血漿インスリン濃度を測定することによって11aの薬物動態を決定した。
10匹の雄ウィスターラット(200〜250g)からなる一群を用いて14日間にわたる血漿インスリン値を研究した。各動物にインスリン6mg(インスリン12mg/ml)を含む酢酸バッファpH5中の11a懸濁液500μLを単回皮下注射した。動物及び時点毎に血液200μLを舌下から採血してLi−ヘパリン血漿100μLを得た。適用前、並びに注射後の4時間、1、2、3、4、7、9、11及び14日後にサンプルを採取した。採血後、15分以内に血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。超高感度インスリンELISAキット(Mercodia)を用いて製造者のプロトコールに従って血漿インスリン濃度を測定した。
測定前に血漿サンプルをELISAバッファ(キャリブレータ0で1:5及び1:10)中に希釈した。インスリン標準を二通りに測定し、そして線形回帰を用いて値を適合させることによって得た検量線からインスリン濃度を算出した。インスリン濃度は、それぞれの希釈係数によって修正され、時間に対してプロットされた2つの独立した希釈系列からの平均として定義された。各時点の平均血漿インスリン濃度は、図2に示すように用いたすべての動物の平均を算出することによって得た。
14日にわたってインスリンのバーストのない持続的放出が観察された。
【0357】
実施例15:ラットにおける薬物動態研究
健常なラットにおいて13日間にわたって血漿インスリン濃度を測定することによって11daの薬物動態を決定した。8匹のウィスターラット(体重約250g)にインスリン3mg(約12mg/kg)を含む酢酸バッファpH5中の試験品目11da500μLを単回皮下注射した。動物及び時点毎に血液200μLを尾静脈から採血してLi−ヘパリン血漿約100μLを得た。試験品目投与の1日前並びに4時間、1日、2日、3日、6日、7日、8日、10日及び13日後にサンプルを採取した。血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。ヒトインスリン超高感度ELISAキット(DRG Instruments GmbH, Germany)を用いて製造者の説明に従って血漿サンプルのインスリン含量を測定した。ブランク(キャリブレータ0)は、検量線に含まれており、そしてサンプル値から差し引かれており、そして3次元の多項式を用いて検量線を適合させた。分析前に血漿サンプルをかき混ぜ、そして反応管中で希釈した(キャリブレータ0で1:5及び1:10)。分析のため、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Ultra)を用いて参照波長補正なしで450nmのODを測定した。研究したすべての動物について13日目までの血漿インスリン含量の結果を図3に示す。
インスリン3mgを含む11d500μLの単回皮下注射後、平均血漿インスリン値は、1日目に最大約500pmまで上昇した。予想通り、血漿インスリン濃度は、その後2週間のうちに連続的に低下した。本研究の第1週内の血漿インスリン値のピーク対トラフ比は、約1.7であった。
【0358】
実施例16
ラットにおける薬物動態及び薬力学研究
糖尿病スプレーグドーリー(Sprague-Dawley)(SD)ラットを用いた探索的薬物動態学的/薬力学的研究において血漿インスリン濃度及び血糖低下効果を分析することによって放出されたインスリンの量及び生物活性(bioactivity)を研究した。この目的のため、ストレプトゾトシン(STZ)を用いて8匹のラットに糖尿病を誘発させ、そして血糖値が0日目において350mg/dLより上のすべての動物を本研究に含めた。8匹のSDラットのうちの7匹は、糖尿病になり、そしてインスリン6.4mgを含む酢酸バッファpH5中の試験品目11da500μLを単回皮下注射した。動物及び時点毎に血液200μLを尾静脈から採血してLi−ヘパリン血漿約100μLを得た。試験品目投与の4日前、並びに2時間、1日、2日、3日、6日、7日、8日、10日及び13日後にサンプルを採取した。血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。注射前に3回並びに試験品目投与の2時間、1日、2日、3日、6日、7日、8日、10日、13日、15日、17日、20日、22日及び24日後に、AccuChek Comfort器具を用いて尾静脈から血糖を測定した。ヒトインスリンELISAキット(DRG Instruments GmbH, Germany)を用いて製造者の説明に従って血漿サンプルのインスリン含量を測定した。検量線にはブランク(キャリブレータ0)が含まれており、サンプル値から差し引き、そして3次元の多項式を用いて検量線を適合させた。分析前に血漿サンプルをかき混ぜ、そして反応管(キャリブレータ0で1:5及び1:10)中で希釈した。分析のため、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Ultra)を用いて参照波長の補正なしに450nmのODを測定した。図4に示すように血漿インスリン値を2週間にわたって、そして血糖値を3週間にわたってモニターした。
インスリンヒドロゲル11daの単回皮下注射後、血糖値は10日間にわたって効果的に低下し、低血糖に関するなんらかの症状もなく100mg/dL以下の値であった。動物当たりインスリン6.4mgのより高い用量のため、最大血漿インスリン濃度は、1日目に約800pMであり、そして2週間のうちに約300pMまで連続的に低下した。同時に血糖値は、10日後に上昇を始め、そして3週間後に投薬前の値に到達した。
【0359】
実施例17:
ラットにおける24時間にわたる薬物動態研究(バースト研究)
インスリンがインスリン−リンカー−ヒドロゲルからバーストなしに放出されることを立証するため、健常なラットにおいて24時間にわたって血漿インスリン濃度をモニターした。8匹のスプレーグドーリーラット(体重200〜250g)を2つの群に分け、そして体重1kg当たり酢酸バッファpH5中の試験品目11db2mLを単回皮下注射した。試験品目は、各動物が体重1kg当たりインスリン8mgを受けるように4mg/mlのインスリンの濃度を有した。動物及び時点毎に血液200μLを尾静脈から採血してLi−ヘパリン血漿約100μLを得た。群Aサンプルは、投薬前並びに試験品目適用の5分、30分、2時間、4時間及び8時間後、そして群Bについては、投薬前並びに試験品目投与の15分、1時間、3時間、6時間及び24時間後に採取した。血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。ヒトインスリン超高感度ELISAキット(DRG Instruments GmbH, Germany)を用いて製造者の説明に従って血漿サンプルのインスリン含量を測定した。検量線にはブランク(キャリブレータ0)が含まれており、サンプル値から差し引き、そして3次元の多項式を用いて検量線を適合させた。分析前に血漿サンプルをかき混ぜ、そして反応管(キャリブレータ0で1:5及び1:10)中で希釈した。分析のため、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Ultra)を用いて参照波長の補正なしに450nmのODを測定した。結果を図5に示し、そしてインスリンがなんらバーストなしに放出されることを明白に示している。
【0360】
実施例18:
ラットにおける薬物動態及び薬力学反復投与研究
糖尿病ラットにおいて4週間にわたって血漿インスリン濃度及び血糖値を測定することによって11daを毎週3回投与した後の薬物動態及び薬力学を決定した。
平均体重239gの8匹のスプレーグドーリーラットを用いた。ストレプトゾトシン(STZ)で糖尿病を誘発させ、そして0日目(試験品目注射日)に血糖値が350mg/dLより上のすべての動物を本研究に含めた。STZ処置を受けた8匹の動物のうち8匹が糖尿病になり、そして体重1kg当たり酢酸バッファpH5中の試験品目11da2mLを0、7及び14日目に毎週3回皮下注射した。4mg/mlの試験品目インスリン濃度では、適用された用量は、体重1kg当たりインスリン8mgであった。動物及び時点毎に200μLの血液を尾静脈から採血してLi−ヘパリン血漿約100μLを得た。試験品目投与の3日前、そして28日後までサンプルを採取した。血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。注射前に3回、そして注射後30日までAccuChek Comfort器具を用いて尾静脈から血糖を測定した。ヒトインスリンELISAキット(DRG Instruments GmbH, Germany)を用いて製造者の説明に従って血漿サンプルのインスリン含量を測定した。検量線にはブランク(キャリブレータ0)が含まれており、サンプル値から差し引き、そして3次元の多項式を用いて検量線を適合させた。分析前に血漿サンプルをかき混ぜ、そして反応管(キャリブレータ0で1:5及び1:10)中で希釈した。分析のため、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Ultra)を用いて参照波長の補正なしに450nmのODを測定した。血漿インスリン値及び血糖値を4週間にわたってモニターし、そして両方を図6に示す。
曲線の形状は、3回目の注射後に血糖値を約100mg/dLの値まで着実に低下させ、それは約1週間低いままであったことにより放出されたインスリンが生物活性であることを示している。同時に、最大インスリン濃度は、1回目の後に200pMから始まり、そして2回目の投薬後に300pM、3回目の投薬後に400pMまで着実に上昇し、そして、その後、2週間のうちに100pM以下の値に再び低下した。
【0361】
実施例19:
ラットにおける薬物動態研究
健常なラットにおいて13日間にわたって血漿インスリン濃度を測定することによって11dcの薬物動態を決定した。
8匹のウィスターラット(体重約230g)にインスリン3mg(12mg/kgの用量)を含む、コハク酸バッファpH5(10mMコハク酸/トリス,85g/lトレハロース,0.01%Tween]20,pH5.0)中の2ml/kgの試験品目11dcを単回皮下注射した。動物及び時点毎に血液200μLを尾静脈から採血してLi−ヘパリン血漿約100μLを得た。試験品目投与の4日前、そして0.3時間(4匹の動物)、1時間(4匹の動物)、2時間(4匹の動物)、4時間(4匹の動物)、1日、2日、3日、6日、8日、10日及び13日後にサンプルを採取した。血漿サンプルを凍結し、そして検定するまで−80℃で保存した。ヒトインスリン超高感度ELISAキット(DRG Instruments GmbH, Germany)を用いて製造者の説明に従って血漿サンプルのインスリン含量を測定した。検量線にはブランク(キャリブレータ0)が含まれており、サンプル値から差し引き、そして3次元の多項式を用いて検量線を適合させた。分析前に血漿サンプルをかき混ぜ、そして反応管(キャリブレータ0で1:5及び1:10)中で希釈した。分析のため、マイクロタイタープレートリーダー(Tecan Ultra)を用いて参照波長の補正なしに450nmのODを測定した。研究したすべての動物についての13日目までの血漿インスリン含量の結果を図7に示す。
12mg/kgの11dcを単回皮下注射した後、平均血漿インスリン値は、1日目に最大約500pMまで上昇した。予想通り、血漿インスリン濃度は、その後、2週間のうちに連続的に低下した。最初の週のうち、血漿インスリンのピーク対トラフ比は、約1.4であった。
【0362】
実施例20
pH7.4でのリアルタイムインスリン放出及びヒドロゲル分解
pH5.0の酢酸バッファ(10mM,130mM NaCl,0.01%(w/v)トゥイーン−20)中のインスリン−リンカーヒドロゲル11a(730μL,インスリン3.19mgを含む)を、pH7.4の放出バッファ(60mMリン酸ナトリウム,3mM EDTA,0.01%(w/v)Tween−20)で3回洗浄したサンプル調合管中に充填し、そして1.00mLまで満たした。懸濁液のアリコート(0.5mL,インスリン1.59mg)をクロマトグラフィカラム中に充填し、そして温度制御された恒温器(37℃)中に置いた。放出バッファ(pH7.4)を0.25mL/時(公称)の一定流量でカラムを通してポンピングし、そして恒温器の外側で集めた。所定の時点で溶液をRP−HPLC(215nm)によって分析した。放出されたインスリンの量を定温放置時間に対してプロットし、そして曲線適合ソフトウェアを適用して対応する放出半減期を推定した。インスリン放出については、半減期が9.4日と決定された。
37℃で39日の定温放置後、ヒドロゲル懸濁液をサンプル調合管に移し、pH7.4の放出バッファを用いて残留ヒドロゲルをカラムから洗浄し、そしてサンプルを1.00mLまで満たした。2つのアリコート(それぞれ300μL)を滅菌サンプル調合管に移し、1.5mLまで満たし、そして37℃で定温放置した。時間間隔をおいてサンプルを採取し、そしてサイズ排除クロマトグラフィによって分析した。1つ又はそれ以上の骨格鎖部分(反応性官能基に対応する)を含むヒドロゲル放出された水溶性分解生成物に相当するUV−シグナルを積分し、そして定温放置時間に対してプロットした、図8参照。
【0363】
実施例21
インスリン−リンカー−ヒドロゲルプロドラッグの注射可能性
pH5.0のコハク酸/トリス(10mM,40g/Lマンニトール;10g/Lトレハロース二水和物;0.05%Tween−20)中のインスリン−リンカー−ヒドロゲルプロドラッグ11dc(32−75mからのビーズサイズ分布、インスリン18mg/ml)5mLを用いた。20Gの注射針を介してインスリン−リンカー−ヒドロゲルプロドラッグ懸濁液を1mLの注射器(長さ57mm)に充填した。20Gの注射針を30Gの注射針と交換し、そして注射器台(Aqua Computer GmbH&Co. KG)に設置し、そして172mm/分(50μL/秒に等しい)のピストン速度で測定を開始した(押込試験台(Force test stand):Multitest 1-d,データ記録ソフトウェア:EvaluatEmperor Lite, Version 1.16-015、Forge Gauge:BFG 200 N(すべてMecmesin Ltd., UK)。下の表に示したピストン速度を高める実験は、新しいインスリン−リンカー−ヒドロゲルプロドラッグサンプルを用いて実施した。水及びエチレングリコールを用いた実験を、それに応じて実施した。すべての実験で、同じ30Gの注射針を用いた。30Gの注射針を用いた力対流量を図9に示す。
【0364】
【表1】
【0365】
略語:
AcOH 酢酸
AcOEt 酢酸エチル
Aib 2−アミノイソ酪酸
Bn ベンジル
Boc t−ブチルオキシカルボニル
COMU (1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ−モルホリノ−カルベニウムヘキサフルオロホスフェート

DBU 1,3−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン
DCC N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド
DCM ジクロロメタン
DIEA ジイソプロピルエチルアミン
DMAP ジメチルアミノピリジン
DMF N,N−ジメチルホルムアミド
Dmob 2,4−ジメトキシベンジル
DMSO ジメチルスルホキシド
EDC 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
EDTA エチレンジアミン四酢酸
eq 化学量論的当量
ESI−MS エレクトロスプレーイオン化質量分析
EtOH エタノール
Fmoc 9−フルオレニルメトキシカルボニル
HATU O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HFIP ヘキサフルオロイソプロパノール
HPLC 高性能液体クロマトグラフィ
HOBt N−ヒドロキシベンゾトリアゾール
iPrOH 2−プロパノール
LCMS 質量分析連動液体クロマトグラフィ
Mal 3−マレイミドプロピル
Mal−PEG6−NHS N−(3−マレイミドプロピル)−21−アミノ−4,7,10,13,16,19−ヘキサオキサ−ヘンエイコサン酸NHSエステル
Me メチル
MeCN アセトニトリル
MeOH メタノール

Mmt 4−メトキシトリチル
MS 質量スペクトル/質量分析
MTBE メチルtert.−ブチルエーテル
MW 分子量
n.d. 未検出
NHS N−ヒドロキシスクシンイミド
OD 光学濃度
OBu ブチルオキシ
OtBu tert.−ブチルオキシ
PEG ポリ(エチレングリコール)
Phth フタル−
PyBOP ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート
RP−HPLC 逆相高性能液体クロマトグラフィ
rpm 1分当たりの回数
RT 室温
SEC サイズ排除クロマトグラフィ
Su スクシンイミジル
TCP 2−クロロトリチルクロリド樹脂
TES トリエチルシラン
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
TMEDA N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン
Tmob 2,4,6−トリメトキシベンジル
Trt トリフェニルメチル、トリチル
UPLC 超高性能液体クロマトグラフィ
UV 紫外線
VIS ビジュアル(visual)
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9