(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分析対象物がヘモグロビンA1cであり、前記リガンドが、ヘモグロビンA1c中のペプチド配列に対応する糖化ペプチドである、ことを特徴とする請求項7に記載の分析対象物測定方法。
前記分析対象物が、ヘモグロビンA1cであり、前記リガンドが、ヘモグロビンA1c中のペプチド配列に対応する糖化ペプチドである、ことを特徴とする請求項14に記載の分析デバイス。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床検査において、各種疾病の進行度合いを検査するために、様々な検査方法が利用されてきており、血液等の生物学的試料と分析試薬とを反応させ、生物学的試料中の様々な成分を定量可能な大型の自動分析装置が実用化されており、医療分野においては無くてはならない存在となっている。そのような背景の中、近年市場からは、低コスト、試料液の少量化、短時間測定、装置の小型化、多項目同時測定など、より高精度で、より運用の自由度が高い分析装置や分析方法の登場が望まれている。
【0003】
運用の自由度が高い分析装置や分析方法の一つとして、抗原抗体反応を基本とした測定原理が一般的に知られており、免疫比濁法、免疫比朧法、ラテックス免疫凝集法、免疫凝集阻止法、ラテックス免疫凝集阻止法、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法、電気化学免疫測定法、蛍光偏光免疫測定法、免疫クロマト法などのイムノアッセイがある。
【0004】
粒子凝集反応に基づくイムノアッセイにおいて、生物学的試料中の特定の成分に対する定性的または定量的な測定は、遊離状態の抗分析対象物抗体または、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体の凝集の有無及びその程度によって決められる。この水懸濁性粒子として最も一般的に使用されているのはラテックス粒子と呼ばれるものである。
【0005】
粒子凝集反応に基づくイムノアッセイのうち、免疫学的粒子凝集阻止反応を利用する測定方法が知られている。抗分析対象物抗体とこの抗体に特異的な凝集試薬とを混合すると、凝集試薬が抗分析対象物抗体を認識し、凝集が起こるのであるが、ここに分析対象物が存在すると、この凝集が阻害されるので、この凝集の程度を光学的に測定または計数することによって、分析対象物を定量的に検出することができる。この測定方法は、様々な分析対象物に適用可能であり、広く利用できる。凝集反応において、凝集試薬の濃度は反応に大きな影響を及ぼす。
【0006】
なお、イムノアッセイで用いる凝集試薬に関する先行技術文献情報として、リガンド−ポリマー複合体の製造方法が知られており、一般的によく用いられている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、生物学的試料中の特定の成分、特にヘモグロビンA1cを測定するために用いる凝集試薬であるリガンド−ポリマー複合体に関して公開されており、ポリアスパラギン酸などのポリマー材料上にリガンドを共有結合させるリガンド−ポリマー複合体について記載されている。
図7は、従来のリガンド−ポリマー複合体である凝集試薬のイメージ図であり、従来の凝集試薬4は、ポリペプチド(担体)5、リンカー2、リガンド3から成る。リガンド3に、リンカー2を介して、ポリペプチド(担体)5を結合させることによって製造する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献1に記載の方法によれば、制御しうる数のリガンドとポリマー材料との結合によって生成されるリガンド−ポリマー複合体では、そのリガンド−ポリマー複合体を用いたイムノアッセイによる生物学的試料中の特定成分の測定において、反応性における感度向上や高い再現性についての技術向上がなされているものの、その測定に要される時間や、リガンド−ポリマー複合体の室温保存については考慮されていなかった。つまり、従来のリガンド−ポリマー複合体を用いたイムノアッセイでは、凝集反応速度が遅いため、測定に長い時間を要する。また、室温での保存が不安定なため、冷蔵での保存が必要となる。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、免疫反応に悪影響を与えることなく、イムノアッセイによる生物学的試料中の特定成分に対する測定時間の短縮と凝集試薬の保存安定性の向上を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の凝集試薬の製造方法は、制御された数のリガンドを、
チキンガンマグロブリンに、化学的に結合させる凝集試薬の製造方法であって、前記リガンドを、官能基を有するリンカーを介して、前記
チキンガンマグロブリンに結合させる、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項
2に記載の凝集試薬の製造方法は、請求項1に記載の凝集試薬の製造方法において、前記官能基を有するリンカーの長さが、15Å以下である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項
3に記載の凝集試薬の製造方法は、請求項1に記載の凝集試薬の製造方法において、前記リンカーが直鎖構造を有する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項
4に記載の凝集試薬の製造方法は、請求項1に記載の凝集試薬の製造方法において、前記リガンドが、特異的なタンパクを認識し、結合相手とする物質である、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項
5に記載の凝集試薬の製造方法は、請求項1に記載の凝集試薬の製造方法において、前記リガンドがハプテンである、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項
6に記載の凝集試薬の製造方法は、請求項1に記載の凝集試薬の製造方法において、前記凝集試薬が、タンパク質1個当たり、10個以上のリガンドが結合した複合体である、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項7に記載の分析対象物測定方法は、粒子凝集制御イムノアッセイを行って試験試料中の分析対象物を測定する測定方法において、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体と試験試料とを混合し、該試験試料中に含まれる分析対象物に前記抗分析対象物抗体を結合させる工程と、前記水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体と試験試料とが混合された溶液と、前記抗分析対象物抗体に対する特異的な結合部位を有するリガンドを、官能基を有するリンカーを介して
チキンガンマグロブリンに化学的に結合させてなる凝集試薬とを混合し、前記試験試料中に含まれる分析対象物と結合していない抗分析対象物抗体を前記凝集試薬により凝集させる工程と、前記抗分析対象物抗体と凝集試薬との反応により生じる凝集塊を検出し、前記試験試料中の分析対象物を定量する工程とを含む、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項
8に記載の分析対象物測定方法は、請求項
7に記載の分析対象物測定方法において、前記分析対象物がヘモグロビンA1cであり、前記リガンドが、ヘモグロビンA1c中のペプチド配列に対応する糖化ペプチドである、ことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項
9に記載の分析対象物測定方法は、請求項
7に記載の分析対象物測定方法において、前記凝集試薬を抗原過多となる量(プロゾーン領域)で使う、ことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項
10に記載の分析対象物測定方法は、請求項
7に記載の分析対象物測定方法において、前記凝集塊の濁度を光学的測定によって検出する、ことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項
11に記載の分析対象物測定方法は、請求項
7に記載の分析対象物測定方法において、前記凝集塊を計数することによって検出する、ことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項12に記載の試験キットは、粒子凝集制御イムノアッセイを行って試験試料中の分析対象物を測定する試験キットにおいて、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体と、抗分析対象物抗体に対する特異的な結合部位を有するリガンドを、官能基を有するリンカーを介して
チキンガンマグロブリンに化学的に結合させてなる凝集試薬と、を保持する、ことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項
13に記載の試験キットは、請求項
12に記載の試験キットにおいて、前記水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体及び前記凝集試薬が、乾燥状態で担持されている、ことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項14に記載の分析デバイスは、粒子凝集制御イムノアッセイによって試験試料中の分析対象物を測定する分析デバイスにおいて、前記試験試料を注入する試料注入部と、前記試料注入部に連結され、前記注入された試料に、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体と、前記抗分析対象物抗体に対する特異的な結合部位を有するリガンドを、官能基を有するリンカーを介して
チキンガンマグロブリンに化学的に結合させてなる凝集試薬とを混合し、前記試料中に含まれる分析対象物と結合していない抗分析対象物抗体を前記凝集試薬により凝集させる凝集部と、前記凝集部に連結され、前記抗分析対象物抗体と前記凝集試薬との反応により生じる凝集塊を検出し、前記試験試料中の分析対象物を定量する測定部、とを備えたことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項
15に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記分析対象物が、ヘモグロビンA1cであり、前記リガンドが、ヘモグロビンA1c中のペプチド配列に対応する糖化ペプチドである、ことを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項
16に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記凝集試薬を抗原過多となる量(プロゾーン領域)で担持した、ことを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項
17に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体または、前記凝集試薬が、乾燥状態で担持されている、ことを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項
18に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記測定部で、前記凝集塊の濁度を光学的測定によって検出する、ことを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項
19に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記測定部で、前記凝集塊を計数することによって検出する、ことを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項
20に記載の分析デバイスは、請求項
14に記載の分析デバイスにおいて、前記測定部と前記凝集部とが一体に形成された、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の凝集試薬によれば、タンパク質の高次構造により、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体と、抗分析対象物抗体に対する特異的な結合部位を有するリガンドを、官能基を有するリンカーを介して
チキンガンマグロブリンに化学的に結合させてなる凝集試薬とが凝集する凝集反応速度が速くなり、凝集制御イムノアッセイの測定時間を短縮することができる。また、凝集試薬の保存安定性が向上し、室温での保存が可能となるので、冷蔵での保存が不要となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の凝集試薬製造方法及び凝集試薬を用いた分析対象物測定方法の実施の形態、及びその試験キット、分析デバイスについて、詳細に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1では、凝集試薬製造方法及び凝集試薬を用いたヘモグロビンA1cの測定方法について説明する。
【0036】
A.リガンドの製造
本発明のリガンドは、特異的なタンパク質を認識し、それを結合相手とする物質であれば、いかなるものであってもよい。この代表的な例として、ハプテンが挙げられる。本実施の形態1では、ヘモグロビンA1c中のペプチド配列に対応する糖化ペプチドとして、バリン−ヒスチジン−ロイシン−トレオニン−システインの配列でアミノ酸を結合させたペプチド(以下、VHLTCという)を、凝集試薬のリガンドとして用いる。このリガンドを用いることによって、ヘモグロビンA1c認識抗体に特異的に結合することができる。また、このリガンドを変えることによって、様々な抗体を特異的に認識するリガンドを作製することができる。
【0037】
B.凝集試薬の製造
本発明の凝集試薬は、制御された数のリガンドを、分子量6万以上の高次構造を持つタンパク質に、官能基を有するリンカーを介して化学的に結合させたものである。また、この凝集試薬は、タンパク質1個当たり、10個以上のリガンドが結合した複合体である。
【0038】
ここで、タンパク質は、6万以上の分子量のものであれば、いかなるものであってもよい。この代表的なタンパク質の例としては、ガンマグロブリン、チログロブリン、アルブミンなどのグロブリン様タンパクがあげられるが、これらのタンパク質に限定されるものではない。より望ましくは、6万〜30万程度の分子量のものがよい。
【0039】
ここで、タンパク質として、6万以上の分子量のものが好ましい理由は、以下の通りである。すなわち、分子量が6万より小さいタンパク質は、リンカーが化学結合する部位であるアミノ基の数が少ない為、10個以上のリガンドが結合することができず、水懸濁性粒子の凝集反応性が低下するという欠点がある。これに対して、分子量が6万以上のタンパク質は、リンカーが化学結合する部位であるアミノ基の数が多い為、10個以上のリガンドが結合することができ、その結果として、水懸濁性粒子の凝集反応性が高いという利点があるからである。
【0040】
官能基を有するリンカーの長さは、15Å以下であることが望ましい。リンカーは、官能基を有するものであれば、いかなる所望のものであってもよく、直鎖構造あるいは平面構造を有するものであってもよい。代表的なリンカーの例としては、N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide (以下EMCSという)、Succinimidyl−trans−4−(N−maleimidylmethyl)cyclohexane−1−carboxylate (以下SMCCという)、N−succinimidy(4−iodoacetyl)aminobenzoate (以下SIABという)などが用いられる。
【0041】
図1は、本発明の実施の形態5における凝集試薬のイメージ図である。
図1において、本発明の凝集試薬4は、分子量6万以上のタンパク質(担体)1、官能基を有するリンカー2、VHLTC(リガンド)3からなる。この凝集試薬4は、リガンド(VHLTC)3を、官能基を有するリンカー2を介して、タンパク質(担体)1に結合させることによって製造される。このとき、担体1個当たり、20個程度のリガンド3を結合させておく。このリガンド3が特異的な抗体を認識し、抗体と結合する。1つの凝集試薬の2つ以上のリガンド3に抗体が結合すると、これらの抗体同士が凝集試薬を介して結合し、次々に凝集していく。
【0042】
このようにして製造されたリガンド−タンパク質複合体は、イムノアッセイにおける凝集試薬として用いられる。
【0043】
C.ラテックス標識抗体の製造
ポリスチレンラテックス粒子に、抗human HbA1c抗体を過剰量加えて結合させ、さらに、ウシ血清アルブミン(以下BSAという)でブロッキングすることにより、ラテックス標識抗体を作製する。この抗human HbA1c抗体が、試験試料中のヘモグロビンA1c及び凝集試薬のリガンド(VHLTC)3を認識し、結合する。また、この抗体を変えることによって、様々な試験試料中の成分及び凝集試薬を認識するラテックス標識抗体を作製することができる。
【0044】
D.ラテックス免疫凝集阻止法を用いた被検試料中の分析対象物の測定
血液検体中のヘモグロビン及びヘモグロビンA1cを測定する為に、まず血液検体を希釈し、非イオン性界面活性剤と酸化剤とを含む変性試薬を用いて、希釈された血液検体と混合させ、血液検体中のヘモグロビンをメト化及び変性させる。このようにヘモグロビンをメト化することによって、ヘモグロビンを540nm付近の吸光度で測定することが可能となる。その後、前記希釈及び変性させた検体について、540nm近傍の波長で吸光度を測定し、全ヘモグロビン量を、メトヘモグロビン法を用いて算出する。ただし、SLSヘモグロビン法などの、その他のヘモグロビン測定法を用いてもよい。
【0045】
次に、ヘモグロビンA1c測定の為に、変性させた検体を抗human HbA1c抗体を標識したラテックス標識抗体に加える。ここで、このラテックスに標識された抗human HbA1c抗体と、血液検体中のヘモグロビンA1cの変性された部位の間で抗原抗体反応が起こる。その後、ラテックス標識抗体と反応した検体に、凝集試薬を加えると、血液検体中のヘモグロビンA1cが結合していない、残りの抗human HbA1c抗体に凝集試薬が結合する。その結果、凝集試薬が結合した部分で次々に凝集反応が起こり、凝集塊ができる。反応液中に発生する凝集塊の量は、ヘモグロビンA1cの濃度に反して発生するのであるが、この反応をラテックス免疫凝集阻止反応という。
【0046】
次に、一定時間後に、この反応液中に発生した凝集塊による濁度を光学的測定によって検出するために、測定部の吸光度(A)を測定する。また、凝集試薬を加える前に、あらかじめ、測定部のブランク吸光度(A1)も測定する。これらの吸光度の差(A−A1)により、吸光度変化を算出する。
【0047】
吸光度変化=A−A1
この吸光度変化より、血液検体中のヘモグロビンA1c量を算出する。
【0048】
これらの結果より、血液検体中のヘモグロビンに対するヘモグロビンA1cの量、つまり存在比率の検出が可能となる。
【0050】
このような本実施の形態1の凝集試薬によれば、制御された数のリガンドを、分子量6万以上の高次構造を持つタンパク質に、官能基を有するリンカーを介して化学的に結合させることにより製造したので、タンパク質の高次構造により、水懸濁性粒子に結合している抗分析対象物抗体間の凝集反応速度を速めることができ、凝集制御イムノアッセイの測定時間を短縮することが可能となる。さらに、凝集試薬の保存安定性を向上させ、室温での保存が可能となるので、冷蔵での保存が不要となる。
【0051】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、少なくとも凝集試薬及びラテックス標識抗体及び変性試薬を保持し、これらの試薬によりヘモグロビンとヘモグロビンA1cを測定するための試験キットについて説明する。
【0052】
試験キットとは、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cの測定に必要な試薬や部材を詰め合わせたものを示す。具体的には、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cの測定に必要な試薬と、使用説明書、ランセットもしくは注射器等の採血用具、採血前後に必要な消毒用品、試薬の添加に用いるディスペンサやスポイト等の秤量器具などの部材を詰め合わせたものであり、これらの試薬及び部材を用いて、検査対象となる試料を採血して定量・希釈・変性等を行った後、臨床用の自動測定機、もしくは分光光度計等を使用して、簡便にヘモグロビンとヘモグロビンA1cを測定することができるようにしたものである。
【0053】
試験キットでは、採血から測定までの方法が手順化されているので、使用説明書に従えば専門的な知識を保有していなくとも簡便に使用することが可能である。また、前述のヘモグロビンとヘモグロビンA1cの測定に必要な試薬とは、少なくとも凝集試薬及びラテックス標識抗体及び変性試薬を含む試薬であり、これによってヘモグロビンA1cの測定を迅速且つ確実に行うことができる。
【0054】
また、前記試験キットに保持させる前記ラテックス標識抗体と前記変性試薬とは、別々に保持してもよいし、該変性試薬をラテックス標識抗体に含めて保持してもよい。
【0055】
以上のように、本実施の形態2の試験キットによれば、試料中のヘモグロビンA1cの測定に必要な試薬の全てがそれぞれ容器等に封入されて備えるようにしたので、使用者はあらかじめ定められた手順にしたがって、ヘモグロビン及びヘモグロビンA1cの測定を容易に行うことができる。
【0056】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3では、少なくとも、分析試料を注入する注入口と、希釈液を保持する希釈液収容室と、注入された分析試料を希釈・変性させる希釈・変性室と、該希釈・変性されたヘモグロビンを検出するヘモグロビン測定室と、該希釈・変性された分析試料をラテックス標識抗体と反応させるラテックス反応室と、前記ラテックス標識抗体と反応した分析試料を凝集試薬と反応させる凝集室及び分析試料中の分析対象物を測定する測定室とから構成されるヘモグロビン及びヘモグロビンA1cを測定するための分析デバイスについて説明する。
【0057】
分析デバイスについては、該分析デバイスを評価する測定装置とセットにして、分析システムの形態をとることが可能である。この形態をとることによって、より簡便かつ迅速にヘモグロビンA1cの測定が可能となる。
【0058】
本実施の形態3の分析デバイスは、凝集試薬及びラテックス標識抗体及び変性試薬を別々な箇所に担持したものである。
【0059】
以下に、本実施の形態3の分析デバイスの測定方法について説明する。
まず、血液検体と、変性試薬とを混合し、血液検体の希釈・変性を行い、その後、前記希釈及び変性させた血液検体について、所定の波長の光を照射して、全ヘモグロビンを測定する。次に、希釈・変性した血液検体とラテックス標識抗体とを混合し、抗原抗体反応を行い、測定部のブランク吸光度の測定を行う。その後、これらの混合溶液を凝集試薬と混合し、抗分析対象物抗体同士を凝集させ、その凝集により生じた凝集塊の吸光度を測定する。これらの測定によって、実施例の形態1に記載した式を用いて、ヘモグロビンA1cを算出する。これらのヘモグロビンとヘモグロビンA1cの測定によって、試料中のヘモグロビンに対するヘモグロビンA1cの量、つまり存在比率を算出することにより濃度検出が可能となる。
【0060】
なお、血液検体の希釈・変性を行うと同時にラテックス標識抗体と抗原抗体反応をすることも可能である。
【0061】
これらの分析デバイスの形状としては、前述した一連の反応、及び測定が、スムーズに進められることが重要である。
【0062】
分析デバイスの一例としては、例えば、遠心力と毛細管力を利用したものが考えられ、分析デバイス内に形成した複数のチャンバー(空間)と該チャンバー間に形成した流路を通して、液体試料を自由に移送させることによって、測定の順序や試薬容量、反応時間等を制御することが可能である。そして、このような構成の分析デバイスを評価する装置の一例としては、前記分析デバイスを回転させ得る回転機構と、吸光度測定が可能な光学測定機能とを搭載したものが挙げられる。
【0063】
以下、
図2、
図3を用いて、前述した分析デバイス及び該分析デバイスを含む分析システムの一構成例について説明する。
【0064】
図2は、分析システムの構成を示す図である。分析システム100は、分析デバイス101と、該分析デバイス101に対して光源102から光を照射し、透過光をディテクタ103で検出する測定部110と、該分析デバイス101をその一部を刳り抜いた箇所に固定する回転基板104と、該回転基板104を回転させるモータ105とを備える構成となっている。なお、
図2において、モータ105の駆動機構や、光源102、ディテクタ103につながる回路構成については割愛する。
【0065】
図3は、前記分析デバイスの詳細な構成を示す図であり、
図3(a)はその分解斜視図であり、
図3(b)は、試薬を添加した状態を示す図である。
【0066】
分析デバイス101は、下部基板201と、上部基板213とを、表裏両面に接着効果を保有する接着層202で貼り合わせることにより形成されたものである。基板の材料としては、透明な樹脂基板が用いられ、射出成形等によって、精度よくさまざまな形状の空間を形成している。詳述すると、前記下基板201には、検体を希釈・変性させる部位である希釈・変性室203と、希釈液収容室204と、検体中のヘモグロビンを検出する検出部A205と、ヘモグロビンA1cを検出する検出部B206と、を形成するための凹部が、その上面に射出成形により成形されている。なお、前記上部基板213及び前記下部基板201の樹脂の素材としては、ポリカーボネートやポリスチレンやアクリルなどのプラスチック樹脂など、光を透過する材質であれば、特にこれに制限されない。
【0067】
また、接着層202には、前記希釈・変性室203、希釈液収容室204、検出部A205、検出部B206のパターン形状に加えて、それぞれを接続する流路207のパターン形状が切り抜かれている。さらに、前記検出部A205、及び検出部B206の手前の流路207は、その一部を広げるように切り抜かれており、これにより、前記検出部A205、及び検出部B206へ移送する液量を定量する定量部A208、及び定量部B209を形成するものとする。接着層202の接着効果を得る材料としては、接着剤の他、加熱によって接着可能なホットメルトシートなどが使用できる。
【0068】
前記分析デバイス101は、前記下部基板201と前記接着層202とを貼り合わせた後、前記上部基板213を貼り合わせる前に、
図3(b)に示すように、前記下部基板201の希釈・変性室203に、変性試薬210を、また前記下部基板201と接着層202で形成した定量チャンバーB209に、ラテックス標識抗体211を、さらに前記検出部B206には凝集試薬212を、それぞれ担持した後、乾燥させ、さらにその後、前記上部基板213を、前記接着層202の上面に貼り合わすことによって、形成される。また、前記上部基板213と前記接着層202と前記下部基板201とを貼り合わせることにより形成される、該接着層202に切り抜かれた流路207の2つの開口部は、それぞれ、検体注入口215と希釈液注入口216となる。
【0069】
以下に、分析システム100の動作について説明する。
試料の分析においては、例えばディスペンサ等を使用して、分析デバイス101の検体注入口215より血液を1μl注入すると共に、希釈液注入口216より、希釈液を500μl注入する。これにより、血液は検体注入口215内側の流路内に、また希釈液は希釈液収容室204に保持される。
【0070】
次に、前記回転基板104の刳り抜かれた箇所に、血液と希釈液とが注入された分析デバイス101をセットし、モータ105により所定の回転数で一定時間回転する。この回転により、希釈液と血液とは前記希釈・変性室203へ移送され混合されて希釈試料液となり、変性試薬により、ヘモグロビンのメト化及び変性を行う。
【0071】
次に、回転基板104の回転を停止することによって、メト化及び変性された該試料液を毛細管現象により、流路207を通じて、定量部A208と定量部B209に移送させる。
【0072】
前記定量部B209に移送されたメト化及び変性された試料液は、該定量部B209において、予め保持されていたラテックス試薬211と混合し、ラテックス試薬211と該試料液中のヘモグロビンA1cとが結合する。
【0073】
この後、再度前記回転基板104をモータ105により所定の回転数で一定時間回転すると、定量部A208に移送されたメト化及び変性された試料液は検出部A205へ、一方、前記定量部B209でラテックス試薬211と混合された試料液は検出部B206へ移送される。
【0074】
前記検出部B206に担持した凝集試薬212は、ヘモグロビンA1cと結合していないラテックス試薬と結合し、ヘモグロビンA1cの濃度に応じたラテックス凝集阻止反応が発生する。一定時間後に、検出部B206の透過光測定を実施することによって、ラテックス凝集阻止反応を検出する。
【0075】
また同時に、検出部A205を測定することによって、ヘモグロビンの吸収を測定し、ヘモグロビン濃度を算出できる。
【0076】
前記検出部B206におけるラテックス凝集阻止反応の測定は、600nm近傍の波長で測定可能であり、前記検出部A205におけるヘモグロビンの測定は540nm近傍のヘモグロビン吸収を測定する方法が可能である。
【0077】
いずれにしても、あらかじめ決まった濃度のヘモグロビンと、ヘモグロビンA1cの測定結果を基に、検量線を作成しておけば、その検量線を利用して、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cの濃度をそれぞれ算出でき、それらの濃度より、ヘモグロビンA1cの存在比を算出することが可能である。
【0078】
ここでは一例として、分析デバイス101がチップ状で、遠心力と毛細管力を利用した液体移送により、測定系の順序や試薬量、反応時間等を制御する分析システムを一例に挙げたが、測定系の順序や試薬量、反応時間が制御できる形状であれば、この構成及び方法に限定されるものではなく、液体移送については、例えば、ポンプを使用して圧力で液体移送する方法なども十分可能である。また、前記分析デバイスは、例えば、クロマトグラフィーを利用した形態でもよいし、より単純には、直方体のプラスチック製のセルの形状であっても、試薬の担持方法を工夫することによって十分使用できる。
【0079】
以上のように、本実施の形態3によれば、ヘモグロビンA1cの測定に必要な試薬を担持した分析デバイスを設計すると共に、該分析デバイス専用の測定部と組みあわせた分析システムを構築するようにしたので、手技の影響をうけにくい、簡便且つ迅速なヘモグロビンA1cの測定を行うことができる。
【0080】
(実施例1)
以下に、凝集試薬の製造方法及びラテックス標識抗体の製造方法についての実施例の詳細を記す。
【0081】
凝集試薬の製造方法としては、担体としてチキンガンマグロブリン(以下、CGGという)、リンカーとしてEMCS、リガンドとしてVHLTCを用いた。EMCSのN末端とVHLTCのシステインを結合し、さらに、EMCSのC末端とCGGのアミノ基を結合させることにより、凝集試薬を製造した。このとき、CGG1個当たり、20個程度のVHLTCを結合した。
【0082】
また、ラテックス標識抗体の製造方法としては、平均粒径0.12μmのポリスチレンラテックス粒子(積水化学社製)に抗human HbA1c抗体を過剰量加え、物理吸着によって結合した。該ラテックス粒子抗体複合体に0.5%のウシ血清アルブミン(以下、BSAという)を加えてブロッキングし、ラテックス標識抗体を作製した。なお、ラテックスの粒径はこれに限らず、0.05μm〜1.0μmのものであればいずれでもよい。
【0083】
(実施例2)
以下に、第2の凝集試薬の製造方法についての実施例の詳細を記す。
【0084】
凝集試薬の製造方法としては、担体としてIgY(CGGの主成分である免疫グロブリンGのみを精製したもの)、リンカーとしてEMCS、リガンドとしてVHLTCを用いた。EMCSのN末端とVHLTCのシステインを結合し、さらに、EMCSのC末端とIgYのアミノ基を結合させることにより、凝集試薬を製造した。このとき、IgY1個当たり、20個程度のVHLTCを結合した。この凝集試薬は担体としてCGGを用いた場合と比べ、担体のロット間差が小さいため、ロット間差の小さい凝集試薬を製造することが可能となる。
【0085】
(実施例3)
以下に、ラテックス免疫凝集阻止法を用いた被検試料中の分析対象物の測定方法についての実施例の詳細を記す。
【0086】
まず、精製水にて250倍希釈した血液400μlと、0.3%スクロースモノラウレート及び0.5%フェリシアン化カリウムからなる変性試薬400μlとを混合し、血液中のヘモグロビンをメト化及び変性させた。なお、ヘモグロビンのメト化及び変性させる工程で用いる試薬はこれらに限らず、非イオン性界面活性剤と酸化剤が含まれていれば、いかなるものでもよい。前記希釈及び変性させた血液について535nmの波長で吸光度を測定し、全ヘモグロビン濃度を算出した。
【0087】
次に、ヘモグロビンA1c測定の為に、前記希釈・変性血液を真空凍結乾燥した実施例1のラテックス標識抗体に加え、抗原抗体反応をさせた。これを真空凍結乾燥した本発明の凝集試薬に加え、37℃で凝集反応させた。なお、ラテックス標識抗体及び凝集試薬について、真空凍結乾燥を用いたが、乾燥物を作るものであればいかなる工法でもよく、風乾、熱乾燥、真空乾燥などの方法を用いることもできる。また、本発明の凝集試薬は免疫反応を妨害するような性質はなく、抗原抗体反応において従来の凝集試薬と根本的な変わりはない。
【0088】
この凝集塊による濁度を光学的測定によって検出するために、625nmの波長で吸光度(A)を測定した。また、凝集試薬を加える前の625nmの波長での吸光度(A1)も測定した。これらの吸光度の差により、吸光度変化(A−A1)を算出した。
【0089】
あらかじめ決まった濃度のヘモグロビンと、ヘモグロビンA1cの測定結果を基に、作成しておいた検量線を利用して、ヘモグロビンとヘモグロビンA1cの濃度をそれぞれ算出し、それらの濃度より、ヘモグロビンA1cの存在比を算出した。
【0090】
(比較例)
担体としてCGG、リンカーとしてEMCS、リガンドとしてVHLTCとで構成された本発明の凝集試薬と、担体としてポリリジン、リンカーとしてEMCS、リガンドとしてVHLTCとで構成された従来の凝集試薬とを用い、それぞれ比較実験を行った。
【0091】
(a)凝集試薬の濃度と吸光度変化との関係
図4は、ラテックス標識抗体と凝集試薬とのラテックス凝集反応において、測定された吸光度変化と添加した凝集試薬の濃度との関係を示している。横軸は凝集試薬の濃度、縦軸は凝集試薬を加えてから1分後の吸光度変化である。
図4によれば、従来の凝集試薬と本発明の凝集試薬とも、凝集試薬の濃度が高くなるにしたがって、凝集物が増加していき、吸光度の測定値が高くなっていくが、凝集試薬の濃度があるレベルを超えた場合、つまり吸光度変化の最大値を越えると、反応液中の抗原が過多の状態になるため、凝集形成が抑制され、見かけ上の吸光度の測定値が逆に低くなる。例えば、従来の凝集試薬では、1μg/ml以上の濃度範囲、また、本発明の凝集試薬では、5μg/ml以上の濃度範囲が、吸光度の測定値が低くなる領域となり、一般に、この領域をプロゾーン領域と呼び、また、この現象はプロゾーン現象と称される。この濃度域の凝集試薬を用いることによって、凝集試薬の濃度変動の反応性への影響を小さくすることができる。また、凝集試薬が過多となるため、凝集反応速度を速くすることができる。この結果より、本発明の凝集試薬のほうが、ダイナミックレンジが大きいことが判明した。ダイナミックレンジが大きいことによって、検量線の傾きが大きくなり、測定精度がよくなる。
【0092】
また、この時用いた凝集試薬の担体あたりのリガンド量は、本発明の凝集試薬(CGG)で0.11μmol/mg、従来の凝集試薬(poly−Lys)で0.96μmol/mgであった。
【0093】
(b)各プロゾーン領域の凝集試薬濃度における、凝集反応完了率と経時変化との関係
図5は、各プロゾーン領域の濃度の凝集試薬を用いたラテックス凝集阻止反応において、凝集反応完了率の経時変化を示している。横軸は凝集試薬を加えてからの時間、縦軸は凝集試薬を加えて170秒後を100%凝集したと仮定した場合の凝集反応完了率である。
図5に示すように、本発明の凝集試薬を用いた場合では、170秒後において吸光度が安定してきているが、従来の凝集試薬を用いた場合では、グラフの傾きからわかるように、170秒後においてもまだ反応が進み、吸光度が上昇している。170秒後を100%凝集したと仮定しても、明らかに、本発明の凝集試薬の方が、凝集速度が速く、凝集反応完了率が高いことがわかる。これは、例えば、凝集開始から60秒後において比較すると、従来の凝集試薬では、60%凝集反応が完了しているのに対し、本発明の凝集試薬では75%凝集反応が完了している。
【0094】
この結果より、本発明の凝集試薬を用いた方が、凝集反応速度が速く、短時間で反応が完了することが分かる。本発明の凝集試薬を用いたアッセイでは、凝集反応開始から3分以内に反応が完了している。一方、従来の凝集試薬では、同程度の凝集反応が完了する為には、約2倍の時間が必要である。
【0095】
(c)凝集試薬の保存安定性
図6は、凝集試薬の保存安定性を示している。凝集試薬を真空凍結乾燥し、40℃環境下で保存した。この凝集試薬を用いて、ラテックス凝集阻止反応を行い、分光器を用いて吸光度を測定し、反応前との吸光度の差より、凝集試薬の反応性を確認した。横軸は保存日数、縦軸は凝集反応測定時のレファレンスとの吸光度変化比である。なお、レファレンスとして、−80℃に凍結保存した凝集試薬を用いた。
図6に示すように、従来凝集試薬では、3ヶ月保存後の吸光度変化がレファレンスの半分程度の吸光度変化しか示さないが、本発明の凝集試薬では、3ヶ月保存後もレファレンスと同程度の吸光度変化を示し、反応性が安定している傾向があることがわかる。
【0096】
この結果より、従来の凝集試薬では40℃、1ヶ月経過時点での反応性の低下が見られるのと比較して、本発明の凝集試薬では40℃、3ヶ月経過時点においても、保存が安定であり、明らかに保存安定性がアップしていることが判明した。
【0097】
なお、本実験は日立製分光器(U2800)にて行った。